●リプレイ本文
●温泉
「ごるび〜ちゃ〜ん☆ げんきですかぁ〜? 今回は温泉らしいですよ〜☆ 楽しみですねぇ〜♪」
ごるびーにきゅむっと抱きつき、ベル・ベル(ea0946)が温泉宿まで引っ張っていく。
温泉宿は依頼主の知り合いが経営しており、ごるびー達の姿に気づくと温泉の女将が満面の笑みを浮かべて出迎えた。
「今回の主役はごるびーって名前のカワウソなんですが‥‥極度のストレスで可哀想にハゲちゃいましてね。後で風呂掃除でもしますから、風呂に浸からせてもいいですか?」
すぐさまごるびーを抱きかかえ、一條北嵩(eb1415)がペコリと頭を下げる。
温泉の女将は小さく頷き、ごるびー達を動物用の温泉に案内した。
「それにしてもハゲたわね。流石に前回はやりすぎたかしら‥‥。でも、どちらかと言うと肝試しを後々まで引き摺るごるびーくんの肝っ玉が悪いのよ。とにかく久しぶりの温泉だし、楽しみながらごるびーくんの精神を再構築しましょうか」
ツルツルになったごるびーの頭を撫でながら、レオーネ・アズリアエル(ea3741)が脱衣場にむかう。
温泉はそれほど広くなかったが、猿達が利用している事もあり、ごるびーが浸かろうとしても温泉客から文句は出ない。
「うひゃ〜! ここって混浴なのか!? ‥‥みんな大胆だなぁ。こっちの方が緊張する‥‥。ど、どうしよう! でも、ごるびーと風呂入りたくて来たんだから‥‥失礼しまぁ〜す」
恥ずかしそうに手拭いで目を隠した後、北嵩が桶で前を隠すと緊張した様子で温泉に浸かる。
仲間達はごるびーの相手で夢中なため、北嵩が一緒に入っていても気にしていない。
「せっかくなので船を浮かべて遊びましょうか?」
ごるびーが乗るくらいに大きな船を用意し、志乃守乱雪(ea5557)が胸元を隠して温泉に浸かる。
一応、船には名前がついているのだが、大人の事情で口には出来ないものらしい。
「しかし、一緒に温泉って言うのも、久しぶりよね、ホント。では、ごるびーくんをお風呂にぱいるだーおーん!」
満面の笑みを浮かべながら、レオーネがごるびーを抱きかかえ、温泉の中にダイブする。
ごるびーはブクブクと沈んでいき、しばらくしたあとプッカリ浮かぶ。
「大丈夫ですか、ごるびーさん!」
ドザエモンと化したごるびーを助け上げ、乱雪がすぐさま甦生処置を施した。
ごるびーはグルグルと目を回し、口からぴゅーっと水を吐く。
「おぉ、ごるびーっ、会いたかったぞよっ!! 先頃、蒼天十矢隊も一時解散となったので暇でのぅ‥‥。久しぶりにごるびーの顔でも見に来たのじゃが‥‥。なんじゃひっくりかえって、わしじゃぞ、おい、聞いとるのか!?」
グッタリとした様子でごるびーを抱きあげ、馬場奈津(ea3899)が心配した様子でユサユサッと揺らす。
「落ち着いてください。そんな事をしたら、ごるびー君がまた逝きます‥‥」
ごるびーを奈津から受け取り、琴宮茜(ea2722)が岩場まで連れて行き、扇子を使ってパタパタ扇ぐ。
ごるびーは青ざめた表情を浮かべながら、手ぬぐいを抱きしめテクテクと洗い場にむかう。
「ごるびーちゃんと肌と肌とのおつきあいをするですよ〜☆ ごるび〜ちゃん、気持ちいいですか〜?」
嬉しそうにごるびーの後をついていき、ベルが自分の身体を擦りつける。
もわもわと泡まみれになりながら、ごるびーとベルがクスクス笑う。
ふたり(?)とも泡のせいで別の生き物になっている。
「‥‥俺は岩だ。温泉にある岩なんだ‥‥。何も見ていないし、下心なんて全く無いぞ‥‥」
気まずい様子で薄目を開け、北嵩がブツブツと呟く。
途中で気づかれても困るため、背景の一部として心を集中させながら‥‥。
「背後から物凄く妙な視線を感じてますが‥‥、気のせいという事にしておきます‥‥」
北嵩に聞こえるように大声を出し、茜が薄着になって奈津の身体をゴシゴシと洗う。
端から見ればまるで祖母と娘である。
「こうやってチビチビとやる月見酒もなかなかのものじゃなぁ‥‥。ん? おぬし‥‥、一体何を見ておるのじゃ!」
スルメを肴に酒を飲んでいる途中で北嵩に気づき、奈津が険しい表情を浮かべてライトニングアーマーを発動させた。
「ご、誤解だっ! それにそんなモン見たって‥‥うわあ!」
青ざめた表情を浮かべながら、北嵩が桶で股間を隠して慌てて逃げる。
「待てぇい! 逃がさぬぞ!」
殺意に満ちた表情を浮かべる奈津に追われ‥‥。
「自業自得‥‥というわけではなさそうですが‥‥、ご愁傷様です‥‥」
ある意味では被害者でもある北嵩に同情し、乱雪がなむなむと両手を合わす。
「何だかまわりが賑やかね。ふんふんふんふん♪ お客さーん、凝ってますねー。ほらっ、こんな所も‥‥。あ、それんちゃんも一緒にやる?」
ごるびーの身体をマッサージしながら、レオーネが一緒に来ていたそれんを呼ぶ。
それんは物陰から顔を出したまま、恥ずかしそうに小さくコクンと頷いた。
「二人とも、お似合いのカップルね。これからもお幸せに♪」
そう言ってレオーネが二匹の頭を優しく撫でる。
同じ時間に見世物小屋で事件が起っている事に気づかぬまま‥‥。
●温泉宿
「とうとう極限まできてしまったようね‥‥禿が‥‥。いっそキャラを変えてピカピッ‥‥、いえ、やめておくわ」
まわりから妙な視線を感じたため、陣内風音(ea0853)が口篭る。
仲間達が温泉で有意義な一時を過ごした後、風音達は女将の案内で奥の部屋に案内され、ごるびーを主役に宴会をする事となった。
「ごるびー‥‥、我々の予測を遥かに越えるヘタレ君になったなあ、やっぱ前回のトラウマか? まあ良い、今回は依頼人の金で豪遊して良いというすばらしい依頼だし細かい事は気にすまい。俺は食事に専念させてもらうかね」
河童と見紛うばかりに禿げたごるびーの頭を見つめ、龍深城 我斬(ea0031)が刺身の船盛りに手をつける。
「どんどんトラウマが増えるね〜カワウソ☆ やっぱり冒険者に毎回いじられているのが原因か? 今回の温泉旅行じゃ、一体どんなトラウマが増えるかな〜? んん〜、萌っちも悩むね〜。今回のトラウマ予想に〜♪ 例えば‥‥、1)温泉で溺れてトラウマ、2)肝心の頭には毛が生えずに、ヘンな方向から毛が生えてトラウマ、3)馬場のおばあちゃんのハダカで‥‥げふげふ‥‥かな♪ ま〜全身脱毛しても、それをネタに売り出せばいいんだよ〜。例えば『恐怖! 全身ツルっぱげカワウソ!!』とかね〜」
ごるびーの背中をぽふりと叩き、慧斗萌(eb0139)がケラケラと笑う。
萌が予想したうち一部が当たっているようだが、それがごるびーのトラウマになっている様子は無い。
「とにかく料理をご馳走になろう。悪い事ばかり考えていると、その通りになる場合が多いからな。特にごるびーと一緒にいる時は‥‥」
今までの出来事を思い出し、我斬がジロリとごるびーを睨む。
ごるびーは刺身の船盛りが気に入ったのか、中に入って大好物のイカを食べている。
「そうだよね〜。それでいつも失敗しているんだし‥‥」
髪の毛を結い上げ簪で飾り、風御飛沫(ea9272)が浴衣姿でニコリと笑う。
「あっ‥‥」
いつもと違う飛沫に驚き、我斬が胸をドキリッとさせた。
「ふふっ、驚いた? 女の子はちょっと手を加えれば、こんなに可愛く変わるんだぞ♪」
勝ち誇った様子で笑みを浮かべ、飛沫がえっへんと胸を張る。
「‥‥驚いたな。覚えておこう‥‥」
恥ずかしそうに頬を染め、我斬が視線を逸らして咳きをした。
「それじゃ、ごるびー君の頭をマッサージでもしようかな。伝説のマッサージ師『波・越徳』の指先を受け継ぐこのあたしがね♪」
枡酒を飲んでホロ酔い加減になりながら、風音がごるびーの頭をムニムニと揉む。
頭をマッサージされ、幸せそうな表情を浮かべるごるびー。
パートナーのそれんも面白がって頭を揉む。
「その間に俺達はご当地料理を戴くか。海産物主流なら、禿防止に海藻類なんていいんじゃないか」
イカとワカメを混ぜてごるびーの前に置き、我斬が鯛の御頭つきに舌鼓を打ちながら、のんびりとお茶を飲む。
「温泉卵とかも美味しそうだよね〜。あ、ごるびー君も一緒に食べる?」
温泉卵にごるびーが興味を持ったため、飛沫が器に移して手渡した。
ごるびーは温泉卵をちゅるっとすすり、ワカメとイカを一緒に食べる。
「それにしても驚きだよね。ケチで有名な見世物小屋の主人が、俺達を温泉宿に招待したんだから♪ 大雨にでもならなきゃいいけど‥‥」
冗談まじりに微笑みながら、萌が追加で酒を注文した。
しばらくして温泉の女将が現れ、一枚の紙切れを萌に渡す。
「あれ? これ、何? 誰かからの手紙かな? 何々‥‥、えっ? 嘘! 冗談でしょ?」
青ざめた表情を浮かべながら、萌がポトリと手紙を落として悲鳴をあげる。
「やっぱりこういう展開になるのね。‥‥予想はしていたけど」
落ちた手紙を拾い上げ、風音が疲れた様子で溜息をつく。
手紙には‥‥見世物小屋の主人が夜逃げした事が書かれてあった。
多額の借金を残したまま‥‥。