【銀の乙女】 晴れた秋の日に‥ 

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月29日〜11月03日

リプレイ公開日:2004年11月01日

●オープニング

 馬車から弾く銀の光。音楽的な声と笑顔と、小さな鈴の音が王城の門を潜った。
「へえ、ここがキャメロット‥賑やかな街ね」
 横に座った闇色の瞳は楽しそうに街を、愛しそうに銀の光を見つめて笑う。
「僕も来るの始めてだよ。‥ねえ、ベル上手く行くといいね」
「? 何を企んでるんだ? お前ら」
 問いかける大人の声に、少年と少女の二つの声は重なってこう答えた。
「「ないしょ!」」 

 先日、ある盗賊団の一味が冒険者達によって捕縛された。
 大仕事を終えた冒険者達が、そろそろ新しい冒険の準備を、と依頼掲示板を覗きに来た時、来い来い、とギルドの係員が手招きをするのが目に留まった。
「なんだい? 俺らに用事かい?」
「いや、用事があるのは俺じゃなくてな。おーい、あんた達捜していた冒険者ってこいつらかい?」
 ひょこっ。
 太い声に呼ばれて、ドアの向こうから小さな鈴の音と一緒に覗いた顔が二つ。
「あ、そうです。ありがとうございます」
 嬉しそうに駆け寄ってきた銀の少女と、闇色の髪の少年に冒険者達の顔も笑顔になった。
「ベル! フリード!」
「お久しぶりです。っていうのにはまだ早いですね。あれからまだ数日しか経ってないし‥」
 小さく舌を出して微笑むベルの横でフリードが礼儀正しく頭を下げた。
「その節は、大変お世話になりました」
「そうそう、本当にありがとうございました」
 ベルも頭を下げて、心からの笑顔を見せる。
「いや、いいんだって。でも一体どうしたんだい?」
 馴染みの冒険者に、はいと返事をすると二人はここに来た理由を説明した。
「もうすぐ冬ですから、うちの村の毛織物をキャメロットに売りに来たんです」
「僕達の村は羊飼いの村なので、農業と毛織物が大事な収入源なんですよ。で、その手伝いに連れて来てもらったんです。10日くらいなものですけど」
 手伝いはある意味口実で、頑張った二人へのご褒美の意味合いが大きいことはなんとなく解る。
「良かったですね。楽しんでいってください」
 微笑む冒険者に、二人は顔を見合わせ‥声を潜めた。
「実は‥ここにいる間にやりたいことがあって、それで皆さんに相談に来たんです」
「相談にのっていただけませんか? 僕達この街に知り合い、他にいなくて‥」
「街外れの叔父さんは?」
「そこに泊めてもらってますけど‥できれば村の皆には内緒にしたいんですよ」
「村の皆に‥内緒? 一体何をするつもりなんだ。悪いことは協力できんぞ」
 腕組みをして二人を見つめた大人の目線を、子供達の目はちゃんと受け止めた。逃げなかった。真剣な話のようだ。と背筋を正した途端。それは崩れることとなる。
「あの‥お金を儲ける方法って無いですか?」
 冒険者達の顔が は? とクエスチョンマークを浮かべる。金儲け?
「あ、遊びに使うんじゃないんです。実は‥」
 フリードの説明に冒険者達は、素直に納得した。
「この間の病気で、うちの村の今年の大麦、小麦の収穫は全滅になりました。しかも、蓄えてあったお金の殆ど全ても無くなりました」
「お金なんかより、命の方が大事だからそれはいいんですけど‥これから冬。村はいろいろ大変になりそうなんです」
「この冬を越すのがぎりぎり、何かトラブルがあったら、大事な来年の毛を取るための羊まで食べなきゃならなくなるかも‥って、大人達が話しているのを聞いて‥」
「‥でも、父さん達は心配するなって言うんです。大丈夫だからって。でも‥」
 俯く二人の顔には、村のために何かがしたい、と真剣に書いてあった。
「だから、少しでも村のためにお金を稼いで帰りたいんです。何か、いいアイデアはありませんか?」
「仕事ですか‥でも、まだ二人ともお若いですし‥何か得意なことはありますか?」
 聞かれて少女はこう答える。
「えっと、踊りは好きです。あとは‥馬に乗るのが得意です。狭い山道も乗れるし、ちょっと曲乗りくらいのことならできるかも‥」
 少年の答えはこうだ。
「オカリナを吹くのはできます。でも、他に‥あ、弓矢は少し自慢できるかも。将来羊を守る狩人になりたいんで‥」

 二人と冒険者達の話を聞いていた係員が、ぽんと手を叩いた。
「けなげだねえ。そうだ! 商人ギルドの知り合いから聞いた話だが、教会前の広場に空きが入るらしいんだ。どうやら5日後かららしい。‥‥よし、俺が頼み込んでみるか! そこで大道芸とか芝居とかやってみたらどうだ?」
「本当ですか?」
「やってみようか? そこで!」
 すっかりやる気になっている子供二人を見つめ、冒険者達は小さく考える。
 この街で右も左も解らない子供達を、ここで放り出すのも心配だ。大道芸もそんなに簡単なものではないし‥何より‥考えていたところを、係員がちょんちょん、冒険者達の肩を叩く。
「感心な話じゃねえか? おい、あんた達、暇ならこいつらの保護者やってやったらどうだ? こいつらをこのまま放って置く訳にゃあいかねえだろ?」
「「もし、できたら‥お願いします!! 手伝って頂けませんか? 頑張りますから!」」
 真剣に見つめる蒼と、黒の瞳に、真っ直ぐな眼差しに冒険者達は、苦笑しながら立ち上がり‥頷いた。

●今回の参加者

 ea0668 アリシア・ハウゼン(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1325 速水 才蔵(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2182 レイン・シルフィス(22歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2939 アルノール・フォルモードレ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4965 李 彩鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5529 レティシア・プラム(21歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6033 緲 殺(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7651 クリスチーナ・スチール(36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 彼女は人目を引いた。
 銀を掘り出したような美しい髪、女神か妖精のような唇が笑い声を紡ぐ。
 深い青の瞳は冷たくはなく、秋なのに春色の空を思わせた。
 髪の白い鈴はリンと鳴り音楽的な声に爽やかな印象を被る。
「フリード。皆さんに協力してもらえて良かったわね」
「ああ、ベル、頑張ろうね」
 多くの人が彼女を見つめた。
 すれ違い、足を止め、街外れに二人が消えるまで姿を追い続けた、ある男のように‥

「この辺ですわね‥。教会に来た方が足を止めて下さるかもしれませんわ」
 教会の前の広場をアリシア・ハウゼン(ea0668)はくるりと回った。他の芸人達に軽く挨拶をする。
 話は聞いていると彼らは笑顔で頷いた。
「向こうの準備は如何でしょう‥? どうなされました?」
「はぁ‥今回ばかりは自分の育ちが恨めしいよ。っとゴメン、心配かけた?」
 付き添いの緲殺(ea6033)の顔をアリシアは覗き込む。慌てて殺は手を降る。ただ楽しい場で自分が役に立てそうにないのが残念に思えたのだ。
 アリシアは何も聞かなかった 軽く流すと帰りましょう、そう笑いかけ手を差し伸べた。

 朝一番早いのは‥今も昔もパン屋の朝。
 二の腕まで腕まくり。思いっきり粉に力を押し込んでいく。アルノール・フォルモードレ(ea2939)の細い腕がパンの生地に吸い込まれそうだ。
「こ、腰が痛くなりそうです」
「力を込めて‥お料理とかしたことは無いんですか?」
「実はあまり‥薬の調合以外で料理したことも‥」
「僕も無いですね。楽器の演奏なら自信があるのですが‥」
 粉を混ぜるレイン・シルフィス(ea2182)の腕も細い。
 農村育ちの子供達は苦笑した。
「頑張ってください。覚えておくといいですよ」
 アルが知り合いから借りた店の、焼き釜の火を見て手際よくフリードはパンを並べ入れていく。
「今日は胡桃入りパンにしましょうね」
 森で探してきたとアクテ・シュラウヴェル(ea4137)がくれた木の実の殻をパキッ、ギリアム・バルセイド(ea3245)は片手で砕くと欠片を取る。
「普段が『用心棒』なもんでな‥、出来るだけは手伝うがあまり期待せんでくれよ」
 裏方に徹すると決めたギリアムと違って妙に元気がいいのが速水才蔵(ea1325)店の庭を元気に跳びはねる。
「大道芸とあれば軽業師の出番。ベル殿のためなら例え火の中水の中‥」
「よっと、おっと‥はっ!」 
 新しく協力を申し出てくれたクリスチーナ・スチール(ea7651)もジャグリングの練習に余念が無い。
「出来ましたよ。なかなか良い出来♪」
 焼きあがったパンの香ばしい匂いが鼻腔を擽る。
「じゃあそろそろ準備を‥」
「あ、ベル様、ちょっといいでしょうか?」
 服についた粉汚れを払ったベルは李彩鳳(ea4965)の招きにはい、と応じた。
「何でしょう?」
「この間の件もありますし、その鈴を私に預けていただけませんか?」
「これを、ですか‥」
 少し悩んだ顔をしたが、ベルはリボンを外すと彩鳳に素直に手渡した。
「よろしくお願いします。ただ踊りのときは返して貰うかも‥」
「解りました」
 彩鳳は腕の中でしっかりと小さな宝を握り締めた。

「さあ、麗しの舞姫、世紀の歌い手、そして魔術や技の楽しき一時を、皆様へ」
 美しいエルフの女性の呼び込みに教会や買い物帰りの者達は軽い気持ちで足を止めた。
 小さな人だかりが出来始めたその先ではアリシアが笑顔で皆の前でお辞儀をしている。
「私は水の精霊と共に道を歩む者‥その御業を少し披露させていただきます」
 呪文の詠唱がまるで歌うように響き‥彼女の背後に水が集まりだす。爪の先ほどの水球が段々大きくなって‥一気にアリシアの指す方へと飛んでいった。
 指の先にある壷にまるで命じられたかのように水は吸い込まれた。パリン。壷は割れるが溢れる水が弾ける様子は美しい。
 拍手の中、次に登場したのは黒衣の忍者。
「ユニゾンの妙技をとくとご覧あれ‥はっ!」
 印を組み彼が念じるごとに、横に同じ姿の分身が現れだす。
「おーっ!」
 歓声は出現した3つの分身が軽業を始めた事でさらに大きくなる。
 バク転、側転、一糸も乱れぬ同じ動きだ。鏡を見ているようでさえある。
 最後に4人が同時に大きな宙返りを決めたとき、嵐のような拍手が沸きあがった。このまま終わればカッコよかったのだが‥
 お辞儀した先に美少女発見。
「そなた、ワシをお兄ちゃんと‥」
「はいはい、出番終わり‥お疲れ様」
 耳を引っ張っられる才蔵と引っ張る殺と、引っ張られる仕草でついていく分身たちの様子に大爆笑の渦が生まれた。
 笑いが消えると彼らの目は何やら不思議な仕草をするクリスチーナに行き当たる。
 彼女は壁が有るかの様な動きをしながら現れ、舞台中央で壁にぶつかった仕草をすると、置いてあるボールを拾ってニッコリと微笑んだ。
「ここに有る3っつのボール、見事受け取ります」
 くるくる‥3つのボールが交互に回転し回り始める。
 回転に合わせて拍手も盛り上がっていく。そして‥
「ハッ!」
 声と共に一際高く上げられたボールを彼女は落とすことなく受け止めた。
「お見事!」
 客席からの声に彼女の頬にも笑みが浮かぶ。礼儀正しく下げられた彼女の頭には拍手の雨が降り注いだ。

 広場は歓声と拍手、楽しげな笑顔で溢れている。
「うむ、平和な眺めじゃのう? どうじゃお主達。どう思う」
 少し離れた橋の上から見つめるレティシア・プラム(ea5529)は軽く後ろを見て其処に立つ大人達に笑いかけた。
「ベル‥フリード‥。冒険者の皆さんまで‥」
 子供達がパンを売り、人々の前で芸をする姿を始めて見た。知らなかったのだ。それをレティシアに教えられるまで。
「いい子じゃのお。あの子らは」
 レティシアの優しい言葉に彼らは頷く。頷くしか出来なかった。
「まあ、あんなことで稼げる金額はたかが知れておる。後はお主たち次第じゃな」
 これを一過性のものとするかそれとも‥‥
 口に出さない彼女の言葉に、彼らは何かを考えていたようだった。
「おっと、なにやら始まる。よく見ておくが良かろう。うむ‥命がけで守ったアヤツも草葉の陰で喜んでいるであろう」
 彼女は橋の欄干に首を乗せ少女達に目を向けて微笑んだ。

「結構売れ‥どうしたんです?」
 パン代の入った袋を握り締めたベルは周囲を鋭い目で見つめるギリアムに小首をかしげて問いかけた。
「いや‥ほら、最後の出し物だ。キミの出番だろう。しっかりやってこいよ」
「はい!」
 にこやかに笑ってベルが去ったのを見て、彩鳳は軽くギリアムの肩を突いた。お金を預かった彼の様子に気付いたのだ。
「やっぱり感じますか? 私もなんとなく、嫌な感じがしたんですが‥」
「ああ、不思議な視線だ‥やはりベルか?」
「彩鳳さ〜ん」
「あ、呼んでる。私も出番なので‥ちょっと行ってきますね。なんですか?」
「踊りの間だけでも‥鈴を‥」
「‥大丈夫かしら‥でも‥」
 仲間を見送るギリアムの不安な思いは長いこと消えはしなかった。

 シャラン!
 澄んだ鈴の音が広場に響き渡る。人々の声も動きも止まる。ベルの周囲にフリードと彩鳳がオカリナを持って座っていた。
 一歩前に立つレインはパンを売っていた時のスカートのまま、彼も美少女に見えたかもしれない。
 ベルの右手に流れる長いリボンが手首の鈴と共に揺れるのを合図にレインの竪琴と古謡が静かに音を紡いでいった。
 合わせて踊るベルの踊りはゆっくり人々の心を盛り上げていく。
 深い技や稀有なテクニックは無いが、何故か胸が熱くなる。
 そんな踊りと歌に、人々は惹きつけられていた。
 やがて曲は楽しい民謡に変わる。誰もが知っている牧羊歌でありダンスだ。
 賑やかで陽気な歌声と踊りは、やがて人々を巻き込んで、賑やかな祭りのような一時を紡いでいった。
 
 テーブルの上に並べられた硬貨は金貨で20枚程。
 大道芸の儲けと、パン、それにアクテの花や木の実の売り上げだ。
 冒険者への礼(いらないと言う者もいたが)パン用の粉や場所代の実費を引いた純利益。決して少なくは無いが‥多いとも言えない。
「まあ、こんなもんだろうね。素人の即興作戦にしては十分だと思うよ」
 はい、答えたベルは小さく呟く。
「少しは、皆の役に立つでしょうか‥」
「十分だ」
「父さん!」
「おじさん!」
 ベルとフリードは慌てて後ろを向いた。そこには買い出しを指揮していたベルの父と‥村人が立っている。
「心配かけてすまなかったな。不甲斐ない私達を許してくれ」
 二人の子供達の肩を強く抱きしめると、彼は笑った。
「愚痴る前にできる限りのことをするのが先だな。教えられたよ。皆で考えよう」
「大変だと思うけど頑張ってね、ボクで良ければ手伝えることなら何でも手伝うから‥役に立たないかもしれないけど」
 殺は心からの気持ちでそう言った。一片の嘘も無い。それは皆、同じ気持ちだったろう。

「本当にいいんですか?」
 荷馬車の横に座るベルの問いに、はいとレインは明るく笑う。
「気にしなくていいですよ。僕達がついて行きたいだけですから。せめて途中まででもね」
「ほんの気まぐれからのサービスだ。気にする必要は無いぞ」
 ギリアムの言葉にアルも殺も頷いた。
「私もぜひ」
 馬に乗って歩くクリスチーナも微笑む。大好きな冒険者達との旅にベルも髪に揺れる鈴も嬉しそうだ。
「フリードさん、ちょっと良いでしょうか?」
 そう彩鳳に呼ばれフリードは彼女と一番後ろを歩いている。
「何ですか?」
「ベル様の事をどう思っておられますの?」
 単刀直入な問いに、真っ赤になった顔がこれも単刀直入に答えを返した。
「お好き‥なのですね」
 言葉も無く俯く彼に彩鳳が小さく呟く。
「力になってあげてくださいね。近い将来大変な困難が訪れるであろう彼女を」
「どういう意味です?」
 彼女は答えなかった。
 確たる理由が彼女にもある訳ではない。
 ただ、不安だったのだ。人ごみから感じたあの視線が生み出す未来がどうなるのか‥
 それをまだ彼女は他の誰にも告げることはせず、先に輝く少女の明るい笑顔を眩しげに見つめていた。
 
 キャメロットの門から冒険者を見送る影がある。
「間違いないのか?」
「あの姿‥奥方様に瓜二つだぞ」
「それに、あの鈴‥報告せねば‥」

 貴族の館の一室で子供が椅子に座る婦人に声をかけた。
「お母様、具合はいかが?」
 彼女は微笑んで声を返す。
「ありがとう。ベル。私の可愛い娘‥」

●ピンナップ

アリシア・ハウゼン(ea0668


PCツインピンナップ
Illusted by 海野 希