【ソールズベリ】過去と現在、そして未来‥

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 6 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月06日〜12月16日

リプレイ公開日:2004年12月10日

●オープニング

 彼は、一人、そこに立っていた。
 周囲には彼のほかに呼吸するものはいない。
 荒涼たる野に広がる風、立ち尽くす巨石の中で、彼はそこに立っていた。
(「昔、よくここに来たな‥、父上と、タウ老人と‥ルシア先生と‥」)

『いつ来てもここは、不思議よね。ここに立つと力が沸いてくるみたい‥』
『遠き父祖が、我々に語りかけているのかもしれんな。キール‥お前はいい土地に生まれたな。ライルも幸せものだ』
『ああ、‥いいか? ライル。お前はこの街を守っていくんだ。遥か昔から続いてきたこの地での人々の営み。それを守るのが我々の役目だぞ』
『うん、僕、必ず父上や、先生達みたいに強くなってこの街を守るよ。約束だからね』

「今から25、いや30年位前になるかな。この街がドラゴンに襲われたことがあった。丘の上の都市も、空からの攻撃には叶わず、人々は苦しんでいた。
それを三人の冒険者が退けた‥騎士キール、魔法使いタウ、僧侶ルシア 三人の勇者達」
 老人はその伝説を子に語るとき、そう言って語り始める
 仲間であるキールの故郷、セイラムに彼らがやってきたとき、街はドラゴンの襲撃を受けていた。
 街存亡の危機に彼らは人々を守り、命を賭けて戦ったという。
 襲撃を退けた後、キールは父の後を継いで領主となり、タウとルシアも冒険より降りて街に残った。キールをさまざまな面で助け街の発展に力を尽くしたのだ。
 特にタウと結ばれたルシアは、早くに妻を亡くしたキールの代りに、彼の息子ライルの教育係も勤める。
 彼らは街中の尊敬を集める存在だった。それはライル自身も例外ではない。
(「いつか、父上や先生のように強く‥」)
 それは偽らざる思いだった。
 ルシアが亡くなり、セイラム侯となったキールは悲しみを振り切るように遷都の具体的な準備を始めた。タウはキールの相談役を勤めながら貧民街の人々の面倒を見るようになる。
 騎士見習いとして修行に出ることになった自分に、広いソールズベリの平原を指差して父が言ったことをライルは今も忘れてはいない。その横にはタウもいた。

『古くからの人々の命の連なりがあって、今の我々がある。お前はいつか私達のようになると言った。だが、私たちと同じであってはならない。我々を超えて人々を、未来へと導け!』

「父上‥私は間違っているのでしょうか?」
 領主として、誰にも告げられぬ思いを、ライルは風に乗せた。
 自分の理想。
 民の一人一人が、自分自身の力で未来を築こうとする強さを持つ街。
 先達や、かつても勇者たちのように‥。
 そんな街を作りたかった。
 だが、今、問題は山積み。
 一番認めて欲しかったタウ老人には、褒めてどころか認めても貰えない。
 教会には侮られ、周辺の安全もまだ不安定だ。
 歓楽街、子供たちの問題、老人たちの問題。どれも自分の考えの外にあった。
 自分の未熟さが、今、この街を、そして自分を締め付ける。
 それは、解っていた。‥だが
「いや、私は間違ってはいない筈だ‥」
 彼は思いを振り切るように馬の背に跨ると鞭を入れた。
(「上に立つ者は迷ってはならない。迷ったら、誰もついてこなくなる。この地を守るためにも‥迷うな!」)
 真っ直ぐに彼は走る。迷いを、振り切るように‥

「どうか‥ご理解ください。卿はけっして、本当にタウ老人の命を狙っているわけではない、死を望んでいる訳では無い事を」
 領主と、冒険者の連絡役の執務官はそう言って、頭を下げた。半ば涙さえ浮かんでいる。
「タウ老は我々、この街の住民にとってご領主と同じに敬愛する方なのです」
 頷く冒険者。でも‥
「‥結果を考えると‥彼の生死にばかり拘ってもいられない」
「老は自分ひとりで、全てがかなうと言われたら間違いなく、命を差し出されるでしょう」
「だが、そうなったら確実にオールド・セイラムの住民の怒りは爆発するでしょう。最悪、街を二つに割ることになります」
「お互い言い分も、引けないこともある。それがほんの少し噛み合わなかっただけだな」
 彼らの言葉は真実だった。そして、街の住民たちはお互いの気持ちが解るがゆえに、積極的に動くことに悩み、苦しむ。
 当事者としてではなく、第3者として状況を見て、動かすことができる冒険者達は貴重であり、重要だった。
「お二人とも、この街を愛しておいでです。何か、きっかけがあれば、きっと状況は変わるはず。卿の依頼に割り込むようで失礼ではあるのですが‥どうぞ‥お願いします」

 オールド・セイラムの丘の上。
 二つならんだ墓標の前には小さな花が捧げられている。
 横に並び街を見つめる彼は苦笑するように呟く。
「二人してワシ一人に迷惑を押し付けていきおって‥。届くかのお。ワシらからのメッセージが‥ライル坊や、あの冒険者達に‥」
 返事は返らない。
 ただ、風だけが新も、旧も無く、ただ、人が生きるソールズベリを優しく抱きしめて流れて行った。

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5304 朴 培音(31歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6930 ウルフ・ビッグムーン(38歳・♂・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)
 ea7209 ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 早めに宿を出て、街道をゆっくり歩いていくと、二つの街が見えてくる。
 この街を何度訪れただろうか。
「真っ直ぐで、愚かで‥だからこそ愛しい。そんな人物よね。彼は‥」
 目を細めスニア・ロランド(ea5929)はセイラムの街を見つめる。思い浮かぶは愚かしいまでに真っ直ぐなセイラム卿ライルの顔。
「本気で任官して、彼を助けようかしら‥」
「それも‥いいかもしれませんが、やるべきことはしっかりとやりましょう」
 横に並ぶシエラ・クライン(ea0071)はスニアほど為政官としての『彼』に信頼をおいてはいない。
(「首謀者を見せしめにして権力維持を図ろうとする権力維持の一環の行動‥間違っては居ないけど間違っている。彼の為政の典型的なパターンですね」)
 街の住民はそれを言えず、ただ一人それを伝えるべき人物と不仲であるなら、間を取り持つことこそが自分達の役目だろう。決意と一緒に驢馬の引き綱を握る。
「私達はオールドセイラムに行って、タウ老人にお話してきます」
「爺さんを、なんとか説得してみるつもりだから‥」
「あの方に嘘はきっと通じない。ちゃんと話せばきっと解ってくれると思うから‥」
 シエラの後に朴培音(ea5304)とフレイア・ヴォルフ(ea6557)も続いた。
「俺達は‥なんとかセイラム卿を引っ張り出したいな。現実を見てもらわないと」
「僕が〜、無理にでも引っ張り出しますぅ。これ以上嫌われようがありませんから〜」
「おいおい、またこじらせんでくれよ」
 のんびりとした声で、怖い事を言う。そんなエリンティア・フューゲル(ea3868)に顔を顰めて心配顔を見せるウルフ・ビッグムーン(ea6930)
「大丈夫、フォローしますから。‥できるかぎり」
 ウォル・レヴィン(ea3827)に宥められても心配そうだ。
「タウ老人の首を持ってきても、話は余計にこじれるだけ。お互いの歩み寄りが必要だ。だから、そっちもしっかりな」
 新しく手伝うことになったアリオス・エルスリード(ea0439)の言葉に全員の視線と思いが一つになる。
「助命嘆願は成して見せますから」
 二人の歩み寄りこそが、新しい街と古い街。二つの街の融和の象徴となるはずだ。ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)も説得の文章を頭の中に何度も推敲して書き上げた。
 分かれ道。
 それぞれの目的と思いを抱いて、光と闇の街の朝が、今、朝が開ける。

「おじいちゃ〜ん、またお客さんだよ〜」
「そなた達か。よく来たのお」
 路地で遊ぶ子供達を眩しそうに見つめる老人は、呼び声に顔をあげニッコリ微笑んだ。
「ご無沙汰しいたしております」
 冒険者達の来訪をタウ老人は歓迎してくれる。
 最初の頃の旧市街は警戒の場所だった。あの頃の緊張が薄れたわけではないが、シエラは何故かホッとした気分になる。
「あ、お姉ちゃん。遊ぼ〜」
「話があるから、後でな」
「え〜、つまんなあい」
「これ‥大事な用があるのじゃ。向こうで遊んでおいで」
 培音の足にしがみついた子供達だったが、老の言葉に彼らは後でね〜、手を振りながら駆けていった。
「‥ねえ、爺様。ちょっと話があるんだけどいいかな?」
 小さな姿が完全に去ったのを確認し、フレイアは声を潜めた。
「ほお‥」
 短い返事の奥に感じるものに冒険者達は背を正す。
 路地を歩く間、彼らは自分の考えを纏めた。
 そして‥老人が家の扉を開き、閉じ、席に付いたと同時、
「少なくとも、ライル卿から旧市街の住人達の受け入れを引き出す事は出来ました。上手くすれば、孤児院の建設も。ただ、その為に出された条件は‥。老の首だと」
 シエラはそう告げた。隠し事はしない。しても無駄。ならば全てをぶちまけるのが吉。それが彼らの判断だった。そして‥
「領主はそう言ったらしいけど‥あたしには本意に思えないんだよ」
 セイラム卿ライルに、フレイアは直接会ってはいなかった。だが、だからこそ解ることもある。尊敬するからこそ意固地になっている‥子供のような男。
「ようするに、ライル卿は民に対する面目を守るために犠牲が必要と判断した。遷都が行き詰ったこと、行政が上手くいかなかったこと、それをアンタの所為にして、自分を正しく見せたいのさ」
 でもさ‥培音の声は少し明るい。子供達に見せると同じ優しい笑顔。
「‥ところが、アンタの死を願う人なんか誰もいやしない。おまけに、アンタが犠牲になったら民の反感を買ってライル卿は自分の首を絞めちまうじゃないか‥」
 目を閉じ、返事を返さないタウ老に意を決するようにフレイアは続ける。
「なあ、爺様。突き放すことが必要な奴や時も、確かにいるしあると思う。でもさ、今はまだセイラム卿には教え、導く奴が必要だとも思うんだよ。あたし」
「‥私達はこの新しい街と、古い街の始まりと終わりを血塗られたものにしたくはない。だから‥それ以外のやり方で領主を説得する為に動いています。‥ライル卿と会って、話し合われる事をお願いします」
「だから‥話して欲しい。貴方が思うことを彼に」
「アイツに謝って、そして話し合おう。もう一度。そうすれば済むよ。きっと。頼む」
 ゆっくりと開けた老の目に、6つの真摯な輝きが映る。老を見つめる。
 短くない沈黙の後、老は‥微笑み‥こう告げた。
「ありがとう」
「「「えっ?」」」
 その笑顔に3つの心臓が小さく鼓動する。相手は自分たちの3倍は年上であろう人物。なのに何故か眩しく、そして魅力的に感じたのだ。
「そなた達に全て託す、と前に言ったな。従おう。そして‥もう一度話してみよう。今なら、ライルも聞き入れてくれるかもしれん」
「‥老」
「あやつも意地っ張りだ。正しさは解っていても、素直にそれを受け入れられはしない、きっかけが必要だったのじゃよ」
 なんとなくシエラは解った気がした。何故この老人がわざわざ人前でセイラム卿の治世の欠点を指摘し、何故反乱めいた行動を起こしたのか。
 考えて欲しかったのだろう。セイラム卿に、いや、ひょっとしたら街の住民や‥自分たちにも‥?
「しかし、若い娘が沢山いると部屋が華やぐのお。どうじゃ? 誰かわしの後添いにならぬか?」
 ガクゥ!
 突然の変わった口調に冒険者達は脱力する。椅子から転げ落ちたものもいる。
「爺様‥、あんたそういうキャラだったのかい?」
 呆れるようなフレイアの言葉に、老は笑う。ニカッという擬音が聞こえてきそうな感じの笑みだ。
「元々わしは、指導者とかそういうガラじゃないのじゃ。魔法だって最初は女性にモテるための手段として修めたしな」
 茶化すように笑うその様子は邪笑のかけらさえも湛えている。
 この笑顔を、セイラム卿にも見せてやりたい、三人は思っていた。微笑と、苦笑を半分ずつ笑顔に混ぜて‥。

「硬いだけの剣は一度使うだけで刃こぼれしてします。実戦では堅さと同様に耐久性が必要なのです。‥閣下の施策は正しい。けれどそれだけでは『足りない』のです。『足りない』部分を補うのは逃げでも弱さでもありません」
 誠実な女騎士スニアの言葉をセイラム卿は熱心な目で聞いていた。頷きはしない。だが、怒りもせず、怒鳴りもせず、真剣に聞いていた。
「候ご自身を認めて頂きたいのでしたら、候自身が他者を思いやり、認めてからではないでしょうか‥」
 そう言ったロゼッタの言葉も否定しない。彼の中で、確実に何かが変わり始めているのかもしれない。謁見を受け入れたセイラム卿に二人はそんな印象を受けた。
 二人が話を続けようとした時、だった。今まで沈黙を守っていた三人の冒険者が突然前に進み出た。中の一人、エリンティアが驚く侯の前で話の口火を切る。
「ライル様ぁ、ライル様はこの街がお好きでいらっしゃいますかぁ?」
 以前、彼の言葉にキレたことがある。大人気なかったと反省してはいるが、この顔に、間延びした言葉に少し背が固くなる。
 だが、返事は当然
「勿論だ。私以上にこの街の事を愛し、考えているものは無い!」 
「なら、この服を着て僕と来て欲しいですぅ」
「何?」
 眉を上げる侯の様子にすかさずウォルがフォローに入る。
「お願いします。ライル候。私も候と一緒に行きたい場所があります」
 誠実な目、エリンティアの言葉にも私欲や馬鹿にしたような感は無い。息を吐き出すとライルは立ち上がった。
「何処に行って何を見せるというのだ?」
「あ、行ってくださるんですねぇ、では失礼します」
「うわっ、こ、こら‥」
「やりすぎないでよ。お願いだから‥」
「解っていますぅ。でも、僕らでないとできないですからぁ」
 ぐいっ! エリンティアはライルの手を引き別室へと引きこんだ。
 すでにアリオスが側近に話をつけていたらしい。ドタバタ、バサバサッ、音がする。
「‥‥セイラム卿が居ない間に‥実は‥」
 執務官とスニアの間でいくつめかの提案と相談がなされた頃。部屋の扉が開く。冒険者達はふと後ろを向いて見る。
「あら‥」
 そこには、冒険者と殆ど変わらぬ服装をした一人の若者が立っていた。

 丁寧に組まれた街の石畳を歩きながら『彼』は浮かない顔をその白い石に浮かばせていた。
「私は‥良かれと思ってしていたのだが‥」
 『彼』とはこの街の領主。セイラム侯ライル。
 冒険者に引きずられるように、セイラム侯としてではなく、一人の冒険者として歩いた街は彼の努力を完全肯定はしてくれなかった。
 褒める言葉、感謝の言葉はもちろん聞こえる。だが‥
『ご領主様は、真剣に街の治世に取り組んでくれているが、焦るあまり意固地になっているよな‥』
 ズキッ!
『あのね、おともだちがおーるどせいらむにいるの。こっちにこれないんだって。さびしいな』
『この街は住むにはいいかもしれんが、退屈すぎてなあ。今度は違う街でも通ってみるか』
『タウ様には昔お世話になってねえ。皆、またお会いしたいと思っていますよ』
 ドキッ!
『先代がご立派だったからなあ。先代やタウ老人にコンプレックスでもあるんじゃないか?』
 ズキズキッ!
 話を聞くたび、否定できない自分の欠点をあからさまにされるようで、彼のダメージは蓄積されていく。
「どうかな? いつもと違う視点での街は‥」
 クロースの前の小さな広場でしゃがみ込んだ彼に、アリオスがかけた言葉も聞こえないほど、ライルは落ち込んでいた。
「私は‥間違っていたのか?」
 下を向き地面を蹴るライルにエリンティアはふんわりと笑った。
「別に落ち込むほど酷い評価ってわけでは無いとおもいますよぉ」
「ただ、足りない所があるだけだ‥。それを補っていくってのはどうかな? いろんな人の意見を聞いてさ」 
「子供たちには可能性があり、老人達の知識や経験は貴重だ。歓楽街の者たちとて、望んでそうなったわけでもないだろう。取捨選択は領主の責任だが、タウ老も含めて切り捨てるのはいかがなものかな」 
 反論は、来ない。怒りも無い‥。今のライルに、それまで感じていた強気なまでの意欲は感じられなかった。
 そこに、ビア樽のような身体を揺らして走る人影が見えた。膝をつき、彼ウルフはニカッ、と笑った。ライルは気付かない。
 自分の思考の堂々巡りに入りかけていた彼を引きとめる、あの言葉が出されるまでは。
「‥セイラム卿、お喜びください、タウ老師の首をお持ちしました」
「何!」
 飛び上がった彼はウルフの顔を見つめた。
「どこだ!」
「どうぞ、こちらへ‥」
 前を歩く彼の忍び笑いに気付かぬまま、ライルと冒険者達は後を追ったのだった。

 暗くなりかけたオールドセイラムの丘の上。
 何人かの長い影が取り囲むのは二つの墓標。
「父上‥先生‥」
 呼びかけても、返事が無いことは解っている。きっと、もう返事をしてはくれない。
 だが‥返事は返った。
「ライル‥」
「タウ‥先生‥。どうして‥無事で‥?」
「おまけで少々余分な部位が付いていますが‥」
「余分なパーツは要らないと一言も言っていなかったよな?」
 ウルフの笑みにフレイアの笑い声が重なる。
 彼の命を狙った自分、顔向けなどできない。
 俯き‥逃げかけたその手をタウ老人は捕まえた。
 そして、言った。‥すまなかった。と。 
「わしも、そなたも焦りすぎていたようじゃな。そなたの街は素晴らしい。より良くするために、一緒に考えていかぬか?」
差し出された手に、ふと、ライルは思い出す。さっき冒険者が言った言葉。
(「他者に認めて欲しいなら、まず‥自分が‥」)
 老人の瞳を見ていると今まではっていた虚栄や、独善が、スッと溶けていくような気がする。
 だから、ずっと言えなかった一言を彼も口にすることができたのだ。
「‥はい。申しわけ‥ありませんでした」
 ごまかしや、嘘がつけない二人の前で、重ねられた二つの手がある。
 若い手と、皺の多い手。
 ソールズベリの新しい街と、古い街。過去と未来の、それは握手だったのかもしれない。
「間違ってもいい。ただ、願わくば次は正しく、間違えられよ‥」
 励ます言葉を残し、彼らはそっとその場を後にしたのだった。

 彼らがそれから何を話し合ったのかは解らない。

 ただ数日後、キャメロットの冒険者達の元に招待状が届いた。
 いや、招聘状と言うべきかもしれない。
『セイラム評議会、開催。貴殿の参加を求めるものなり』
 と‥