【銀の乙女】奪還! 少女の未来
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月22日〜11月27日
リプレイ公開日:2004年11月25日
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●オープニング
冒険者達は打ちひしがれていた。
どうしたんだ? と心配する係員に‥答えた声は果てしなく暗い。
「ベルが攫われたよ。追いかけようとしたけど‥無理だった」
「村は、救えましたけど、成功したとは‥とても言えませんね」
「貴族の館でも、ちゃんと話を聞けませんでした。今回は完全な見落としと、見通しの甘さが招いた僕らのミスですね」
落ち込む彼等はギルドで、深い何度目かのため息をつく。
様子を見守っていた係員はテーブルを、ドン! と叩いた。冒険者達をキッと見つめると叱るように激を飛ばす。
「だあっ! もういい加減にしろよ。失敗に落ち込んでる暇なんてねえだろう」
勿論それは解っている。いつまでも愚痴ってはいられないことも‥
「だけど、このままでは終わらせられない。ベルを捜そう」
「ええ、フリードさんとも約束しましたもの。必ず連れて帰ると‥」
手のひらの中に預けられた白い鈴がチリリと揺れる。
これを早く主の下へ返してやらなければ‥
表情が明るくなり、前を向き始めた冒険者達。係員は、よし、と笑うと小さな、でもはっきりとした声で問うた。
「‥お前さんたち、命と名声を賭ける覚悟はあるか?」
突然の係員の問いに目を瞬かせた彼らの前に、一枚の紙が差し出された。
白い高級な紙に美しい筆記体で綴られた文字にはこう、ある。
『少女が‥この館に、監禁されています』
「これは昨日ギルドに届けられた手紙だ。冗談か、それとも、と思って調査を依頼するつもりだったんだが‥その話を聞くと‥どうやら、あんたらの件と無関係では無いような気がするんだよな」
添えられていた地図の指す場所は‥キャメロット郊外にある貴族の館。
「知っているか? その家は例の伯爵の弟の家なんだ。野心家で、家を狙っているってもっぱらの評判でな‥だから、ひょっとしたら‥ここに本当にあの子がいる可能性は高い。罠、と言う可能性もあるがな‥」
今、情報は少なく‥そして一刻も早く彼女を助け出さなくてはならない。
「ついでに調べておいてやったぜ、あの伯爵家には今、主と病弱な奥方と娘がいるってことになってる。あんた等の仲間が聞いた、事故で娘が行方不明になったという話は無い。だが‥」
彼は情報の書かれた羊皮紙をトトン、叩いた。
「例の弟の家にはその話がある。生まれたばかりの息子が行方不明になったって言うのが‥二人の子供がいて、一人が消え、残ったのは一人。一人は女で一人は男‥親戚なだけあって似ているらしいけどな‥」
足りなかったピースが、一つの仮定を紡ぐ。
その想像が、当たっているとしたら‥ベルの未来は‥、あの館にいた子供の未来は‥?
「仮にも貴族の末端に連なるものだ。もし忍び込んで先に捕まったら、泥棒としての汚名を着せられ‥タダじゃすまない目に合うだろうな‥ま、彼女が本当にここにいて、救出できれば逆にやつらを追い詰めることができるだろうが‥。どうする?」
ごくり、冒険者達は息を呑む。
「あと‥預かったんだろう? アレ。有効に使えば、情報収集や切り札に使えるかもしれないぜ。何を‥どうするかはあんた達次第だ‥しっかりしろよ」
ここまでやってきた。もう気持ちは決まっている。あとには引けない。
必要なものは‥覚悟。必要なものは‥勇気。
彼等は‥立ち上がった。覚悟と、勇気を握り締めて‥
館の前に馬車が止まっている。
後部には知れず、深く、一本のダガーが突き刺さって‥
豪華な服、装飾品が少女を飾り、丁寧に作られた家具が取り巻く。
でも冷たく誰もいない部屋。
廊下を歩く人の足音さえもこの前に来ることは殆ど無い。
明るいのは‥小さな窓から射す月の光だけ。
小さく、粗末な村だったけど、あそこでは、決して一人じゃ無かったのに。
「怖い‥、帰りたい。助けて‥」
膝を抱える少女に月の光が、信頼する人からの声を運んでくれた気がした‥。
『絶対に、助け出す。待っていて‥』
●リプレイ本文
ギルドに一通の手紙が届いたのはある夜のことだった。
「‥あんた達宛てだぜ」
係員が差し出した手紙をギリアム・バルセイド(ea3245)は少しいらだった指先で開いた。
「‥明日の夜、だそうだ。奴を誘い出してくれるとの返事だ」
「良かった。では、予定通りでかまいませんわね」
腕がなりますわ。明るく笑った李彩鳳(ea4965)の表情に冒険者達も苦笑ではない、笑みを浮かべる。
今回の件はただの冒険ではすまない。失敗すれば犯罪者だ。でも‥そんなことを気にする者はそこには誰もいなかった。
「これは‥賭けです。正しければ、我らが勝つ」
「絶対に助け出す! その想いはきっと通じている。後悔の念があっても、それでも皆が一歩でも前に進んだならば希望は奇跡へと繋がる! 頑張ろう!」
水野伊堵(ea0370)の声に続いたレイン・シルフィス(ea2182)の言葉に全員が首を前に小さく動かした。
「‥今度こそは絶対に‥うん(ぐっ)」
手に力を込める緲殺(ea6033)の肩をアクテ・シュラウヴェル(ea4137)は、ぽん、優しく叩いた。その込められた意味を殺はちゃんと知っている。
「頑張りましょう。皆さんと、一緒ならできます。絶対に」
ずっとベルを見守ってきた仲間達だ。アルノール・フォルモードレ(ea2939)はもう絶対の信頼を預けていた。レインフォルス・フォルナード(ea7641)の剣も今は仲間達の心と共にある。
「失敗は終わりじゃない。諦めなければ最善への近道となるかもしれない。頑張れよ」
そう言って冒険者達を見送ってくれた係員の言葉を胸に、彼等は改めて決意を固めたのだった。
手の中の鈴を握り締めてレジーナ・フォースター(ea2708)は昨日の話を思い出していた。
「まさか、あんな事情があったとは‥」
「フォースター家オルスタンの娘レジーナです」
礼儀を持って対応すれば、礼儀を持って返る。それが上流社会での基本だと彼女は知っていた。
アリシア・ハウゼン(ea0668)を伴っての正式な訪問に、執事は前回とは違う正式な態度で答え、迎えた。
「先日はご無礼を致しました。突然の来訪に身分証明の無い私たち。突然信用しろというのは難しいことだというのは解っております」
頭を下げるアリシアに執事は首を降った。
「信用しない、というのではないのです。ただ、今回の件は我が家の信用と、一門の名誉に関わる秘密であるためにやたらな者に話すわけにはいかなかったのでございます」
案内されて入った貴族の館の一室に、正装に身を纏った紳士が待っていた。彼は二人の方を向き部屋の中へと招き入れる。
「ようこそ。我が家の事情に巻き込んでしまってすまなかった」
「当家の主、ディナス伯爵であらせられます」
執事に説明されるまでも無く、彼は貴族としての威厳に満ちていた。
何事かを指示した執事が部屋を出ると間もなく、伯爵は二人の前に立った。
「鈴を見せてくれるかね」
「はい、まだお渡しはできませんが‥」
レジーナが手のひらに乗せた純白の鈴を伯爵は無理に取り上げようとはせず、じっと見つめ息を吐き出した。
それは安堵の息に見えてレジーナは問いかける。
「事情をお聞かせ頂けませんか?」
伯爵はその言葉には答えず暖炉の上に置いてあった小さな箱に手を伸ばした。
銀に丁寧に中張りされた箱の中に入っていたものは‥
「‥鈴? これと同じ‥」
手のひらの上の鈴と見間違うかもしれないほど、そっくりの白い鈴を見せると伯爵は頷き蓋を閉じた。
「これは、私の先祖から伝わる宝。ブランで出来ている。我が家の守護の宝であり、代々この家の跡取りに引き継がれていく。当主と、その妻が持つこの対の品を今は私の一人娘。マリーベルが所有しているはずだ」
(「マリーベル‥」)
ある人物の顔を思い出した冒険者達に伯爵の言葉は続く。
「私の妻は体が弱い。今から15年前、生まれたばかりの娘を連れて領地に静養に帰る途中、盗賊に襲われた」
もちろん護衛はついていた。だが、こちらの動きを把握したような敵の動きに翻弄され馬車への賊の侵入を許してしまった、そう言った後の伯爵の表情は怒りに満ちていた。
「妻を馬車から連れ出し、賊は乱暴をしようとした。すんでのところでなんとか助けられたものの腕に抱いていたはずの娘は行方知れずとなった。おそらく盗賊に攫われたのだろう。それから我々は死力を尽くして娘を捜した。だが‥見つからなかったのだ。以降妻は、心を病んでいった。盗賊の恐怖と‥娘への愛に」
夜な夜な館を彷徨い、娘を捜す。恐怖で悲鳴を上げる。そんな妻が不憫でならなかった伯爵に一人の人物が囁いたのだという。
「兄上、私の息子をお預けしましょう。母を持たぬ子です。ベルとして奥方様の側に置かれては‥と」
弟が連れてきたその子供は、ベルと同じ銀の髪と蒼い瞳をしていた。整った顔や面立ちもベルとよく似ている。妾に産ませた子だと弟は語った。
「ほんの一時、ベルを見つけ出すか、妻がベルを失った悲しみから癒されるまで、そう思った。だが‥妻はその子をベルと信じてしまった。そして‥今に到るのだ」
「‥ベルさんが‥」
「そのような事情があったのですね」
解かれた謎にアリシアとレジーナは深い深い息を吐いた。
「この事情はもちろん秘中の秘。この家でも私と執事、ベルの乳母、そして弟以外誰にも私は知らせてはいない」
盗賊の手に落ちたベルが何故村の父に拾われたかは解らない。だが手放したくて、手放された訳ではない。捨てられた訳でもなかったのだ。ほんの少しそれが嬉しかった。
「長き間妻に付き添ってくれたベルも大事だが‥我々にとって本当のマリーベルは何にも換えがたいものであることを解ってもらえるだろうか? だが‥そのマリーベルが今攫われているのだな?」
「はい、おそらく伯爵の弟君の家に囚われておいでです。確証は‥これだけですけど」
レジーナが差し出した一通の手紙。それを見た伯爵にも差出人が誰か解ったようだった。
「なら‥間違いは無かろう。だが、下手な手出しも出来ぬ」
この事情の元、兄伯爵は弟に強い立場で出られないのだということが解っている。
ならば‥作戦の根幹となるアリシアの頼みを伯爵は聞くと約束した。
「いつまでも今のままではいられぬ。マリーベルの救出の後、私は妻とこの問題にしっかりと向かい合うと約束しよう。頼む。娘を助け出してくれ」
頭を下げた伯爵の、いや一人の父親の願い。
冒険者達の答えは勿論、否では無かった。
馬車が走り出ていった。上質の馬車が静かに街中へと向かっていく。
それを確認した冒険者達は静かに館の前に歩を進めていった。
仲間達の視線を集め‥頷いたレインは歌うように呪文を詠唱する。
『‥ベル‥どこにいるんだい? ベル‥聞こえる?』
永遠にも似た返事を待つ数秒の後、レインの顔がパッと明るくなった。
「ベルだ。やっぱりここにいる。皆、窓を見て。ベルの影が見えない?」
声に見上げた暗闇の中の館。アクテがアッ! 小さな声を上げた。
「あそこでしょうか? 今、影が動きました」
指差された2階の左奥の部屋に確かに白いドレスの影が動く。
「近くに樹は無し‥、では強行突破しかないですね。中にいるのは‥20人ほど?」
アルノールはバイブレーションセンサーで内部の人数を確認する。非戦闘員とそうでないものの差は解らないが‥
「じゃあ、皆、頼んだよ。僕達は一直線であそこを目指す」
自分にオーラの魔法をかけて、殺は身構えた。任せておけ。その表情でギリアムは親指を立てた。
「よし、行くぞ。‥GO!」
ギリアムの合図にそれぞれの武器を持って彼等は駆け出す。
全ての始まりか、終わりか。運命の奪還に向かって‥。
グワシャッ!
突然砕かれた扉に家人達は何事かと、集まってくる。
そこで彼らが見たものは夜の闇を背に立つのは威風堂々とした見上げるような‥ジャイアント。
「何事です?」
「村を襲い少女を誘拐した犯人グループがこの屋敷に潜伏しているというタレコミがあった。調べさせてもらう!」
張り上げられた声にビクリ震えが走るが‥いくつかの剣も抜かれる。
「顔を隠してか? お前たちの方がよっぽど悪人だろう?」
「そう思いたくばどうぞ。でも‥許しませんわ」
マスクに隠された声は穏やかな少女になんとなく聞こえる。だが、そう感じる間も無く手をとられ彼は空中を舞うことになる。
「うぐっ‥」
向こうでは同じ少女でも危うい視線を湛えて巨大な剣を持った娘。
「クク‥死にたい奴からかかってこい。グルァアァッ!」
襲いかかってくる護衛を切り伏せている。手加減はしているのだろうが‥。
「俺の剣、受けてみるか?」
翻弄するアビュダの剣に一人が地面に倒れる。向こうでは騎士が、水の魔法使いが動き回っている。
派手な彼らに気を取られ、屋敷のものは気づかなかった。
侵入した者の数も、その数が最初より減っていることを‥。
冒険者達も気付かなかった。一人が外に出た事を‥。彼がどこに行ったのかも。
『ベル! 聞こえるかい?』
レインの言葉にはっきりと反応が返る。
「あっちです!」
二階に駆け上がった彼らを阻むものは誰もいない。真っ直ぐな廊下の先の影以外には。
「あそこに、人がいますわ」
インフラビジョンをかけたアクテの目が人の体温を確認する。
「ベルさんも多分あそこに」
「じゃあ、あれが見張りだね。先手必勝!」
早い勢いで走りこむ彼らに見張りは剣を抜こうとしたかもしれない。だがその間は無かった。
殺の勢いを込めた拳が見張りの男の顎に吸い込まれる。
「悪い、手加減してる間は無かった」
心の篭らない声で失神する男を跨ぐと、殺はそのまま木の硬い扉を叩く。
「ベル、いるね! 僕だよ」
「殺さん! 皆さん!」
「この男‥鍵は持っていませんね。‥行きます!」
扉の横の厚い石の壁に向けてアルノールはウォールホールの魔法をかけた。大きく穿たれた穴の向こうに家具と空間が見える。
「助けに来たよ。時間がないんだ、説明は後。僕に掴まって。此処を出るよ」
「ハイ!」
伸ばした手を握り締めたベルの感触を確認し、アルノールは思いっきり身体を引いた。
転がり出るように彼らの親しき、愛しき娘が現れる。
「ベル‥良かった。無事で‥」
「レインさん‥皆さん‥」
ハッ! レインは自分が相当大胆な行動に出ていたことに気付く。女の子に抱きついてた?
(「無意識に‥身体が止まらなかった‥」)
赤面し顔を見合わせ、背ける二人に周囲の様子を伺っていたアクテが少し、厳しく声をかけた。
「再開を喜ぶのは後にしましょう」
「そうだね。まずは脱出だ。立てる? ベル」
差し出された殺の手を取りベルはちゃんと自分の足で立った。走りにくそうなドレスだがなんとかなるだろう。
「救出できたら長居は無用。レインさん、テレパシー頼める?」
「は、ハイ勿論!」
レインは軽く頭を振ると、呪文を心に唱えた。一番通じやすい‥ギリアム。
「OKです」
「じゃあ、脱出だ。行くよ!」
「ハイ!」
風のように現れた賊は、風のように去っていった。
追う事もできなかった。死者こそ出なかったものの武器を持ったものは、ほぼ全員が足腰が立たなくさせられていた。
もう一つ追えない理由もあったが‥。
「ご主人が‥誘拐を、本当に?」
『馬車の後ろを調べてみろ。柄頭に”B”と刻んであるダガーが見付かったなら、お前達の主が悪事に加担した証拠だ』
厩を調べた使用人頭の手に握られたダガーには確かに刻まれていた。
”B”と‥。
「奪還成功か。無事で良かった、良かった」
「ありがとうございます」
頭を撫でて喜んでくれる係員と、冒険者にベルは改めて頭を下げた。
全員が嬉しそうに笑う。
「ベルさんを救出できれば、伯爵家が今回のことの後ろ盾になってくれるはずですわ」
「伯爵家?」
アリシアの言葉に首を傾げるベルの肩を彩鳳は優しく抱きとめた。
「ベルさん、これから貴方に待つ運命は残酷で辛いものかもしれません。でも、私たちがついています。負けないで下さいね」
「‥ハイ」
意味の解らぬまま。でもベルは首を前へと動かした。
微笑む冒険者達が、ベルの今後について話し合っていた時‥
BANN!
扉が突然開かれた。
「お母様が攫われたんだ。お願い、助けて!」
駆け込んできた人物に、冒険者達は目を見開いた。そして自分達の横にいる少女を見る。
彼らの目の錯覚では無かった。
そこには‥ベルとまるで鏡に映したようによく似たドレス姿の‥少年が立っていた。