●リプレイ本文
●ミンメイ堂
「よ、久しぶりだな。手伝いに来たぜ♪」
爽やかな笑みを浮かべながら、伊達正和(ea0489)がミンメイ堂に入っていく。
ミンメイ堂は年末に夜逃げをした商店を安く買い取ったもので、そのままの状態では蜘蛛の巣だらけで使い物にならない。
「みんな、お久しぶりアル。ささっ、こっちアル」
蜘蛛の巣まみれになりながら、ミンメイが冒険者達を手招きする。
なけなしの金で店を買い取ったためか、ミンメイは何も食べていないらしく、歩いている途中でコロリと倒れた。
「まったく‥‥、ま〜たミンメイちゃんは変な物に手を出して‥‥懲りないわねえ。やっぱり、あたしがしっかりと見張ってなきゃ駄目だわね‥‥」
苦笑いを浮かべながら、郭梅花(ea0248)がミンメイに肩を貸す。
そのため、ミンメイは梅花にしがみつくようにして、フラフラと奥の部屋まで運ばれていく。
「それにしても高利貸しの方とは、なかなか付き合いが切れませんね‥‥。騙されていた頃と違い、踏み倒すためには手段を選ばなくなるとは、なんと申しましょうか。人は変わっていくものなのですね‥‥」
クールな表情を浮かべながら、嵯峨野夕紀(ea2724)がボソリと呟いた。
今までのミンメイなら高利貸しに騙されて酷い目に遭っていたが、最近では妙な知恵をつけて返済期限の迫った借金を踏み倒しているらしい。
「ミンメイ堂が復活したのは何よりだが‥‥、何か相変わらずというか。確かに高利貸しは商売だから、どんな相手にでも金を貸すけどさ。そういうとこばっか行くのもどうかと思うぞ」
呆れた様子で溜息をつきながら、リフィーティア・レリス(ea4927)がツッコミを入れる。
しばらくの間はごるびーと組んでいたため、ミンメイも倹約生活を送っていたようだが、とうとう我慢の限界に達して高利貸しに手を貸してしまったらしい。
「まったく‥‥、借りた金を踏み倒そうとするからだ。高利貸しに有利な情報を、利子の代わりに教えていればいい物を‥‥」
ミンメイをジロリと睨みつけ、ゲレイ・メージ(ea6177)がクドクドと説教をし始める。
「情報とは言っても大した情報はないアルよ。最近、本を出す余裕もなかったアルからねぇ‥‥」
何処か遠くを見つめながら、ミンメイが乾いた笑いを響かせた。
最近は取材なども行っていなかったため、売り物になるような情報がない。
「‥‥ごるびー(カワウソ)のトコの売り上げを持ち出したとかいう噂も聞いたんだが、まさかホントにそんな事はしてないよな?」
此処に来る途中で耳にした噂話を思い出し、レリスがジト目でミンメイを睨む。
しかし、ミンメイは気まずい様子で視線を逸らし、わざとらしく口笛を吹き始める。
「いままで一体、どんな生活をしてきたんですか?」
不思議そうに首を傾げ、カーラ・オレアリス(eb4802)が汗を流す。
仲間達の話を聞いている限り、ミンメイはマトモな生活をしていない。
「いやー、普通に生活していたアルよ。川で魚を釣ったり、山で兎を狩ったり‥‥」
だんだん自分が惨めになってきたため、ミンメイが必要以上にションボリとした。
ごるびーと一緒に生活をしていたので、何を基準にして『普通』と呼べるか分からない。
「ところで元々の借金はいくらだったんですか? あまりにも莫大な利子をつけているようなら、まずはその辺りから交渉しましょう」
仲間達に案内されてようやくミンメイ堂に辿り着き、剣真(eb7311)が気になった事を口にした。
彼女の話では元々の借金は完済したという話だが、それにしては引っかかる事が多過ぎる。
「ハッキリ言って悪徳アル。だってトイチの利子アルよ? きちんと借金を返したアル」
いまにも泣きそうな表情を浮かべ、ミンメイがキッパリと断言した。
もちろん、それは元々借りたお金という意味だが‥‥。
「さて、借りた金さえ返せばこっちのモンだ。あとは利子を踏み倒すだけ! ゴロツキなんざ恐るるに足りネェさ、俺がついてるからな!」
自信に満ちた表情を浮かべ、朝宮連十郎(ea0789)が肩を抱く。
愛さえあれば、借金なんて怖くない。
「よっし、まずは掃除だな」
一緒に依頼に参加した仲間達と力を合わせ、正和がミンメイ堂の掃除をし始める。
ミンメイ堂は蜘蛛の巣まみれになっていたため、まずは箒の枝を使って蜘蛛の巣を除去する事から始まった。
「とりあえず店として機能するようにしないとな。こうなったら気合を入れて隅から隅まで綺麗にするぞ」
気合を入れて鉢巻を締め、レリスが山積みになったゴミを運ぶ。
前の持ち主が夜逃げをしたせいもあって、店内には店で売られていたものが、そのままの状態で残っている。
しかし、時代遅れのものが多いため、どれも売り物にはならない。
「それじゃ、こっちのものは、全部捨てていいな?」
ウッドゴーレムの木人1号にミンメイを守らせ、ゲレイが大量のゴミを店の外まで運んでいく。
ゴミの大半は前の持ち主が置いていったもので、色あせた着物や催促状の山だった。
「せっかくですので、畳も天日干ししておきましょうか。カビ臭かったら、シャレになりませんものね」
苦笑いを浮かべながら、カーラが仲間達と一緒に畳を運ぶ。
本当なら新しい畳に換えておくべきだが、そこまで予算がないというのが本音である。
「‥‥おや? 誰か来ましたね?」
邪魔にならないように髪を纏め、夕紀が不自然な集団に気づく。
‥‥引越し蕎麦を持った一団。
しかし、彼らは蕎麦屋ではない。
混じりっ気なしの取り立て屋だ。
●高利貸し
「いらっしゃいませ、どのようなご用件で?」
ペコリと頭を下げた後、夕紀が不思議そうに首を傾げる。
するとゴロツキ達は不機嫌な表情を浮かべ、大袈裟にフンと鼻を鳴らす。
「誤魔化すんじゃねえ! とっくに返済期限は過ぎているんだ! 耳を揃えて借金を返してもらおうか!」
引越し蕎麦を叩きつけ、ゴロツキが夕紀の胸倉を掴む。
しかし、夕紀は同様せず、『お茶でもお持ちしましょうか?』と答えを返す。
「おい、俺のダチの店に何のようだ?」
ゴロツキの腕をガシィッと掴み、正和がドスの利いた声を響かせる。
そのため、ゴロツキはチィッと舌打ちし、気まずい様子で視線を逸らす。
「詳しい話を聞かせてもらえますか? ここじゃ、身体も冷えるでしょう。ささっ、奥の部屋で熱燗でも‥‥」
妖艶な笑みを浮かべながら、カーラがゴロツキ達を店内に招きいれようとする。
「こら、待て! どうせ、俺達を騙すつもりだろ! 今までだって、あの手この手で騙されてきたからな! もう騙されねえぞ!」
警戒した様子でカーラを睨み、ゴロツキがパチンと手を弾く。
どうやら以前もミンメイに騙された事があったため、どんなに説得しても誘いに乗る事はない。
「とにかく落ち着け。こっちだって借金を踏み倒すつもりはない。きちんと話し合った上で、穏便に話を進めたいだけだ」
このままでは話が前に進まないため、ゲレイがゴロツキ達を落ち着かせようとする。
しかし、ゴロツキ達は頭からミンメイ堂の破壊を命じられているので、ゲレイ達と話し合うつもりはないようだ。
「やっぱり痛い目に遭ってもらわないと分かってくれないようだな」
ゴロツキ達の前に立ち塞がり、レリスがジロリと睨みつける。
そのため、ゴロツキ達が指の関節を鳴らしてニヤリと笑う。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。本当に此処で戦う気? それなら、もう少し店から離れた方がいいんじゃない?」
いまさら説得しても無駄だと思ったため、梅花がレリス達をミンメイ堂から遠ざけていく。
「‥‥やるしかないようですね」
覚悟を決めて木刀を握り締め、真がゴクリと唾を飲み込んだ。
‥‥ゴロツキ達の数は4人。
真琴達が本気になって戦えば、決して負ける事はない。
「それじゃ、始めようじゃねえか! どうせ力ずくでカタをつけるつもりだったんだろ!?」
そう言って連十郎が物陰から現れ、ゴロツキ達に不意討ちを仕掛けるのであった。
●戦い
「俺達に喧嘩を売るたぁ、いい度胸をしているじゃねえか。だったら、こっちもお礼をしねえとな!」
含みのある笑みを浮かべながら、ゴロツキが近くにあった樽を持ち上げ、ミンメイ堂めがけて放り投げる。
それと同時に梅花が素早く蹴りを放ち、ゴロツキの投げた樽を破壊した。
「だから近すぎるって言っているでしょ! 終いには怒るよ、本当に‥‥」
不機嫌な表情を浮かべながら、梅花がゴロツキ達を威嚇する。
ゴロツキ達も梅花達には敵わないと思っているため、ミンメイ堂の破壊を優先しているようだ。
「これ以上、妙な真似をするのなら、自分達だって黙っていませんよ?」
アイスコフィンでゴロツキを凍らせ、真が笑顔を浮かべて警告まじりに呟いた。
しかし、ゴロツキ達は攻撃の手を休めず、意地でもミンメイ堂を破壊しようとする。
「電撃号、あいつを蹴れ」
すぐさま電撃号(ケルピー)に指示を出し、正和がソニックブームを放つ。
それと同時にゴロツキが華麗に宙を舞い、地面にゴロリと転がった。
「仕方ない。‥‥やるか」
続いてゲレイがウォーターボムを放ち、襲い掛かってきたゴロツキをふっ飛ばす。
ゴロツキは何が思ったのかも分からぬまま、頭から樽に突っ込んで意識を失った。
「よ、よくも仲間達を!」
殺気に満ちた表情を浮かべ、ゴロツキ達がドスを抜く。
それに合わせてレリスがブラインドアタックを放ち、気絶したゴロツキの背中を踏む。
「‥‥やめておけ。これ以上、戦っても痛い目に遭うだけだ」
ゴロツキ達を睨みつけ、ゲレイが疲れた様子で溜息を着く。
それでもゴロツキ達は諦めず、雄叫びを上げて攻撃を仕掛けてきた。
「どうやら私達の声が聞こえていないようですね」
クールな表情を浮かべながら、夕紀が春花の術を使ってゴロツキ達を眠らせる。
そのため、ゴロツキ達は成す術もなく、次々と倒れていった。
「これでようやく大人しくなりましたね」
ゴロツキ達の手当てをした後、カーラがホッとした様子で溜息をつく。
ここできちんとして治療をしておかねば、色々と難癖をつけて慰謝料を請求してくる可能性があるので油断が出来ない。
「‥‥いいか。お前等の頭に伝えろ。ミンメイ堂に手出しをしたら、この江戸の紫龍が牙を剥いて大暴れしに行くと」
ゴロツキの胸倉を掴みあげ、正和が大声を上げて警告する。
ちなみに正和は蝦夷に旅立つ予定があるため、しばらくミンメイ堂には来れそうにない。
「それじゃ、改めて店掃除でもするか。ミンメイちゃんひとりに任せておくわけにはいかねえもんな」
そう言って連十郎が爽やかな笑みを浮かべ、ミンメイの肩を抱くのであった。