【南柯の夢】 三食昼寝/長崎行き

■キャンペーンシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:3 G 19 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月13日〜06月18日

リプレイ公開日:2006年05月21日

●オープニング(第1話リプレイ)

●出発
 この現し世は流水の曲線でできている。まずまずの好天気で、空は海の鏡のような、海は空の影絵のような、絵本そっくりに蒼く。
「いーいお天気」
 日射しをとりこむカヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)。体ができあがれば次は礼儀で、御挨拶をしましょうか、と、秀吉は――いる、向こうに。
 なんだか偉い人らしいけど(関白はわんぱくと似てる←どうでもいい)、ふつうになのればいいよね。ツヴァイはそこらへんあまり悩まない――懊悩どころは他。
「ギルドの人って僕のことどう紹介してんだろう」
 まさか『蚊帳・津倍菜阿都』とか、『茅・椿稲津』も植物っぽくて捨てがたいぞ?
「やだっ。せめてひらがなでかわいらしく‥‥かわいいのはダメなんだってばーっ。男らしいなかにも一抹の侘び寂びをーっ」
 そりゃすでに人間のしゃべる言語じゃねぇ。すると真神美鈴(ea3567)が、包みを抱きながら近付いて、
「冒険者名簿? なら私がギルドからあずかってきたよ。おつかい大好き☆」
「見せてっ」

『○▽□×‥‥(以下同文)』

「なに、これ」
「忍びいろはー♪」
 私が清書したんだよ。美鈴、これでも伊賀忍らしく(それ、きみつじこーじゃ?)――ってあんたどこの世界に忍びいろはを堂々とさらす忍びがおるんだ、ここにいるんだけど。ツヴァイはしげしげと一面を見やる。
「で、どうやって読むの?」
「読めません☆ だって、暗号だもん。暗号ってのは、誰にも読めないものなんだよ」
 美鈴、層一層ずずいっと胸、それどこ?を、をものすごくあるがごとく見せかける。いや、書いた本人ぐらいは読めな意味ないやろが、と常識は付加しておく。
 すると、一部始終を見ていたフェネック・ローキドール(ea1605)、
「私が書き改めましょうか?」
 と、羽根ペンをつらつら移して、早速できあがるもの。

『〜〜〜(もはや文章におこすことすら不可能)』

「アラビア語です」
 読めるわけがありません。
 時空ををかけて多岐にわたる言語をおさめたツヴァイ、しかしそれでもまにあわないことってある、ジ・アースって奥深い「うわああん(狂化寸前)」はからずも挫折におちいった一幕。

●船上
 なにがあるのかしら? わくどき宝物探訪ー♪
 船腹にもぐってすぐ佐々宮鈴奈(ea5517)がしたこと。あの、秀吉の船なんだから、水母の骨、優曇華の花とまではいかねど、すごく珍しいものがあるのじゃないかな、と。しかし積み荷はわりに少なく、それはまぁ十人もの冒険者に追加してるのだから、どこかを差し引かねば。
「残念ねぇ」
 せめて小物ぐらいは、と、思ったところ、どうしてか衝立がぬっと目先をふさぐ。これはめずらしいなぁ、と――だって衝立なんておいても高が知れているだろうに、ふと横へずらせば、
「きゃあん。えっちー☆」
 昏倒勇花(ea9275)。鈴菜とおなじ巫女服をはらりとしどけなくさせて、あらわな上半身を肉感的にくねらせる。
 緋邑嵐天丸(ea0861)との水泳勝負のためのお着替え中だった、とは、あとから教えられた。
 鈴奈は神話のごとき静寂ののち、おもむろに浄化の聖光を射かけて、あとはもう後ろ向き、すたすたすた、ひたすらまっすぐまっすぐ、たったの一度も見返らず。
 でも、昏倒さんならまだよかったかも、と思う鈴奈もいる。
「湯田さんが毛生え薬をためしてる場面に遭遇したら、目もあてられなかったわ」
「待てこら。人の出番のまえに、何をする」
 湯田鎖雷(ea0109)、初登場第一位(何が)。

「よっ」
 短い威勢をふるって、蛟静吾(ea6269)の放る釣り竿の糸の軌跡、帚星のように落下して海面の内側に帰する。あとはもう落葉松の突っ立つように待つだけ。静吾、亀の子といっしょ、甲羅干ししながら光が陰へやつすのを、それを過程という、藤豊秀吉がうしろから立ち見する。
「ほぅ、釣りか」
「秀吉公もいかがです?」
「遠慮しておこうかのぅ」
 しなれぬことに手を出して海へ落ちてもいかんからのう――と云うので、静吾は首肯し、
 海。
 漣。
 水はいつも一介の水であることを守る、人のように雑踏へ惑うことはしなくて――魚はまだ釣れない。静吾はゆるゆる棹を律動させる。
「公は、今の世情をどう見られます?」
「ふむ、五条の宮殿が手を尽くしておられるようじゃし、京の今後は安泰じゃろな」
「‥‥それは京の世相でしょう?」
 静吾の口調がいささか強くなったのは、秀吉の発言がすげかえであると気づいたからで。京は首府であり、その世柄は重要だが、しかし挙国のことではない。静吾が求知するのはその先だ。
「東国は家康殿の治むるところじゃしのぅ、わしがどうこういっても仕方あるまい」
「では、秀吉公は我々が発つ直前に、新撰組の拠点に五条の宮卿の兵が押しかけたとお聞きには?」
 切っ先を替えたのはアラン・ハリファックス(ea4295)、黒豹のように大きな男は、その上背をも抜ける長柄の槍を両腕にかいこむ。
「そんなこともあったかのう」
「ありました」
「ちがうな」
 秀吉は、にんまり、と、
「攻め入ったのは五条の宮の『私兵』ではない。見廻組とその手兵じゃろ? つまり京都守護としての働きじゃ。わしごときが守護代に口出ししては、却って失礼にあたる」
 ――つまり、知っている、と。
 多数の言質から、アランはそれのみを取り出す。死骸から心臓を引き抜くように。彼が東海でよく流布されているという長柄槍を、知っているだろうか、と見せると、承知、とあっさり。
「そりゃわしの義務じゃからな」
 軍師を用いたからといって、それに任せきりの諸侯がどうして信じられよう? そんなふうな言い回し。
 質問は質問を呼ぶようで、高槻笙(ea2751)も秀吉に尋ねる。彼が知りたかったのは西国の実態、力関係、しかし秀吉は一言、ぴしゃりと、
「ぬし、わしの云うことを信じるつもりか?」
 ひやり、とした。
 笙、志士として堂々と出で立ちの、秀吉はそれに比べれば猿のような壮年なのに、ひどく重く気圧された。
「毛利も島津も血気に逸るところがあるようじゃが、彼等なりのお家の勝手があるんじゃろ」
 緞帳のあけるように語られる、秀吉の弁はありきたりの、静吾でも知るような長崎のあれこれ。笙は知った。これはよっぽどでないと純正を吐かぬ男だ、と。
「わしもものを尋ねたいんじゃが、きゃつら、」
 秀吉が指を付けたのは、海上。嵐天丸と、勇花。差しつ抑えつ泳法を競い合っている。兜率にくぼむ日輪に似た赤褌ひらめかせる、嵐天丸が一馬身抜けて、しかし、すなおにはゆかず体を返した。
「秘技・水中ばーすとあたっく!」「きゃあっ。乙女の乳房をねらいうちするなんて卑怯よお。せっかく巻いた手ぬぐいが、とれちゃったじゃない」「どこに房があるんだ、房が! それに、これくらいは戦法のうち!」
「のぅ。おくれてないか?」
 万が一のときに命綱はつけてるんだけど、競泳が水中格闘戦に様変わりしたせいで、ともづなもだんだんとゆるみかけている。このままでは置いてかれること必死、「秘技・海の女神の抱擁!(めきめき)」「ちょ、たんま。みょうなとこにみょうなもん押しつけんなよーっ」みたいに。分かりません。
「捕ってきます」
 笙が投網をひろげ、静吾が棹を振りなおし、撒き餌代わりにつかったのは純白の下帯。捕れるんかい。


 捕れたらしいよ。


●酒宴
 あまり深い夜さりはできないので、月と星の健やかなうち。名も知らぬ浜辺に係留して、可惜夜。
「お刺身はいりまーす」
 ど、ど、ど、そんなかんじに、美鈴、大皿をいちどきに一枚と一枚持ち運ぶ。魚はむろん静吾がひっかけたばかりのを捌いたので。美鈴は、ぺろり、と一切れをすなわち彼女の口内に。
「ん。お魚大好き☆」
「くおら、勝手になにしてる」
「はいはーい。やー、盛り上がってるねー」
 どれくらい煉獄だったかは省くとして、対岸の火事を決め込むものもいる。
 フェネックはひとり静かに水飲みをかたむけていた、海ではより尊い真水だ。月光にぬるくなったそれは甘露にはほど遠かったが、発声器官にはなおなつく。いっぺんには空けずひやひや流し込んでいると、嵐天丸がひょいと顔見せする。
「酒呑む?」
「私にはこちらのほうが合ってますから」
 返事の声はずいぶん低まった。空知らぬ雨のよう。
「じゃ、欲しくなったらいつでも云ってくれよ」
 嵐天丸がわやわやと駆け出す先は鎖雷がいて、目が行き合うから、フェネックが目礼をささげれば鎖雷の頬はほんのり赤らむが、じつのところ彼の腹はもっと赤い。嵐天丸の描いたへのへのもへじ。
「では、湯田鎖雷、隠しゲイご披露いたしまーすっ」
「そうだ、なんで長崎にもギルドが必要だって思ったの?」
 視点はいきなり切り替わる。秀吉にツヴァイがずずっと詰め寄っていた。
「もしかしてさぁ。公には出来ない事を僕らを使って調べたり出来るから?」
「うんにゃ。安い値段で漫談披露してくれると、もっぱらの評判じゃからの」
 こけた、ツヴァイ。
「はい! お次はもへじ君とわたくしが手に手を取って、木の実をわってみせましょう!」
 否定できない。生き証人があんなところに。
「‥‥じゃ、僕も」
 ツヴァイ、地の魔力は不可視の鞭を打ち、ぽーんともへじ君の飼い主を転ばせる。
 サイコキネシス。それ、芸じゃない。
「ゲイか?」
「鎖雷さん、水に落とすよ?」
「いっやああーっ。それだけは!」
 もはやサドというより佐渡おけさな、鎖雷。

 そういう夜は誰某もが寝がたいのか、鈴奈はふわんと点った頬を冷まそうと、海辺をそぞろに回流する。
 ――おもしろかったな。
 嵐天丸さんが茶壺みたいな容れ物に酒を下拵えしてきたけど、秀吉様には案の定ことわられて、でも私は一口いただくことにしたの。だって嵐天丸さんがあんまり必死で、捨て身で、『ほら、滅多に拝めない味だぜ? それとも、俺が毒でも入れてると疑うのかよ?』上目遣いがなんだかかわいかったから(でもいくら若造だからって私のこと「いきおくれ」っていったら、世界の果てまで、殺シキル)。でも、私が舌を付けるまえに勇花さんが「あら、私もちょうだい」って、
『勇花、たっぷりご奉仕しまーす』
 ――最終的に、勇花さんが気持ちよく脱ぎまくってました、と。
 禁断の壺って、おもしろいものが世の中にはあるのね。
「でも、昼よりはマシかしら」
 さすが巫女様、悟りがはやい。
 鈴奈が一歩を踏み出せば、かぁん、かぁん、と瑞山にひびくような鳴動。遠目には端倪しにくいが、アランと静吾で、彼等は互いに棒をつかって、打ち合っている。引きせめぎ突き戻すたび、雷火がさらさら散り乱れる。
 ふと目線を換えれば、フェネックが動物たちにささやきかけるのは、月の魔力、メロディー、フェネックの目のゆきとどかないところで鎖雷が動物係の自分はフェネックに声をかけるべきかとはらはらする、そのまたうしろ、何故か筆をにぎる嵐天丸がにひひと笑み曲ぐ。分かった、鎖雷さんの隙を突いていたずらしようとしてるんでしょ。ほんと、男の子ってしかたがないわ。
「でも、私は寝ちゃお」

●長崎
「上陸!」
「かすていら!」
 嵐天丸が肩にのせた鷹の子よりかろく着地すれば、鎖雷も負けじとつづき、旅の疲れなどどこ吹く風。
 されど五日。顔馴染みとなった船員たちと、しばしの別れを告げて、笙が馬や荷を下ろす手伝いに専念していると、一組の少女と青年が彼等に寄る。
「わたしは滞在のあいだ、皆様方のお世話を勤めさせていただく、相馬屋のぬいです。こちらは、」
 洋装を着込む少女が、隣の、いかにも武士然とした青年を案内する。
「周布政之助と申す。藤豊殿に急ぎ伝えたい用事がござったのだが」
「秀吉様ですか?」
 帰着のきっかけがずれたのか、いまだ上陸のきざしのない幾人かに、秀吉もふくまれている。笙がぐるりと首をめぐらせると、
「たいへんーーっ」
 慌てふためくツヴァイがさしだした、白布。
「これ見て。しららが拾ってきたの」
「それ‥‥嵐天丸さんたちの餌‥‥」
「違う。裏を返して」
 云うとおりにしてみれば、文字列が、

『秀吉とその仲間はあずかった。返して欲しければ(以降、判読不能)』

「非常識な犯人ですね。下着にしたためなくてもよろしいでしょうに」
「つっこむところはそこじゃなーいっ」
「ただいまー」
 かすてら一番の本能で嵐天丸より一足早く、小判を得点した鎖雷の帰巣、抜き打ちに増えた人員をいぶかしんでいると笙が耳打ち、こそりと。
「周布政之助様だそうです」
「周布?」
 鎖雷の顰みがゆがむ。
「お知り合いですか?」
「長州藩のえらい人だって聞いたことがあるような」
 だが、笙は鎖雷に止める目をすぅと細める。
「いえ、周布様は鎖雷さんとはまったく別種のお人ですよ」
「なに?」
「長州藩の毛ない人、でしょう? 周布様は、ほら、ふさふさ」
「今、俺のなかに生まれた熱情を、殺意と読ぼう」
 いや、そんなおもしろいことはあとまわしにして。周布が厳しい眼を、冒険者らにそそぐ。
 降ってわいた変事。周布に知られれば、同行の冒険者の不手際を責められるかもしれぬ。長州藩の彼には伝えるべきか、晦ますべきか、そもそもこの事件は――‥‥。

 アラン、これでよかったのかな、と。
「付いてこい」
 秀吉がじきじきの采配をアランに振ったので、そのとおりにした。命の下ったのはアランだけだが、従ったのはひとりではなく、鈴奈と――、
「‥‥ん。ここは、どこかしら?」
「長崎じゃ」
 鈴菜は目を覚ました。しかしそこが長崎だという手当たりはわかず、なんなれば、荷を休ませるような屋内だったから。鈴菜だけでなく、勇花、美鈴が綿々起き上がる。
「なに?」
「誘拐じゃよ」
「ゆーかいっ!?」
 勇花は前あわせをかきいだく、
「いやっ、私を○○して××して、口では言えない(略)」
「すごいねぇ。秀吉様の誘拐って一大犯罪だね。これを解決したら、私たち有名人になれるかな?」
 里長にも褒めてもらえるかな? 内定する側がかどわかされるなんて前代未聞だねー、と、あどけなく笑む美鈴。
 秀吉は「そうじゃな」と首をふって、
「これを平和的に解決してみぃ」
 アランに向き直り、
「‥‥つまり」
「これは、狂言誘拐じゃ。わし掠われたことにしてあるんじゃ」
「俺は‥‥」
「そ。だから誘ったんじゃよ」
 おぬしの風情、犯人役にぴったりだったから。――それだけでもないが、な。
 アランはそれほどの間抜けではない。昏睡の同士を運ばされたときに、なんらかの異変は悟っていたのだ。けれど、ここまでつい付き従ったのは、報酬と、それ以上の芳香に酔わされたからで――秘密。
「繰り返す。これを見事、解決してみぃ。したらば長崎での、おぬしがのぞむような査察の手配をしちゃる」
 でも、下手なことやったら首とばすから。
 アランは――実に困ったことに――胸底の泉から、ふつふつと愉快が湧くのを抑えられなかったのである。

●今回の参加者

 ea0109 湯田 鎖雷(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0861 緋邑 嵐天丸(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3567 真神 美鈴(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5517 佐々宮 鈴奈(35歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●直後
「これが‥‥」
 きりりと白い褌をかかげて、高槻笙(ea2751)、しかしいざまともにこうしてみると、発狂しそうだ。長崎に来てまで真っ先にとりくむのが男の下着である人生、哀しいを通り越し、無性に呪いたい。
「それ、ぜってー変」
 すると緋邑嵐天丸(ea0861)、ぬぅっと横合いから顔貌をさし、
「脅迫文をこんな中途半端に、しかもふんどしって、まともな頭ならやんねぇよな?」
 もっともらしく切り出すさまなぞ、さぞ自分は常識人であるというふうが嵐天丸の態度だが、まぁたしかに。笙も目新しい傍証はないものかと下帯くるりと返し、そこへ鼻歌が――‥‥、
「めひん♪ めひひん♪ めひひひひん♪ あたまかくして♪ しりからぷぅ♪」
 何故、この場で、それ。
 ひんやりと、四辺をたゆとう殺意。愛馬めひひひひん、をくしけずっていた湯田鎖雷(ea0109)、険悪の集まるところが自分と勘付くと、そこだけはねらってくれるなと後ろ頭を大事にしながら主張することに、
「俺にいい考えがある! ちびすけに追跡させるんだ」
 笙からうばい、ボーダーコリーの「南蛮ちびすけ焼菓子風味」に押しつけるようにする、と、たぁんと空転、いぬころは目玉をぐるぐるしてばったり笑点もとい昇天。
「‥‥緋邑さん。こちらの按検はつつしんで、おまかせします」
「ぜったい、やだ」

 それより以前、少しさかのぼる。周布政之助と名告る武士へ、笙は周到な会釈しながら己の名を告げ、
「これはたいへんな御無礼をつかまつりました。では、周布様と秀吉の関係はいかような?」
 周布政之助は困惑したか、太い眉をしかめると、
「某は長州藩に属する武士であり、藩主の名代で参っただけだ。どのような用件であるかは藩主直々の下命により、貴殿らには告げられぬ」
「俺の記憶はあたりだな?」
 藩主直々、ということは下位ではなかろう――鎖雷がこそと耳打ちしたのはあいかわらず笙で、彼に代えて周布へ面談をこころみたのはフェネック・ローキドール(ea1605)である。三日月を剥いたような青い瞳を流して、フェネック、いちおう冒険者の総意をたしかめようと、蛟静吾(ea6269)をはじめ冒険者らがこくりとうなずく中、異質がひとり。
「俺の馬鹿! どうして男の流し目に照れなきゃいけないんだ!」
「湯田さん、そういうことは心の中でだけ思っててください」
 驚くなかれ! これこそ、敵の目をあざむく策略で!
 嘘だけど。
「秀吉様は間者の目からのがれるため、『他の仲間』と共に別口で長崎へ入国されます」
 こっちこそが本命の策略、静吾がとうとう茶色く育った亀の子を大事そうにかかえながら、周布に打ち明ける。――の、あいだに、フェネック、物陰に身を寄せる。彼女(鎖雷が暴れたように、おもてむきは「彼」であるけれども)の月魔法により、ひっそりと水面下で現実を知らせる、それが策略で、しかし教えられる定量の少なさ。
 秀吉と彼等の同士が、長崎についてまもなくくらましたこと。犯行声明をはじめ、ほうぼうに怪訝の多いこと。
 周布は冒険者らの共通の思想――ひとまず騒ぎ立てたくはない――を尊重するおもむきをみせる。こんなところで突っ立っていてもしかたがないというので、皆、相馬屋ぬいの紹介する宿屋へ移ろうとして、手前、笙、はたと思い至った。
「ぬいさんには、どうしましょう」
「おなごに心配をかけてもしかたあるまい」
 と周布が云うので、引き揚げる道すがら。「ねね、フェネックさん」カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)、間合いをはからって花色の吟遊詩人に話し掛ければ、
「ツヴァイ負けない! 目にもとまらぬ早業で、もうアラビア語おぼえちゃったもんね!」
 すると、フェネック、きょとんとしながら。
「シフール共通語は?」
「え、」
「近頃では、コロポックル語というものも使われているそうです。どちらも文字はもたないそうですが」
「‥‥えーと、」
「それから、ジャパンには河童なる方々も‥‥」
「うわあん」
 ツヴァイ脱兎し、誰か教えてあげれ、河童語はとりたててないから安心していいよって。

●誘拐
「えいっ」
 女心は冬の風のようにめまぐるしく、張り詰めながら、ぽきんと折りやすく。
 アラン・ハリファックス(ea4295)の向こう脛、佐々宮鈴奈(ea5517)はしこたま蹴り上げると、唐紅の袴を揺さぶりながらその場を退出する――その寸前、くるんといったん振り向けば、御膳上等のあかんべぇをアランに向けて、再び戦場の勇士のようにざくざくと御拾いへ。残されたアランは、猫科めく彫りの深い顔立ちに、紛らす苦笑浮かべて。
「嫌われちまったかな」
 アランと鈴奈は話をこじらせてしまい、――怒らせるつもりはなかったんだがな。真神美鈴(ea3567)はぺたりとしゃがむと、アランのそこへてのひらをかぶせた。
「痛いの痛いの飛んでけ〜☆」
「乙女心は繊細で複雑なのよ」
 むろん自分も、といわんばかり、昏倒勇花(ea9275)、筋で鎧う大柄をよろめかせる。打ち見ながら、アラン、ふと遠い気持ちになったものだ。俺はもしかして女装に呪われているのではないか、と、安心していい、祝われているだけ。
 突然の椿事、「わーい。お仕事大好き☆」な美鈴はともかく、鈴奈に勇花は当然のことながら不機嫌をおぼえた。勇花、身は肉肉しい四十二のむくつけき殿御、本人だけがそのことを見ないようにしている、が、技術にはたしかなおぼえがある。それをこんなにたやすく、しかし秀吉が云うには、
「趣味だけでもないぞ? こんばっと越後は酔い潰れとったし、佐々宮殿もほんのり酔い気味だったろ」
「でも私はやっぱり納得できません」
 とは鈴奈、何も知らず右往左往しているだろう仲間のところに戻って、これが狂言誘拐であることを触れたい――をあきらかにすると、それは仕方あるまい、と、秀吉、こころよく送り出すそぶりを見せるだけでなく、
「ほれ」
「え、手切れ金?」
 待て、手切れ金もらえるような関係を結んだ記憶があるのか。鈴奈もその事実に気がつき、ほんのり頬染めて、以下はじめに戻る。
「‥‥あたしは残るわ」
 勇花、決めた。おそらく秀吉はこの誘拐をつかって西国諸藩のながれをはかる胸算用だろう、ならば自分は「せっかくだから俺は秀吉様を亡き者にするぜ!」を「わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!」にするため、あわよくば「ねんがんの ○○ を てに いれたぞ!」をやるため。
「私もがんばるよー」
 と、美鈴。何故なら、彼女の任務は関白を守ること――ではなく「伊賀に疑いがかからぬ様」何かあれば彼を守り、より先に死ぬこと「だからっ☆」力いっぱい誇らしく、言い切る。って宣言したら、それ、なんにも意味なくなるから。
「じゃあ、俺のつかいを頼まれてくれるか」
「ほいさっさ」
 市女笠に礼服を二そろえずつ――資金はこれまた秀吉の懐から――アランから書き付けを受け取ったかとおもえば、美鈴、駆け出すことに。いわゆる忍法の「疾走の術」を、だから町中で堂々と忍法をあばく忍びがどこの世界におるねんーっ(どんがらがっしゃん)。が、アラン、そこまで忍びというものを知らぬから、美鈴が出てくのをみとどけて、あとはぷかりと束の間の休息。
「腹くくってゆくか」
 チャーム専門剣舞士、蒼穹楽団トップスター、その他省略の呼び名にかけても。どこをどうとっても事犯の解決に寄与するとおもえないのが、いさぎよい。

●錯綜
「ね、かすていら組と金銭餅組に分かれるってのは?」
 ツヴァイが提案すると、はい、はい、と、立候補相次ぐ。
「俺、かすていら」「俺も!」
 すさまじく己に忠実な人々。探索班が二つに分かれようとしたとき、自然ひとりしかいない周布と、彼といっしょにならない人々に分かれることとなり、まずは後者。
「私は港へ戻ろうと思うのですよ」
 とは、笙、船中で顔馴染みになった人々に、事件における懸念を晴らすため、今一度会話を試みるつもりである。がんばってね、と、ツヴァイ、彼の心は決まっている。
「じゃ、僕そのあいだ長崎名物食べに行こうっと。おなかすいちゃったー」
「俺も」
 そして、鎖雷。己に忠実すぎる人々。
 残りのからすみだか、周布と同行することとなった静吾、周布をあらためて見やる。己のそう変わらぬ年頃の、大大名である毛利氏の治むる長州藩でそれなりのもの、そう認識すると腹がむずがゆくなる。――やっかみ、だとは思いたくない。と、そんな伝心したのか周布が何気なしにかたむけた目に、静吾は負けじ魂を決めた。試されるのなら試されよう、しかしそれは自分が彼を試すのだ、と。
「な、あんた強いの?」
 臆面もなく、嵐天丸が尋ねる。さぁ、と曖昧な返答に、待ってました、とばかり、嵐天丸、これまでのやり場のなかった苛つき気分なぞどこ吹く風で、たぎる予感に、
「じゃ、俺と手合わせすっか!」
「歩きながら‥‥か?」
 それから、フェネック。フェネックはとりたてて周布と歩きたかったわけではない。ただ、なんとなく、鎖雷といっしょにいたくなかった。鎖雷は周布を監視したかったようだが、フェネックが周布に付くのを知ると言い訳めきながらすぅっと離れて――、
「ざまぁみろ、です」
 つるぺたと云われたことを怒ってるわけではない。自分は男装しているのだから。らしくない言詞を使いこなしたことに、なぜかしら、罪悪感のようなものを冷たく感じた。

 しかし、鎖雷ときたら、
「湯田さんじゃない」
 長崎の繁華をすこぅし外れて、丸山、という地名がある。そこにおいしいカステラ屋があると聞きつけ行ってみたところ、ひょっこり思案橋でめぐりあったのは、鈴奈。
「ちょうどいいわ。いっしょに歩いてくれない?」
「そりゃ、このへんは‥‥」
 江戸の吉原、京の島原と並び称される、長崎の丸山。丸山の女郎は、着倒れの京すらかなわぬ、衣装のきらびやかさ。巫女装束をまとう鈴奈、少々風変わりな女郎のひとりぐらいにあつかわれること、しばしばで。
「ね、おねがい」
 ざらり、と、硬貨をいっぱいに詰めた革袋、
「秀吉様からせしめてきたの。お腹いっぱい食べられるわよー?」
 こんな魅力的な条件をもちだされて、人は断れるだろうか、否や。
「‥‥‥‥」
 さて、ここに突然わりこんできた謎の人影とは、
「じゃじゃーん。ふふふ、新畑・ツヴァ三郎の目はごまかせない!」
 茅・椿稲津(名前、また増えましたね)、サンワードにグリーンワードを駆使しての「ずばり、本気で探索」の挙げ句があんた何を調べてますか。
「だって鎖雷さん、ひとりだけでいいとこ行こうとしてるし」
 何事も中途半端はよくない。やるならとことん、愉快さを追求するんだ、ツヴァイ、うきうきした足取りでふたりを付ける。

『さて、秀吉の身柄が欲しくば、まず次の手紙まで其処を動くな。更に、これから出す要求を全て呑め。ただし、要求は今そちらにいる者のみで達成せよ。また、その場の者以外誰にも口外するべからず。さもなくば(略)』
 そして、Byアラン♂ ♂までしっかりいただきなさい、ぜんぶ。
「シフール便は頼んできてくれたか?」
「うん。完璧☆」
 美鈴、疾走の術で見知らぬ街をかけずりまわったあげく、屋台を引き倒し、謝罪に大分時間をとられた果て、辿り着いたのがそもそもずいぶん時間遅れであったことを、アラン、知らない。「そうか」と納得し、美鈴から女物の服を受け取って、これを秀吉や自分に着せて偽装にしようと、
「さぁ、秀吉様。出発しますか」
「ここでいいじゃろ、なかなか快適じゃぞ」
「えぇ、あたしのおかげで!」
 勇花、血涙。彼がどうやって無聊をなぐさめてたかといえば「世界の半分をお前にやろう」ごっこ、祝われてるなぁ(笑顔)。まぁ、とにかく「次にあずける文は‥‥」とアラン、慣れぬ習字に一苦労。
『ひとつ良い事を教えてやろう。俺は穏健路線の長崎を良しとしない薩摩長州一派のある一人の武士に雇われた者だ』
「お、よい出来」
「でも、なにか物足りないわねぇ。お花は、どう?」
「私は、忍びいろはー♪」
 確実にひびいってる、緊迫感。

 探索は数刻ごとに宿に帰り、顔合わせすることにしていた。そしてフェネックが見たのは、鎖雷と――
「佐々宮さん?」
「久し振り☆」
 鈴奈。相馬屋ぬいの連れ立ったときにはいなかったはずの彼女、まるでずっと前からの上客のように、そこにおちついている。
「留守にしちゃって、ごめんなさい。ふたりで丸山に行ってたの」
「ちょっと待て」おちつけフェネックはイスパニア人だ丸山がどうかなんて絶対に分かりっこない
「そうですか‥‥丸山へ‥‥」
 ものすごく知ってそうな雰囲気ーっ。
「おい、これは誤解で!」
「誤解じゃないよ、ふたりで仲良かったよ」
 ツヴァイ、横やり。なんならサンワードで証言もしちゃうよ、と、だめ押し。目の裏まで凍らしそうに青い、フェネックの双眼。彼女は荷をまとめると、宿の裏手へまわる。今宵は、満月だ。はぁぁ、と、静吾、世界の終末に掠う悪風のような吐息をついた。
「これは僕にもムリです」
 かっか来た仲間がいたら抑えてやれれば、と、思っていたけれど、この手の厄介は範囲外だ。鈴奈はおそるおそる鎖雷を見返す。
「‥‥悪いことしちゃった?」
「それより、誘拐のほうはっ!?」
「あ、それなんだけど――」
「――なんだよ、狂言だってか?」
 むす、と、嵐天丸。見ればようやく届けられたアランからの通信も二枚ほど、と、ふぃっと最後の一枚がまるで見計らったように窓から投げ込まれる、シフール飛脚が跡をつけられないよう細工した結果で、嵐天丸は知らず飛翔のははきを握った手、いったんとりはずした。
「だいじょうぶ、待ちましょ。それより、ここはお台所借りられるのかしら?」
 ほうとう鍋、を作るのだ。そのために鎖雷に荷物持ちをさせてまでしたのだし、鈴奈は宿のなかをめぐったが、しかしぬいはおらず、そのころ――‥‥。

「お待ちしておりました」
 移動した秀吉らをある屋敷で出迎えた彼女は、ぬい、という。相馬屋の、ぬい。秀吉、アラン以外にも協力者は用意していた。それには置いてけぼりにした冒険者らとも通じ、武士より自由な商人の立場にある彼女が都合がいい。けれど、彼女の正体に気付かぬアラン、律義に挨拶する。
「とりあえず、最後の文を支度するか」
 あとはここまでの略図だけ。とうとうこの重荷から解放されるのだ、が、ぬいと一言二言会話を交わした秀吉、アランのほうにさぞおもしろげな顔貌をして近付く。
「のぅ、アラン殿。ぬしの思案が的中したようだぞ」
 『前』京都守護代、五条の宮、謀叛。
「さすがに、わしも京へ向かわねばならんのぅ。のぅ、どうせなら五条の宮に負けず劣らず、派手な仕舞いをつけてみんか?」
 所詮、この世は動転流転、なにがあってもおかしくはない。しかし、せめてもう少しぐらい俺に断りをいれろ、と、アラン、ちょっと思う。