ぽかぽか季節の農場記3

■シリーズシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 70 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月18日〜08月28日

リプレイ公開日:2005年08月28日

●オープニング

 雨が続く。そう激しい雨ではないけれど。
 朝霧に包まれた農場は日中は晴れる兆しを見せるが、夕方から小糠雨が降り注ぐ日が続く。大自然の恵みは喜ばしいことだろう。広大な牧草の畑と、タマネギやカブの畑。二箇所の牧場、ニワトリ小屋が二つに、もうじき十一歳になるミゼリという少女とアンズという名の真綿のような白い犬。鶏九十羽、驢馬二頭、牛十二頭。
 そこはギール農場と呼ばれていた。

 農場で暮らすギールと養女ミゼリ、そしてミゼリの愛犬アンズ。最近ミゼリがちょくちょくいなくなる。その原因は森の木々の合間に時折姿を現す白い肢体と頭部に輝く白い角を携えたユニコーンとおぼしき姿であった。乙女にしかその高貴な身を触れさせないと言われるユニコーン。その角は万病に効く特効薬と言われ、数万Gで取引されている。悪辣な密漁者が絶えず、其れが故かめっきり人前に姿を現すことはないと言うのだが‥‥何故農場に現れたのか定かではない。
 ミゼリは森で薬草を摘みに行く傍ら、ある日自分を見つめる視線に気づいたという。
 視線の先には白き一角獣。その日からミゼリはちょくちょく、その白い獣を見つけた。時には数十メートル離れた場所のユニコーンがミゼリに向かって近づいてきたという。
 けれど。
「びっくりして逃げたんだな」
 頷く幼い頭。以来じーと様子を遠巻きに眺める日々が続いていた。
 ミゼリがいなくなる原因はこれだったのだが、実際噂が立てば密猟者で溢れるであろう恐ろしい危険性も秘めていたりする。当分の間、ギールは様子を見ると話した。
「ああ、それと爺さんからの手紙にこんな話があったんだ」
 ギールが冒険者達に意見を聞きたいという、その内容。
 
 自分の老い先短い人生の中で、ミゼリを育てていく自信がない。
 やはりいつか農場を捨て、いやがるミゼリの意志を無視しても何処か良い家に預けた方がいいのか、それともこのまま苦しくとも農場で暮らしてゆく道を選んだ方がいいのか。将来の為に教育を受けさせた方がいいのか。
 自分には、何が正しいのか分からなくなってしまったと。

 おおよそ、そんな内容の手紙であった。
 楽しいこともあれど、目を背けられない面も出てきたと言うことだろう。

●今回の参加者

 ea0369 クレアス・ブラフォード(36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1143 エイス・カルトヘーゲル(29歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea2194 アリシア・シャーウッド(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2698 ラディス・レイオール(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3799 五百蔵 蛍夜(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4815 バニス・グレイ(60歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea5928 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7218 バルタザール・アルビレオ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

エリス・ローエル(ea3468)/ モニカ・ベイリー(ea6917)/ マルト・ミシェ(ea7511

●リプレイ本文

 農場で作業する前に、数名はやることがあったらしい。バルタザール・アルビレオ(ea7218)は知り合いのマルトを呼び、ユニコーンに関して訊ねていた。ユニコーンのみならず、ユニコーンに化ける魔物のことも。突然どうした、と問われても。
「え、いや、そのう。何でも‥‥は! あんな所にナイスガイが!」
「何! なに、それではこれで失礼するぞ? ほっほっほ」
 とバルタザールが事なきを得ている間、それまでクレアス・ブラフォード(ea0369)と手を繋いでいたミゼリが、見知らぬ顔を見つけて五百蔵蛍夜(ea3799)の所へ小走りに駆け寄った。顔を隠したミュール・マードリック(ea9285)が立っている。
「意外なところで、じゃないだろう。本当に、来ると思っていたのか? 人を誘っておい‥‥相変わらずもててるようだな。この子が話の娘か」
「ああ、農家の娘のミゼリだ。ミゼリ、挨拶ぐらいしろよ?」
「‥い‥パ‥の‥友達?」
 聞き取れない。何か問われているようだが。ミュールは人見知りの激しいミゼリにまずは慣れてもらう為に手を差し出して挨拶した。
「ミュールだ。暫く世話になる、嫌かもしれないが慣れてくれ」
 握手はしなかった。しかしミュールの指を小さい手が掴んでいた。恐る恐る。

 さて農場は本日晴天。牛達も暑さに負けず、培われたその意志は凶悪。闘争本能を露わにするギール農場の牛達であるが、反抗心をいつまでも放置するわけにはいかない。本日はひと味違うバニス・グレイ(ea4815)と新たに牛の担当となったミュールの二人。バニスはミュールに農場の牛の凄さを指導する。しかし実際会って見ねば分からない。
 扉を開け放つ前に近場に用意した石を確認するバニス。扉を開け放った途端、剣呑な眼差しを孕んだ雌牛共が、ぶしーっ、ぶしーっと荒い息を吐きながら二人を見た。
「久しいなおぬしら。しかし今度ばかりは決定的な差を教え込んでやろう」
 何をする気かと思いきや、扉を大きく開け放ち、牛から見える位置にある石をディストロイで華々しく破壊する! 大きな音とともに砕け散る元石。
「さて、おぬしらも一本ぐらい骨でも行っとくか?」
 動物とは実に単純且つ素直である。実力の違いを理解したのか、牛達は規則正しく並び出す。だがしかし! 其れですまないのが此処の牛。新顔のミュールを見つけると、急に態度がでかくなる。ミュールは掃除を行う際に戦いは無益だ(それが普通のはずだが)と判断し、おもむろに能面のような眼差しで相手を覗き込む。
 続く沈黙が‥‥怖い。
 と牛小屋で二人が奮闘する中、傍らの鶏小屋では、鶏達が恐れる人リストに名前が記載されているに違いないアリシア・シャーウッド(ea2194)とエイス・カルトヘーゲル(ea1143)が物思いをしながら卵の収穫と小屋(と反抗鶏)掃除にあたっていた。
「アリシア‥‥大丈‥‥夫か?」
「んー〜〜? 大丈夫だよ、ちょっと怒ってるだけ。ごめんね、はかどらなくて」
 恐怖の水攻めを受けた鶏達が、静かにしていればという条件付きのエイスの愛情一杯の世話を受けている間、アリシアは鶏の体に異常がないか一羽一羽調べながらも作業に出る前のことを考えていた。前回一人で脱走したミゼリに、アリシアはお説教したのだ。
 夜中で一人で出歩くのは危ないし、危ないかもしれないのに一人で出歩いた事などを。
『私が今怒ってるのはね、危ないのを分かってて何で家族を頼らないのかってコトなの。家族に遠慮するのはもってのほかだよ?』
 ごめんなさい、と声をあげて泣いていたのを思い出す。手を止めて家の方を眺めた。
「ホントにね、ミゼりんのお願いで、理由をきちんと説明してくれたなら、誰も断ったりしないのにさ。ああ、もう、考えちゃって仕事が手に付かない!」
「反省‥‥してたし‥‥。まだまだ‥‥教える事も多いだろう‥‥そういえば‥‥ユニコーンは友達じゃない、っていってた‥‥な」
 そこなんだよねー、と膝上のローストの体を平手でダムダム叩きながら唸るアリシア。友達では無いという。弾力のあるローストの体を堪能していたアリシア達の前を、トレント周辺の薬草を全面的に担当することになったらしいラディス・レイオール(ea2698)が歩いてゆくので声を上げた。遅れて作業に向かったのは、それまでラディスはギールの様子を交代でみていたのだ。
「これからトレントの所へ薬草をとりにいきます! 何が見たら報告しますよー!」
「気をつけてねーっ!」
 一方、カブの畑ではアリッサ・クーパー(ea5810)とエヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)が収穫に当たっていた。タマネギの畑はフレイムエリベイションで熱血の意気込みを見せるバルタザールと力仕事はまかせろとばかりに蛍夜の二人が、せっせ、せっせとひねくれた根性のタマネギを抜いてゆく。
「日が照ってくるとやはりきついですね。来てくださってありがとうございます。じきのお昼休みにはサーシャ・クライン(ea5021)様がお知らせに来てくださるでしょうが」
「エリの麦わら帽子が役立ってよかったですの。大麦の方は脱穀だけになりましたですし、お家の方で皆さんがやってますから、こっちもがんばるですの!」
「そうですね。夜は加工もありますし、頑張りましょう」
 アリッサとエヴァーグリーンが互いに励まし合って着実に収穫に相応しいカブの選別をする中、蛍夜とバルタザールもタマネギの収穫をしながら、見場の良くない物を皆の食卓にでもあげようかと話していた。市に出せない物も偶にある。
「蛍夜さんが救世主に見えますよ」
「そりゃエルフは元々力が弱いから仕方ないだろうさ」
 雑談をかわす彼らの向こうで、駆け回る白馬。勿論其れは蛍夜が意図的に放し飼いにした愛馬の狛である。市に向けて皆が励む中、やはり先日のユニコーン出現による対策を少しずつ行っていた。下手に噂が立っても危険だからである。

「ミゼリ、そこはもうちょっと力を入れて」
 脱穀のための歯車もあるのだが、ただのんびり待っているのも勿体ないという話もあってか、ミゼリとクレアス、サーシャの三人は手で脱穀させる方法も採用していた。何事も体験である。沖鷹又三郎(ea5928)は冒険者達の弁当の用意をしていた。
「サーシャ殿、もうじき完成する故、皆にもっていって頂けるでござるか」
「あ、任せておいて。お昼の後はどうしよう、大変な畑の方の手伝いに行った方がいいかな?」
「ふむ。加工品を作らねばならぬ故、戻ってきていただけると助かるでござるよ」
 沖鷹に弁当用の籠などを取ってきてくれと頼まれるミゼリを眺めながら、勉強用に木の札でも作ろうかと悶々と考えるクレアスに、サーシャが話しかけた。
「ミゼリ、完全に泣きやんだみたいね。クレアスさん」
「ああ。心配かけさせた事をきっちり教えないといけないとアリシアなりに考えたんだろう。知る事もやることも覚えることも山積みだが‥‥一つ一つやっていくさ。あ、こら」
 ミゼリの足下をアンズと、今回沖鷹が連れてきたシロと言う名の白い柴犬が走り回っていた。ジャパン種の犬は珍しいのか、アンズがきゃんきゃん吠えながら、シロと鼬ごっこを繰り返していた。慣れもすればいいのだろうが、最初はやはり警戒が強いものだ。
「沖鷹!」
「なんでござろう。あぁシロにアンズ! 口にくわえているの洗濯物ではござらんか!」
 軽く怒った沖鷹に、アンズとシロがきゅーんと鳴いた。平和な家である。

「‥‥あ」
「どうした。ミゼリ。蝋燭を消すぞ?」
「あ、ぉ、おやすみなさい‥‥クレアスママ」
 夜のこと。呆気にとられるクレアス達。ミゼリはぼっと顔を赤らめると、扉を早々と閉めていた。どうやらクレアスをママと呼んだように、ミュールと初対面の時も蛍夜の事をパパと呼んでいたらしい。
 長閑な農場生活は、こうしてまた過ぎていった。
 ギールとの話し合いの末、ミゼリに教養として勉強をさせた方がいいという話になった。心の拠り所の農場から放すのは良くない、遠くへやって寂しい日々を過ごさせるよりは、自分達が家庭教師として面倒を見るという話になった。暗い事もまだ知るには早いが、少しずつ慣れさせていく努力も必要だと。
『わかった。ではミゼリの教育は全面的に任せるから、よろしく頼むぞ』
 礼儀作法をクレアスが、料理とイギリス語をエヴァーグリーンとサーシャ。言葉遊びで語学力を高めるのが蛍夜。アリッサが神学、家庭菜園の世話と保存方法、収穫して料理する方法を沖鷹が。
 そしてミゼリが魔法を使えると知ったバルタザールが調べたところ。
「ミゼリちゃん。使える魔法はグリーンワードは確実に使えるなと感じていましたが、フォレストラビリンスも使えました。驚きましたよ。隠れて遊ぶ魔法も使える、と言ってたのでやってみてと言ってしまって」
 その日はミゼリとクレアス、バルタザールとラディスが帰りが遅かった。すみません、とバルタザールが頭を垂れる。ラディスが加えて話す。
「ユニコーンですが、薬草採集中にも偶に見ました。毎日ではありませんけど、遠くから農場の方を見てるんです。気づくと、あっという間に消えていました」
 ラディスも仕事中に見かけたユニコーンの事をそう話す。ミゼリはモンスターの知識も、魔法の深い知識も無い。バルタザールが気づいた魔法の事も、動作や呪文の深い意味も分かっていないと言う。ミゼリは『植物と話す魔法』と『森で隠れて遊ぶ魔法』だけ覚えているのだそうだ。彼は誰に習ったのか聞いてみたが。
『‥‥しらない、ひと』
 そう言ったという。