【英雄 仰ぎ見た遠き夢】 凍えた心
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 22 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月08日〜11月18日
リプレイ公開日:2005年11月17日
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●オープニング
「休暇‥‥ですか?」
部下は若い主の顔を見て聞き返した。
彼が仕える様になって短くも無い年月。
王宮を離れる事は幾度となくあるが、ここまで明らかに休暇を取る、などと聞いたのは初めてのような気がする。
驚く部下にああ、と頷くと部屋の主は書類から顔を上げた。
「王の許可は得た。暫く故郷に戻ってくる」
「故郷に? それはよろしいのですが‥‥パーシ様」
円卓の騎士パーシ・ヴァル。彼の率いる騎士団が受け持っていた事件の捜査はほぼ終了している。
悪徳商人の摘発は、思いもかけぬ大量殺人事件へと発展したが、結果としてその組織の全容は完全に白日のものとなった。トップと思われる商人の死によって、今まで黙秘を続けていた部下も組織内の構造から金の動き、活動の一部始終を告白し、一大勢力になりかけていた闇の商人組織はここに壊滅した。
その事後処理もほぼ終わり、残っているのは残務整理だけ。部下達だけでもなんとかなる。
だが‥‥
「どちらに行かれるのかと、何の御用だか伺っても宜しいでしょうか?」
意を決した彼の質問にパーシの表情が変わる。
「‥‥場所はシャフツベリー。用件は墓参りと、ちょっとした野暮用だ。昔の知人に会うことになるかもしれないかな」
「昔の知人‥‥ですか?」
「ああ、つい最近、何年ぶりかに会ってな‥‥」
彼の口調は明るい。だが、懐かしい友に会う。そんな楽しげな様子は微塵も見られなかった。
「とにかく留守を頼む。俺がいなくなるといろいろと風当たりが強いだろうが‥‥」
「いえ、そんな事は‥‥。解りました。お任せ下さい」
ここで初めて微笑を浮かべた主に、若い騎士は頭を下げた。
貴族や騎士とパーシは仲が悪い。その関連でパーシの部下達も突付かれることはある。
それでも、部下達は一人残らずパーシが好きだった。
休暇などと言えば確かに、誰かがネチネチ言い出すだろうが、それでパーシが休んでくれるなら言うまでも無い。
「では頼んだ。事後処理の区切りが付き次第出かける。あと4〜5日というところか」
はいと返事をして部屋を退室した部下を廊下で
「‥‥!」
ある人物が呼び止めた。
「おや? あんたはパーシ卿の」
何度目かになるイギリス騎士の来訪に係員は笑顔を見せた。
「今度は何のようだ? またパーシ卿が城出でもしたか?」
冗談のように茶化す係員に、騎士は真剣な顔で告げる。
「依頼がある。パーシ様を連れ戻してくれ」
「はあ?」
係員は瞬きする。連れ戻す? 冗談のつもりで言ったのにまさか本当にまた城出でも?
驚く係員に騎士は最初から事情を説明する。
パーシ・ヴァルが休暇を取り、故郷に帰るという。
場所はキャメロットの西、シャフツベリー。
彼と同行、もしくは後をつけて彼を必ずキャメロットまで連れ戻して欲しい。
「たかが休暇だろう? どうしてそこまでする必要があるんだ? 相手は円卓の騎士だ? 彼をどうこうできる相手なんてそんなには‥‥」
いない、と言いかけて止める。かつて彼はいくつかの事件で自分の身を危険に晒しても何かをしようとしたことがある。
そして、先だっての暗殺計画と殺人事件。彼の周囲で何かが蠢いているらしいことを冒険者から報告を受けている。
「‥‥ある方から伺ったことだ。パーシ様は円卓の騎士として王に認められる以前冒険者で、その頃、ある事件で奥方とご息女を失っている。その土地があの方が故郷と言ったシャフツベリーなのだと」
そう、一介の冒険者から王国最高の騎士の一人と呼ばれる存在となったパーシ・ヴァル。
素性の知れぬ田舎者と蔑む者さえいる王宮においてその過去を知る者は殆ど無く、その心を知る者はさらに少ない。
王への忠誠と人々への思いは随一であると誰もが認めても。
「我々にとってパーシ様は心から尊敬する人物であり、主だ。だがあの方は我々を頼っては下さらぬ‥‥」
いつも一人で思いを抱え、一人で行動する。誰も傷つけまい、巻き込むまいとするように。何も言わず‥‥。
「だが、冒険者達には違う。時に頼り、時に共に旅さえする。だから、彼らならパーシ様の思いや考えを理解できるかもしれない」
それに‥‥、言いよどみながらも彼は続けた。
「嫌な予感がする。あの方の出立を止める事はできない。だが、このままパーシ様を一人で行かせたらあの方はもうキャメロットに戻ってこないかもしれない」
死ぬ、殺される、という意味ではない。いや、その可能性もあるがそれとは別の意味で、円卓の騎士パーシ・ヴァルを失うような気がするのだ。
そう、彼は一度も部下に言わなかった。『戻ってくる』という言葉を。
「‥‥今、円卓の騎士パーシ・ヴァルを失う訳にいかない。方法は任せる。パーシ様を必ずキャメロットに連れ戻してくれ」
前半はある人物の言葉、だが後半は彼自身の祈りにも似た願いだった。
そして、依頼は受理された。
係員は言う、
「この間の暗殺教団の情報はあまり無い。
ジーザス教黒の過激な一派で暗殺を生業と試練として子供を育ててる。って噂だけ。裏を使って殺し依頼や接触をする奴もいるんだろうが、それは俺たちのような表の側からは難しいだろう。
この間捕まえた子供? ああ、あいつは自害した。
暗殺団が本拠地や情報を晒してたらまあ馬鹿みたいだし、子供であろうと依頼人や組織のことを暗殺団の者がしゃべるはずはない。だから、正直、何も解ってないに等しい。
だが一つ、確かなことは奴らがパーシ・ヴァルのことを知っていて‥‥狙っているってことだ」
それも、昨日や今日始まった因縁じゃないのかもしれない、と係員は言う。
冒険者達が聞いたことが事実であれば‥‥当然ながらパーシ自身もそれを知っている。
問題なのはそれを知っていて、あえて単独行動をするということだ。
今回はキャメロットを離れ、一人旅の空。
目的地が故郷であったとしても、それがただの墓参りであるはずは無い。
ひょっとしたら、かの地に何かがあるのかもしれない。
だとすれば、いかに円卓の騎士とはいえ危険度は倍増する。部下の心配は最もだと聞けば納得するしかない。
あの熱いようで凍えた心は何を求め、何を追うのか。
「教団、って言うほどだ他にも人はいるだろうし、連絡係とかがキャメロットにいればパーシの動きも、下手すればこっちの動きもバレてるかも知れない。‥‥間違いなく安全な旅にはならないぜ」
毒を、魔法を使い、ナイフを使う暗殺者達。通り過ぎる子供でさえも油断できない旅。
命の保障は無い。パーシと同様にそれは冒険者達にも言えた。
「彼はこの介入を望まないだろう。他者を巻き込まない。その為の休暇であり行動だ。半端な気持ちや行動じゃ、あの鋼の意思は砕けない。それを解った上で、知った上で受けると決めたやつだけ行ってくれ」
『円卓の騎士パーシ・ヴァルを失う訳にいかない』
人を思い、国を護る雷の守護者。
円卓の騎士という人々が憧れ、目標とする位置に立つ人物の思いと孤独。
それを知る者、知ろうとする者達が、今動き出そうとしていた。
決意を秘めた男の背中を追って‥‥。
●リプレイ本文
キャメロットの門は出会いと別れ、旅立ちと見送りを常に見つめている。
「心配しないで、すぐに帰ってくるから‥‥」
小さくウインクするとルカ・レッドロウ(ea0127)は軽く身をかがめて恋人の頬にキスをする。
「パーシのこと‥‥ちょっとでも掴めるといいね。あたしはここで、無事を祈りながら待ってるから‥‥」
恋人アリティシア・カーザンスの言葉はルカにとって、勝利の女神の祝福にさえ思える。
「行くぞ! ルカ!」
仲間の呼ぶ声が聞こえる。軽く踵を返して走り出した。
「じゃな、行ってくるぜ」
自分達が見えなくなるまで手を振ってくれる『大切な人』。
ふと、思った。あの男。パーシ・ヴァルには『大切な人』はいないのだろうかと。
「お前達‥‥何をしている?」
開口一番のそれがパーシ・ヴァルの声だった。
「何って、野営の準備。ああ、自分達の事は自分達でするから気にしなくていいぞ。‥‥ああ、ルカ。俺の分も寝袋出しといてもらえるか? 俺も今行くから」
抱えてきた薪を下ろしてキット・ファゼータ(ea2307)はパンパンと手を叩く。野営の準備をするパーシ・ヴァルに先ほどなんとか追いついたところだ。
野営の準備を始めたパーシの側で問答無用で自分達も準備をする。今までワザと無視していたのだろうが、流石にここまであからさまに動くと、流石に無視できなくなったようだ。
セレス・ブリッジ(ea4471)の荷運びの手伝いを終えて、ふと手が止まったのだろうか?
驚いた顔でこちらを見るパーシにニッコリ微笑んで雪切刀也(ea6228)は礼をとった。
「こんにちわ。お邪魔します。我々も、これから仕事でシャフツベリーに行くのです。ご同伴させてもらいますよ。人数多い方が楽しいですしね」
「‥‥楽しい? 俺は遊びに行くわけでは‥‥」
「休暇とってきたんじゃなかったのか? まあ、俺たちも遊びじゃなくて仕事なんだ。内容は秘密。守秘義務ってもんがあるんでな」
荷物を持ち直したキットはそう言って軽い目線でパーシを見る。パーシの表情は驚きから‥‥どこか呆れたような顔へと変わっていく。
「何か不都合でもあるのか? 危険なことでも?」
わざとらしくキットは聞いた。断りはしない筈だ。確証めいた思いに、ため息が吐き出された。
「仕事なら、なおのこと俺などに構っていないで先に進むべきではないのか? そんなに暇なのか?」
そう、わざとらしく言うパーシ。
その呆れたような表情にムッとした表情で何かを言いかけたキットの肩をシャルグ・ザーン(ea0827)は軽く掴んだ。
「それは無論そのとおりだが、せっかくパーシ殿がいらっしゃるのであれば共に過ごしたいと思うもの。良ければ、ご同行をお許し願いたい」
「俺たちがそうしたいからそうするのさ。悪いな、旦那。付き合ってもらうぜ」
小さく、ほんの小さくパーシの鼻と口元が動いたような気がした。それが、ひょっとしたら笑ったのではないか? と思い当たる前にパーシはまたわざとらしく大きなため息をついて見せた。
「やれやれ。せっかくの休暇、堅苦しい宮廷から離れて羽を伸ばせるとおもったのだがな。まあいい。付いて来るというならば勝手にするといい。だが、俺と同行するというのならば、日課に付き合ってもらうぞ」
言って彼は腕を組む。その頬に微妙な笑いを湛えているのが見える。
「日課?」
乾いた笑みを向けられたことを感じつつ、キットはなにかを感じていた。
いわゆる『嫌な予感』というものを‥‥。
ドン!
という音が一番近いだろうか? 鈍い音を立ててキットは草の上に尻餅を付いた。
「イタイ! 少しは手加減しろよ!」
不満げに言うキットの顔の前には鋭い槍の穂先が向けられている。その穂先を追うと、長い柄の先に笑みを浮かべた顔と、軽々とした声がある。
「手加減などしては鍛錬にならん。部下達との相手は鍛錬と言うよりは指導だし、行儀が良すぎる。暇があって同行すると言うのならせいぜいシャフツベリーまで退屈しのぎの相手をして貰おうか?」
退屈しのぎ、その言葉にムッとする。こう見えても自分だって決して弱くは無いのに。
昔に比べれば格段に強くなっているはずなのに。
「くそっ! 見てろ。絶対に一本とってやるからな!」
槍の穂先を手で避けて、キットは立ち上がった。視線でパーシを射る。簡単には負けないという決意をパーシは穂先と一緒に笑いながら払いとばした。
「いい根性だ。強くなりたいと言うのならかかってこい」
「望む所だ!」
木剣を構える。身長差、体格差。武器の間合い。
どちらをとっても不利であるのは変わらないが、それでもキットは真っ直ぐにパーシに向かっていった。
風が唸る。仲間達の見つめる中、疾走するキットを迎え撃つ雷鳴が風と共に奔った。
「くそ〜。あいつ絶対根性歪んでる! 俺ばっかり集中攻撃しやがって〜」
そう言ってキットは草の上に寝転んだ。まだ節々が痛い。
ルカに薬は貰ったがそうでなければ半日は痛んだ筈だ。
コテンパン。
そういう表現しか使えないほど、鍛錬と言った手合わせはキットの惨敗に終った。
「自分より強い奴の護衛なんてやっぱりどう考えても馬鹿らしいぞ! それに協力する俺も大馬鹿だけど、あいつも大馬鹿で、依頼を出した奴も参加した奴も大馬鹿だあ〜〜」
支離滅裂な事を口にするが、意味はなんとなく解る。
「ごくろうさん? なんだかんだで気に入られてるじゃないか?」
苦笑を浮かべながら側に来た仲間はキットの横に軽く腰を下ろす。膨らませた頬はそのままに、キットは身体を起こして頭上の仲間に問う。
「ルカ。向こうは、大丈夫そうなのか?」
「ああ、他の連中がついてるし、今のところは周囲に人影は無いみたいだ。目くじらたてるほどの心配はまだ無いだろう」
それならいい、とキットは顔を背けた。
「まったく、パーシにばっかり気を取られるわけにはいかないのに容赦なくやりやがって!」
ハハハ‥‥笑うルカに膨れるのはここまでとキットは真剣な顔になった。
「で、どう思う‥‥ルカ?」
「シャルグのおっさんが言ってたけど、やっぱり、何か心当たりがあるからこそ動いてるって感じだな。でも、彼自身はそれほど危険を感じてはいない。まあ、あの実力なら本当にそうそう危険は無いんだろうけどな」
「あ〜あ、やっぱり自分より強い相手の護衛なんて馬鹿だよな〜」
拗ねた呟きをルカは軽く流した。
「どうする? やっぱり、本人に聞いてみるか?」
「それが、一番かもしれないな」
後で、仲間達にそう伝えておこう。思いながら立ち上がって体の埃を払うと、忘れかけていた身体が痛む。
これが、まだ当分続くのかと思うとほんの少し、ため息が出てきた。微笑みと一緒にキットの口元から。
その頃、シャフツベリーは動乱の最中にあった。
「ここが、シャフツベリー? 話に聞くより、ずっと殺気立ってるね。村の人たちこんな様子見たらどう思うだろ‥‥」
ティアイエル・エルトファーム(ea0324)はふと、そんな思いを口にした。
農業と彫金を主な産業とする、穏やかな街と聞いていたのに。不安になってそっと触れた髪に銀の髪飾りが揺れる。
「前に来た時とは、大分様子が変わりましたね。以前は、本当に穏やかで優しい感じだったのに、なんだか荒々しい感じさえしますよ‥‥」
かつての街を知るアルテス・リアレイ(ea5898)は苦々しい口調でそう言う。
確かに街は変わっていた。領主への謁見も今は、完全に閉じられている。
領主が呪いに侵されていて、その後、行方不明。
軍備の増強や、傭兵部隊の雇用などが大きくなされている中、だが、今はシャフツベリーに集った者達はそれをあえて無視し、別の情報を集めることにした。
別の情報、それは即ちパーシ・ヴァルの過去を。
あまり大っぴらにならないように、街を騒がせないように。
シスイ・レイヤード(ea1314)は仲間達と街で聞き込みをして歩いた。
知らない、という者もいた。それどころではない、と相手にしてくれない者も多い。
だが、何人かの人物は覚えていた。彼らは特にパーシ・ヴァルの名に反応する。
円卓の騎士としての名声ではない。一人の人間として彼を知っているというのだ。
「パーシ・ヴァル? ああ、あの子の事は覚えてるよ。気の毒なことをした‥‥」
その中の一人、武器屋の店主は言いながら寂しい顔をする。
「気の毒? どういうことか伺ってもよろしいですか?」
丁寧な夜枝月奏(ea4319)に彼は頷いて話してくれた。彼にとっても忘れられない事だと、言う。
「今から、七〜八年は前になるかね‥‥。街外れの遺跡に、変な奴らが住み着いたことがあったんだよ。そいつらは自分達は神に選ばれた者だ、とか言って偉そうにしてたジーザス教黒の信者達だったさ」
ウィルトシャー地方には大小さまざまな遺跡がある。彼らが根城にしたのも、そんな古い神殿の一つだったらしい。
別に誰も気に求めなかった。最初のうちは。
「そこを拠点に、彼らは布教活動を始めた。だが、この地は聖杯と聖人の伝説が残ってるくらいジーザス教白を殆どの民が信じている。だから、だ〜れも黒教徒の話なんか聞かなかった。で、奴らはどうしたか‥‥」
解るかい? と聞かれて黄安成(ea2253)は首を横に振る。
「いいや。解らぬ。どうしたと言うのか?」
「‥‥聞いてくれる奴を集めたのさ。まだ、信仰の弱い子供達を集めて、自分達の言うなりになる部下を作ろうとしたんだろうよ」
家族の無い孤児、浮浪児などを集めているうちはまだ良かった。
だがそのうち、彼らはエスカレートする。
既にいる『孤児』だけに飽き足らず、自ら『孤児』を作っても『孤児』でなくても構わないと、子供達を集め始めたのだ。
そこまで来ればもう、完全な誘拐である。
「子供を攫われた親たちは領主と、冒険者に調査を依頼した。領主の命でそれを引き受けたのがパーシ・ヴァルだった‥‥」
当時彼はまだ二十歳前。
調べていくうち、その教団は黒の教義を曲解した過激な一団で、人に試練を与えるという名目で暗殺を生業としていたと知る。
幾人かの犠牲を出しながらもパーシ・ヴァルは程なく真相をつきとめ領主の部下と共に遺跡に踏み込んで教団の者たちを捕らえ、子供達を無事解放することに成功した。
「結構、酷い戦いだったらしい。教団の殆どは逮捕を拒んで殺されるか自殺したとか‥‥いろんな噂があったけど、遺跡から怪しい連中がいなくなって街が平和になった。と思った直後だったよ」
言いよどむ店主の顔を見る冒険者に、ぼそり、小さく彼は言った。
「パーシ・ヴァルの妻と子供が惨殺されたのは‥‥」
「ざ、惨殺ですか?」
こくり、と冒険者の喉がなる。
「ああ、理由とか事情は解らない。いろいろ冒険者として恨みをかうこともあったらしいからな。例の事件の直後だったから教団の残党がっていうのが一番ありえる話だったかな? その後、パーシ・ヴァルを街で見た奴はいない」
「なるほど‥‥、そういう事だったのですか」
街外れの墓地にやってきたアルテスは小さく呟く。
「知ってたの? アルテスさん? あ、ダメよ。アスティ? お花弄っちゃ?」
秋花の籠を手に提げて隣を歩くティアイエルはふと、アルテスの顔を横に見た。
「知っていた訳ではありません。ただ‥‥」
吐き出す息のように静かにアルテスは仲間達に説明した。
かつて、聖人探索の仕事を受けた時、パーシ卿と一緒に行動した。その時、パーシは『ヴィアンカ』と言う名前を口にし、この地の領主であるディナス伯はその『ヴィアンカ』を死なせたと彼を罵倒した。
「『キャロル』と『ヴィアンカ』でしたか。パーシ卿が死なせたと言われた人物は‥‥」
「『キャロル』は領主様の妹の名前だった、っておばさんたちが言ってたよ。大分前に家を出て、亡くなったって。あ、こっちこっち」
「墓守の老人は、こちらが『キャロル』と『ヴィアンカ』の墓だと教えてくれたのじゃ。『キャロル・ヴァル』『ヴィアンカ・ヴァル』‥‥まず間違いはなかろうて」
人の殆ど訪れない墓は寂しげに佇んでいた。冒険者達は花を供え、祈りを捧げる。
「『ヴィアンカ』が娘‥‥。なら、どうやら‥‥最悪の考えは‥‥免れそう‥‥だ。でも、あの壮絶な‥‥覚悟の色は‥‥一体?」
悩むシスイの横で秦はそっと目を閉じる。
「奥方‥‥。私の言葉にどうか、力をお貸し下さい」
祈る秦の耳に、風の音が微かに流れていった。
シャフツベリーに近づくにつれ、パーシは全身の感覚を確かめるように周囲の様子を探る。
「何か‥‥あったのか?」
街の様子がどうもおかしい。剣を持った男達が歩きまわり、周囲が殺気立っている。
「嫌な感じだな。伯爵に‥‥何かあったのか?」
呟きながらパーシ・ヴァルは街への踏み込みを避けて迂回するように郊外へと足を運ぶ。
行く先を聞いて街を突っ切った方が早いのではないか? と思ったが刀也はあえて言わなかった。
キットと一緒にさりげなくパーシから離れて、先を行く。
この先は以前アルテスが言っていたパーシ卿の持ち物の家、その近くには墓地があるらしい。
待ち合わせに最適だろう。先行隊は気付いてくれるだろうか?
「キット。頼むぞ」
「任せとけって! いけ! カムシン!」
鷹が軽い声を上げながら空を行く。
冒険者だけではなく、パーシも、見ていた者も気付いただろうか?
空を舞う鷹が何かの始まりを告げているのを。
街を迂回するようにやってきた一行は、目的地の一つ。墓地の前に数名の集団を見る。
「街に足を踏み入れるな、と言われてそれを守っておられるわけですか。騎士の鏡ですね。パーシ卿、お久しぶりです」
頭を下げるアルテスだけではない。全員、いや一人を除いて見覚えのある顔達。
「お前達は‥‥」
言いかけて思いついたのか、ああ、と苦笑交じりにパーシは腕を組む。
「‥‥なるほど。またあいつらの差し金か。やれやれ、心配性の部下を持つと苦労させられる」
「そういうことは言うものではありません。彼らは本当に貴方のことを思っておられるのですから」
弁護ではない、純粋な思いで秦は言った。同行を求めた騎士はパーシ・ヴァルに留守を任されたから、その信頼を裏切れないと言った。
本当なら一番付いてきて、パーシの側にいたいのだろうに。その気持ちも解るだけに言っておきたかった。
「ただの休暇だと言っておいたのにか? お節介にも程があるぞ。後で叱っておかないとな」
「後で、と言ったな。ちゃんと帰る気なんだな?」
何気ないルカの言葉にパーシの軽口は止まる。
「とにかく邪魔はするな。命がいくつあっても足りんぞ‥‥」
冒険者達を後ろに残し、冒険者達の横を抜け、パーシは墓地に入っていった。
静かに、彼らはその後を追った。
掃除され、花が添えられた小さな二つの墓石をパーシは無言で見つめた。
黙ってその後ろに立つティアイエルは、ふとその上に乗る十字架に気付く。
「あれ? この十字架、前からあったっけ?」
「いや。無かったように思うが‥‥」
安成も考えるように首を振る。ありふれた銀の十字架だ。
「ちょっと貸してくれよ‥‥。あれ? こいつって‥‥わっ!」
突然ひったくるようにティアイエルからキットに渡った十字架はパーシの手に移る。
裏を返し、血が出るほどに手を握り締めて‥‥。
キットは無言でパーシの手元を見る。そして、ティアイエルに目配せした。先行する仲間に預けた銀の十字架。彼は同じものを二つ持っている。
違いは殆ど無い。ただ、一つには裏側に十字の印が刻んであるだけ。
そして、今見つけた十字架も、同じように裏側に十字の印が刻まれていた。
「‥‥それって、まさか」
パーシは答えなかった。無言で、唇を噛み締めながら墓石を見つめているだけだった。
その夜、冒険者達は近くの森で野営をした。
この近くにはパーシの持ち物である家があるはずだが、灯りが灯っていたのを見て彼は立ち入りを避けた。
代りに周囲の様子を調べ、情報を集め‥‥何やらシフール便も送ったようだが、詳しい事情を彼は語らなかった。
とにかく屋根の下での宿泊をパーシはしない。故に冒険者も、一緒に野宿となる。
「冒険者なら野営の準備くらいは常にしておくものだ」
寒空の下、防寒具も毛布も持たない少女へ、ぱさりとパーシは毛布を肩に投げた。
「あ‥‥ありがとう」
「ほら、シスイも」
「すまないな」
仲間同士で貸し借りしながら、寒さを避けて炎を囲む。
周囲に警戒をしながらもふとほのかな安殿の時間がある。
だが、その輪から離れて木に身体を預けて目を閉じる騎士に目が向く。
確かな存在感を持っているのに、今にも消えてしまいそうな儚さを感じるのは何故だろうか?
「‥‥パーシ殿」
決意したように、シャルグは立ち上がりパーシの側に立った。軽く一瞥してパーシはまた目を閉じる。
「なんだ?」
拒否するような行動。だが、否定されたところで退く事はできない。相手を傷つけるかもしれないことを承知の上で、彼は聞いた。
「パーシ殿、暗殺教団の者と面識があるようであるな。貴殿は『やはり、あの時、殺しておくべきだったのか』と言った」
「忘れろと言った筈だが? ‥‥まあ、ムリか」
パーシの目が開き、どこか苦い表情を浮かべる。
「もしや貴殿は一度暗殺教団をうち倒したのであるか? そして、その生き残りがあの女司祭‥‥」
「人の過去に興味を持つのはあまりいい趣味ではないぞ」
「趣味とか、そういう問題じゃない。もう解ってんだろうけど、俺たちはあんたの護衛に来た。その目的を知りたいだけだ!」
真っ直ぐに自分を見つめる目に、パーシは微かに目元を歪める。
「冬の夜は長い。暇なら馬鹿な男の話をしてやろう。人を守り、国を守る。そんな騎士に憧れた馬鹿な男の話だ」
そう言って彼は炎を見つめた。燃え上がる炎は、子供の頃の思いに似ている。
熱い思いを抱いた、遠い夢と‥‥。
「おい! 皆、起きろ!」
夜も密やかに深まった頃。
毛布や寝袋に包まった冒険者達は身体全体を揺さぶる衝撃と共に目を覚ました。
「あ、ルカ‥‥」
「パーシが一人でどっかに行った。何かしでかすかもしれないだろう!」
寝惚け眼だった冒険者達は飛び起きて武装を固める。
「‥‥刀也が追ってる。俺たちも行くぞ!」
頷いて森を駆け抜ける。気配を消して刀也の残した目印とルカの嗅覚で追いかけていく。
やがて、冒険者達は動きをさらに潜め、息を飲み込んだ。
刀也が草陰に身を隠しながら指を静かに唇に立てている。安成は、近寄ろうとする仲間達を一度押し留めて刀也を見つめた。
「泰山府君」
「其は我也。‥‥俺はいいけど、この合言葉、皆は言いにくくないのか?」
その様子にシャルグも剣の構えを落とす。仲間に敵が化けていないかと心配だったのだが流石にここまでの対応を偽物はできまい。
安心した様子の仲間達に刀也はもう一度、唇に指を立てる。
森の奥。古い教会のような遺跡に月光を浴びて立つパーシ・ヴァル。
その前には一人の女が立っていた。
「やはり‥‥ここに来たか。お前が俺の前に現れた。それが宣戦布告というのであれば、再会はここだと思っていた。‥‥テイニス」
感情の薄い声で彼は目の前の唯一人を目を離すことなく見つめている。
その視線をどこか嬉しそうに彼女は受け止めていた。
「ええ、ここは私が死んで、そして生まれ変わった場所ですから‥‥。手の者から、貴方がこちらに伺ったと聞いて参りましたの。随分、楽しい旅をしておられたようですわね」
ご一緒していらしたのはお仲間ですか? その問いに即座にパーシの首が横に動いた。
「! あいつらは関係ない。手を出すな」
断るならこの場で、槍を握りなおした手が音を立てる。
驚きながらも彼女は微笑を崩さない。
「私達が求めるのは賢人の輝きを持つもの。賢人である貴方に見込まれた者達なら試練を与えてみてもいいですわね」
「止めろ!」
パーシの槍が空を薙いだ。身体を揺らして女は身を避ける。
彼自身も本気の攻撃では無かったのだろうが、女の回避能力は優れていると冒険者達には見て取れた。
彼女が魔法を詠唱し、パーシは槍を構え対峙する。空気が凍るような錯覚さえ感じる中。
二人を見つめていた冒険者達は気付いた。彼女の後ろ、自分達と同じように二人を見つめる者の存在。
「待て! ダメだ。パーシ!」
「‥‥!」
一瞬の後、大気を切るはずだった魔法と、攻撃は共に空に散った。
二人の間に放たれた茶色の衝撃が空気を切り裂き、同時に背後に下がった二人にそれぞれ、駆け寄る影がある。
「お前達‥‥」
「お一人で行かないで下さい。私達ももう無関係とはいえませんよ。許せないあの現場を見ていますし、あなた一人の問題は無いですので」
「それに見て下さい。パーシ卿。もし今、攻撃していたら!」
アルテスは女の方を指し示す。自分たちが様子を見ていたように彼女の事を見守り、事あらば盾になろうとしていた、あれは‥‥。
「子供を盾にするつもりだったのか?」
「盾になどはしません。ただ、この子達は自ら私を守ろうとしてくれたのでしょうけど‥‥」
問い詰めるシャルグにくすくす、彼女は笑って答える。その前に立つ子供は二人、先の子とはまた違う少年二人。
「パーシ様。私達と子供達は繋がっておりますの。かつての私と父たちのように‥‥」
パーシは答えない。ただ、唇を噛み締め前を見つめるのみ。眼前で微笑む黒き女を。
「私を殺しますか? 仇、ですものね。恨んでおいででしょう? でもあの時、確信しました。貴方こそ我らが捜し求める真なる賢人の一人であると‥‥」
冒険者達の脳裏に昨夜のパーシの話が蘇る。
自らの旅立ち。妻との出会い。そして‥‥暗殺教団との戦いのこと。
『‥‥俺は生死を賭けた戦いの中、一人の少女を見つけた。誘拐されたシャフツベリーの子じゃない。教団の娘。教団は壊滅状態。血飛沫の中、家族を失い放心状態だった彼女を放っておくことも、殺すこともできず、俺は連れ帰った。妻に預け、娘と思おうとした。
結果‥‥全てを失った。初めて愛し、愛してくれた人間。何も知らなかった俺に知識と全てを与えてくれた妻。命を分けた娘。そしてやっと仲直りできると思いかけた新しい家族も‥‥全て』
目の前の女は、自分を救ってくれた者、受け入れてくれた者の家族を殺した者。
自らの信じるものの為に。
「キャロルはそれでもお前を家族と思っていた。ヴィアンカもきっと‥‥」
擦れる様な声で彼は指に力を込めた。そうしないと、槍が手から離れる、倒れると言う様に‥‥。
「ええ、ヴィアンカは可愛い私の妹ですわ。昔も、今も‥‥」
「何!」
それは驚愕という一瞬、生まれた隙だった。彼女の側に控えていた少年が一人、ナイフを握り締めて駆ける。
冒険者の間をすり抜け、パーシに向かって。
「危ない!」
パーシ・ヴァルに生まれた隙は刹那。鍛え上げられた戦士の魂が殺意に反応し槍を持ち直す。
少年のナイフが胸を狙う‥‥。それに向かって
ザクッ!
鈍い音が空気を裂いた。
少年のナイフは身体と共に地面に落ちた。
パーシの槍の穂先は天を向いている。女司祭の足元にはナイフが突き刺さり、行動を止める。
ナイフを投げたのはルカ。
血に濡れていたのはシャルグの太刀。そして少年の胸を貫くはずだった槍をその木剣で逸らしたのは‥‥キットだった。
「動くな。動いたら、何が有ろうと殺る。俺は本気だ」
「‥‥まだ、死んではおらぬだろう。この少年もパーシ殿の心も、そなた等には渡さぬ!」
ルカとシャルグは女司祭をにらみ付ける。視線で動きを封じようとするように。
逆に、キットはパーシ・ヴァルをにらみ付けた。揺ぎ無い目で。
「パーシは国の象徴だ。手を汚す役目は俺達でいい」
くつくつと、その様子を見ていた女司祭、テイニスは笑い、側に残った少年を手元に引き寄せた。
パーシの足元に倒れた少年には、一瞥もしない。
「面白いですわね。貴方方もその行動、考え、希少で賢人の輝きを感じますわ。‥‥パーシ様。お言葉には添えません」
「テイニス!」
微笑みながら彼女は踊るように後退していく。それを逃がすまいとパーシと冒険者が踏み込むが‥‥
「私が戻りませんと子供達は抑えられませんわ。無論、ヴィアンカも悲しんで何をするか解りませんわね」
足が凍りつき、それ以上動けなくなる。
「私達を追っていらっしゃるなら、ウィルトシャーの北。巨石に守られた街においで下さいませ。我々はパーシ様、そして皆様のおいでをお待ちしていますわ」
呟かれた呪文は二つ。やがてその呪文は二人の身体を変えて、空に飛ばす。
アルテスの治癒と薬で、少年は命を取り留めたようだ。今度は自殺などされないように注意しなければならない。
刀也は少年を抱き上げ、横を見る。
微かにパーシは微笑んでいた。少年を見つめて。
自らの心を鋼にしても、人を守る時に人を切り捨てる。
だが彼は今、純粋に一人の少年の命がある事を喜んでいるとその瞳は言っていた。
馬鹿な男、とパーシ・ヴァルは言った。
農家の子として生まれ、育ち、命を救ってもらった騎士に憧れて何も考えず家を出た子供。
身分違いも考えず一目ぼれして、無骨なアタックで貴族の娘の心を掴み、苦労などいらない家を出させてしまった無知な男。
大切な者を守れる存在になりたいと願いながらたった一人を見捨てることができず、結果として全てを失った過ちと悔いを抱く冒険者。
戦いでの被害を少しでも減らそうと、従軍した戦争で誰よりも敵を打ち倒し、王に見出され、結果、思いもかけぬ形で夢を叶えてしまった円卓の騎士。
憧れ望んでも多くの者が辿り着けぬ地位に立ったが故に、彼は、自らの心や思いを凍らせて国を守るただ一振りの剣になろうとしている。
「パーシ殿。友人からの伝言です。『許してほしいと言うことさえ許されない人なんて居ない』」
それは‥‥。否定しようとしたのだろうか。何かを言いかけたパーシの言葉を秦は遮った。
「否定しないでやってもらえませんか。彼女もきっと心の中で同じ事を思っていると思います。それでもこの言葉を彼女の口から聞きました。‥‥もしこれを否定されたら彼女も許しを求めることを許されなくなってしまう」
「己を許せるのは己自身。振り返ってもいい。立ち止まっていい。でも前を向いて進むことを忘れては、諦めてはいけない。それが生きるということだと、思うから‥‥」
思いを込めたティアイエルの祈るような言葉を噛み締めるように、パーシは聞いていた。
立ち尽くしていた遺跡にも、朝の光が差し込めている。どんな闇にも、光は指すのだ。
「ほら、ぼーっとしてんなよ。とりあえず、キャメロットに帰るぞ。パーシ! ルカ。そっち頼む」
「解った。シスイ。ほら、これ!」
「お、おい! こら!」
ぐいと見上げるような体格差の右手をキットは全力で引っ張った。反対側の手はルカが笑いながら引く。槍は背後に立つシスイに投げられ、彼はよろめきながらもキャッチする。
「前を見るのは良い事です。後ろを見るのも時にはいいでしょう。でも、今、周りと足許を見るも大事だと思います。
貴方はパーシ・ヴァル。人々を守る円卓の騎士であり、折れては為らないこの国の剣であり、盾です。
だから、何でも一人で背負い、死に急ぐような事はしないでください。貴方の為だけじゃない。貴方が支えている多くの人の為にも。そして、貴方の仕える国王の為にも。皆、貴方を必要としてるんですから‥‥」
背中を便乗して刀也が押す。
「肩肘張らずに、顔でも洗って周りを見るとまた違うもんですよ‥‥俺も人のこと言えませんがね」
アルテスやセレスもそんな様子を楽しげに見つめている。
賑やかな若い笑い声たちを、シャルグと安成は見つめながら腕を組んだ。
今回の事は、文字通り挨拶。宣戦布告。これからが、本当の戦いになる筈だ。
「巨石に守られた街‥‥。それに司祭の妹『ヴィアンカ』」
女司祭の残した言葉の意味は、彼らにも解っていた。
だからこそ一つの決意をそれぞれの胸に固める。
「決してパーシ卿の手にかけさせてはならない‥‥」
「ああ、もし、それが必要なときは、わしらの手で」
今は、なんとか守ることの出来た心、そして笑顔。
友と笑い合う国の剣。
「例え、彼に憎まれたとしても」
円卓の騎士、ではない。一人の人間、パーシ・ヴァルを失わせていけないのだと彼らは誓っていた。
彼らは戻る。
キャメロットへ。そこは平穏待つ地ではない。
これからも、彼らの上には試練と、運命が過酷に降るだろう。
だが、きっと乗り越えられる。いや、乗り越えなければならない。
そして‥‥円卓の騎士は帰還した。
何かを、見失いかけた何かを心の中に強く抱きしめて。