●リプレイ本文
「俺達が力士の相手をして時間稼ぎをするから、悪徳商人は任せた。それと病に気をつけろよ。酒を奢ってやるからさ」
レオーネ・アズリアエル(ea3741)にむかって声をかけ、伊達正和(ea0489)がビシィッと親指を立てる。
レオーネ達はごるびーをそれんの待つ湖まで逃がすつもりでいるらしく、正和達と別れて見世物小屋の裏口にむかう。
「‥‥悪徳商人どもめ。河童達を利用してごるびーをさらおうなど卑怯な事を‥‥許せぬ! 必ず後で叩き潰す!」
悪徳商人のやり方に腹が立ち、ルミリア・ザナックス(ea5298)が怒りに拳を震わせる。
「そもそもごるびーが中途半端にハゲておるのが良くない! そう、半端はいかん。 どうせやるなら根こそぎに‥‥」
厳しい表情を浮かべながら、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)がギラリと剃刀を輝かす。
「別にごるびーが悪いわけではない。問題は河童達だ。あまり騒ぎを大きくして、河童達が世間で悪者扱いされるようになっては一大事。何とか早々に解決せねばな」
これ以上ごるびーがグレても困るため、ルミリアがゴルドワの肩を掴んで首を振る。
「河童対ごるびー殿。両方に関わりを持つ者として、この悲しい対決は何とか回避したいでござる」
見世物小屋の外に土俵を作り、沖鷹又三郎(ea5927)がちゃんこ鍋の準備をし始めた。
「貴様らが太助をさらった悪党か!」
険しい表情を浮かべながら、河童力士が又三郎に警告する。
悪徳商人から又三郎達が太助を誘拐したと聞いたため、河童力士の表情には怒りすら感じられた。
「奪われた子供を自ら救いに来るその心がけは真に天晴れ! しかし! お前達は行くべき場所を見失っておる!!」
河童力士の警告にもまるで動揺した様子もなく、ゴルドワが悲しげな表情を浮かべて口を開く。
「太助を誘拐しておいて、偉そうな口を叩くんじゃない!」
いまにも張り手を食らわせそうな勢いで、河童力士が辺りに殺気を撒き散らす。
「落ち着け! おぬしらは騙されたのだ! 子河童はココには居らぬ!」
河童力士達を制すようにして立ち塞がり、ルミリアが両手を大きく開いて首を振る。
「騙されているだと‥‥?」
納得の行かない様子でルミリア達を睨みつけ、河童力士が力任せに壁を叩く。
「話し合えば分かるでござる!」
河童力士達にちゃんこ鍋を振る舞い、又三郎が敵意のない事を強調した。
「そんな嘘を信用するほど、我らもお人よしでない!」
張り手を使って看板を破壊し、河童力士が感情を爆発させる。
「力士としてこんな事をして恥かしくないのですか」
見世物小屋を守るようにしながら、三笠明信(ea1628)が悲しげな表情を浮かべて呟いた。
「問答無用!」
不機嫌そうに四股を踏み、河童力士が明信を睨む。
「五輪祭で鳴らした俺だ! 河童とガチンコ勝負してやる」
身に纏っていた着流しをバサッと脱ぎ捨て、正和が褌一丁になると河童力士達の前に立つ。
「はっけよーい、のこったぁっ!」
両手を鳴らして猫騙しを浴びせ、正和が河童力士の張り手をオフシフトで避け、下手投げを放って勝負を決める。
「むむむ、カッパは相撲が強いとは聞いた事があったが、まさか実際に腕を比べる機会があろうとは! これぞ相撲取り冥利と言う奴か!! これだ、我輩にはこれしかない!!」
豪快な笑みを浮かべながら腕を組み、ゴルドワが河童力士を睨んでポージングを決める。
「悪いが相撲をしている暇はない。俺達も遊びに来ているわけではないからな」
仲間達にむかって声をかけ、河童力士が一斉に攻める。
「さすが力士クラスの河童だけはありますね」
河童力士の張り手を素早くかわし、明信が地面を蹴って背後を取った。
「見世物小屋を壊すのをやめて下されば、拙者達も一緒に誘拐された河童の子供達を捜すのを手伝うでござる」
無駄な争いを避けるため、又三郎が河童力士を説得する。
「お前達がさらった癖に!」
見世物小屋の壁を破壊し、河童力士が雄叫びを上げた。
「それは誤解だ!」
悲しげな表情を浮かべながら、ルミリアが怒りに身体を震わせる。
子供が誘拐された事で河童達は我を失っており、説得に応じるつもりはないようだ。
「正々堂々相撲で勝負だ!! あえて魔法は使わぬ! 漢の勝負に呪文は不要!! 漢は苦しい時ほど笑わねばならんのだ!!」
仲間達の盾となって強烈な張り手を何度も喰らい、ゴルドワが顔面を腫れ上がらせながらニヤリと笑ってスープレックスを炸裂させる。
「ぐほっ‥‥、まさかここまで実力のある奴だったとはな」
危うく皿が割れそうになったため、河童力士が警戒した様子で汗を流す。
「すまぬ‥‥。だが、子河童は必ず助け出すゆえ、少し良い夢でも見ておいてくれ」
扇のような飾り付けのされた刺叉にオーラパワーを付与し、ルミリアが河童力士の張り手を避けると鋭い一撃を放つ。
「これで終わりだ! どすこいっ!」
一気に間合いを詰めてスタンアタックを放ち、正和が次の相手にソニックブームをお見舞いし、上手投げを放ってトドメをさす。
「少しの間だけ眠っていてください。早く悪夢から覚めるように‥‥」
地面に倒れた河童力士を見つめながら、明信が悲しげな表情を浮かべて呟いた。
「だが、これだけは信じてほしい。おぬし達は騙されていたのだ」
河童力士の皿にどぶろくをかけて酔い潰し、ルミリアが悔しそうに視線を逸らす。
「‥‥必ず約束は守でござる」
悪徳商人を捕まえるため、又三郎が裏口にむかう。
「中途半端な形で終わらせるわけには行かないからな。‥‥これを渡すためにも」
そしてルミリアは明信宛の恋文を隠すと恥かしそうに頬を染めるのであった。
「はやや〜〜、今度はごるび〜ちゃんを捕まえようとする人がいるですか〜〜〜。ごるび〜ちゃんはごるび〜ちゃんであって河童さんじゃないですよ〜〜〜」
ごるびーのまわりをグルグルと飛び回り、ベル・ベル(ea0946)がぷんぷんと怒る。
「ピカールごるびーなんて可哀想よねぇ‥‥。やっぱりかっこよく『サンライズごるびー(略称:Sごるびー)』って呼んであげなきゃ♪ ‥‥冗談よ」
ごるびーの顔が劇画調になったため、レオーネが気まずい様子で汗を流す。
「それじゃ、少し毛を貰えるかしら? いや、頭の毛じゃなくて、背中とか尻尾の毛とか」
頭のてっぺんを隠したごるびーにツッコミをいれ、レオーネがごるびーの体毛を使ってカツラを作る。
「コレを被っていれば悪徳商人や河童もごるびー君とは気がつかない‥‥はずよ」
いかにも怪しげな胡散臭く風貌に仕上がったため、レオーネが気まずい様子で視線を逸らす。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと次の手も打ってあるから」
ごるびーが心配そうな表情を浮かべたため、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)が銅鏡・毛布・ロープ・越後屋手ぬぐいを材料にして偽ごるびーを完成させる。
偽ごるびーの頭には又三郎の手によって銅鏡が縫いつけられているため、ごるびーも複雑な表病を浮かべてカツラの位置を整えた。
「まぁ、そう嫌がるな。実はこんなものも用意したぞ」
イタチの毛皮を作って偽ごるびーの毛皮を作り、九十九嵐童(ea3220)が野良猫達に着せていく。
猫達は寒い夜を過ごしていた事もあり、嵐童からの思わぬプレゼントに喜んでいるようだ。
「わわっ、ごるびーちゃんがいっぱいですよ」
瞳をランランと輝かせ、ベルが偽ごるびー達に飛びついた。
「まぁ、ハゲの部分は気にするな。悪徳商人に捕まりたくはないだろう?」
ごるびーがやけに毛皮のハゲを気にしたため、嵐童が気まずい表情を浮かべて頭を撫でる。
「悪徳商人を騙すためには、遠目でも頭部が光っているのが分かる必要があるの。だから我慢して‥‥」
落ち込むごるびーを慰めながら、アイーダが偽ごるびー達を野に放す。
猫達は暖かい毛皮を貰ったためか、嬉しそうに喉を鳴らして御礼をする。
「湖に着くまで我慢していてね」
敵の目を欺くため、レオーネがごるびーをマフラー代わりにして首を巻く。
「お前達‥‥そこで何をしてるんだ?」
邪悪な笑みを浮かべながら、悪徳商人達がレオーネを睨む。
「‥‥ひとつ聞きたい。あんたら『コサック』の関係者か?」
レオーネの手引きでごるびーが逃げ出す時間を稼ぐため、嵐童が悪徳商人達の前に立って道を塞ぐ。
「だとしたら‥‥どうする?」
含みのある笑みを浮かべ、悪徳商人達が怪しく口元を歪ませる。
「ごるびーちゃんは誰にも渡さないですよぉ〜」
偽ごるびーをうんしょうんしょと抱きかかえ、ベルがフラフラとしながら空にむかって飛び上がる。
「逃がすなー、落とせ!」
空に逃げたごるびーを捕まえるため、悪徳商人達が次々と石を投げていく。
「わわっ、そんな事をしたら落ちちゃいますよ〜」
悪徳商人の投げる石をひょいひょいと避けながら、ベルが偽ごるびーを振り子のように揺らして文句を言う。
「当たり前だろ。落とすためにやっているんだ」
両手に持った石を投げ、悪徳商人が偽ごるびーを狙う。
「みゃん!」
大きな石がハゲに当たり、偽ごるびーが激痛とショックで地面に落ちる。
「わわっ、ごるごーちゃん!」
慌てた様子で悲鳴を上げ、ベルが偽ごるびーを助けにむかう。
「よしっ! 捕まえろぉ〜」
すぐさま偽ごるびーを取り囲み、悪徳商人達が雄叫びを上げて飛び掛る。
「なんだ、こりゃ! 猫じゃねえか!」
偽ごるびーの毛皮を剥ぎ取り、悪徳商人の親分が中から出てきた野良猫を睨む。
「退きなさい! ごるびーはあなた達なんかに絶対渡さないわよ。ね、ごるびー」
背中に偽ごるびー入りの篭を背負って愛馬に飛び乗り、アイーダが短弓を構えて悪徳商人を威嚇すると全速力で走り出す。
「あれが本物のごるびーか、追え!」
偽ごるびーの毛皮を被った猫を放り投げ、悪徳商人達がアイーダの後を追う。
「どうやら罠に引っかかってくれたようだな」
一番後ろにいた悪徳商人に当て身を食らわせ意識を飛ばし、嵐童がホッとした様子で溜息をつく。
太助の居場所を聞き出すためにも、最低一人は捕まえておく必要がある。
「ごるびーちゃん達は無事に湖まで辿り着きましたかね〜?」
そしてベルは偽ごるびーの毛皮を被り、心配そうに湖のある方向を眺めるのであった。
「太助〜、太助〜」
何度も子供の名前を呼びながら、子河童の母親がボロボロと涙を流す。
子供が行方不明になってから一睡もしていないのか、子河童の母親は妙にやつれた表情を浮かべている。
「母河童は子河童のなを叫んで走り回っているという事だが‥‥あれか‥‥。まずは走っているのを止めて話を聞いてもらわねばならん」
韋駄天の草履を穿き終え、本所銕三郎(ea0567)が母親河童の後を追う。
「それにしても、どうして間違えるんだろう。‥‥禿げていても、あからさまに河童とカワウソとでは違うと思うけど」
ごるびーの顔を思い浮かべ、ファラ・ルシェイメア(ea4112)が疲れた様子で溜息をつく。
「どちらにしても早く誤解を解く必要がありますね」
悪徳商人に母親河童が騙されている事を伝えるため、志乃守乱雪(ea5557)が彼女の後を追いかける。
「お前さんの手助けにきた! 子供の話を聞きたい‥‥まずは止まってくれぬか?」
何とか母親河童を落ち着かせるため、銕三郎が素早くキュウリを差し出した。
「貴方達が太助を誘拐した犯人ですね。何も聞きたくありません」
嫌々と首を横に振りながら、母親河童が両手を使って耳を塞ぐ。
「だから全然違うだろ。どうして間違えるかな‥‥。親が子供を間違えたら終わりじゃないか。まさか目が節穴ってわけじゃないだろ? しっかりと見てみなよ。そんな嫌そうな顔をしないでさ。大事な事なんだから‥‥」
母親河童がなかなか話を聞こうとしないため、ファラが呆れた様子で溜息をつく。
「とにかく話を聞いてください。このままじゃ、太助さんは二度と戻ってきませんよ」
悲しげな表情を浮かべ、乱雪が母親河童の前に立つ。
「‥‥本当に貴方達じゃないんですか?」
乱雪達が真剣に説得を続けたため、母親河童が少しずつだが心を開く。
「まずはごるびーの特徴を聞いてもらいたい。ごるびーは頭に地図のような痣があり、最近ストレスのため円形脱毛症になっている。ごるびーの好物はイカで、全身の色が黒っぽい。もちろん背中に甲羅はないし、嘴だってないからな。泳ぐ事の出来ないごるびーが子河童であるはずがないだろ」
ごるびーと河童の違いを証明するため、銕三郎が分かりやすく母親河童に説明した。
「それだけじゃ‥‥よく分かりません」
本物のごるびーを見た事がないため、母親河童がいまいちピンとこない表情を浮かべる。
「要するにこっちが河童で、こっちがカワウソ。君達の頭の上にあるのは、皿。ごるびーのはただの禿げ。分かった? ほら比べたら分かるだろ。全然違うって」
分かりやすく絵を並べ、ファラがボソリと呟いた。
「確かに、ごるびーさんの頭は河童のように禿げていますし、泳ぎも得意です。しかし、河童と違ってごるびーさんは息をしなければ溺れてしまいます」
このままでは誤解が解けそうにないため、乱雪が河童の特徴をメインに説得をし始める。
「‥‥河童だって溺れます。それに太助は泳げません」
納得の行かない表情を浮かべ、母親河童が乱雪に対して抗議した。
「それにごるびーさんは全身にフサフサで暖かい毛が生えています。河童には生えていません。それに細長くしなやかな胴体。短くて可愛らしい手足。甲羅を背負ったぎこちない河童とは大違いです。そしてクリッとした黒い目。それに比べて河童の不気味な黄色い目といったら! ああ、ごるぴーさん、あなたは美しいっ! 禿げていない方が良いですが、禿げていてもやっぱり素敵です☆」
恍惚とした表情を浮かべ、乱雪がごるびーの事を絶賛する。
「ひどい!」
悔しそうに涙を流し、母親河童が森にむかって走り出す。
「ああ、帰らないで! これからが本題なんですから」
予想以上に母親河童の心が弱かったため、乱雪が慌てた様子で引き止める。
「とにかく詳しい話はこの男から聞いてくれ。太助をさらった張本人に‥‥」
仲間達の捕まえた悪徳商人を地面に転がし、銕三郎が何も言わずに背をむけた。
「私を騙していたのね!」
驚いた様子で声を上げ、母親河童が崩れ落ちる。
「‥‥早く太助を助けてやらねばな。これ以上、悲しむ河童を増やさないためにも‥‥」
そして銕三郎は悲しげな表情を浮かべながら、母親河童を優しく抱き締めるのであった。