●リプレイ本文
●えりつぃん
「ごるび〜ちゃ〜ん! 会いたかったですよぉ〜☆」
ホッとした表情を浮かべながら、ベル・ベル(ea0946)がごるびーにきゅむっと抱きついた。
ごるびーがミンメイ堂に預けられてから、早数日。
目の前には、ぽっこりとした腹のごるびーがちょこんと立っている。
「はやや〜、妊娠ですか〜? ごるびージュニアの誕生ですよ〜♪」
驚いた様子で目を丸くさせ、ベルがごるびーの腹を撫でた。
ごるびーはオスなので、妊娠する事はないのだが、ベルは素直に喜んでいる。
「それは単なる肥満アル‥‥。お店で芸をしているせいか、お客サンからイカを貰って肥えたアル‥‥」
魂の抜けた表情を浮かべ、ミンメイが店の奥を指差した。
よく見れば店の奥にリボンのついたイカが大量に積んである。
「初めまして、ミンメイ殿。ごるびー殿の面倒をみているのでござったな。ごるびー殿になりかわって御礼を言うでござる。その上、ごるびー殿の心を思い仲間の様子を見る依頼を出すとは、ミンメイ殿は心優しい方でござるな。どうか末永くごるびー殿をお願いするでござるよ」
深々とミンメイに頭を下げ、沖鷹又三郎(ea5927)がごるびーの頭を撫で回す。
幸せそうな表情を浮かべ、又三郎に擦り寄る、ごるびー。
久しぶりに又三郎と会う事が出来たため、ごるびーも喜んでいるようだ。
「でもワタシじゃ、ごるびーちゃんと意思の疎通が出来ないアルよ。ごるびーちゃんが何を求めているのか、よく分かっていないアル」
苦笑いを浮かべながら、ミンメイが気まずく頬を掻く。
「‥‥心と心が通じ合えば必ず分かり合えるでござる。心配しなくても大丈夫でござるよ」
ミンメイの肩をぽふりと叩き、又三郎が優しく微笑んだ。
「とりあえず、ミンメイ様が借金取りに悩まされていないようで何よりです」
店の中で持っていかれている物がない事を確認し、嵯峨野夕紀(ea2724)がミンメイを見つめてボソリと呟いた。
「と、当然アル! みんなに監視‥‥じゃなかった見守ってもらっているアルから‥‥」
苦笑いを浮かべながら、ミンメイがダラリと汗を流す。
何度か詐欺に引っかかりそうになったのだが、店で働いている冒険者達に止められたため、色々と気まずい雰囲気が漂っている。
「とりあえず、えりつぃんのところにいって様子でも見てきましょうか。梅花様には遠く及びませんが、お土産に魚料理を作っておきましたので‥‥」
重箱に入った魚料理を風呂敷で包み、夕紀がミンメイ達と一緒にえりつぃんの働く見世物小屋に行く。
えりつぃんの新しい職場となった見世物小屋では、カワウソ以外にも珍しい動物が飼われており、お客の入りも悪くない。
「えりつぃん‥‥こっち‥‥」
クンクンと鼻をヒクつかせ、柊鴇輪(ea5897)が奥の控え室を指差した。
「よく分かるアルね?」
感心した様子で溜息を漏らし、ミンメイが控え室の中に入っていく。
「嗅いだ事のある‥‥におい‥‥」
部屋の隅で何やら文字を書いているカワウソを見つけ、鴇輪がミンメイ達と一緒に駆け寄った。
「何かお絵描きをしているんですかぁ〜?」
ベルの言葉に驚く、えりつぃん。
壁にはごるびー達の顔が描かれており、えりつぃんが恥ずかしそうに絵を隠す。
「やっぱり寂しかったのでござるな。えりつぃん殿に、お土産を持って来たでござるよ」
お土産に持ってきたイカと、ごるびー&まとりょーしか人形を置き、又三郎がえりつぃんの頭を撫でる。
えりつぃんは恥ずかしそうに頬を染め、コホンと咳払いしたあと二匹の人形を持っていく。
「かつてはごるびー殿へのイジメていた、えりつぃん殿もやっぱり仲間は仲間、離れると心配になるのでござるか」
ホッとした表情を浮かべ、又三郎がクスリと笑う。
「きゅ、きゅぅ、きゅー‥‥。きゅきゅっ」
まとりょーしか人形を操り、鴇輪がえりつぃんと遊ぶ。
「きゅー♪」
何だか楽しくなってのか、ごるびーもえりつぃん達の輪に入り、仲良く一緒に遊んでいる。
「仲間に入れて欲しいですよ〜」
羨ましいそうな表情を浮かべ、ベルがふよふよと飛んでいく。
‥‥帰り際。
えりつぃんは寂しそうにしていたが、出会った時とは違い、その表情には希望が満ち溢れていた。
●まとりょーしか
「おぉ、何故ごるびーがこんな所に!? しかも、以前にも増して綺麗に禿げ上がって‥‥!」
えりつぃんの働く見世物小屋から帰ってきたミンメイ達を迎え入れ、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)がごるびーを見つめて目を丸くする。
「こ、このハゲはウチに来た頃からあったアル! 実はごるびーちゃん、捨てカワウソだったアル‥‥」
苦笑いを浮かべながら、ミンメイがごるびーを抱き上げた。
しょんぼりとした表情を浮かべる、ごるびー。
「とりあえず捨ててない。少なくとも我々はごるびーを捨てたわけじゃないからな」
慌てて首を横に振り、龍深城我斬(ea0031)がミンメイに釘をさす。
「しかし、金に困って頼ってきた所がミンメイ堂か! ますます金に縁遠い所ではないか!? ごるびーよっ! 飼い主など当てにせず、自分の食い扶持くらいは何とか自分で稼ぐのだ! それが男の甲斐性と言う物だと我輩は思う!!」
くわっと表情を険しくさせ、ゴルドワがキッパリと断言する。
「とりあえず、まとりょーしかちゃんを探そうか。なんだか大変な事になっているようだし‥‥」
まとりょーしかを探すため、郭梅花(ea0248)が店の外を指差した。
「おおっ、そうだったな! ごるびーの友の様子を見に行かねば!」
手のひらをポンと叩き、ゴルドワが慌てて店を飛び出した。
「そう言ってもアテがないからなぁ‥‥。どこかで芸でもして稼いで自活してれば良いのだが‥‥。うおう、お前なんでそんな所で倒れてるんだ?」
酒場の前を通り過ぎようとした時に何かを踏み、我斬が驚いた様子で地面に倒れていたまとりょーしかを睨みつける。
まとりょーしかは清十郎と名乗る絵師が行きつけの酒場に倒れており、見世物小屋にいた頃の面影はほとんど残っていない。
「あーあー、すっかり痩せこけているな。‥‥ほら、烏賊でも食うか? ‥‥いや、ごるびーと違って好物ってわけじゃないんだっけ? 確かオコジョは肉食だから‥‥とりあえず干し肉をほ食わせてみるか」
干物状のようになった、まとりょーしかを抱き上げ、我斬が干し肉を食べさせようとした。
しかし、まとりょーしかは首を振り、ケホケホと激しく咳をする。
「どうやら病気になっているようだな。‥‥よろしいっ! ここは久々に鍋将軍の力を見せる時だな! そろそろ良い季節になってきたし、ここは一つ『野趣溢れまくりの山菜鍋』で行こう! 幸い、季節は秋! 我輩のランニングコースにも鍋に入れるに相応しい山菜やキノコが見られるようになってきておる! ぐわっはっはっは!」
豪快な笑みを浮かべながら、ゴルドワが懐から自慢の鍋を取り出した。
「ちょっ、ちょっと! ‥‥いきなり食べ物を与えてもお腹がびっくりしちゃうでしょ。こうやってゆっくりと栄養のある物を次第に与えていって、確実に元通りにしてあげないとね☆」
酒場に駆け込み重湯を用意し、梅花がまとりょーしかに飲ませる。
まとりょーしかはコクコクを喉を鳴らし、梅花の持ってきた重湯をすべて飲み干した。
「おっ、息を吹き返したようだな! これでしばらくは安心だな。とりあえずミンメイ堂に連れて行くか!」
まとりょーしかを抱きかかえ、ゴルドワがミンメイ堂に戻る。
しばらくは彼女の店で預かってもらうしかないようだ。
●主人
「ごるびーさんとミンメイさんに会うのは、しばらくぶりになりますかね。いつの間にかお店を出されていたんですね。ごるびーさんはいつの間にか職無し‥‥時の流れというものは早いものです」
しみじみとした表情を浮かべ、瀬戸喪(ea0443)が口を開く。
ごるびーはヨタヨタとしながら、お茶を喪に手渡すと、ぎこちなく頭を下げる。
「お、ごるびー久しぶりー。ミンメイちゃんに迷惑掛けるよーな事になったらどうなるか分かってるよな?」
新鮮なイカをごるびーに渡し、朝宮連十郎(ea0789)が笑顔を浮かべて警告した。
身体をカタカタと震わせ、頷くごるびー。
よほど連十郎が怖かったのか、足元に水溜りが出来ている。
「あれ? ごるびーちゃん? 連十郎が怖いアルか?」
心配した様子でごるびーを見つめ、ミンメイがボソリと呟いた。
「あ、ミンメイちゃん、心配要らないぜ! 俺とごるびーは仲良しだから♪ 嬉しさのあまり震えてるんだよな、ごるびー?」
すぐさまごるびーを抱き上げ、連十郎が怪しくニヤリと笑う。
「‥‥男同士の友情アルね♪ これからも仲良くアル!」
色々な意味で納得したのか、ミンメイが親指をグッと立てる。
「それじゃ、行方の分かった見世物小屋の主人を助けに行きましょうか。‥‥あまり時間もないようですし‥‥」
見世物小屋の主人がピンチであると噂を聞いていたため、琴宮茜(ea2722)が簡単な地図の書かれた布切れを持って店を出た。
「ミンメイちゃんの仕入れた情報によると、借金取りに捕まってるらしいな。放っておいてもいいが、ミンメイちゃんの所でごるびーを保護してるから、借金返済の矛先がこっちに向くかもしれん。ここはひとつ後腐れないよう始末してくるとすっかね」
どさくさに紛れてミンメイの頬にキスをした後、連十郎が上機嫌な様子で借金取りのいる屋敷にむかう。
「自業自得だと思いますけどねぇ。今まで動物を働かせて、自分は遊びほうけていたのですから‥‥」
クールな表情を浮かべながら、喪が呆れた様子で溜息をつく。
見世物小屋の売り上げが、それほど悪かったとは思えないため、本人に非があるのは間違いない。
「早くしないと本当に簀巻きにされて海に沈められた挙句、土左衛門になっているかも知れませんからね。‥‥その時は小さな墓でも立てて線香の一本でも焚きますか」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、茜が屋敷の前に立つ。
「さすがに見て見ぬフリは出来ないからな」
名乗りをあげて戸を叩き、阿武隈森(ea2657)が屋敷の中に入っていく。
この屋敷に住む取立て屋の中には、ミンメイを騙して借金を背負わせていた者もいるため、冒険者達の姿に気づくと殺気立った視線を放って木刀を握る。
「一応とはいえ、お世話になっていた人が死ぬというのは、後味の悪いものですからね。借金に関しては何も出来ないでしょうけど、少しずつ返していくとか方法はありそうですし‥‥」
まわりの目を気にしながら、茜が庭を通って屋敷の中に入っていく。
「なんだ、貴様らは‥‥。返答次第じゃ、ぶっ殺すぞ!」
不機嫌な表情を浮かべ、借金取りの源治が茜を睨む。
源治は最近この辺りで厳しい取り立てを繰り返し、一気に上まで伸し上がってきた大物だ。
「見世物小屋の主人がここにいるだろ? このまま金を返されないまま主人を海に沈めても、所詮は借金取りの面子が守られるだけだ。憂さは晴れるかも知れないが、肝心の金は一銭も返ってこない。それよりも、借金取りの目の届くところで働かせて、借金を返済させた方が良いのではないか」
源治の脅しにも屈せず、森がジロリと睨む。
「ちっ‥‥、つれて来い」
森の言葉に圧倒され、源治が主人を連れてくる。
「た、助けてくれ! お前らは俺に恩があるだろ! なっ!」
必死に身体をバタつかせ、見世物小屋の主人が涙を流す。
「やっぱり簀巻きにして棄てるだけなんて勿体ない気がしますねぇ‥‥。ああ、いえ別に何でもないんですよ‥‥何でも。もう少し拷問した方が良いとかそれくらいのことなので‥‥。棄ててしまったらそれまででしょう?
爽やかな笑みを浮かべながら、喪がキツイ台詞をさらりと言う。
「んな!?」
唖然とした表情を浮かべ、見世物小屋の主人が凍りつく。
「それに、ここまで借金が膨らんだのは女遊びのせいでしょう? いまさら後悔したって仕方ありませんよ」
呆れた様子で溜息をつきながら、茜が見世物小屋の主人を叱る。
「まあまあ、落ち着け。仮にもごるびーの主人だしな。このまま帰るってわけにも行かないだろ。‥‥それに暴行と殺人未遂をお上に密告されたくなければ、法外な利子はやめるんだな」
森の言葉に動揺する男達。
「ちっ、放してやれ。ただし、金はきちんと返してくれよ。逃げたら承知しないからな」
源治もチィッと舌打ちすると、見世物小屋の主人を解放する。
「分かっているさ。‥‥任せてくれ」
そう言って森が見世物小屋の主人をミンメイ堂に連れて行く。
借金を返すための仕事を彼に与えるため‥‥。