【魔法使いの一族】動き出す意志 地の運命

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 12 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月06日〜05月16日

リプレイ公開日:2005年05月13日

●オープニング

 一人の冒険者が、その男の後を付けた。
 すれ違った時、思わず追いかけてきてしまった。
 怪しい人物と、確証があったわけではない。ただ、気になったのだ。
 その人物の纏う空気が。
 一緒にいた青年と別れると『彼』は街からゆっくり離れ、街外れの遺跡の中に入った。
 人々が、神の祭壇と呼ぶ大きな、いや、巨大といえる環状列石。
(「何を、してるんだ?」)
 その中央で、彼は一人、佇んでいた‥‥。


 一度キャメロットに戻ってきた冒険者達はそれぞれの意見を摺り合わせる。
「自殺? それは絶対ありえない。母さんは、そういう人じゃないんだ」
「街の人たちも、そう言っていましたね。誰も、そう考えないのなら、きっとそうなのでしょう」
「マイトは、それほど悪い奴じゃないように見えたぞ。街の人物からも好かれていた」
「ファーラさんも、話してみれば悪い人じゃないわ。まあ、気は強そうだったけど‥‥」
「何か、調べものをなさっていたようでしたね‥‥。ウィンさん。何を調べておいでだったのでしょうか?」
「叔父さん、嫌いだって‥‥なんでだろ?」
 そんな会話の中で、一人の冒険者がカイトに聞いた。街で見た怪しい空気を纏う人物について。
「‥‥誰か解るか?」
 特徴を聞いて、しばらく考えたカインは顔を上げる。
「一緒に話してた、って相手は多分マイト兄‥‥。もう一人は‥‥俺が、知っている人物と同じなら‥‥それは、多分叔父貴、だと思う。母さんの、弟。俺は、殆ど会ったことないけど」
「マイトは、何か‥‥兄弟が気になる事をしているらしいな。悪い事をするような奴には、見えなかったが‥‥」
「まさか、それが‥‥原因でしょうか?」
「‥‥何だか、嫌な予感がする」
 街、兄弟達、人々、母親、叔父、怪しい人物‥‥そして、遺跡。
 それぞれの情報が、絡み合うようで、まだ何かが足りない。
 焼け焦げた草を弄びながら、冒険者達は顔を合わせた。
「‥‥姉貴や兄貴達、ララも、それぞれ何かを考えている、ってのは解った。だから、兄貴達を責めるつもりは無い。俺は、あの家に‥‥未練があるわけじゃないんだ。家督も財産も何もいらない。元々、俺には其の資格は多分、無いから‥‥」
 寂しげな思いを笑顔でかき消して、真っ直ぐな思いを彼は冒険者に告げる。
「でも、俺は絶対に犯人を探し出す。そして‥‥絶対に敵を討つんだ! どうか、力と知恵を貸して欲しい」
 

 窓の外の、街並みを見て彼は思う‥‥。
 エーヴベリーは小さな街だ。
 人々に愛されて、街の規模の割には豊かだが、もっと皆が幸せになって欲しい。
 だから‥‥。
「‥‥母さんは、きっと許してくれる。あいつらも‥‥いつか解ってくれる」

●今回の参加者

 ea0749 ルーシェ・アトレリア(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea3385 遊士 天狼(21歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5592 イフェリア・エルトランス(31歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

『どうだ? 首尾は‥‥』
「予定通りに。近いうちに必ずや‥‥御身を‥‥」
『期待しておるぞ』

 エーヴベリーにはゆっくりと春がやってくる。
 イギリスの5月は麗しの季節。
 村に溢れる花々の香りを感じながらリース・マナトゥース(ea1390)は微笑む。
「綺麗な村、とっても、ステキな所ですわね」
 心からの言葉に嬉しそうな笑みをカイン・サーガは返した。
「ああ、春から夏のこの街は、虹より美しいと母さんもよく言ってたよ」
「お母様‥‥ホーリィさんは素晴らしい方でしたのですね」
 この言葉には返事は返らない。だがカインの思いはリースにも伝わる。心から敬愛に値する人物だったと。
「なら、なんとしても犯人を探し出しましょう」
 街の人達に聞き込みを始めるリースの背中をカインは黙って見つめていた。

「ファーラさん? 何をしておいでです?」
 館を抜け出そうとしていたファーラ・サーガは声に振り向いた。
「アンタ‥‥イフェリアだっけ? また来たの?」
 呼びかけられた名は名前を覚えてもらった証。嬉しそうにイフェリア・エルトランス(ea5592)は笑う。
「ちょっとピクニックといきませんか?」
 手に提げた籠の布を取ると、焼き菓子が揃っている。
「‥‥何考えてんの? まあ、いいけど」
 くすり笑うとファーラは手で促す。街外れの草原は昼過ぎの光を浴びて輝く。草に腰を下ろし籠の中身を広げた。
 村全体を取り囲む列石の一つが目に入ってイフェリアは声を上げる。
「凄いですわね。こんな巨大な石が見事に並んで‥‥」
「ここに来た人は、皆そう言うわね。私達には珍しくもなんともないんだけど‥‥」
 焼き菓子を一つ、口に運びながら懐かしむようにファーラは呟く。
 周囲に注意を払いながらもイフェリアは彼女に同調するように頷いた。ついでに世間話の口調で聞いてみる。
「お母様はどんな方だったのか聞いてもいいかしら?」
「母さんは優しくて、素晴らしい魔法使いだったわ。昔‥‥私が崖から落ちそうになった時、魔法で駆けつけて助けてくれたの。火の鳥になって空を飛ぶ母さんの姿は忘れない。魔法は、人を守る希望だって教えてくれたのは母さんだもの」
 宝物を抱きしめるような表情のファーラにイフェリアは問う。
「ファーラさん‥‥」
「なに?」
「他のご兄弟が家督を継いだ時に、ファーラさんが考える街の為になることは他の方では出来ないの?」 
「前も言ったけど‥‥別に、家督を絶対! って思ってはいないの。前の‥‥兄さんだったら従ったかもね」
「なら‥‥」
 沈黙した後、ファーラはイフェリアの碧の目を見つめた。
 彼女になら言えるかもしれない。家族には言えないこと。
「誰にも内緒‥‥特に、カインには‥‥」
「? ええ?」
 頷いたイフェリアの耳に言葉が届く。
「兄さんは、騙されているのよ。叔父さんに! 街が滅びるかもしれないのに」

 バササッ。羊皮紙の束が小さな頭上に落ちる。
「ありゃりゃ。ララ姉ちゃ。たすけて〜〜」
「‥‥大丈夫? 天君」
 じたばたと手足を動かす遊士天狼(ea3385)の頭から羊皮紙を落として、ララ・サーガは笑いかけた。
「だいじょぶ♪ でも、ここの本すごいね。むずかしーのいーぱい‥‥」
 母親の書斎で、街の歴史についての書物が無いか調べていた二人だったが、埃と暗さに苦労する。
「‥‥前は、あったはずなのに‥‥おかしいね。これだけ?」
 ララは古い羊皮紙の巻物を取り出した。
「‥‥【エーヴベリーのはじまり】だって‥‥。読む?」
「天、イギリス語の難しいご本はよめなーの。読んで?」
 小さく笑ってララは頷いた。手招きして椅子に座らせるとその横に座って読み始める。
「【古くより自然と共に有り。力を集める神殿の元、豊かなる恵みが与えられん。自然を讃える心を常に忘れず、魔法使いと共にあることで街は生まれ、発展せり】」
「ふむ、ふむ‥‥」
 頬杖を付きながら聞く天狼の様子を時折見つめララは続きに目をやる。
「【なれど欲にまみれた時、恵み失われ、欲にまみれた時、志は失われたり‥‥】あれ? この続き‥‥無いわ」
「どこいったのかな? ねえララ姉ちゃ?」
「そう‥‥ね」
 天狼はふと、ララの顔を見る。
(「隠し事をしていても、何処か表情や態度に出るもんさ」)
 家族の言っていた言葉がふと思い出された。ララの顔は変わらず優しい。だが‥‥さっきの朗読のある下りで彼女が浮かべた何かが天狼には少し、気になっていた。
「【欲にまみれ‥‥】?」
 どういう意味か、彼女が見せる寂しげな顔と共に、天狼はまた暫し考えてしまった。
 頭上にまた何本目かのスクロールが落ちるまで。
「うきゅ‥‥」

「よう!」
 通りの向こうからやってくるリースとカインにジェームス・モンド(ea3731)は手を上げ声をかけた。
 反対側の手には似顔絵のようなものが握られている。カインはふと目を止める。
「あ‥‥これ? 叔父貴?」
「ララから聞いて俺が書いてみたんだが、少しは似てるみたいだな」
 黒髪、黒い瞳、痩せぎすで中年の男が描かれていた。
「さっき、これで聞き込みをしてみたんだが‥‥ん? どうしたんだ?」
 絵を見ていたリースは小さく首を傾げる。
「これが、叔父さま?」
「ああ。俺はここ数年会ってないから確信は無いけど‥‥」
「やはり」
 聞き込みの情報からして、死の直前一緒にいた人物と言うのは特徴から間違いなくこの男の筈だ。リースは直感した。
「そうか‥‥この男は宿屋を点々としているらしい。やっぱり、怪しいな‥‥」
 仮にも同じ血を引くものに対して、一体何を狙っているのか‥‥。
 ジェームスも何か引っかかるものが感じられて仕方が無かった。 

 書斎から本や巻物が持ち出されていると知って、藤宮深雪(ea2065)はもしや、と思った。ルーシェ・アトレリア(ea0749)と深雪はサーガ家の庭に静かに足を踏み入れた。
 丁寧に手入れされた穏やかな空間に似合わぬ剣呑な空気を纏って、ウィン・サーガは書物に目を走らせている。
 二人が近づいても気付かない程の熱心さに少し躊躇いながらも
「お邪魔してもよろしいですか?」
 静かに声をかけた。驚きと共に上げられた顔は、一瞬安堵を浮かべた後、無言と共に下を向く。
 無視とも肯定とも取れる態度にとりあえず、深雪は拒否はされていないものと要件を話す事にした。
 聞いているのか聞いていないのか解らない表情を見せていたウィンの顔が、深雪とルーシェの言葉に段々と顔を上げていく。
「私達は、あの遺跡に何かがあるような気がしてならないのです。仲間があそこで怪しい人影を見たという話も聞いております」
「それに、以前おっしゃったそうですね。マイトさんがお母様との約束を破ろうとしている、と‥‥。どうかどういうことか教えて頂く事はできないでしょうか?」
「‥‥これは俺達の‥‥家族と街の問題だ。お前らにいう必要は無い‥‥」
 言いながらもウィンの顔が何かを感じ取っていることが解る。ルーシェは一度だけ目を閉じ真摯な眼差しでウィンを見つめた。
「これ以上誰かが犠牲になれば、また多くの方が悲しまれるでしょう。気がかりなことは明らかにするべきでは無いでしょうか?」
 カインさんの為にも‥‥。そう結んだルーシェの思いを深雪が引き継ぐ。
「私達に出来ることはお手伝いいたしますから‥‥」
「何か、手掛かりがあるというのか?」
 スクロールを丸め顔を上げたウィンに深雪は微笑むと、一つ‥‥と言葉を繋げた。
「焦げ跡?」
「はい。もし、宜しければ‥‥」
 深雪とルーシェの並んだ瞳は深く瞑想し、そして顔を上げたウィンを見る。彼は思索の後に書物を置いてマントを肩に羽織った。
「さっきの言葉が口だけでは無いのなら来い。後で話してやる」
 足早に振り返らないで歩いていく青年。だが二人は微笑んで彼の後を追いかけた。

 ランタンに火の入った酒場のテーブルの一つで、マイト・サーガは楽しそうに相手に向け瓶を傾ける。
 アンドリュー・カールセン(ea5936)は思いもかけない歓待に少し戸惑っていた。自分は兄弟を仲直りさせる為に来た、いろいろ勝手に調べた、と告げたのに‥‥だ。
「最近ますます弟妹達と上手く行ってなくてな。正直、話を聞いてくれる存在は嬉しいよ」
 寂しさと悲しさの混じったような目をしながらもマイトは笑ってみせる。
「俺はこの街をもっと発展させたい。そして‥‥守りたいんだ。兄弟も、皆を。その為に頑張ってるんだけどな」
 マイトにアンドリューは単刀直入に聞いた。
「何故上手く行っていないと解っていながら、なんとかしようとしない? 約束を破ったとか言ってたらしいが‥‥やましい事ではないのだろう?」
 マイトの口は閉ざされる。否定できない何かを察したアンドリューは話題を変えてみる事にした。
「先日の叔父上、彼も魔法使いなのか?」
 少し考えマイトはああと、頷く。彼か、と。
「風の魔法使いだ。魔法で金儲けをする、とかで家を出されたんだが、今は考えを変えたらしい。魔法力も‥‥っと。しまった」
 話題を切り、彼は立ち上がろうとする。
「叔父との約束があったんだ。今日はこれで‥‥」
「待て!」
 去りかけたマイトをアンドリューは呼び止めた。
「物騒だぞ。良ければ護衛をするが‥‥」
 嬉しそうにマイトは笑う。だが首は横に振られた。
「一人でと約束している。すまない‥‥そして、ありがとう」
 代金を払い店を出るマイトを、アンドリューは黙って見送った‥‥りはしなかった。

 夕刻。巨石の文字を書き写していたエヴィン・アグリッド(ea3647)は目元を軽く押えた。
「今日はこの辺にしておくか。‥‥しかし、変わった遺跡だ」
 エーヴベリーサークルの調査の中思った感想を彼は口にした。
 東西南北に一際大きな石があり、周囲をやはり巨石が取り囲んでいる。
 中央には舞台のような平らな石場があり祭壇のようにも見える何箇所かに文字らしいものが刻まれていた。
「この遺跡は一体‥‥!」
 エヴィンはとっさに列石の石に身を隠した。人の気配がする。
 やってきた影は、気付かずサークルの中央に立つ。
「あいつは‥‥」
 逆光ではっきりとは見えないが、先日ここで見た相手と同じような気がする。
 そんなことを思いながら瞬きした時だ。エヴィンはふと目を擦った。
 夕暮れが見せた魔法? 
 いや違う。確かに男の身体から何かが噴き出し‥‥そしてまた戻っていった。
「あれは? ‥‥!」
 彼の身体に完全に薄黒い靄が吸い込まれた直後、またカンテラの光が街から跳ねてくる。
「また人。‥‥あれは?」
「遅くなってすみません‥‥」
 謝る若い声に、少し太めの声が答える。
「‥‥まあいい。やってみろ」
「はい」
 呪文を詠唱し、影の一つは石場の中央に手を触れた。
 呪文は完成するが‥‥。
「あれ? 効かない。ここは魔力を‥‥! な、何をするんですか?」
 膝を付いていた影の背後から、もう一つの影が伸びて重なる。
「うわあ!!」
 崩れ落ちる影に、エヴィンはとっさに飛び出していた。実は周辺に隠れていた影は一つではない。
 二つ、三つ‥‥。
「何をする! お前は誰だ!」
「マイト! しっかりしろ!」
 とっさに剣を抜くジェームスの横でアンドリューはポーションの封を切って倒れたマイトの口に流し込む。
 背中には深くナイフが突き刺さっていた。滴り落ちた紅い血が、石場に落ち血溜まりを作った。
 その時だ! 地震かと思うほど足元が揺れたのは。
 一瞬で収まったが突然の揺れに身を硬くした冒険者達の先で、人の声とは思えないほど太い声が影の一人から発せられる。
「まだ駄目か‥‥やはり、足りぬ‥‥」
「何だ!」
 抜き去った剣で、影に向かって切り付けようとしたジェームスは、いや冒険者達の視線は突然の暴風に逸らされた。
 目を擦り再び目を開けた時、そこには既に誰もいない。
「あいつは‥‥一体?」
「大丈夫か? しっかりしろ!」
「兄貴?」
 傷を広げないように気を付けながらも意識を失ったマイトに呼びかけるアンドリューは、声に顔を向けた。
 荒い呼吸を肩でして、駆けつけてきたであろう、青年がいる。
 カインではない。マイトを兄と呼ぶもう一人の男、続く二人の仲間。
「お前‥‥ウィン?」
「何があったんだ? しっかりしろ。兄貴! 兄貴!」

 弟の叫びに、兄は答えない。
 絶叫にも似た声が、エーヴベリーの夜に木霊するように、響いていた。