切ない季節の農場記2
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■シリーズシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月22日〜11月27日
リプレイ公開日:2004年12月01日
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●オープニング
少々遅くなったと言うべきか。
十日に数日の予定だったがミゼリがやってこなかった。はてどうしたのだろうと首を傾げる者達もいたのだろうが。ミゼリはようやく犬と共にギルドにやってきた。
ただし、片足に怪我をして。
「妨害?」
何人かが眉をしかめる。眉間の青筋に怯えの色を露わにした片隅のミゼリに気づき、冒険者達は少々自分のかっとなった精神を落ちつかせる。頭に血が上っては話もできないと言うものだ。
さて何が起こったのか。
実はギルドに到着した怪我をしているミゼリの様子がおかしいことに気がつき、ある冒険者がボランティアで農場まで足を運んだらしいのだが。これが驚くような話を聞かされる羽目になる。もうじきその地域の農場同士が取引をする『市』が迫っているらしい。
皆がどれだけの量をどれだけ高値で売れるか、仕入れるかという忙しい時期なのだが、ギール・ダニエルは相変わらず寝込んでおり、動けるのはミゼリだけ。
冒険者達がいない間はミゼリが最低限の作業をしなければならない。せめて動物の食事ぐらいは。けれど心ない連中がいるらしく、小さいながらせっせと動くミゼリに獣用の罠などを仕掛けて陰湿な嫌がらせをしているらしい。ミゼリの怪我は罠にかかってしまった痛々しいあとなのだという。
農場の競争とはいえ収穫の妨害をするとはひどい連中だ。
「まだこんなに小さいのになぁ。ひどい話だろ? ま、前回と同じく農場の管理をしてもらうために呼んだんだが、今回、三人か四人はその『市』での取引を手伝ってほしいらしい。場所はミゼリの嬢ちゃんが連れてってくれる。牧草も30日分、ようは一ヶ月分は買い足さないと間に合わないらしいし、前に雇ったあたりから十数日かけて収穫した卵が800個弱、牛乳も80リットルくらいはあるんだよな?」
期間的に考えればそこそこだろう。古い物は少し消化したらしいが。
おっちゃんがミゼリに言うと、こくりと頭をさげる。
ギールの農場の地域では、卵は安いときは二個1Cで買い取られるが、上手く交渉すれば1個1Cで買い取ってくれるという。同じように牛乳は1リットル最低3C、高くて4Cで買い取ってもらえる。牧草は一束5C、普通の束で10C、大束で50Cするという。一束で牛一頭一日分、鶏で言うなら十羽一日分である。
寒さ故に交渉側は皆必死だ。
どれだけ売って、どれだけ買い込むのか。誰かが財産の管理をする、と言うところまで行かなくとも、動けないギールと幼いミゼリの代理として、ある程度買い出しなどもしなければならなかった。
説明をする間もミゼリは無言。
「あとこれからの時期は寒くなるから、もう少ししたら薬草をたくさん摘みに行かなきゃならんと言ってたな。これは次かな? どうも採取が色々難しいらしいんだが。下調べくらいはしたほうがいいかもしれん。あと鶏小屋に、寒くて逃げてきたらしい蛇が居て卵を盗み食いしてたらしい。とりあえず嬢ちゃんが鶏だけは避難させたらしいが、何匹かわからんから気をつけてな」
●リプレイ本文
日はすでに傾いている。持ち前の器量の良さからアイディアを出し合い市へ出陣した者達が帰ってきた。市は各方面で立っており、値段も千差万別である。価格が一定になることもない。大変と言えば大変だ。がらがらと牧草が山と積まれた荷馬車を馬が引く。それでも足りない分は、仲間の馬や驢馬に背負わせていた。
「ヴィオラ、ロサ、もう少しですからがんばってくださいね。あと、君もね」
愛馬達に話しかけたユエリー・ラウ(ea1916)は横を見下やる。広い御者台に居た犬がワンと吠えた。馬に乗れないジャスパー・レニアートン(ea3053)と五百蔵蛍夜(ea3799)は御者台に座っていた。御者台の中央で荷馬車を操作しているのはクレアス・ブラフォード(ea0369)である。ジャスパーが重くなった革袋を一瞥して晴れやかな顔をした。
「しかし上手くいったな、予想外だった、驚いたよ。初歩的でも商人に関して学んでおいて正解だったと思うし、話術に優れたユエリーさんはいるし。蛍夜さんのおかげで荷物も苦無く詰めたし。値引きまで成功するとは思わなかった」
「自分は取引とかはアレだが、まぁ牧草はこんな量だし。力仕事ならと思ってな。後はミゼリに少しは子供らしい事させてやりたくてな」
蛍夜の膝の上には、寝息をたてているミゼリがいた。クレアスが手綱を引いているのもあるのだが、蛍夜は市で大人びたミゼリに楽しみを与えてやりたかったらしく、小遣いを握らせて自分は雑務を引き受け、クレアス達とミゼリを短時間だが遊びに行かせた。
「ミゼリが蛍夜とお菓子を『半分こ』しようとしてるのは思わず笑ってしまったがな」
「おぃおぃクレアス君」
思い出してかぁっと顔を赤くする。ミゼリは市で菓子を買ってきたのだが、小遣いをくれたのが蛍夜であると理解してだろう。無言・無表情のまま蛍夜にも菓子を差し出していた。クレアスのどこか意地悪そうな微かな微笑。
「あはは、まあいいじゃないか。嫌味の一つぐらい言わせろ。今はミゼリの母代わりをやってやりたくても手が放せん。ミゼリは寝ていることだしな」
時は和やかなまま進む。すぐ其処まで見えてきた大きな家。修繕や掃除も済み、遠目から見てもさほど悪くはない。煙突から煙が上がっているところを見ると沖鷹又三郎(ea5928)が料理を順に披露している頃だろう。夕食時には間に合いそうだ。ギールの世話はエヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)がしているはずである。
「どうやら前回の教訓がいきてますね、農地組も帰ってきたみたいですよ」
ジャスパーの視線の先に、これまた別の荷車に農作物を山と積んだ農地組が別の道から戻ってきていた。種類別に分けてあるとはいえ、かなりの量である。後で集計するのが大変そうだ。向こうも、ユエリー達に気づいたのだろう。人差し指ほどの大きさにしか見えないが、ひときわ背の高いフィル・クラウゼン(ea5456)が大きく手を振っている。皆なかなか農業の人スタイルが身に付いてきた模様だ。さぁいくぞと、ぺしりと綱を打った。
「お疲れさまです。市の方はいかがでしたか?」
アリッサ・クーパー(ea5810)がユエリー達に様子をうかがった。ミゼリをクレアスに預けて蛍夜は荷を下ろしに行っている。畑の農作物回収に向かったのは、なんと五人。回収が遅れていたため急いだのかもしれない。萌月鈴音(ea4435)とフィル、アリッサ、そしてタチアナ・ユーギン(ea6030)とバルタザール・アルビレオ(ea7218)。
鈴音とバルタザールの二人に関しては、途中、畑仕事を抜けて薬草採取の下調べに向かったという。土に汚れたアリッサ達に比べ、鈴音とバルタザールは心底疲れきった顔をしていた。体の此処其処がすりむけてしまっている。クレアス達は顔を見合わせた。
「わ、私はもう駄目です。あぁ、皆さんお元気で、この恩は一生」
「こらこらこら。バルタザール、しっかりしろ。エルフが体力無いのは仕方ないだろう。鈴音の方がピンピンしてるのが不思議でならないが、まぁ事情が事情だ、仕方あるまい」
フィルがへなりと崩れたバルタザールを抱え起こす。しっかり自分の足で立て、と身軽なエルフを持ち上げる辺り、さすが力有り余る男。市に出ていた者達が何でこんなに弱ってるんだ、と問いかけると、アリッサがため息を吐いた。
「侵入者と思われて攻撃されたそうです。『木』に」
目が点になった。鈴音がくぃっとジャスパーの服の裾を引く。
「‥‥森の奥に薬草があるんです‥‥冬は薬草が‥‥とても高く売れるって‥‥でもギールさんの教えてくれた場所‥‥品質がいい代わりに‥‥トレントがいたんです」
唖然と鈴音の話に耳を傾ける。荷車を倉庫に押し込んだタチアナが戻ってきた。
「トレントの話? どうも採取するには、ご機嫌とるしかないらしいのよね。毎年ミゼリさんは何事もなく採取してたらしいけれど」
へろへろになっているバルタザールが明後日の方向を眺める。
「森にはモンスターがいるから気をつけろ、とはギールさんに言われましたが。トレントにまで攻撃されるなんて聞いてませんよ。私達何も悪いことしてないのに何故でしょう」
「‥‥よそ者‥‥だから‥‥でしょうか? ‥‥逃げるのが精一杯で‥‥」
一番あり得る理由である。鈴音の言葉に一同、どこかに視線をさまよわせた。農場だけでも大変なのに、これは厄介である。ミゼリはすぴすぴ眠りこけている。
「この子も大分疲れたようだな。後で、ほめてやるとするか」
穏やかな寝顔にフィルの双眸が弧を描く。とりあえずは夕食だ。すでに蛍夜もほとんど荷物を運び終えていた。のんびり話していた為に沖鷹が心配して窓から顔を出す。
「皆、何をやってるでござるか。夕食が冷めてしまうでござる」
と、沖鷹にのしかかるようにしてアリシア・シャーウッド(ea2194)がでん、と顔を出した。その顔はにこにこと良いことがあったような顔をしてはいるのだが。
「みーんーなー! 折角のアリシア特別メニューがさめちゃうよー!」
刹那、室内から悲鳴が聞こえた。
「本気かアリシアさん!? 本気であれ食べるのか!?」
フェシス・ラズィエリ(ea0702)である。外にいた者達が不吉な予感を募らせた。特にジャスパーあたりが。おそるおそるタチアナが手を挙げる。
「アリシアさん、特別メニューって?」
「うーんとね、『ロースト』が食べられないから『ローストスネぃク』にしちゃった」
毒抜きは大丈夫なのかアリシア・シャーウッド!?
どうやら前回食べられなかった鶏には『ロースト』というあだ名が付き、しかも未練かどうかは知らないが、とっ捕まった蛇はアリシアの餌食になった様である。おそらく沖鷹の料理に混じって、綺麗に皮をはがれ、調理された蛇が食卓に不気味な花を添えていることだろう。食べるのは意を決したチャレンジャーにだけオススメする。責任は持てない。
「料理は人数分あるでござるよ。話したいこともあるし、早く中に入るでござる」
「‥‥んん」
ごしごしと目をこすってミゼリが起きた。ぼうっとした眼で周りを見回す。と、クレアスの髪を引っ張った。指を指した方向には、ジェラルディン・ムーア(ea3451)とリーベ・フェァリーレン(ea3524)が、これまた笑顔でやってきた。あ、と沖鷹と入れ替わるようにフェシスが顔を出す。
「リーベさん、ジェラルディンさんお疲れさま。明日は俺も牛の世話に行くよ」
「その分だと蛇の退治は終わったんだね、よかったよかった」
ジェラルディンの笑顔にフェシスは「うんまぁ」と言葉を濁す。皆が扉の向こうの未知の料理を思い浮かべた。まさか調理しちゃった人がいます、なんて二度も言えない。
「ジェラルディンさん達も機嫌良さそうだ。牛が良い子にしてたのか?」
「最初は牛の世話も手を焼いたけどね。リーベの大自然の掟ならぬ一発アイスコフィンも可哀想だから、受け止めたりもしたんだけど」
「ちょっとあなた、それじゃあまるで私が非道い人みたいに聞こえるじゃない! ふふん『あれ? 蛇かと思ったんだけど。見間違いかぁ』とか何とか言いながら近くの岩を拳で壊したのどこの誰よ。私といい勝負じゃない」
「まぁほら、牛が静かになればね」
聞いていて恐ろしい会話が飛び交う。これぞ大自然の農場記。
新たな女帝伝説ここにあり、である。牛達は当分静かになるだろう。間違いなく。
と、そこでリーベが一つ報告した。どうやら嫌がらせをしていた連中を捕まえたらしい。アイスコフィンで閉じこめてあるので、明日の朝あたりに一緒にシバき倒したい人何人居ますか? と手を挙げた。アリッサやタチアナを始め、一発何か言わないときが済まない人間が多い。様子を見ていると嫌がらせ連中の命運は決まったようだ。‥‥合掌。
夜の食卓の後だった。ミゼリがすっかり寝込んでしまってからの話である。なんとエヴァーグリーンと沖鷹はギールを看ている医者に会ってきたという。
「ぎっくり腰はもうじき治るそうでござるが」
言いにくそうにエヴァーグリーンを見下ろした。二人とも表情が暗い。
「ギールさんを見ている村医者に行って来たの。ギールさんの持病、原因不明の難病で治らないって。極めてゆっくりと進行していて、まだ当分は今のままで暮らせるらしいっていってました。でも」
一度口ごもる。エヴァーグリーンの可憐な唇は、辛辣な事実を告げた。
「‥‥お医者様、『突然悪化する可能性もあるから二年持つかどうか』って」
その頃、ユエリーは犬にぴっぱられて裏手にいた。あの開かずの部屋の近くである。犬は叱りつけるユエリーに対して、まだ修復していない壁の穴から布きれを加えて這い出てきた。なんでこんな物を、と見下ろすと、見覚えのある刺繍が目にとまる。
「紋章‥‥何処かで見たような。紋章知識を存じてるクレアスさん辺りに聞いてみましょうか」
拾い上げて懐にしまう。
ユエリーに懐いた犬が引きずり出してきたもの。それは、エレネシア家の紋章が入った古ぼけた手ぬぐい一枚。