【銀の乙女】嘆きの向こうの真実

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月08日〜11月18日

リプレイ公開日:2004年11月15日

●オープニング

楽しい時は、何故長くは続かないのだろうか?
 ずっとこのままでいたいと願っても、運命はそれを許さない。
 時の流れは過酷である。

 村人達を送り戻ってきた冒険者達は戻ってきた冒険者ギルドで驚くべき事を耳にする。
「何? ベルを捜している奴らがいる?」
 ああ、頷いたギルドの係員は一枚の紙を冒険者達の前に差し出した。
「これを見てもらえるか?」
 銀の髪、深く蒼い瞳。神話の彫刻を掘り出したような美しい女性の肖像‥
「これは‥ベル?」
「似ているだろう? だが違うらしい。ある貴族の婦人だそうだ。あんたらがあの子達を送りに行ってすぐのことだ。ある伯爵家の執事と名乗る男がこの絵を持ってやってきた」
 彼はその時の様子を思い出しながらゆっくりと語り始めた。

「この絵にとてもよく似た少女がここに出入りしていると言う話を聞きました。その子にぜひ合わせて頂きたい」
 上等なお仕着せの服を来た一人の男性は、ギルドの係員にそう言って一枚の肖像画を見せた。
 貴重な紙に描かれていたその絵と似た少女を彼はよく知っている。よーく知っている。
「確かに知っていますが‥今はここにはいません。つい先日キャメロットを後にした所です。一体彼女に何の用ですか?」
 その男は無頼のものではない。ちゃんとした礼儀をわきまえていた。質問が尤もだということを認めたうえで‥それはここでは言えないと、答えたのだった。
「我が主家の名誉と秘密に関わること。簡単に口にすることは許されてはおらぬ。そして‥この方はもしかしたら我々が長い間探してきた方かもしれない。彼女か彼女を知る冒険者が戻ったら、知らせて欲しい」
 
 そう言って彼はこの絵と連絡先を残して戻っていった。
「絵の裏に住所が書いてあるだろ。そこは正真正銘の伯爵家だ。地方に村を所領し普段はキャメロットの館に住んでいて、冬にかけては暖かい領地で過ごすんだとよ。家族は夫妻と跡取りの娘が一人。今は全員まだキャメロットにいるはずだ。でも伯爵家が捜す‥やっぱりあの子只者じゃなかったようだな」
 冒険者達は答えない。簡単には答えてはいけない言葉が、思いがいくつも心の中を渦巻いていた。
「とにかく今、あの子達はいない。俺は言わなかったが、あの人は相当真剣な目をしてたから連絡が無かったら自力で探し出すかも知れんぜ。一度話しに行ったほうがいいと思うぞ」
 ギルドの報告書を探す、聞き込みをする、あの子の親戚の話を聞く。彼らが隠しても探る方法はいくつもあるのだ。ましてや先日あれだけ派手にキャメロットで動いたのだから‥
「今のままで、あの子は幸せだろう。だが‥な」
 口を濁しはしたが、言わんとしていることは冒険者達にも解る。このまま逃げ続けるわけにもいかないのだ‥
「解りました。行ってみましょう‥」
 彼らが立ち上がりかけたとき、そうだと係員は思い出したように手を打った。
「それから、もう一つ。俺は知らなかったんだが知り合いの冒険者がな、この話をしにきた執事をつけて、その後あんたらを追った奴らがいたと言ってたぜ。なんか、真っ当な感じのしないへんな男達が」 
 ダン! 椅子が倒れテーブルが揺らいだ。冒険者達の顔が青ざめる。
「何でそっちを先に言わないんだ! 盗賊の残党とか、ベルに危害を加える奴らかもしれないのに!」
 怒っても仕方が無い。解っていても‥彼らは唇を噛んだ。
 やるべきことはいくつもあり、やらなくてはならないこともたくさんある。
 でも、何よりも‥しなくてはならないことがあった。
「約束したんだ。あの子たちと‥」
『ボクで良ければ手伝えることなら何でも手伝うから‥』
 彼らは駆け出した。

 木陰から様子を伺う男たちの数は、そう多くは無い。
 囁きあいながら彼らは言葉を交わす。
「あの村に娘がいるんだな」
「まだ殺すなよ。入れ替えるか、操るか。それとも脅すか‥大事な切り札だからな」
「ああ、解っている。他の奴らはどうする? やっちまうか?」
「もう少し待て。指示を待ってからだ‥」

 馬の嘶きが‥そして悲鳴が村に響くのは‥もうすぐかもしれない。

●今回の参加者

 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0668 アリシア・ハウゼン(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2182 レイン・シルフィス(22歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2708 レジーナ・フォースター(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2939 アルノール・フォルモードレ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4965 李 彩鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6033 緲 殺(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)

●サポート参加者

レティシア・プラム(ea5529

●リプレイ本文

 一緒に歌い、踊ったあの日。楽しかった日々の唯一の影。ギリアム・バルセイド(ea3245)は苦々しく呟いた。
「なんてこった‥、あの時感じた視線はこの事だったのか」
「悪い予感が当たりましたわね」
 気付いていたのに、気付けなかった。李彩鳳(ea4965)の心中も穏やかではない。
 思い出すのは子供達の輝く笑顔。そして‥前向きな心。
「約束したんだよ、ボクはなんでもするって‥だから絶対に守るんだ、自分に代えても」
 握り締めた拳から血がにじみ出る。
「ダメですよ。殺さん!」
 緲殺(ea6033)の手の傷に気付いたレイン・シルフィス(ea2182)は慌てて手を取り傷を見た。
「そうですよ。しっかりしてください。私たちが揺れている暇は無いんですから。とにかく、急いで村に行きましょう。ベルさんの確保と保護が最優先です」
 レジーナ・フォースター(ea2708)はもう出かける準備を始めている。
「私の馬は使える方にお貸しします」
「では、俺が借りよう。俺は戦士。前線でこそ戦う必要があるだろうからな」
 新しい仲間レインフォルス・フォルナード(ea7641)の言葉にアクテ・シュラウヴェル(ea4137)は躊躇うことなく頷いた。
 アクテの所有する二頭の駿馬。もう一頭は彩鳳が借りることにした。
「私も行くわ‥私‥? 水野伊堵(ea0370)職業は‥『暴力のプロ』よ、あはは!!」
 ふらり現れ協力を申し出た女性の引きつった笑みに一瞬慄いた者もいた。職業は定かではないし不安もあるが‥時間が無い。それに瞳の奥に見える何かは信頼できる。反対するものは無かった。
「私は‥同行できません。誰かが‥向こうにも行った方がいいと思うのです」
 アリシア・ハウゼン(ea0668)の真剣な眼差しに、暫く考えていたアルノール・フォルモードレ(ea2939)は頷き、彼女に寄り添う。
「僕も残ります。彼女を一人で行かせるわけにも‥ね。皆、村とベルを頼みましたよ」
「ああ、任せておけ。‥アル。代りに伝えてくれ。前に村に行った時に聞いた『私はこの村のベルなんです』という彼女の覚悟を」
「解りました」
 顔を見合わせ頷きあうと彼らはキャメロットの門を走り抜けた。

 向こうの丘を越えれば村まではあと少し‥。
「もう少しだから頑張ってね‥」
 レジーナは馬の首をポポンと叩いて労う。彼女と彩鳳、そしてレインフォルスと伊堵。レティシア・プラム(ea5529)が駿馬で先行してなんとかここまでやってきた。
 早く‥気が急く。既に仲間達は先行している。
 馬腹を蹴り走り出したレジーナの横を、すれ違うように馬車が通って行く。
「えっ?」
 今の馬車の中に、感じたものはまさか‥?
「皆! 今の馬車に‥」
 言いかけたレジーナの声を、彩鳳の叫びにも似た声が遮った。
「レジーナさん! 村に煙です!」
「何ですって?!」
 村か‥それとも‥。逡巡している間は無い。
 彼らは馬首を‥返さなかった。真っ直ぐに村に向かう。村を見捨ててはおけない。
(「仲間が、きっと気付いてくれる。お願い、どうか無事でいて‥」)

 本邸では無いにしろ豪奢な館で待つ二人の前に 
「ギルドから、連絡があったのは貴方達ですか?」
 現れたのは黒い礼服を纏った中年の男性だった。
 はいと返事をして名乗った二人だが彼が、この館の主、貴族本人ではないことを感じアリシアとアルは軽い失望を感じずにはいられなかった。
 だが、それは男性も同じであったようで二人以外の人物がいないかを目で探し、いないことを確認し、深く‥嘆息し、形式に沿ったお辞儀をした。
「当人は‥おられないのですね。では‥お話しすることはありません。お引取りを‥」
「待ってください!」
 いきなりの対応にアリシアは立ち上がった。
「確かにそちらの捜している方かどうかは解りません。ですが心当たりがあり、連絡を求められここにやってきたのです。事情を聞かせて頂く事も叶わないのですか?」
「ギルドにも伝えてあることですが、事は我が主、そして主家の名誉と問題に関わること。失礼だが身元もはっきりとしない、服装も礼を欠く、信用できるとも解らぬ人物にいきなり話せる事では無いのです」
 甘かった‥
 それが全てだった。確かに貴族の館に来たのに自分達の服装は完全な平服。しかも礼儀作法や貴族の習慣を知っているわけでもなく、騎士でもない魔法使いがたった二人きり。
 強い信念と忠誠を持つ彼を説得するには、人手も力も足りなかった。
 そして、何より忘れていた。自分達は身分証明の無い冒険者。取引の為の情報や証拠と言うカードも無いのにいきなり信用しろと言うのは‥甘かったか。
 少しでも話を聞きたかったが‥彼を説得する話術も彼等は持ってはいない。
「‥ご本人とおいでください、話はそれからです」
「待って! 一つだけ聞かせてください。彼女に危険が迫っているかもしれません。心当たりはありませんか?」
 去ろうとする彼の足が止まる。表情を作る余裕も無く訴えるアルの言葉に静かな答えが返る。
「その件については『ある』と‥。我々が心配しているのも正にその事なのですから」
 強い意志を見せる二人の目、彼は背を向けたまま、独り言のように呟いた。
「‥昔話とお聞き下さい。‥今から十数年前、館に世継ぎとなる姫君がお生まれになりました。ですがご家族が領地にお戻りになる途中、族が馬車を襲ったのでした。襲撃を退けた時、彼らは気付きました。姫君のお姿が見えないことに。愛娘を失い奥方は臥せってしまい‥そして‥」
 言葉を切った彼はそれ以上の事を語ることなく部屋を出、二人は館を後にする。
 彼等は帰り際、回廊を囲む中庭に美しい光景を目にした。銀の髪の子と、それを光溢れるベンチから見つめる母。同じ色の髪をした二人‥
「待っていて‥お母様。今‥。? あなた方は?」
 甘いアルトの声に問われ二人はドレス姿の人物の顔を見つめ優しく微笑んだ。その人物と、奥にいる女性によく似た少女を彼等は‥知っている。
「旅の冒険者です。貴方は‥」
「‥ベル。どこ?」
「はい、お母様。‥失礼」
 慌てて戻っていく銀の影は母に寄り添い、膝を付く。
「ここに、います‥」
 まるで絵画のような母子だと冒険者は思った。
(「だが‥予想が当たっているのなら‥あの子は‥」)
 子供は去りゆく冒険者を見送った。その胸に何を思うのだろうか‥
 
「どうして‥どうして! ベル、フリード‥皆!」
「落ち着け、レイン‥俺達はできることをするだけだ」
 気持ちが急き焦るレインをギリアムは横で軽く制した。馬車は借りられなかった。
 先行した仲間達を信じ徒歩で急ぐが、遠い距離が呪わしい。
「約束したんだ‥だから絶対に守るんだ、自分に代えても」
「自分に代えて‥はいけませんわ。それはベルさんも悲しみます」
 殺の気持ちが痛いほど解るからこそ、アクテは優しく諌めた。
 街道に沿って歩いているといくつかの馬車と出会うことがある。
 荷馬車が殆どだが‥その馬車は独特だった。
 飾り気は無いがしっかりとした作りの、こういう道を走るには珍しい馬車、ギリアムの心に何かが予感を与えた‥
「皆、あの馬車を止めるぞ!」
「どうして?」
「いいから! よお、この先の村の者か? 流行り病があったそうだが、あんたんところは大丈夫だったかい?」
 薬を持っていくところなんだ、『病』その言葉に心細げな顔の男たちの顔が覗いた。
「解毒剤分けてやろうか? 何人だい?」
「へえ、ありがたいな。ここに二人と、馬車の中に二人さ」
「でも一人は村娘だから大丈夫だろう? 多分」
 村娘?
 背筋を走る感覚にギリアムは強引に馬車を覗く。
「おい! 待て!」 
 中には見張り役の男一人、さるぐつわを口に食んだ少女!
「ベル!」
 気付かれた! 男達は馬に鞭を入れる。
 ヒヒーン、馬は前足を高く上げ一気に走り出した。
「待て!」
 フルスピードで遠ざかっていく馬車を止める手段と方法を、彼等は誰も考えてはいなかった。
 追うが‥とても追いつけず、止められない。
「くそっ!」
 ギリアムは、とっさに服に忍ばせておいたダガーを馬車に向けて投げた。
 それが‥精一杯。
「ベル!」
「ベル!!」
「ベルさん!」
「‥みすみす目の前で‥俺達のミスだ‥」
 四者四様のの叫びを後足で消し去って馬影は消えていった。
 後悔の味を噛み締めながら彼等は、誰一人躊躇うことなく道を戻っていく。
 馬車の向かった先、自分たちの来た道‥キャメロットへと‥

 ある意味、彼等は間に合った。
「フフ‥女子供は下がってなさい! 巻き込まれますよ。ねえ。『堕龍』‥ぐあうっ!」
 獣のような咆哮をあげ巨剣を振り回す浪人。
「覚悟はいいか? 下種ども!」
「許せませんわ。村を‥!」
 戦士と武闘家も男達を熨していく。二人の騎士は村を守りながら、消火を指揮した。
 彼らのおかげで、村の被害は最小限ですんだのだ。だが‥
「ベルが! ベルがあいつらに攫われたんだ!」
 駆け寄ってきたフリードの言葉にレジーナはやっぱり、小さく呟く。
 気付いた村人が追おうとしたが、邪魔されたのだという。この男達に‥
「‥これ‥ベルが‥」
 そっと開いた少年の震える手には、白い、小さな鈴が握られていた。
 レジーナは、彩鳳はそれぞれの人差し指でそっと触れ握った。
 リン、小さな音を聞くと思い出すものがある。
「必ず、助け出します。そして、真実を知り‥それがロクデもない代物でしたらひっぱたいて即帰ってまいりますので」
「フリードさん、待っていてください。絶望に打ちひしがれるかもしれない彼女を救えるのは、貴方だけですから‥」
 
 何故、敵が先行していると解っていたのに、迎え撃つことばかり考えてしまったのだろう。
 後悔が胸を突く、
 だがまだ出来ることはあるはずだ。
「‥待っていて。必ず助ける」

 彼らが王都に戻る頃、地図と共に一通の手紙がギルド届く。
『少女が‥この館に、監禁されています』

●ピンナップ

ギリアム・バルセイド(ea3245


PCシングルピンナップ
Illusted by 幻夢