【灯 心の灯火】聞こえない声を聞いて‥‥

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月17日〜01月27日

リプレイ公開日:2005年01月24日

●オープニング

「たちの悪い噂だと、思うんだけがね‥‥」
 商人はそう言って、ギルドのカウンターに手をかけた。
「最近、セイラムの街で北の聖母亭に血まみれのゴーストが出る、なんて噂が立っているんだよ」
 先だって、冒険者達は商人たちの依頼で、街道の宿屋、『北の聖母亭』で聖夜祭の最後の夜。主顕節を過ごした。
 母と、兄を亡くして天涯孤独となった宿屋の娘レティシアだったが、常連客の助けや、冒険者達の励ましもあって慣れないながらも頑張って宿屋を運営している。その後のことは気になっていたので冒険者達も耳を欹てた。
「あんたたちが帰ってから直ぐ、その宿屋の主人に昔世話になった、って言うセイラムの商人の紹介でね、ちょっと年配の女の人が北の聖母亭にやってきたんだよ。ところがさ、一日も経たないで帰っちまったんだ。悲鳴を上げて。そして噂をばら撒いてるんだよ」
「その宿屋にゴーストが出る、ってか?」
 ああ、と係員の言葉に商人は頷いた。
「血まみれのゴーストが、出て行け〜って脅かしたんだとよ。若い男っぽかったって話だが、見たのはその女だけでさ、俺たちは誰一人見ちゃあいないんだ。もちろん、レティシアもだ」
 旅の商人や冒険者達は例えゴーストが出ようが、その宿屋に泊まらなければならないから泊まる訳だし変な噂が立とうが別に気にしない。
 だが、宿屋を一人で切り盛りするレティシアはそうはいかない。少しでも早く手伝いの人間が欲しい所だ。
でも、その噂のお陰でセイラムの街からの手伝いの見通しは立たない。
「商人は責任を感じて新しいのをよこす、って言ってくれたんだが‥‥心配でな。悪いがまた北の聖母亭を手伝いに行ってやってくれないか。そしてついでに、そのゴーストの噂について調べて欲しい。ついでにゴーストを退治なり説得なりできれば言うことは無いな」
 ゴーストというのは生前に何か心残りを残したものがなると言われている。今までそんな噂の欠片も無かったのに急に現れたというのは何か理由があるのだろう。
 それを、調べて欲しい、と言って、その商人は立ち上がった。
「まあ、昔はおかみさんがいたから出なかったのかもしれないが‥‥ああ、レティシアも元クレリックだったっけな‥‥。でも彼女は大した魔法は使えなかったみたいだし‥‥それに」
「それに?」
 口ごもったように言葉を止めた商人に、係員は声をかけた。
 いや、そう首を降った後、彼は荷物を纏めて仕事へ戻っていった。
 最後のかすかな声は、聞こえたものにしか聞こえなかったかもしれない。
「あいつ‥、おかみさんや、兄さんだったら幽霊でもいいから帰ってきて欲しい。なんて言ってたからな‥‥」

 小さな鍵のペンダントを揺らしながら働くレティシアは今日も元気だ。
 最近、一人のときも、見守ってくれるような温かな視線を感じる。
「母さんや兄さんが、見ていてくれるのよね。頑張るわよ!!」
 トントントン。ノックの音がした。
「はい! どちらさま?」 
「あの‥‥ランドルドさまの紹介で‥‥こちらに‥‥ひぃ!」
 扉を開けたその若い娘は、宿屋に一歩と入ることなくあとずさった。
「? どうしたんです?」
 レティシアは手を差し伸べようとしたが、
「キャアア! ゴースト!!」
 娘はその手を振り払い、脱兎の如く走り去っていった。
「よう、また世話に‥‥ってなんだ? 今の?」
「さあ?」
 荷物を抱えた商人を部屋に招きいれながら、顔を見合わせ、レティシアは首を傾げた。
 
 セイラムの街ではまた噂が広がる。まるで熱病のように。
「北の聖母亭はゴーストに取り付かれている」
と‥‥

●今回の参加者

 ea0763 天那岐 蒼司(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3441 リト・フェリーユ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4818 ステラマリス・ディエクエス(36歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5235 ファーラ・コーウィン(49歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「おや、聖母亭のお嬢さん‥‥こんにちは」
 買い出しに来たセイラムの街でレティシアは声をかけられた。
 エールの樽のような腹を突き出した男にレティシアは、ランドルドさん、こんにちわ。と頭を下げる。
「すまなかったね。先日は私の紹介の者が役に立てなくて‥‥」
「いいえ。今度また手伝いに来て下さる方がいるそうなので‥‥」
「でも、大変だろう? それに、なんだ。変な噂もあるらしいし‥‥、本当に一人でやっていくつもりかね? 宿屋を」
 彼は、何度か宿を買い取りたいと言っていた。二人の死後、もしレティシアが戻らなければ、そうなっていただろう。
 だが、彼女は跡を継ぎ申し出を断った。そして今も、同じ返事を返す。
「私、両親と、兄さんが残してくれたあの宿を守っていきたいんです‥‥。最後まで‥‥」
「解ったよ。また私も心当たりを当たってあげよう」
 ランドルドは忌々しげに舌を打った。彼女に聞こえないように‥‥。
「‥‥つくづく邪魔な娘だ。さて、どうするか」

 トン!
 軽い音と共にヴァージニア・レヴィン(ea2765)はセイラムの街に降り立った。
 箒に長い間乗っていたのでちょっと疲れてはいるが‥‥軽く頭を降る。
「頑張らなくっちゃね。レティの為にも‥‥」
 北の聖母亭にゴーストの噂が立っていると聞いてヴァージニアは先行し、一人セイラムの街にやってきた。
 レティシアが気にしていないとしても、調べておかなくては。
「‥‥気になることがあるし‥‥まずは情報収集といきましょうか?」  
 服と髪を揃え彼女は街並みの中へと消えていった。 

 疲れた旅人が灯りに誘われるようにして扉を開ける。
「お帰りなさい。ようこそ、北の聖母亭へ」
 虹色のリボンをつけた少女がお客を笑顔で出迎えた。
「‥‥レティシア‥‥じゃなくてあんた確か前にも‥‥」
「はい、この宿のお手伝いなんですよ。よろしくお願いします」
 そう言うとリース・マナトゥース(ea1390)は客を中へと招き入れる。いつの間にか横に来ていた天那岐蒼司(ea0763)は男の荷物を運ぶのを手伝ってくれた。
 山のような荷物を抱えていた客は案内された部屋に入ると息を付く。部屋には冬咲きの花が一輪、微笑んでいる
 掃除の行き届いた空間、下のロビーから伝わってくる客と、笑い声。
「いつもこうだといいんだがな。俺たちも、レティシアも‥‥」
 彼は笑いながら階段を降りた。

「ランドルド? なんであんな奴の事を?」
 常連はフィーナ・ウィンスレット(ea5556)の運んできたシチューを口に運びながら怪訝そうに聞いた。
 ステラマリス・ディエクエス(ea4818)が、いえ、と首を振りながらエールをテーブルに置く。
「昔、この宿のご主人にお世話になった商人さん、と。この宿の手伝いを紹介して下ったとかで‥‥どうなさいました?」
 怪訝そうに彼女は問う。常連客の顔は明らかに顰め面と呼ばれるものだった。
「ランドルドだったのか? あの女達の紹介者、だったら考え直すべきだったな‥‥」
「えっ?」
 疑問符を浮かべるステラとお客の会話を厨房から出てきたジェームス・モンド(ea3731)やフィーナも聞くと話に耳を傾けていた。
「ランドルドは‥‥俗に言う金貸しだぜ。しかも‥‥たちの良くない‥‥な」
 言葉を濁されたが、意味は通じる。要するは悪徳高利貸しなのだろう。
「盗賊上がりとか‥‥いろいろ良くない噂は聞く。あいつが先代やおかみさんに‥‥世話になったとしても恩返しとは程遠い所にいると‥‥俺は思う」
「そうですか‥‥すみません、変な事を伺ってしまって」
 ニッコリ微笑んで、ステラは頭を下げた。いやいや、と彼は笑う。
 彼にとってこの話はおしまい。だが‥‥冒険者にとってはそれが始まりだった。

 厨房では母と娘のような二人が優しい空間を作っている。
「今日のシチューとっても美味しかったです」
「そう、良かった。じゃあ、今度は実習ね。私達の為に作ってみてくれる?」
「はい!」
「材料はタマネギと人参と‥‥そう、包丁はしっかり持って、野菜を押える手は‥‥」
 この宿の娘であるレティシアにファーラ・コーウィン(ea5235)は料理を教えていた。
 素直なレティシアは上達が早いと、ファーラは微笑みながら見つめる。ノックが厨房の扉を叩くまで。
「ちょっと‥‥いいか?」
「まって‥‥いいわ? 何?」
 ドアを開いた向こうから自分を招く手にファーラは素直に従った。その手の主、ジェームスはファーラに何事か囁き、囁かれ、そしてマントを肩にかけた。
「じゃあな、ちょっと出かけてくる、なにそんなに遅くはならんさ」
「あ、はい。いってらっしゃい」
 目元に滲んだ涙を擦りながらレティシアはジェームスを見送った。
「どうしたんでしょう? ヴァージニアさんも直ぐに出られてしまったし、リトさんも‥‥」
 冒険者達を家族のように思っている彼女は、ちょっと少し寂しげにタマネギにナイフを強く立てた。
 久しぶりに冒険者達に出会えて嬉しかった。だが、その中で一人‥‥リト・フェリーユ(ea3441)が顔を見せてはいなかった。
「いろいろ‥‥あるのよ」
 ファーラは慰めるが浮かない顔のレティシアに、深く息を吐き出したフィーナが耳元で囁く。
「レティシアさん‥‥あの‥‥」
 彼女は何を言ったのか‥‥。でも、レティシアの野菜を切るテンポは早くなっていた。
 リズミカルに、楽しそうに。 

「‥‥あの、ランドルドさんでいらっしゃいますか?」
「ああ、お前が連絡のあった女か、役に立つのか‥‥魔法使い‥‥うむ‥‥」
 質問に答えぬまま、男はまるで商品を品定めするような不躾かつ失礼極まりない目でリトを見つめた。
 ランドルド側のお手伝いとして接触してみようと、彼女はセイラムの街にやってきた。
 コネも知り合いも無い状況でランドルドを捜すのにも少し手間を取ったが、幽霊騒ぎで人手が足りなかったのだろうか。
 なんとか屋敷を探し出し、招き入れられていた。
(「あれ? あれは‥‥」)
 豪華な調度品の中に何処かで見たような何かを見つけ首を傾げたリトを、いきなり太い声が呼んだ。
「お前は、幽霊は怖くないか?」
「えっ?」
 聞き返すリトに苛立つように彼は足音を鳴らした。
「ゴーストは平気か、と聞いておるのだ。答えろ!」
「は、はい。モノによりますが‥‥」
「そうか」
 何事か考えると、仕方あるまい、と呟き彼はリトに向かってこう言い放った。
「お前を試させてもらおう。口でならなんとでも言えるからな」
「はい?」
 正直、いい気分はしない。しないが、リトは黙って話を聞いていた。
「ワシは、慈善事業をしている訳ではない。大事な用事があって北の聖母亭に人を送っておるのだ。だが、役立たずどもが直ぐに戻ってきよる。だから3日、あの館で過ごし、ゴーストの様子を探れ。それができたらお前にもっと金になる大事な仕事を任せてやる」
 断りたいと思った。冒険者、いや人間を見下し、金でなんでもできると思っている典型的な悪人だ。こいつは。
 でも‥‥
「解りました。聖母亭のお手伝いに参ります」
「手伝いよりも大事なことがあるのだ。それを忘れるな。ゴーストなんぞ追い出してしまえ!」
 リトは返事をしなかった。だが、断りもせず、ランドルドの紹介状を手に館を出る。
 後ろ手に門を閉めて出てくるリトの姿をヴァージニアと、ジェームスは遠くから見つめていた。

 年の近い少女同士、宿の仕事をしながらリースとフィーナはレティシアと一緒に笑い合った。
 リースはレティシアから離れず一緒に過ごしていた。
 ゴーストにずっと警戒をしていたが‥‥まったく出る様子は無かった。普通の日々が過ぎていく。
 ファーラ指導のシチューを食べながら、レティシアの胸に光るペンダントにフィーナは目を留めた。
「‥‥それ、この間のプティングから出てきたものですわよね」
「ええ、母さんの形見だからあれから、身に着けています」
 手でペンダントを軽く揺らした。
「‥‥これがあれば、母さん達がいつも見ていてくれるような気がして‥‥」
 前よりも少し明るくなった彼女の表情にリースは嬉しくなった。だが同時にある思いが過ぎる‥‥
(「彼女がゴーストでも家族に帰ってきて欲しいと思う気持ちも解る‥‥でも‥‥」)
 今日にはセイラムの街に行っている者達も帰ってくるだろう。
 もし、ゴーストがいるなら、その正体を突き止め開放してあげたい。
(「それは‥‥辛いことかもしれないけれど‥‥一緒に乗り越えていきましょうね?」)
 リースは優しく微笑んだ。

 無人の部屋にフィーナは立つ。飾り気のない静かな部屋。
 レティシアの母の部屋だという。
「何か手掛かりは‥‥あら? これは‥」
 部屋にかけられた若い男性の肖像。その裏に揺れた文字で走り書きがしてあった。
『貴方‥‥そこで、いつまでも私達を守ってください。あんなもの‥預からなければ良かった』
「?」
 意味は分からない。だが、何かが心にひっかかる。
 外に人の気配。
 セイラムに行った仲間が帰ってきたようだ。肖像を置いて彼女は部屋を出た。 

「あ、リトさん♪ 皆さんもお帰りなさい」
 心からの笑顔でレティシアは三人の冒険者を出迎えた。
「遅くなってごめんなさい」
 そう言ってリトは柔らかい笑みを浮かべる。
「正式にここのお手伝いをしたくて、ランドルドさんって方に紹介して頂いたんで‥‥えっ?」
 悲鳴こそ上げなかったがリトは、笑顔を凍らせた。
 突然、現れたのだ。それは。
「どうし‥‥うっ!」
「何‥‥あれ?」
 少し遅れて入ってきたジェームスとヴァージニアも声をリトの視線の先を見て声を失う。
 お客が引けて静かになったホールには冒険者達だけ。
 彼らは仲間を出迎えに来たところで‥‥噂が真実であることを知った。
「‥‥幽霊、幻でも、勘違いでも無かったようだな‥‥」
 仲間とレティシアを庇うようにして立った蒼司の背後で一番最後にレティシアは『それ』を見た。
「‥‥兄さん?」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
 口元に手を当て声を失う彼女と冒険者の耳に、唸るような、くぐもった声が響く。
 それは耳を閉じても聞こえてくる声だった。
『‥‥ランドルドの‥‥手先‥‥帰れ‥‥』
 男のゴーストは、蒼ざめた顔と白い手を真っ直ぐに、リトに向けて伸ばした。
「待って下さい。彼女は敵ではありません」
 スッと白い影が手と、リトの間を遮った。ゴーストはしり込みするように後ずさる。
「ステラさん‥‥」
 ステラは怯えの無い目でゴーストを見つめた。
「鍵のペンダント‥‥ランドルド‥‥ひょっとしたら‥‥貴方の命を奪ったものは、それですか?」
 ざわっ! 髪が逆立つようなそれはゴーストの怒りの気配だったのかもしれない。
『お前達に‥‥何も渡しは‥‥しない。母さんと、父さんの思いも‥‥宿屋も‥‥妹の命も‥‥絶対に‥‥』
 やっぱり、ランドルドは‥‥何かをしたのかもしれない。ヴァージニアとジェームスは思った。
 セイラムの街で聞いたランドルドの‥‥悪い噂。そして、出会った女達はこう言っていたのだ。
『聖母亭で信用を受け、あるものを捜せと命じられました』
 証拠は何も無い。だが‥‥リトとの話からしてもランドルドはこの宿屋から何かを‥‥得ようとしているのだ。
「ゴースト‥‥どうして? レティシアさんに言えない何かがあるの? 教えて‥‥」
 静かな言葉と共に歩み出したのはリトだった。ゴーストに向かって真っ直ぐに手を差し伸べる。
「レティシアさんを守りたいの? それは私も同じ‥‥だから、信じて下さい」
 指先が、かすかに触れた。軽い目眩を感じるが‥‥リトはゴーストに向かって精一杯に微笑む。
「‥‥俺達は、誰もあんたの邪魔をしない。レティシアを見守っていてくれないか? 彼女一人じゃ何処か危なっかしいしな?」
「血まみれの顔はお止めなさい。折角のハンサムが台無しよ」
 蒼司が、ファーラがゴーストにまるで普通の人間のように話しかけた。
「私は‥‥解放してあげたいけど、無理強いはしないわ」
「貴方を縛るものは何ですか? どうか‥‥教えて下さい」
「‥‥兄さん!」
 透き通った眼差し達が『彼』を見つめる。
 現れた時と同じように突然に、かき消すようにゴーストは消えた。
 天に昇った訳ではないことは、彼らにも解った。
 ゴーストが何か思いを残し、明確な意図を持って現れているのだ。
 そして‥‥
「お前は、一人じゃないってことだ。レティシア‥‥」
「はい‥‥」
 彼女は涙した。頭を撫でる硬い父のような手に、失ってしまった存在を思い出したのかもしれない。
 でも、今、自分は一人ではない。
 それを誰よりも深く感じていた。  

 冒険者達の前に『彼』が現れることは無かった。
 平和で、穏やかな時間が紡がれていく。


 やがて期間が終わる頃、ランドルドは報告書を受け取った。
『‥‥ゴーストは現れましたが、一般の人に危害を加えることはありません。問題は無いものと思われます』
 ゴーストはレティシアが昇天させた、という噂もセイラムの街に流れている。
「よし、ならば‥‥始めるか」
 棚の上の古ぼけた小さな鍵を手に彼はニヤニヤと、誰にも見せられない、嫌な笑みを浮かべた。
「待っておれよ。わしの宝。必ず、必ず手に入れてやるからな」