出来の悪い一番弟子

■シリーズシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 85 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月22日〜06月28日

リプレイ公開日:2005年06月29日

●オープニング

●盗まれた絵
「やはり‥‥ないですわね」
 江戸城楽士・小野於通は困っていた。
 場所は宮廷絵師の部屋。
 彼女が管理していた絵のうち、数点が姿を消していたのである。
「こんな事をするのは‥‥ただひとり」
 於通が大きな溜息をつく。
 彼女の一番弟子であり、最も出来の悪い弟子。
 名を‥‥清十郎という。
 清十郎は江戸でも有名な艶絵師だが、どんな事があっても漢の絵しか描こうとしない。
 何故なら彼が男色だから‥‥。
 ‥‥そのため女嫌いで知られている。
 とある事が原因で‥‥。
「まったく‥‥ちょっと目を離せばコレですか‥‥。どうせ借金の返済にでも困って絵を‥‥」
 ‥‥売ったに違いない。
 於通も多少の事なら目を瞑るが、盗まれたのがよりにもよって依頼された品である。
 このまま放っておくわけにも行かない。
「早く‥‥取り戻さなければなりませんね」
 湧き上がる怒りを押し殺し、於通が深呼吸をしてから三味線を鳴らす。
 清十郎にどんな仕置きをするか考えながら‥‥。
 瞳を妖しく輝かせ‥‥。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1415 一條 北嵩(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●質屋に売られた絵
「やれやれ、清十郎は相変わらず厄介な問題を起こしているようだな。まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも、於通だ、於通」
 依頼が達成したあと於通らに顔を売っておくため、デュラン・ハイアット(ea0042)が質屋に売られた絵を回収しにむかう。
 質屋の主人は清十郎の絵を気に入っているため、普通に掛け合っただけでは取り返す事は難しそうだ。
 そのためデュランは質屋の主人を不安な気持ちにさせるため、夜な夜な母屋の屋根にリトルフライを使って登り、ひたすら歩いて帰っていった。
 毎晩のように聞こえる主人の呻き声を耳にしながら‥‥。
 
 ‥‥数日後。

 デュランは質屋の前にいた。
 清十郎によって売られてしまった絵を取り戻すために‥‥。

「こちらの店から、なにやら物の怪の気配がするのだが‥‥」
 異国風の怪しい格好と自信満々の態度で、デュランが店の中に飾ってあった問題の絵を睨む。
「やはり‥‥そうか。実は夜な夜な天井から足音が‥‥」
 質屋の主人は一瞬険しい表情を浮かべたが、納得した様子でデュランに今までの出来事を語っていく。
「なに、最近屋根の上を歩く音がするだと!? この絵の女に違いない。直ぐに処分せねばいかんな。この絵は私に任せたまえ」
 すぐさま座敷に上がりこみ、デュランが問題の絵を回収しようと走り出す。
「ま、待ってくれ! 別に処分する事はない。わしゃあ、こんなベッピンさんに取り殺されるなら本望じゃ‥‥」
 慌ててデュランの行く手を阻み、質屋の主人がウットリした。
「ば、馬鹿な! それでは死んでも構わないと言う訳か!」
 納得のいかない様子で質屋の主人を睨みつけ、デュランが我に返ってハッとなる。
「‥‥私は重要な事を見落としていた。こいつは間違いなく‥‥筋金入りの変態だっ! ‥‥となると夜な夜な寝床から聞こえていた呻き声は‥‥お、おぞましい! 清十郎がよく出入りしている質屋という時点で気づくべきだったんだ。この店の主人がマトモな奴ではない事をっ!」
 驚愕の表情を浮かべながら、デュランがダラリと汗を流す。
(「‥‥悔しいがこのままでは説得する事は出来ない。ここはいったん退くしかないか‥‥」)
 拳をギュッと握り締め、デュランが店を後にする。
 さすがにひとりで解決出来るほど、質屋の主人は単純ではなかったらしい。

●清十郎の恋人
「まさか小野嬢に弟子がいたとはねえ‥‥。随分と彼女も怒っていたようだから、クソ羨ましい一番弟子から絵を回収しないと‥‥」
 清十郎に対して激しい怒りを感じながら、クリス・ウェルロッド(ea5708)が拳をわずかに震わせる。
 於通はそれほど表情には出していなかったが、かなり怒っていたような気がする。
「‥‥清十郎の恋人っつーくらいだから、どうせ筋肉質の男なんだろう? 考えただけでもぞっとするな‥‥」
 青ざめた表情を浮かべながら、リフィーティア・レリス(ea4927)が溜息をつく。
 於通の描いた絵を見る限り、清十郎の恋人は彫刻のように美しいボディの持ち主で、そっちの趣味がなければ女性受けしそうな顔立ちだ。
「最悪の場合‥‥、この絵を清十郎の恋人に渡しておくか。清十郎が描いたって言えば、恋人だって多少は納得するだろ。それに清十郎だって絵を盗んだ手前、本当の事は言えないだろうしな」
 於通から貰った紙を見つめ、久留間兵庫(ea8257)が盗まれた絵の特徴を頭の中に叩き込む。
 清十郎の盗んだ絵は特徴のあるマッチョ絵であるため、特徴だけ分かっていれば決して間違う事はない。
「それにしても‥‥、一番弟子とやらの恋人ねえ。‥‥一体どんな方やら。ま、他者に危害を及ぼさないのならば個々の自由。干渉はしない。‥‥が、危害を与えるようならば即滅する。例外は無い」
 やけにクールな表情を浮かべ、クリスが恋人の住む長屋の前に立つ。
「おや‥‥? 貴方達は‥‥」
 何処かに出かける予定があったのか、清十郎の恋人リキがひょっこりと顔を出す。
 リキは状況を全く把握していないため、クリス達を見つめてキョトンとした表情を浮かべている。
「せ、清十郎が大変なんだっ! 借金の取り立てが遅れたとかで、強面の男達に連れていかれて‥‥、借金を返さないと命がないって言っていたから‥‥、こうやってあんたを迎えに来たんだよ‥‥。さぁ、早く! 手遅れになる前に清十郎を助けに行こうっ!」
 息を切らしてリキの腕をムンズと掴み、兵庫が適当な方向を指差した。
「あ、ああ‥‥!」
 何が何だか分からぬまま、リキが兵庫に手を引かれ、何処か別の場所に案内される。
「これでしばらく時間が稼げるな。危うくサンレーザーの的にする所だったけど‥‥」
 含みのある笑みを浮かべ、レリスがリキの絵に入っていく。
 リキの家は物が綺麗に整頓してあり、目立つ所に問題の絵が飾ってある。
「任務完了っと‥‥。意外と楽勝だったな。それじゃ、後始末をしておくか」
 問題の絵をゆっくりと下ろして風呂敷で包み、クリスが於通から預かった絵を飾っておく。
「そんな事をしなくても問題ないと思うけど‥‥」
 やけに冷たい表情を浮かべ、レリスが辺りを警戒する。
「いや、このままだと兵庫に迷惑がかかるだろ。せっかく囮になってくれたのに、帰ってきてこの仕打ちじゃ怒るだろうからね」
 そう言ってクリスがリキの家から去っていく。
 何故か凧に乗って逃亡していた兵庫を眺め‥‥。

●清十郎の盗んだ絵
「意外と於通も厳しいな。書状が一通も貰えないなんて‥‥」
 険しい表情を浮かべて腕を組み、伊達正和(ea0489)が清十郎の家にむかう。
 本当なら於通から源徳公の名が書かれた上意の書状を貰うつもりでいたのだが、笑顔で断られてしまったため少し困っているようだ。
「‥‥国の一大事でもない限り、源徳公から書状を貰うのは難しいかも知れませんね」
 落ち込む正和を慰めながら、山本建一(ea3891)が清十郎の家を睨む。
 清十郎の家はやけに静まり返っており、何度か戸を叩いても返事はない。
「本人が出てこないのなら、無理矢理にでも中に入った方がいいのかも知れませんよ? こういういい加減なヒトって本当に腹が立つんですよね」
 家の戸に耳を当てて中の様子を窺いながら、瀬戸喪(ea0443)が邪悪な笑みを浮かべて呟いた。
「そんな事をしたら清十郎さんがヤケになって絵を燃やしてしまうだろ。もっと平和的な解決方法もあるんじゃないか」
 荷物の中から使用済みの褌を取り出し、一條北嵩(eb1415)が瞳をキラリと輝かせる。「これは昨日‥‥、酒場で泥酔していたマッチョなアニキから拝借してきた褌だ。清十郎好みの漢汁が染み付いた至極の逸品♪ 清十郎ちゃん、出ておいで〜」
 まるで伝説の職人が作った名刀を語るような口ぶりで、北嵩が手に持って褌の素晴らしさを語っていく。
 北嵩の持っている褌をウチワで扇ぐたび、家の中から反応があるため、清十郎もある意味違いの分かる男らしい。
「効果絶大ですね。まさかこんな簡単に引っかかるなんて‥‥」
 次第に膨れ上がった気配に気づき、所所楽林檎(eb1555)がボソリと呟いた。
 清十郎は褌の魔力によって警戒心が解けたらしく、匍匐前進しながら家の中から顔を出す。
「‥‥‥‥あっ」
 満面の笑みを浮かべて褌を掴み、清十郎が自分の置かれている立場に気づく。
「いらっしゃいますね。‥‥だから、自分に甘い人は嫌いなのですわ」
 清十郎の頭を踏みつける勢いで、林檎が冷たい言葉を吐き捨てる。
「いや、これには深い訳がっ!」
 大粒の汗を浮かべながら、清十郎が必死になって両手を合わす。
「もう逃げ場はないぞ! 神妙に縄につけいっ!!」
 清十郎の喉元に十手を突きつけ、正和が警告まじりに呟いた。
「これって思い切りお仕置きしちゃっていいんですよね? 二度とこんな事が出来ないように‥‥」
 邪悪な笑みを浮かべながら、喪が清十郎から褌を取り上げる。
「ひいいい、勘弁してくれ!」
 褌にむかって右手を伸ばし、清十郎がボロボロと涙を流す。
「な、泣き落としなんかにゃ負けねえからな!」
 気まずい様子で視線を逸らし、北嵩が清十郎を縄で縛る。
 清十郎から問題の絵を取り戻すため、北嵩はあえて心を鬼にした。

●清十郎の家
「‥‥それにしても見事なほど肉体美の作品ばかりだな。俺もこんな風に筋肉つけてえ‥‥」
 清十郎の家に上がり込み、北嵩が絵の真似をする。
 いまのところ問題の絵は見当たらないが、何処かに隠している可能性が高い。
「自分でも絵を描く事が出来るのに、師匠の絵を盗んでどうするんですか」
 清十郎の絵を見つめ、健一が呆れた様子で溜息をつく。
「し、師匠の絵はわしとはケタが違うのじゃ! 師匠の絵と比べたら、わしの絵なんて‥‥」
 ションボリとした表情を浮かべ、清十郎がどんよりと顔を俯かせる。
「とにかく盗んだ絵を返してください。素直に返す気があるなら優しくお仕置きされますが、返す気がないなら本気でお仕置きすると於通さんが言っていましたよ‥‥」
 清十郎の耳元で囁きながら、林檎がわざと於通の名前を出す。
「そ、それだけはカンベンしてくれぇい!」
 あからさまに動揺し、清十郎が激しく首を横に振る。
「だったら素直に案内しろ」
 清十郎に繋がれた縄を引き、正和がジロリと睨む。
「わ、分かったのじゃ」
 諦めた様子でコクンと頷き、清十郎が家の中を這って行く。
「これで一件落着だな。そう言えば林檎さんって珍しい苗字だけど、ひょっとして石榴さんってお姉さんがいないか?」
 清十郎の描いた絵の中から、盗まれた絵を見つけ出し、北嵩が林檎にむかって話しかけた。
「なっ、なんでそこで姉様が出てくるのですかっ?」
 予想外の言葉に驚き、林檎が目を丸くする。
「実は俺‥‥、石榴さんと仲良くさせて貰っている北嵩っての。よろしくな」
 真っ白な清十郎の身体を跨ぎ、北嵩が仲良く林檎と握手した。
「それじゃ、私達は清十郎のお師匠さんの所に行きましょうか」
 妙に爽やかな笑みを浮かべ、簀巻き状態の清十郎を荷車まで運ぶ。
「そ、それだけは簡便なのじゃ! 師匠の所に行ったら、お婿にいけない身体になるのじゃ!」
 乙女チックな表情を浮かべ、清十郎が嫌々と首を振る。
 よほど於通が怖いのか、何度も頭を下げて涙を流す。
「もしかして清十郎さんの女嫌いの原因って於通さんなんでしょうか? この態度からして、まさか‥‥」
 サディスティックな匂いを感じ、喪がクスリと笑う。
 この様子では清十郎のお仕置きはハードプレイになるだろう。
 ‥‥南無。