●リプレイ本文
●見廻り組
「まさかここまでの大事とは思わなかったよ‥‥。いくら神の使命とはいえ、人としてこれは止めなくちゃいけないと思うからね。この平和と秩序の証に誓っても!」
虎長暗殺を企てている沖田総司を止めるため、ランティス・ニュートン(eb3272)が仲間達を連れて見廻り組に接触を図ろうとした。
「命を懸けても止めなくてはなりませんね。‥‥沖田組長の暴走を」
焼いた黒ずませた手裏剣を握り締め、ティーゲル・スロウ(ea3108)が辺りを睨む。
謎の集団に遭遇してからというものの、何者かに監視されている気がするため、ずっと嫌な予感がしているらしい。
「‥‥どうやら監視されているようね」
相手に気づかれないようにして真っ直ぐ前を見つめ、鷹神紫由莉(eb0524)が警告まじりに呟いた。
「クククククッ‥‥、私達に警告しているというわけか。妙な真似はするな、とな」
謎の集団の正体が虎長暗殺計画に絡む勢力の者だと考え、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が怪しくクククッと笑い出す。
「‥‥随分と大きな勢力が動いているようだな」
巧妙に張り巡らされた蜘蛛の糸に捕らわれたかのような感覚に襲われ、ランティスが苦笑いを浮かべて汗を流す。
このまま見廻り組と接触すれば、さらなる被害の拡大に繋がる恐れがある。
「何事も慎重に‥‥という事ね。とにかく追っ手を撒かない事には話にならないわ」
警戒した様子で仲間達に合図を送り、紫由莉がわざと花街のある方向にむかう。
謎の集団の正体が分からぬ以上、迂闊に動けば自殺行為になるからだ。
●黒虎隊
「‥‥何だか面倒な事になってきたな」
次から次へと事件が起こっているため、里見夏沙(ea2700)が疲れた様子で溜息をつく。
要人暗殺の時間と沖田が外出していた時間がほぼ一致しているため、彼が犯人である可能性が高いのだが、いくつか気になる点がある。
それは本当に沖田だけが要人暗殺を行っていたかという事だ。
「どちらにしても、沖田さんを止めにゃこの国が戦乱の世の幕開けだな。気ィ入れて行くか!」
自分自身に気合を入れ、氷川玲(ea2988)がニカッと笑う。
この事件には色々な思惑が絡んでいるようだが、今はそれを考えているほど余裕はない。
「いつの間にか、つけられていたようだな。‥‥刺客か。それとも‥‥」
背後から異様な気配を感じたため、白河千里(ea0012)が刀に手を掛ける。
本当なら、このまま黒虎隊と接触するつもりでいたのだが、後ろの者達を引き連れて話は出来ない。
「‥‥とっ捕まえて、雇い主を聞くか」
含みのある笑みを浮かべ、夏沙が曲がり角を曲がっていく。
「いや、ここだと人が多過ぎる」
背後を警戒したまま小さく首を横に振り、千里が黒虎隊とは合流せずに、人気のない場所へと移動する。
敵の正体が分かっていない以上、何処で斬りかかってくるのか、分からないからだ。
●近藤局長
「‥‥どうも臭うな。沖田組長の言葉といい‥‥正体不明の集団が言っていた言葉といい‥‥何か引っかかる‥‥」
沖田の名前を出さずに虎長の暗殺計画がある事を近藤局長に報告し、八幡伊佐治(ea2614)が険しい表情を浮かべて腕を組む。
伊佐治達が動けば動くほど、何やらキナ臭い動きが漂ってきているため、誰かの罠に嵌められたような気がし始めている。
まるで蜜蜂が花粉を運ぶようにして‥‥。
「それじゃ、まさか私達が動く事を予め予測していた者がいるという事ですか?」
ハッとした表情を浮かべながら、ミラ・ダイモス(eb2064)がダラリと汗を流す。
ただでさえ京都が混乱し始めているのに、虎長暗殺計画の噂が町に流れれば、更なる混乱が巻き起こるのは間違いない。
「‥‥その可能性が高いな。京都が混乱した方が都合のいい奴もいる。この混乱に乗じて動き始める勢力も要るだろう‥‥」
散らばっていた欠片を合わせていくうちに、自分達が踊らされているのではないかという不安に駆られ、伊佐治が拳をギュッと握り締める。
例え沖田の捕縛に成功したとしても、予め予防線を張っておかねば、謀反として付け込まれ、窮地に立たされてしまう事までは予測していたが、敵はそこまで予測した上で情報をばら撒いていた可能性も高い。
そして、沖田があの時に『自分を斬れ』と言った理由がようやく分かり始めてきた。
「‥‥沖田組長」
しかし、いまさら後戻りをする事が出来ない事は、ミラにも分かっている事だ。
ここで別の勢力が動いている可能性を示唆する事は、団結しつつある隊に亀裂を生じさせる危険があるのだから‥‥。
●男
「一体、誰に雇われたんだっ!」
自分達を見張っていた不審者を捕まえ、天螺月律吏(ea0085)が民家に連れ込み尋問する。
虎長暗殺を企てる沖田を止めるため、無理を言って民家を借りておいたのだが、まさかこんな使い道をする事になるとは律吏自身も予想をしていなかった事だ。
「知らねぇよ! 俺はお前達の行動を逐一報告しろって言われただけだ。依頼主の顔も見ちゃいねえし、どんな目的があってお前達の行動を調べているのか、分かってねーよ」
大粒の汗を浮かべながら、律吏達を追いかけていた者が必死になって言い訳をした。
「依頼主とは何処で会うつもりだったんだ。まさか報酬なしで動いているわけじゃないだろ」
男の言葉など全く信用はせず、鷲尾天斗(ea2445)が胸倉を掴み上げる。
「そ、そういや聞いてなかったな。へへっ‥‥」
引きつった笑みを浮かべながら、男が気まずく視線を逸らす。
本当に何も聞いていなかったのか、身体を小刻みに震わせて‥‥。
「その言葉‥‥嘘偽りはないのだな?」
今にも刀を抜きそうな勢いで、律吏が男に迫っていく。
「う、嘘じゃねえよ! 本当だって!」
怯えた様子で律吏を見つめ、男がボロボロと涙を流す。
「‥‥仕方ない。しばらく身柄を拘束しておくか」
男の身体を縄で縛り、天斗が疲れた様子で溜息をつく。
一体、誰に雇われていたのか分からないが、このまま逃がしてしまえば作戦に支障が出てしまう。
例え男が何も知らなくても‥‥。
●巡回
「敵の正体は未だに不明‥‥。新撰組内部ではないにしろ、敵の勢力と思われる集団が京都内で暗躍している可能性が高くなりましたね」
定期的にオーラエリベイションを使いながら、ミラが伊佐治を守るようにして辺りを警戒した。
一番隊以外にも情報を流す者達がいたのか、京都の街はピリピリとしており、辺りには嫌な空気が漂っている。
「僕達が動かなければ、暗殺が決行実行され、逆に僕達がこのまま動けば、敵にとって都合のいい状況を作ってしまう事になるわけか。どちらにしても最悪の形にしかならないのなら、なるべく被害を少なくしないとな」
喉元に刃物を押し付けられている感覚に襲われながら、伊佐治が険しい表情を浮かべて溜息をつく。
今のところ誰にもつけられていないようだが、夜が明けるまで油断は禁物である。
「再びジェロニモは現れるのだろうか? もし現れるのなら聞いてみたい事があるのだが‥‥」
屯所から逃亡を図ったジェロニモが未だに姿を現さないため、パウル・ウォグリウス(ea8802)が辺りを睨む。
沖田の所有している剣が『天空の剣』であるのなら、何らかの形でジェロニモが関わっている事は間違いない。
「今回の暗殺計画、黄泉人事件、ジェロニモと謎の剣‥‥。すべてが一本の線で繋がっているのかも知れませんね」
おぼろげに事件の真相が見え始めてきたため、ミラが頭の中で自分なりに事件を纏めてみる。
少なくとも自分達は真相まで辿り着いていないのだから‥‥。
●鳴子
「‥‥今のところ異常なしか」
まわりが寝静まった頃を見計らい、スロウが鳴子を設置し始めた。
剣の力を得たせいで沖田は人並み外れた力を得たため、鳴子が役に立つのか不明だが、何もしないよりはマシである。
「少し目立ち過ぎないか‥‥?」
今回の依頼は出来るだけ内密に行う必要があったため、テスタメントがボソリと呟いた。
「いや、今回の件に関わっているのが、沖田組長だけならまだしも、他にもいくつかの勢力が動いている可能性がある。そいつらに対して牽制にもなるからな」
何か引っかかる事でもあるのか、ランティスが険しい表情を浮かべて腕を組む。
複数の勢力が絡んでいる可能性が高い以上、纏まって行動するのは危険である。
「‥‥今夜は寒いな」
真っ白な息を吐きながら、テスタメントが辺りを見回した。
虎長暗殺の噂が流れているせいか、京都の街はやけに静かである。
「とにかく沖田隊長の事は仲間達に任せて、今は警護に全力を尽くすとしよう‥‥隊長の動き自体がフェイクで、本隊は別という事も考えられない訳じゃないからね。もちろん、沖田隊長の意志ではなく、利用しようという輩がいるんだろうが‥‥」
そう言ってランティスがゆっくりと歩き出す。
事件の裏で糸を引いている黒幕の正体を探るため‥‥。
●包囲網
草木も眠る丑三つ時。
一番隊による沖田の捜索は続いていた。
「一番確率が高いのは、やはり虎長公が領地に戻ると思われる最終日のこの路地辺りか」
地図を見ながら襲撃ポイントの目星をつけ、天斗がオーラセンサーを発動させる。
襲撃に適したポイントは最低でも3ヶ所あるため、なるべく人数を分散させて行動するようにした。
「それにしても静か過ぎる。何も起こらなければいいのだが‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、律吏が刀に手を掛ける。
沖田は人並み外れた力を持っている。巡回している者達に気づかれる事なく、背後から忍び寄って仕留める事も出来るのだから‥‥。
「‥‥ん? いま誰かの声が‥‥」
誰かの声が聞こえたため、天斗が辺りを見回した。
悲鳴‥‥のようにも聞えたが、それが誰のものかは分からない。
「とにかく様子を見てみよう。気のせいで済まない場合もあるからな」
そう言って律吏が声のした方向にむかって走り出す。
「お、沖田組長‥‥」
そこにいたのは沖田であった。
沖田は青白い刀身の剣を握り締め、地面に倒れた男をジッと見つめている。倒れているのは平織の護衛か。
「大丈夫。‥‥殺しちゃいないよ」
律吏達の姿を見ても全く動揺する事無く、沖田が優しくニコリと微笑んだ。よく見れば倒れているのは一人では無かった。気付かぬうちに何人倒してきたのか‥沖田の力量に戦慄を覚える。
それと同時に律吏が鳴子笛を鳴らして仲間達を呼び集める。
沖田が本気を出して戦う前に‥‥。
●沖田
「‥‥覚悟は出来たようだね」
青白い刀身をした剣をゆっくりと構え、沖田がニコリと微笑んだ。
一番隊隊士が止めに来る事を望んでいたため、彼らを見てもまったく動揺している素振りがない。
「沖田組長、この筆跡がどなたの物か‥‥解らぬとは言わせませんよ。一連の行動は全て新選組の為、大樹公の為だとか仰ったようですが、それは大きな間違い。むしろ貶めるに過ぎない。身の始末をする前に、まず局長に言うべき事があるのではありませんか。――生きて下さい。生きて義を貫いて下さい」
近藤局長筆跡の文を広げて見せ、千里が沖田の説得を試みる。
いまの沖田を見る限り、剣の力に囚われている様子がないからだ。
「僕は言ったはずだよ。何もかも手遅れだって‥‥」
凍るように冷たい表情を浮かべ、沖田が妖しくクスリと笑う。
「確かに汚れた枝葉を切らなければ何時か大樹は枯れ果て腐るだろう。けどあなたはまだ迷ってる。本当に自分の行動が正しいかどうかを。だから俺達をあの時、斬らずに止めて欲しいと頼んだ。ふざけるな! ふざけるなよ、沖田総司。主君の為に迷いなく振るうのが、正しいが為に振るうのが侍の剣だ! 其の正しさに疑念を持ちながら、何であんたは剣を振るったんだ!」
沖田をジロリと睨みつけ、天斗が刀を素早く構えて叫ぶ。
「今、俺の主君の名前は近藤勇、そして新撰組! 誠の一字にかけて貴方を止めてみせる!」
次の瞬間、天斗が沖田にむかって斬りかかる。
天斗の一撃を軽々とかわし、彼の喉元に剣の切っ先をむけた。
「‥‥君達は何も分かっていないようだね。表面上の事ばかり見ていたのでは、この世界で何が起こっているのか知る事は出来ないよ」
何処か悲しげな表情を浮かべ、沖田が天斗を斬らず後ろに下がる。
「沖田組長は剣の魔力に囚われて、要人の暗殺を行っていたわけではないのか?」
沖田の言った言葉が気になったため、パウルがボソリと呟いた。
「‥‥最初はね。でも、それを利用しようとしている者がいたのも確かだよ」
再び剣を構えた後、沖田がいきなり斬りかかってきた。
‥‥今度はまったく手加減していない。
「‥‥やはり死ぬ気の覚悟は決めねばならんのか――全霊を持って天螺月・律吏、参る」
すぐさまオーラボディとオーラソードを発動させ、律史が沖田の剣を刀で受け止めジロリと睨む。
「沖田組長――否、沖田殿。貴方は剣ではない、剣に惑わされるな。誰も、近藤殿もそんな事望んではおられぬ。貴方は貴方だ!」
そのまま沖田の剣を弾き返し、律吏が激しく彼を叱咤した。
「いまさら後戻りは出来ないよ。こんな事をした後じゃ‥‥」
カマイタチの如く鋭い一撃を放ち、沖田が続けざまに素早く刀を振り下ろす。
「この一手、香車の一撃っ!」
それと同時に手裏剣を投げ、スロウが沖田の前に立ち塞がる。
「沖田組長っ! 貴方が任命してくれた隊士として、この私はここにいます!! 鋼鉄山猫隊ではなく、新撰組を選びました! そうさせてくれたのは貴方です。組長!!」
自分の思いを刀に込めて、スロウが迷わず沖田を狙う。
「た、大変だっ! と、虎長が‥‥。沖田の名を語る者に、殺されたっ!」
虎長暗殺の報を聞き、ランティスが慌てた様子でやってくる。
「ば、馬鹿な!? 沖田組長はここにいるぞ!」
納得のいかない表情を浮かべ、玲がダラリと汗を流す。平織の護衛は何をやっていたのか。分からない事ばかりだ。
「虎長暗殺の噂が流れている最中、僕の名を語る刺客が現れたら、信じてしまうのは当然かもね。ただでさえ君主が亡くなって動揺しているはずだから‥‥。必要なのは新撰組一番隊組長 沖田が殺したという事実。この暗闇の中じゃ、顔の見分けもつかないだろうからね。言ったろ、何もかも遅いって‥‥。この世界には、戦乱の世を望む者達がいるんだよ」
スロウ達が油断した隙に当て身を食らわせ、沖田が覚悟していた様子で溜息をつく。
「沖田くん。そろそろ答えてくれるかな。この事件の真相を‥‥」
倒れた仲間を抱き起こし、伊佐治がジロリと沖田を睨む。
「‥‥考えてみる事だね。なぜ虎長が暗殺されなければならなかったか。なぜこの剣が虎長を邪悪な存在であると決めつけたのか。君達にはまだまだ分かっていない事がある」
何処か寂しそうに表情を浮かべ、沖田が暗がりの中へと消えていく。
刃物の如く鋭い殺気を漂わせ‥‥。
‥‥その直後だった。
沖田の消えた場所から光の柱が昇ったのは‥‥。