●リプレイ本文
●清十郎
「‥‥オコジョと馬が合うからって、煩悩を捨てて‥‥恋人も捨てて江戸を離れられるとは思えないんだけどね、俺」
呆れた様子で溜息をつきながら、一條北嵩(eb1415)が清十郎の家にむかう。
清十郎の家には薄汚れた紙が何枚も張られており、『金返せ』『盗人野郎』『覚悟完了』などの文字が並んでいる。
保護者である小野於通(ez0029)に話を聞いてみたところ、『とうとうこの時が来たのね』と含みのある笑みを浮かべていた。
「嘘臭いな、あの男色絵師が無我の境地なんざあり得ねえ。於通さんは何か知っているようだったが、詳しい事は教えてくれなかったしなぁ‥‥」
於通に会った時の事を思い出し、伊達正和(ea0489)が腕を組む。
色々と引っかかる点はあるのだが、於通が話そうとしないため、謎は深まるばかりである。
「とにかく清十郎さんを捕まえておきましょう。放っておくと逃げそうですし‥‥」
匍匐前進で逃げ出そうとしていた清十郎を踏みつけ、瀬戸喪(ea0443)が縄を取り出し縛り上げ彼を見つめて微笑んだ。
「お前ら‥‥、俺を何だと思っている! 少しでも人の心があるのなら、俺を逃がしてやろうと思わないのか!」
納得のいかない表情を浮かべ、清十郎がブツブツと愚痴をこぼす。
「みんな、清十郎さんの事を思って、やっている事です♪ 文句を言ったらバチが当たってしまいますよ」
清十郎の肩にちょこんと座り、リュカ・リィズ(ea0957)がクスリと笑う。
彼の表情から『借金問題』が絡んでいる事が容易に想像する事が出来たが、このまま見逃したとしても於通に迷惑がかかると思ったため、リュカも気づいていないフリをする。
「とにかく大人しくしていろ。こうなったのもお前に原因があるんだぞ。於通さんの気持ちを察せ!」
於通の考えを理解し、北嵩が頭を抱えて溜息をつく。
清十郎の性格からして、江戸にいる限り真面目に絵を描く可能性が低いため、島流しにされて強制労働でもしていた方が、色々な意味で心を入れ替えるかも知れない。
「港に行く途中で馬鹿な真似をするんじゃないぞ。俺達だって手荒な真似はしたくないからな」
約束の場所にむかうため、、正和が強引に縄を引っ張りあげる。
「お前だったら‥‥許すのじゃ‥‥」
必要以上に唇を近づけ、清十郎が恥ずかしそうに頬を染めた。
‥‥どうやら彼に好意を持ったらしい。
「やめろ、気持ちが悪いっ! 俺にそっちに趣味はない!」
すぐさま清十郎を殴りつけ、正和が縄をズルズルと引っ張って行く。
「やろ、やめるのじゃ! 分かったから‥‥、わしが悪かったから‥‥! このままでは、顔が‥‥、股間が‥‥、あうううう‥‥」
大粒の涙を浮かべながら、清十郎が顔と股間を押さえて謝った。
よほど微妙な部分に直撃したのか、清十郎も必死なようだ。
「随分と可愛い声で鳴くんですねぇ‥‥。於通さんがいたら、どんなに悦んでいた事か‥‥。この場にいない事が悔やまれますね」
苦笑いを浮かべながら、喪が清十郎の頭を撫でた。
「ほらほら、早くしないと船が出ますよ」
自分の身体に巻きつけた鉢巻を握り締め、リュカが清十郎の首に巻きつける。
「げほっ、げほっ、苦しいのじゃ!」
青ざめた表情を浮かべながら、清十郎が激しく咳き込んだ。
「しばらく会えなくなるな。‥‥元気でやれよ」
色々な意味で清十郎を励まし、正和が爽やかな笑みを浮かべて肩を叩く。
清十郎は空ろな表情を浮かべ、正和達に連れられ港にむかう。
港にはガラの悪い連中が待っており、清十郎の胸倉を掴んで連れて行く。
「これで最後かも知れませんね。彼と会う事が出来るのは‥‥」
少し寂しそうな表情を浮かべ、喪が清十郎を見つめて両手を合わす。
「‥‥門出に涙は駄目だよな。頑張って来いよ清十郎! これは餞別代りだっ! 持って行け!」
うっすらと涙を浮かべ、北嵩が清十郎を抱きしめた。
「こ、これは‥‥」
北嵩から受け取った包みを開け、清十郎がハッとした表情を浮かべて汗を流す。
清十郎好みの漢汁が染み付いた至極の褌‥‥。
心に響く野郎声‥‥。
「煩悩を捨てる為の旅立ちだけど‥‥この位は大目に見て貰おうぜ」
‥‥北嵩の言葉に涙が出た。
「必ず帰ってくるのじゃ! その時は‥‥ううっ‥‥」
ボロボロと涙を流し、清十郎が北嵩に抱きつく。
本気で帰ってくる気があるのか、やけに気合が入っている。
「まだ江戸に戻ってきたら、今度は私の絵も描いてくださいね」
名残惜しそうに涙を浮かべ、リュカが大きく手を振った。
清十郎が再び帰って来る事を祈りつつ‥‥。
●親父
「見世物小屋の親父が妙な真似をしているらしいな。売り上げの持ち逃げ未遂に、ミンメイちゃん名義で借金未遂、それとセクハラ未遂‥‥だっけか? みんな俺が阻止しなきゃ、危ない事になっていたからな。‥‥二度ある事は三度あるって言うけど、仏の顔も三度までって言葉もあるし、恩を仇で返そうってんなら、それなりにそれなりの手を打たせて貰おうわないとな」
瞳をキュピーンと輝かせ、朝宮連十郎(ea0789)が指の関節を鳴らす。
見世物小屋の親父は連十郎に酒を飲まされ、ベロベロに酔ったところを縄で縛られ、猿轡を噛まされジタバタと暴れている。
「いや、借金取りに捕まって色々あったのは、なんとなく喪から聞いてはいたんだが‥‥。これでミンメイにとばっちりがいったら、今まで俺らがやってきたことが無駄になるしな‥‥。ちょっと調べさせてもらうぞ」
身体検査をするため、リフィーティア・レリス(ea4927)が親父を睨む。
「‥‥」
気まずい様子で視線を逸らし、見世物小屋の親父が汗を流す。
「やっぱりな。この財布は何かな? 随分と可愛らしい財布だが‥‥。おまえにそっちの趣味はないよな?」
親父の懐から出てきた財布を突きつけ、レリスが呆れた様子で溜息をつく。
財布の持ち主は‥‥ミンメイ。
数日前から彼女が探していたものだ。
「恩を仇で返すなんて‥‥最低ですね。同情する気にもなりません」
親父の懐をガサゴソと探り、神楽聖歌(ea5062)がジロリと睨む。
今度はミンメイ堂の権利書だ。
見世物小屋の親父は一気に借金を返すため、ミンメイから店の権利書を奪い、財布を奪ってトンズラするつもりでいたのだろう。
「そこまで落ちたか、馬鹿野郎! ごるびーが聞いたら、またハゲるぞ!」
親父の胸倉を掴み上げ、連十郎がいきなり怒鳴る。
ハゲという言葉に反応し、驚くごるびー。
ショックのあまり、アフロのカツラが吹っ飛んだ。
「それじゃ、船に連れて行くとするか。噂じゃ、離れ小島で強制労働だって話だけど、石を抱かされて江戸湾に沈められるよりマシだろ? きちんとお給金も貰えるようだし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、レリスが親父の背中を叩く。
親父は猿轡を噛まされているため、モゴモゴと言っているだけだが、意味としては『ふざけるな!』と叫んでいるような感じである。
「それが嫌なら奉行所です。ここまでヒドイ事をしたんですから、いまさら言い訳なんて聞きませんよ」
そう言って聖歌が見世物小屋の親父を引っ張り港にむかう。
ションボリとした表情を浮かべる親父を連れて‥‥。
●まとりょーしか
「まとりょーしか殿、旅立つのでござるか。寂しいでござるな。知り合ったばかりの人間について行くとは‥‥愛でござるの。‥‥となると、種族を超えた愛でござるか! 拙者、感動でござる。まとりょーしか殿、達者で暮らすでござるよ」
餞別代りに鶏肉や魚肉の入った包みを渡し、沖鷹又三郎(ea5927)がまとりょーしかに別れを告げる。
まとりょーしかは名残惜しそうな表情を浮かべ、又三郎に抱きつきホロリと涙を流す。
「拾われた先が悪かったとは言え、まとりょーしかさんの身の上、不憫でなりません。全ての命は、かけがいの無い物、とても死にそうに無い二人の事は、別として、愛らしい、まとりょーしかさんの命は、絶対に救わねば‥‥」
拳をギュッと握り締め、ルーラス・エルミナス(ea0282)が辺りを睨む。
船にはゴロツキ達が乗っており、つまらなそうな表情を浮かべて、キセルをぷかりとふかしている。
「妙に感じの悪い人達ですね。一体、何があったんですか?」
いまいち事態が飲み込めないため、大鳥春妃(eb3021)が首を傾げて呟いた。
清十郎達を更生させるための船にしては、やけに胡散臭い連中ばかりが乗っている。
「どうやら‥‥、借金取りのようですわね。清十郎と見世物小屋の主人は、約束を破ってばかりだったので、離れ小島に流され強制労働をする事になったようですわ。つまりまとりょーしかは人質代わり。このままふたりが来なければ、まとりょーしかの命はありませんよ。
シフールの竪琴を奏でながら、シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)が春妃に答えてメロディを歌う。
メロディの効果により、マッタリとした表情を浮かべるゴロツキ達。
少し眠くなって来たのか、大アクビまでしているようだ。
「もしもの場合は私がまとりょーしかさんを身受けします。もしもの事を考えて、60Gを用意してありますし‥‥。原因は二人の行動のようですが、まとりょーしかさんが巻き込まれるのは解せません」
真剣な表情を浮かべ、ルーラスがまとりょーしかを抱き上げる。
「‥‥そんな事があったんですか。確かに納得のいかない話ですね。まとりょーしか様は、何も関係がないのに‥‥」
まとりょーしかを見つめ、春妃が悲しげな表情を浮かべて呟いた。
ゴロツキ達もまとりょーしかにちょっかいを出すつもりはないようだが、清十郎達が約束を守るとは思えないため、色々な意味で心配である。
「それなら怖そうな方々とも仲良くしておいた方がいいでござる。彼らだって、まとりょーしか殿の事が分かれば、迂闊に妙な真似をしようとは思わないでござる」
満面の笑みを浮かべながら、又三郎がゴロツキ達に酒を注ぐ。
ゴロツキ達もまとりょーしかをどうにかするつもりはないため、清十郎達が船に乗った時点で何処かに逃がすつもりのようだ。
「‥‥ですが万一の場合には、まとりょーしか様をお連れして逃げ出さねばなりませんわね」
清十郎達が来るまで安心する事ができないため、春妃が冒険者達を呼び寄せボソリと呟く。
「その心配はないようですね。ふたりが‥‥来ました」
ホッとした表情を浮かべ、ルーラスが彼らを出迎えに行く。
ふたりともかなり落ち込んでいるが、自分の蒔いた種なので、あまり同情する気にはならない。
「これで、まとりょーしか様も自由ですわね。これからどうするおつもりですか?」
まとりょーしかの頭を撫でながら、シュテファーニが首を傾げて呟いた。
「一応、私の所で飼うつもりです」
ゆっくりと、まとりょーしかを抱き上げ、ルーラスがニコリと微笑んだ。
これで、まとりょーしかは本当の意味で自由となった。
「それならお祝いするでござる。まとりょーしかの新たな門出にっ!」
そう言って又三郎が仲間達と一緒に船から降りる。
‥‥今夜はミンメイ堂でお祝いだ。
まとりょーしかも何だか嬉しそうである。