●リプレイ本文
「ミンメイちゃんと一緒にジャパンを学ぼうの始まりね☆ さて、今回は‥‥『鍋奉行』?? へ〜お奉行様にはそう言うのもいるんだ。‥‥ジャパンって変わってるわねぇ。しかも今回はその鍋奉行の鍋?? ん〜〜〜何がなんだかよく分かんないけど、その鍋を見つければいいんだね? ミンメイちゃん! 今回も、いろんな発見があるかもしれないよ? 楽しみだね〜☆」
最近、噂の鍋奉行を取材するため、郭梅花(ea0248)がミンメイと一緒に街道を歩く。
鍋奉行の家はとても大きいため、遠くからでもよく見える。
「なあ、ミンメイ。ひとつ聞きたい事があるのだが?」
少し気になった事があったため、天城烈閃(ea0629)がミンメイにボソリと呟いた。
「‥‥何アルか?」
キョトンとした表情を浮かべ、ミンメイが不思議そうに首を傾げる。
「今回の依頼、ジャパン文化の探究でも何でもなく、ただの親子喧嘩の仲裁にしか思えないのは気のせいか?」
ミンメイの顔をマジマジと見つめ、烈閃が冷静にツッコミを入れた。
「はっ! ‥‥そう言えばそうアルね。ジャパンの人、話をすりかえるのウマいねー」
あからさまに動揺した様子で、ミンメイが気まずく視線を逸らす。
「まあ、深く追求するのはやめておくか‥‥」
やれやれといった様子で溜息をつき、烈閃が頭を抱えて呟いた。
「まぁ、いいじゃねえか。鍋奉行の取材をするんだしさ。こんな寒い時は鍋が一番だろ。親子問題はちゃちゃっと片して、鍋料理で暖まろうぜ。‥‥それとも俺が暖めて‥‥ぐほっ! 誰だ! いま殴った奴はっ!」
ミンメイの肩を抱いた瞬間、誰かに頭をガツンと殴られたため、朝宮連十郎(ea0789)が不機嫌な様子で辺りを睨む。
「お久しぶりですなぁー、依頼人殿ぉ! 今回の依頼もこのヴァラス様がいるからには絶対に成功するという事を約束しましょう」
連十郎の頭をヨシヨシと撫でながら、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)がニヤリと笑う。
「てめぇ、俺を殴りやがったな!」
大きなタンコブが出来たため、連十郎がヴァラスに拳を振り上げる。
「勘違いしてもらっては困るな。俺が依頼人殿を危険から守っただけだ!」
連十郎の肩をぽふりと叩き、ヴァラスが怪しく耳元で囁いた。
「そうなのアルか?」
警戒した様子で連十郎の顔を見つめ、ミンメイが大粒の汗を流す。
「ご、誤解だよ、ミンメイちゃん。俺がそんな風に見えるかい?」
疑惑の視線を向けられたため、連十郎が慌てて首を横に振る。
「い、いま‥‥視線をそらしたアル」
連十郎が一瞬視線を逸らしたため、ミンメイが大粒の汗を浮かべてツッコミを入れた。
「小さい事は気にしちゃ駄目だぜ、ミンメイちゃん。男はみんなオオカミさっ!」
言い逃れが出来ないと思ったため、連十郎が瞳をキラリと輝かす。
「取り敢えず‥‥鍋子ちゃんに、鍋の隠し場所を尋ねるしかないわね。一応、鍋じゃない物を作って食べさせてみようかな? 鍋以外のものはあまり食べた事が無いから喜ぶかも知れないしね☆」
お土産の飴饅頭を持参し、梅花が鍋子に接触する。
「私に何か御用ですか?」
鍋子の部屋は鍋奉行の部屋から一番離れた場所にあり、部屋の中から可愛らしい少女が顔を出す。
「‥‥コイツは驚いた。物凄く可愛いじゃねえか」
呆気に取られた表情を浮かべ、アーウィン・ラグレス(ea0780)がしばらく言葉を失った。
「お世辞を言うのは止めてください。‥‥余計に辛くなります」
瞳をウルウルとさせながら、鍋子が悲しげな表情を浮かべる。
「世の中の誰だって、何かの欠点を持っているものだ。俺に言わせれば、顔が不細工だったり、家が極端に貧乏だったり、生まれつき重い病を患っていたりする者達に比べれば、名前がちょっと変わっている事なんて、大した不幸じゃないな。どうしても鍋子という名前が嫌なら、愛称として『ナビィ』なんてどうだ?」
鍋子の可愛さに心を奪われそうになったため、烈閃が恥かしそうに咳をした。
「それが嫌なら『おしん子』ちゃんとか?」
鍋子の事を慰めながら、如月あおい(ea0697)が優しく肩を抱く。
「それじゃ、私の事はジェニーって呼んでください」
恥かしそうに頬を染め、鍋子(改めジェニー)がボソリと呟いた。
「全然、関係ないだろ、それ!」
納得の行かない様子でジェニーを見つめ、アーウィンが神風の如くツッコミを入れる。
「ところで『鍋』って言うのは、ジャパンではどういうふうに作るのかなぁ? 一応後学のために聞きたいんだけど‥‥」
鍋の作り方が気になったため、梅花がジェニーに質問した。
「ごめんなさい。実は私‥‥鍋アレルギーなんです。だから鍋を見ただけで、無性にキュウリが食べたくなるの」
キュウリをボリボリとかじり、ジェニーがボロボロと涙を流す。
「‥‥あんまり関係ないアルね」
困った様子で汗を流し、ミンメイが苦笑いを浮かべて呟いた。
「とりあえず貴女には鍋に対する偏見を払拭するため、あたし達と一緒に鍋に入って気持ちよくなってもらうわ。そして田吾作にそれを見せて、お互いに言い分を分かり合った上で親子の絆を取り戻すのよ」
巨大な鍋をお風呂に見立てて、あおいがキノコのコスプレをすると、薬草や薫り高いキノコを入れていく。
「ちなみに男子禁制よ! 漢汁が出ちゃうから」
ミンメイと一緒に連十郎が鍋の中に入ろうとしたため、あおいが両手を開いて首を振る。
「ちなみにミンメイちゃんはOKよ。たっぷり乙女つゆを出してね」
ミンメイの服を脱がせるため、あおいが彼女に近づいた。
「そいつは罠だ、ミンメイちゃん!」
危険な映像が脳裏を過ぎり、連十郎が慌てて彼女を抱き止める。
「なんだか話が脱線しているわね。とりあえずキュウリだけでも貰っておこうかしら」
違う意味で熱いバトルが始まったため、梅花がジェニーからキュウリを受け取り、困った様子で汗を流す。
「それじゃ、このキュウリを届けに行くか。やれやれ、新天地での初依頼が鍋探しとはなぁ‥‥」
そしてアーウェンはキュウリをギュッと握り締め、大きな溜息をつくのであった。
「ミンメイ書房――何やら心惹かれる響きだな」
アーウェンから受け取ったキュウリを風呂敷に包み、天羽朽葉(ea7514)が河童達の住む沼を目指す。
河童達の住む沼は村からそれほど離れていないため、大量のキュウリを背負ってむかう。
「諸国巡礼も忘れてはならぬのぅ。河童に会うのは初めてなのじゃ。どんな奴らなのじゃろう??」
胸をワクワクさせながら、緋月柚那(ea6601)が愛驢馬ポルシェに乗って颯爽と街道を走る。
「ここが‥‥河童‥‥ぬま?」
河童達の住む沼に辿り着き、柊鴇輪(ea5897)が河童達に頭を下げた。
「え〜っと‥‥確か娘の名前は‥‥鍋子だったな! ムァ――――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! なんつー名前! ふつうの親なら絶対に考えつかない名前だぜ! ネーミングセンス最高ォォォォ! どうでもいい事だがよ。おっさんが馬好きだったら馬子、蕎麦好きだったら蕎麦子になってたんだろーなーと思うとよ‥‥やっぱ笑えるぜッ!」
河童達に詳しい説明をしようとしたが、鍋子の名前があまりにも変だったため、ヴァラスがゲラゲラと狂ったように笑い出す。
「お前らは鍋子を馬鹿にしに来たんか?」
あからさまに不機嫌な表情を浮かべ、河童の雨ノ助がヴァラスを睨む。
「本当ならこのままお前らをブッた切って土鍋を奪ってやってもいいのだがね、依頼人殿は荒事がお嫌いよ。ここは報酬の為にも我慢といったところか」
稲妻の如く勢いで小太刀を引き抜き、ヴァラスが雨ノ助の喉元を狙う。
「‥‥河童鍋は美味いかの」
雨ノ助の顔をジィーッと見つめ、柚那が危険な想像をする。
「これ‥‥あげる‥‥けん‥‥話、聞いて‥‥な?」
河童達がまわりを囲み始めたため、鴇輪が仲直りの証にキュウリを渡す。
「こりゃ太うて甘い。うめえキュウリじゃ。しかし、なんじゃ生暖かいのう」
豪快にキュウリをかじり、雨ノ助が首を傾げる。
「あ‥‥、それ‥‥さっき‥‥つこうたん‥‥」
恥かしそうに顔を隠し、鴇輪が恥かしそうに顔を隠す。
「げほげほっ‥‥、何に使ったかは聞かないでおこう」
食べていたキュウリを慌てて吐き出し、雨ノ助が気まずい様子で視線を逸らす。
「そろそろ本題に入っていいかな? 鍋子殿も了承の上ゆえ、鍋を返して頂けぬか」
鍋子の漬けたキュウリを渡し、朽葉が少しだけ嘘をつく。
「あの鍋子がそんな事を‥‥。そうか。ならば仕方ない。土鍋は返してやろう」
驚いた様子で朽葉を見つめ、雨ノ助が土鍋を返す。
「それと‥‥その娘は預からせてもらう。キュウリの正しい使い方‥‥もとい食べ方を教えねばならぬからな」
鴇輪の襟首をつかみ上げ、雨ノ助がコホンと咳をする。
「河童は‥‥はじめて‥‥」
両手で顔を押さえながら、鴇輪が意味深な言葉を吐く。
「よく分からねぇが頑張れよ。土鍋は貰っていくぜ!」
鴇輪の背中をポンと叩き、ヴァラスが土鍋を受け取った。
「気のせいかも知れないが、物凄い危険な取引をしてないか?」
河童達に連れられていく鴇輪を見つめ、朽葉が大粒の汗をダラリと流す。
「何を警戒しておるのじゃ! それでは祝いの舞を踊るのじゃ♪ オ〜レ〜オ〜レ〜〜ドツケンサンバ〜〜☆」
唖然とした表情を浮かべる朽葉にキュウリを渡し、柚那が両手にキュウリを掲げて雨ノ助を激しくどつく。
「な、何をする!」
沼にサブンと落ちたため、雨ノ助が文句を言う。
「馬鹿者! キュウリの豊作を願う神聖な踊りなのじゃ!! さぁ、おぬし達も踊るのじゃー!」
そして柚那は他の河童達にもキュウリを渡し、楽しげに踊りを踊るのだった。
「鍋はジャパンの冬の食の王。鍋を制する者こそジャパンを制すという事か。だが、その鍋で人生を狂わせる者もいる。それは我々が正さねばなるまい」
激しい怒りを感じたため、デュラン・ハイアット(ea0042)が拳を握る。
鍋奉行(以下、田吾作)は土鍋が戻ってくるのを寝るも眠らず待っており、家のまわりをウロウロと行ったり来たりしているようだ。
「ふん! 鍋奉行等という偉そうな肩書きを持ちながら、父親としての自覚は持たぬとは! ここは、この『鍋将軍』ゴルドワが無理やり改心させてくれる!」
デュランに何か吹き込まれたのか、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が必要以上に気合を入れる。
「それにしても鍋をよく取り戻せたよなぁ。鍋子の説得には失敗したんだろ?」
ヴァラスの持ってきた土鍋をマジマジと見つめ、連十郎が嫌な予感に襲われた。
「逃げるんだったら、河童が踊り疲れている間にな」
何処か遠くを見つめながら、デュランが連十郎の肩を叩く。
「‥‥やっぱり何かあったんだな」
デュランの言葉ですべてを察し、連十郎が気まずい様子で汗を拭う。
「おお、こんな所にいたのか。‥‥きちんと土鍋は取り戻してくれたかな?」
期待に満ちた眼差しをむけ、田吾作が連十郎達を屋敷の中に迎え入れる。
「フッフッフ、お奉行様、まずはこれをお納め下さい」
紫色の布を被せた豆腐を盆の上に乗せ、デュランが田吾作の顔を見つめてニヤリと笑う。
「ほほう、これは素晴らしい。かなり上物の豆腐だな。おぬしも悪よのお」
不敵な笑みを浮かべて豆腐を掴み、田吾作が袖の下にしまい込む。
「いえいえ、お奉行様ほどでは‥‥」
田吾作の機嫌を取るため、デュランが一生懸命ゴマをする。
「実はお奉行様の為に趣向を凝らした鍋を用意しております。ささっ‥‥」
ゴルドワにむかって合図を送り、デュランがコクンと頷いた。
「では鍋を愛して止まぬ鍋奉行殿に良い物を贈ろう! 遠慮せず一口食ってみるが良い!」
あおいが浸かって素敵なダシの取れた『一撃必殺山菜鍋』を取り出し、ゴルドワがニヤリと笑って箸を渡す。
「なんだ、この味はっ!」
食べたものを慌てて吐き出し、田吾作が箸を叩きつける。
「‥‥どうだ! ウマくはあるまい!! 何故ウマくないのか貴様には分かっているか? それはその鍋には、最も大事な物が欠けているからだ! それが何か貴様に分かるか!?」
渋い表情を浮かべて腕を組み、ゴルドワがボソリと呟いた。
「お前の味付けが悪いからだ!」
ゴルドワの事を指差しながら、田吾作が激しく文句を言う。
「愚か者! この鍋が目に入らぬか! こちらにおわす御方をどなたと心得る。恐れ多くも天下の鍋将軍、ゴルドワ・バルバリオン様にあらせられるぞ! 鍋将軍の御前である! 頭が高い! 控えおろう!」
印籠のようにして土鍋を突き出し、デュランが田吾作を怒鳴りつける。
「ふ、ふざけるな! わしを馬鹿にするつもりか!」
烈火の如く怒りだし、田吾作がデュランを睨む。
「てめぇの土鍋がこうなっても良い鍋か?」
偽物の土鍋をバーストアタックで破壊し、連十郎が警告まじりに呟いた。
「グッ‥‥ググッ‥‥」
大切な土鍋が破壊されると思ったため、田吾作が悔しそうに唇を噛む。
「鍋は皆でつついてこそ美味いのだ! 土鍋を大事にするのも良いが、土鍋は一緒に鍋をつついてはくれん! お前が大事にすべきは共に鍋をつついてくれる人だったのではないのか!! それが分からぬなら、貴様に鍋奉行たる資格は無い!!」
無駄に片肌を脱いで自慢の筋肉を見せびらかし、ゴルドワが田吾作の事を叱りつける。
「う、うおおお‥‥鍋子ぉぉぉぉ」
鍋子の大切さを再確認したため、田吾作が雄叫びを上げて涙を流す。
「これで一件落着だな。‥‥ん? 何か‥‥来るっ!」
沼の方から妙な殺気を感じたため、連十郎が瞳をキラリと輝かせる。
「‥‥河童の奴め。もうこんなところまで来たのか。逃げるぞ!」
そしてデュランは表情をくわっと険しくさせ、 河童達の殺気を背中に感じ脱兎の如く逃げ出した。