【少女と少年】企む男

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月27日〜04月01日

リプレイ公開日:2008年04月03日

●オープニング

 証拠はまだ何も無い。
 リシーブメモリーの読心はその時だけ、本人だけしか知りえないからだ。
 ただ、冒険者達は知っていた。
 今回の老男爵失踪事件。その犯人が男爵の甥であることを。
 それはある意味幸運であり、ある意味やっかいであると言えた。

 ハーキュリー男爵の孫娘アデーレの依頼を受け、失踪したと言う男爵の捜索を続けていた彼らはギルドに集まり
「男爵の甥であるデイトン氏は父である男爵の兄と二人暮らしをしていたようだ」
 互いが調べた情報、あるいは聞き込んだ話を付き合わせていた。
「貴族の長男なのに?」
「長男だから最初は貴族の称号を継ぐ筈だったようです。けれども放蕩が過ぎて財産を食いつぶしてしまったのだとか。父から勘当されて家を出された兄の跡を、弟である今の男爵が継いで没落寸前だった家をその見事な手腕で立て直したのだそうです」
「そう。そしてデイトンが父親の死後、実家を頼って戻ってきたのを男爵が家と仕事を与えて引き取ったということだ。なかなか有能でひょっとしたら跡継ぎになるかもと言う声もあったらしいが、孫娘が社交界デビュー直前だからそれはきっと無いんだろうな」
 男爵を悪く言う人間はおらず、仕事上でもトラブルも見つからなかった。
 怪しい人物は見つからず、仕事の終了後、娘の墓地へ行き、そこに迎えに来た馬車に乗り込んだのを最後にその消息はパッタリと途絶えている。
「キャメロットにいないとしたら男爵はどこへ‥‥」
 手の中の占い道具を握り締めた冒険者は囁くように呟く。
 領地か、別荘か、それとも‥‥。
「でも、不幸中の幸いかもしれないわ。犯人が身内と言うのならそう危険な目に合わされることもないでしょ?」
「いや、余計に悪いかもしれないのござる」
「そうですね」
「えっ?」
 真剣な顔と言葉の仲間に冒険者達の間に動揺が走る。
「どうして?」
「考えてもみるのでござる。もし、仮に自分の兄を捕らえて言う事を聞かせようとした。そしてなんとか言う事を聞かせた。‥‥その後、果たして素直に元の関係に戻れるであろうか?」
「‥‥確かに。もし、自分がそんな事をされたら‥‥例え一時的に言う事を聞かされたとしても、その後妹‥‥もとい自分を捕まえた相手を信じることなどできない」
「つまり、犯人はよっぽどの覚悟で男爵を捕らえたということ。目的を果たしてしまったら‥‥最悪‥‥」
「そんな事はさせないよ!」
 一際強く手を握り締めて告げた仲間に全員が同意して頷く。
「逆に言えば連れ去ったと言う事は目的があると言う事だからそれが叶うまでは無事だろう。それに孫娘を狙った理由も気になる‥‥」
 噂の主は、まだ冒険者の前に姿を現さず、確かな犯罪の証拠があるわけでもないから騎士団に通報もできない。
 だが少女からの男爵の捜索依頼はまだ継続されている。
 彼女を保護する男爵の友人も援助を申し出てくれた。
 ‥‥冒険者は捜索を続けられる。
「アデーレちゃんの為にも絶対に、おじいちゃんを助けてあげなきゃ。大事な人を失うことは凄く、悲しい事だから‥‥絶対に」
 震える手には決意と思いが握り締められていた。
 
 少年は、少女を見つめる。
 楽しげに少女はいつも笑ってみせるが、彼は知っている。
 少女が人に見せない所で心配して泣いている事を。
 気が多いと思われてもいいと、彼は思っていた。
 もう朧げになってしまった大事な人の面影。
 それをどこか感じさせる彼女を守りたいと。

 男は『自らの』屋敷を見つめ微笑む。
「やっと手に入れた。俺の屋敷を‥‥」
 家を追い出されボロボロになって生きて‥‥死んだ父。
 彼が本当は手に入れるべきだったもの。
 つまりはこれは自分が手に入れるべきものだったのだ。
 だが
「デイトン様。ご主人様はいつお戻りになるのでしょうか?」
「冒険者が聞き込みに来たのですが‥‥何か危険な目に合われているのでは? デイトン様は何かご存知なのですか?」
 やってきた使用人達はそう言う。まだ彼を主とは認めていないのだ。
「もうすぐ、もうすぐだ。印章と指輪を取り戻せれば‥‥」
 この家も領地も財産も自分のもの。
 誰にも渡さない。自分と同じ境遇の筈なのに幸せすぎるあの娘にも‥‥絶対に。

 少女は空を見上げ祈る。
「ポルティス、ボクティス‥‥。お母様、お爺様をお守り下さい。ポルティス、ボクティス‥‥」
 最近覚えたばかりのおまじないを何度も何度も繰り返して。
 なんども呟くと、何故か気持ちが落ち着いた。
『‥‥ア。元気と結城が出るおまじないよ』
 大切な何かを思いだせるような‥‥そんな気がしていた。

●今回の参加者

 ea4267 ショコラ・フォンス(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6769 叶 朔夜(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb7784 黒宍 蝶鹿(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0205 アン・シュヴァリエ(28歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec3769 アネカ・グラムランド(25歳・♀・神聖騎士・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

○それは贈り物
 人気のない墓地の前で冒険者は立っていた。
「アデーレちゃん、凄く良い子ですよ。守ってあげて下さいね。ステラマリスお母さん」
 祈りを捧げるアネカ・グラムランド(ec3769)を仲間は邪魔しないように、と見つめている。
「んじゃ、ボクは先に帰るね。なんかあったら後で教えて〜」
 アネカが言って走り去っていくと墓地はとたんに静かになった。
「‥‥ステラマリス。僕は『アリス』だと勘違いしていましたよ。アデーレさんのお母さんの名前」
 ショコラ・フォンス(ea4267)は
「このブローチにも特に仕掛けはなかったし、やはり考えすぎですね」
 苦笑しながら頭を掻く。だが共に立つワケギ・ハルハラ(ea9957)は手の中のブローチと墓石を見つめ小さく呟いた。
「勘違いでも考えすぎでも、無いかもしれませんよ」
「えっ? どういうことです?」
 瞬きするショコラに言葉では答えずワケギはブローチをそっとある所に納めた。
「なにを‥‥って、えっ?」
「なるほどこういうことだったのですね? ‥‥男爵、ステラさん‥‥」
 ワケギは手を静かに目の前で合わせ静かに祈りを捧げた。
『ブローチの本当の意味』を知ったから。

 晴れた庭。
「あのブローチは確か誕生日のプレゼント、だったわよね。アデーレちゃん? 本当に兄様達に預けちゃっていいの? 大事なものでしょ?」
 すっかり気安くなった依頼人の少女アデーレに日向ぼっこをしながらチョコ・フォンス(ea5866)は問う。
「冒険者の皆さんなら壊したり無くしたりはないでしょうから。お爺様はお母様が私を守ってくれるから大事にしろって言ってましたけど」
「お母さん? 宝石の肖像はアデーレちゃんじゃなかったの? そんな話聞いたよ、そっくりだし」
「私とアリスお母様、よく似てるんですって。だからお爺様、このブローチを作るのにお母様の子供の頃の絵を細工師のところに持っていったって聞きました。だからあのブローチの彫刻は、私であり、お母様なんです」
「‥‥‥」
「どうしたんですか?」
 腕を組み気付かず唸ったチョコを心配するようにアデーレは覗きこむ。
「あ、ゴメン。それより聞きたいことが‥‥って、え?」
 心配ない、と手を振りかけてチョコは硬直する。
 突然走ってきた『もの』に。
「止めろよ! 風呂なんか入らなくったって人間は死にやしない! って」
「何を言ってるんですか? ここは貴族のお屋敷なんですよ。それに君、何年身体洗ってないんです?」
 走ってきたのは服をほとんど剥かれた少年フィルスとアン・シュヴァリエ(ec0205)
「すぐ終わります! お湯も用意してあげましたから!」
「やだ! 気持ち悪‥‥って、わっ!」
 持ち前の身軽さで逃亡を図ろうとしたフィルスであったが後ろを気にしていた分、やや注意散漫。丁度やってきた人物と正面衝突することになる。
「何してんの? フィルス君」
「放してくれよ。アネカ姉ちゃん!」
「丁度よかった。アネカさん。その子、連れて来て下さい」
「なんだか良くわかんないけど了解っと」
「は、放せ〜」
「僕に負けるようじゃまだまだ。後で鍛えてあげるよ」
 アネカとアンに連行される少年を見て、残された娘二人は微かに頬を赤らめていた。

○それぞれの思い
「むーっ!」
「何をいつまで膨れっ面しているんです。ほら、格好よくなったよ」
 ぽん、と肩を叩かれても。
「ホント。見違えたよ」
「なかなかハンサムじゃないですか」
 冒険者に褒められても、まだ少年の機嫌は治まってはいないようだ。
「風呂、嫌いだって言ったのに!」
「でもこう、ぐっと大人っぽくなったようですよ」
 チョコは笑顔で褒める。それはアネカも同感だった。
 去年出会った時は10歳前後に見えたのに、今は男爵に服を借りたことをさし引いても大人に見える。
 まあ葉霧幻蔵(ea5683)が以前化けた身長180cmのフィルスには及ばないが。
「俺、16だもん」
「えっ? ボクより一つ下なだけ?」
「直ぐにもっと大きくなってやるからな!」
 アネカの言葉に身長140cmの少年は悔しげに俯く。
「そんなに急いで大きくならなくていいわ。‥‥頑張り過ぎだから君達」
 ポン。
 母親のようにフィルスの頭を叩いたアンの言葉に、フィルスはもう何も反論はしない。
「静かになったところで、アデーレちゃん。さっきの質問、覚えてる?」
「貴族としてデビューすること、ですか?」
 頷くチョコにアデーレは少し考えて、口の中で勇気の出る呪文を唱えて、答えた。
「私は牧場や、お爺様が大事ですからできる限りの事でお爺様を助けたいんです。私に何ができるかは解らないし貴族に相応しいか解りませんけど‥」
「上に立つ者には責任が伴う。地位や財産というのはその責任を果たして初めて使う権利があるものだよ」
「グラフム男爵?」
 気がつけば後ろには優しい目のグラフム男爵が立っていた。
「それを自覚しておればお前はその地位を受ける資格はあろうよ。アデールフィア」
 新作着ぐるみさえ着ていなければもっと格好良かったであろうが優しい祖父のような目で褒められて、アデーレは嬉しそうである。
 フィルスは何かを決意した顔で沈黙している。
「アデーレちゃん。男爵、フィルスくんも。知ってて欲しい事があるんだ。聞いてくれる?」
 二人の会話と今までの事、全てを飲み込んだ上でアネカはチョコやアンと目線を合わせ、告げた。
 証拠のない真実を。 

○『彼ら』の居場所
 叶朔夜(ea6769)は仲間を待ちながらある事を考えていた。
「お待たせしてしまったでござる」
 自分を呼ぶ声に気づくまで。
「すまない。で、そちらはどうだった?」
 互いに情報収集に動いていた忍者二人。
 今回の依頼最大の目的は行方不明になっているハーキュリー男爵と家令の捜索。
 二人は特にその為の情報収集に当たっていた。
「どうやら、殆どの住人達はハーキュリー男爵が行方不明になっていると気付いていないようでござる。多分デイトンが緘口令をしいているのでござるな」
 幻蔵は出会った館の使用人達の顔を思い出す。
 買出しに出たメイドの少女は主の行方不明を知らず、訪ねた館で出迎えた家令見習いはそれどころではない、と訪ねた幻蔵を追い出した。
 まあ‥‥どちらも外見は『幻蔵』では無かったのだが。
『男爵様はお出かけですのよ。グラフム様にはよろしくお伝え下さいな。お嬢さん』
『シスター。今それどころじゃないのです。またの機会に』
「ただ気になる男がいたでござる。どうも怪しい雰囲気の男がデイトン氏と話していて、話しかけたらとんでもない形相で追い立てられて‥‥」
「怪しい男か‥‥。デイトンとその父親について調べてみたのだがどうも奴ら裏の方に関わっていたらしいな」
 幻蔵と朔夜はお互いの情報を交換し合った。
「つまり‥‥父親は家を追い出された後、酒と賭け事に身を持ち崩したのでござるな。そしてデイトンはその裏の方から成り上がってきた人物である、と?」
「おそらく。そして復讐か、借金清算か、その両方かでハーキュリー男爵の財産を狙っている。仕事ぶりが真面目であったのは信用を得る為、だろう。となると奴らの居場所は‥‥」
「お二人とも。デイトン氏が出てきます!」   
 アンと一緒に館を出た黒宍蝶鹿(eb7784)が小さな声を上げる。
 見れば慌て顔のデイトンと男が馬車に乗り込もうとしている所だ。
 あれは旅の様子?
「どこに行く気だ?」
「私が男爵に馬を見せてもらい、買う約束をしたと話したのです。彼は数日中に居場所に連絡を取ると言って‥‥」
「つまり、彼らの行く先に男爵がいるかもと?」
 アンは頷く。
「彼らの頭に微かにセイラムの名が浮かんでいました」
「親子は領地を追われてからそちらに向かったとの話があります」
 お気をつけて。蝶鹿は手持ちの保存食を差し出し告げる。
 魔法の靴を持つ二人は顔を見合わせ頷くと、その足で馬車の後を追ったのだった。

○真実の名前
「これは?」
 アネカはワケギとショコラが持ち帰った物に驚き、瞬きをした。
 財産目録と印章。そしていくつかの見ただけで重要と思える書類。
「ステラマリスさんのお墓にあったものです。ブローチが鍵となって開く隠し箱があったのです」
 ショコラは静かに言う。
 ブローチそのものに特別な仕掛けは無かった。だがブローチをくぼみにはめ込み回す事で箱の鍵は開いたのだ。
 中身以上にフレームが重要。つまり取り外し式のドアの取っ手のようなものだ
「男爵はこれを隠していたから、重要な契約の前後には必ずステラマリスさんのお墓に行ったのでしょう」
「犯人の目的もおそらくこれかと。これが全部揃えば男爵家の財産自由にできそうですので」
「なら早く、アデーレちゃんに見せて‥‥」
「待って下さい!」
 動き出そうとするアネカをワケギは止めた。
 何故、という顔のアネカ。
 アデーレにはもう誰が自分を狙っているか話してある。これがあれば事態は大きく動くのに。
「これはこちらの重大な切り札になります。慎重に。それに‥‥もう一つ気になるものを見つけたのですよ」
 言いながら彼は古い手紙を懐から差し出す。
「隠し箱の中に一緒に入っていたものです。中身は見ていません。でもこの書簡を封じる蝋に小さくこう刻まれているのです。アリスと‥‥」
「アリスってまさか?」
「アデーレちゃんのお母さんだよね。男爵?」
「チョコ?」
 自分達の帰宅を知りながら用事があると場を離れた妹の意図を兄はこの時理解した。
「そうじゃ。ステラマリス。愛称アリス。駆け落ちをし家を勘当されたアデールフィアの母親じゃ」
「駆け落ち‥‥」
 そうして男爵は娘と父親のすれ違いが産んだ悲しい物語を話してくれたのだった。

「見つけたでござる」
「ああ‥‥だが、今は踏み込めないな」
 忍者二人は顔を見合わせ囁きあった。
 古い廃墟の街の家の中。
 厳重な監視の中に冒険者は、目的の人物を見つけた。
 家令バクスターと、ハーキュリー男爵を。