●リプレイ本文
●闘牛試練
「前回は惜しくも2位に終わったが、ここで遅れを取り戻すぜ!」
拳を高々と掲げ、玄武衆の首領が雄叫びを上げる。
「三日月の仮面とは変わった趣味ですね。しかし、仮面を被っているという事は、首領の愛する物は、正義、それともイギリスの脅威となっている変た‥‥いえ、これ以上は止めておきます」
危うく首領を『変態』と言いかけたため、ルーラス・エルミナス(ea0282)が慌てた様子で首を振る。
玄武衆奥義『おいなりクラッシュ』を喰らう危険があるため、首領の前で変態という言葉は禁句らしい。
「いま変態って言わなかったか!?」
指の関節をパキポキと鳴らし、玄武衆の首領がルーラスに迫る。
「いえ、気のせいです。忘れてください」
これ以上、首領を怒らせないようにするため、ルーラスが気まずい様子で視線をそらす。
「フォォ‥‥それならいいんだが‥‥」
妙な封印でも解くつもりでいたのか、玄武集の首領が妙な声を出して頷いた。
「なんだか狙われているようだな。試練中に妨害される事はないと思うが注意しておこう」
前回の試練で子忍の称号を得た事もあり、阿武隈森(ea2657)が警戒した様子で辺りを睨む。
森の所属している青龍衆は前回の優勝チームであるため、他の参加者達から敵対心を持たれている。
「‥‥作戦は考えているのか?」
いつの間にか森の背後に現れ、青龍衆の首領が腕を組む。
「最初から全ての試練に全力を以って取り組み、圧倒的な力で勝つのが望ましいのは確かだが、それはあくまで理想論だ。もし立て続けに青龍衆が勝ってしまったとしたら、残り3つの忍軍が一時的にせよ結託し、次の試練からは青龍叩きをするのは目に見えている。相手が一勢力の場合はともかく、複数勢力が互いに叩き合う状況下で、ひとつの勢力が突出するのは好ましくない。正直、今回は負けてもいいと思っている」
決して後ろを振り向く事なく、森が小声で答えを返す。
「‥‥そうか。健闘を祈る」
納得した様子で顎をさすり、青龍衆の首領が再び気配を消した。
「随分と余裕がありますね」
瞳をキラリと輝かせ、琴宮茜(ea2722)がニコリと笑う。
会話の内容までは聞こえなかったようだが、森達の事を少し警戒しているらしい。
「そりゃあ、そうだろ。よほど失敗をしない限り、俺達に負ける事はないからな」
会場に運ばれた壁をじーっと見つめ、紫上久遠(ea2841)が自分自身に気合いを入れる。
壁のひとつに鉄板が仕込まれているという話だが、ざっと見ただけではそれがどれだか分からない。
「忍者とは『心に刃を持つ者』だとか。己を常に研ぎ澄ますべく競技を行うというのも実に頷ける話だ。感服致した」
所属しているチームが最下位という事もあり、ルミリア・ザナックス(ea5298)が壁を睨む。
「いよいよ、試練の始まりかぁ〜。今回は頑張るよ〜。‥‥でもハズレたらゴメンね〜」
一瞬、妙な不安が過ぎったため、外橋恒弥(ea5899)がパタパタと手を振った。
「それじゃ、試練を始めるぞ。ヨォーイ、フォォ‥‥」
間の抜けるような声を出し、麒麟衆の審判が奇妙な声を上げる。
それと同時に参加者達が一斉に走り出し、目の前の壁を突き破っていく。
「闘牛、久しくチャージングを使っていないので、何やら突貫をして見たくなりました。オーラパワー全開、突貫行きます」
ショートソードにオーラパワーを付与し、ルーラスがチャージングを使って目の前の壁を突き破る。
壁と壁の間には少し距離があるため、加速をつけるとちょうどいい。
「‥‥飛ばしすぎだな。これは速さを競う競技ではない」
冷静に試練の内容を分析し、森が少しだけペースを落とす。
「ここは下手に危ない賭けをする必要は無いでしょう」
確実に得点を稼ぐため、茜が慎重に進んでいく。
「そんなんじゃ、俺に勝つ事はできないぜ〜」
審判達から特別ポイントをゲットするため、久遠が気合いを入れて目の前の壁をブチ破る。
「いっくよ〜!! 突撃っ!!」
壁にむかってグラビティキャノンを叩き込み、小桃がダッシュでガンガン進む。
「この様子だとみんな高得点狙いかな? 俺も頑張ろうっと」
余裕の笑みを浮かべながら、恒弥がのんびり進む。
「ぜやぁああぁーー!! ちぇりゃぁああーーー!! でゃあぁあーーー!!!!」
奇跡の十枚抜きを達成させるため、ルミリアがオーラパワーを使用後バーストアタックEXとスマッシュEXで、壁をぶった斬りながら突進した。
その根性に審査員達が感動し、惜しみない拍手を送る。
「ここで止めておきましょう」
5枚目の壁を破らずピタリと止まり、ルーラスが審査員達に頷いた。
「ま、今回はこんなモンだろ?」
ルーラスと同じように5枚目で止まり、森がその場にしゃがみ込む。
「みんな考えている事は同じですね」
5枚目の手前で立ち止まり、茜がほっと胸を撫で下ろす。
あまり手前で止まった場合、根性なしと判断される可能性もあるため、5枚目で止まって正解らしい。
「よっしゃ、狙い通りだぜ♪」
茜達のいる壁より先に進み、久遠が6枚目の手前で止まる。
「‥‥あれ? まだ鉄板じゃないの?」
6枚目の壁で立ち止まり、小桃が大粒の汗を浮かべて驚いた。
「それじゃ、俺が一番かな」
7枚目の壁まで突き破る事が出来たため、恒弥が満足した様子で笑みを浮かべる。
「ふぎゃ! くっ‥‥、やはりまだ修練が足りぬ‥‥」
8枚目の壁に仕込まれていた鉄板に激突し、ルミリアが鼻血を吹いて気絶した。
一応、審判達からボーナス点をもらったが、−4になっただけなのであまり喜べない。
「勝負の結果、丑忍の称号は恒弥のものだ。これから胸を張って生きるがよい!」
そして審査員達は恒弥の事を褒め称え、惜しみない拍手を送るのだった。
●乳牛の試練
「はぁ〜い、玄ちゃん、元気してた?」
くのいち装束に三日月を書き入れた鉢金を頭に巻き、山浦とき和(ea3809)が脳天気な声を上げる。
「俺を玄ちゃんって呼ぶんじゃねぇ! クロスアウトするぞ!」
意味不明な言葉を呟き、玄武衆の首領がとき和を睨む。
「良いじゃないか〜玄武の玄ちゃん♪ 嫌だったら名前を教えておくれよ‥‥。黙って聞いてあげるか・ら。でも余りに似合わない場合は『そんなアホな!』って突っ込むよ?」
玄武の耳元で囁きながら、とき和がニコリと微笑んだ。
「げ、玄武だよ」
恥ずかしそうに頬を染め、玄武が気まずく視線をそらす。
「それと甲羅の中身を見せてくれる気になったかぃ?」
甲羅をツンツンとつつき、とき和が玄武の事をからかった。
「‥‥1位になったらな」
うまい言葉が見つからず、玄武が大袈裟に咳をする。
「あっちはやる気のようだねぇ。あたいらも気合いを入れて頑張るよ」
妖艶な笑みを浮かべながら、朱雀衆の首領がニヤリと笑う。
「まあ‥‥私は前回の競技から『忍者』そのものに関しては素質も技量もなく、限りなく遠い存在‥‥ではありますが、まだまだ修行不足の身ゆえに更なる強さとお金を求めて、今回も懲りること無く『朱雀州所属』で頑張ってみようかと思います」
乳牛の試練に参加するため気合いを入れ、三笠明信(ea1628)が朱雀衆の首領にむかって頭を下げる。
朱雀衆の首領は力強く頷くと、明信にむかって手を振った。
「どれも似たような感じね。‥‥難しいわ」
似たような雰囲気のする乳牛を見つめ、南天流香(ea2476)が首を傾げてしばらく悩む。
乳牛には1〜10までの数字が割り振られており、乳の出る牛を当てる事によって得点が入るようになっている。
「前回は全くお役に立てませんでしたので‥‥頑張ります」
白虎衆の首領に声をかけ、丙荊姫(ea2497)が気合いを入れた。
試練中は不正を防ぐため乳牛を触る事が出来ないため、遠くから見て判断するしか方法はない。
「それにしても大きな乳だね。‥‥って、別にお乳の張り具合が羨ましいとか、嫉妬とかで選択したんじゃないよ? こんな私だってさらしで寄せれば何とかなる! ううっ、この物悲しい気持ちは何だろうね。秋だからよね、きっと」
ほろりと流れた涙を拭い、とき和が気を取り直して乳牛達を観察した。
乳牛はどれも乳が張っており、何だか悔しくなってくる。
「‥‥困りましたね。まさか番号を選択しなくてはならないとは‥‥」
どれも似たような牛のため、明信が困った様子で溜息をつく。
少なくともマイナス評価だけは避けたいようだ。
「わたくしの運を信じる事にしましたわ」
自分の予想した乳牛の番号を布に書き、流香が審査員に手渡した。
「乳牛のお腹を触る事が出来れば正解する自信があったんですが‥‥」
みんな似たような事を考えていた事もあり、荊姫が不満げに審判員達に視線をむける。
審判達は厳しい表情を浮かべており、いまさらルールを変更するつもりはないらしい。
「きっと当たりは2と9ね。干支の二番目は丑だし、牛と九って似てるだろ。はい、玄ちゃんココで突っ込んで! ボケには突っ込み必須!」
サラサラと布に文字を書き、とき和が玄武にむかってウインクする。
「肉と29(ニク)をかけているな。‥‥ハズレだ!」
悲しそうに涙を流し、玄武がとき和にむかってハリセンを放つ。
「少し手加減したね。私に気があるのかい? それとも女だから? どっちにしても嬉しいねぇ」
玄武の耳元でボソリと囁き、とき和がクスクスと笑う。
「次は私の番ですね。多分これと‥‥これだと思うんですが」
自分と目があった乳牛を選び出し、明信が審査員からの答えを待つ。
その結果、正解とハズレを選んだため、得点を得る事は出来なかったようである。
「みんな苦戦してますね」
4頭選択した牛のうち3頭がハズレだったため、荊姫が−2ポイントの評価を受けた。
「わたくしは自分を信じてます」
審査員達を見つめながら、流香が祈るようにして結果を待つ。
「正解はふたつ。不正解はひとつ。よって勝者は流香!」
審査員達の言葉を耳にして、流香がホッと胸を撫で下ろす。
この結果、流香が見事乳牛の試練をクリアし、ふたりめの丑忍として麒麟衆に認められるのであった。
●食牛の試練
「ふむ、気になって調べたのだが‥‥5つの忍軍はそれぞれ麒麟を中央に四方を守る聖獣だという。そして、前回の『子』、今回の『丑』、干支とか言うやつだな。時間や方角を示すのにも使われる。そして、この五輪祭の4年という周期。やはり何かあるな。私も知らない何かが‥‥」
険しい表情を浮かべ、デュラン・ハイアット(ea0042)が汗を流す。
何か恐ろしい計画があるような気もするのだが、それが何なのかは分かっていない。
「まぁ、難しい事は抜きにしようよ。今は試練の事だけ考えよう」
綺麗な河童達に応援され、羽雪嶺(ea2478)が気合いを入れる。
「‥‥前回は失態をサラしてしまったな」
前回のお仕置きを思い出し、龍深城我斬(ea0031)が溜息をつく。
朱雀衆の首領は容赦がないため、お仕置きもキツイものだったらしい。
「ふっ‥‥古よりよく言われるじゃろう。『据え膳喰わぬは恥』と。そう、男子たる者出された料理に背を向ける事など有ってはならーん。例え毒入りだと判っていても敢えて貪り食う、それが『漢』じゃ!」
料理人のプライドにかけて、錬金(ea4568)が全種類最大量で食べる事を決意する。
この事により食べるのを止めるまで得点が入る事になったのだが、それが別の意味で危険な状況を生む事となる。
「肉は‥‥先ずは肩肉からいってみようか。折角食うんなら、美味しくな。‥‥別に早食いって訳でもないんだろ?」
大きめな石で竈を作って鉄板を置き、簡単な味付けをしてから、我斬が肩肉、バラ肉、肝臓、外もも肉の順に肉を喰らう。
「うっ‥‥、この下腹部を襲う激痛は‥‥」
腹の中をかき回されるような激痛に襲われ、我斬が青ざめた表情を浮かべて厠まで這っていく。
「選択を誤ったな。だが、私の選択は完璧だ。フ‥‥!」
肝臓、肩ロースの順に肉を食べ、デュランが無言になると我斬を飛び越え厠にむかう。
「みんな慎重になり過ぎだよ。僕は成長期だから食べないとね」
ばら肉、肩ロースの順に箸で掴んで口の中に放り込み、雪嶺がだんだん表情を強張らせる。
「なんだろう‥‥。妖精さんが見えるや」
身体をカタカタと震わせながら、雪嶺が必死で痛みを我慢した。
「何をモジモジしておるのじゃ! 男だったらもう少し堂々とせんか!」
豪快な笑みを浮かべながら、金が雪嶺の肩をドカンと叩く。
「‥‥みんな、ごめん!」
一気に緊張がゆるんだため、雪嶺がダッシュで厠に走る。
「‥‥駄目だ。内側から鍵が掛けられている!」
何度も厠の扉を叩き、我斬が悔しそうに唇を噛む。
「腹の中で牛達が暴れておるのじゃ。これは呪いじゃ、牛達の!」
壁を突き破るほどの勢いで、金が厠の扉を力まかせにぶっ叩く。
「漢には譲れない時がある。‥‥許せ!」
厠がひとつしかなかったため、デュランが最後の力を振り絞り、自らの聖域を死守しようと試みた。
「ぬおおお! 我が丑忍の試練、一片の喰い残しなし!」
我慢の限界を超えたため、金が厠を掴んで持ち上げ放り投げ、拳を高々と掲げて雄叫びを上げる。
「‥‥逝ったか」
そしてデュランは一番ハズレが少なかったため、食牛の試練の勝利者として丑忍の称号を得るのであった。
・結果発表
<白虎衆>
柊小桃(ea3511) 4 7
琴宮茜(ea2722) 3 8
南天 流香(ea2476) 2 −2 乳牛試練勝者
羽 雪嶺(ea2478) −1 −1
総合ポイント 12(+ 4)
<青龍衆>
阿武隈森(ea2657) 3 18
丙荊姫(ea2497) −4 −4
龍深城我斬(ea0031) −12 −14
総合ポイント 6(−13)
<玄武衆>
外橋恒弥(ea5899) 5 0 闘牛試練勝者
紫上久遠(ea2841) 4 6
ルーラス・エルミナス(ea0282) 3 3
山浦とき和(ea3809) −4 4
錬金(ea4568) −20 −18
総合ポイント −5(−12)
<朱雀衆>
ルミリア・ザナックス(ea5298) −4 −4
デュラン・ハイアット(ea0042) 2 −3 食牛試練勝者
三笠明信(ea1628) 0 5
総合ポイント −4(− 2)