●リプレイ本文
●第一幕(表) ジーザス教徒狩り
「‥‥ジーザス教徒狩りか。磔など断じて許せるものではないが、ここで止めると新撰組に関わる問題だからな。より多くの被害を出してしまう事になりかねない。‥‥私情は捨てねばな」
磔にされたジーザス教徒を見つめ、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が溜息をつく。
大和各地で大規模なジーザス教徒狩りが行われているため、テスタメントもジーザス教徒である事を隠し、仲間達と共に公開処刑の行われている村に来ていた。
処刑の対象となっているのは、ジーザス教から改宗する事を拒んだ村人達。
ジーザス教を邪悪であると認めた者達は、処刑を免れ虚ろな表情を浮かべて処刑場を眺めている。
そして、すべての元凶と称されているのが、ジェロニモであった。
ジェロニモは不安な気持ちに支配されていた村人達を救うため、ジーザス教の布教活動を行っていたのだが、それが大名達の癇に障りこのような事態になっている。
「‥‥イギリスに住んで8年目。ジーザス教は身近なモノだ。改宗までいってないけれど、ある程度の信仰心はある。余り他人事ではないな」
村人達に聞こえないように小声で喋りながら、七神蒼汰(ea7244)が悔しそうに唇を噛みつめた。
普段ならジーザス教徒を救出するため行動を開始しているはずだが、その事によって大和の大名陣を敵に回す事になるので迂闊には動けない。
「あんな人でなし共皆まとめて叩っ斬ってやりてえ……。組織に入るってのは、こういう事なのかよ? 俺はこの光景を絶対忘れないからな。誰だか知らんがその大名には必ず相応の報いを受けさせてやる!」
怒りで拳を震わせながら、龍深城我斬(ea0031)が目の前の光景を瞳に焼きつける。
一介の冒険者としてこの場に来ているため、磔にされているジーザス教徒を救出に行く事も可能だが、侍達が辺りに待機しているので途中で捕まってしまうかも知れない。
その場合、新撰組が処分される事はないが、代わりに我斬達が処刑されてしまう事になるだろう。
「もう少しだけ‥‥、我慢してください。みんな、気持ちは一緒ですから‥‥」
沸々と湧き上がる怒りを抑え、リノルディア・カインハーツ(eb0862)がボソリと呟いた。
村人達は何かに取り憑かれたような表情を浮かべ、火のついた松明を掲げてブツブツと呟いている。
「とにかくジェロニモさんを捜しましょう。何処かに隠れているはずですから‥‥」
ブレスセンサーを発動させ、山王牙(ea1774)がジェロニモを捜す。
ジェロニモはジーザス教徒の処刑を防ぐため、同志達を引き連れてこの村に来ている事は間違いない。
誰がジーザス教徒なのか区別する事は出来ないが、ジェロニモならば面識があるものもいるので捜しやすい。
「それにしても‥‥、ヒドイな。こんなの人間のする事じゃあらへん」
ジーザス教徒達の悲鳴が上がり、将門司(eb3393)が視線を逸らす。
この場所にジェロニモが来ているのなら、司達と同じ気持ちになっているはずだ。
そう考えた場合、早くジェロニモ達を見つけねば、全てが手遅れになってしまう。
「‥‥処刑の執行は日没。もう時間がありませんね」
険しい表情を浮かべながら、リノルディアが溜息を漏らす。
処刑の時間が近づくにつれてピリピリとしたムードが漂ってきたため、だんだん辺りが騒がしくなっている。
「天斗の交渉が無駄に終わり、罪の無い人達が火炙りになるというなら‥‥、それでも手が出せないのか、悔しいぞ、天斗よ」
祈るような表情を浮かべ、我斬が処刑場を睨む。
残された時間は、あとわずか。
‥‥それまでに何とかしなければ、ジーザス教徒の処刑が決行されてしまう。
●第一幕(裏) 代理人
「新撰組一番隊組長の鷲尾天斗と申す。領主殿と面会を申し込みたい」
険しい表情を浮かべながら、鷲尾天斗(ea2445)が深々と頭を下げる。
天斗がむかった場所は領主の家。
ジェロニモに対する処分を話し合うため、領主との面会を申し出たのである。
しかし、ジェロニモ達がジーザス教徒を集めて領主の暗殺を計画していたため、安全上の問題から領主との面会は叶わなかった‥‥。
その代わり、天斗と面会したのが、領主の代理人を名乗る男。
領主の代理人は天斗の身元を確認し、部下達を従えて彼を屋敷の客間に案内した。
「それで‥‥、話とは?」
お茶を一口飲んだ後、領主の代理人が口を開く。
「ジェロニモは我々一番隊が追っている重要人。出来ればジェロニモ捕縛を任せていただきたい」
領主の代理人を睨みつけ、天斗が本題に入る事にした。
「‥‥彼は大変危険な人物。黄泉人や謎の集団とも繋がっています。このまま彼を追い詰めれば貴方達の命が危ないでしょう。そこで、一旦弾圧を中止して、この件は我々に任せてはもらえないでしょうか? ジェロニモを捕らえて取り調べたら、身柄はそちらに引き渡します」
相手の顔色を窺いながら、天斗が交渉を持ちかける。
しかし、領主の代理人は険しい表情を浮かべたまま、なかなか首を縦に振ろうとしない。
「‥‥ならば、この件には関わらないでもらおうか。我々には我々のやり方がある。ジーザス教徒によって多くの村人達が邪悪な考えに染まり、各地で暴動が起こっている。我々だって最初からジーザス教徒狩りを始めたわけではない。出来るだけ話し合いで解決しようと考えていたからな。だからジェロニモがジーザス教徒達を束ね、我々に歯向かう事がなければ、公開処刑など行う事もなかっただろう。すべての元凶はジェロニモなのだ。‥‥分かってくれ。私達だってツライのだ」
わざとらしく涙を浮かべ、領主の代理人が深々と頭を下げる。
大袈裟な態度で、畳に頭を擦りつけ‥‥。
(「この男‥‥、思った以上に狸だな」)
正直、代理人の言葉を信用する事が出来なかった。
しかし、ここでコトを荒立てれば、新撰組全体にまで危険が及ぶ。
「これで‥‥、分かってくれましたかな」
刃物のような鋭い視線。
まるで首元に刃物を押付けられたような感覚。
‥‥天斗は身の危険を感じていた。
背後に座っている男達の殺気を感じ‥‥。
「ええ‥‥、少なくとも貴方達の考え方は理解する事が出来ました」
そう答えるのが、やっとであった。
少なくとも背後にいる男達の相手をするのは危険である。
天斗と同等‥‥。
いや、それ以上の実力があるかも知れない。
運よく彼らに勝つ事が出来たとしても、屋敷にいる男達を相手にしなければならないのだから、ここで代理人の言葉を否定する事は得策ではないだろう。
天斗は尾行を警戒しながら、屋敷を出て仲間達と合流する事にした。
●第二幕 ジェロニモ
「‥‥ジェロニモは見つかったか?」
刻々と公開処刑の時間が迫る中、天斗がリノルディア達と合流する。
処刑場には既に沢山の野次馬が集まっており、ジェロニモを捜す事は難しい。
「残念ながら、まだ見つかっていません。この村にいる事は確かですが、ジェロニモさんも必死なようですからね」
困った様子で溜息をつきながら、リノルディアが辺りを見回した。
辺りにはガラの悪い侍達がウロついており、彼女達と同じようにジェロニモを捜している。
「‥‥こっちも駄目だ。下手に動けば、俺達の立場が悪くなる」
ジロリと侍達を睨みつけ、天斗が警戒した様子で口を開く。
領主の代理人が何者なのか分からないが、何らかの形で大和の大名以外と繋がっている可能性が高い。
「それで‥‥、どうするんだ? このままじゃ、罪のない人達が処刑される事になるぞ」
磔にされたジーザス教徒を見つめ、我斬がジェロニモの人相書きを懐にしまう。
我斬達の立場上、公開処刑を阻止する事が出来ないため、彼らを救うためにはジェロニモ達が暴動を起こす必要がある。
しかし、ジェロニモ達が暴動を起こせば、彼と接触する事が出来なくなるため、その前に何とかしなければならない。
「‥‥見つけました。ジェロニモさんです」
ジェロニモの気配を感じ取り、牙が仲間達に対して合図を送る。
それと同時に蒼汰が隠身の勾玉を使い、忍び足を使ってジェロニモに近づく。
『ジェロニモさんですね』
テレパシーを使ってジェロニモに語りかけ、リノルディアが敵意のない事を伝える。
そのため、ジェロニモは気づかないフリをして、テレパシーの主であるリノルディアの姿を捜す。
「‥‥静かに。イギリスで暮らしていた自分にとって、ジーザス教は身近なモノだから彼らを助けたい気持ちは良く判る。だが、力ずくで助けに行けば、余計に弾圧されてしまう」
ジェロニモの肩をガシィッと掴み、蒼汰がボソリと呟いた。
しかし、ジェロニモは笑みを浮かべ、『分かっています』と答えを返す。
「どうしてジーザス教が標的にされたんだ?」
ジーザス教狩りが行われている理由を聞くため、我斬がジェロニモを守るようにして壁を作る。
「多分、私を誘き出す為でしょう。私さえいなくなれば、村人達を言いなりに出来ますから‥‥」
険しい表情を浮かべながら、ジェロニモが溜息を漏らす。
ジェロニモとしては圧政に苦しむ村人達を助けたいだけなのだが、それが大名達の気に障っている事は間違いない。
「一体、何を知っているですか? ひょっとして黄泉人と関係があるとか?」
色々と聞きたい事があったため、テスタメントが口を開く。
本当なら此処でジェロニモの身柄を確保したかったのだが、そんな事をすれば領主の代理人を名乗る男によってすぐに処刑が行われてしまう。
「大和の大名達は既に黄泉人達の支配下にあります」
何か証拠を握っているのか、ジェロニモが警戒した様子で答えを返す。
「やはりそうか。‥‥ならば先程の対応も納得する事が出来る」
代理人の対応を思い出しながら、天斗が納得した様子で溜息をつく。
それと同時に侍達がジェロニモを見つけ、刀を抜いて襲い掛かってきた。
「‥‥黄泉人達も現れたようだな」
惑いのしゃれこうべがカタカタと歯を鳴らしたため、蒼汰がファントムソードを引き抜いて辺りを見回した。
侍達はジェロニモが黄泉人達を呼び寄せた事を強調し、大声を上げて村人達に印象付けている。
「‥‥すべて罠だったのですね」
急に侍達が村人達の避難を優先したため、リノルディアが軽蔑した様子で溜息を漏らす。
あらかじめ公開処刑が失敗してもいいように、相手側も色々と作戦を考えていたようだ。
「‥‥黄泉人達の相手は任せてください。早く仲間の人達を‥‥」
血糊の入った袋を放り投げ、牙が黄泉人達に攻撃を仕掛けていく。
そのため、ジェロニモは磔にされたジーザス教徒の救出にむかうのだった。
●第三幕 黄泉人
「‥‥マズイ事になったな。これじゃ、ジェロニモが黄泉人達を操っているような雰囲気じゃないか」
侍達のあからさまな態度に呆れつつ、我斬が鬼面を被ってジーザス教徒達の救出にむかう。
鬼面を被っている事で正体を隠す事が出来るため、ドサクサに紛れてジェロニモ達を援護する。
「‥‥どうやら敵の狙いはジェロニモを黒幕に仕立て上げる事のようですね」
黄泉人達がわざとジェロニモを襲っていないような気がしたため、牙が険しい表情を浮かべてスマッシュ+シュライクを放っていく。
次の瞬間、正義感に燃えた村人達が松明を放り投げ、ジーザス教徒を火炙りにしようとした。
「早く皆さんを!」
プットアウトを使ってコッソリと火を消し、リノルディアがジェロニモに合図を送る。
この状況でジェロニモの無実を証明する事が出来ないため、彼が逃げる手助けをする事しか出来ない。
「‥‥すまんな。こんな事しか協力する事が出来なくて‥‥。せやけど大名が黄泉人とグルッて本当なんか? これがデマだったらシャレにならないで?」
黄泉人達の相手をしながら、司がジェロニモに話しかける。
しかし、ジェロニモは仲間達を連れて逃げる事に夢中で、司の質問に答えている余裕がない。
「とにかく落ち着いたら連絡をくれ。この状況でジェロニモ殿を信用する事は出来ないからな。だからと言って大名達を信じているわけではないが‥‥」
複雑な心境に陥りながら、蒼汰がジェロニモ達の退路を切り開く。
辺りが混乱しているおかげで、新撰組の面子がジェロニモに協力した事に気づいている者は少ないが、本当にこれで良かったのかと疑問に思ってしまう。
「‥‥証拠はあります。でも、いまは‥‥」
侍達が刀を構えて集まってきたため、ジェロニモが指笛を鳴らして馬を呼ぶ。
「早く行け。俺達だっていつまでも誤魔化せない」
そのため、天斗も斬りかかるふりをして、ジェロニモと無関係である事を強調する。
ジェロニモとジックリと話し合う余裕は無かったが、彼が何か知っている事は間違いない。
‥‥後はジェロニモからの連絡を待つだけである。