●リプレイ本文
●面接
「まだ、ごるびー座の一員では無かったよな……、確か」
幼い狐のレティスをマジマジと見つめ、リフィーティア・レリス(ea4927)がボソリと呟いた。
ごるびー座に入団するためには簡単な面接を受ける必要があるため、受付にはペット連れの飼い主達がズラリと並んでいる。
「ぺんぺんも面接に合格して、ごるびーくんのお手伝いをしようね」
満面の笑みを浮かべながら、シェリル・オレアリス(eb4803)がぺんぺんのくろこを連れて行く。
くろこは今が一番可愛い時期なので、ごるびーを上回る程の愛らしさを持っている。
「おやおや、チェルノブさん。その子は食べ物じゃありませんよ」
巨大蛇のチェルノブがくろこを狙っていたため、志乃守乱雪(ea5557)がヨシヨシと頭を撫でて落ち着かせようとした。
しかし、チェルノブは獲物の事しか頭に無いため、乱雪の右手に噛みつき頭を揺らす。
「こ、こら! 私は食べ物じゃありませんよ。は、離しなさい!」
右手からダラダラと血を流しながら、乱雪がチェルノブの身体を掴む。
そのため、チェルノブは頭を左右に揺らし、『これはオレの肉だ』と抗議した。
「何だ、この雲行きの怪しさは‥‥。面積が終わる頃にはチェルノブしか残っていませんでしたってオチじゃないだろうな。‥‥笑えねえぞ、それ‥‥」
青ざめた表情を浮かべながら、レリスが気まずい様子でツッコミを入れる。
チェルノブは好き嫌いが無さそうなので、ここにいるペット達が丸呑みされる可能性も捨て切れない。
「‥‥妙ですね。きちんとご飯を食べさせてきたはずなのに‥‥。可愛らしいペット達の姿を見て、小腹が空いてしまったのでしょうか? どちらにしても、このまま放っておくわけには行きませんね」
無理矢理チェルノブを引き離し、乱雪がドクドクと血を流す。
それでもチェルノブは乱雪の右手を狙い、執拗に攻撃を仕掛けてくる。
「とりあえず口だけは絞っておけよ、怖いから‥‥」
引きつった笑みを浮かべながら、レリスが手続きを済ませて会場の中に入っていく。
面接会場には審査員としてごるびーが座っており、『合格』と『不合格』の旗をその場の気分で上げている。
『よく来たな、皆の衆! 我こそはごるびー座の座長、ごるびーなり! 我が一座の一員になりたくば、わしを満足させてみろ!(ごるびー語訳:ミンメイ)』
キュウリをカリッと齧った後、ごるびーが真っ赤なマントを翻す。
ごるびーの言葉を適当にミンメイが訳しているため、辺りからは寒々とした笑い声が聞こえてくる。
「相変わらず元気そうだな。それじゃ、これは手土産だ」
苦笑いを浮かべながら、レリスがごるびーにイカを渡す。
そのため、ごるびーは瞳をランランと輝かせ、『合格』と書かれた旗をシュタッと上げる。
「自分の本能に素直だな、おまえ‥‥。まだ面接すらしていないのに‥‥」
呆れた様子で溜息をつきながら、レリスがダラリと汗を流す。
ごるびーは幸せそうな表情を浮かべ、レリスから貰ったイカを齧っている。
「‥‥次は私達の番ね。それじゃ、頑張ってね」
ヨシヨシとくろこの頭を撫でた後、シェリルがごるびーのいる方向を指差した。
『うぐっ‥‥、思わぬライバル出現! おいらよりも可愛いやんけ!(ごるびー語訳:近所のオッサン)』
くろこの圧倒的な可愛さの前に恐怖を感じ、ごるびーがジリジリと後ずさっていく。
しかし、くろこはその事に気がついていないため、ごるびーを見つめて不思議そうに首を傾げている。
『ごるびーさん、ごるびーさん、初めまして♪ ぼく、くろこだよ♪ ぼく、ごるびーさんみたいな立派な男子になりたいなぁ☆』
溢れんばかりの愛嬌を振り撒きながら、くろこがぴょこぴょこと歩いていく。
そのため、ごるびーは敗北感を感じてしまい、『合格』と書かれた旗を放り投げて逃げ出した。
「おやおや、ごるびーさん。もうお帰りなんですか? まだチェルノブさんの面接が終わっていませんよ?」
ごるびーの逃げ道を塞ぎ、乱雪がチェルノブを地面に置く。
次の瞬間、チェルノブが大きく口を開け、ごるびーをゴクンと丸呑みした。
「きゅーーーーーーーーーーーーーーー!」
そして、ごるびーの悲鳴が空しく響く‥‥。
●一座
「一時はどうなるかと思いましたが‥‥、大丈夫なようですね」
ホッとした表情を浮かべながら、三笠明信(ea1628)がごるびーの頭を撫でる。
ごるびーがチェルノブに丸呑みされた後、その場にいた冒険者達によって救出作業が行われたのだが、よほどごるびーが気に入ったのか、なかなか助け出す事が出来なかったらしい。
そのため、チェルノブが飽きるまで待ってから、弱りきったごるびーを救出する事になった。
その影響か、ごるびーは蛇が怖くなってしまい、チェルノブの顔を見つめてガタガタと身体を震わせている。
「とりあえず訓練を始めましょうか。このままだと気持ちも晴れないでしょうから‥‥」
流星(イーグル)と閃桜(ホーク)を呼び寄せ、明信が干し肉をポーンと放り投げた。
これはごるびーを餌に勘違いさせないようにするための手段で、万が一の場合を考えての策である。
「きゅきゅきゅ!」
右手をピコポンと上げ、ごるびーが二匹にむかって挨拶した。
しかし、二匹は鋭い瞳を輝かせ、ごるびーを威嚇する。
「えっと‥‥、仲良くしましょうね。そうしないと干し肉は没収ですよ」
だんだん気まずい雰囲気が漂ってきたため、明信が二匹をジロリと睨んで注意した。
そのため、二匹は顔を見合わせた後に飛び立ち、干し肉の残りをごるびーの前にポトリと落とす。
「きゅきゅきゅー」
感動した様子で干し肉を掴み、ごるびーが楽しそうに鼻歌を歌う。
ごるびーは干し肉よりイカの方が良かったが、友情の証でもあるため迷わずムシャムシャと食べていく。
「ふぅ‥‥、これで一安心ですね。それじゃ、特訓を始めましょうか」
そう言って明信がごるびー達と一緒に訓練を始めるのであった。
●ごるびー
「しふしふですよ〜☆ ごるび〜ちゃんお久しぶりですよ〜☆」
満面の笑みを浮かべながら、ベル・ベル(ea0946)がごるびーに抱きついて頬擦りする。
ごるびーは先程まで温泉に浸かって心の傷を癒していたため、身体がふわふわとしており心地よい。
「おっ! 随分と団員が増えたようでござるな。なかなか有望そうな新人ばかりで安心したでござる。まぁ、色々な意味でペットとは呼べぬモノまで混じっているようでござるが‥‥、気にしたら負けでござるな。とにかく飼い主には一筆書いてもらわねばならぬでござる。何かあった場合に責任を取ってもらう必要があるからの‥‥」
問題が起きてしまってからでは遅いため、沖鷹又三郎(ea5927)が飼い主達と契約をかわしにいく。
飼い主達の中には顔見知りの者がいたので、それほどトラブルもなく契約は済んだ。
「ところで、ごるびー殿。こんなん団員を増やして給料は払えるのでござるかの? いや、拙者らもほとんど貰っていなかったので、これを期に値上げを‥‥っと、その話は禁句のようでござるな」
給料の話をした途端にごるびーが動揺したため、又三郎が気まずい様子で汗を流す。
ごるびーにとって給料とはイカであり、他人に渡すものではないと思っているらしい。
そのため、給料などの支払いは又三郎が代理で行っているのだが、団員達(主に飼い主)から不満の声が上がっているので何とかする必要がある。
「と、とりあえず新しく入った団員達には、拙者の方から説明をしておいた方が良さそうでござるな」
このままでは給料の支払いすらままならないため、又三郎が引きつった笑みを浮かべて汗を拭う。
今後の事を考えると団員達のために仕事を貰いに行く必要がありそうだ。
「とにかく元気を出しましょう。座長がそんなに暗い顔をしていたら、団員にも示しがつきませんし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、ルーラス・エルミナス(ea0282)がごるびーの頭を撫でる。
ごるびーの緊張を和らげるため、まとりょーしかや、それんを連れてきたのだが、太陽の光を浴びてごるびーの頭が輝いているので近づけない。
「ま、眩しいですよぉ〜。またハゲてしまったんですかね〜?」
あまりの眩しさで目が開けられず、ベルが困った様子で視線を逸らす。
ごるびーの頭はストレスですっかり毛が抜け落ちており、太陽の光を浴びる事で殺傷能力の高い武器へと変化する。
「ごるびーくん、可哀そうに‥‥。私がた〜っぷり癒してさし上げますね」
同情した様子でごるびーを抱きかかえ、フィーネ・オレアリス(eb3529)がニコリと微笑んだ。
フィーネの胸はとても大きくて形がいいため、ごるびーも幸せそうな表情を浮かべている。
「とうとうゴルビーさんが禿に‥‥。まぁ、波乱万丈の人生を送られている以上、仕方の無い事なのかも知れませんが、あまりに可愛そうですね‥‥。市販の禿げに利く薬を、塗って上げましょう」
妖しげな薬を取り出して中に入っていた液体を布に染み込ませ、ルーラスがごるびーの頭にペタペタと塗っていく。
次の瞬間、ごるびーの頭が眩い光を放ち、ルーラス達の目を眩ませた。
「も、申し訳ありません! どうやら逆効果だったようですね」
慌てた様子でごるびーの頭に布を被せ、ルーラスが必死になって拭いていく。
液体が取れるにつれて頭が光らなくなってきたようだが、もう少し対処するのが遅ければ誰かが亡くなっていてもおかしくない。
「けひゃひゃひゃ、何やら困っているようだね〜。ようし、我が輩に任せたまえ〜。今ハゲに効く薬を調合してあげよう〜」
人を見下したような視線を送り、トマス・ウェスト(ea8714)がハゲに効く薬を調合した。
調合している途中で何度か煙が上がっており、辺りには何とも言えない臭いが漂っている。
「それでは、これを塗ってみよう〜。さてさて、結果はどうなるかな〜? むむっ‥‥! 毛、毛が生えて‥‥おらんなぁ〜」
不思議そうに首を傾げながら、ドクターが薬を塗っていく。
その度、違う部分から毛が生え始め、ごるびーが複雑な心境に陥っている。
「ふむ、おかしいね〜‥‥。変なツボでも突いたかね〜?」
タコをムシャムシャと食べながら、ドクターがつまらなそうに視線を逸らす。
もっと派手な効果を期待していたためか、ドクターにとっても納得のいかない結果だったようだ。
「今日は厄日ね、ごるびーくん。もう大丈夫よ。私が慰めてあげるから♪」
ごるびーをギュッと抱きしめながら、フィーネがヨシヨシと頭を撫でる。
薬のせいで落ち武者のようになってしまったため、ごるびーの心はひどく傷ついているようだ。
「こらこら、そんなに落ち込む事でもないだろう〜。きちんと結えば、立派な殿様に見えるからなぁ〜」
まったく悪びれた様子もなく、ドクターがケラケラと笑う。
この一言がキッカケで、ごるびーのチョンマゲ人生が始まった。
「それじゃ、親睦会でも始めましょうか。せっかく懐かしい顔が集まったわけですし、団員達にも座長を紹介する必要がありますからね」
苦笑いを浮かべながら、ルーラスが見世物小屋の中に入っていく。
事前に船宿から料理を取り寄せていたため、後は団員達を集めて一緒に食べるだけである。
「ごるびー座の座長として堂々と挨拶をするのでござるよ」
差し入れに持ってきたイカの丸焼きを渡し、又三郎がごるびーの背中をポンと叩く。
一緒にキュウリの漬物も持ってきているのだが、これは河童達と一緒に食べた方が良さそうだ。
「それなら派手に登場した方が良さそうですね。頼みましたよ、グリフォン」
そう言ってフィーネがグリフォンを呼び寄せ、ごるびーを空から登場させる事にした。
ごるびー座の座長として、恥ずかしくない姿を見せるため‥‥。