【新章 魔法使いの一族】陰謀の指揮者

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 57 C

参加人数:12人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月14日〜03月24日

リプレイ公開日:2007年03月23日

●オープニング

 あの人にだけは光の中にいて欲しかった。
 自分は、もう戻れないから。
 何よりも大切な、あの人だけには‥‥。

 それは冒険者達がキャメロットに戻って直ぐのことだった。
 彼らの後を追うように、エーヴベリーから使者がやってきたのは。
「ファーラだったよな。あんた冒険者と一緒に来たのか? 随分と早く着いたみたいだが」
「ううん、早馬でかっ飛ばしてきたわ。事は一刻を争うから」
 領主の妹は、冒険者に依頼書と一緒に頭を下げる。
「もう一度、できるだけ早くエーヴベリーに来てくれないかしら。貴方達の知恵と力を貸しては貰いたいの」 ‥‥と。
 今回の事件の陰にいる、その陰謀の糸を引く黒幕が判明して数日。
「エーヴベリーにデビルがいる。しかも、かなり高位の者が。それは、とても放っておくことができない事態だと皆で話し合ったの。できる限り早く、彼らをなんとかしなくてはって、それは全員一致の意見なんだけど‥‥」
 エーヴベリーは小さな街。増えつつあるモンスターや、デビルにさえ怯え暮らしている。
 もし、そこに高位デビルの噂など流れれば街はおそらくパニックになるだろう。
 ましてエーヴベリーはキャメロットに一番近い交通の要所でもあるのだ。
 デビルがここからもし飛び立てば、次に狙われるのは‥‥、きっと。
「でも、どうしたらいいか。正直私達だけでは情報も足りないし、解らないのよ。‥‥兄さんは商人のところに踏み込もう、と言ってるわ。一刻も早く事態を解決したいのよね。でも、それは危険すぎると思うの。だって‥‥エリー。いいえエミリの弟が人質になっているんだもの」
 元々、エリーと呼ばれた娘エミリがマイトの所に有力者を陥落させるための道具として差し向けられたのは、無論彼女が望んだ事ではない。
 さらに言えばこのようなことは初めてではないと彼女は告白した。
 商人の元に集められた子供達の多くは彼の仕事を『手伝わされて』いる。
『手伝い』にはエミリのように地元の権力者との人脈つなぎの道具、という意味も含まれている。
 悲しい道具。心から身体から血を流さなければならない辛い毎日の中。
 それでもエミリが商人に従わざるをえなかったのは、たった一人の弟が商人に囚われていたからだ。
『あの子にだけは、幸せになって欲しいんです。父さんや、母さんの分まで、あの子にだけは‥‥』
 同じ弟を持つ姉としてエミリの思いが嘘であるとは、ファーラはもう思いはしなかった。
 エミリに与えられた役割はマイトを陥落させ、商人の望む方向へ開発を導く事。
 本当は自分が孤児であると告白し、そのような者の為に家をと、頼むつもりだったらしい。
 そしてさらにはマイトと結婚し、その財産と命を‥‥。
「エミリがね、兄さんや私達に全てを告白してくれたのはもちろんいいこと。商人の思い通りにはならなくてすむわ。でも、それは同時にエミリが商人の思い通りにはならないってことで、道具として役に立たないと判断されたら裏切ったと思われたら、人質はどんな目に合わされるか知れないじゃない!」
 だから、事は一刻を争う。
 今の状況を相手に知られないうちに人質を救出しなければ!
「だから、知恵と力を貸して! 私達も全力でサポートするわ。できる限りのことはなんでもする。だから、兄さんを、エミリを、皆を‥‥私達の街を守るために力を貸して!」
 ファーラの心からの願いが依頼書となって冒険者の前に張り出された。

「ふむ」
 豪奢な館の中でその男は腕組みをして下卑た笑いを浮かべる。
「今まで、小娘、道具としか見ておらなんだが、知らぬ間にあれほど美しくなっていたか‥‥」
 あの絵姿と、娘の姿を頭の中で幾度も反芻してはほくそ笑む。
「弟の方が、母親似かと思っていたが娘の方にも母親の面影も出てきたようだな。どれ、戻ってきたらまた遊んでやるのもいいかな?」
「戻ってきますかな? あの娘」
 側に控える秘書に、商人は当然、と頷く。
「こちらには弟がいるのだからな。イヤだなどと抜かしていたがそれは、反面相手の心を掴んできているということだ。あと少しで結婚にこぎつけるだろう。そうすれば‥‥。まったく素直に私の言う事を聞いていればよかったのにな」
 くくく。愉しげに笑う男を残して秘書は静かに部屋を出た。
 足元には無音で駆け寄る黒い猫。
「さて、そう思い通りになるのかな? ‥‥人間共のお手並み拝見といこうか」

 冷たく、だが愉しげに微笑む彼の背には、誰も見ることの出来ない闇よりも黒い、漆黒の翼が広がっていた。

●今回の参加者

 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb1293 山本 修一郎(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

メイ・ラーン(ea6254)/ リリル・シージェニ(ea7119)/ 陰守 清十郎(eb7708)/ ランデル・ハミルトン(ec1284

●リプレイ本文

○遠い真実
 人の噂も‥‥とは後の世の言葉であるが、それには若干の注釈が付く。
 良いことを為したなどの噂は本当にすぐに忘れ去られてしまうもの。
 だが、悪い事をしたという噂は長く人の心に根付くものなのだ。と。
 まして、その悪い噂が最近の事であるならば人々の記憶は鮮明過ぎるほど色濃く、恐れや嫌悪に上書きされて残るだろう。
「きっかけはね。子供が自ら命を絶ったってことさね」
 レイ・ファラン(ea5225)に彼をよく知るという同業者は悲しげに呟いた。
 元はキャメロットに拠点を構えていたボリスが何故エーヴベリーに移ったのか知らないか? と聞いた時、キャメロットでも正直者で通っているその石材商人は無理も無い、と答えてくれたのだ。
「見かけはね。そりゃあ良かったんだよ。子供達を養子に引き取り教育を与えってね。家を安価で困っている者に提供する。作るものが家だからね。この商売は信用と評判が大事なんだ。その点を一応奴も解ってはいたんだろうさ」
 だが、彼はその方法が曲がっていた。
「ある日ね。子供のうちの一人が外、しかもボリスの作った住宅街の前で自分の手首を切って死んだんだ。どこからどう見ても自殺。しかも遺書まであったっていうんだから覚悟の上、だったんだろうね」
 もしその遺書がボリスに渡っていたら握りつぶされたかもしれない。だが聡いその少女は手紙を住宅の住民に託していた。自らが住み家を汚してしまう侘びと共に。
「残された手紙には、敬虔なジーザス教徒だった姉が苦しめられ、辱められていた。自分が足手まといになっていたせいで、と辛い思いが切々と書かれていたらしい。そして‥‥姉は病に罹って死んだ。私は姉の元に行く、と結ばれていた」
「そんな、酷い事がほんとうにあったのであるか?」
 信じられない、という顔のマックス・アームストロング(ea6970)にさてね、と商人は肩を竦めた。
 ボリスは当然その手紙を否定する。そんなことがある訳は無い。少女の勘違いだ、思い込みだと。
 元より一人の少女の命以外、はっきりとした証拠もない事件に当局は後手に回り‥‥やがて気付いた頃にはボリスは全ての財産を持ってキャメロットから消えていた。
 故に、真実は闇の中。本当の事は誰にも解ってはいない。
「けどね。この辺で、いやキャメロットでもう奴から家を買おうなんてやつはいないだろうさ。あの子の死は‥‥それほど衝撃だった。もし、あの子のように苦しんでいる子がいたとしたら‥‥心配だね。私はそれほど奴の子供達の事を知ってるわけじゃないけど、たまにあの子が友達かな、と一緒に使いに出されてるのを見た。今思えはあの子達の手は普通の子より細かったかな‥‥」
 商人は深い息を吐き出しそして、冒険者を見る。
「兄さん達。もしボリスと関わる事でもあるんなら、あの子達のことを気にかけてやっておくれ」
 以前出会った家族と同じように、あの子達を心配してくれる者がいる。それはリースフィア・エルスリード(eb2745)にとっても心の支えだった。
 だから、告げる。
「お約束します」
 と心からの思いを込めて。

 それは、言ってみれば認識の違い、だったろう。
「火災は今からもう数年も、前の事だったのですね」
 美しく整えられた住宅街に広場でフィーネ・オレアリス(eb3529)は呆然と佇む。ここで燃え残りの灰どころか、数名が亡くなる火災があったなどと思わせる痕跡はもう、どこにも無かった。
「手がかり‥‥なし、ですわね」
 もう、これ以上ここにいても仕方ない。フィーネは物陰に隠しておいたグリフォンをそっと引き出して跨った。
「あとは、エーヴベリーに行って‥‥っと、あら?」
「‥‥って‥‥待って‥‥下さい!!」
 羽ばたきかけたグリフォンは主の命に翼を畳んだ。
「貴方は、教会の‥‥何か御用ですか?」
 走ってきた少年にフィーネは向かい合い膝を折る。必死で走ってきたのであろう。少年は息を一生懸命整え、唾を飲み込んで告げた。
「司祭様から、伝言をお預かりして来ました。何か、お役に立てるかもしれないから、と」
「あら、ありがとうございます。でも、もう宜しいですわ。数年前の火災。その痕跡から何かを探れないかと思っただけですから。司祭様のおっしゃるとおり墓を暴く無礼をしてもおそらく無駄でしょうし‥‥」
 寂しげにフィーネは微笑む。親子の母親の遺体や火災現場の灰。
 もしそれらが残っていれば、その灰から証言が得られるかもしれない。放火か事故か、死者の灰なら殺されたか否かも。
 しかし、その行為は墓を守る教会の司祭に止められた。既に復活の為の肉体を失った者に鞭を打つな。もう数年前故、灰も土に返っているであろう。と。
「その事なのですが、司祭様はほんの僅かでよければ死者の燃え残った遺骨が残っているかもしれないと言っていました」
「何ですって?」
 少年は、司祭から聞いた話、思い出をフィーネに語る。話を聞くごとに彼女の瞳に希望が灯っていく。
「お役に立てそうですか?」
「勿論です。心から感謝いたしますわ」
 良かった、と言って見送ってくれた少年が遠ざかるのを見ながら、彼女は思っていた。
「少しでも早く戻らなくては‥‥。真実を確かめる為にも‥‥」
 と。
 グリフォンを駆る手に力が入った事はおそらく無意識であろうが彼女の心は既に遠いエーヴベリーに飛んでいた。

 同じように心は既にエーヴベリーにありながら、足を別の場所に向ける一人と一人があった。
「では、リースフィア殿は調査に向かわれるのであるな」
 ええ。白馬の首を叩きながらリースフィアはマックスに答えた。
「フレドリックさんの情報を確認したら、商人が今まで関わったという有力者の元に行ってみます。彼が今までも同じような事をしてきたのなら、彼に接待された人やエミリさんと同じように差し向けられた人がいるかもしれませんから」
「我が輩は今回はキャメロットで調査をするである。一応特にデビルに魔法をかけられた形跡はないそうであるが、万が一何かあっては皆に迷惑をおかけするゆえ。もう少し詳しく商人の事を調べてみるのである」
「一人で大丈夫ですか? レイさんもフィーネさんもエーヴベリーに向ってしまいましたけど」
 心配げなリースフィアに大丈夫とマックスは笑う。人手はある。メイ・ラーンやリリル・シージェニと指を折って。
「陰守清十郎さんも手伝ってくれるはずです。でもご無理はなさらないで下さいね」
「‥‥リースフィア殿も。である。亜奴は何をしてくるか解らない故」
 二人の声が低くなる。はっきりと、いることが解ったあのデビル。
 上位デビルの恐怖を彼らは身に染みて知っている。ランデル・ハミルトンに言われるまでも無く。
「とにかく、今は、私達にできることをしましょう!」
「そうであるな。そうするしかないである」
 顔を上げ彼らは動き出す。一人は空へ、一人は大地へと。先に進んだ仲間達を追って。

○思う心
 エーヴベリーはその年、いつもよりも賑やかで明るい春を迎えていた。
 理由は領主の結婚式。
 最初は誰かが囁いた小さな噂話に過ぎなかった。
 領主一族の長兄が森で助けた美しい女性を花嫁に迎える。と。
 期待に満ちた噂はあちらこちらで囁かれているうちに、日に日に大きくなっていく。
 元々エーヴベリーの領主は貴族ではない。土地を守ってきた魔法使いがいつしか領主も兼ねる様になっただけの事。
 だから身分違いなどというものにも寛容で、皆がその正式な発表を心待ちにしていた。
 たった一人を除いて
「何が、結婚式よ〜。あの女に誰も彼も騙されくさって〜〜〜。私は絶対に許さないんだから〜〜〜!」
「ファーラ様。どうか、落ち着いて下さいませ。ここは公衆の面前ですよ」
 怒りのあまり進む足取りがいつの間にか早足になっていたのだろう。息を切らせて追うセレナ・ザーン(ea9951)をファーラと呼ばれた領主家の娘はやっと、気付いて足を止める。
 後ろには同じように荒い息を吐き出す弟と、山本修一郎(eb1293)がいる。
「もう! だらしないわね! あんた達は護衛でしょ。護衛がそんなに簡単にへばってどうするのよ! って、あっ!」
 後ろ向きにそれでも歩いていたファーラは自分の頭が何かにぶつかった感触に、首をぐるっと回す。そこには
「何を騒いでおいでか。ファーラ殿。皆まで‥‥」
 苦笑を浮かべるレイの姿があった。
「レイさん。お待ちしてました。ファーラさんがエリーさんの正体をなんとしても掴む、と言って‥‥」
 困り顔、便り顔でレイを見つめるセレナをファーラと見比べ、くくと笑う。
「何が可笑しいんです! 大体貴方達は私が雇ったのよ。あの女の尻尾を掴む為に。なのに何だか何人もあの女と兄さんに付いてしまって‥‥」
「彼女達は恋するものの味方だそうで‥‥」
「だから、そんな恋なんて可笑しい、って言ってるの。どこの馬の骨とも解らない奴に兄さんは渡さないんだから!」
 くるり背を向けたファーラは、首越しに後ろに立つ三人を呼び寄せる。
「もう良いわ! 早く行くわよ! このままじゃ、兄さんが本当にエリーと結婚しちゃう。なんとしても邪魔するわよ!」
「解りました」「解りましたわ」「了解です」
 そして、四人は街を行く。マイトの結婚の噂を振りまいて。
 ファーラの一本気な性格を街の住人達は知っているからより、一層楽しげに嬉しげに噂しながら領主の結婚の物語を楽しむ。
 事の成り行きを見守る優しげな笑顔たち。
 だからそれに紛れて街頭で彼女達を見つめる瞳に誰も気付くものはいなかった。
 優しい笑み、と暗い笑み。そのどちらにも‥‥。
 
「あ、お帰りなさいですぅ〜。どうでしたかぁ〜」
 荷物を抱えたまま、帰還した仲間を出迎えたエリンティア・フューゲル(ea3868)は手早く扉を閉め、窓の木戸も閉ざす。少し、薄暗くなった応接間で
「いやあ〜。あの姉さん。演技派だな。ホント。何にも知らなきゃ本気で結婚に反対しているとしか思えない。うん」
 笑いながらクオン・レイウイング(ea0714)は素直な感想を口にした。
「ファーラ姉は芝居とかけっこう好きだからな。凝り性だし。こういう役には多分最適だぜ」
「結婚式とファーラの噂で街は持ちきりだ。俺達がこいつを連れて街を歩いてても、誰も気にしない。この様子だとじきに商人の耳にも入るだろうさ。いや、もう入ってるかもな」
 楽しげに笑う閃我絶狼(ea3991)とは正反対に 
「上手く騙されてくれるかなあ。‥‥もう、本当に結婚しちゃえばいいのに‥‥」
 ティズ・ティン(ea7694)の言葉は少し重い。暗い訳ではないが、いつになく真剣なのだ。
「そうですねぇ〜。ああ、そうだぁ〜。見て下さいぃ〜。このドレス、ステキですよねぇ〜」
 場の空気を変える様にエリンティアは荷物の中から、淡い色合いのドレスを引き抜いて広げた。
「わあっ。思った以上にステキにできてるね。これは、ティズが?」
 仲間達の間から吐息が漏れる。特に今までエミリの護衛で準備に関わっていなかったエル・サーディミスト(ea1743)やシャフツベリーに戻ってきたばかりのフィーネ達女性陣から。
「うん。デザインはマックスさんだけどね。あっちこっち直しちゃった。でも、普段着にも直せば使えるように、頑張って作ったつもりだよ」
 素直な賛辞にティズは照れたように笑った。だが、この花嫁衣裳はまだ袖を通されていない。何より花嫁がそれを拒絶しているのだ。
 今も、マイトや藤宮深雪(ea2065)が説得しているが、彼女の返事はずっと同じだ。
『私一人が‥‥幸せになるなんて、そんな権利は無いのに‥‥』
「気持ちは解るわ‥‥。私だってきっと同じだもの。家族の誰か一人が不幸なら‥‥きっと自分だけ幸せになんてなれない」
 だから、ファーラは自分から、憎まれ役をかって出た。だから、自分の身を危険に晒しても協力すると言った。
 全ては、一つの目的の為に。
「やはり、彼女を解き放つ為にはぁ〜、フレドリックさんの救出が必要なんですねぇ〜」
 エリンティアの言葉に、冒険者達は頷く。だが彼らの誰もがそれが容易ならざることも知っていた。
 フレドリックの救出の前には必ず『彼』が立ちはだかるだろうから。だ。
「んじゃ、俺はもう一度あの館、調べに行くわ。あそこが一番怪しいからな」
「クオン! ダメだよ。単独行動は!」
 相棒であるエルの言葉に大丈夫、とクオンは立ち上がりざま片目を閉じた。
「もう街の地理はおおかた覚えたし、それに絶狼もいるしな。一緒に来てくれるだろ?」
「勿論。アリ公の好きにさせるわけにゃあいかないしな」
 並ぶ二人が浮かべる表情を見た仲間たちに、もう止める者はいなかった。代わりに浮かべられるのは全幅の信頼。
「無理は、しないで下さいねぇ〜。吉報をお待ちしていますからぁ〜」
 立てられた指と決意、そして振り返る笑顔を冒険者達は無言で見送った。

 深雪は扉をほんの少し開けて覗いて見た。
 部屋の片隅で、エミリは今も祈りを奉げている。銀のクロスを握り締めて。
 彼女自身はジーザス教徒ではないと言っていた。母親は敬虔な信者で、友人もそうだったが弟などは、神など決して信じないと言っていた。いくら祈っても神が助けてくれた事など一度も無いから‥‥と。
 辛かった。何よりもその言葉への反論を持たなかった自分が。
 ほんのさっきまで、マイトはエミリに何度目かのプロポーズの言葉を贈っていた。
「冒険者は、作戦として結婚式を計画しています。ですが‥‥俺は貴方を愛している。この気持ちは偽りではない。偽りになど、したくない。だから‥‥どうか、本当に俺と結婚して下さい。俺は、貴方も貴方の弟も、俺の家族として絶対に、支えて見せますから!」
 曲がることなく、真っ直ぐ、ひたすらに真っ直ぐ向けられるマイトの思い。それにエミリはまだ、どうしても首を縦に振ってはくれなかった。
「私は、あの人に逆らうのが怖いのです。貴方の愛も、皆さんの思いも嬉しい。でも、もし自分の選択であの子の、何よりも大事な私の弟の命が危険に晒されたら‥‥私は‥‥」
 重傷だ、と深雪は思った。エミリのこれほどまでに心の傷が深いとは思わなかった。
 どんな苦悩を彼女は生きてきたのだろうか。決して聞く事のできない疑問が脳裏に浮かんで消えた。
 深く、息を吐き出す。そして‥‥
「エミリさん。‥‥解りました。少し、心を落ち着けて下さい」
 深雪はマイトを連れて外に出だのだ。あれから一刻あまり彼女の気持ちは落ち着いただろうか‥‥・
「エミリさんの様子はどうですか?」
「わっ! マイトさん!」
 振り返った拍子に見えたマイトの顔は、不安と心配をその顔に浮かべている。その眼差しは限りなく優しい。全ての思いは彼女の為に‥‥
「もう少し、時間をあげて下さい。彼女は、きっと立ち直りますから」
 深雪は願望も込めてそう言葉を紡ぐ。マイトも彼女を信じるようにそれに素直に頷いた。
 立ち去りかけるマイト。
 それを
「待って下さい。マイトさん!」
 何故か深雪は押し止めていた。
「なんだ?」
 振り返り、マイトは問う。深雪は
「一つだけ‥‥これはお願いなんですけど‥‥」
 静かに微笑して、腕を組む。その星のように澄んだ瞳に願いをかけて。
「本当にエミリさんの事を愛しているのなら、この後何があっても、何を聞いても、彼女を信じてあげて下さい。絶対に彼女の手を離さないで」
「言われるまでも無い。俺は何があろうと最後まで彼女を信じて守って見せるから」
 一瞬の躊躇も無く、マイトはそう答えた。ならば、この先どんな結末になろうと最悪の事態だけは避けられるだろうと深雪は思っていた。
「あら?」
 扉が細く開いている。深雪は魔法で周囲の安全を確認した後、そっと中を覗き込んだ。
 視線の先にはエミリ。そして
ピピ?
 ちょこちょこと、室内を歩き回る黄色の小生物がいた。
「あれは?」
 ふと思い出す。エリンティアが確か、あんな小鳥を連れていたと。
「特に害は無さそうですから大丈夫ですね。きっと」
 深雪は静かに戸を閉めて、扉の前に立った。ほんの少しでもあの子がエミリの心を慰めてくれればとの願いを込めて。後に、冒険者は知る事になる。
 小さな小鳥が彼女にくれた大きな希望を。

 中庭で楽しげな声が踊っている。それを見守っていたエルは、急に強くなってきた風に首を竦め、目の前で笑う少女の名を呼ぶ。
「ララ〜。そろそろ寒くなってきたから、中に入ろうか? ツァイもおいで〜」
「ハーイ!」
ニャアア!
 唱和した声と声には白い息と一緒に見守る保護者の下に帰ってきた。
「もう、すっかり仲良くなったみたいだね」
「うん! もうララとツァイちゃん、友達だもんね」
 今度はツァイは答えない。
 少し困った顔で、だが爪も立てずに頬ずりされるまま、なでくりされるまま、素直に抱かれている。
「いい子、いい子。遊びに来てたって黒猫とは少し違うけど、この子もいい子だから仲良くしてやって‥‥あれ?」
 エルは猫に向けていた視線をララに戻す。さっきまで、年相応の少女らしさを見せていた表情は、今はどこか凍りついたように固まっている。
 そして‥‥
「どうしたの?」
 そうかけたエルの問いに、必死の眼差しで逆に問い、訴えたのだった。
「‥‥お姉ちゃん。あの、黒猫ちゃん、デビルだったんでしょ? ‥‥ララがおうちの中に入れたりしたからエミリお姉ちゃんは、困って‥‥マイトお兄ちゃんは結婚できなくて‥‥そしてファーラお姉ちゃんは危ない事してるんでしょ!」
「それは‥‥」
 エルは迷ったように口を閉ざす。ここで、でまかせを言ってその場を濁すのは難しい事ではない。
 だが、彼女はそれをしたいとは思わなかった。
 この真っ直ぐな瞳に嘘などつけない。
「そうだね‥‥。僕達はその猫に会ってないからなんとも言えないけど、多分、そのとおりだと思う。でもね、それはララのせいじゃ絶対ないよ。エミリやマイトが結婚できないなんて事もないし、ファーラが危ない目に合うなんて事も絶対にないから」
 だから、正直に告げる。それでも、目の前の少女はその瞳一杯に涙を湛えていた。
「‥‥ううん。ララのせい。なのに、ララは何にもできないの。お兄ちゃんやお姉ちゃんを助けたいのに、守られてばっかり、何にもできない足手まといなの」
 ぽつん。ツァイのビロードのような黒い毛皮に雫が落ちる。その雫はやがて雨となって降り注ぐ。
 ララの腕から飛び降りたツァイ。しかし足元で心配そうに泣き続ける少女を見上げている。
「泣かないで‥‥ララ‥‥」
「どうして、ララは子供なの。ララもお兄ちゃんや、お姉ちゃんを助けたいのに‥‥どうして、どうして‥‥」
 エルは自分の甘さを反省していた。子供だからといつの間にか侮っていたのかもしれない。家族を思う心は皆、同じ筈なのに。
「いい子だね。ララ‥‥。大丈夫。すぐに大きくなれるから。ララはきっと皆を守れる魔法使いになれるよ」
 だから抱きしめていた。心からの思いを込めて‥‥。ずっと。ずっと。
 ララの涙が乾くまで‥‥ずっと。

 生き物というのは、人の心を解き放つ力があるのかもしれない。
「エリンティアさん。この子‥‥ありがとうございました」
 両手でそっと宝物を差し出すようにエミリは、ヒヨコをエリンティアに差し出した。
「あれぇ〜、エミリさんのところに行ってたんですかぁ〜。もう、我が侭で困りますねえぇ〜。ダメでしょー。勝手なことしちゃ!」
 メッっとヒヨコに本気で怒るエリンティアの様子は仲間たちを少し、微笑ませた。
 見ればエミリも声を上げて笑っている。昨日までとは確かに何かが変わっていることを冒険者達は感じていた。
「でも、ホント。元気になったようで何より‥‥です。何かあったんですか? そのヒヨコさんと‥‥」
 深雪の問いにエミリは首を横に振る。
「別に、何かあった、と言うわけじゃないです。ただ、思い出したんです。昔、私達も小鳥を飼っていたこと。そして‥‥約束した事を」
『僕が、目を離さなければ野犬に盗られるなんて事は無かった。僕のせいだ』
『お姉ちゃん。僕、大きくなったら強くなって、必ずお姉ちゃんを守るから!』
『じゃあ、フレドが大きくなるまでは、必ず、私がフレドを守るね」
 そう、そんな他愛も無い約束。日々に必死で忘れていた事が、今も鮮明に思い出される。
 逃げてはいけないという誓いと一緒に。
「マイト様。皆さん。私、もう逃げませんから‥‥だから‥‥」
 願いは言葉には出されなかった。外の門扉が叩かれ来客の音連れを知らせたからだ。
 だが言葉に出さなくとも、思いは通じる。彼女の残りの願い。
(「フレドリックを助けて下さい」)
 それは、ちゃんと、みんなに伝わっていた。

 バン!!
 穏やかな時間は、まるで風船が割れるように破裂した。
 来客を迎えに出たティズが走って、必死で走って扉を開けた。
 そして
「来たよ! あいつが‥‥来た」
 敵の襲来を告げるようにティズは声を上げた。
「えっ!」
 冒険者達は窓辺に駆け寄った。
彼らの眼下。窓のから見る玄関の先にはボリスが、ファーラや冒険者と共に館を見上げるように佇んでいた。

○運命のコン・ゲーム
「行った‥‥今がチャンスだな」
 門扉の影で気配を消していた絶狼にクオンが声をかける。
 そう、これは思いもかけないチャンスだ。ボリスとアリオーシュをファーラ達が連れ出してくれたのだから。
 館に招かれた彼らの前で、どんなことがあったのか、彼らに今は知る由も無い。
 ただ、このチャンスを逃すわけにはいかない。彼らが戻る前に‥‥
「俺は中を探る。絶狼は見張りと外を頼む」
「了解! 行くぞ絶っ太!」
 冒険者たちは調査に走る。忘れたペンデュラムの代わりに、目と、手とカンを使って‥‥。

 目の前で繰り広げられている展開は、一見すると親子の感動の再会にも見える。
「おお! エミリ無事だったか! いや、良くぞ無事でいてくれた。ワシは嬉しいぞ!」 
 涙を浮かべ、満面の笑みを浮かべるボリス。
 無論、それを信じるものなど誰もその場にはいなかったが。
「何やってるのよ! アンタがその女の保護者だって言うから連れてきてやったのに、エリーは全然今まで変わらないじゃない」
ファーラの怒声が響く。
『あの娘はおそらく我が養い子でございます。請われてある御方にお仕えしていたのが行方不明になりまして‥‥』
『以前、絵姿を見せられた時には連絡が来ていなかったのです。以降私は心配で、心配で』
『彼女が家族から預かった形見があります。それを身につければ記憶も戻るやもしれません』
「わが言葉に嘘はありません。今少しお待ち下さい。なあ‥‥エリー」
 彼は微笑み、呆然と佇むエリーの頬に触れた。そして顔をかき抱く。
「さぞかし辛い目に会ったのだろうな。だがもう大丈夫だ。安心するのだ‥‥」
「何をする? 我が婚約者に馴れ馴れしく触れるな!」
「絶対に守るって、決めたんだもん!」
 エリーを庇うように左右からエルとマイトが立ちふさがる。
 ドン!
 押されたボリスはまるで、ボールの用に転がり弾むがその顔には勝利の笑みが浮かんでいた。
「エリー‥‥大丈夫?」
「お父様‥‥? 本当にお父様なのですか?」
「記憶が戻ったのですか? 本当に」
 信じられないという顔つきで見つめるセレナとファーラ。
「我が愛でございましょう。エミリ。これはお前の母上の形見だ。覚えているな‥‥」
 だが、ダメ押しとボリスは差し出した指輪をそっとエリーの指に嵌めた。
 指輪はまるで誂えたようにピッタリと嵌る。
「これはこの子達の両親が残した形見なのです。これ以上の証明が必要ですか?」
「この指輪‥‥ああ! 思い出した。お父様!」
 泣きじゃくるエミリをそっと腕に抱きしめマイトは高らかに宣言した。
「‥‥いや。認めよう。我が婚約者エリーはエミリであり、商人ボリスの娘である。ここにボリスを我が義父として迎えることを約束する」
「お兄様!」
 ファーラの抗議を、きっぱりとマイトは拒絶する。勝ち誇った顔のボリスは
「ありがとうございます。私も我が娘と、この街の為に粉骨砕身お勤め致しましょう」
 嬉しそうな顔で頭を下げる。
「来月の吉日に式を予定している。どうかご参列を願いたい。父君よ」
「喜んで伺いましょう。エミリ。マイトさまによくお仕えするのだ」
「はい‥‥お父様」
 その瞬間、勝ち誇ったのはどちらだったか。
 兄弟達と冒険者か。ボリスか。それとも‥‥。
 エーヴベリーの運命を揺らすコン・ゲームの幕が、今切って落とされた。

○悪魔の領域
「皆さん、名演技でしたねえ〜。ボリスは完全に騙されたんじゃないですかぁ〜」
 招かれざる客が去って暫く、待ちかねた仲間を迎えて、冒険者は円陣を組んだ。中央に羊皮紙を囲んで。
「フレドリックがいそうな場所は確認できた。館の奥‥‥地下室の一室だ。見張りは一人二人だが頑丈な鍵がかけられている。簡単には開けられないな」
「使用人も少なくない数がいる。奴らだけなら問題無いがボリスやアリオーシュが彼らを盾や捨て駒にし出したらとんでもないことになるぞ!」
 偵察に出たクオンと絶狼の報告が、冒険者の進む道を決める。
いや、もう決まっていたのかもしれないが。
「予定通り行こう。結婚式を餌にボリスとアリオーシュを誘き出す。そしてその隙に家に突入してフレドリックを救い出す!」
 その時、一人の人物が前に進み出た。
「エミリ‥‥」
「皆様、どうか‥‥父から、フレドリックを助けて下さい。偽りの結婚式の罪がもし問われるなら全て私が引き受けます。だからどうか、あの子にだけは光の道を‥‥」
「そんな事言っちゃだめ! マイト達は私が守ってあげるから心配しないで。私は恋する人の味方だから! 真剣な愛と恋の下に罪なんか絶対に生まれないんだから!」
 ティズの真剣な思いに寄り添うように、マイトは自らの手と心をエミリの手と心に重ねる。
「俺達の出会いも、恋も、結婚式も用意されたものかもしれない。でも、この恋心は間違いなく俺の俺自身のもの。だから、信じて下さい。必ず、貴方達を助けます」
「私達は古代の魔法使いにだって負けなかったのですから、今回だって大丈夫です!」
 誓い合い、励ましあう仲間達。だが、フィーネはそれを一時遮った。
「そう言えば、お伺いしたい事がありましたの。エミリ様。お母様の遺骨をお持ち? 幼い姉弟が埋葬前に一欠けらずつ握って行ったと教会の方が教えて下さったのですが」
 もし残っていれば証拠になるかもしれない。ボリスの罪を暴く‥‥。
 フィーネの言葉にエミリは頷き、指輪の仕掛けをそっと外した。そこは小さな隠し箱。そこに母のたった一つの形見が
「えっ? どうして」
 無かった。あったのは小さな包みに包まれた不思議な白い粉。
「『忘れるな?』何これ? それにこっちは薬?」
小指でエルはそれを突き、舐める。
「! これ毒薬だよ! 人の身体の自由を奪うかなりヤバイやつ」
 エミリはがくんと膝を折った。
「まさかお父様‥‥そこまで‥‥」
 渡された指輪と薬、その意味が理解出来た時、冒険者は今だかつて無い程の怒りを噛み締めていた。

 彼は楽しげに笑っている。黒猫を従えてまるで踊るような軽やかな姿で、彼女の前に立っている。
「今はダメです。‥‥こらえて下さい。アイオーン」
 突進していきかねない愛馬の手綱を、リースフィアは震える手で縋るように強く握り締めていた。
 単独行動が危険な事は承知しているつもりだった。
 だが、意表を付かれた。このタイミングで彼が現れるとは。完全に仲間と別行動を取っていた自分の前に。
 どうやら今回彼の黒猫はエミリではなく、自分達の監視に回っていたのだ。と気付くと解った。
「人の心は移ろいやすく、勝手極まりない。そう思わないか?」
 彼の言葉と、出現の意味が。
 リースフィアは返事が出来なかった。それこそが、彼女の今抱く苦しみ。
 彼に出会うまで、どう仲間に説明しようと悩んでいたことの現況であった。
「貴方達と同じ苦しみを知る方の為に、どうか力をお貸し頂けないでしょうか? 商人ボリスが縛につくことになれば、皆さんに累が及ぶ事になるやもしれませんから‥‥」
 幾人もに頭を下げ、請い願った。けれども誰一人として協力してくれた者はいなかったのだ。
「もう巻き込まれたくない」「あの頃の事など思い出したくも無い」「やっと手に入れた幸せを邪魔しないで!」
 憎しみまで叩きつけられて彼女は戻って来た。その苦しみをきっと見計らうように奴はやってきたのだ。
 リースフィアは唇を強く噛み締める。
 楽しげで、甘く、どこかスパイシーな声で彼は誘惑する。来い。と。
「人と言うものなどは所詮愚かな玩具に過ぎん。そのうちお前達は私よりも人の与える絶望に打ちひしがれることだろう」
「確かに、人は我が侭で身勝手かもしれません。でも、私は人の心を信じます。人を思いやる心、幸せを願う気持ち。愛が輝いていると!」
 渾身の思い。願い。だがそれを
「フッ!」
 アリオーシュは鼻で笑った。
「何が可笑しいのです。アリオーシュ。事と次第では、ここでその首貰い受けます!!」
 腰から聖剣を引き抜き切りかかる。だが踊るようにそれを回避すると、彼はまた楽しげに微笑む。
「エーヴベリーか。あの契約主はなかなか楽しませてくれるからな」
「一体、何をするつもりです!」
「何もせぬ。する必要も無い。もう仕掛けは動き出している。かの地でお前達は知るだろう。お前の訴える愛は私の領域だと‥‥な」
「待ちなさい! アリオーシュ!!」
 全力でチャージをかけるが、彼女の剣が彼の居場所を切り裂いた時、そこにはもう彼の姿はどこにも無かった。
「待ちさい。貴方は‥‥何を」
 彼が消えても、その後もリースフィアの耳と頭の中には
『愛は‥‥我が領域』
 アリオーシュの言葉は長い事、消えることは無かった。