●リプレイ本文
「きゅう〜〜‥‥」
ごるびーの頭を冷たい風が寂しく過ぎる。
湖面の煌きと共にごるびーの頭がキラリと光り、冒険者達の涙を流して視線を逸らす。
ごるびーは負けたのだ。
過剰なストレスと、世の中に‥‥。
「なんだぁ? 今回の依頼目的、大量発生した雷電ウナギとその親玉の退治では無いのかぁ? 人間様よりカワウソのカツラか‥‥。神皇様には‥‥見せれんな‥‥この様な無様な姿‥‥」
ごるびーのツルツル頭を眺めながら、不動金剛斎(ea5999)が呆れた様子で涙を流す。
最初は冗談かと思っていたが、どうやら本当にカツラ探しがメインらしい。
「それでも依頼を引き受けたい上、文句を言うわけにも行きませんから。力を合わせて頑張りましょう」
不満げな表情を浮かべる金剛斎の肩を叩き、三笠明信(ea1628)が苦笑いを浮かべる。
金剛斎も納得していないようだが、仕方なさそうに小さくコクンと頷いた。
「ここまで寒いといきなり飛び込むのは危険だな。きちんと命綱を巻いて、ヒーリングポーションも褌の脇に挟んでおくか」
服を脱ぎ捨て越中褌一丁になった後、伊達正和(ea0489)が凍った湖面の穴を覗く。
湖の中には雷電ウナギらしき影があり、底の辺りにはごるびーのカツラと思われるものが沈んでいる。
「ここはボス狙いで行きましょう。こう寒いと、こちらの身体が持ちません」
先端が三又になるように拾ってきた竹を槍状に加工し、明信がゆっくりと服を脱いでいく。
「私も水中戦には、あまりいい思い出がありませんね。出来る事なら回避したかったんですが‥‥」
星マークがついた珠と竹で編まれた筒を装備し、山王牙(ea1774)がヒーリングポーションを握り締める。
湖の中では雷電ウナギの方が有利のため、なるべく無駄な動きは控えなくてはならないだろう。
「さて‥‥、そろそろ雷電ウナギと遊びましょうか。食べられるか、食べられないかは別として」
爽やかな笑みを浮かべながら、瀬戸喪(ea0443)が捕獲用の網を用意した。
自分で潜るつもりは無いのか、服は一枚も脱いでいない。
「みんな俺について来い!」
格好良く湖の中に飛び込み、正和が木刀を握り締める。
湖の中では無数の雷電ウナギが泳いでおり、正和の身体をすり抜けていく。
「先手必勝! 喰らうがいいっ!」
雷電ウナギに狙いを定め、正和がソニックブームを叩き込む。
それと同時に雷電ウナギが一斉に電撃を放ち、正和の動きを封じ込める。
「湖の中は何だか物凄い事になってますね。こうすれば楽だと思うんですが‥‥」
雷電ウナギが電撃をやめた瞬間を狙い、明信が重石代わりの石を括りつけた竹槍で突き刺し倒していく。
「この状態じゃ、聞こえていないと思いますよ」
竹で編まれた筒に用意した珠とエサを入れて湖に沈め、牙が苦笑いを浮かべて湖に浮かんだ正和を指差す。
「見つけた! あれが奴らの親玉だな。必ず仕留める! 神皇様の名に懸けて!!」
正和の股間に噛みつこうとしているウナギの親玉を見つけ、金剛斎が一気に精神を集中すると短刀を構えて一撃を放つ。
「どうやら今のうちのようですね」
投網を使って仲間達と一緒に正和を引き上げ、喪が網にかかったウナギを袋の中に放り込む。
「ぶはっ‥‥、真面目に死ぬかと思ったぜ。考えてみたら湖の中で瀬戦うのは危険だな」
寒さと痛みでフラフラになりながら、正和が水を吐き出し口元を拭う。
「ご苦労様です。あなたのおかげで雷電ウナギのボスもこの通り捕まえる事が出来ましたよ」
正和の頭に噛みついていた雷電ウナギのボスを捕まえ、牙が嬉しそうに仕留めた獲物を正和に見せる。
雷電ウナギのボスは仲間達を守るため真っ先に正和の頭に噛みついてきたらしく、引き離すまでかなりの時間を費やした。
「せっかくだからこのウナギを捌いて食うか。死骸を湖の中に捨てれば、奴らが近くに寄ってくる事も無いだろ」
未だに痺れる指をゆっくりと動かし、正和が苦笑いを浮かべて口を開く。
油断すると電撃で攻撃される恐れがあるため、念のため首を刎ねて血抜きをする。
「まぁ、やってみる価値はあるだろう。この様子じゃ、カツラを回収する事は不可能だしな」
生き残った雷電ウナギの数を調べるため、金剛斎が警戒した様子で穴の中を覗き込む。
湖の中には無数の雷電ウナギが泳いでおり、完全に駆逐したとはとても言えない状況だ。
「本当に‥‥コレを食べるんですか?」
心配そうに雷電ウナギの顔を見つめ、牙が大粒の汗を浮かべて呟いた。
「食べてみると以外に美味しいかもしれませんよ。もちろん、別の使い方もありますが‥‥」
雷電ウナギを袋の中から取り出し、喪が含みのある笑みを浮かべる。
「まぁ、いいさ。誰も食わないのなら俺が食う。ちょうど腹が減っていたからな」
そして正和はこんがりと焼けた雷電ウナギにかじりつき、満足した様子で仲間達にむかって微笑んだ。
「ごるびーさんに会うのは夏以来ですけど、元気にしてました? 頑張っているって言う噂をいつも聞いているので、私は久々に会うって気がしないですけど」
ごるびーのふかふかな身体に抱きつき、リュカ・リィズ(ea0957)が冗談まじりに微笑んだ。
一応、ごるびーも喜んでいるようだが、頭のハゲが気になり落ち着きが無い。
「もう少しの辛抱だから‥‥。おとなしく待っていられるね?」
身体を温めるため色々な酒を用意しておき、ファラ・ルシェイメア(ea4112)がごるびーの肩をぽふりと叩く。
ごるびーは頭が気になって仕方がないのか、ほっかむりを被って小さくコクンと頷いた。
「何をそんなに恥かしがっているのですか? 世の為、人の為、友人の為に、頑張っている証ではなのに‥‥。昔の人は、禿が出来るほど人の為に思い悩む者は誰よりも信頼出来る。って言ったそうですよ」
本当かどうか分からないもののハゲについての薀蓄を語り、リュカがごるびーの頭から素早くカツラを奪い取る。
「ひょっとしてお腹が空いているのかも知れませんね」
焚き火を焚いてごるびーに毛布を被せ、リュカが暖かい鍋を作るため、近くの町で購入したものを放り込む。
「それともウナギさん達の死を悲しんでいるのでしょうか? もしそうなら……祈りましょう」
墓代わりに半刻で誰でも作れるミニほこらキットを使用し、志乃守乱雪(ea5557)がごるびーと一緒に両手を合わす。
「それじゃ、ごるびーには分からないんじゃないのかな?」
ごるびーがキョトンとした表情を浮かべているため、ファラが乱雪の肩をぽふりと叩いてツッコミを入れる。
「‥‥言われてみれば、そうですね。ウナギさん達のために、ほこらを削って雷電地蔵を作りましょう」
目の前のほこらを器用に削り、乱雪がウナギを模した地蔵を作っていく。
ごるびーは興味深そうに見ていたが、途中で別のものに見えたためファラの袖をチョチョイと引いた。
「うまく出来ているでしょう。‥‥って何で鼻を摘むんですか。臭くありませんよ」
とぐろを巻いたウナギの像を別のものと勘違いされてしまったため、乱雪が恥かしそうな表情を浮かべて首を振る。
「確かに‥‥見えるよ」
出来るだけ乱雪を傷つけないようにするため、ファラが間髪入れずにキッパリと答えた。
「だ、誰ですか! トグロを巻いたピーッみたいだなどと言う人はっ! ウナギです、ウ・ナ・ギ!」
ウナギの石像を指差しながら、乱雪が悔しそうに涙を流す。
何処からどう見てもアレっぽいが、乱雪の中ではウナギとしか考える事が出来ないらしい。
「ごるびーさん。少し離れていた方がいいですよ」
そしてリュカはごるびーの気持ちを察し、ウナギの石像から遠ざけるのであった。
「うむ、ピカールごるびー! なかなか良い名ではないか!! せっかくだからそうすれば良い物を! 妙な未練を持つのは漢らしくないぞ! そうだ、我輩が禿頭の美しい磨き方を教えてやろう!」
ごるびーの頭をペタペタ触り、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が豪快に笑う。
そんなゴルドワの態度とは裏腹にごるびーは肩を震わせ、恥かしそうに頭のハゲを隠して泣いた。
「‥‥ダメか? むぅ、残念であるが仕方あるまい! ごるびーの無くしたカツラを探してやろう!」
ごるびーの頭をツルツルと撫でまわし、ゴルドワが雄叫びを上げて服を脱ぐ。
「腕を前から上に上げて、背伸びの運動! はい! ヒィ、フッ、ミィ、ヨッ‥‥お前もやれ!」
ゴルドワと一緒に身体を動かし、本所銕三郎(ea0567)が念入りに準備運動をし始める。
いきなり飛び込むと心臓が驚いてしまう可能性があるため、いつもより長めに準備運動をしているようだ。
「それにしても、ごるびー君。河童襲撃の時に私が遊びで作ったカツラを、こんなに大切にしててくれたのね。感激♪」
まさかここまでカツラを大事にされているとは思わなかったため、レオーネ・アズリアエル(ea3741)がごるびーをきゅ〜っと抱き締めた。
ごるびーはあまり意味が分かっていないようだが、嬉しそうにレオーネの顔に頬擦りする。
「ごるびーちゃんのカツラは何処にいったんですかね〜? 声が聞こえるのなら出てこいですよ〜☆」
穴のまわりをふよふよと飛びながら、ベル・ベル(ea0946)がごるびーのカツラを探す。
ごるびーのカツラはそれほど大きなものではないため、目を凝らしていないと何処に沈んでいるのか分からない。
「でも普通動物の毛って、水に浮かぶ物だと思うけど‥‥ごるびー君の毛って、よっぽど重かったのね。‥‥あれ?」
ごるびーの毛並みを確かめ、レオーネが笑顔のまま凍りつく。
「ひょっとして私はとても重大な事に気づいたのかも。それじゃ、既にごるびー君のカツラは‥‥」
‥‥言えない。
あの円らな瞳を見ていると、真実を語るのがだんだん辛くなってくる。
「はやや〜! 一体どうしたんですか〜? 顔色が悪いですよ〜」
レオーネの顔を覗き込み、ベルが心配そうに呟いた。
「き、気のせいよ。はははははっ‥‥」
挙動不審な態度を取りつつ、レオーネが乾いた笑いを響かせる。
「きっと寒いからじゃないか。何だか風が強くなってきたようだし‥‥」
まるごとネズミーに身を包み、銕三郎が氷上の穴を覗き込む。
湖の底には確かにカツラらしきものが揺らめいているが、それが本当にごるびーのカツラであるという保証はない。
「え、ええ‥‥。そうなのよ。それに早くカツラを回収しないと凍え死んじゃうわ」
仲間達にも真実を伝えられぬまま、レオーネが気まずい様子で服を脱ぎ、手拭いを使って胸元を隠す。
「ちょっと恥かしいですね〜」
手頃な枯葉を使って身体を隠し、ベルが恥かしそうに頬を染める。
水中では身体を隠す事が出来ないため、ごるびーが心配した様子でベルの身体に手拭いを巻く。
「はははっ、随分と気が早いな。残念ながら我輩は水泳技能など持っておらん! もちろん、切り札はあるが‥‥」
そう言ってゴルドワがロープを取り出しニヤリと笑う。
「必要なのは、このロープと岩だけだ! ロープは無論命綱! 岩は‥‥重し代わりだな! 後は体力と根性の続く限り水底を歩いてカツラを探すと言う訳だ! 限界が来たら、岩を捨てて命綱を引っ張り脱出すればいい!! そう、我輩の切り札とは鍛えぬいた、この体力! 練筋術士(筋肉を練る術士)と呼んでくれ!!」
自信に満ちた表情を浮かべ、ゴルドワがロープを木に括りつけた。
「ピクリとも動かなくなったらこの縄を思いっきり引け!」
二本を繋いだロープを身体に巻き、銕三郎が端をサジマ(馬)の身体に括りつけ、気合を入れて冷たい湖の中に浸かる。
サジマは鼻息荒く頷きながら、焚き火の傍まで歩いていく。
「あの様子じゃ、絶対に分かってないな」
自分の生命に危険を感じ、銕三郎が大粒の汗を流す。
「じゃ、頑張って見つけてくるねー」
自らの不安を打ち消すようにして、レオーネが勢いよく手を振り湖の底へと沈んでいく。
湖の中には真っ黒な藻が生えており、レオーネの不安を増大させた。
「あひゃ〜〜〜。おぼ‥‥溺れるですよぉ〜〜〜〜」
あまりの冷たさに悲鳴を上げ、ベルが湖の中でジタバタと暴れる。
「見つ、見つ、見つけた‥‥ぞぞぞ!」
湖の底に沈んだカツラを掴み取り、銕三郎がベルを助けて焚き火の傍まで走っていく。
「おおっ、ようやくカツラを見つけたか!」
銕三郎の大声が聞こえたため、ゴルドワが嬉しそうに湖の中から顔を出す。
「そそそそんなん‥‥そそそそソッチで‥‥かかかか確認しりょ!」
身体が寒さで参っているため、銕三郎がカツラを放り投げる。
ごるびーのカツラは妙にモジャモジャしており、明らかに頭よりもサイズがデカイ。
「ああっ、やっぱり‥‥」
嫌な予想が的中したため、レオーネがガックリと肩を落とす。
「それじゃ、本物のカツラは何処にいったんでしょうね〜?」
もう一度湖の中を覗き込み、ベルが首を傾げて呟いた。
「きっと新たな主を求めて旅立ったのだろう。カツラとはそう言うものだ」
何処か悟ったような表情を浮かべ、ゴルドワがクスリと笑う。
その後、レオーネによって新たなカツラを作る計画が浮上したが、ごるびーがこれを断固として拒否したため、しばらくの間アフロごるびーとして見世物小屋で人気になる。
アフロが蒸れて悪化したハゲの恐怖に気づかぬまま‥‥。