●リプレイ本文
●忠犬の試練
「‥‥ひとつ気になる事があるのだが、もしも試練の途中で欠片を狙う輩が襲ってきた場合、試練は仕切り直しになるのか、それともそのまま続行か?」
険しい表情を浮かべながら腕を組み、岩倉実篤(ea1050)が麒麟衆の審判を睨む。
あまりにも麒麟衆の審判が哀れで、もう何も謂うまいと心に誓っているものの、得点にも関わるため確認する事にしたらしい。
「その場合も試練を中止する事はない。前にも言ったかも知れないが、その程度の事で倒れるような奴らを試練に参加させた覚えはない」
ジロリと実篤を睨みつけ、麒麟衆の審判が答えを返す。
「‥‥純粋な河童だけで構成されている麒麟衆も、裏切り者が出るという事は一枚岩には程遠かったという事か。せめて石版の管理だけでも、キッチリとしておいてくれよ」
冗談まじりに微笑みながら、実篤がボソリと呟いた。
「石版の管理は各首領に任せてある。そんな事よりもお前達は試練の事だけ考えろ。まずは青龍衆‥‥、愛を語れ!」
敵の襲撃を恐れているのか、麒麟衆の審判が実篤を急かす。
「‥‥雇われの身で愛とか忠誠とかある訳無いだろ? しかも野郎に語る愛の言葉などある訳無い! それに俺は暇潰しで五輪祭に参加しているんだぞ。忠誠心など期待するだけ無駄だ。大体<俺が青龍衆に参加しているのは他の忍軍より、まともそうに見えたからで、それ以上でもそれ以下でもない。だが俺もプロ冒険者の端くれ、正当な報酬が支払われる限りは寝返る事無く青龍の為に尽力しよう。以上だ」
実篤の言葉にゴルゴが険しい表情を浮かべて腕を組む。
「‥‥思ったよりも無難な答えだな、6点だ」
彼の答えに期待していたのか、ゴルゴが厳しめに採点を下す。
‥‥続いて玄武衆。
「普段から玄ちゃんへの愛を叫んでるけど『はい、どうぞ』って言われると緊張するねぇ〜。玄ちゃんも恥ずかしがってないで、何か言いなよっ!」
真鉄の煙管を吹かして緊張を緩和し、山浦とき和(ea3809)が玄武の事を肘で小突く。
今回のために、とき和はオークションで競った玄武の法被、三日月刺繍入り鉢金、サラシを巻いて試練に参加しているため、麒麟衆の審判と玄武がやけに緊張しているようだ。
「‥‥玄ちゃん! この指輪、左手の薬指にして良いのよね? 私が怖いから仕方なく与えたとかじゃないんでしょ? どう意味か言ってくんなきゃ解んない! な〜んて、質問攻めはルール違反かねぇ? まぁ、いいか。変わった格好をしてる人は、本当の自分を見せたがらない人だったり、過去に何か有ったりするらしいね。‥‥そういう人は凄く真っ直ぐで心が綺麗なんだってさ。でも、本当の玄ちゃんを知りたいよ、私は‥‥」
とき和の言葉に玄武がコホンと咳をする。
「えーっと、8点くらいかな。本当は10点だけど、それじゃ試練にならないだろ。俺の事については、そのうち‥‥。つーか、結婚っすか? 俺、独身だし‥‥」
麒麟衆の審判の妙な視線を感じながら、玄武が顔を真っ赤にしながら肩を抱く。
彼女を見つめて口づけを交わし‥‥。
「そろそろ‥‥いいかな? これ以上、何かしたら減点するぞ」
大粒の涙を浮かべながら、麒麟衆の審判がふたりを睨む。
麒麟衆の審判は独身のまま30代に突入したため、カップルに対してあまり良いイメージがないらしい。
「続いて朱雀衆! 頑張ってくれ!」
溢れる涙を必死で拭い、麒麟衆の審判がエールを送る。
「そんなに期待されても困るのだが‥‥。まぁ、出来る限りの事はしておこう」
ヘビーヘルムを被って亀の甲羅を背負い、ルミリア・ザナックス(ea5298)が朱雀の法被を身に纏いタートルシールドで武装し気合を入れた。
「‥‥朱雀殿、まずはお久しぶりであるな。五輪祭が悪漢河童に狙われてるとの噂を聞き、いてもたってもいられず欧州より戻って参った。騎士としても、またひとりの友としても、朱雀殿に危機が迫っているとなれば我は世界の何処からでも馳せ参じよう。
この装備を見て下され。これで、我も何処から見ても精鋭河童に見えないであろうか?
どんな悪漢が襲いこようともたちどころに叩きのめしてみせますぞっ!」
朱雀の顔をマジマジと見つめ、ルミリアが大声で叫ぶ。
「気に入ったわ。色々な手間を考えたら、10点でも低いほど‥‥。よく戻ってきたねぇ‥‥」
その言葉に満足したのか、朱雀がうっすらと笑みを浮かべる。
「百合の香りが漂っているが、気にしないようにしておこう。最後に白虎衆、前へ‥‥」
恥ずかしそうに頬を染め、麒麟衆の審判が視線を逸らす。
「今回は白虎衆も少ないね‥‥と言っても4人いるんだけどさ。この場合はふたり一緒がいいかな? ちょっと緊張するけど‥‥。あの僕‥‥好きだよ、白虎さんの事も同じ忍軍の仲間も。‥‥決めたんだよ、僕は‥‥。最初にこの五輪祭参加した時に、僕はこの人(白虎さん)の為に全力を尽くすって僕の意思は未だに変わらない。だから自分の誓いは裏切らない。。そして白虎さんに危険が迫るなら白虎衆の闘虎になる」
正面から白虎を見据え、羽雪嶺(ea2478)が自分の想いを彼女にぶつける。
「ありがとう。その言葉‥‥、忘れないわ」
雪嶺の肩に手を置き、白虎がニコリと微笑んだ。
麒麟衆の審判から出された点数は7点。
‥‥決して悪くない得点だ。
「拙者は言葉の代わりに料理に愛をこめるでござるよ‥‥。それが拙者の愛(忠誠心)を伝える手段でござるからの。余計な事は言わぬでござる。食べて判定して欲しいでござる。拙者、西洋文化を愛する首領の為に、常日頃から西洋料理を研究してるでござる」
あまり多くは語らず、沖鷹又三郎(ea5927)が料理を作る。
イギリスにいる弟から久しぶりにシフール便が届き、イギリス料理のレシピを教えてもらったため、前菜はさんまのマリネ、カブと玉葱のスープ、メインはタラのワイン蒸しのグリーンソース(キュウリのソース)かけを作っていく。
「こんなにたくさん食べられないわ。‥‥でも、ありがとう。9点よ」
苦笑いを浮かべながら、白虎が又三郎に採点を下す。
この試練の勝者はルミリア。
朱雀がイチオシしたのも理由である。
●番犬の試練
「朱雀の姐さん、お初にお目にかかりやすっ。るみりあ嬢や、みぃなの姐御に呼ばれてきやした。姐さんの為に力を尽くしやすんでどうかよろしくお願いしやす」
朱雀にむかって深々と頭を下げ、利賀桐真琴(ea3625)が試練に挑む。
番犬の試練は河童の襲撃時期を予測しなくてはならないため、失敗すれば得点がマイナスにされてしまう。
「‥‥随分と新顔が多いんだねぇ。青龍衆に所属している奈津も今回が初めてなんだろ?」
試練に参加している冒険者達を見つめ、朱雀がクスリと笑って扇子を扇ぐ。
「それにしても‥‥南天家の方達が一人もいないなんて珍しいですね。いつもなら誰かひとりは参加しているのに‥‥、残念です。本当なら白虎様にテレパシーをかけて、輝に忠犬の試練受けてもらいたかったですが‥‥」
何度か辺りを見回した後、刀根要(ea2473)が残念そうに溜息をつく。
南天家と言えば五輪祭では常連だが、今回は都合が合わなかったのか、誰ひとりとして参加していない。
「‥‥五輪祭も後わずか、麒麟衆も順調に減っているし、そろそろ何か起こるのかねぇ? 試練とは別に襲撃がありそうだな。まあゴルゴの旦那なら襲撃があろうと軽く返り討ちだろうけど‥‥一応警戒はしとこうか」
警戒した様子で辺りを睨み、龍深城我斬(ea0031)がキュウリの山にむかって歩いていく。
会場には既に河童達が待ち構えており、血走った瞳で目の前のキュウリを睨んでいる。
「‥‥河童五輪もあと二回、頑張らせてもらうぞい。此処から玄武衆が大逆転じゃ!!ーーー。む、無理かの‥‥」
大粒の汗を浮かべながら、錬金(ea4568)が河童達から視線を逸らす。
河童達は食事を抜かれているため飢えており、キュウリ以外のものまで食べそうな雰囲気を漂わせている。
「それじゃ、覚悟はいいな! 始めぃ!」
参加者達が集まった事を確認し、麒麟衆の審判が試練開始の合図を出す。
「‥‥蒼天が一人、刀根要。此度は白虎さまの為、我が力の限りここは通さぬ」
オーラエリベイションとオーラシールドを発動させ、要が河童達を睨んでキュウリの山の前に立つ。
それと同時に河童達が雄たけびを上げ、次々と要達に攻撃を仕掛けていく。
「このままキュウリの山を守りきれれば、番犬の試練はわしらの勝ちで決まりじゃのう‥‥}
愛犬『ハチ』と協力し合い、馬場奈津(ea3899)がブレスセンサーを使って興奮気味の河童を狙う。
河童達はキュウリを奪う事に必死なため、他の河童が倒れても全く動揺していない。
「まさか最初から河童達が襲撃を仕掛けてくるとは誰も予想をしていなかったでしょうからね」
苦笑いを浮かべながら、要が河童を掴んで放り投げる。
「これでわしらの優勝は決まりじゃな! ‥‥と言う事は他の参加者は不戦敗になるのかのう?」
クイックシューティングを放って河童を倒し、奈津がホッとした様子で汗を拭う。
キュウリを狙っていた河童達が倒れてしまったため、この時点で奈津達の勝利は確定した。
だが、しかし‥‥。
「何だか様子がおかしいのぉ‥‥。河童達はすべて倒されたはずなのに‥‥」
又三郎の料理を味見している途中で異変に気づき、金が作ろうとしていた料理を止めて辺りを睨む。
次の瞬間、観客席から黒い塊が放り投げられ、何者かが金にむかって斬りかかる。
「んな!? こ、これは‥‥」
地面に転がっているのは、先程まで審判を務めていた麒麟衆の忍者。
‥‥彼を殺ったのも忍者である。
「一体、こいつらは何者だっ! 河童忍軍じゃないのか!?」
忍者の攻撃を受け止め、真琴がダラリと汗を流す。
「‥‥余興にしては趣味が悪い。これが噂の暗殺集団か」
険しい表情を浮かべながら、金がチィッと舌打ちした。
その事を証明するかのように、あちこちから悲鳴が上がっている。
「飛旋‥‥、我王丸‥‥、躊躇するな!」
鷹と軍馬に命令を下し、我斬が木刀を抜く。
忍者達に致命傷を与える事は出来ないが、急所を狙えば何とか倒す事が出来そうだ。
「‥‥大丈夫か」
現れたのと同時に忍者達の首を一気に刎ね、ゴルゴが血の雨を浴びながら我斬にむかって話しかける。
「そろそろ話してくれないか。一体、こいつらは何者なんだ」
我斬の言葉はゴルゴが観念した様子で口を開く。
「‥‥俺の予想が間違っていなければ、コイツらは藤豊の手の者だ。多分、狙いは俺達の命と石版の欠片‥‥」
そう言ってゴルゴが逃げた忍者達を追いかける。
怒りに満ちた表情を浮かべ‥‥。
●闘犬の試練
「忍者の襲撃があっても、試練は続けるみたいだね」
河童忍者達が慌しく動く中、五輪祭の試練は再開された。
柊小桃(ea3511)は、まるごとわんこを身に纏い、闘犬の試練に参加する。
「‥‥小桃ちゃん、しょーぶなのですっ☆ 一番になって一等賞の旗を貰うのですー☆」
白と黒のぶち模様をしたまるごとわんこを身に纏い、ミィナ・コヅツミ(ea9128)がビシィッと小桃を指差した。
「‥‥っていうか、一等賞の旗なんてないよ?」
小桃の鋭いツッコミ。
「そ、それでは自前の旗を立てるのですっ!」
ミィナが顔を真っ赤に染めた。
一等賞の旗を握り締め‥‥。
「‥‥所属している忍軍を選ぶ時も、かなり適当に決めてしまったが、今となっては愛着があるから不思議なものだ。今回こそ勝って『実力ある者ばかりが集まっている』というところを見せつけねば‥‥」
背中に描かれた舞い上がる青竜の如く土壇場からの逆襲を狙い、阿武隈森(ea2657)が柴犬『大吟醸』を連れて試練に挑む。
この試練では飼い犬一匹につき、一点がプラスされるため、最初から有利な者もいる。
「俺もいい加減に、いいところで終わる男から抜け出さないとな」
大きな溜息ついた後、紫上久遠(ea2841)が真剣な表情を浮かべて位置につく。
これ以上、負けるわけには行かない。
自らのプライドに懸けて‥‥。
「‥‥行くか」
試練開始の合図はない。
麒麟衆の審判が命を落としてしまったから‥‥。
先に走り出した者が勝ちなのだ。
「こ、こんじょーですー」
いきなりのトラップ。
ミィナは足元にあったロープを飛び越え先を急ぐ。
「ちっ‥‥、2番目でいきなりロープか。お前はそこで待ってろ、大吟醸!」
ロープの回避に失敗し、森が豪快に転倒する。
その横では大吟醸が心配そうにしているが、ここで休んでいる暇はない。
「わっわっわ、犬が!」
次の瞬間、中間地点まで来ていた小桃が悲鳴を上げる。
小桃は突然、茂みの中から現れた犬の群れに襲われ、驚いた拍子に足を挫いてしまったらしい。
「全世界70数名のちまの皆さん、ごめんなさい‥‥。ちまを啓蒙するのにあたしの力は全然足りませんでした‥‥」
悔し涙を流しながら、ミィナが犬の群れから逃げていく。
このトラップには誰も逃れる事が出来なかったため、大幅に遅れが出ているようだ。
「ちぃっ‥‥、鬱陶しい!」
犬の攻撃を素早くかわし、森が迷わずゴールを目指す。
「トラップに引っかかったくらいで、そう簡単に止められてたまるかっ!」
何度も犬に噛まれながら、久遠が雄たけびを上げる。
痛みに耐え、走るふたり。
共に8番目の障害(闘犬トラップ)をかわし、どちらがゴールしてもおかしくない。
ゴールまで後わずか‥‥。
「負けて‥‥たまるかあああああ‥‥!」
最後の力を振り絞り、久遠が最後のスパートをかける。
コンマ1秒の差でゴールする久遠。
森も悔しそうな表情を浮かべている。
「やったー! 俺、ようやく勝ったぞー!」
大粒の涙を浮かべながら、久遠が自らの勝利を宣言した。
この試練によって久遠は負け犬から闘犬へと成長したのだ。
●総合結果
・20点(戌の欠片入手!)
白虎衆
・17点
青龍衆
・10点
玄武衆
・8点
朱雀衆
●忠犬の試練
・10点(戌忍の称号獲得!)
ルミリア・ザナックス(朱雀衆)
・9点
沖鷹又三郎(白虎衆)
・8点
山浦とき和(玄武衆)
・7点
羽雪嶺(白虎衆)
・6点
岩倉実篤(青龍衆)
●番犬の試練
・10点(戌忍の称号獲得!)
刀根要(白虎衆)
馬場奈津(青龍衆)
・−5点
利賀桐真琴(朱雀衆)
錬金(玄武衆)
龍深城我斬(青龍衆)
●闘犬の試練
・7点(戌忍の称号獲得!)
紫上久遠(玄武衆)
・6点
阿武隈森(青龍衆)
・5点
ミィナ・コヅツミ(朱雀衆)
・3点
柊小桃(白虎衆)