●リプレイ本文
●高枝切り大鋏
「またミンメイちゃんったら、怪しげなモノに手を染めようとしてるわね‥‥」
呆れた様子で溜息をつきながら、郭梅花(ea0248)がミンメイの後をついていく。
ミンメイは本気で店の建て直しを考えているらしく、依頼主から預かった資金を使って高枝切り大鋏を買い漁っている。
「何処から仕事を貰ってきたのか話してくれませんし、また騙されているのかも知れませんね。まぁ、本を出すという意気込みはよろしいかと思いますが‥‥」
露店で売られている高枝切り大鋏を見つめ、嵯峨野夕紀(ea2724)が口を開く。
残念ながら露店で売られている物のほとんどが偽物で、粗悪なものだと錆びついて切れ味まで悪い。
「それだけ切羽詰っているって事だろ? 随分と赤貧生活が続いていたようだしな。そろそろ真っ当な生活に戻らなきゃ、ヒトとしてアレだと思い始めたんじゃないのか?」
面倒臭そうに溜息をつきながら、リフィーティア・レリス(ea4927)がアクビをした。
一応、高枝切り鋏を積むための荷車を用意してあるのだが、誰も引っ張ろうとしないのでレリスの休憩所になっている。
「しかし、ミンメイ殿がようやっと本を出そうと前向きな気持ちになったのは良い事でござる。まずは何でも書かないと始まらぬでござるからの。それよりも拙者は高枝切り大鋏の宣伝文句が気になっているのでござるが‥‥」
高枝切り鋏の宣伝文句が書かれた張り紙を見つめ、沖鷹又三郎(ea5927)が険しい表情を浮かべて腕を組む。
どの張り紙にも高い枝を切る事の出来る便利な鋏だとは書かれているが、欠点と思われるものはひとつも書かれていない。
「それが『彼ら』のやり方なのかも知れませんね。きちんと調べれば、黒幕が誰なのかも分かりそうですが‥‥」
高枝切り大鋏を売っている商人の顔を覚えておき、飛麗華(eb2545)が簡単なリストを作っていく。
「ほらほら、何をサボッているアルか。頑張って高枝切り大鋏を買い漁っておかないと、すぐに日が暮れちゃうアルよ」
満面の笑みを浮かべながら、ミンメイが購入した高枝切り大鋏を荷車に積んだ。
既に最初の目的を忘れかけているのか、手当たり次第に高枝切り大鋏を買い漁っている。
「‥‥ミンメイ殿、それは遠く切り包丁セットでござる。柄が異様に長いだけの包丁でござるよ。これさえあれば死んだ魚の目が苦手な奥様も目を見ずに魚が捌けるのでござる。遠くから魚押さえ箸もセット価格でかなり安いでござるの」
ミンメイが妙なものまで買っていたため、又三郎が慌てた様子でツッコミを入れた。
「まったく問題ないアル。今日のワタシは懐がポカポカある!」
えっへんと胸を張りながら、ミンメイがニコリと微笑んだ。
高枝切り大鋏はすべてツケで購入しており、依頼主から貰える報酬をアテにしているらしい。
「ところでミンメイ様、積極的に買ってらっしゃるようですが、お仕事のお金はどなたから戴くのですか?」
ミンメイの依頼主が気になったため、夕紀が不思議そうに首を傾げる。
彼女が引き受けた仕事の大半が胡散臭いものなので、色々な意味で警戒しているらしい。
「‥‥それは内緒アル♪ 依頼主をバラしたら、私の命が危ないアルよ」
青ざめた表情を浮かべながら、ミンメイが気まずい様子で口篭る。
「やっぱり依頼主は胡散臭い相手なのね。まぁ、ミンメイちゃんがマトモな相手から仕事を貰っているとは思っていなかったけど、ここまで予想が当たると複雑かも‥‥」
荷車に詰まれた大鋏の山を見つめ、梅花が頭を抱えて溜息をつく。
何か嫌な予感はするのだが、いまさら後戻りは出来ない。
「いいんじゃないか。そのおかげで俺達もこうやって仕事が出来るんだから‥‥」
ミンメイの依頼主に胡散臭いものを感じながら、レリスが高枝切り大鋏を荷車に積んでいく。
色々と気になる事はあるのだが、聞いても後悔しそうである。
「まぁ、確かに‥‥。真実を知る事で別の事件に巻き込まれそうですものね。‥‥と言うか、そんな事をしたら、タダ働きをしなければなりませんし‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、麗華がボソリと呟いた。
最悪の場合、高枝切り大鋏の代金を折半しなければならなくなるので、必要以上の事は聞かないように心掛ける。
「‥‥なるほど。真実を知る事でミンメイ様の報酬が無くなれば、今まで購入した高枝切り大鋏の代金を支払う事が出来なくなりますから、結果的に私達が立て替えなければならなくなるというわけですね」
ミンメイの泣きつく姿が容易に浮かんで来たため、夕紀が納得した様子で溜息をつく。
「ま、まぁ‥‥、その場合は私達で高枝切り大鋏を売って歩くしかないわね」
荷車に積まれた高枝切り大鋏を見つめながら、梅花が引きつった笑みを浮かべて汗を流す。
そんな事など露知らず、ミンメイは高枝切り大鋏を荷車に積んでいく。
「つーか、こんなモンが本当に売れるのか? 別にそんな無理してまで高いトコのモンどうにかしようって思わないだろうしさ」
高枝切り大鋏をムンズと掴み、レリスが呆れた様子で口を開く。
確かに高い所の枝は自由に切れそうだが、それなりの筋力が必要になりそうだ。
「拙者もその意見には賛成でござるが、これで懐が痛むのも酷でござる。意地でも‥‥、いや命懸けで依頼を成功させなければ‥‥」
そう言って又三郎が拳をギュッと握り締めた‥‥。
●粗悪品
「これが江戸で噂の高枝切り大鋏か。うぐっ‥‥、お、重いな」
ミンメイが仕入れてきた高枝切り大鋏を手に取り、デュラン・ハイアット(ea0042)が呻き声をあげて持ち上げる。
高枝切り大鋏はどれも重く、ある程度の力が無ければ持ち上がらない。
「うわー! 女子供も手軽に高い枝を切れるなんて絶対に嘘だ。僕はまだ持つ事が出来てもグラスさんは無理だよね?」
ハアハアと息を吐きながら、音無鬼灯(eb3757)が高枝切り大鋏を放り投げる。
一応、持ち上げてはみたものの、重過ぎて自由に扱う事が出来ない。
「‥‥これが本物? 嘘やろ? こんなん使い物にならんやん」
あまりの重さに持ち上げる事が出来ず、グラス・ライン(ea2480)が涙目になって両腕を撫でる。
念のためリヴィールポテンシャルを使って高枝切り大鋏を調べてみたが、何度調べてみても偽物の反応しか出ていない。
「それはお前等の使い方が悪いだけだっ! これはミンメイちゃんが選んで買ってきたものだぞ! 誰がなんと言おうが、これは良い物だあっ!」
高枝切り大鋏を高々と掲げ、朝宮 連十郎(ea0789)が両腕からブシュッと血を流す。
本当ならその場でのた打ち回るほどだが、愛の力で痛みをまったく感じていない。
「さすが連十郎アル♪ この商品の良さが分かるのは、連十郎だけアルよ♪」
満面の笑みを浮かべながら、ミンメイが連十郎に頬擦りする。
それと同時に連十郎の全身に力が漲り、高枝切り大鋏を高速でジョッキンジョッキンと鳴らす。
「す、凄いアル〜。まるで高枝切り大鋏が連十郎と一体化したみたいアルよ〜」
感動した様子で瞳をランランと輝かせ、ミンメイが連十郎を手放しで褒めた。
しかし、連十郎の肉体が限界を超えたため、高枝切り大鋏を掲げたまま意識を失っている。
「連十郎さんには悪いが、やっぱコレは偽物やな。それをここまで使いこなすとは‥‥、色々な意味で凄いとは思うんやが‥‥。まさか死んだって事はないやろな?」
連十郎がやり尽くした表情を浮かべて気絶したため、グラスが心配した様子でツンツンとつつく。
今回の一件でミンメイの心をグッと掴む事は出来たようだが、無理をし過ぎたせいであっちの世界にも旅立ちかけている。
「まあ、なんとかやってみるさ。こういう時はジャパンにはいい言葉があったな。なんと言ったか‥‥。『何とかと鋏は使い様』といった言い回しだった気がするな」
高枝切り大鋏が粗悪品である事を理解した上で、デュランが一番無難な売り方を考える事にした。
どちらにしても高枝切り大鋏の紹介が上手く出来なければ、ミンメイが出す予定の本にまで影響が出てしまう。
「でも、切れ味は最高だね。普通にモンスターを相手にしても、問題が無さそうだから‥‥。いっその事、『冒険者も武器として代用している軽くて丈夫な高枝大鋏』って売り文句にしたらどうかな? 全部が嘘って訳でもないし、今より売れると思うんだけど‥‥」
苦笑いを浮かべながら、鬼灯が高枝切り大鋏を持ち上げた。
今までの売り文句では、いずれ詐欺だと訴えられる。
「だったら『この大鋏を使えばカワイイ女の子にモテモテだっ!』って売り文句にすりゃあ、バッチリだろ? こうやってやれば、トレーニングも出来るし‥‥がはっ!」
何とか意識を取り戻し、連十郎が高枝切り大鋏を高々と掲げて再び意識を失った。
「れ、連十郎っ! これ以上、無理をしたら駄目アルよ!」
心配した様子で連十郎に駆け寄り、ミンメイが瞳をウルウルさせる。
連十郎は幸せそうな表情を浮かべ、ミンメイの胸の中でスヤスヤと眠りについた。
「とりあえず江戸城に持ち込んでみるか。さすがにこのままじゃマズイから、何か作戦を考えておく必要がありそうだが‥‥」
高枝切り大鋏にハクをつける必要があると思ったため、デュランが険しい表情を浮かべて口を開く。
「まぁ、最悪の場合はサイコキネシスを使って軽々と扱って見せる方法もあるんやが、ここは正直に武器として売り込んだ方がええかも知れんな」
売り込む相手がシャレの分からない相手のため、グラスが乾いた笑いを響かせる。
ただし、ミンメイは色々な意味で胡散臭いので、門前払いを喰らうかも知れない。
「それにしても依頼主は誰なんだろうね? これだけ気前よく報酬を支払う人だから、それなりに名の知れた人だとは思うけど‥‥」
粗悪品の中でも一番マトモな高枝切り大鋏を手に取り、鬼灯が自分の荷物をせっせと纏めていく。
いまさら後戻りする事も出来ないため、気合を入れてやるしかない。
「それじゃ、行くか。みんな生きて帰ろうな!」
そう言ってデュランが江戸城にむかって歩き出す。
高枝切り大鋏を見せた途端、門前払いを喰らうとも知らず‥‥。