●リプレイ本文
「ひょっとして見世物小屋の担当はわたくしひとりなの?」
大粒の汗を浮かべながら、南天流香(ea2476)が辺りを見回した。
仲間達は鎌鼬退治とごるびー捜索にむかったため、見世物小屋には流香と小動物しか残っていない。
「しかもすねこすりさんと言われて渡された小動物は単なる猫……。これでわたくしに一体何をしろと‥‥」
困った様子で猫を抱き上げ、流香が大粒の汗を流す。
猫は何も知らないため、文句の言いようがない。
「‥‥仕方ありません。当たって砕けろです」
一抹の不安を感じながら、流香が拳を握って舞台を立つ。
観客席にはごるびー見たさにやってきた客が集まっており、流香の姿に気づくと困惑した表情を浮かべ疎らな拍手で迎え入れた。
「やっぱり‥‥わたくしひとりでは無理です」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、流香が眩暈で倒れそうになる。
「みゃあ〜ん」
心配そうに流香を見つめ、猫が甘えて身体に擦り寄った。
「が、頑張ります」
優しく猫を抱き上げ、流香が気合を入れて拳を握る。
「この子は一時期この界隈で有名になった、あの『白い彗星』の従兄弟の知り合いの友達、『すねこすり界の気分屋・紫電改』此処に登場です。彼は初舞台の為、緊張しているようです。何方かすねこすりの技を受けてみたいお客さんはいませんか?」
張り詰めた空気の中、流香が猫を抱えて汗を流す。
やはりひとりでは荷が重すぎたのか、お客達の食いつきの悪い。
(「‥‥やはり猫では荷が重過ぎましたか。ですがここで逃げるわけには行きません。最後まで希望を胸に頑張らねば‥‥」)
今度は魚の入った水槽に針金を仕込み、流香が観客達の前に立つ。
「さあお立会い。紫電改はこの魚どうやって捕まえるでしょう」
戸惑う観客達の前に立ち、流香が意味深な言葉で興味を誘う。
観客達は水槽の魚を狙う猫に釘付けになっており、流香の動きには気づいていない。
「おーっと、出ました! 紫電改の気まぐれ奥義名前の由来になった紫雷だ!」
猫がピョンと飛び上がった瞬間を狙い、流香がライトニングアーマーを付与して針金を掴む。
それと同時に水槽の中に入った魚が痺れ、水面にプッカリと浮かび上がる。
「これで驚いていては困ります。舞台はまだ始まったばかりなのですから!」
盛大な拍手に包まれ、流香がホッと溜息をつく。
だが、これで舞台は終わらない。
‥‥流香の苦労はまだまだ続く。
「‥‥ここが鎌鼬の森か。さっそく僕達の気配に気づいて奴らが集まってきたようだな」
近くの木に登って船の舳先に立つようなポーズ決め、加藤武政(ea0914)が辺りを見回し溜息をつく。
鎌鼬の森は朝だというのに薄暗く、武政達の気配に気づくと鎌鼬の群れが集まってくる。
「時間、稼ぎをさせてもらいますよ」
鎌鼬の襲撃に備えるため、山本建一(ea3891)が素早く刀を引き抜いた。
「みんな‥‥覚悟はいいな!」
仲間達全員にオーラパワーを付与し、ルミリア・ザナックス(ea5298)が先頭に立って野太刀を握る。
「もちろんだっ! このまま迎え撃つぜ!」
ルミリアの左背後に陣取り、伊達正和(ea0489)がニヤリと笑う。
鎌鼬の群れは風を切りながら、正和達にむかって襲い掛かる。
「バラバラにされてしまったごるびーさんの仇。おかまのイタチを一匹でも多く道連れにしてやります」
仲間達にグットラックを付与して涙を流し、志乃守乱雪(ea5557)が正和とは反対側から鎌鼬の群れに攻撃を放つ。
「‥‥ごるびー殿は死んだのか?」
驚いた様子で乱雪を見つめ、沖鷹又三郎(ea5927)が仲間達の殿を務めた。
「はっはっはっはっは! 戦え、戦え! 両者が争い、疲弊したところで、横合いから思いっきり殴りつける! それがギンギラギンにさりげない、加藤武政の戦略よ!」
木の上にのんびりと寝転がり、武政が仲間達の戦いを見学する。
「‥‥困りましたね。出来れば協力してほしいんですが‥‥」
傷ついた右腕を庇いながら、健一が険しい表情を浮かべて汗を流す。
鎌鼬の群れは次第に健一達を取り囲み、その命を奪い取ろうとしているようだ。
「おぉっ!? 我を踏み台にしたぁ!?」
油断した隙に頭を踏まれてしまったため、ルミリアが鎌鼬の後を追う。
「‥‥恐ろしいほど連携が取れているな」
鎌鼬に挟み撃ちにされそうになったため、正和が後ろに飛んで攻撃をかわす。
「見事なほどの三位一体の連携、この黒い鎌鼬ども、できる‥‥」
マントを使って鎌鼬の刃を包み込み、ルミリアが素早くスマッシュを放つ。
「ううっ‥‥、ごるびー!」
ごるびーの遺影を心に浮かべ、乱雪が涙を流して鎌鼬を殴る。
「ならばこれはどうでござるか! 拙者が精魂込めて作った料理を鎌鼬殿に賞味して欲しいでござる〜!」
新鮮なイカと同じ網に引っかかっていた小魚を料理して作った『新鮮イカ小魚生血あえ』を地面に置き、又三郎が鎌鼬の群れを誘き出すため少し離れた場所に移動した。
すると鎌鼬の群れは皿のまわりに集まりしばらく考え込んだ後、又三郎を見つめて怪しく瞳を輝かせる。
「‥‥どうやら私達の方が好みのようですね」
大粒の汗を浮かべながら、健一がゴクリと唾を飲み込んだ。
「うわっ、洒落にならん」
鎌鼬の群れがジリジリと迫ってきたため、正和が気まずい様子で汗を流す。
「くっくっく、そろそろ僕の出番だね。この鍛えられた僕の体の前では、他の者など全て貧弱! あえていおう! カスであると!」
自信に満ちた表情を浮かべ、武政が鎌鼬に群れに刀をむける。
「でも、よく見ると可愛らしいですね。鎌鼬って‥‥」
危うく鎌鼬に心を奪われそうになったため、乱雪がウットリとした表情を浮かべてクスリと笑う。
「‥‥に、逃げるぞ!」
鎌鼬の数が増えてきたため、正和がダッシュで森から逃げていく。
「何っ! もう逃げるのか!?」
ひとりで鎌鼬と戦っていたため、武政がハッとなって後ろをむく。
「こんな事もあろうかと、食物は余分に用意していたのだ。さぁ、今のウチに退くぞ!」
そしてルミリアは懐の中から肉を取り出し、鎌鼬の森から逃げ出すのであった。
「はやや? ごるびーちゃんが消えたですか?!」
ごるびーがいなくなった事を聞いたため、ベル・ベル(ea0946)が驚いた様子で飛び上がる。
「それにしても、よく逃げ出しますねぇ。動物関係で家出ですか‥‥。確かいじめはこないだありましたから、別の事でしょうか? いじめといえば僕の家も芸をしているので人間関係けっこう凄かったですけどね。何せ兄弟全員腹違いで僕が一番末子でしたから。これでもかって言うほど陰湿ないじめを受けましたよ。それで何度も死のうと考えました‥‥。まあ全員の弱味を握って順に手出しできないようにしたんですけどね。弱味がないようなら無理矢理にでも作って‥‥。思えばあの時が人生の転機でしたねぇ」
思い出話をしながら、瀬戸喪(ea0443)が昔を懐かしむ。
「今度はどうして家出しちゃったんですかね〜? 一体、何処行っちゃったですか?」
寂しそうな表情を浮かべ、ベルが心配そうに辺りを見回した。
「‥‥どうやら鎌鼬の住む森らしい」
どんよりとした雰囲気のする森を指差し、本所銕三郎(ea0567)が疲れた様子で溜息をつく。
その名の通り鎌鼬の住む森にはたくさんの鎌鼬が棲んでいるため、ルミリア達が囮となって鎌鼬の群れをひきつける事になっているらしい。
「かまいたちの住む森の中ですかぁ? ごるびーちゃ〜ん! 何処行ったですかぁ〜!?」
慌てた様子で森にむかって飛んで行き、ベルが大粒の汗を浮かべて戻ってくる。
「‥‥とっても恐いイタチさんがいましたよ〜」
森の中で物凄い数の鎌鼬を見たらしく、ベルが怯えた様子で涙を流す。
「だろうな。一気に突き抜けるしかないだろ。‥‥あの『すねこすり』で何処まで誤魔化せるか分からんしな。‥‥とにかく急ぐか」
自分の運命を天に任せ、九十九嵐童(ea3220)が森を睨む。
森の中ではルミリア達が行動を開始したため、鎌鼬の群れが彼女達のまわりに集まっているらしい。
「ごるびーさん‥‥生きているといいですね」
青空の中で微笑むごるびーを思い浮かべ、喪が雷童達に続いて森に入る。
「ごるびーちゃ〜ん☆ おいしいイカさんありますよ〜☆ 早く戻ってこいですよ〜☆」
香ばしいイカの匂いを漂わせ、ベルが森の中を飛んでいく。
「俺がごるびーだったら、湖に行くと思うんだ。確かごるびーが家出した時には、必ずと言っていいほど湖に行っていたと聞いている。その事からごるびーが湖に行ったと考えるのが普通だろう」
依頼主から貰った地図を広げ、嵐童が森の中にある湖を目指す。
「‥‥何か湖の上に浮かんでますね」
大きな風船のようなものが湖の真ん中に浮かんでいたため、喪が不思議そうな表情を浮かべて呟いた。
「あれはごるびーちゃんですよ〜」
ごるびーのそばまでパタパタと飛んでいき、ベルが驚いた様子で報告に戻る。
「‥‥『水走りの術』、真面目に覚えておけば良かったな‥‥」
湖面に漂うごるびーを見つめ、嵐童が愚痴をこぼして飛び込んだ。
「‥‥やっぱり冷たい‥‥」
‥‥数分後。
嵐童によって救出されたごるびーを触り、銕三郎が青ざめた表情を浮かべる。
ごるびーの身体はとても冷たく、ほとんど息をしていない。
「眠っちゃ駄目ですよ、ごるびーちゃん。美味しいイカを持って来ましたよぉ〜」
水を吐き出させるためごるびーのお腹を押し、ベルが涙を浮かべて呟いた。
「きゅっ‥‥」
三途の川から舞い戻り、ごるびーがキョトンとした表情を浮かべる。
「お前‥‥本当に泳げないのか‥‥?」
呆れた様子でごるびーを見つめ、銕三郎が大きな溜息をつく。
「見世物小屋に帰る、帰らないはお前さんの自由だとは思うが‥‥例えどんな状況であろうと、客が待っているのに業を始めないのは『業で客を魅せる者』として失格じゃないのか? ‥‥このままだとお前さんは負け犬‥‥いや、負けかわうそになっちまうぞ?」
濡れた服を木の枝に干して乾かし、嵐童がごるびーの説得をし始めた。
ごるびーはしょんぼりとした表情を浮かべ、嵐童を見つめて頭を下げる。
「何があった? また苛めか? 苛めなら、味方を作れ!」
上空を飛ぶ鳶を指差し、銕三郎がニコリと微笑んだ。
「ロンなんかどうだ? 奴と仲良くなればいつでも守ってくれるぞ! ‥‥あっ‥‥落ちた‥‥」
一瞬にして辺りが気まずい雰囲気になったため、銕三郎が何も言わずに視線を逸らす。
「ごるびーちゃんも大変ですねぇ‥‥。ごるびーちゃんはごるびーちゃんでいろんな芸を覚えてお客さんを喜ばしてあげればいいんですよ〜☆ 向こうは向こう、ごるびーちゃんはごるびーちゃんですよ☆ いかさんが好きだったら、いかさんの着ぐるみを着て踊ってみたらどうですか〜?」
ごるびーと一緒にイカをかじり、ベルがイカの着ぐるみをプレゼントした。
するとごるびーは湖を指差し、なにやら銕三郎に語りだす。
「ひょっとしてお前‥‥秘湯探しに来ていたのか」
そして銕三郎はごるびーの目的を知り、呆れた様子で溜息をついた。