●リプレイ本文
●質屋の主人
「これでよしっと♪ 随分と可愛らしくなったんじゃない? まるで本当の女の子みたい」
リフィーティア・レリス(ea4927)にメイクを施し、シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)がクスリと笑う。
当のレリスはメイクの出来栄えに納得していないようだが、仲間達からは絶賛の嵐でそのまま可愛らしい服まで着せられている。
「‥‥だからって俺が女装する必要はないだろ。いくら相手が美少女好きだからって、何で俺が‥‥。認めないからな、絶対にっ!」
次第に変わっていく自分に戸惑いながら、レリスが納得のいかない様子で文句を言う。
よく見れば‥‥可愛らしい。
「だあああああああああああ! やっぱり駄目だっ! あり得ないっ! 俺は男だぞ!」
必死になって自分自身に言い聞かせ、レリスが激しく首を横に振る。
‥‥このままでは乙女に目覚めてしまうかも。
「我慢、我慢。それに他の奴だと危ないだろ。いきなり押し倒されるかも知れないし‥‥」
気まずい様子で視線を逸らし、サニー・サイドアップ(eb0532)がさらりと答えを返す。
強引に押し倒された場合、危険な状況に陥るため、出来るだけ囮にはなりたくない。
「俺はいいのか、俺は‥‥」
納得のいかない様子でサニーを睨み、レリスがボソリと呟いた。
「‥‥」
一瞬の沈黙。
すべての視線がレリス自身に集中した。
「頑張りなさい。‥‥みんなのために」
そう言って田崎蘭(ea0264)が肩を叩く。
爽やかな笑みを浮かべながら‥‥。
「みんなのためにって‥‥ついてねえな」
青ざめた表情を浮かべ、レリスが疲れた様子で溜息をつく。
「それじゃ、決まりね。さっそく始めましょうか」
シフールの竪琴を優しく奏で、シュテファーニが可愛らしい歌声を響かせる。
シュテファーニの選んだ歌は女の子の可愛らしさを強調した歌で、恥じらいを捨てなければ歌い切る事が出来ない。
「こ、この歌はっ!」
くわっと表情を険しくさせ、質屋の主人が慌てた様子で外に出る。
「あっ、眩暈が‥‥」
わざとらしくふらりと倒れ、レリスが薄目を開けてジッと待つ。
それと同時に質屋の主人が雄たけびをあげ、レリスにキスするほどの勢いで迫って来た。
「のわあああああっ! 気持ち悪りぃぃぃぃ!」
すぐさま質屋の主人に蹴りを入れ、レリスが我に返って汗を流す。
「‥‥あら? わたくしとした事が‥‥。おほほほほほほ‥‥あうっ‥‥」
自分が乙女である事を強調し、レリスがサニーに殴られ気絶した。
「旦那、ちょっと手伝ってくれよ! 俺はこの通りのチビだから上手い事バランスがとれねぇんだ」
苦笑いを浮かべながら、サニーが質屋の主人に声をかける。
「病気なのか? コイツは?」
キョトンとした表情を浮かべ、質屋の主人がレリスの事を指差した。
「この状況を見りゃ分かるだろ。ちったあ、空気を読みやがれ! まさかブッ倒れた女の子をほっといて、何処か行っちまうほど薄情な男じゃネェだろうな?」
いきなり胸倉を掴み上げ、蘭がジロリと睨みつける。
「そ、そんなわけねえだろ。‥‥俺は紳士だぜ!」
怯えた様子で首を振り、質屋の主人がレリスを慌てて抱き上げた。
「あー馬鹿! そっと持てっ! アブネェ倒れ方したんだから、あんまり揺らすんじゃネェ! そーっと、そーっとだぜ? あ、言っとくけどヘンな気ぃ起こすんじゃネェぜ?」
警戒した様子で質屋の主人に声をかけ、蘭が慎重にレリスを運ぶ。
レリスはいつでも拳が出せるように準備をしていたようだが、蘭達が必要以上に警戒したため何とか無事に小屋まで運ぶ事に成功した。
「た、大変! すぐにお医者様を呼ばなきゃ」
小屋に着くと先回りしていたシュテファーニが対応し、驚いた様子でレリス達のまわりをクルクルとまわる。
「悪いけど医者を呼んできてくれるかい? このまま寝かしておいて病が悪化しても困るしね」
レリスを寝床に寝かせながら、蘭がテキパキと指示を下す。
シュテファーニは納得した様子で頷くと、疾風の如く勢いで小屋からぴゅーっと飛び出した。
「それじゃ、俺も‥‥この辺で‥‥」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、質屋の主人が小屋から出て行こうとする。
「おっと、待ちな。実は今日、旦那に話を聞きたくて店に行ったんだよ。ジャパンで商売を始めて日が浅いんだけどさ。今度こういうのを取り扱おうかと思ってんだ。そうしたら少女ものの造詣なら旦那が一過言あるって小耳に挟んだんで、どういうのがいいとか教えてもらえねぇかな?」
主人の肩をムンズと掴み、サニーがニコリと微笑んだ。
「‥‥仕方ねえなぁ。本当なら店で詳しく教えてやりたいんだが、どうせそっちのお嬢さんも俺に用があるんだろ。聞きたい事があったら聞いてくれ」
そう言って質屋の主人が座敷に座る。
レリスの寝顔を横目で見つめ‥‥。
●於通
「縁は異な物味な物、あんたみたいな別嬪さんと知り合えるとは思わなかったぜ」
小野於通(ez0029)の部屋に招かれ、伊達正和(ea0489)がのんびりとお茶を飲む。
気のせいか清十郎が馬代わりにされているが、その事に触れようとする者は誰もいない。
「‥‥清十郎をつまみに茶を飲む‥‥って言った方が正しいかも知れないな、この状況。前回、縄で縛ったの‥‥確か俺だったっけ。なんとな〜〜く‥‥南無」
同情した様子で両手を合わせ、一條北嵩(eb1415)がなむなむと祈る。
「てめーだけは絶対に許さねぇからな! いつか押し倒してやる!」
ようやく自分の事が話題に出たため、清十郎が涙目まじりに文句を言った。
「関わらない方がいいですよ。妙な因縁をつけられますから‥‥」
北嵩を見つめてボソリと呟き、山本建一(ea3891)がゴクリとお茶を飲む。
「‥‥確かに。お婿に行けない体にされたんだろうか‥‥、などとは思ってても口には出せないな。心なしか小野さんがすっきりした顔をしてらっしゃるから。えっと〜‥‥、清十郎は生きてるよ、ね? ‥‥あはは‥‥あはははは」
清十郎の顔をマジマジと見つめ、北嵩が冷汗を流して乾いた笑いを響かせる。
「お前だけは‥‥絶対にっ!」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、清十郎が呪いの言葉を吐き捨てた。
「あんまりおイタはいけませんわよ。あなたのせいでわたくしの大切な絵が質屋にあるのですから‥‥」
凍るように冷たい視線を清十郎に送った後、於通が天使のような笑みを浮かべて頭を撫でる。
「お師匠様には敵わんのじゃ」
怯えた様子で視線を逸らし、清十郎がダラリと汗を流す。
「質屋さんに飾られている絵の事なら安心してください。リフィさん達が質屋の主人を外に誘き出している頃です。リフィさんも秘密をバラすって言ったら素直に協力してくれましたから‥‥」
リフィにメイクを施せなかった事を残念に思いながら、瀬戸喪(ea0443)がニコリと微笑みお茶を飲む。
「‥‥執着しているのなら、売りに出さなければいいと思うのですが‥‥」
淹れ立てのお茶を口に含み、所所楽林檎(eb1555)が口を開く。
「その相手が質屋の主人を指しているのなら、絵は売りに出されていませんわ。きちんと店に飾られています。逆にその相手がわたくしを指差しているのなら、正式な依頼人に絵を渡さなければならないため絵を回収しなければならないというわけです」
お茶の味を楽しみながら、於通が丁寧に答えを返す。
「それにしても良い絵だな。俺は絵心がないが、あんたの絵はなんか感じるもんがある」
於通の描いた絵を褒めて、正和が茶菓子を口に頬張った。
「私も素晴らしいと思います。貴女の絵には魂が篭っている‥‥」
ウットリとした表情を浮かべ、建一がゴクリとお茶を飲む。
「‥‥光栄ですわ」
満足した様子でお茶を注ぎ、於通がニコリと微笑んだ。
「けっ‥‥、どこがいいんだ。こんな絵の‥‥」
不機嫌な表情を浮かべ、清十郎がブツブツと文句を言う。
「‥‥何か言いましたか?」
清十郎の首をぎゅっと絞め、於通がこめかみをピクピクさせる。
「ひぃぃぃぃ、ごめんなさい!」
反射的に身体が反応し、清十郎が必死で何度も謝った。
「‥‥素晴らしい。道具も使わずここまで従順にさせるとは‥‥」
感動した様子で於通を見つめ、喪が彼女の本質を見極める。
彼女は口にしてないが、かなりの実力者である事は確かだろう。
「そんな事より俺を助けろ!」
小動物のような表情を浮かべ、清十郎が助けを求めて愚痴をこぼす。
「‥‥自業自得だな。正直、助ける気にもならん」
呆れた様子で視線を逸らし、正和が大きな溜息をつく。
正和にとって清十郎は助けるのに値しない相手のため、極力関わらないようにしているらしい。
「ですね‥‥」
小さくコクンと頷きながら、健一がお茶をズズッとすする。
「なんだか目のやり場に困るな。小野さんって意外と大胆な下着を身につけているようだし‥‥」
於通の胸を気にしつつ、北嵩がコホンと咳をした。
「し、師匠。北嵩がセクハラ発言を‥‥」
鬼の首でも取ったような表情を浮かべ、清十郎が満面の笑みを浮かべて報告する。
「聞こえませんわ」
怪しく指を蠢かせ、於通がニコリと微笑んだ。
「あっ‥‥、茶柱」
茶柱が立っている事に気づき、林檎がわずかに顔を綻ばせる。
林檎も清十郎には興味がないのか、まったく相手にしようとしない。
「あ、そうだ! 紀紅って言う梅干があるんだけど、お茶請けに如何ですか? もちろん、林檎さんもどうぞ♪」
手の平をポンと打ち、北嵩が梅干を配る。
「あっ‥‥、ごめんなさい。‥‥その、慣れていないものですから‥‥」
北嵩と偶然に手が触れてしまったため、林檎が恥ずかしそうに頬を染めた。
「ちょっとお邪魔みたいね。別室に行きましょうか」
妖艶な笑みを浮かべ、於通が清十郎を連れて行く。
勉強熱心な喪を連れて‥‥。
●偽物の絵
「この質屋の店主だって普通に商売しているだけなんだから、絵を取り上げられる筋合いもないと思うが‥‥。しかも於通殿から出来の違いも分からないとまで言われているし‥‥。ひょっとして何かあったのか?」
誰もいなくなった質屋を訪れ、菊川響(ea0639)が溜息をつく。
清十郎が利用している店だけあってマトモじゃない絵が多いため、於通としてもフライドを傷つけられたのかも知れない。
「せっかく小野嬢とお茶が出来ると思ったのに‥‥結局会えるのは本物の絵を手渡す時だけなんて‥‥運命を呪うよ」
苦笑いを浮かべながら、クリス・ウェルロッド(ea5708)が質屋の中に入っていく。
質屋の中には問題の絵が飾っており、まわりには綺麗な花まで飾ってある。
「清十郎殿と関わるのは久し振りだが、相変わらずのようだな。それにしてもよく出来た偽者だな。これなら本物と見比べても違いが分からん」
於通から手渡された絵を見つめ、貴藤緋狩(ea2319)が感心した様子で溜息を漏らす。
交換用に手渡された偽物はとてもよく出来ており、素人目では何処が違うのかさえ分からない。
「それだけ彼女の絵が素晴らしいって事だろ? 後で気づかれても困るしな」
本物と偽物を取り替え、響がホッとした様子で汗を拭う。
早くしないと質屋の主人が帰ってくるため、バックパックの中から鶴の着ぐるみを取り出し身に纏う。
「一体、何をやっている?」
奇妙な行動をし始めた響を見つめ、緋狩が不振そうな表情を浮かべてツッコミを入れる。
「‥‥分からないか? ちょっとした仕掛けさ」
バックパックをガサゴソ探り、響がトラバサミを取り出し微笑んだ。
「‥‥気をつけなよ。相手は筋金入りの変態だから‥‥」
於通から聞いた話を思い出し、クリスが警告まじりにクスリと笑う。
「大丈夫だろ。さすがに鶴のメスは‥‥」
‥‥嫌な予感が脳裏を過ぎる。
相手は筋金入りの変態だ。
「設定的には美少女なんだろ? 演じるのは‥‥」
緋狩の言葉で響がヘコむ。
「‥‥考えてもみなよ。清十郎の知り合いにマトモな奴がひとりでもいたかい?」
追い討ちをかけるクリス。
「何だか寒気がしてきたな。ふたりっきりじゃ、危険だなぁ‥‥」
響も否定が出来ずにぞっとした。
「‥‥だろ? このまま帰るべきじゃないか?」
取り返しのつかない事態になる前に緋狩が響に対して警告する。
響が禁断の領域に足を踏み入れないようにするために‥‥。
「これだけ精巧なものなら、見分けがつかないと思うよ。よほどの鑑定眼がない限り‥‥」
優しく響の肩を叩き、クリスがコクンと頷いた。
「‥‥そうだな。俺も涙で枕を濡らすつもりはないからな」
そう言って響が青ざめた表情を浮かべて店を出る。
鶴の着ぐるみを身に纏った状態で‥‥。