切ない季節の農場記4
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■シリーズシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月26日〜12月31日
リプレイ公開日:2005年01月05日
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●オープニング
さて聖夜祭で賑わうキャメロット。
皆思い思いの楽しみがあるのだろうが、農場に聖夜祭を祝っている暇はない。普段は誰もいない農場で働くのは現状、ミゼリと時折やってくるお手伝いさん達だけなのだ。少し遅れた聖夜祭でもギールはミゼリのために祝ってやりたいと言った。
けれど最近、様々な訪問者が来るあげく、農場の周辺をうろうろする不穏な影があるという。
嫌がらせ連中なのか、その他なのかは分からない。時々家の中の物がなくなったり、ひっかきまわしたような荒らされているような痕跡をみると、間違いなく誰かが家に入ってきたという証明だ。住民には被害を与えていないとはいえ、ミゼリとギールはよく分からぬ人影と暮らす怯えた毎日を送っていた。
しかし其れとは別に農場の仕事はあるもので、さらに今回は市がある。
収穫した卵が850個。卵は安いときは二個1Cで買い取られるが、上手く交渉すれば1個1Cで買い取ってくれるのは以前の市で実証済みだ。
牛乳90リットル、内冒険者達が前回必死にバターに加工した分が40リットル分あるわけだが、ギールの農場の地域では、バターについては100g(五リットル消費)は30Cから40Cで売ることが出来る。
牛乳は1リットル最低3C、高くて4C。
採取した三十五束の薬草は一束10C〜30C、最大で50C近くとなる。
カブ1200個中200個はピクルスになった。カブの価格は四個1Cから3C。ピクルスの価格は一個分が2Cである。
全開の市の時よりも遙かに採取量が上回っている。
これら全て冒険者達が必死に世話をしたり働いた成果であった。
上手くすれば黒字に限りなく近づけるわけだが、さて、どうなることやら。
●リプレイ本文
しんしんと雪が降り積もる。フィル・クラウゼン(ea5456)は日の傾いた空を見上げた。白い息を吐きながら、あぁ今夜はもっと寒くなるな、と一人呟く。雪が降ると柵のあちこちが壊れたり、屋根が破損することがあるという。今回市もある為人手が足りず、フィルは一人で農場を歩き回り、チェックして回った。手足が氷のように冷たい。と、その時。
「きゃー、だめー、ろーすとぉぉぉ!」
アリシア・シャーウッド(ea2194)の絶叫が響く。鍵のかかっていない扉に体当たりしたのか、白い毛玉がばぃん、と飛び出してきた。フィルの目の前でゴロゴロ雪の上を転がってゆく。続いてアリシアが扉を閉め、愛しのデブィ鶏を追いかけた。ばたばた鶏が必死こいてるのは目の錯覚だろうかとフィルは思う。鶏を追いかけ、片手でひょいと捕まえた。
「今日は一人で、だったか。ほら」
「ありがとフィル君〜、さ、ロースト。まだ餌食べきってないし、毛繕いも終わってないから帰ろうね〜」
語尾に愛が溢れるアリシアの腕の中でデブィ鶏のローストがもがく。フィルを見つめてうるるん攻撃をかましてみるが、効果なし。鶏の助けて視線は人にはよく分からなかった。
「あー、フィルさんお疲れさま。凄い声が聞こえたんだけど何かあったのか」
タオルで顔を拭いながらフェシス・ラズィエリ(ea0702)が牛小屋から現れた。さくさくと雪を踏みながらやってくる。牛小屋にはフェシスに加えてリーベ・フェァリーレン(ea3524)がいるはずだった。フィルが言葉で言うより鶏小屋を指さす。
「ああ、なるほど。またローストが脱走したのか。頑張るな。アリシアさんは悲願達成するのかな。ローストは無事に朝を迎えられるのか」
「悲願って、まさか今日の為に太らしていたとか」
「明日のメニューに鶏肉が出たら神に祈ってやろう、色々と。リーベさんは牛の調教始めちゃったし、見回りしながら二人で先に戻らないか? 俺、牛の唾液でべとべとだしさ」
牛のアイドルと化したフェシスが苦笑する。冒険者達は例の不審者について警戒を行っていた。それを考慮してか、リーベは血気盛んな牛達を闘牛の如く逞しく育てると宣言。
『いい、あんたたち! それでも牛なの!? 強さを見せなさい強さを!』
『り、リーベさっ』
『飼い主が危機的なんだから役に立ちなさい! いいわね! 強くならないとアイスコフィンで凍り漬けよ!』
以上フェシスの回想。先ほどから罵倒する声が聞こえるのはその為だろう。リーベとアリシアも時間になれば帰るだろうと判断し、二人がさくさくとパーティー準備を進める家に戻っていく。
一方その頃、カブやミルクや薬草、その他諸々を売りまくってきた者達が帰ってきた。ユエリー・ラウ(ea1916)は羊皮紙とにらめっこしながら唸っている。金にはがめつい。
「加工品が高価格で売れなかったのが悔しいですね。あんの爺、あそこで値切るとは」
市での激戦を思い出したのか、ユエリーは悔しさ(?)を思い出して拳を握る。
「まあ作ってるのは基本的に素人だからな、色々気を遣っても質がやや落ちるのは仕方がないさ。最初もっと高値でやっていたからそれなりに上々だと思う」
苦笑したジャスパー・レニアートン(ea3053)と二人で話し合う。市担当はこの二人だった、さらに体力仕事を買って出たのが五百蔵蛍夜(ea3799)だ。帰り道にふと。
「止めろ」
手綱を握っていたユエリーを蛍夜が止めた。蛍夜は身を乗り出して道の傍らの森に目を凝らす。不思議な事に、蛍夜の愛馬である赫と狛、ジャスパーの愛馬のリオに加え、ユエリーの愛馬であるヴィオラとロサまでもがじっと森を見ていた。ジャスパーが蛍夜に問う。
「誰か居ましたか」
「多分。今複数の足音が聞こえた、薬草の森は正反対の方向だろう? 此処は人里とも離れてるし、皆農作業で手一杯のはずだ。自分達じゃぁない」
ユエリーが顔をしかめた。
「ギールさんとミゼリを脅かしている連中でしょうかね。何を探してるんでしょうか」
彼らが不可解な足音と遭遇した頃、天那岐蒼司(ea0763)とバルタザール・アルビレオ(ea7218)、萌月鈴音(ea4435)の三人は農地の土壌に関する相談をしながら薬草を摘みに来ていた。バルタザールは傷ついたトレントの切り口に、ポーションを流し込んだ。効くかどうかは半信半疑。気休めといってもいい。トレントが不憫だったようだ。
「ふぅ‥‥意外と農業って疲れるモンなんだな。肩こりそう、いや腰か?」
「あなたは‥‥薬草狩りは‥‥初めて? 結構‥‥疲れます‥‥、一日‥‥頑張っても‥‥採取の量が‥‥限られてますし」
ふと思い出したようにバルタザールの服の裾をひく。
「肥料とか‥‥できるうちに‥‥やったほうが‥‥いいと思うの」
「そのようですね。なんとか明日明後日で‥‥うわっ!」
「おい! 大丈夫か!」
突然バルタザールは動き出したトレントの腕にとらわれて宙に浮いた。慌てて蒼司がナックルでトレントを攻撃しようとしたが、鈴音が足にへばりついて止める。トレントはバルタザールに危害を加えるわけでもなく、彼を乗せた太い枝を突き出た崖へ持っていく。
岩肌には冷たい雪をさけるように窪みがあり、下に生える薬草とは見るからに質の違う良質な薬草があった。色合いもよく、葉も大きい。積めば一瓶か二瓶分にはなるだろう。
「‥‥もらって良いんですか?」
トレントはしゃべらない。ただ彼を乗せた枝をさらに岩肌に近づけた。答えを肯定と取ったバルタザールは、一言トレントに声を投げると薬草を摘んだ。トレントは終わるとバルタザールを蒼司達の所へそっとおろし、また、何事もなかったかのように動きを止めた。
深夜、ただひたすらに農場を警戒していたジーン・グレイ(ea4844)は暗闇の中に人影を見た。殺気は全く感じられないが、冒険者達は一部寝ている。今起きているのは徹夜が可能な戦いの熟練者達のみだ。蒼司とジーンは人影を待った。足音を潜め、中の様子をうかがっている。人影は窓辺に手をかけようとしてやめ、くるりときびすを返す。
「まて!」
ジーンと蒼司が叫んで飛び出すが、人影は闇の中へ立ち去っていった。
翌日の夜になる。少し遅い聖夜祭を祝うことになっていた。皆が持ち寄った飾りで室内は煌びやかに飾られている。アリッサ・クーパー(ea5810)とタチアナ・ユーギン(ea6030)の二人を中心にせっせと飾り付けたのだ。薔薇の香料を練り込んだキャンドルに幾つも火がともされた。料理は勿論、沖鷹又三郎(ea5928)が担当。又三郎は何やらギールから話を聞いたようだったが、依頼が終わってから話すと答えた。
「皆さん、自分の分は自分でとってくださいね」
「あぁ、プティングは好きな物を取るでござるよ。後でゲームをするでござる」
テーブルにローストチキンが並んでいないところを見ると、デブィ鶏のローストは無事だったらしい。フェシスとフィルは顔を見合わせた。アリシアはどうやら引き取りたいと思っているらしいが、彼らは知らない。
食事は豪華だった。又三郎の提案で、切り分けられたプティングの中には一枚のコインが仕込まれており、引き当てた鈴音には銀のネックレスが贈呈された。ミゼリとギールにプレゼントを渡そうと、サンタの格好になった者まで居る。
「ほほほ、いい子にしていたミゼリちゃんにはプレゼントをあげよう」
クレアス・ブラフォード(ea0369)だった。クレアスだけではない、喜んでもらおうと皆が皆、色々と用意していた。ギールは頑固で、ミゼリはこういうことに慣れていない。最初しぶった二人に、タチアナがナイスな声を投げた。
「家族にプレゼントするのに、理由なんていらないでしょう?」
これには二人とも声を返せない。二人とも気恥ずかしげにプレゼントを受け入れた。中には護身用にナックルを、と冗談半分でミゼリにあげた者もいたらしい。ミゼリの顔もギールの顔も嬉しそうだった。十七人の食卓は賑やかである。リーベがこっそりシェリーキャンリーゼをミゼリに飲ませた所、ミゼリはへらへらと笑っていた。
「さて、みんなで歌を歌いましょうか。私は伴奏、フェシスさんがオカリナを吹いてくれると言うから。ミゼリもよく聞いて覚えてね」
下手だから、上手くない、そんな声もあったが折角のパーティーだ。皆なれないことをしながら精一杯楽しんだ様子である。
ユエリーが微笑ましげに歌う者達を眺めて皆の足下でうろちょろしている犬を呼ぶ。ミゼリにもギールにもプレゼントがあるならと、レインボーリボンを首輪に巻き始めた。
「アンズ、君にもね‥‥ん?」
指先の違和感。ユエリーが首輪を外して裏側を探る。首輪と一体化している異様に分厚いプレートの裏には蓋があった。促されるまま裏蓋を外す。
血よりも赤い宝石が一粒、ころりと落ちた。