●リプレイ本文
●河童神社
「ミンメイちゃんと山でのデート、楽しみだぜ!」
上機嫌な様子で鼻歌を歌い、朝宮連十郎(ea0789)がミンメイの肩を抱く。
彼女以外は連十郎の視界に入っていないのか、自分のペースで山道をズンズンと登っている。
「ミンメイちゃんに会うのは今回が初めましてだね♪ お友達のリフィちゃんの代わりに来たんだよ、よろしくね☆」
元気よくミンメイと握手をかわし、白井鈴(ea4026)がニコリと微笑んだ。
「こ、こらっ! 俺以外はミンメイに触れちゃ駄目なんだぞ〜?」
ライバル意識をメラメラと燃やし、連十郎がミンメイを抱きしめ鈴を睨む。
「‥‥え? そうなの?」
キョトンとした表情を浮かべ、鈴が首を傾げて汗を流す。
別にミンメイを口説くつもりはないため、連十郎がどうして怒っているのか分からない。
「た、多分‥‥。い、いや、絶対に駄目だっ! 俺が決めたっ!」
ミンメイと顔を見合わせ考えた後、連十郎が自分自身に言い聞かせるようにして答えを返す。
「ご、ごめんね〜。これから気をつけておくよ」
怯えた表情を浮かべ、鈴がミンメイに後ろに避難した。
「い、いや、そこまで反省する必要はないんだが‥‥。ミンメイちゃんも何だか悲しそうな表情を浮かべているし‥‥。だ、駄目だっ! これじゃ、俺が悪党みたいになるだろ! みんなで仲良く山に登るぞっ!」
まわりの空気を感じ取り、連十郎が気まずく咳をする。
すべてはミンメイの顔色次第。
それが彼にとっての法であり正義だから‥‥。
「ところで鳴海さん、今から行く所は何を祭ってるのですか?」
供え物のきゅうりを握り締め、琴宮茜(ea2722)がボソリと呟いた。
「神社に奉られているのは、河童地蔵と呼ばれる有難いお地蔵様アル。色々とご利益があるらしいアルよ。何だか楽しみアルね♪」
瞳をランランと輝かせ、ミンメイが山頂にある神社を目指す。
「僧侶の自分が言うのもアレだが――折角なら、もっとご利益のありそうな神社にお参りに行った方が良いのではないか。山頂の神社なんて全く聞いた事がない‥‥。それなのにどうして山頂にある神社に決めたんだ?」
険しい表情を浮かべて腕を組み、阿武隈森(ea2657)がミンメイを睨む。
「‥‥なんとなくアル」
恥ずかしそうに頬を染め、ミンメイがさらりと答えを返す。
「ミンメイらしいな、その理由‥‥。まぁ、そういう穴場的な神社だからこそ、何か御利益があるのかも知れないし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、森が山頂の神社に辿りつく。
神社はしばらく人が訪れていなかったのか、大量の蜘蛛の巣にまみれて汚らしい。
「借金が一挙に返せた上、お礼参りに賽銭使えるようになるまでとは、良かったな、ミンメイ。‥‥しかし一体今までどの位払ってたんだ」
やけにミンメイの羽振りがいいため、鷹波穂狼(ea4141)が心配した様子で口を開く。
「えっと‥‥、このくらいアル‥‥」
悪徳商人に渡す予定のお金を取り出し、ミンメイがハッとした表情を浮かべて懐にしまう。
「店の売り上げが結構あったって訳か。本も売れてるようだしな。よっしゃ、ここらで神社仏閣にお礼参りしてゲンかつぎしなおし、ミンメイ書房設立の誓いを新たにしようぜ!」
全く気づいていないのか、穂狼がミンメイの肩を抱く。
「了解アル! 鬼は外ぉ〜♪ 福はうちぃ〜♪」
満面の笑みを浮かべながら、ミンメイが賽銭箱にお金を放り込んで行く。
「‥‥その賽銭ばら撒くお礼参りの仕方も間違っているよーな気もするが‥‥。まぁ、いいか。鬼は外ってか!」
ミンメイの真似をしながら、連十郎が大声で叫ぶ。
彼女の願いが叶うように‥‥。
「あ、あれ? きゅうりが何処にもないアルよ」
次の瞬間、ミンメイが青ざめた表情を浮かべて悲鳴を上げる。
神社にお供えするため持って来たきゅうりが何処にも見当たらない。
「‥‥おや? なんだか物音が聞こえませんか、ポリポリと‥‥」
警戒した様子で耳を澄まし、茜がバックパックの中を覗き込む。
「‥‥えっち‥‥」
腕いっぱいのきゅうりを抱え、柊鴇輪(ea5897)がボソリと呟いた。
「は、犯人は鴇輪さんアルね‥‥。お供え物のきゅうりを食べるとは、何と罰当たりな人アルか〜!」
こめかみをピクつかせ、ミンメイがハリセンを放つ。
「乙女の心‥‥傷ついた‥‥」
頭に大きなたんこぶが出来たため、鴇輪が大粒の涙を浮かべてきゅうりを落とす。
「これは貴重なきゅうりアル。食べちゃ駄目あるよ」
鴇輪の頭を撫でながら、ミンメイが大きな溜息をつく。
「河童明神ですか。では‥‥、五輪祭を早く再開してください‥‥」
神社にきゅうりを供えた後、茜がぽふぽふと拍手を打つ。
それと同時に河童地蔵の首が折れ、ポトリと落ちて転がった。
「‥‥あれ? 妙ですね」
何か不吉な予感を感じ、茜が河童地蔵の首を戻す。
河童地蔵は何も答えようとしないが、色々と頑張っているようである。
「この地蔵には何処か見覚えが‥‥。まさかこの地蔵のモデルになった河童とは‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、嵯峨野夕紀(ea2724)が地蔵の顔を見た、
気のせいか以前混浴温泉を覗きに来ていた河童の顔にソックリだ。
「捧げ物にきゅうり、という時点で一抹の不安を感じていたが‥‥、これは間違いなく河童だな」
河童地蔵の空に水をかけ、森が同情した様子で溜息をつく。
「‥‥にしてもマイナーな神社だねぇ。一体何だってこんな寂しい場所‥‥ん? 何かミンメイの様子が変だぜ。そういや怪しげな壷やら漬物石の話をしてたな。‥‥まさかミンメイ。また騙されそうになってるんじゃないだろうな!」
神社の蜘蛛の巣を払い除けている途中で、ミンメイの様子がおかしい事に気づいたため、穂狼がジト目で彼女を睨む。
「な、な、な、何の事アルか?」
あからさまに動揺し、ミンメイが気まずく視線を逸らす。
「‥‥また変な物に引っかかっているようね。まったく‥‥変に人が良い物だから、ころっと騙されちゃうのよね。‥‥ま、そこがミンメイちゃんの良い所でもあるんだけど‥‥」
大きな溜息をつきながら、郭梅花(ea0248)がミンメイの顔を見る。
ミンメイは多額の資金が戻ってきたため、悪徳商人の標的になっているらしい。
「最近は大したトラブルもないアルよ。お金だってきちんと管理しているアルから……」
やけにそわそわとした様子で、ミンメイがダラダラと汗を流す。
「はやや? ミンメイさん、また何かやったんですかぁ??」
お盆用に装飾したキュウリを備え、ベル・ベル(ea0946)がミンメイの頭上をふよふよとまわる。
「お金が出来たからといって、すぐ奮発しているようでは、また借金生活に逆戻りですよ‥‥」
あまりにもミンメイが動揺したため、夕紀が心配した様子でツッコミを入れた。
「やはり行商人サンと一時のアヴァンチュ〜ルというわけデスか‥‥。彼には病気の妻と腹を空かした7人の子供、そして‥‥私という愛人が居たのデス‥‥」
オヨオヨと涙を流しながら、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)が衝撃的な告白をする。
「お、驚きアル」
唖然とした表情を浮かべ、ミンメイがダラリと汗を流す。
一瞬、ラヴな場面を想像し、頬を真っ赤に染めている。
「‥‥つーか、また詐欺の予感? ‥‥こないだ店に来ていたあの行商人か? ミンメイちゃんと密会など許せん!」
物凄くアダルトな映像が脳入りを過ぎり、連十郎が怒りに拳を震わせた。
「人のいいミンメイを騙そうなんて、いい度胸ですね」
行商人に対して怒りを感じ、神楽聖歌(ea5062)が辺りを睨む。
「ご、誤解アル! ワタシは何も買っていないアルよ」
激しく首を横に振り、ミンメイが行商人との関係を否定する。
「‥‥嘘ね。絶対に買っているはずだから‥‥この様子だと」
納得のいかない表情を浮かべ、梅花がミンメイに詰め寄った。
「まぁ、落ち着け。まだ騙されていると決まったわけじゃない。ミンメイもやる事があるんだろ? 俺達が文句を言う前に行って来い」
興奮気味の梅花をなだめ、龍深城我斬(ea0031)が視線を逸らして腕を組む。
「か、感謝アル!」
我斬の両手を握りしめ、ミンメイがニコリと微笑んだ。
生活に困った行商人を助けるため‥‥。
‥‥我斬達に別れを告げた。
●行商人
「くっくっくっ、この連十郎眼はどんな山道だろうとミンメイちゃんの可愛いお尻を見失わないぜ!」
ミンメイの後をコッソリと尾行しながら、連十郎が瞳をキュピィーンと輝かせる。
彼女の尻は心のアルバムにバッチリと焼き付けてあるため、目を閉じるだけで鮮明な映像となって蘇ってくるらしい。
「しふしふですよ〜☆」
上空からミンメイの姿を確認しながら、ベルが上機嫌な様子でフワフワと飛んでいく。
いまいち何をしているのか分かってないが、何だか楽しそうなので一緒についてきているようだ。
「誰にも気付かれずコッソリと敵を倒すのは忍者として当たり前のコトだからね。ミンメイちゃんに悪い虫が付かないように追い払わないきゃ。せっかくリフィちゃんが女装してまで守ったお店がダメになっちゃうから‥‥」
使命感に燃えながら、鈴が茂みに身を隠す。
ミンメイは鈴達の存在に気づいていないのか、鼻歌まじりに草むらの中を進んで行く。
「みんなで行商人をお仕置きですネ。ヤプワも気合が入ってマス!」
墨で真っ黒になったヤプワを連れ、クロウが怪しくふふりっと笑う。
白毛が目立ってしまうため、ヤプワの毛は剃られて墨を塗られているのだが、茂みの中を移動している事もあり、やけに目立って仕方がない。
「‥‥尾行ってのは、相手のやや斜め左後方について行う物だってどっかで聞いた様な気がするが‥‥。クロウの場合、別の意味でやや斜め左後方に行ってるな‥‥」
同情した様子でヤプワを見つめ、我斬がダラリと汗を流す。
ヤプワは『いつもの事です』といわんばかりのような表情を浮かべ、澄んだ瞳で我斬の顔を見つめている。
「と、とにかくミンメイちゃんに売りつけたインチキ野郎をとっちめなきゃいけないよね! ヤプワちゃんも協力して!」
苦笑いを浮かべながら、梅花がヤプワの頭を撫でた。
ヤプワは口から魂が抜け出し、コクンと頷きグッタリする。
「どうやら眠ってしまったようですネ。‥‥可愛いヤツです」
あの世とこの世を行き来しているヤプワを抱き上げ、クロウが『お茶目さん』と言わんばかりにおでこをつつく。
「しふしふ〜、みんなで先回りするですよ〜☆」
上空から辺りをキョロキョロと見回し、ベルが近道のある方向を指差した。
「この先に‥‥、ミンメイ様を騙した者が‥‥」
茂みを掻き分け、夕紀が目的地を目指す。
「だ、誰だ、お前はっ!」
しばらくすると行商人らしき男が現れ、不意をつかれた様子で夕紀を睨む。
「てめえかっ! 俺のミンメイちゃんを騙した奴はっ!」
夕紀が答えを返すよりも先に連十郎が大声を上げ、行商人の胸倉を掴んでそのまま地面に押し倒す。
「や、やめろ! 俺は何もしちゃいないっ!」
激しく首を横に振り、行商人が両手をあげる。
よほど驚いていたのか、瞳には涙を浮かべ‥‥。
「まぁ、話だけは聞いてやろう。大体の想像はつくけどな。どーせ壷も二束三文の安物だろ?」
行商人を睨みつけ、我斬が疲れた様子で溜息をつく。
「病気の妻と腹を空かせた7人の子供がいるんだろ? 全部、調べさせてもらったぜ! あんたに妻なんていねぇ! しかも独身じゃねえか! この大嘘吐きがっ!」
不機嫌な表情を浮かべ、穂狼が拳を振り上げる。
「ま、待て! 話せば分かる!」
ガタガタと身体を震わせながら、行商人がその場に尻餅をつく。
「見苦しい真似は止めてください。これ以上罪を重ねるおつもりですか」
行商人が逃げようとしたため、聖歌が逃げ道を塞いで前に立つ。
「仕方ありませんネ。裏社会の掟に従って貴方を処刑するしかないでしょう。さよなら、お尻の安寧‥‥、死の宣告デス」
両手を合わせて合掌した後、人差し指だけ残して指を組み、クロウがヒートハンドで灼熱化した指を行商人の尻に突き刺した。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴を上げて泡を吐き、行商人が第2の故郷を失いゴロリと倒れる。
「何だか‥‥ちょっと‥‥幸せそう。ひょっとして‥‥目覚めた‥‥?」
行商人をマジマジと見つめ、鴇輪がボソリと呟いた。
「いっ、一体、何があったのアルか!」
目の前の惨状に驚き気絶しそうになりながら、ミンメイが信じられない様子でクロウを睨む。
「これは誤解だっ! ミンメイちゃん! えっと‥‥、つまりだなぁ‥‥」
動揺しているミンメイを落ち着かせるため、連十郎が色々と言い訳を考える。
「‥‥ミンメイ、紙は高価なんだろ、思い出せ! お前の夢はミンメイ書房設立だろうが! こんな所で無駄使いする金があるか! それに行商人の服を見ろ。‥‥良い布を使ってやがる。舞蘭度(ぶらんど)物だぜ!」
ミンメイの目を覚まさせるため、穂狼が行商人の胸倉を掴んで力任せに投げ飛ばす。
「そ、そんな事って‥‥」
青ざめた表情を浮かべて膝をつき、ミンメイが騙された事に気づく。
「素直な性格なのは、とってもいい事だけど、もうちょっと疑わないとダメだよー。まあ僕も人の事はあんまり言えないんだけど‥‥」
落ち込むミンメイを慰めながら、鈴が苦笑いを浮かべて肩を貸す。
「みんなお前が心配なんだ。これからは相談してくれよ。ほらっ! 落ち込んでないで、なんでもいいから、今の気持ちを大声で叫んでみろ! 胸がすうっとするからさっ!」
そう言って森がミンメイの背中を叩く。
少しでも彼女の悲しみが和らぐ事を願いつつ‥‥。