【見つめる瞳】届かない手

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 57 C

参加人数:11人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月18日〜03月28日

リプレイ公開日:2008年03月26日

●オープニング

 それは、暴動に近いものであった。
「その娘の石像をよこせ!」
「壊されたうちの子と同じようにその石像をぶっ壊してやる!」
 洞窟に押し寄せた村人達の怒りはまるで波を打つようだったという。
 石化殺人の容疑者エリシュナ。
 彼女は冒険者によって確保され、魔法使いオルウェンによって石化された。
「お前! 一体何故!」
 冒険者達は突然の表れたオルウェン。そして彼の強攻に驚き詰め寄った。
「冒険者に促されましたのでお手伝いに。皆さんのお役に立てたのなら良かったのですが」
「何を言っているのです? 彼女はちゃんと説得に応じようとしてくれていました! 石化する必要など!」
「早く、誰か解除を!」
 冒険者達は即座に石化を解除しようとした。だが
「宜しいのですか? 今、石化を解除して‥‥」
 オルウェンは怪しく笑う。洞窟内の冒険者達は、やがて外に溢れる村人達の声を聞く。
 その口はそれぞれに怨嗟の声をあげていた。
「彼らを扇動した者がいたようです。皆さんが洞窟に向かった後、村人達はエリシュナさんがいると聞いて冷静さを失ってしまい‥‥」
 村人達を制止しようとした冒険者も止められない程であったという。
「今、石化を解除すればかえって彼女は彼らの恨みを受けることにはなりませんか? それに、私なら彼を止められると思いますが? ねえ、エスタさん?」
「あ‥‥」
「くそっ‥‥!」
 冒険者達はオルウェンの胸倉を掴んでいた手を放した。
 その場引くしかなかったのだ。
 オルウェンがエスタに呼びかけた。その意味を理解したからだ。
『彼』が一人ではないということ。
「お前‥‥エリュの口を封じようとしたんだな」
「さあ〜?」
『奴』とオルウェンを今、追い詰めれば冒険者はともかく石化したエリシュナとコカトリス。
 そして何も知らない村人達に犠牲が出る可能性がある。
 今は、まず村人達を鎮めなければ‥‥。
「だが、もうこれ以上エリュに手出しはさせん! 村人達を止められるというならやってもらうぞ!」
「私達は先に行く。フリード。エリュについててやるんだ」
 オルウェンから目を離さず、冒険者達は外に出て行く。 
「エリュ‥‥」
 フリードは彼らの背中を見送ると物言わぬエリシュナを見つめ涙を流した。
「ごめん‥‥、君を守れなかった」
 手を血が出るほどに握り締めて‥‥。

 その後、冒険者達の尽力で村人達は一応の平静を取り戻した。
 だが、エリシュナはまだ新旧の村人両方の怒りを一身に身に受けている。
 村から連れ出すこともできなかった。
「まだ、彼女が石化殺人犯だと決まったわけではありません! 貴方方も見たでしょう? 魔法でも人を石化させることはできるのです!」
 ジュディスが説得するが村人達は納得はしない。
「じゃあオルウェンが犯人だってのか?」
「そんな筈は無いだろう? 大体彼がそんな事をする筈はない」
 エリシュナはコカトリスを隠し飼っていた事もあり、新旧どちらの村人にも仲の良いものはいなかった。
 一方オルウェンは両方の村人達と信頼関係を深めていた。
 新しい村人には自分達の代弁者。古い村人には昔冷たくした自分達に恨みを持たず生活を助けてくれた恩人。
 エリシュナとオルウェンのどちらを信じるかと言えばオルウェンで、オルウェンとジュディスのどちらの言葉を信じるかと言えば、今はそれもオルウェンなのだ。
「いくらご領主様でもその娘を庇い立てするのは困るで!」
 円卓の騎士が預かると冒険者が言っても信じてくれない。
 村人達に詰め寄られながらもジュディスは
「では、冒険者に改めて真実を調べてもらいます。その結論が出るまでエリシュナの石像は我が家で預かります。それだけは絶対に譲れません」
 懸命にエリシュナを庇って言ってくれた。
「それでいいのではありませんか? 調べられて困る事はありませんから」
 オルウェンの言葉もあり結局エリシュナの石像は領主の館に預けられる事になったのだ。
 そして、冒険者に再び依頼が出される。

『石化殺人事件の真実を表す事』
 
 それがエイムズベリー領主家から出された依頼である。
 冒険者からしてみればもう真実は明らかである。
 けれどもそれを立証する証拠は何一つ無い。
 少女エリシュナの無実を証明する為には、村人達を納得させる証拠と共に犯人を挙げなくてはならないとなると、難しいと言う言葉では表せない程の困難な依頼になる事が予測できた。
 しかも敵は熟達の地魔法使いと彼を操る者‥‥。
 さらに手を打ち間違えれば村人達さえも敵になりかねない。
 それでも、おそらく冒険者達は立つであろうと係員は思っていた。 
 決意の目で立つ少年のように‥‥。

「母上! 何故何も言ってくださらないのですか!」
 青年は母親に迫り寄る。
 けれども彼女はその瞳から逃げるように目を逸らした。
「冒険者と約束したでしょう? ジュディスを守ると! それなのに何故!」 
「お前には解らないのです。あの方の恐ろしさが‥‥」
「母上!」
「私には何も言えない。言わない。それが‥‥せめてもの『約束』 もし、言ってしまったら‥‥」
 怯えるように窓の外を彼女は見る。
 見えない何かの影を見るかのように遠い目で。唇は固く結ばれたまま‥‥。 

 暗闇の中で、動かない瞳は何かを見つめている。
『さて、なかなか面白くなりそうだな。どうするか‥‥。楽しみだ』
 楽しげに笑う声を聞くこともなく。
 誰かに向かって届かない手を伸ばしたまま‥‥。

●今回の参加者

 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

メイ・ラーン(ea6254)/ アスフィカ・レハゲネト(ea7092)/ 鳳 令明(eb3759

●リプレイ本文

○決意と思い
 役に立つかどうか解らない。
 宮廷図書館長エリファスはそう言い置いた上でこの手紙を渡してくれたと言う。
「これを下さった図書館長様の想いにも答えないと‥‥」
 封筒を入れてある胸元に手を当てシルヴィア・クロスロード(eb3671)は呟いた。
 鳳令明も仲立ちして、なんとか用意することができたこの書簡。
 中は冒険者達も見てはいない。
 けれどもそこには冒険者がやろうとしている事。その背中を押す文章が記されている筈だった。
 共に空を行く仲間達の返事は無い。
 シルヴィアも返事は求めずひたすらに前を向き飛ぶ。
 眼下に広がるのは春の芽生え始めたイギリスの大地。
 大切な人が守りたいと願い、大切な人達が生きる国。
 出会った人々の‥‥笑顔。
(「守りたい‥‥」)
「急ぎましょう。もう彼らの思い通りにさせるわけにはいきません。相手が我々を侮っている今がチャンスです」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)やシェリル・オレアリス(eb4803)と共にその思いを勇気と力に変えて。

 空を行く冒険者がそうであったように、地上を行く彼らもまた言葉少なだった。
 目的地エイムズベリーへの道行きが気楽であった事はないが、今回は今まで以上に冒険者達の顔に緊張の色が浮かんでいた。
 何をしたらいいのか。自分は何ができるのか。そしてこれで、本当にいいのか。
 自分の考えとこれからしようとしている行動。
 それに自問自答する彼らの真剣な思いがそうさせていたのだ。
「余計な事、言っちゃってごめんね」
 いつも明るいムードメーカーであるところティズ・ティン(ea7694)も今回はその気持ちが一番強い。
 何よりも彼女は責任を感じていた。
 オルウェンに口封じの口実を与えてしまった事に。
『ねぇ、なら、何で遺跡に行かないの?』
 もし、自分があんな事を言わなければオルウェンは少なくともあの場に現れる事ができず、エリシュナから証言を取れたかもしれない。
 ずっと悔いていのだろう。彼女は今も俯いたままだ。
「別に気にする必要はないさ。大丈夫。絶対このままになんかさせておかないから」
 馬上から閃我絶狼(ea3991)が軽く笑いかける。
「相手は人の心の弱さにつけ込むのが上手いのだわ。頭もいいかもしれないだわ。でも、もう好きになんかさせないのだわ。一緒にがんばりましょうなのだわ」
 頭上をひらりヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が舞う。
 仲間達の誰一人としてティズを責める事はない。だから
「うん! 前回の失態を返上できるようにがんばるよ!」 
 ティズも仲間達に答えるように前向きに微笑んだ。そう、悩んでいる暇などないのだ。
「確かに今回が正念場だからな。油断は許されねえ‥‥」
 ギリアム・バルセイド(ea3245)は手を握り締める。
 冒険者達は今回、ある計画を立てていた。
「同じ苦しみを受けた少女を、復讐と保身の為に使い捨てる‥‥許せません」
 犯人であることは解っているのに手駒であるところの少女を操り、尻尾を見せない魔法使いオルウェン。
 彼の正体を暴き、事件の真相を明らかにする為に冒険者は絶対に言い逃れのできない場を用意しようと決めていたのだ。
 だが、それはある意味諸刃の剣でもあることを彼らは気付いていた。
 失敗してしまえば逆にこちらが追い詰められる。
「その為には‥‥」
 自分のしようとしている事の罪深さからだろうか? 
 セレナ・ザーン(ea9951)の顔には血の気がない。
「セレナさん‥‥」
 心配そうなフリードとセレナの頭を‥‥正確には髪の毛をだが、右手と左手でくしゃくしゃとリ・ル(ea3888)はかき乱した。
「難しく考えるな。俺達は俺達のできることをする。約束を守る為に。考えるのは後からでいい」
「はい」「そうですわね」
 頷く子供達を優しく見つめるフレイア・ヴォルフ(ea6557)。リルと同じように保護者の気分でもある。
 フリードや仲間達。ジュディスやカルマ。そして‥‥エリュもまた。
「若さだけでは補えない所がある。それを助けるのが大人の役割ってもんだ」
「エリュを絶対に助けるぞ、いいな?」
 フリードに言い聞かせるリルを見ながらフレイアもまた、
「絶対に逃げない。そして‥‥逃がさない」
 もう直ぐ見えてくる街とそこで待つであろう相手に思いを向け、強く拳を握り締めていた。

○変わりし者
「ふむ。と、言う事は、死亡行方不明者はほぼ一週間の間バラけて消息が知れなくなったのであるな」
「そうだ。最初にいなくなったのは村の商店の店主で‥‥彼を捜しに行った家族が二人目になって‥‥行方不明だと騒いでいるうちに三人目、四人目がって感じだったかな?」
 村人達の話を聞き、ふむ、とマックス・アームストロング(ea6970)は腕を組んだ。
 彼は村の中で情報収集に当たっていた。
 明後日に行われる事への下準備だ。
 今頃は他の仲間も遺跡に、村に同じように情報を集め動いている筈だが‥‥
 しかし、と考える。行方不明者五人、最初に石化され一気に一日で行方が知れなくなったのかと思っていたが違うようだ。
「彼らはどこかに行くとか言っていなかったであろうか?」
 流石に遺族に直接話は聞くのは躊躇われ近隣の家の住人達に聞いて回っていた。
「さあ? ああ、そう言えばなんだか怯えた感じだったかな? 買い物に行った時なんか手紙を持って青ざめて‥‥」
 思い出したように彼は答える。それが失踪直前の話であったと。
「怯えた?」
「ああ、詳しくは家族に聞いたほうがいいと思うがな」
 話を聞き、マックスは思う。
 家族二人を失った遺族に聞くのは酷だろう。話してくれないかもしれない。
 だが‥‥
「ここは、なんとか説得せねばならないのである。裏づけを取ればひょっとして『証拠』が見つかるかもしれない」
 村人達に礼を言って別れた後、マックスは服を整え背筋を伸ばす。目の前には被害者の家のドアが。
 怒られる事、泣かれる事を覚悟してノックをしようとした瞬間
 ガシャン!
 何かが投げつけられる音と、ぶつけられる音が家の中から響く。そして‥‥回り込んだ窓際からマックスは見た。砕けた瓶と
「‥‥亡くなったご家族もきっと、真犯人が捕まる事を望んでいる筈です」
 祈るように手を組み相手を見つめるセレナの姿を。

 屋敷の中、冒険者達はある人物の部屋でその部屋の主人と向かい合っていた。
「エスタさん。教えて下さいませんか?」
 エイムズベリー領主家のエスタ。
 領主の姑であり、今までずっと行方不明で石化されていた元黒の神聖騎士はリースフィアの言葉から逃げるように顔を背けた。
「遺跡でのあの状況。そしてオルウェンの言葉から察するにエスタさん。貴方はオルウェンと知己の間なのですね。そしてそれはきっと『彼』の元で」
 キッと唇を噛み締める音がする。
「エスタさんは、以前エイムズベリーの領主さんを復讐の為付けねらった事があるのだわ。その時、エスタさんを操っていたのは‥‥」
 握り締められた手が、表情が事実であると言っている。その事をヴァンアーブルは確信する。
「これまでの状況から、エスタさんが事件についての極めて重要な情報を握っていることは明らかです。そして‥‥その理由についても見当がついています」
 だが、あえてリースフィアは続けた。
「‥‥村人やジュディスさん達をアリオーシュに人質に捕られているのですね」
 はっきりとあの悪魔の名前を出して
「貴方達には解らないのよ! あの方がどれほど恐ろしいか‥‥。裏切りと復讐の悪魔。あの時は神に思えたけれどもし、あの方が本気を出せば村など、あの子達など‥‥」
 真の強者は簡単に人質をとってそれを見せ付けるような真似はしない。
 いつでもそれができるのだとほのめかした上で、言う事を聞くように仕向けるのだ。
「貴女も苦しんでおられるのですね。少しはその気持ち、解る気がします。私も目を付けられていますから」
 静かに微笑んでリースフィアは告げる。それは同情ではない。
 心からの思い。けれど
「けれど、それは本当の優しさではありません。たった一人で苦しみ、大切な者を庇おう、守ろうとしても結局は守りきれずその苦しみを悪魔に付かれるだけなのです」
 顔を上げてリースフィアは言った。全ての思いを込めて。
「一度悪魔に屈すればその後どうなるか、というのはエスタさんが一番良く知っている筈です。このまま悪魔に押し切られてしまえば、ジュディスさんに拭い難い傷と後悔が植えつけられてしまいます。その傷を悪魔がどれほど望み好むか、その後、悪魔がどうするか。エスタさん‥‥貴女が誰よりも知っている筈です」
 リースフィアの顔は真っ直ぐエスタに。だがエスタの顔は避けられ伏せられる。
 その上にリースフィアの言葉は神の言葉のように降った。逃げを許さないと言うように。
「そこまで知っていて黙っているのはジュディスさんを贄に捧げるも同義ではないでしょうか? そのとき、ジュディスさんとカルマさんは笑っていますか?」
「‥‥」
 返事が紡げず押し黙るエスタの頭上をヴァンアーブルはひらりと舞う。
「正直私も怖い。でも本当に失いたくないならば前を向いて真実に立ち向かわなければならないのだわ。‥‥でも、私達は独りではない、それだけは分かって欲しいのだわ」
 優しく告げる、その想いにも伏せられたままの顔にリースフィアはそれ以上の言葉を今は告げなかった。
 あくまで最後の結論を出すのは、出せるのは本人ただ一人なのだから。
「私達は明日、村人達を集めて皆の前で真実を証明します。いくつかの情報、手がかり、証拠からある程度は追い詰める事もできるでしょう。でも、狡猾なデビルとオルウェンの事。私達に隙があればひっくり返されるのは我々かもしれません。それを覆せるのは貴女だけ‥‥」
 エスタに背を向けヴァンアーブルと共に彼女はそれだけ言って部屋を出た。
「どちらの道を選ぶか‥‥決めるのは貴女です」
 静かに告げられた言葉と、閉められた扉の音。
 残されたエスタがそれを抱きしめどんな思いで、どんな顔をしていたか。
 冒険者達には知る由は無かった。

「公開裁判‥‥ですか?」
 仕事の手を止め瞬きするオルウェンにジュディスは精一杯の虚勢でそうよ。と頷いた。
 夫と冒険者を連れて新しい村人のところにやってきたジュディスは大工仕事を手伝うオルウェンの所まで出向いてそう告げたのだ。
「明日一つの決着をつけます。あの子‥‥エリシュナの事も、村人の事も‥‥そして貴方の事も。だから参加して頂戴」
「そういえば、いろいろ嗅ぎまわっていたようですね。皆さん」
 くくと、オルウェンは笑う。視線はジュディスを飛び越え後ろで彼女を守ろうとする冒険者達へ。
 微かな不快感が胸の中に広がるが、ティズはそれを表に出す事はしなかった。
「嗅ぎまわるって、何か探られて困るような事でもあるの?」
「いいえ」
 ジュディスの問いにオルウェンは首を横に振る。
「では、明日村境の広場に。来て貰えるわね?」
「それは、命令でしょうか?」
「そう思って貰って構わないわ。事情がある者以外、大人は全員参加の方向で」
「了解しました。村人達には私から伝えておきましょう。何人か戻らぬものもいるようですが‥‥」
「この間石化から解かれた人達については、明日の裁判まで身柄を預かります」
「解りました」
 事務的な会話の後‥‥、ジュディスはここまでしていた領主の顔を解き、少女の顔に戻ってオルウェンに告げた。
「どうして貴方は変わってしまったの? 前はとっても優しいお兄さんだったのに‥‥」
 遠い昔、オルウェンは村の少女達の憧れだった。
 少女とは言えない子供達ですら、その優しさに惹かれステキな兄を持つネリを羨望の目で見つめていたと言うのに。
 まだ五歳程度だったジュディスですらその記憶を今も甘い思い出として持っていると言うのに‥‥。 
「‥‥で幸せな子だ。貴女は‥‥」
「えっ?」
 ジュディスは思わぬ言葉に眼を見開いた。オルウェンの眼が一瞬不思議な色を放つ。
 ‥‥まるで自分を蔑む様な‥‥哀れむ様な‥‥?
「いえ、何でもありません。とにかく裁判への参加は致します。どうぞご安心を」
 頭を下げられてはそれ以上その場にいる理由は無くなる。
「じゃあ頼んだわよ!」
 歩き去るジュディス達の後を追って飛んだヴァンアーブルは、振り返りざま見たオルウェンの顔が忘れられなかったと言う。
 本当に沈んだ眼を彼はしていた。

 屋敷の中、一人石像を見つめる少年がいる。
 薄暗くもうじき夜に近づいていると言うのに彼は動こうとせず、ただ手を伸ばす少女の動かない瞳を見つめていた。
「フリード」
 名前を呼びかけられ少年は振り返る。
 そこには片手に盆を持った冒険者が立っていた。
「リルさん、フレイアさん」
「見張りご苦労さん」
「ほら、夕食貰ってきたよ」
「ありがとうございます」
 スープとパンを受け取ったフリードは石像の横の壁に背をつけ座る。
 その左右にの横にリルとフレイアは座った。
「いただきます」
 懸命に食事に向かうフリードを優しく見つめてから
「いよいよ、明日が正念場だ」
 独り言のようにリルが呟いた。フリードの手が止まる。
「明日、村人達の前でエリシュナの無実とオルウェンの罪を証明する。その為に俺達はここまでやってきたんだから‥‥」
「どうしたんです? 何かあったんですか?」
 自分に言い聞かせるようなリルの言葉にフリードは問いかけた。
「いや。ただな‥‥。オルウェンって男も哀れな奴だと知ったのさ。皆でいろいろ情報収集をしたから」
 さっきまで仲間と集めてきたオルウェンの情報をリルはフリードに話して聞かせる。
 父親を早くに亡くし母親に妹と共に育てられた事。頭が良くて母親の自慢の子であった事、歳の離れた妹をとても可愛がっていた事。
「けど、その妹は流行病で死んだ。薬さえあれば助かったかもしれないのに、家が貧しかったからその薬が手に入らなかったんだそうだ。金持ちから先に薬は回り、下に行くほど法外な値段になっていく‥‥」
 不公平だと思ったのかもしれない。それでも妹の為に全財産を彼らは投げうった。
「でも‥‥間に合わなかった」
 怨んだのかもしれない。
 自分の妹が死んだのに助かった人々を見ながら彼は村を出た。
 役にたたなかった薬を握り締め。
「その後、母親に死に別れ、知り合いのつてを頼って魔法使いに弟子入りした、って話だ」
「そんな‥‥彼も犠牲者だったんですね」
 俯くフリードにリルは立ち上がる。
「確かに哀れな男だ。とはいえあいつに同情なんかするなよ。俺達が思うとおりならあいつがした事は決して許されることじゃ無いからな」
「はい」
 割り切れない顔でではあるがフリードは頷く。リルはそれを見てから自分がかけていたマフラーをそっと石像の首元にかけてやった。
 そしてフリードの方に向かい合う。
「いろいろ悩んだり考えたりするのは後だ。前にも言ったな? 絶対エリュを助けるぞ」
「はい!」
 フリードも立ち上がった。自分にできる全力を尽くすと誓う。この伸ばして届かなかった手を今度はなんとしても掴むのだ。
 決意の少年の頭を撫でリルは微笑む。
「それから、子供達との約束を守るんだ。弓を教えるって言ってすっぽかしたんだろ?」
「別にすっぽかしたわけじゃ‥‥。でも僕もフレイアさんに教わったし‥‥」
「少しは上達したのかい?」
「それはフレイアさんに比べればまだ‥‥」
「ハハハ‥‥」
 笑いあえる喜びを感じながら冒険者達は明日への決意をフリードと同じく、いやそれ以上に固めていた。

○公開裁判
 村境の広場、と言っても別に大したものではない
 単に少し広い空き地なだけ。だがそこに今、いくつかのテーブルや椅子が並べられていた。
 トラブル防止の為、新旧の村人は分けられている。中央奥にはジュディスとカルマ。側に護衛役の冒険者もついている。
 そして新しい村人達の集団の中から一歩出る形でオルウェンが敷かれた絨毯の上に、旧の村人達から数歩前に行く形で冒険者達が数名ずつの場を作って立っている。
 丁度際奥今回の恨みの象徴であるエリシュナとコカトリスの石像とそれを守るフリードを頂点に三角形を描いている形と言えば解りやすいだろうか。
 ジュディスの告知どおり、新旧の村人ほぼ全てがそこに集まっていた。
 大人だけでなく子供もほぼ全て。危険もあるかもしれないのに集まってくることにこの事件に対する人々の注目と不安が現れている。
 一刻も早く解決させたいのだろう。
 人々の注目を受けながら若い女領主は立ち上がって朗々と告げる。
「では、これから今回の石化殺人、ならびに行方不明事件の審問会を行います」
 人々がざわめく。
「審問会って何?」「そいつが犯人なんだろう? とっとと壊せば済む事じゃ‥‥」
「静かに!」
 強いジュディスの声に人々はピタリ、声を止めた。
「今回の件に関して、私は冒険者に調査を依頼しました。第三者からの中立な意見。その結果明らかになった事があるのです。その結果を全て聞くまで皆の意見や行動を禁じます。そしてその後、皆で判断しましょう。今回の事件の原因は何か、誰か。誰を裁くべきなのかを‥‥」
 人々からざわめきが消えた。ジュディスの思いが伝わったようだ。‥‥オルウェン以外は。
 微かな嘲笑のような笑みを浮かべ立つオルウェンを複雑な表情で見つめながらジュディスは冒険者に目配せをした。
 頷いた冒険者の中からまずはシェリルが進み出る。
「審議の間、石化殺人犯からの介入がある可能性を考えジュディスさん達と貴方にレジストマジックをかけたいのだけどいかがかしら?」
 問いかけたのはオルウェンに関してだ。
 彼女は今回の件に対してある意味一番重要な役割を持っている。
 開会前仲間達の幾人かに対してはレジストマジックを付与した。自身にもいくつかの魔法をかけてある。
 フレイムエリベイションとリトルフライ。微かに彼女の身体は宙に浮いている。
 後方にあるエリシュナの石像についてはホーリーフィールドさえかけてある。全ては目の前の男、オルウェンの魔法を警戒しての事だから。
「皆さんはどうぞ。私は拒否します。受ける理由がありません」
 静かに考えオルウェンはそう告げた。
 シェリルもそれ以上は無理強いせず後方に下がる。これも想定の範囲内だ。
 無理強いせず素直に引いて、場を仲間達に渡す。
 深く深呼吸してリルがまず前に立ったオルウェンと、何より村人達に告げる。
「最初に言っておく。俺達の調査と推理が導き出した結果は一つ。今回の事件において村人達を石化し、それを壊し死に至らしめたのはあの少女エリシュナではない!」
 村人達は当然ざわめいた。
「そんな筈があるか!」「その娘が連れているモンスターが石化の能力を持ってるんだろ? なら‥‥」
「石化という現象を引き起こすのはモンスターだけじゃないのだわ。魔法でも起こせます。現にエリシュナさんはオルウェン殿に石化されているのだわ」
 村人達の一番前にいたヴァンアーブルはいきり立つ人々の前を飛びながら告げる。
「石化ができるのはコカトリスだけじゃないんじゃないの?」
 そう言っていた冒険者もいると村人は思い出していた。
「そういえば‥‥」「でも‥‥」
「まず聞いてよく考えて欲しい。石化という現象を引き起こす手段を持った人間は今、この村に二人いる。エリシュナとオルウェンだ」
 ヴァンアーブルとリルの言葉に人々は耳を傾けてくれた。話を聞く気になってくれたようだ。
 少しホッとして、だが気合を引き締めなおして顔を上げる。絶狼が頷く。‥‥リルは話を続けた。
「あまり知られてはいない事だがこの二つは同じ石化という現象を引き起こす事であっても原因も何もかもが違うので回復方法も異なる。魔法の石化はニュートラルマジック。コカトリスの石化はコカトリスの血をかけることでしか原則回復できないんだ。特別な錬金術で作られた薬もあるにはあるが、貴重だし滅多に手に入るものじゃない」
「これについては教会の司祭様も証言して下さいますし、ここにキャメロットの宮廷図書館長様が書いて下さった証明書もあります」
 シルヴィアが持っていた書簡を広げる。内容を読んで理解できるものは少ないだろう。
 けれどもただ、冒険者が言うだけよりも説得力が有る筈だ。村人達の間にも頷く者がいる。
「それを踏まえてまず証人だ」
 リルの言葉にシルヴィアに促された二人の村人が出てくる。新しい村の住人で、一度行方不明になっていた者達だ。
「彼らは一度石化されていたのを俺達の仲間が魔法で解いた。‥‥言ってくれるか? あんた達はモンスターに石化されたのか?」
「いいえ」「違う。モンスターの姿を見ることは無く、気がついたら石化していた」
「聞いてのとおりである! そもそもモンスター、コカトリスの石化というものはコカトリスが怒っている&嘴で突付かる事が必要、飼い主が指示して行わせるのは無理でありさらに人に姿を見せずに行うのは不可能なのである!」
 二人の証言を補足するようにマックスが述べる。
「さらに言えばあの二人が行方不明時エリシュナ殿とコカトリスは洞窟の中に隠れていた。そこのオルウェンが冒険者に依頼を出したのだから間違いないのである」
「エリシュナはともかくコカトリスが洞窟から出なかったという証拠は無いでしょう。姿を見なかったというのも死角から襲われたのかもしれませんよ」
 オルウェンはあまり焦った様子も無く、答える。
「ほお? オルウェン殿。何故洞窟の中からコカトリスが出てきたと言うのである? エリシュナ殿が連れていたコカトリスは一匹だけでは無いかもしれないでのある。四匹、五匹いやもっといたかもしれないのに何故?」
 瞬間、オルウェンの顔が曇ったのを冒険者は見逃さなかった。
 村人達から微かなざわめきが泡のように立つ。
 まだオルウェンへの信頼が完全に崩れた訳ではないが疑惑は湧き出てきたのだろう。
 オルウェンに負い目を持つ旧村人達は特にだ。
 そのざわめきの中、セレナが進み出た。背後に大切に抱いた白い布包みを持っている。
 メイ・ラーンが貸してくれた指輪と魔法に勇気を奮い立たせて村人達の前に立つ。
「皆さんが犯人だと思っているエリシュナさんは、元々孤児で村人の皆さんとは交流が薄かったと聞いています。でも、彼女は健康そうだった。ちゃんと食べていた。彼女の面倒をオルウェンさんが見ていたからです。それは、子供達などが目撃しています」
 人々の輪の中で子供達が頷いた。リルや絶狼、ティズに証言した子供達だ。
「孤児を心配するのが何かいけないことですか? 彼女には私は精一杯の事をしてあげたつもりです。けれども彼女は‥‥」
 オルウェンの反論を無視しセレナは抱えていたものの布を解き頭上に高く掲げた。
「皆様、見て下さい!」
 セレナの声に人々の目視が集まる。
 人々の間に驚きの声が広がった。悲鳴さえ聞こえる。
 それは石化された人間の頭部だったのだ。
「これは、最初に行方不明になられた方のご遺体です。ある人物の手紙に呼び出され行方不明となり石化されたまま驚愕と恐怖の表情を浮かべておられます。このご遺体の石化。もし、これが魔法で解かれたらそれはつまり、石化され殺された方々はコカトリスではなく魔法で石化されたということなのです」
 遺族に泣かれ罵倒さえされながらもマックスと説得し続けたセレナの思いのこれは、結晶。
 そして彼女の、冒険者の最大の賭けでもある。
「‥‥シェリルさん、お願いします」
 控えていたシェリルは前に進み出て祈りを捧げた。万が一に備え冒険者も身構える中、黒い光がシェリルの身体から紡ぎだされ石の頭を包む。そして次の瞬間
「キャアア!」
 悲鳴があがった。白い石の頭から血が滴り落ちたのだ。
 人々が気がついた時、石像の頭は人間の頭になっていた。
「ありがとうございます‥‥。貴方の無念は必ず」
 頭を抱きしめたセレナはリルと視線を合わせてからキッとオルウェンを睨む。
「見てのとおりです。殺された人々を石化したのはコカトリスではなく魔法です。そして‥‥彼女エリシュナを利用し彼女に罪を被せた悪い大人がいる。それはつまり貴方です!」
「呼び出された手紙もあるのである。これは貴殿の筆跡であろう」
 言葉と証拠で追い詰められてもまだ、オルウェンは優雅な微笑を浮かべていた。
「魔法で石化されたからと言ってそれが私がやったという証拠は‥‥」
 だがそれは直ぐに凍りつく。
「もう止めましょう。オルウェン‥‥」
「エスタ!」
 進み出たエスタがオルウェンにそう告げたからだ。
『知っていて黙っているのはジュディスさんを贄に捧げるも同義ではないでしょうか』
『こうしていても事態は良くはならんぞ。沈黙が本当に正しい事か考えろ』
 エスタは冒険者達の言葉を抱きしめて告白する。
「彼は私を石化しました。私が彼の計画を知っていたからです。彼は村人を怨み復讐を考えていました。村人を石にし人々に争いの種を撒き、ジュディスに信頼されて村をいずれは手に入れようと‥‥」
「黙れ!」
 オルウェンの表情がその瞬間一変した。
 振り上げ下ろした手が瞬間で呪文を紡ぐ。第一詠唱は防げなかった。
 石化魔法は庇えない。エスタの身体が足元から石化していく。
「エスタさん!」
 だが第二詠唱は冒険者がさせなかった。
 再び上げられた右手を
 シュン
 微かな音と共に放たれた矢が封じる。と同時肉薄したギリアムの剣がオルウェンの首元に迫った。
 フレイアの矢に苦痛の色を浮かべるオルウェンの0距離で、ギリアムは言い放つ。
「魔法の威力は物凄いのは確かだが、使う前後の隙がデカイ。だから俺みたいに壁役が必要なんだぜ」
「くそっ‥‥」
 腕から矢を引き抜く以外のことが出来ず歯噛みする。オルウェン。その表情の変化に
「本当に‥‥オルウェンさんが?」「俺達を騙していたのか?」
 人々はまたざわめきだした。
 このまま人々がまた暴れだすのでは? 先導者は?
 冒険者がジュディス達とエリシュナ、その石像を守ろうとした。
 その時だ。
 絶狼が石の中の蝶の動きと、絶っ太の唸り声。そしてフリードの動きに気付いたのは。
「危ない!」
「えっ?」
 フリードが飛びついたのはフレイアにだった。と、同時彼女を突き飛ばしたフリードの背中で黒い光が爆ぜた。
「うわあっ!」
 呆然とする冒険者。慌ておののく村人。
 オルウェンの監視をかねて少し離れた場所で警戒していたのが仇となった。
 村人も多くはフレイアをただの猟師だと思っていた後衛であった為、完全にノーマーク。
 だからさっきの狙撃に成功し、だから今の襲撃に気付かなかった。
 今、フレイアの指輪の蝶はこれ以上ないほど羽ばたいている。
 でも彼女は動けなかった。
「フリード!」
 彼女の眼前に、フリードの背に爪を立てるグリマルキンがいたからだ。
「戻れ」
 響く声にグリマルキンは翼を広げフリードの首筋の服を牙でかけたまま飛び上がった。
 主の下へと。
「アリオーシュ‥‥」
 冒険者の誰ともなく口にした。
 今回の事件の背後に多くの者が影を感じていた復讐と裏切りの悪魔が中空に立っていた。
「無様なものだ。だが、まだそいつには使い道がある。死なせるには惜しいのでな」
「しまった!」
 ギリアムは舌打ちした。フリードとフレイア。家族のような二人に気を取られ瞬間オルウェンから目を離した隙にオルウェンの姿が消えている。間合いを取り、土に潜ったのだろう周囲のどこにも見えない。
「フリードを離せ!」
 リルも冒険者も空を見つめ身構える。だが、それ以上の事はできなかった。
 矢も、ソニックブームもグリマルキンを射抜けば、フリードに当たる。
 フリードを狙われる事を警戒しなかった。
 それが冒険者唯一、渾身のミスだった。
「まだあの男の復讐は終わっていない。それが終わるときまで預からせて貰うぞ。多分、あの遺跡でまた戦うことになろう」
「遺跡に何があるっての! 何にも見つからなかったのに」
「フリードを傷付けてみろ。あの遺跡埋めてやる!」
 ティズとリルが怒鳴るが
「待て!!」
「フリード!!!」
 二人の悪魔は微笑み空に消える。
 冒険者の慟哭も、涙も知ろうとせず、知ることもなく。

○抱きしめられた少女‥‥そして
 少女が長い眠りから目覚めた時、最初に見たものは手を伸ばした先にいたリルの姿であり
「エリュ!」
 最初に聞いたのはリルの言葉だった。
「‥‥あ‥‥、私‥‥」
「もう、大丈夫だ。一人にはしない‥‥」
「あ‥‥ありがとう」
 少女はあの時、言う筈だった言葉を冒険者に送り、冒険者はあの時抱きしめる筈だった手で少女を抱きしめる。
 陰謀を暴き、少女の濡れ衣を晴らした。真犯人を見つけ村人の前で証明した。
 このぬくもりこそが冒険者が手に入れた勝利の証である。
 ‥‥だが、冒険者達はおそらく勝利であるとは誰も思っていないだろう。
 犯人に逃げられ、大事な仲間を奪われた。
 冒険者はまた、あの悪魔の手で踊らされてしまったのかもしれない。
「フリード‥‥」
 フレイアは手を強く、血が出るほど強く握り締めた。
「待っていておくれ。必ず助けてあげるから」
 少年が消えた空を見つめ、誓う彼女を冒険者は同じ思いで見つめていた。

「さて、少しは頭が冷えたか。オルウェン?」
 薄暗い洞窟の中で微笑む悪魔に、男は
「申し訳ありませんでした。まさか、あそこまで暴かれるとは。そしてエスタが裏切るとは‥‥」
 頭を下げる。
「まあ、あの女自体はどうでもいいんだが、おしおきは必要だな。それに君の最大の目標はあの娘だろう。私も、久々に冒険者と遊びたいところだし。どうだね? いいものが手に入ったし面白い趣向があるのだが」
 言いながら足元に横たわる少年を見つめる二人の笑顔は、文字通り悪魔のそれであった。