●リプレイ本文
「汝、素材を揃えよ、材料を吟味せよ」
満面の笑みを浮かべながら、ティアラ・クライス(ea6147)が大声を上げる。
ミンメイが指定したレシピは妙なものばかりのため、すべて集める事が出来たとしても味の保障は出来ないようだ。
「さてさて、今回の民明書ぼ‥‥ゲホ、ゲホ、ミンメイ書林は鍋ですか。しかし、ミンメイの料理と言えば魚の頭を‥‥え? 魔空呂州の話はするなって?」
仲間達から無言のツッコミを何度も喰らい、安堂嶺(ea7237)がジト目で睨む。
‥‥どうやら大人の事情があるらしい。
「豚鬼の鍋‥‥。どちらかと言えば、華国の文化にありそうだと思うのだが? あちらで『肉』と言えば豚の肉を意味するほどだと聞くし‥‥」
豚鬼の鍋を作ると聞いたため、天城烈閃(ea0629)がミンメイにむかってツッコミを入れる。
「それよりも豚鬼戦士の肉って食えるもんなのかな?」
素朴な疑問を感じたため、リフィーティア・レリス(ea4927)が首を傾げて呟いた。
「ち、違うアル! 暗黒鍋アル!」
慌てた様子で首を振り、ミンメイが素早く訂正を入れる。
このままでは豚鬼戦士の肉がメインになりそうだが、誰もミンメイの話を聞いていないため非常に危険な状況だ。
「‥‥ふっ。最初に『豚鬼を食材にするために狩りに行く』と勘違いしたのはさておき、豚鬼がいる所ほど美味い食材がある、という事になるんだろうな。そう言えば異国には高級食材を探し出す豚もいるという話だし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、天螺月律吏(ea0085)がボソリと呟いた。
「暗黒鍋か‥‥一度箸で掴んだ具材は何が何でも食べなければならない、禁断の鍋だったよな。ミンメイちゃんが食べたいと言うなら、豚野郎の一匹や二匹、どーんと揃えてみせらぁ! てなわけで恒例の抱擁をばっ」
妨害を想定してワンテンポずらし、朝宮連十郎(ea0789)がミンメイをぎゅうっと抱き締める。
「オイテメェー! 気安く依頼人殿のオシリやオッパイに触ろうとしてんじゃあねー! このド変態が!」
最初の一撃が見事に空振りしたため、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が2倍の強さで連十郎を殴り飛ばす。
「殴りやがったな、この野郎っ! まだ胸は揉んでねぇぞ!」
頭に出来たタンコブを撫でながら、連十郎が激しくヴァラスに抗議する。
「依頼人殿ォ、切り立て新鮮ホヤホヤの材料を持ってきますからねぇー、期待してくださいよー」
連十郎の話をアッサリと聞き流し、ヴァラスがミンメイと固い約束をかわす。
「こら、無視するな、この野郎。‥‥って、ミンメイちゃんの手を握るんじゃねぇ!」
大粒の涙を浮かべながら、連十郎がヴァラスにツッコミを入れる。
「これがジャパン名物『ボケとツッコミ』アルか。イイモノ見たアル♪」
感動した様子でふたりを見つめ、ミンメイが熱心にメモを取り始めた。
「勘違いしないでくださいよ、依頼人殿ォ! コイツとはコンビなんて組んでやせんぜぇ!」
妙な勘違いをされてしまったため、ヴァラスが激しく首を横に振る。
「それは俺の台詞だっ! ‥‥まったく。そんな事より早く食材を探そうぜ!」
森の方角を指差し、連十郎が疲れた様子で溜息をつく。
「依頼人殿ォ、切り立て新鮮ホヤホヤの材料を持ってきますからねぇー。期待してくださいよー」
満面の笑みを浮かべながら、ヴァラスが大きく手を振った。
「あ、そうだ。実は、こないだの祭で買った福袋でこんなのが出たんだが、良かったら貰ってくれるか? 俺が持ってても仕方ないし、ミンメイに使って貰おうと思って持って来たんだ」
懐から紅小鉢を取り出し、烈閃がミンメイに渡す。
「アリガトある。大切にするアルよ♪」
嬉しそうに紅小鉢を抱き締め、ミンメイがペコリと頭を下げる。
「それじゃ、食材探しといくか。つーか俺らも狙われてる‥‥?」
そしてレリスは背筋に悪寒を感じながら、豚鬼戦士の棲む森の中へと足を踏み入れるのであった。
「ぽるしぇよ、我等鍋通の誇りにかけて、トンキー・ザ・八戒なぞに負けてはおれぬぞ! しかし‥‥暗黒鍋とは。ホーリーかけたら神聖鍋にでもなるのかの? ‥‥そう言えば北国では蟹鍋が美味なのじゃ‥‥」
ホクホクの蟹鍋を思い浮かべ、緋月柚那(ea6601)が森の中へと進んでいく。
ぽるしぇも腹を空かせているのか、柚那の顔を見て腹の音を鳴らす。
「よいか、ぽるしぇよ。いざという時は足蹴りじゃ。容赦はいらぬぞ? 大自然の中では己の身は己で守らねばならぬのじゃ。さぁゆくぞ!」
お腹がグゥッと鳴ったため、柚那がブンスカと首を横に振る。
「反応があると思って来てみたら、あなたでしたか。山道の一人歩きは危険ですよ」
ブレスセンサーを使って柚那達を発見し、山王牙(ea1774)が狩った猪を背中に抱えて微笑んだ。
「その猪‥‥うまそうじゃのう。こら、ぽるしぇ! つまみ食いは良くないぞ。まだ交渉中なんじゃ!」
ぽるしぇが思わぬ暴走をしたため、柚那が慌ててハリセンでどつく。
しかし、ぽるしぇは腹が減っているため、猪に喰らいついたまま離れない。
「あんまりがっつくと鍋の具にされるぞ。馬鍋は美味いと聞くしな」
ぽるしぇの頭を撫でながら、律吏がさらりと冗談を言う。
「それは駄目じゃ。これでもよく働くのじゃぞ」
慌てた様子で首を振り、柚那がぽるしぇを抱き締めた。
「だったら一緒に食材を探すといい。一応、試食も出来るしな」
複雑な心境に陥りながら、律吏が柚那の肩を叩く。
暗黒鍋の味を期待する事は出来ないが、何も食べないよりはマシだろう。
「それじゃ、食材探しに行くとするか。秋が旬の食材には、今の時期では少し遅れてしまっているからな。だが、せっかくここまで来たんだ。こう言う所でしか食べられない物が食べたい。新鮮な兎の肉なら、串にさして塩を振って火で焼くだけでも美味しく食べられるしな」
ブレスセンサーを駆使しながら、烈閃が辺りをゆっくりと見回した。
ほとんどの動物が冬眠に入っているため、なかなかセンサーに反応はない。
「依頼人殿のメモによるとぉ‥‥この野草にぃー? このキノコかぁー? いや、ちょっと待てよ。‥‥このキノコって確か毒性があったような気が‥‥。まあ、いいか。特別植物や毒物知識に詳しい訳でもねーし、別に俺が食う訳でもねーだろーしな」
毒々しいキノコを手に取り、ヴァラスがバックパックの中に放り込む。
「こら、ぽるしぇ! それは毒キノコじゃ!」
ぽるしぇが泡を吹いて倒れたため、柚那が大きな溜息をつく。
「取り敢えず毒キノコは別の袋に避けておこうか。‥‥まだ死にたくないし」
苦笑いを浮かべながら、嶺が毒キノコを端に退ける。
「‥‥どうやら来客のようだな」
豚鬼戦士達の気配に気づき、律吏が素早く刀を抜く。
「トンキー・ブラザーズのお出ましじゃな」
すぐさまコアギュレイトを発動させ、柚那がぽるしぇに合図を送って後ろ足で蹴らせた。
「ムヒヒヒ、てめーらはこのヴァラス様にブッた切られて食材となる運命よ」
敵の様子を窺いながら、ヴァラスがダブルアタックで攻撃する。
豚鬼戦士はバランスを崩し、フラフラとして涎を流す。
「みんな、確実に仕留めろよ!」
フェイントアタックを駆使し、レリスが豚鬼戦士を仕留めて行く。
「‥‥豚鬼戦士どもにゃ、悪いがミンメイちゃんの為、狩らせて貰うぜっ!」
なるべく素材を傷つけないようにするため、連十郎が豚鬼戦士の急所を狙って一撃を放つ。
豚鬼はブクブクと泡を吐き、白目を剥いて絶命した。
「食材調達の為憶えたこの技術、無駄にするつもりは有りません。鍋の具となれ、スマッシュボンバー」
スマッシュボンバー(スマッシュ+ソードボンバー)を放ち、牙が豚鬼戦士にトドメをさす。
「‥‥これで食材はバッチリだね」
そして嶺は最後の豚鬼戦士にトドメをさし、仲間達にむかって微笑んだ。
「今回は‥‥暗黒鍋』か‥‥。前回の『鍋将軍』の時に覚えた鍋の作り方を実践出来るわね☆ 取り敢えず‥‥豚鬼戦士の肉か‥‥。なんだか妙な匂いがしているけど‥‥食べる事が出来るのかしら?」
豚鬼戦士の身体から漂うニオイにやられ、郭梅花(ea0248)が青ざめた表情を浮かべる。
「念のため各種薬草を入れておくか。何かあっても命だけは助かるだろ」
薬草らしきものを適当に放り込み、レリスがグルグルと鍋を掻き混ぜていく。
鍋の中からは異様なニオイが漂っており、だんだん毒々しい色へと変化し始めているようだ。
「何やら私は恐ろしいほど料理オンチというヤツらしい。せっかく皆が楽しみにしている鍋だし、出来れば腕に自信のある方々の料理する様は観察させて頂きたい。……いったい何が違うのだろう?」
料理が下手である自覚がないため、律吏が間近で仲間達の料理を見学し始める。
「やっぱり冬はお鍋ですよねぇ〜。みんなで楽しくワイワイとお鍋を囲んで忘年会ですよぉ〜」
何だか恐くなってきたため、ヴィヴィアン・アークエット(ea7742)が鍋に蓋をした。
「出来れば鍋子‥‥じゃない、シェニーも呼びたかったんだけどね。何か色々とあったようだから‥‥」
燻製たまごのコスプレをして鍋の蓋をパカリッと開け、如月あおい(ea0697)が怪しげな調味料を振りかける。
着ぐるみには『くん』と書かれており、ミンメイには『オン』と書かれた温泉卵の着ぐるみを着せた。
「なんだか毒々しい色になったアルね」
今にも倒れそうな表情を浮かべ、ミンメイが困った様子で汗を流す。
「暗黒っていうくらいだし、何入れても許されるだろ? 鍋に入れちまえば誰がどれ持ってきたかなんて分からないし‥‥」
手当たり次第に食材を入れていき、レリスが鍋を熱心に掻き混ぜる。
「やっぱりあたしの『乙女つゆ』も必要ね。みんなであっちの鍋に使ってダシ取りよ♪」
瞳をキラリと輝かせ、あおいが大きな鍋を指差した。
「‥‥そうね。このままじゃ、みんな食べてくれないかも知れないし☆」
苦笑いを浮かべながら、梅花が服を脱いでいく。
「それじゃ、俺は外に出ているな。誰かが覗きに来るかも知れないだろ?」
気まずい様子で視線を逸らし、レリスが調理場の入り口で腕を組む。
「すでに21歳(暦年齢42歳)ですが乙女としての資格はあるのでしょうかぁ?」
滝のような汗を流し、ヴィヴィアンが苦笑いを浮かべる。
「もちろん、大歓迎よ! みんなで入って良いダシを取りましょ!」
そしてあおいは満面の笑みを浮かべながら、ビシィッと親指を立てるのだった。
「素材の味をそのまま楽しめる料理が多いのはジャパン文化の特徴の一つだからな。たまには、こういう簡素なジャパン文化を味わってみるのも悪くないだろ?」
暗黒鍋が完成したため、烈閃が中間達の試食の準備をし始める。
暗黒鍋は乙女つゆが入ったおかげか、甘い匂いが漂わせ毒見役の興味を引く。
「‥‥旨そ‥‥」
「暗黒鍋の中身は‥‥あっさり:11%、こってり16%、マニアック:測定不能、デンジャラス:無限大、ダシ:16%、野菜8%、乙女心:少々、あのひの遠い思い出:0.3%になっているようだね」
暗黒鍋から遠ざかり、ティアラが困った様子で汗を流す。
「取り敢えず‥‥出来る限りの事はしたわ。もしもの場合はお口直しに水餃子を食べてね☆」
得体の知れないものが出来たため、梅花が念のため水餃子を用意する。
「猪鍋は最高でしたが、暗黒鍋は、初めてです。どのような味か緊張しますね」
まったく警戒した様子もなく、牙が優しくニコリと微笑んだ。
「ウゲェ〜〜〜、何だ、この得体の知れねー鍋は! 見た目だけじゃあねー、この凶悪な刺激の臭い! この鍋からは殺気すら感じられるぜー!」
鍋の色が途中で変わり刺激臭が発生したため、ヴァラスが慌てた様子で後ろに下がる。
「‥‥何でピンク色なのかな? 食あたりの場合は首まで土に埋めるんだったっけ? えーっと‥‥」
警戒した様子で鍋の具を掬い取り、嶺があからさまに嫌な顔をした。
「やはり宴会にはお酒がつき物ですよね!」
誰も鍋を食べ始めようとしなかったため、ヴィヴィアンがお酌をし始める。
「‥‥やはりこの時期は鍋に限るな、うん」
鍋の具をジッと睨みつけたまま、律吏がゴクリと唾を飲み込んだ。
「‥‥ミンメイちゃんがダシの一人なら、ソレも具材と見なしていいのか? いいんだな? だったら、いただきっ!」
どうしても鍋を食べる事が出来なかったため、連十郎がミンメイを抱き締め現実逃避をし始めた。
「連十郎に‥‥食べて欲しいアル」
瞳をウルウルとさせながら、ミンメイが鍋の具を連十郎に食べさせる。
「こ、これは‥‥甘く切ないドブ川の香り‥‥ぐぼわッ!」
天国と地獄を一瞬にして味わい、連十郎が血反吐を吐く。
「何こっち見てんだよ‥‥お、俺は食わねーぞ! 絶対に食うもんかだッ!」
連十郎とバッチリ目が合ったため、ヴァラスがスタコラ逃げ出した。
「‥‥誰も試食したがらんようじゃな。ぽるしぇは‥‥ニオイだけで逝ったのじゃ」
意識を飛ばしたぽるしぇを見つめ、柚那が乾いた笑いを響かせる。
「一応、肉の臭みを取るためお酒を入れたはずだけど‥‥あれ?」
時間が経つにつれて鍋が漆黒に染まったため、あおいが青ざめた表情を浮かべて汗を流す。
「見た目じゃ‥‥わから‥‥ない‥‥。い‥‥ただ‥‥きま‥‥す」
何の躊躇もなしに暗黒鍋を食べ始め、柊鴇輪(ea5897)の魂がぴょろりと抜ける。
それと同時に鴇輪の身体がガクガクと震え、ショッキングなBGMと共にお茶碗が落ちた。
「た、大変アル!」
魂を引っ張り戻す仕草をしながら、ミンメイが必要以上に動揺する。
「でりしゃすー‥‥」
あからさまに胡散臭い声を上げ、鴇輪が解毒剤を取り出しゴクリと飲む。
「みんなも‥‥食え‥‥」
薬が効かずに土気色の肌になりながら、鴇輪が暗黒鍋を仲間達に薦める。
「‥‥食えるか〜」
そしてティアラはちゃぶ台をひっくり返すようにして、仲間達と一緒に鍋の中身をぶちまけた。