●リプレイ本文
「ごるびー君本人に会うのは確か初めてだったよな‥‥。しかし、ハゲ頭でスピンなんてしたら、もう2度と毛が生えてこないような気がするが‥‥」
新たな芸を会得し見世物小屋の人気者として復帰したごるびーに会うため、龍深城我斬(ea0031)がイカを手土産にして扉を叩く。
控え室の中にはイタチのまとりょーしかが給仕姿で立っており、我斬達の姿に気づくとかしこまった様子で頭を下げる。
「久しぶりだな、まとりょーしか。やっぱ尻が好きなのか?」
まとりょーしかの頭を撫で、我斬がお土産に持ってきたイカを渡す。
控え室にはごるびーの姿はなく、別室で芸の練習を続けているらしい。
「そう言えば河童のお客さんが来ていたようですね」
河童印のキュウリを見つけ、刀根要(ea2473)がボソリと呟いた。
するとまとりょーしかはニコリと笑い、急須をうんしょうんしょと運んでお茶を出す。
「なるほど‥‥。河童達も警告に来たのですね」
湯飲み茶碗の底に河童の絵が描かれていたため、要が納得した様子でまとりょーしかの頭を撫でる。
「ふーむ、芸風とあれば致し方無いが‥‥河童達と友誼ある身としては絵師殿の行為はあまり感心出来ぬな。絵を定着させようと皿を乾かせば、それだけで河童達の命にも関わりかねぬし‥‥」
あちこちに置かれた河童グッズを見つめながら、ルミリア・ザナックス(ea5298)が河童達の顔を思い出す。
被害に遭った河童達の大半は巷を騒がせていたえろがっぱーずの面々だが、だからと言ってこのまま放っておけば暴走した絵師によって被害者は増えていくばかりである。
「とにかく呼び込みをして絵師が来るのを待ってみよう」
『絵師さん限定割引サービス』と書かれた看板を持ち、我斬が正面入り口へとむかう。
見世物小屋の入り口にはたくさんの客が並んでおり、ごるびーの新芸を見るため徹夜組までいるほどだ。
「思ったよりも絵師は来ていないようですね。やはり卑猥絵師の噂がここまで届いているという事でしょうか?」
何か嫌な予感が脳裏を過ぎり、要が険しい表情を浮かべて呟いた。
卑猥絵師の噂はかなり広まっているため、絵師館が警戒している恐れもある。
「河童達も卑猥絵師恐れて協力してくれそうにないし‥‥困ったな」
ごるびーのぬいぐるみをポンと置き、ルミリアが疲れた様子で溜息をつく。
河童達の間で卑猥絵師の噂が誇張されている事もあり、かなり不気味な人物として恐れられているようだ。
「さすがに包み隠さず教えるわけにはいかないからな。かなり言葉を濁して子供達に説明しているのだろう」
子を持つ河童達の顔を思い浮かべ、我斬がお客達の中から絵師を探す。
行列の中には自称・絵師も含まれるため、探している途中でだんだん面倒になってくる。
「ごるびー君の新芸‥‥、意外と好評のようですね。以前ならこの半分‥‥いや、それ以下だったのに‥‥」
ひとりひとりお客の顔を確認しながら、要がごるびーの人気ぶりに驚いた。
「‥‥おかしいな。そろそろ卑猥絵師が現れてもいい頃だが‥‥。まさか裏口から見世物小屋の中に入ったわけじゃないだろうな」
開演の時間が迫ってきたため、ルミリアが険しい表情を浮かべて汗を流す。
何度確認しても問題の絵師がいなかったため、ルミリアがアセッた様子で辺りを睨む。
「もう少し様子を見てみよう。俺達がここを離れた瞬間、何処かに隠れていた卑猥絵師が、正面から堂々と入っていく可能性もあるからな」
そして我斬は何か引っ掛かるような感覚に襲われ、その場で考え込むのであった。
「ほぅ、自分で技を編み出したのか。大したものだ!」
まるごとねずみーを纏って爽快な笑みを浮かべ、本所銕三郎(ea0567)が訓練所で練習を続けるごるびーを褒める。
銕三郎の愛用しているまるごとねずみーの胸には『ごるびー』と書かれた大きな名札がついており、頭にはごるびーのハゲ頭を模したお猪口が乗っているようだ。
「‥‥なんだ、その目は‥‥? 何事もやってみなければ分かるまい。これは見た目のわりには凄いんだぞ」
あからさまに嫌な表情を浮かべるごるびーを見つめ、銕三郎が納得の行かない様子で偽ごるびーの良さを説明した。
「しかし、少し見ぬうちに新しい技を身につけて何やら元気な様じゃな」
見事にテカッた頭を見つめ、レダ・シリウス(ea5930)がニコリと笑う。
ごるびーの踊りは異国のダンスを取り入れているため、レダも依頼が終わったら教えてもらうつもりでいるようだ。
「それにしても、ごるびーはつくづく狙われやすい奴じゃのぅ。まぁ、人間と比べればなりが小さいから、組し易しと侮られるんじゃろうが、こればっかりはの」
苦笑いを浮かべながら、馬場奈津(ea3899)がごるびーの頭をつるりと撫でた。
最近、手入れを始めたためか、軽く触っただけでもよま滑る。
「せっかく『ハゲ』に対して前向きになって来たというのに、その『ハゲ』を自分の私利私欲の為に利用しようなんて、こんなひどい事はないでしょう!!」
卑猥絵師に対して怒りを感じ、レオーネ・アズリアエル(ea3741)がハゲの部分を強調した。
「あまりハゲを強調しない方がいいでござる。ああ見えても、ハゲを気にしているようでござるから‥‥」
ごるびーがどんよりとした空気を漂わせたため、沖鷹又三郎(ea5927)が慌てた様子でフォローを入れる。
「ひょっとして新技を会得したのも、ヤケになって偶然出来たものなのか」
落ち込むごるびーの顔を見つめ、銕三郎が冗談まじりに微笑んだ。
しかし、ごるびーは何も答えず、気まずい様子で汗を流す。
「どうやら図星のようじゃな。しかも一発芸で人気が出たため、後戻りが出来なくなったというわけか」
ジト目でごるびーを睨みつけ、レダが呆れた様子で溜息をつく。
「そんなに落ち込む必要はないのよ。ほらほらごるびー君、アフロかつらだけじゃワンパターンだと思って、リーゼントとモヒカンのかつらも作ってきたよー」
このままではマズイと思ったため、リオーネが持参したカツラを代わる代わる被せていく。
それでもごるびーの機嫌が直らないため、頭皮をマッサージして綺麗に毛並みを整える。
「しかし、卑猥絵師にも困ったものじゃな。罪無きごるびーを標的にするとは何ごとか。この際とっ捕まえて番所に突き出し、卑猥な絵を巷にばら撒いた事で、こってりと油を絞ってもらうとするかの」
卑猥絵師から届いた予告状を見つめ、奈津が頭を抱えて呟いた。
確かに卑猥絵師の描く絵はうまいのだが、こんな絵を頭に描かれたらしばらく立ち直れそうにない。
「とりあえず怪しい絵師は片っ端から捕まえるわね」
裏口に『関係者以外立ち入り禁止』の札を立て、レオーネが物影に隠れて卑猥絵師がやってくるのをジッと待つ。
何度か影武者らしき絵師が裏口から入ってきたが、未だに問題の絵師は現れていない。
「絵師の習性として、丸くて白い『描ける』物を見たら、きっと絵が描きたくなると思うでござる」
ごるびーを模した人形を作り、又三郎が卑猥絵師用の罠を仕掛ける。
必ずしも絵師がそのままの格好で来ているとは限らないため、偽ごるびーを使って卑猥絵師の心に揺さぶりをかけようとしているらしい。
「そんな渋い顔をするな。みんなお前を心配しているんだぞ」
梅干のような表情を浮かべるごるびーを見つめ、銕三郎が苦笑いを浮かべて肩を叩く。
非常事態に備えて呼子を渡しておいたため、何かあった場合はすぐに駆けつける事が出来るだろう。
「とりあえずこれを被っておくでござる」
育毛効果のある海藻類で機嫌をとり、又三郎がごるびーの頭に市女笠を被せる。
ごるびーはようやく機嫌が直ったのか、ワカメにイカを巻いてモグモグ食べた。
「それじゃ、わしは荷物箱の中にでも隠れておこう。卑猥絵師が控え室に来るかも知れないからな。‥‥ん? なんじゃ、この反応は‥‥?」
何故か天井でブレスセンサーが反応したため、奈津が不思議そうに首を傾げて天井を睨む。
ごるびーはそのまま舞台にむかったが、天井裏が気になるためこの場を離れるわけには行かないようだ。
「まさか卑猥絵師は天井に潜んでいるのか!? ‥‥なるほど。奴も考えたな」
そしてレダは天井裏に潜り込み、卑猥絵師を探すのだった。
「はわわ〜! ごるびーちゃんですよ〜☆」
嬉しさのあまり思わず抱きつき、ベル・ベル(ea0946)がごるびーとの再会を喜んだ。
ごるびーは市女笠を放り投げ、頭をキランと輝かせる。
「ごるびーさん、元気そうで何よりです。今日はかっこいいごるびーさんを見られるという事で来てみました」
ごるびーのぬいぐるみを抱き締め、リュカ・リィズ(ea0957)がニコリと微笑んだ。
するとごるびーはびしっと親指を立て、床に頭をつけてクルクルと回りだす。
「‥‥俺も今度やってみるかな、アレ‥‥」
興味深そうにごるびーの新技を見ながら、九十九嵐童(ea3220)が感心した様子で溜息をつく。
「はわわ〜〜〜!! ごるびーちゃん、そんなふうに踊っちゃ駄目ですよ〜〜〜。そんな事をしなくても、私が一緒に踊ってあげるですよ〜☆」
慌ててごるびーの踊りを止めさせ、ベルが空中を飛んだり跳ねたりしながらダンスを踊る。
「そろそろ準備をしておきましょう。舞台に上がる以上は不様な姿は晒せませんからね。出来うる限り最高の芸というものをお見せいたしましょう」
舞台の開演時間が迫ってきたため、瀬戸喪(ea0443)がごるびーの肩をぽふりと叩く。
「それにしても妙だな。未だに絵師が現れないとは‥‥」
黒子の格好で腕を組みながら、嵐童が険しい表情を浮かべて辺りを睨む。
「そう言えばそうですね。天井裏に大きなネズミがいるようですが‥‥」
天井で大きな物音がしたため、喪が警戒した様子で鞭を握る。
天井裏では何かが暴れているらしく、あちこちをドタバタと走りまわっているようだ。
「ひょっとして、これってネズミじゃなく‥‥卑猥絵師」
天井裏にトラップを仕掛けていた事を思い出し、リュカがハッと気づいて飛び上がる。
それと同時に卑猥絵師が天井から落下し、派手に尻餅をついて汗を流す。
「おやおや、偶然ですね。ちょうどあなたの噂をしていたんですよ。天井裏にいるんじゃないかって‥‥」
満面の笑みを浮かべながら、喪が鞭を構えてジリジリと逃げ道を塞ぐ。
「な、何の事かな? 俺は天井裏を掃除していただけだ」
気まずい様子で笑みを浮かべ、卑猥絵師が蜘蛛の巣を払って必死で逃げる。
「はわわ〜! 卑猥絵師さんが逃げたですよ〜」
慌てた様子で飛び上がり、ベルが卑猥絵師の後を追う。
卑猥絵師は持参した道具を放り投げ、そのまま舞台のある方向へと走る。
「まったく面倒な事を‥‥。そこまでして痛い目に遭いたいか」
火遁の術を使って卑猥絵師を威嚇しながら、嵐童が一気に間合いを詰めてスタンアタックを叩き込む。
卑猥絵師はブクブクと泡を吐き、白目を剥いて気絶する。
「まだ気絶するには早過ぎますよ。これからもっと楽しい事が起こるのに‥‥」
すぐさま卑猥絵師をロープで縛り、喪が含みのある笑みを浮かべて呟いた。
「そんな事より舞台の開演時間ですよ〜。このままじゃ遅刻しちゃいます〜」
舞台の方が騒がしくなってきたため、リュカがごるびーを抱き上げ飛び上がる。
「はわわ〜!! まだ用意もしていないのに〜」
そしてベルは大粒の涙を浮かべながら、着替える間もなく舞台へとむかうのだった。