●リプレイ本文
●止まった時間
「‥‥ここも駄目か。五里霧中とは、正にこの事だな」
『源徳家康直属 新撰組一番隊』の名を告げ、白河千里(ea0012)が沖田の消息を掴むため宿屋の宿帳を検めてまわる。
虎長暗殺事件以降、京都で彼を見た者はひとりもおらず、光の柱と共に消失してしまったのではないかと噂があるほどだ。
「だが、とても死んだようには思えんな。沖田くんを捜索するため、役人達が動いているようだし、何処かに潜伏している可能性が高いはずだ」
険しい表情を浮かべながら、八幡伊佐治(ea2614)が腕を組む。
念のためギルドで資料を漁ってみたが、沖田の行方に繋がる資料は見つからない。
「やはり新撰組の中にも内通者が‥‥。誰が味方で、誰が敵か‥‥隣人すら疑わねばならぬとは、嫌な時勢だな。早く終わらせねば‥‥」
自分自身に言い聞かせるようにしながら、千里が疲れた様子で溜息をつく。
誰が内通者か怪しむあまり、疑心暗鬼に陥っているため、誰を信用していいのか分からない。
「まぁ、察するところ、沖田くんは一時だが剣の力に囚われたようだな。現在はシラフだが、気付けば事後だった。‥‥よって、出奔し現在に至っているわけさ。『やった』のは、大納言・豪商・陰陽師。平織は暗殺する意志はあったが、やってない。不思議なのが、沖田くんと剣の意志であるはずの『虎長暗殺』を、何故ジェロニモくんと謎の集団が知っていたのか気になるな。よほど確信の持てる事件事象を知っていたのか、それとも別の理由があって動いていたのか分からんが‥‥。気になるのが、黄泉の兵から、ずっと沈黙したままの寺院関係。坊主ってのはそれなりに、政に入り込んでたりするだろう? ‥‥が、黄泉が攻めても坊主と侍は沈黙を守り、大金で蘇る者も居る中、太刀一つで絶命する人物、それも有力者ばかりが揃った。それとは別に、病弱の沖田くんを匿うなら、白の寺院が最有力なんじゃないかなぁ?」
沖田に関する手掛かりを掴むため、伊佐治が京都中の寺院をまわる事にした。
今までの報告書を読む限り、伊佐治の考えは決して間違ってはいない。
「‥‥後はジェロニモの存在か。間違いなく彼は何かを知っていた。いまなら彼の言っていた事も理解する事が出来るかも知れないのに‥‥」
ジェロニモが逃亡してからの消息もつかめないため、千里が困った様子で辺りを睨む。
「闇夜では、人影は見えぬ。ましては己の影も――掌すらも、ままならぬ、もの。影を出させるには光を当てるより他ならぬ‥‥」
だからこそ動かねばならない。
例え何の手掛かりがなかったとしても‥‥。
何かキッカケさえあれば、すべてが動き出すはずなのだから‥‥。
●新撰組一番隊
「‥‥組長権限を近藤局長か土方副長にお預けして指揮を取ってもらうか組長代理を上に選抜してもらいたいと思います。代理は不在の間のみで沖田組長復帰の際は補佐に着くのが良いかと思っていますので‥‥。やはり補佐が居ないと組長にもしもの事があった場合に困りますからね」
近藤局長のいる屯所にむかい、鷲尾天斗(ea2445)が一番隊組長代理の選抜に意見した。
沖田が副長を指名しないまま何処かに消えてしまったため、近藤局長に組長の代理を決めてもらおうと思ったのが理由らしい。
しかし、近藤局長から組長の代理を指名する事はなく、隊士達がもっとも信頼する事の出来る人物に任すべきではないかという意見が出た。
「‥‥あとは頼んだ、か。沖田組長は、いつも勝手だな」
‥‥帰り道。
疲れた様子で溜息をつきながら、ティーゲル・スロウ(ea3108)がトボトボと歩く。
沖田が不在の間のみ近藤局長などが事件に対応してくれる事にはなかったが、一緒に行動するわけではないため根本的な解決には至っていない。
しかし、このまま何もしないわけにはいかないため、頑張って行動するしかなさそうだ。
「どちらにしても、すべてが見えぬうちは、沖田組長の処罰が保留になったのだから、良しとしようじゃないか。このまま真相が分からぬまま、沖田組長が処分されてしまっては、事件の黒幕すら分からなくなるからな」
未だに分からない事だらけのため、天螺月律吏(ea0085)が険しい表情を浮かべて腕を組む。
「それにしても気になるな。安倍殿は蘇生なされたのに何故平織公は蘇生されなかったのだろうか‥‥? しかも、この平穏ぶり‥‥。平織公が暗殺されたのだから、このまま戦になっていても、おかしくはないはずなのに‥‥」
納得の行かない事ばかりのため、天斗が困った様子で溜息をつく。
少しずつ核心に近付いているはずだが、それを裏付けるための証拠がない。
「彼の剣は虎長殿を『斬る』対象と見なしていた――そこには沖田組長の意思を超越した純然たる正義があったというのなら、それは何故? 黄泉人と自身の力を相殺していた剣、それが今抜かれなければならなかったのは何故か? 黄泉兵を蘇らせたのは誰なのかも知る必要がありそうだな‥‥。沖田組長に虎長殿を斬らせて(という風に仕立てて)いったい誰が得をするのか? その真実を知る必要がありそうだな」
事件の裏で糸を引く黒幕の正体を知るため、律吏が再び手掛かりを探すため沖田邸に向かう。
沖田がそこまで無用心な人物だとは思えないが、出来るだけの事はしたいからだ。
「組長はこうおっしゃった『後は頼んだよ』と‥‥。そこまでの覚悟があったという事は、何かを残していてもおかしくない。‥‥我々だけにしか分からない方法でな」
だんだん核心に近いものを感じてきたため、スロウが力強い足取りでゆっくりと歩き出す。
もう一度、心当たりを探ってみる必要がありそうだ。
●シープの剣
「入隊試験の時、一人で悩みを抱え込むのは危険だと申し上げたはずですが‥‥。沖田組長にも困ったものですね。いつの世にも権力者同士の争いは起こるものですが、それは権力者自身が望んだ争いではない事もあるのですから‥‥」
虎長が囲っていたと思う女性の調査を断念し、ゼルス・ウィンディ(ea1661)が困った様子で溜息をつく。
残念ながら虎長に関する調査はすべて邪魔され、危うく罪人として処分されそうになりかけた。
やはり何か隠しているのは確かだが、これ以上の調査をすれば命を落としてしまうかも知れない。
「だからと言って、このまま動きを鈍らせておくわけにも行かないだろ。まぁ、正確に言えば動けないという表現が正しいが‥‥」
虎長暗殺事件以降、一番隊隊士に対する監視が強くなったため、ランティス・ニュートン(eb3272)が警戒した様子で辺りを睨む。
一番隊隊士が沖田と接触すると踏んでいるのか、何者かがランティス達を尾行しているのは間違いない。
しかし、大半が自らの正義を貫くためで、ランティス達を『悪』と判断しての事だった。
「それにしても、まさか沖田様の剣が封印の剣で、恐るべき剣とは、予想もしていませんでした。沖田様の剣が、黄泉路を封じた封印の剣で有ること、神剣争奪の折に炎の精霊が言われた、不浄を浄化する剣の可能性から、事は神皇様の神剣に関わる一大事の可能性に及ぶ可能性を考えねば‥‥」
念のため安部晴明宛てに書状を書き、ミラ・ダイモス(eb2064)が陰陽寮にむかって歩き出す。
尾行している者達を撒かない限り、陰陽寮まで無用な戦いに巻き込んでしまうため、何か作戦を考えておく必要がありそうだ。
「これはあくまで噂ですが、あの剣は光の柱と共に消失してしまったようですね。沖田組長が剣の力を封印した事によって光の柱が出現したのか、破壊の剣が目的を果たしたために光の柱が出現したのか分かりませんが‥‥。そう考えると利用されているのは、沖田組長ではなく剣の方かも知れませんね。自分以外の者にシープの剣が渡れば、剣は今以上に暴走する‥‥。だから、沖田組長は剣と共に姿を消したのではないか、と思うのですが‥‥」
色々な可能性があるため、ゼルスが自分の考えを述べていく。
ただ、ひとつ言える事は、光の柱と共に沖田の行方が分からなくなっている事である。
「どちらにしても、シープの剣の使命に縛られる沖田の行動を利用出来たという事は、シープの剣についてかなり詳しい者の犯行である事は確かだな。‥‥シープの剣に詳しく、なおかつ虎長を始末する事で利益を得るもの。‥‥沖田を囮にしたのは、そうでもしなければ犯行が明るみに出やすい位置にいる人物かな。そう多くはないと思うんだが‥‥」
虎長暗殺にいくつもの勢力が絡んでいる事も前提にしながら、ランティスが最も得する人物が誰なのかを考えた。
一番、可能性が高いのは、藤豊派の者による仕業だが、まだまだ必要な情報が足りない。
「‥‥何か見落としているものがあるはずです。すべてを繋ぐキッカケである何かを‥‥」
黄泉比良坂を始まりにして何かが起こった可能性があると考え、ミラが飛鳥の地を調査すべきであると結論を出す。
未だに飛鳥の地は黄泉人達の脅威に怯え、新しい支配者が彼らを操っているという話があるからだ。
「黄泉人を統べる女性の存在‥‥。これについても調査をする必要がありそうですね。しかし、私達だけでは限界がある。だからと言って、まわりに協力を求めれば、敵にも情報が流れてしまう危険性が出てしまう。‥‥となると、いくつか罠を仕掛ける必要がありそうですね」
これからは慎重に行動をする必要があるため、ゼルスが仲間達にも言い聞かせる。
新撰組の一部には一番隊を悪と考える者達もいるため、自分達だけで何とかする必要がありそうだ。
●沖田とジェロニモ
「たくっ‥‥、沖田さん、どこにいっちまったんだかなぁ。‥‥かといって、見つけて一件落着というわけにはいかないが‥‥。いまの沖田さんは重罪人どころの騒ぎじゃねぇ‥‥。即座に一番隊の面子に知らせたとしても‥‥、黒虎や見回り組に見つかった日には即連行、もしくはその場で斬りかかられるか。どっちにしても面倒な事になるな」
京都郊外をまわっていき、氷川玲(ea2988)が沖田に関する手掛かりを探す。
沖田は職務以外で自分の痕跡を残しておらず、まわりの目を気にしながら行動をしていたようだ。
「沖田隊長が虎長様を暗殺したなんて俺は信じない。何かの間違いか、陰謀だろう」
拳をギュッと握り締め、鷹波穂狼(ea4141)が沖田の関与を否定する。
実際に虎長を暗殺した犯人が沖田でない事は明らかなので、誰も穂狼の言葉を否定する者はいない。
「確かに沖田は虎長暗殺の濡れ衣を着せられた。‥‥ただ別段、沖田が一番隊と遣り合っていたとして、平織の手の警備が緩んでいたわけでもなく、暗殺が至難だったのに変化はない。だが、暗殺は成功した。しかもジェロニモの言うように『沖田の最終目的が虎長暗殺』とすると、誰の手であれ成立しているから、沖田自身が姿を消す必要はない。‥‥となると虎長は殺されたが『死んではいない』目がある。殺されたのは恐らく影武者で本物は雲隠れしているのでは‥‥」
辺りの様子を気にしながら、パウル・ウォグリウス(ea8802)が口を開く。
自分達も監視されている可能性が高いため、迂闊な事を口には出来ない。
「だが、それを証明する術はない‥‥」
自分達では虎長の生死を確認する事が出来ないため、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が残念そうに首を振る。
虎長の遺体すら確認していないため、本当に彼が死んでいるのか、断言する事が出来ないのは確かである。
「後は黒の教徒達の存在か。奴らの行方を追えば、沖田組長に辿り着くかも知れないな。黒信仰の寺で薩摩や九州辺りと縁の深い寺を中心に調べてみれば、何か分かるかも知れないし‥‥。虎長様と源徳様の力を削いで、徳をするのは藤豊様辺りだろ。まったく関係がないって事はなさそうだしな?」
黒の教徒と藤豊の関係を怪しみながら、穂狼が頭の中でひとつずつ情報を纏めていく。
予想以上に事件が大きくなりつつあるため、順番に片付けていく必要がありそうだ。
「どちらにしても、分からない事が多過ぎるな。虎長が暗殺された本当の理由も分からないし、沖田組長の行方だって分かっていない。無闇に動いたところで、あまり収穫も無さそうだしな」
闇雲に調べても何も得る事が出来ないためテスタメントが疲れた様子で溜息をつく。
「やはりジェロニモを捜し出す必要がありそうだな」
ジェロニモの消息を掴むため、パウルが単独で黒の教会の監視にむかう。
運が良ければジェロニモの居場所を突き止める事が出来るかも知れない。
「‥‥ジェロニモか。何か知っているのは間違いないな」
ジェロニモが沖田の所有している正体を知っていたため、玲が険しい表情を浮かべて腕を組む。
‥‥ジェロニモの行方。
まずはそこから調べてみる必要がありそうだ。