【南柯の夢】 三食昼寝/長崎行き

■キャンペーンシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:3 G 19 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月27日〜07月02日

リプレイ公開日:2006年06月05日

●オープニング(第2話リプレイ)

●直後
「これが‥‥」
 きりりと白い褌をかかげて、高槻笙(ea2751)、しかしいざまともにこうしてみると、発狂しそうだ。長崎に来てまで真っ先にとりくむのが男の下着である人生、哀しいを通り越し、無性に呪いたい。
「それ、ぜってー変」
 すると緋邑嵐天丸(ea0861)、ぬぅっと横合いから顔貌をさし、
「脅迫文をこんな中途半端に、しかもふんどしって、まともな頭ならやんねぇよな?」
 もっともらしく切り出すさまなぞ、さぞ自分は常識人であるというふうが嵐天丸の態度だが、まぁたしかに。笙も目新しい傍証はないものかと下帯くるりと返し、そこへ鼻歌が――‥‥、
「めひん♪ めひひん♪ めひひひひん♪ あたまかくして♪ しりからぷぅ♪」
 何故、この場で、それ。
 ひんやりと、四辺をたゆとう殺意。愛馬めひひひひん、をくしけずっていた湯田鎖雷(ea0109)、険悪の集まるところが自分と勘付くと、そこだけはねらってくれるなと後ろ頭を大事にしながら主張することに、
「俺にいい考えがある! ちびすけに追跡させるんだ」
 笙からうばい、ボーダーコリーの「南蛮ちびすけ焼菓子風味」に押しつけるようにする、と、たぁんと空転、いぬころは目玉をぐるぐるしてばったり笑点もとい昇天。
「‥‥緋邑さん。こちらの按検はつつしんで、おまかせします」
「ぜったい、やだ」

 それより以前、少しさかのぼる。周布政之助と名告る武士へ、笙は周到な会釈しながら己の名を告げ、
「これはたいへんな御無礼をつかまつりました。では、周布様と秀吉の関係はいかような?」
 周布政之助は困惑したか、太い眉をしかめると、
「某は長州藩に属する武士であり、藩主の名代で参っただけだ。どのような用件であるかは藩主直々の下命により、貴殿らには告げられぬ」
「俺の記憶はあたりだな?」
 藩主直々、ということは下位ではなかろう――鎖雷がこそと耳打ちしたのはあいかわらず笙で、彼に代えて周布へ面談をこころみたのはフェネック・ローキドール(ea1605)である。三日月を剥いたような青い瞳を流して、フェネック、いちおう冒険者の総意をたしかめようと、蛟静吾(ea6269)をはじめ冒険者らがこくりとうなずく中、異質がひとり。
「俺の馬鹿! どうして男の流し目に照れなきゃいけないんだ!」
「湯田さん、そういうことは心の中でだけ思っててください」
 驚くなかれ! これこそ、敵の目をあざむく策略で!
 嘘だけど。
「秀吉様は間者の目からのがれるため、『他の仲間』と共に別口で長崎へ入国されます」
 こっちこそが本命の策略、静吾がとうとう茶色く育った亀の子を大事そうにかかえながら、周布に打ち明ける。――の、あいだに、フェネック、物陰に身を寄せる。彼女(鎖雷が暴れたように、おもてむきは「彼」であるけれども)の月魔法により、ひっそりと水面下で現実を知らせる、それが策略で、しかし教えられる定量の少なさ。
 秀吉と彼等の同士が、長崎についてまもなくくらましたこと。犯行声明をはじめ、ほうぼうに怪訝の多いこと。
 周布は冒険者らの共通の思想――ひとまず騒ぎ立てたくはない――を尊重するおもむきをみせる。こんなところで突っ立っていてもしかたがないというので、皆、相馬屋ぬいの紹介する宿屋へ移ろうとして、手前、笙、はたと思い至った。
「ぬいさんには、どうしましょう」
「おなごに心配をかけてもしかたあるまい」
 と周布が云うので、引き揚げる道すがら。「ねね、フェネックさん」カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)、間合いをはからって花色の吟遊詩人に話し掛ければ、
「ツヴァイ負けない! 目にもとまらぬ早業で、もうアラビア語おぼえちゃったもんね!」
 すると、フェネック、きょとんとしながら。
「シフール共通語は?」
「え、」
「近頃では、コロポックル語というものも使われているそうです。どちらも文字はもたないそうですが」
「‥‥えーと、」
「それから、ジャパンには河童なる方々も‥‥」
「うわあん」
 ツヴァイ脱兎し、誰か教えてあげれ、河童語はとりたててないから安心していいよって。

●誘拐
「えいっ」
 女心は冬の風のようにめまぐるしく、張り詰めながら、ぽきんと折りやすく。
 アラン・ハリファックス(ea4295)の向こう脛、佐々宮鈴奈(ea5517)はしこたま蹴り上げると、唐紅の袴を揺さぶりながらその場を退出する――その寸前、くるんといったん振り向けば、御膳上等のあかんべぇをアランに向けて、再び戦場の勇士のようにざくざくと御拾いへ。残されたアランは、猫科めく彫りの深い顔立ちに、紛らす苦笑浮かべて。
「嫌われちまったかな」
 アランと鈴奈は話をこじらせてしまい、――怒らせるつもりはなかったんだがな。真神美鈴(ea3567)はぺたりとしゃがむと、アランのそこへてのひらをかぶせた。
「痛いの痛いの飛んでけ〜☆」
「乙女心は繊細で複雑なのよ」
 むろん自分も、といわんばかり、昏倒勇花(ea9275)、筋で鎧う大柄をよろめかせる。打ち見ながら、アラン、ふと遠い気持ちになったものだ。俺はもしかして女装に呪われているのではないか、と、安心していい、祝われているだけ。
 突然の椿事、「わーい。お仕事大好き☆」な美鈴はともかく、鈴奈に勇花は当然のことながら不機嫌をおぼえた。勇花、身は肉肉しい四十二のむくつけき殿御、本人だけがそのことを見ないようにしている、が、技術にはたしかなおぼえがある。それをこんなにたやすく、しかし秀吉が云うには、
「趣味だけでもないぞ? こんばっと越後は酔い潰れとったし、佐々宮殿もほんのり酔い気味だったろ」
「でも私はやっぱり納得できません」
 とは鈴奈、何も知らず右往左往しているだろう仲間のところに戻って、これが狂言誘拐であることを触れたい――をあきらかにすると、それは仕方あるまい、と、秀吉、こころよく送り出すそぶりを見せるだけでなく、
「ほれ」
「え、手切れ金?」
 待て、手切れ金もらえるような関係を結んだ記憶があるのか。鈴奈もその事実に気がつき、ほんのり頬染めて、以下はじめに戻る。
「‥‥あたしは残るわ」
 勇花、決めた。おそらく秀吉はこの誘拐をつかって西国諸藩のながれをはかる胸算用だろう、ならば自分は「せっかくだから俺は秀吉様を亡き者にするぜ!」を「わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!」にするため、あわよくば「ねんがんの ○○ を てに いれたぞ!」をやるため。
「私もがんばるよー」
 と、美鈴。何故なら、彼女の任務は関白を守ること――ではなく「伊賀に疑いがかからぬ様」何かあれば彼を守り、より先に死ぬこと「だからっ☆」力いっぱい誇らしく、言い切る。って宣言したら、それ、なんにも意味なくなるから。
「じゃあ、俺のつかいを頼まれてくれるか」
「ほいさっさ」
 市女笠に礼服を二そろえずつ――資金はこれまた秀吉の懐から――アランから書き付けを受け取ったかとおもえば、美鈴、駆け出すことに。いわゆる忍法の「疾走の術」を、だから町中で堂々と忍法をあばく忍びがどこの世界におるねんーっ(どんがらがっしゃん)。が、アラン、そこまで忍びというものを知らぬから、美鈴が出てくのをみとどけて、あとはぷかりと束の間の休息。
「腹くくってゆくか」
 チャーム専門剣舞士、蒼穹楽団トップスター、その他省略の呼び名にかけても。どこをどうとっても事犯の解決に寄与するとおもえないのが、いさぎよい。

●錯綜
「ね、かすていら組と金銭餅組に分かれるってのは?」
 ツヴァイが提案すると、はい、はい、と、立候補相次ぐ。
「俺、かすていら」「俺も!」
 すさまじく己に忠実な人々。探索班が二つに分かれようとしたとき、自然ひとりしかいない周布と、彼といっしょにならない人々に分かれることとなり、まずは後者。
「私は港へ戻ろうと思うのですよ」
 とは、笙、船中で顔馴染みになった人々に、事件における懸念を晴らすため、今一度会話を試みるつもりである。がんばってね、と、ツヴァイ、彼の心は決まっている。
「じゃ、僕そのあいだ長崎名物食べに行こうっと。おなかすいちゃったー」
「俺も」
 そして、鎖雷。己に忠実すぎる人々。
 残りのからすみだか、周布と同行することとなった静吾、周布をあらためて見やる。己のそう変わらぬ年頃の、大大名である毛利氏の治むる長州藩でそれなりのもの、そう認識すると腹がむずがゆくなる。――やっかみ、だとは思いたくない。と、そんな伝心したのか周布が何気なしにかたむけた目に、静吾は負けじ魂を決めた。試されるのなら試されよう、しかしそれは自分が彼を試すのだ、と。
「な、あんた強いの?」
 臆面もなく、嵐天丸が尋ねる。さぁ、と曖昧な返答に、待ってました、とばかり、嵐天丸、これまでのやり場のなかった苛つき気分なぞどこ吹く風で、たぎる予感に、
「じゃ、俺と手合わせすっか!」
「歩きながら‥‥か?」
 それから、フェネック。フェネックはとりたてて周布と歩きたかったわけではない。ただ、なんとなく、鎖雷といっしょにいたくなかった。鎖雷は周布を監視したかったようだが、フェネックが周布に付くのを知ると言い訳めきながらすぅっと離れて――、
「ざまぁみろ、です」
 つるぺたと云われたことを怒ってるわけではない。自分は男装しているのだから。らしくない言詞を使いこなしたことに、なぜかしら、罪悪感のようなものを冷たく感じた。

 しかし、鎖雷ときたら、
「湯田さんじゃない」
 長崎の繁華をすこぅし外れて、丸山、という地名がある。そこにおいしいカステラ屋があると聞きつけ行ってみたところ、ひょっこり思案橋でめぐりあったのは、鈴奈。
「ちょうどいいわ。いっしょに歩いてくれない?」
「そりゃ、このへんは‥‥」
 江戸の吉原、京の島原と並び称される、長崎の丸山。丸山の女郎は、着倒れの京すらかなわぬ、衣装のきらびやかさ。巫女装束をまとう鈴奈、少々風変わりな女郎のひとりぐらいにあつかわれること、しばしばで。
「ね、おねがい」
 ざらり、と、硬貨をいっぱいに詰めた革袋、
「秀吉様からせしめてきたの。お腹いっぱい食べられるわよー?」
 こんな魅力的な条件をもちだされて、人は断れるだろうか、否や。
「‥‥‥‥」
 さて、ここに突然わりこんできた謎の人影とは、
「じゃじゃーん。ふふふ、新畑・ツヴァ三郎の目はごまかせない!」
 茅・椿稲津(名前、また増えましたね)、サンワードにグリーンワードを駆使しての「ずばり、本気で探索」の挙げ句があんた何を調べてますか。
「だって鎖雷さん、ひとりだけでいいとこ行こうとしてるし」
 何事も中途半端はよくない。やるならとことん、愉快さを追求するんだ、ツヴァイ、うきうきした足取りでふたりを付ける。

『さて、秀吉の身柄が欲しくば、まず次の手紙まで其処を動くな。更に、これから出す要求を全て呑め。ただし、要求は今そちらにいる者のみで達成せよ。また、その場の者以外誰にも口外するべからず。さもなくば(略)』
 そして、Byアラン♂ ♂までしっかりいただきなさい、ぜんぶ。
「シフール便は頼んできてくれたか?」
「うん。完璧☆」
 美鈴、疾走の術で見知らぬ街をかけずりまわったあげく、屋台を引き倒し、謝罪に大分時間をとられた果て、辿り着いたのがそもそもずいぶん時間遅れであったことを、アラン、知らない。「そうか」と納得し、美鈴から女物の服を受け取って、これを秀吉や自分に着せて偽装にしようと、
「さぁ、秀吉様。出発しますか」
「ここでいいじゃろ、なかなか快適じゃぞ」
「えぇ、あたしのおかげで!」
 勇花、血涙。彼がどうやって無聊をなぐさめてたかといえば「世界の半分をお前にやろう」ごっこ、祝われてるなぁ(笑顔)。まぁ、とにかく「次にあずける文は‥‥」とアラン、慣れぬ習字に一苦労。
『ひとつ良い事を教えてやろう。俺は穏健路線の長崎を良しとしない薩摩長州一派のある一人の武士に雇われた者だ』
「お、よい出来」
「でも、なにか物足りないわねぇ。お花は、どう?」
「私は、忍びいろはー♪」
 確実にひびいってる、緊迫感。

 探索は数刻ごとに宿に帰り、顔合わせすることにしていた。そしてフェネックが見たのは、鎖雷と――
「佐々宮さん?」
「久し振り☆」
 鈴奈。相馬屋ぬいの連れ立ったときにはいなかったはずの彼女、まるでずっと前からの上客のように、そこにおちついている。
「留守にしちゃって、ごめんなさい。ふたりで丸山に行ってたの」
「ちょっと待て」おちつけフェネックはイスパニア人だ丸山がどうかなんて絶対に分かりっこない
「そうですか‥‥丸山へ‥‥」
 ものすごく知ってそうな雰囲気ーっ。
「おい、これは誤解で!」
「誤解じゃないよ、ふたりで仲良かったよ」
 ツヴァイ、横やり。なんならサンワードで証言もしちゃうよ、と、だめ押し。目の裏まで凍らしそうに青い、フェネックの双眼。彼女は荷をまとめると、宿の裏手へまわる。今宵は、満月だ。はぁぁ、と、静吾、世界の終末に掠う悪風のような吐息をついた。
「これは僕にもムリです」
 かっか来た仲間がいたら抑えてやれれば、と、思っていたけれど、この手の厄介は範囲外だ。鈴奈はおそるおそる鎖雷を見返す。
「‥‥悪いことしちゃった?」
「それより、誘拐のほうはっ!?」
「あ、それなんだけど――」
「――なんだよ、狂言だってか?」
 むす、と、嵐天丸。見ればようやく届けられたアランからの通信も二枚ほど、と、ふぃっと最後の一枚がまるで見計らったように窓から投げ込まれる、シフール飛脚が跡をつけられないよう細工した結果で、嵐天丸は知らず飛翔のははきを握った手、いったんとりはずした。
「だいじょうぶ、待ちましょ。それより、ここはお台所借りられるのかしら?」
 ほうとう鍋、を作るのだ。そのために鎖雷に荷物持ちをさせてまでしたのだし、鈴奈は宿のなかをめぐったが、しかしぬいはおらず、そのころ――‥‥。

「お待ちしておりました」
 移動した秀吉らをある屋敷で出迎えた彼女は、ぬい、という。相馬屋の、ぬい。秀吉、アラン以外にも協力者は用意していた。それには置いてけぼりにした冒険者らとも通じ、武士より自由な商人の立場にある彼女が都合がいい。けれど、彼女の正体に気付かぬアラン、律義に挨拶する。
「とりあえず、最後の文を支度するか」
 あとはここまでの略図だけ。とうとうこの重荷から解放されるのだ、が、ぬいと一言二言会話を交わした秀吉、アランのほうにさぞおもしろげな顔貌をして近付く。
「のぅ、アラン殿。ぬしの思案が的中したようだぞ」
 『前』京都守護代、五条の宮、謀叛。
「さすがに、わしも京へ向かわねばならんのぅ。のぅ、どうせなら五条の宮に負けず劣らず、派手な仕舞いをつけてみんか?」
 所詮、この世は動転流転、なにがあってもおかしくはない。しかし、せめてもう少しぐらい俺に断りをいれろ、と、アラン、ちょっと思う。

●今回の参加者

 ea0109 湯田 鎖雷(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0861 緋邑 嵐天丸(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3567 真神 美鈴(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5517 佐々宮 鈴奈(35歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●最後の長崎
 以前、九州の中核は大宰府であった。けれど今、かつての政庁は思い起こすもの少なく、それほど近年の長崎の発展はすさまじい。
 たしか秀吉の始めの文句「長崎にもギルドが欲しい」だった、が、ギルドを興したとして依頼する側の供給はあるだろうか、そんなにも長崎はおっとりとして。たとえば軍備。江戸や京都のより小作りな、ではない、確実に零細だ。質は、いい。が、間近に迫った危難を想定して、とは、どうも違う。
 ダザイフってワイフと似てるな(そうか?)、と、いちおうは妻帯者のアラン・ハリファックス(ea4295)、つくねんと長崎の街を歩く。今、見てきたものを考える。
「『傭兵』が必要な場とは思えんな」
 傭兵、であるアランだから、そう決まりをつけずにおられない。
 ――では何故、秀吉は自分へ声をかけたのだろうか。
 アランと共に視察に見舞ったフェネック・ローキドール(ea1605)は頬に風があたるほど間近によぎる轟音に――箱馬車だ。お姫様でも乗っていそうな愛らしい馬車が揺られて、今日はこれで三度めの遭遇。そんな長崎の静穏を食い破るものがいるとするなら、
「抹茶味制覇! では、ちょっと冒険のチーズ味を探しに縦横無尽ー!」
 アレ、湯田鎖雷(ea0109)のかすていら探し。いや、きっと、江戸や京では学び尽くせぬ海外の妙、身をもって体感しようと――「かすていらしか見当たりませんが‥‥」そのとおりだ、フェネック。しかし、鎖雷、あるところできゅっと一旦停止。すなわち、唖然と見守る冒険者らの手前。
「おう、アランさん。今日も生え際元気かー?」
「ハハハ。ヨク似タ他人ダヨ」
「アランさん、別人格です」
「湯田さんと別れたのは、正解でした」
 と、高槻笙(ea2751)、彼もまたアランの連れ、買いたてのかすていらをかじりつつ。買い食いはちと御行儀わるいのだけども、今日までいろいろ我慢したのだから勘弁してもらおう。
 寸暇も惜しい、と、去る鎖雷に入れ替わりあらわれるはカヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)。
「見てー、おみやげー♪」
 ほぅら、とひろげてみせる。まずは木刀「定番だね、それから」ぴらりとたなびく三角旗、御丁寧にも藤豊秀吉の似顔絵刺繍入り。長崎って、バカ?(←謝れ、長崎の人に謝れ)。
「秀吉さんの評判っていいねー」
「あ、」
 ツヴァイ、笙の抱えるのから勝手にちぎり、口へと運ぶ。
 弥栄の都市。派手好きの秀吉はそれを民へ還元すること度々、嫌われる要素はそうない。こんな危険な引用もいけるほど「江戸の民が源徳へ寄せるのより、長崎の民が藤豊へ寄せる思いのほうが篤い」と。
 笙、彼もまた買い物のついでに聞いたこと、思案する。秀吉の評判はむしろ下層ほど、よい。成り上がりとさげすむものもいるが、草の民に慕われるのが善政だとするなら、長崎はまるで、それ。
「しかし、まるごと屋さんのないのはちょっと」
 そこが唯一の減算ですね、と、思うまもなくたちまちに、喊声。
「チーズ味かすていらも制覇! 次回は、幻のみかん味を求めて!」
 すると、ハーフエルフの耳先、ぴくりとさせて、ツヴァイ、
「か、か‥‥ちょっと待ってて」
 ツヴァイ、声の聞こえてきた方角に消えて、
「うわあああん。シフール共通語もコロポックル語もまだできないけど、ツヴァイ、負けないっ。カヤって云うなーっ!」
「ぎゃーっ。が、みかん味だけはご勘弁ーっ」
 見事に前後がつながらない。とりあえず、なんか、加害者と被害者が一丁上がりになったのは実際、ふたたびのツヴァイ、憑き物堕としたようにすっきりした顔付き。
「魔法つかうと、お腹減っちゃう。笙さん、おかわりーっ」

 この剣を捌くのは幾日ぶりだろう、と、緋邑嵐天丸(ea0861)。鯉口に親指を添わせ、離す、ふたつの仕草は軌条のごとく綴じ目なし、跳ね上げられた剣紐は一度空に唐草を舞わす。
「行くぜ!」
 嵐天丸の流儀は、夢想流。神速の抜刀、対峙する周布政之介は示現流、だが疾速では嵐天丸にかなわぬと見て取ったか、周布は嵐天丸の一太刀を待つ、受けるでなく、彼の勢いを用いるつもりか、剛の剣同士が組み合い、やがて両者は――‥‥、
「な、俺のが速かったよな。な?」
「うーん」
 立ち会いの蛟静吾(ea6269)も自信なく、こうまで脚の勝負になるとは思わなかったのだ。「先に一撃を入れた方が勝ち」というあらかじめの決めごと。私情なく見切るには、八咫鏡のごときあまねく乾坤照らし尽くす眼識が要ったろう。「僕には龍宮(たつみや)が神鏡みたいなものだけど」と内心、愛亀(なんだ、この単語)への思いににへらにへらしながら、そっとさしだす折衷案。
「引き分けというのは?」
 この場でどちらに肩入れしてもよいことはなさそうだ。ぷ、と、嵐天丸は頬ふくらます。
「えー。じゃ、もう一回!」
「ごはんができましたよー、あとにしたら?」
 昼餉、である。佐々宮鈴奈(ea5517)、前掛けで両手を拭きつつ、建物の奥からあらわれる。ここは冒険者らの宿の内庭だ。
「いいお天気だもの。せっかくだから外で食べない? 手伝ってくれるとたすかるんだけど‥‥」
「お、いいよ。じゃ、これ食い終わったら、ぜってーだからな!」
 と、嵐天丸と鈴奈が一時退場して、のこされたは静吾と周布に、もうひとりふたり。
 秀吉だ。真神美鈴(ea3567)と、彼女の柴犬とたわむれる。
 長崎は、快晴。見張る静吾を掬いそうなほどの青、この空をたぐってゆくと、天下を分かつ擾乱に着くとは信じがたい。――京都守護代、五条の宮の「謀叛」。それの発生を、秀吉は隠そうとはしていない。静吾がなんのきなしに目を横にやると、周布が秀吉へ語りかけようとする矢先、識らず、龍宮を撫でる手を固くする。聞き耳を立てようとしたが、それよりはやく目敏く秀吉に見つけられた。
「聞きたいか?」
「‥‥まぁ」
「借金の話じゃよ。毛利殿におねがいしてあったのじゃが、意外にはやく片付きそうでな」
 ところへ、「ただいま」と、視察組の帰還。いや、ひとつあたま足りない、鎖雷。約束の時刻より遅い、だから、静吾が彼の代わりに審判を努めてやったのだが‥‥今頃、鎖雷、たぶん、どこかでのびている。
「って、これ全部鍋!?」
「そうよ」
「でかすぎ! 分かった。佐々宮さん、全部ひとりで喰う気だろ?」
「それは、いい考えね。‥‥煮られたい?」
 ほほえましいやりとりしながら、力自慢の嵐天丸とほどほどの鈴奈とが支えてもまだ足りず、相馬屋ぬい(出番これだけ(笑))も加勢して、運び出したる鍋はまるで陣料理。ツヴァイは興味津々。
「これなんて云うの?」
「ほうとうよ。味噌煮込みうどんじゃないからね」
「ほー、とー(そー)なんだ」
 うわぁ。
「どうしてみんな黙っちゃったの? おなかすきすぎた? そんじゃ、私がよそったげるよ」
 配膳も大好き☆ 気分は勝ち組、美鈴、てきぱきと――さっそくこぼした。
 くだんの(狂言)誘拐騒ぎも、どうにかこうにかアランの尽力で格好がつき、こうして皆々で和気藹々と午餐を味わえるひととき。
「もっとまったりとしてコクのある仕舞いが、わしとしては好みじゃが」
「俺はこれで十分です」
 それで今日明日にも京へ帰ろうとする、わけだが。秀吉といっしょに、また京へ。ほうとう鍋のおしまいの一滴までも呷った美鈴、それに尽きましては、の前置き、
「では食後の質問です。関白様は京でコレからどうされますか、教えてエロイ人!」
 しかし、秀吉は軽笑しながら、
「わしはわしにできることをするだけじゃよ」
「ん、とー。それじゃあ、伊賀は、あ、伊賀ってっても東湯舟の藤村様なんだけど、藤豊勢の尻馬にのるのがいいよって伝えまーす」
 マテ。
 一から十までただしい自己紹介を晒しあげる忍びが、だから、どこにいる。
 が、静吾は、今しかない、と思った。美鈴がさりげなく(もない)切り込んだこのときが、腹の底に力をひたす、剣を振り上げるのよりなお究竟に喉から震わせて、
「今回の旅は我々は、秀吉公が京都不在の理由のダシに使われたのでしょうか?」
 美鈴が「やっちゃった」ときとは異なる静寂。
 秀吉は、に、と、癖のある笑みをつくる。
「わしが五条の宮の真意を知っておった、と、いうか? 宮をそそのかしたと?」
 そうじゃないの、と、ツヴァイは内心思うけれども、口にはしない。笙は無口にほうとうの麺をついばみ、アランは首を直す。――彼が有り金はたいて仕入れた報せでは、いまだに秀吉軍に動きはない。
「あの宮殿がたやすく唆されるような性格しとるかのぅ。たしかにわしが都を離れてすぐ五条の宮は兵を挙げた‥‥それが逆に、証憑じゃよ。容喙して、自身はさっさと逃亡して高みの見物、そんな卑怯者を宮が信任するか?」
 さぁて。秀吉はもう自分の科白に興を失ったように、そういえば、とあたりを見回す。
「でかいコンバット越中褌はどこ行った?」
「昏倒さんなら‥‥」

 昏倒勇花(ea9275)は、「あぁ、かすていら‥‥」京に、いる。ほろりと涙、真珠の粒、それだけは美しく、彼の着物へ白糸のあとをのこして、のこるは四十路の肉体派の浪人がひとり。
 京で動乱が起こったと聞き付け、いてもたってもいられなくなった、それで必殺の転移護符をつかって京に飛び、神皇軍本陣の黒虎部隊隊長の鈴鹿紅葉に言づて、秀吉直筆の書状を京に駐留する秀吉軍にとどけるよう頼んだ。あとは‥‥、
「出たとこ勝負ね。乙女は度胸!」
 いや、あんた、男ですがな。というのは初歩すぎるので。勇花は御所へざくざくと進む、いざ藤豊軍へ。
「おじゃましまーす。昏倒ですが、お手紙とどいてますー?」
 しかし、口調はあいかわらず乙女模様、だが意外にも突貫はすんなりと。
「あぁ、読んだ」
 ほ、と、撫で下ろす。では、おねがいしていた遊撃兵はどうなるかと思いきや。
「秀吉殿は『そちらへ派遣するのは名のある冒険者だから、彼に有事の訓練の指導をおねがいした』と云っておられる」
 にゃんだってー?
「有事って今じゃないの?」
 京の防備をになうべき、しかも神皇家の別の末裔、ともいうべきお方の叛乱なのだ。これを有事といわずになんとする、が、相手はけろりと云いのける。
「いや。今はまだ、戦火は洛外。都に火の手が上がるときこそ、心得る」
「そ、そうかもしれないけど」
 そんな狭義にしぼるのなんてアリか。あくまでも秀吉は、神皇をまもる最後の砦、洛内の伏兵を気取るつもりか。
「ムリよ、指導なんて。やぁん、腕をひっぱらないで、私には夫も子どももー!」
 いないだろ。

●帰りの船上
「また、お世話になりますね」
「よぅ、兄ちゃん。長崎はどうだった?」
 散々でした、とは、云いにくく、笙はあやふやな笑みを船員たちにたむける。彼等が秀吉の狂言に関わったかどうかは、もう終わったことで、どうでもいい。気のいい彼等との再会を喜ぼう、と、笙、
「って、人がしんみりしたときに」
「こぅら。船のうえで暴れないの」
 め、と、鈴奈が怖い目を向けたのは、嵐天丸と鎖雷。体も凝らぬうち、アランを追い回し始める。
「狂言誘拐の敵ー!」
 さて、帰りの船旅は。勇花の消えた代わりに、別に同乗者が出たので、差し引きはまったく変動のなかった。その増えたひとり、美鈴、んー?と再確認。
「すーちゃんも?」
「某には周布という名が‥‥」
「また逢えるような気はしましたが、そもそも別離もなかったんですね」
 どうも嵐天丸の「決着付ける! 京まで来い!」に折れたかたちはとっているが、秀吉も彼をいざなったようで、それが気になるけれど、静吾はひとまず周布に手をさしのべる。
「では、これから京までよろしくおねがいします」
「あぁ。‥‥しかし、冒険者の乗船の作法は変わっているな。異国の御仁、縛られて悶えて喜んでおるが」
「幻です」

 フェネック、もしかすると、自分は夜に生まれたのかもしれない、と思う――記憶喪失の彼女にはそれを察するすべはなかったが。それほど天上の藍はしっくりと似つく、別にそれは自分がバードだから、というだけでないようにおもえる。月の夜だ。寝付けなかった。
「湯田さんは起きてるかな?」
 月の光を追うような足取りで、甲板をさまよう、鎖雷の名は彼に頼まれたことを解消するのに、今晩がちょうどいい、と思っただけで他意はない。ない――はず。鎖雷の牝馬、めひひひひん、をテレパシーでみるようにのぞまれて、その解析をつたえるのを思い出した。
「僕が連れているサライに一目惚れしたなんて」
 おまけに、荷馬と駿馬で釣り合うかどうか悩んでいたなんて、かわいらしいですね。
 くす、と、片頬笑みつくりながら、フェネックはどうしてか、長崎で見たお姫様の馬車を思い出す。――サライも憎からず思っていたようだから、湯田さん
 で、そのころの鎖雷は、
「ふふふ。後頭部の苦労、貴様も思い知るがよい」
 笙に、
 彼のかたわらに跪き、耳元へ息吹きかけんばかりに口寄せてささやく、あるときはうっとりと、あるときは強く激しく、
「俺はハゲじゃないハゲじゃない‥‥」
 するとそこに、とうとうフェネックが。まずいとこを見られたと思う鎖雷、だがフェネックが鎖雷に向ける目つきはもう一際、剣呑。
「‥‥湯田さん。いくらなんでも夜這いはまずいと思います」
「え゛」
 翌朝。船内は「生え際組」「後頭部組」あらため「夜這い組」「へたれ攻め組」「襲い受け組」よく分かりません、な班分けができあがる。
「だから、云ったじゃないですか。フェネックさんにあらぬ誤解をされますよって」
「マテ、笙。昨日、実は起きてたろ?」
「湯田さん、アランさんひんむき競争、俺の負けでいいや。だって俺、まだ無垢な体でいたいし」
「ほぅ、嵐天丸。一度その身にとっくり味わわせてやろう」

 冒険者らの船が京にもどってきたのは五月の二十九日――意外と早い。が、五条の乱の帰趨はすでに期したあとである。神皇軍の勝利、五条の宮は縄についたと。
「狛ちゃん、どうしてるかしら? 狛ちゃんのことだから、たいした怪我なくやってると思うけれど。お土産のかすていら持ってって、元気づけてあげましょうっと」
「僕は戦場に行ってみようかと思います‥‥鎮魂歌を捧げに」
 そして冒険者らは、冒険者であるから、行きとおなじように思い思いの方角へ別れる。あとに残るは、たたずむ、アラン・ハリファックス。彼は――彼は生粋の『傭兵』である。藤豊候、と呼び止めて。
「俺は船がつき次第欧州へ戻ります」
 ――が、有事には藤豊に一介の傭兵風情として参入する事をお許しを。
 アランはついに貫くのだ、ずっと傭兵であることを。
「おぅ。いつでも待っておるぞ」
 周布にともなわれて先に長州藩邸を訪れようとする秀吉、が、ふと足を留めると振り返る。
 案外、長く待たせぬかもしれぬな、と。

●おまけ
「訓練ってなに、兎跳びってなに、こんなの、戦場に出たほうがよっぽど楽じゃなーーーいっ」

●ピンナップ

湯田 鎖雷(ea0109


PCパーティピンナップ
Illusted by 猫丸