●リプレイ本文
「はやや〜、河童の太助ちゃんが捕まっちゃったですか〜。ごるび〜ちゃんの事件の巻き添えとはいえ、可哀想ですよ〜」
大粒の涙を浮かべながら、ベル・ベル(ea0946)が辺りをグルグルと飛び回る。
河童達を脅迫するため子河童の太助が誘拐されたままのため、ベル達は深夜を狙って悪徳商人の屋敷まで来たのだが、とても警備が厳重な為なかなか潜入する事が出来ない。
「昼間のうちに金剛斎さんと一緒に色々と調べてみましたが、屋敷の警備はかなり厳重のようですね。いままでにも何人もの河童が潜入したようですが、みんな用心棒達に捕まり酷い目に合わされているようですし‥‥」
悲しげな表情を浮かべながら、三笠明信(ea1628)が大きな溜息をつく。
悪徳商人の手によって捕まった河童達は罪人として扱われ、人間と河童の間に深い溝を作る原因にもなっている。
「……河童と人との関係悪化は避けたい。人の仕出かした不始末。何より子を奪われた母親の姿が痛ましい。なんとしても我等の手で太助を連れ帰らねば!」
涙を流す母河童を思い出し、本所銕三郎(ea0567)が拳をギュッと握り締める。
太助が誘拐された事で母河童は眠れぬ日々が続いているため、銕三郎も早く子河童を助けてやりたいと思っているようだ。
「河童の方達と約束したでござる。太助殿を助けると‥‥」
悪徳商人のやり方に激しい怒りを感じながら、沖鷹又三郎(ea5927)が目の前の屋敷を黙って睨む。
門の前には河童達の襲撃を警戒してか、ふたりの門番が立っている。
ゴルビーを捕まえる為に太助を利用しただけで無く、幽閉するなんて許せません。必ず助け出しましょう」
拳をギュッと握り締め、ルーラス・エルミナス(ea0282)が門番を睨む。
彼らに罪はないのだが、このまま放っておくわけにはいかない。
「‥‥太助‥‥助け‥‥。ソウイウコトデスカ」
頭の中でモヤついていた霧が晴れ、志乃守乱雪(ea5557)がハッとなって汗を流す。
本当なら仲間達にこの事実を伝えたい気分だが、そんな状況でない事も分かっているためとてもモヤモヤしているらしい。
「そういえばごるびーはここにいないんじゃのう。せっかく遊んでやろうかと思っていたんじゃが‥‥。乗りかかった船じゃ、少し残念じゃが、太助の救出に手を貸すぞ。座敷牢の場所も分かっているしな」
昼間のうちにブレスセンサーを使って座敷牢の目星をつけ、馬場奈津(ea3899)が自慢げにえっへんと胸を張る。
太助の囚われている場所は屋敷の奥にあるため、慎重に行動しなければ途中で用心棒達に見つかってしまう。
「それじゃ、そろそろ太助を救出するか。こんな事が原因で河童達と争いたくはないからな」
念のため手拭で顔を隠しておき、不動金剛斎(ea5999)が気合を入れる。
門番のふたりは大きなアクビをとしており、少し眠そうな雰囲気だ。
「まさか魔法とかは飛んできませんよねぇ‥‥」
心配そうな表情を浮かべ、ベルが身体をガタブルと震わせる。
たとえ魔法を撃たれても避ける自信はあるのだが、用心棒の数が半端ではないと聞いているため、用心棒集団の標的にされる事を心配しているらしい。
「‥‥大丈夫。何かあったら援護します」
怯えるベルを慰め、明信がニコリと微笑んだ。
「そんな事を言われても、恐いものは恐いんですよ〜。あう〜‥‥」
物凄く仲間達から期待され、ベルが大粒の涙を浮かべながら、大きなどんぐりを持って飛んでいく。
ここで失敗する事は許されないため、ベルはゴクリと唾を飲み門番の上からどんぐりを落とす。
「‥‥ん? なんだ?」
頭に何かがコツンと当たり、用心棒が険しい表情を浮かべて上を見る。
「いまだ! 喰らえっ!!」
韋駄天の草履を履いて素早さを増しておき、金剛斎が門番めがけて峰打ちスマッシュを叩き込む。
「この野郎!」
グッタリと倒れた仲間を見つめ、門番の男が烈火の如く怒りだし、金剛斎めがけて素早く棒を振り下ろす。
「わわわっ、ごめんなさい。あっちに行けですよ〜」
門番に襲われた金剛斎を助けるため、ベルが持っていたドングリを投げつける。
「すみません、しばらく眠っていてもらいますよ」
自らの気配を消して門番の背後に忍び寄り、明信が素早く当て身を放つ。
門番は小さく『ぐえっ』と声を漏らし、白目を剥いて前のめりに倒れこむ。
「あ、危なかったですよ〜」
ようやくふたりの門番が倒れ、ベルがホッとした様子で溜息をつく。
「このままだと誰かに気づかれてしまうな」
悪徳商人の屋敷が表通りに面していたため、金剛斎が警戒した様子で辺りを睨む。
深夜という事で全く人気はないのだが、絶対に誰も通らないという保証はない。
「何処かに運んでおきましょう」
気絶した門番達を縛り上げ、明信が草叢までズルズルと運んでいく。
「そうだ。これを後でお読み下され」
恥かしそうに頬を染め、ルミリア・ザナックス(ea5298)が手紙を渡す。
「こ、これは‥‥恋文!?」
ルミリアから貰った手紙を見つめ、明信が驚いた様子で声を上げる。
いまいち実感がわかないのだが、どうやら恋文を貰ったらしい。
「‥‥敵でもいたのか?」
警戒した様子で汗を流し、金剛斎が明信を睨む。
「いえ、何も‥‥」
慌てた様子で手紙を隠し、明信が苦笑いを浮かべて答えを返す。
「何だか怪しいですね〜」
明信のまわりを飛び回り、ベルが不思議そうに首を傾げる。
「そ、そんな事よりも退路を確保しておきましょう」
そして明信はルミリアから貰った手紙をしまい、退路を確保するため行動を開始するのであった。
「ゴロツキ達は宴会をしているようだが、河童力士は庭で酒を飲んでいるな。事情が分かれば協力してくれるかも知れないが、この状況では難しいか」
コッソリと屋敷の中に忍び込み、銕三郎が険しい表情を浮かべて身を隠す。
河童力士達はションボリとした表情を浮かべ、屋敷の外で寂しそうに酒を飲んでいる。
「ゴロツキ達と一緒にいるのが嫌なのかも知れないでござるな。きっと何か嫌な事でも言われたんでござろう」
何処か寂しげな表情を浮かべ、又三郎が床下から忍び込めそうな場所を探す。
河童達の事も気になるが、いまは太助の救出が先である。
「さぁ、早く。いまのうちに‥‥」
ブレスセンサーを使って床下の安全を確認し、山王牙(ea1774)が又三郎に合図を送る。
「ゴロツキ達はなるべくこちらにひきつけます。その隙に座敷牢までむかってください」
仕込み杖を素早く構え、ルーラスが床下の入り口に陣取り辺りを睨む。
その間に又三郎達が床下に潜り込み、座敷牢目指して進んでいく。
「よし‥‥やるか」
そう言って銕三郎が手頃な石を拾い上げ、河童力士達めがけて放り投げた。
「‥‥誰かいるのか?」
目の前に石が転がってきたため、河童力士が警戒した様子で提灯を握る。
「喰らえ!」
河童力士の皿に手拭いを被せ、銕三郎が皿の水分を奪おうと試みた。
「甘いっ!」
次の瞬間、河童力士の瞳がギラリと光り、張り手の一撃によって銕三郎が宙を舞う。
「やはり‥‥駄目か」
凄まじい勢いで身体を壁に叩きつけ、銕三郎が大量の血を吐き立ち上がる。
「賊か!」
表の騒ぎに気づいたため、ゴロツキ達がゾロゾロと現れ刀を抜く。
「‥‥マズイ事になったな。せめて太助が救出されるまで時間を稼がねば‥‥」
真鉄の煙管を握り締め、銕三郎が辺りを睨む。
ゴツロキ達は銕三郎のまわりを囲んでおり、座敷牢の傍には誰もいない。
「うまくいくといいですね。なるべく時間を稼ぎましょう」
仕込み杖を構えてゴロツキ達を威嚇しながら、ルーラスが困った様子で汗を流す。
予想以上に敵の数が多かったため、さすがに動揺の色が隠せない。
「本所さん、背後は守ります。力士の沈黙はお願いします」
ゴロツキ達に囲まれる事を防ぐため、牙が木刀を構えて背中を守る。
「予想以上に人が集まったからな。全員まとめて相手にするか」
冗談交じりに微笑みながら、銕三郎が河童力士にスタンアタックを叩き込む。
河童力士はグルグルと目を回し、何も言わずにパタリと倒れる。
「玉が惜しくば動かない事です」
木刀を使って金的スマッシュを放ち、牙がゴロツキ達に警告した。
「‥‥かなり動揺していますね」
苦笑いを浮かべながら、ルーラスが退路を確保する。
「いまのうちにここから逃げた方がいいようですね」
あちこちからゴロツキ達が集まってきたため、牙が驚いた様子で汗を流す。
このままでは戦っても袋叩きに遭うだけだ。
「どうやらここまでのようだな。‥‥太助の救出が成功しているといいんだが‥‥」
そして銕三郎は真鉄の煙管を構えたまま、ゴロツキ達を牽制し屋敷から脱出するのであった。
「床下は意外と狭いんですね」
頭をぶつけないようにして身を屈め、乱雪が物音を立てないように床を這う。
床下には無数の蜘蛛の巣があるため、なかなか先には進めない。
「何が潜んでいるか分からんからのう。充分に警戒して進むのじゃ」
提灯で床下を照らしながら、奈津がライトニングアーマーを使用した。
床下には無数の虫が這っており、妙なニオイが漂っている。
「これで少しはマシになりましたね」
奈津の後に続いて虫の死骸を片付け、乱雪がなるべく通りやすい道を作る。
「なるべく音を立てないようにしないとな」
ゴクリと唾を飲み込みながら、ルミリアが乱雪の後ろをコソコソとついていく。
「あ、あれは‥‥床下の妖精ネズミさん。少しお世話になりますね」
床下で可愛らしいネズミを見つめ、乱雪が嬉しそうに手を振った。
「ううっ‥‥、服の中に虫が‥‥」
小さな虫が服の中に入ったため、ルミリアが身体を震わせる。
出来るだけ我慢しようとしているが、物凄く気持ち悪くて倒れそうだ。
「そう言えば昼頃にリュカさんが屋敷に潜入したはずですが、迷わず座敷牢までいけたんですかね?」
単独で太助の救出に向かったリュカ・リィズ(ea0957)を心配し、山本建一(ea3891)が困った様子で汗を流す。
最悪の場合リュカが敵に捕まっている可能性が高いため、健一も心配になってきたらしい。
「どうじゃろうな。あ奴は天井から座敷牢に向かったらしいからの」
リュカが別ルートを選んだため、奈津が天井を見上げて溜息をつく。
この時点ではなんとも言えない事もあり、悪い事は考えないようにしているらしい。
「‥‥何も起こらなければいいんでござるが」
心配した表情を浮かべ、又三郎が座敷牢のある方向を睨む。
天井にはネズミ捕りの罠が仕掛けられているため、途中で敵の手に落ちた可能性も考えられる。
「先を急いだ方がいいようですね」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、健一が座敷牢を目指して突き進む。
「どうやらあそこが座敷牢のようじゃな」
念のためブレスセンサーを使用し、奈津が床下から座敷牢まで移動する。
「まったく酷い目にあったな」
座敷牢の前で泥まみれになった顔を拭き、ルミリアが疲れた様子で溜息をつく。
用心棒達はみんな表に出ているため、座敷牢には誰もいない。
「‥‥困りましたね。牢屋番まで出払っているようです」
何処にも牢屋番の姿がなかったため、健一が座敷牢の前で立ち尽くす。
「あれだけ表で騒ぎがあれば逃げるじゃろ。大抵の牢屋番は臆病じゃからな」
苦笑いを浮かべながら、奈津が針金を錠前に差し込んだ。
しかし、錠前は全く外れず、奈津がペコリと凹む。
「ここはルミリア殿に頼むでござる」
落ち込む奈津の事を慰め、又三郎がコクンと頷いた。
「任せろ! 大丈夫か?!」
座敷牢の入り口をバーストアタック+スマッシュで破壊し、ルミリアが太助に駆け寄り頭の皿にヒーリングポーションをかけて新鮮なキュウリを食べさせる。
「助かりました〜。とっても恐かったんですよ〜」
大粒の涙を浮かべながら、リュカが物陰から現れルミリアにもきゅっと抱きついた。
「いきなり現れたら驚くじゃろ。心臓が飛び出すかと思ったぞ!」
心臓をバクバクとさせながら、奈津がジト目でリュカを睨む。
「ごめんなさい〜」
仲間達が来るまでずっと隠れていたらしく、リュカは申し訳なさそうに涙を流す。
「太助さんを勇気付けていてくれたんですね」
座敷牢の中に散らばる道具を見つめ、乱雪がニコリと微笑んだ。
「そろそろ脱出した方がいいようで御座るな。‥‥夜が明けるでござる」
そして又三郎は太助の事を抱きかかえ、仲間達の待つ裏口から屋敷を脱出するのであった。