●リプレイ本文
「妙な文献を手に入れてしまってね‥‥」
険しい表情を浮かべながら、デュラン・ハイアット(ea0042)が一冊の本をミンメイに見せる。
それは何枚もの紙を纏めて本状にしたもので、あまり質のいい紙は使われていない。
「例えば、これを見てくれ。私が訳したものだが書いてある事は概ねこの通りだ」
『月の道を越えて、誇り高き勇士たち現れるとき。神を狩る禍々しきものたちが東の都に襲来す』
「この『神』を『髪』と読み替えると、リーゼン党と毛狩り団の一件と取れないかね?」
驚きのあまり言葉を失うミンメイをヨソに、デュランが次のページをめくって語る。
『空を揺るがす巨人たちの雄叫び。それは新たなる惨劇の宴の始まり』
「もしかして、先日の‥‥」
ミンメイがハッとした様子で顔を上げ、デュランの言いたい事を理解した。
「報告書を読む限りその可能性が高いだろう。他にも暴僧族やら変漢、フリーソーメンの一件と思しき記述も見られる。まさかとは思うが、遥か昔に我々の周りに起こるべき事件を予言していた恐るべき人物が存在したという事になる。そして今回も‥‥」
そう言ってデュランが問題のページを開く。
『孤高の詩人導く先、自由なる夢の民の住まう地あり。その地、極楽への入り口とならん』
「詩人や夢の民は、砂布巾と夢民を示すとして、極楽と言うのはなんだ? ジャパンでは天国の事だと認識しているが、一体どういう意味なんだ? やはり、行ってみるしかないのか‥‥」
極楽が何を指しているのか分からなかったため、デュランが腕を組んで考え込む。
「‥‥極楽だと? ‥‥この辺りの噂では魑魅魍魎が跋扈し、冥府魔道への入り口があるこの世ならざる地域だとか言われているが‥‥」
夢民谷に何か胡散臭いものを感じながら、天城烈閃(ea0629)が森の中を進んでいく。
今回の冒険には吟遊詩人の砂布巾が同行しているため、谷までの道案内はすべて彼に任せている。
「我輩が聞いた話では、働きたい時に働き、眠りたい時に眠る自由の谷だと聞いている。どちらが真実なのかは不明だが、ミンメイの依頼にしてはマトモではないか。我輩もその心休まる自由の谷で癒されてこようと思っている。宜しく頼むぞ、砂布巾!」
山菜詰め合わせを砂布巾に贈り、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が豪快に笑う。
砂布巾は臆病なため身体を強張らせているようだが、野菜を貰って少し喜んでいるようにも見える。
「‥‥夢民か。俺も自由人だ。気が合うかもしれん。そういやミンメイには久しぶりに会うな。砂布巾とやらも居るのか。随分と個性的な奴だな。そうだ2人に、これをやろう。前の依頼で手に入れた蟹の身だ。凄く美味いんだぜ」
ミンメイと砂布巾に蟹の身を渡し、南天輝(ea2557)がニコリと微笑んだ。
砂付近も蟹の身を釣り餌にするつもりなのか、妙に嬉しそうである。
「僕からは真鉄の煙管をプレゼントするね〜。砂布巾さんのトレードマークと言えば三角帽子とパイプだから☆ ‥‥ん? これちょっと違うかも‥‥まぁ、細かい事を気にしてはいけませんね」
真鉄の煙管をしばらく凝視した後、御子柴叶(ea3550)が砂布巾にむりやり渡す。
砂付近も少し違和感があったのか、しばらく真鉄の煙管を見つめていたが、叶の気持ちを受け取り頭を下げた。
「砂布巾はん‥‥ええ男ぶり‥‥なんか‥‥魂‥‥抜けとる‥‥感じ‥‥はあ‥‥」
ジリジリと砂布巾に迫っていき、柊鴇輪(ea5897)がウットリとした表情を浮かべる。
砂布巾はやけに怯えているが、鴇輪はまったく気にしていない。
「こらこら、そのまま逃げるなよ。おまえには夢民谷まで案内してもらわなくちゃいけないんだから‥‥」
念のため砂布巾の腰にロープを縛りつけ、リフィーティア・レリス(ea4927)が警告まじりに呟いた。
「ちょっ、ちょっと待て。何でそんな目で俺を見る。俺は趣味でこういう事をやっているんじゃないぞ。まぁ、知り合いの中に趣味でやっている奴もいるけど俺は断固として違うからな!」
砂布巾から冷たい視線を送られたため、レリスが慌てた様子で首を振る。
既に砂布巾の中ではレリスを危険視しているため、ソッチの趣味があるのだと勘違いされているようだ。
「ところでニュルニュルとかって出ないかなぁ? 白くて棒状の妙なヤツ。噂じゃ、この谷にいるって聞いたんだけどなぁ‥‥」
怪しげに蠢く妙な生物を思い浮かべ、如月あおい(ea0697)が辺りを探す。
ニュルニュルは女の子に如何わしい事をする生物で、妖怪の一種であると言われているのだが、誰もその姿を見た者がいないため実在するかは分からない。
「ジャパンには色々あるのね〜。それにしても夢民‥‥なんか羨ましい生活をしているわね〜☆ あたしもそう言う生活してみたいけど‥‥多分すぐに飽きちゃうだろうなぁ。‥‥じゃなかったら、こんな今みたいな生活やってないだろうし〜」
夢民谷に住む自分自身を想像し、郭梅花(ea0248)が苦笑いを浮かべて呟いた。
何もかも自由であるという事は、何もしなくていいわけなので、そのうち刺激がなくなりそうだ。
「それもそうアルね。ワタシだって途中で飽きてしまうアル」
梅花の意見に賛同し、ミンメイがコクリと頷いた。
ミンメイにとって刺激が原動力となっているため、夢谷村に住んだらすぐに飽きてしまうだろう。
「よぉ、ミンメイちゃん! こないだみてぇな目には遭わせねえから今回は安心だぜっ! 夢民谷にゃあ、のほほんぶらり旅と決め込もうじゃねぇか!」
親しげにミンメイと肩を組み、朝宮連十郎(ea0789)が妄想を爆発させた。
今回はのんびりと出来そうなため、色々と破廉恥な事が脳裏を過ぎる。
「それにしても‥‥怪しいわ。上質な紙は歌で稼ぐとして、ギルドの支払いはどっから出とんやろ。今回だけで30Gやろ。裏で‥‥なにしとるん‥‥」
胡散臭そうにミンメイを見つめ、鴇輪がブツブツと呟いた。
「そりゃ、俺がお小遣いをあげているからに決まっているだろ。結構、頑張っているんだぜ」
自分の胸をポンと叩き、連十郎がミンメンを守るようにして前に立つ。
「それじゃ、のんびりしに行くか」
苦笑いを浮かべながら、伊達正和(ea0489)が連十郎の肩を叩く。
「ムーミン谷へ、れっつらごー♪」
そして緋月柚那(ea6601)は驢馬ぽるしぇの背中に飛び乗り、鼻歌を歌って夢民谷へとむかうのだった。
「働きたい時に働き、眠りたい時に眠る人達‥‥か。食うに困らないというなら、その谷はよほど豊かな土地なのだろうな。冬の間の貯えなどどうしているのか気になるところだ‥‥」
熊鬼の奇襲を警戒し、烈閃がブレスセンサーを使用する。
今のところ熊鬼の気配は無いが、ここで油断は禁物だ。
「砂布巾は自由をこよなく愛するんだろ。どこかに逃げられないように注意しておけよ(心の声:夢民谷に辿り着けねえと折角の旅行が台無しだかんな‥‥)」
警戒した様子で砂布巾を睨みつけ、連十郎がミンメイの肩を抱く。
砂布巾は逃亡の恐れがあるためレリスによって拘束され、青ざめた表情を浮かべてトボトボと歩いている。
「そんなに怯える事はないのじゃぞ。別におぬしをとって喰うつもりはないのじゃから‥‥」
怯える砂布巾の肩を叩き、柚那が『べからず』という文字をあちこちに書き残す。
「あたし一匹狼ってタイプなのー! 仲良くしてねぇん♪ そして、これであたしを釣ってちょうだい」
釣り道具一式を砂布巾に押し付け、あおいが甘い言葉を囁いた。
「そんな事をしたら余計に砂布巾さんが怯えるアル」
砂布巾に助けを求められたため、ミンメイがあおいの事を注意する。
「それじゃ、お詫びにこれをあげるね。あたしが被った奴だけど」
ミンメイに取っておきの褌を渡し、あおいが人魚のコスプレをするため袋の中に入っていく。
本当に使用したものかは不明だが、何だか甘い匂いが漂っている。
「なんだか変わったものを貰ったわね。ひょっとして‥‥褌!?」
ミンメイが見慣れないものを持っていたため、梅花が驚いた様子で汗を流す。
褌はまだ脱ぎたてなのか、人肌並みにホカホカだ。
「そういやミンメイは音楽が好きか? どうせ夢民村までは取材は無いんだ。俺が楽しいリズムの曲を吹いてやるぜ。なっ、楽しく行こうか」
楽しそうに笛を吹き、輝が森の中を歩いていく。
「ある〜ひ〜もりのなか〜ってね。‥‥ん? なんじゃろ?」
何か硬いものに当たったため、柚那が正体を確かめるため顔を上げる。
「おぉ、あれが熊鬼だな! 相手にとって不足はあるが! 折角のお出ましだ、我輩が相手をしてやろう!」
熊鬼の事を睨みつけ、ゴルドワがポージングを放つ。
「逃げるのも自由だが‥‥どうする?」
砂布巾がとても怯えていたため、輝がニヤリと笑って囁いた。
「‥‥き、貴様〜男が敵に背を見せるな! 取って返して戦うのだ〜!!」
砂布巾が脱兎の如く逃げ出したため、ゴルドワが鬼の様な形相を浮かべて追いかける。
「あれほど、にげるなと、言ったのに」
砂布巾に飛びついて捕まえ、鴇輪が彼の服を脱がして如何わしい事をし始めた。
「お、おい。こんなトコじゃマズイだろ。‥‥っていうか駄目だあ!」
ミンメイが気絶しそうになったため、連十郎が血反吐を吐いて鴇輪を血祭りにあげる。
連十郎としては軽くツッコんだつもりだが、思いっきりクリティカルしたらしい。
「熊鬼の事は俺に任せろ!」
熊鬼に素早くソニックブームを叩き込み、正和が親指を立ててニカッと笑う。
「いまのうちに逃げましょう!」
コアギュレイトで動きを封じ、叶が全速力で走り出す。
「いくぞ、ミンメイ!」
笛をつかって熊鬼にソニックブームを打ち込み、輝が素早くミンメイを抱きかかえる。
「こら、俺のミンメイちゃんを‥‥返せ!」
烈火の如く怒りだし、連十郎が輝の後を追う。
「ほら、あたしらもここから逃げるわよ」
そして梅花は砂布巾の手を握り、夢民谷を目指すのだった。
「‥‥なんだ、この村は‥‥。どいつもこいつも無気力にだら〜っとタレておるだけではないか! 軟弱! こぉんな事で立派な漢になぁれるかぁ! 鍛えてやる、どいつもこいつも自由の村で自由に体を鍛えるのだ!! マッチョになる自由をくれてやるぞ!!」
鬼の様な形相で吼えながら、ゴルドワが手近な人間を追い回す。
普段からあまり驚く事のない夢民達は、眠そうに目をこすりゴルドワの顔を見つめている。
「さすが夢民‥‥。根性が座っているな」
感心した様子で夢民を見つめ、デュランがニコリと微笑んだ。
「伝説ではココに決して目覚めさせてはならない古代文明の遺産『大武魔神(タイムマシン)』が眠っているとか‥‥。噂によれば、この谷がどの勢力にも縛られず、民が自由気ままに暮らせるのは、この『大武魔神』の力を恐れ各地の武将達がこの地に手を出せないからだとか‥‥。『大武魔神』とは何だ? 妖怪か、神か、あるいは武器か‥‥?」
険しい表情を浮かべながら、烈閃が『大武魔神』らしき物体を探す。
村はとても平和な雰囲気で、絵本にでも出てきそうな光景だ。
「まぁ、小さい事は気にするな。そんな事より俺はのんびりするからな。ミンメイちゃんと一緒にさ」
ミンメイと一緒に村をまわり、連十郎がどぶろくを飲む。
「えっちぃ事は駄目ですよ。連十郎さん」
天使のような笑みを浮かべ、叶が背後から小型大仏像で頭を殴る。
「イテッ‥‥、タンコブが出来ただろ。本気で怒るぞ!」
脳みそが大きく揺れたため、連十郎が叶をどつく。
「そんな事より何か探しに行かないか。ここには取材で来たんだろ?」
笛を吹いて夢谷達と仲良くなり、輝が秘密の場所を教えてもらう。
その場所は夢民だけが知っており、普通は教えてくれないらしい。
「‥‥ん? なんだかニョロニョロしている奴がいないか? ニュルニュルというか」
一瞬、白くて細長いものが横切ったように見えたため、レリスが慌てて目をこする。
「あれはきっとニュルニュルじゃな。捕まえて鍋の具にするのじゃ」
熊鍋をグツグツと煮込んでいたため、柚那が怪しい瞳を輝かせた。
「‥‥あのにょろにょろした物体‥‥食べられるの?」
柚那の言葉に驚き、梅花が大粒の汗を流す。
多分、ニュルニュルは白溶裔の一種だと思われるが、ハッキリと見たわけではないため白い布切れだった可能性も高い。
「あれが伝説の珍獣ですか!? 捕獲して本のネタのしましょう」
連十郎にむかって声をかけ、叶が挟み撃ちにしようとする。
「きゃあ、襲われる〜(誰も襲わんて)」
叶達に飛び掛られたため、あおいが袋の中に逃げ込んだ。
「一体、何があったんアルか!?」
温泉の中から慌てて飛び出し、ミンメイがあおいの傍に駆け寄った。
「この人達があたしを‥‥」
少し脚色を加えてミンメイに話し、あおいがオヨオヨと泣く。
「ご、誤解だ! 俺はそんな破廉恥な奴じゃねえ!」
ミンメイがジト目で睨んだため、連十郎が激しく首を横に振る。
「ぼ、僕だって無実です」
あおいが白い布を隠したため、叶がハッとなって自分の無実を訴えた。
「今夜‥‥おかずに‥‥わてを‥‥食う?」
ミミズを咥えて温泉から上がり、鴇輪が青白い表情を浮かべて飛び掛る。
「ああ、やっぱり!?」
グルグルと目を回し、ミンメイが意識を失った。
「うおおお、ミンメイちゃん! 仕方ねえ。途中から夢オチにするか。ここは夢民谷だからな。俺の誤解を解くにはそれしかねぇ! ‥‥っと、その前に」
邪な考えが脳裏を過ぎり、連十郎が上着を被せてホッとする。
「それじゃ、ミンメイちゃんの面倒はこっちで見るね。連十郎君じゃいつ狼になるか分からないから‥‥」
羊のように円らな瞳をウルウルさせている連十郎の肩を叩き、梅花がミンメイを連れて民家の扉をコンコンと叩く。
「それにしても夢民谷に、こんな温泉があったとはな。温泉があると知れば人が集まる。しかし、自由の谷に喧騒はいらない。この事は我々だけの秘密にしておこう」
そしてデュランは預言書の中にあった温泉の記述を破り去り、空にむかって勢いよく放り投げた。