●リプレイ本文
●お静
「本当に‥‥大丈夫なのでしょうか‥‥?」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、お静がボソリと呟いた。
風の噂で清十郎が見合いを嫌がっていると聞いたため、だんだん気まずい雰囲気になっている。
「その事なら任せてください。清十郎さんがマトモになるかは分かりませんが、お静さんが修道を研究されているのなら、何とかなるかもしれませんよ」
満面の笑みを浮かべながら、瀬戸喪(ea0443)がお静の肩を叩く。
ホッとした様子で溜息をつくお静。
喪の言葉で少しだけ元気になった。
「それに清十郎様が嫌がっているのは、お静様の見た目だけだから、そんなに心配する事はないわ。こんなに可愛い女の子を拒絶している清十郎様の気持ちは理解する事が出来ないけど‥‥」
お静のまわりを飛び回り、シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)がクスリと笑う。
彼女はとても可愛いため、清十郎の見合い相手でなければ、迷わず押し倒している所である。
「でも、どうすれば‥‥」
いまにも泣き出しそうな表情を浮かべ、お静が瞳をウルウルさせた。
「そこでシュテファーニさんの出番です。一時的なものですが、僕達に考えがありますので‥‥」
シュテファーニと顔を見合わせ、喪が含みのある笑みを浮かべる。
ふたりの作戦‥‥、それはイリュージョンを使った幻覚だ。
「それじゃ、私が‥‥その‥‥」
喪達からの説明を聞き、お静がダラリと汗を流す。
一瞬、脳裏を過ぎる危険なマッチョ。
‥‥お静の表情が真っ青だ。
「うん、ムキムキマッチョになるの♪」
さらりと答えるシュテファーニ。
「いやあああああああああああああああああああ」
途端にお静の口から悲鳴があがる。
「落ち着いてください。別に一生そのままの姿と言う訳ではありませんし、時間が経てば幻覚が解けます」
怯えるお静を慰めながら、喪が疲れた様子で溜息をつく。
お静が動揺しないように詳しく説明したつもりだが、いまいち言葉の意味が伝わっていなかったらしい。
「ほ、本当に‥‥信じていいんですか‥‥?」
身の危険を感じて後ろに下がり、お静がジロリとふたりを睨む。
「私達を信じてよ。悪いようにはしないから‥‥」
シュテファーニの言葉に、お静が少し考えてから頷いた。
●見合い
「い、嫌じゃああああ! わしは死んでも、おなごと見合いはしないのじゃあああああ!」
屋敷の柱にしがみつき、清十郎が首を振る。
お静との見合い会場になっている屋敷では、清十郎が最後の抵抗を試みて大声で泣き喚いているらしい。
「いまさら何を言っているんですか! 男らしくないですよ!」
そろそろ見合いの時間が近いため、山本建一(ea3891)が清十郎の足を引っ張った。
朝からこの調子なので健一もいい加減に慣れたのだが、清十郎の気持ちが変わりそうにないため困っている。
「見合いをしたら必ず付き合わなきゃならないっつーわけじゃないんだし、人生経験のひとつとして会うだけあってみりゃあいいだろ。毎回逃げてばっかりじゃ、男として情けないぞ!」
呆れた様子で清十郎を睨みつけ、リフィーティア・レリス(ea4927)が溜息をつく。
「彼女のためにも頑張りなさい。いきなりでは厳しいでしょうから友人からでも‥‥逃げる事は私が許しません」
清十郎が逃げようとしたため、建一が必要以上に警告する。
「於通様はお優しい方ですもの。その方が良かれと思って用意してくださった場ですわ。清十郎様にも、良い経験だと思いますの」
嫌がる清十郎を説得するため、大鳥春妃(eb3021)がボソリと呟いた。
「それに‥‥、男色であろうと、衆道であろうと、節操がなかろうと、たいした問題ではないのです。恋愛というものは、人それぞれだといいますもの。一番の問題は、於通様の厚意に対する誠意がない点ですわ!」
拳をギュッと握り締め、春妃が熱心に語って行く。
その隙に逃げ出そうとする清十郎。
すぐさま仲間達に捕まった。
「そこまで嫌がっているのなら‥‥、ちょっと可愛そうな気もするな。小野さんはマトモな恋愛を望んでいるようだけど、人の好みまでは変えられないし‥‥。俺‥‥情、移ってる? ははは‥‥」
乾いた笑いを響かせながら、一條北嵩(eb1415)が頬を掻く。
清十郎に同情しているのか、北嵩の口調も穏やかだ。
「‥‥逃げましたよ、しかもダッシュで‥‥」
逃げ出した清十郎を指差し、所所楽林檎(eb1555)が北嵩を睨む。
「こらっ! いまさら逃げるな、みっともないっ! 男だろ、シャキッとしろ、シャキッと!」
清十郎の首根っこを掴んだ後、田崎蘭(ea0264)がお静の待つ茶室に運んでいく。
「ここで無駄な抵抗をしても、於通の機嫌を損ねるだけだろ。このまま素直にお見合いするつもりなら何もしないけど、会わずに逃げる気ならサンレーザーを撃ってでも止めるからな」
清十郎の耳元に顔を近づけ、レリスが警告まじりに呟いた。
「う、恨むぞ、お前ら‥‥」
呪いの言葉を吐きながら、清十郎が柱にギュッとしがみつく。
「ひょっとして女難の相は、於通様の事でなく、お静様の事だったのでしょうか‥‥?」
苦笑いを浮かべながら、春妃が困った様子で汗を流す。
「なあ清十郎‥‥、自業自得だぜ? 強奪したり、売っ払ったり、脱出したり、逃げたり、色々と悪い事をやっただろ? 恋人が良く逃げないよなあと不思議に思うぞ。つーか、結局は愛されてんじゃん♪」
清十郎の肩を抱き、北嵩がうりゃっと肘でつつく。
「お約束の若い二人きりでゆっくり話の場面になったら、緊張の為か厠に行きたくなる振りして出てこい。逃げ防止の為に俺が厠まで同行するから‥‥、今日は帰れ。ただし、今後は二度と逃げるなよ。女性の艶絵を描けるように努力しろ。約束を守らなかったらお前の彼氏の住所をお静さんに教えちゃうぜ♪」
見合いで失敗しない漢のいろはが書いてある文を手渡し、北嵩が清十郎を見つめてコクンと頷いた。
「ふたりで何を相談していたのか知らないけど、入り口は一ヶ所しかないんだよ。窓から逃げようと考えても、あんたの身体じゃ通り抜ける事が出来ないだろうし、監視するにはもってこいの場所って事を忘れずにな」
含みのある笑みを浮かべ、蘭がふたりの肩をぽふりと叩く。
「一條さん‥‥、まさかあたしを騙す気じゃ‥‥」
ゆっくりと鞭を構え、林檎がジト目で北嵩を睨む。
何処か悲しそうな表情を浮かべ‥‥。
「ご、誤解だ、林檎さん。せ、清十郎、頑張れよ」
林檎の涙に胸をキュンとさせながら、北嵩が気まずい様子で首を振る。
これ以上、清十郎を助ける事は難しい。
「それじゃ、頑張ってくださいね」
むりやり清十郎を座布団に座らせ、林檎が小野於通(ez0029)を見つめて頷いた。
清十郎の目の舞うにはお静の姿。
「お‥‥、おおっ! 田吾作じゃないか。なんじゃ、どっきりか! わしゃあ、おなごと見合いするかと思ったぞ」
イリュージョンで姿の変わったお静を見つめ、清十郎が馴れ馴れしい態度を取る。
まるで恋人同士のように‥‥。
「それじゃ、後は若い者に任せましょうか」
含みのある笑みを浮かべ、於通が林檎達に合図を送る。
数分後‥‥、茶室から悲鳴が響く事を想定し‥‥。