ぽかぽか季節の農場記2

■シリーズシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 1 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月31日〜08月06日

リプレイ公開日:2005年08月09日

●オープニング

 日差しが強い。
 しかし天気は移りゆくもので、この時期のイギリスは雨が降り注ぐ日々も多い。
 大麦の収穫時期であるというのに、これでは合間を見つけて刈り取ってゆくしかない。広大な牧草の畑と、タマネギやカブの畑。二箇所の牧場、ニワトリ小屋が二つに、もうじき十一歳になるミゼリという少女とアンズという名の真綿のような白い犬。鶏九十羽、驢馬二頭、牛十二頭。
 そこはギール農場と呼ばれていた。

「市の時期だねぇ?」
 市というのは結構頻繁に行われているが、ギール農場もまた定期的に市へ繰り出して生計を立てている。しかし爺さんは寝たきりで、ミゼリは子供。ちまちま民家へ売りには行っているのだが、大きな市となると大人の助けが必要だ。冒険者達が代理で出向かなければならない。現在カブやタマネギはもう少しで収穫時期。そして何より農場の分を含めても牧草などの調達はかかせない。牧草は小さな一束5C、普通の束(小束三つ分)で10C、大束で50Cするという。一束で牛一頭一日分、鶏で言うなら十羽一日分である。
「今回必要な牧草は二十日分だな。あとこいつが売り物リストだ」
 夏は物が腐りやすいので注意が必要だ。動物たちの環境も整える必要がある。

 今回市に出す収穫した卵が580個。冬は最大950個だった事を考えると大きな痛手。ただその分、鮮度の高い卵の価格は上がる。安い時は二個2Cで買い取られるが、上手く交渉すれば1個2Cで買い取ってくれる。
 牛乳105リットル、尚ギールの農場の地域では、バターについては100g(五リットル消費)は30Cから40Cで売ることが出来る。どのくらい加工するのかは知らないが。
 牛乳は1リットル最低3C、高くて4C。
 ギール農場近くにトレントがいるのだが、その周辺は正しく野生の薬草畑。一人一日五束しか取れないが、取ってきた場合薬草は一束10C〜30C、最高で50C近くとなる。

 尚、今回市場に出せない未回収のカブとタマネギだが、価格は四個1Cから3C。ピクルスの価格は一個分が2Cである。前回収穫しきれなかった大麦に関しては、ギール農場の畑では全て収穫すれば総量は百平方メートルの畑中、約5kgの大麦となる。大麦は一キロ60Cで売れる。今回は次の市に向けて大麦の収穫と加工もすべきだろう。
 間に合うかどうかは働き次第だが。

「それからこれは爺さんからお前さん達に秘密での頼み事なんだが、どうもお嬢ちゃんが頻繁にいなくなるらしい。ちょっと注意してみてくれ」
 ぼそぼそと話す中、ミゼリは愛犬のアンズとともに食事をしていた。


●現在経済状況●
ギール農場元財産:1154G
前回の総出費:―G(値引き前―G)
前回の交渉成績:―
前回の売上金額―G(四捨五入)
ギール農場現在財産:1154G

●今回の参加者

 ea0369 クレアス・ブラフォード(36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1143 エイス・カルトヘーゲル(29歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea2194 アリシア・シャーウッド(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2698 ラディス・レイオール(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3799 五百蔵 蛍夜(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4435 萌月 鈴音(22歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4815 バニス・グレイ(60歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea5928 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7218 バルタザール・アルビレオ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

クラリッサ・シュフィール(ea1180)/ モニカ・ベイリー(ea6917)/ 明王院 未楡(eb2404

●リプレイ本文

 雄鶏の集団に如何様に対処するか。悩みに悩んだエイス・カルトヘーゲル(ea1143)の結論は一つであった。彼の傍らにはアリシア・シャーウッド(ea2194)の姿がある。アリシアは久々の農場を見て回ろうと考えていたようだ。ついでに『ご挨拶』かねて。
 鶏小屋の扉が開く。ずもぉぉんと静かに立ちはだかるエイスを恐れつつも気丈に胸を張っていた鶏達であったが、真後ろからひょっこり覗いた明るい顔に、さーと血が引く音が。
「ただいま、ローストぉ〜〜あんまりナメたマネしてるとヤキ入れちゃうよぅ?」
 その口の端からこぼれ落ちそうな溢れる唾液をなんとかしよう、アリシア。というわけで、ローストが脱兎の如く逃げてゆく。残された鶏は不憫そうな眼差しでローストを眺めていたが、入り口から漂う冷気にびっくり仰天。エイスは笑顔を浮かべていた。にたりと。
「‥‥体を綺麗に洗ってやろう。安心しろ、‥‥骨の髄まで『後悔』させてやるから」
 ひやっ、と空気が冷えた。エイスは含み笑いとともにウォーターコントロールで雄鳥たちを取り囲む! 本能が察した危機感に、紅い鶏冠が恐怖に震えた!
 やがて小屋の真ん前では鶏達を追いかけ回すアリシアと魔法で水を操り洗濯ながら鶏を溺死寸前まで『ざーばざば』と洗い続けるエイスの姿があった。それぞれの小屋や柵の修理に通りかかった五百蔵蛍夜(ea3799)は、眩しいものを見るように空をふり仰ぎ。
「‥‥‥‥元気だなぁ‥‥‥‥暑いのに」
 暑い日差しの中、農場の毎日は帰ってくる。畑に水やりもかかせない。
 牛達の小屋ではとっとと基礎的な世話だけして歩き出すバニス・グレイ(ea4815)の姿があった。彼の向かう先はタマネギ担当のバルタザール・アルビレオ(ea7218)の所だ。本日はある程度作業を終えたら、バルタザールがバニスとラディス・レイオール(ea2698)の二人をトレントに紹介するのだという。バニスとラディスが道で合流し、タマネギ畑に赴いてみれば、フレイムエリベイションで無駄に根性と気合いを引き出し暑苦しい愛情を注いでいるバルタザールの姿があった。灼熱地獄でタマネギに頬ずりしそうな熱意が熱い。
「バニス様、ラディス様、おいでになっていましたか」
 アリッサ・クーパー(ea5810)がふうふうと荒い息を吐きながら現れた。彼女はカブ畑専門である。布を頭に被ったまま、疲れる体を引きずって木陰へと逃れる。
「これアリッサさんの分の昼食です。私は三人で薬草の方へいきますので‥‥、後からクレアス・ブラフォード(ea0369)さんが後ほど‥‥どうかしましたか?」
 ラディスから昼食を受け取っていたアリッサの視線が一点に固定されている。彼ではなくその向こうの森を見ていた。アリッサにつられるようにラディスとバニスが見やる。
「あ、いえ、‥‥誰かが見ていたような気がして。申し訳ありません、お気遣いどうも」
「ふむ。あぁ倒れないようしっかり水分を取った方が良いな。さて、バルタザール殿ぉ」
 バニスの声に気づいたバルタザールがツーステップで彼らの所へやってくる。その有り余る熱意と爽やかさに、近づかれるたび日差しの強さと重なって何とも言えない疲労感が。
「ん、どうしたんですか皆さん。さ、昼食もあることですし、トレントに会いに行きましょうよ! 後でクレアスさんにミゼリちゃんも来るんでしょうし、あははあは」
 魔法とは、実に偉大である。
 しかし真似したいと思えないのは何故だろう。ラディス達は噂のトレントの所へ赴くが、なんと農場よりも涼しく、日差しも緩やかだった為、のんびりとそこで昼食を食べてから薬草採取と言うことになった。ラディスは、薬草としての効能や毒草の見分け・使用法などの知識について非常に長けており「一般的な植物に私の知らないものはありません」という状態に近い素晴らしい技能を兼ね備えていた。複雑な調合や活用するのは別問題だが、ラディスの活躍により、採集した薬草は市での取引に大きな貢献をすることになる。
 黙々と励んでいる者もいれば、タマネギに虐められたと泣きつく青年の姿もあった。三人はその日それぞれ三束分を採集し、後々加わったミゼリとクレアスが二束分採集した。とはいえバニスは牛、バルタザールは畑、クレアスはミゼリの面倒と忙しい者達は初日以後は一束採集するのが精一杯。ラディスのみ、つきっきりで薬草採取や分別に励む。滞在四日間中、採集できたのはラディスの十八束、バニスとバルタザールの各六束、クレアスとミゼリの各六束という計四十二束分だった。
 と最終に励んでいるのは何も薬草ばかりではなく、エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)も萌月鈴音(ea4435)とともに大麦の収穫にせっせと取り組んでいた。再びひとりで大麦収穫という気の遠い作業かと思われたが、お昼を届けに来たエヴァーグリーンがお昼からは大麦の収穫の手伝いに来ていたのだ。二日目になると作業に慣れ始める。
「あ‥‥ありがとう‥‥ございます‥‥やっぱり大変だった‥‥から」
「んーん、みんなで頑張るですの! ご飯も食べて元気も出たですの。あと、はい!」
 以前収穫した大麦の内、不要になった麦を水につけて柔らかくして帽子を編み上げたエヴァーグリーンは、おそろいですの、と鈴音と自分の帽子を自慢げに被る。形こそ不格好だが、夜、最低限の睡眠時間を残して必死に編んでいた。皆の分の帽子を編んでみせると意気込んでいる。
「嬉しいですけど‥‥折角未楡さんから習ったジャパンと華国の保存食が作れないんじゃ」
「むー欲張りすぎたかもですの。夜とお休み時間を使っても一日二つしか帽子が編めないですし、バターの加工やピクルスの加工もしたいから、滞在中は後二つ位かもですの」
 鈴音が偶に休んでくださいね、と気遣わしげに声をかける。二人とも働き者だ。家の方ではエヴァーグリーンやクレアスの手伝いを受けつつ家事全般を担う沖鷹又三郎(ea5928)が台所裏に小さな家庭菜園を作り野菜を埋めていたし、精白している大麦を眺め「パンにお菓子等に加工して販売してみては」と料理人魂に燃えている。しかし全部加工するのか?
「励んでるな、二人とも。大麦も今回収穫し終えたら、次に来た時は地道に大麦をついて外皮と分けていかんとだな。沖鷹も苦労していたし。あ、こらミゼリ」
 道の方から声がした。ミゼリをつれたクレアスだ。沖鷹は前回鈴音が収穫した分の大麦を家で精白しながら考え事と、料理に没頭しているそうだ。
 きゃーと楽しそうな雄叫びをあげてミゼリが二人の所へつっこんでいく。危ないぞ、とクレアスが止めた。
 時は過ぎてゆく。

「高い? やだなー、お客さん。味見したでしょ? この味ならもう少し高値つけられる所をぐっと我慢してサービスしてるんだからぁ。ね、ね、味も中身も保証つきぃ!」
 食堂で鍛えた営業スマイルでアリシアが市の売り上げに精を出す。市へ赴いたメンツは必死だ。市は戦場である。おばさまキラーの蛍夜が買い出しでまけて貰いつつたんまり買い込んできたが、売り上げの差に素晴らしい現実を感じて、仲間を空に思い浮かべる。
「改めて、市の大変さを感じるな‥‥あぁ」


 とミゼリの誕生日当日、外でテーブルを出して夕食を食べようと提案が出たことから誕生日のパーティーは賑やかに行われた。
「これ、俺‥‥から‥‥」
 エイスはスターサンドボトル、クレアスは銀のネックレス、エヴァーグリーンは真珠のティアラと昼間用にレインボーリボンの麦わら帽子、アリシアは香り袋、ラディスは風精の指輪、蛍夜は昼間新しい服を買ってやり、バニスは新緑の髪飾り、アリッサは祝福、バルタザールはシルクのスカーフ、そして料理担当の者は豪華な食事をと様々だ。ふと料理の一部に気を取られた蛍夜が「で、沖鷹」と茶を運んできた沖鷹を呼ぶ。
「なんでござろう蛍夜殿」
「一体、何処から菓子の蜂蜜なんぞ仕入れてきたんだ。買い物リストにもなかったぞ」
「森。刺されたでござるが、拙者リカバーとピュアリファイは心得ておる故」
 きらっと輝く沖鷹の眼差し。格好いいが体張りすぎのような気がするのは何故だろう。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。深夜になっても加工食品造りに没頭する者は多い。明日の朝は帰らねばならないが、その前にやれることはしておきたい。
 しかしその日の夜になって、静かにしていたミゼリが動き出した。きょろきょろと当たりを見回し、家を出て森へ向かってゆく。其れ気づいたのは起きていた者全員と言っていい。内エヴァーグリーンやアリシア、アリッサやクレアス、家影で素振りの練習をしていた蛍夜が代表して追いかけた。心配そうな顔で彼らを見送る仲間達。
「もしや例の怪しい子供で‥‥は‥‥」
 ミゼリは森の一部で立ち止まった。アリッサの声が尻窄みに小さくなっていく。視線の先には月光に輝く白馬がいた。否、普通の白馬ではない。額から突き出た螺旋状の白い角。高い知能を兼ね備え、その白銀に輝く角は万病を治すという伝説を持つ生物。
「‥‥ユニコーン?」
 呆然とアリシアが口にした。白馬の視線はミゼリから彼らに向く。そうしてすぐさまその身を翻し、森の奥深くへと消えていった。虫の声と獣達の目が光る静かな夜である。
 ミゼリはただ怒られる子供の様にうずくまり堅い顔で身を縮めていた‥‥。