春風の海

■キャンペーンシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月08日〜05月15日

リプレイ公開日:2006年04月16日

●オープニング

「海風はいいね。トルクの殿様はゴーレムシップとかいうのを開発していると聞いているけど、やっぱり海は帆船がいいな。速度ではガレー船の方が速いが」
 呑気そうに風に吹かれて、戯れを言っているのは、吟遊詩人のエストゥーラ。ウィエの山間から戻ってきたら海で出たくなったので足の向くまま、港町にやってきたという。ここの領主で旧友でもあるドレニック卿の館を訪ねた。
「どうでもいいが、海には落ちないでくれよ。引っ張りあげるのは大変だし、水はまだ冷たい」
 実際には風もまだまだ冷たい。あと1月もすれば、温暖な風になるが。
「ウィエでの成果はあったか?」
「大あり。冒険者が運んできた恋文をウィエのやんごとなきお方に届けるまで〜敵対者が放った刺客をちぎっては投げちぎっては投げ」
「はいはい。良く頑張りました」
 人を食った言いようだが、恋文の相手は人ではなく国かも知れぬし、刺客があったのも事実だろう。ここに着いた時から、楽器を何一つ演奏していない。指か腕に怪我をしたのだろう。その事情を知ったので、陸よりも海上に誘ったのだ。目的を達したのなら、刺客は襲ってこないだろうが、ほとぼりは覚めていない。
「どうやら厄介ごとのようです」
 エストゥーラが指さす方向には、難破船に近い状態の船が漂っていた。
 船を横付けすると、船の上には、幾つかの死体が放置されていた。船内を探すとどうにか息をしている者が見つかった。
「頼む」
「止めをさしてほしいのか〜」
 吟遊詩人が真顔で聞くな。
「まだ生きている。そうじゃなく」
「まだ意識はしっかりしているようだ。ほい?」
 エストゥーラが手を差し出す。
「ほい。とは?」
「ポーションとかいうの持っているだろう」
「使え。自分ので治してやればいいだろうに」
 ドレニック卿が大事そうにポーションを出しだす。
「俺のはまだ補充されていないの。首都に行かないと手に入らないからね」
 ポーションの効果で瀕死だった者は、みるみる回復していく。
「便利だが、悪人を処刑してもよみがえるようになったら、ことだぞ」
 事情を聞くと、この船はイムンでも最も南にある領主の持ち船で、ウィルに伺候する姫君と交易品を積んでいたのだが、海賊に襲われた。一旦船ごと海賊達の根城に曳航されていったが、隙を見て脱出した。しかし、運行要員の手も足りず。水も食料もなく、場所も分からなかったため、あちこちさまよっている間に、漂流する結果になった。怪我は脱出した時のもので、空腹と渇きのために動けなくなっていた。
「困った時の領主だのみ〜」
「簡単に言ってくれる。冒険者を雇うだけの金があれば、手勢を増やせるが、報酬が高くてうちの収入じゃとてもとても。かといって見捨てておいて、海賊にのさばられても困る」
「金なら海賊の宝を報酬にすればいいじゃないか。山分けってことにすれば、文句は言わないだろう?」
「吟遊詩人殿は優れた管財人でもあるようだ。では早速この提案を行った顔の広い吟遊詩人殿にご足労願おう」
「それぐらいはしますよ」

●今回の参加者

 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8846 ルゥナー・ニエーバ(26歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3096 アルク・スターリン(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4239 山田 リリア(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4291 黒畑 緑郎(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4427 斐河 晴(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●まずは情報収集
「ねぇ、ルインの旦那、なんか知らない?」
 アハメス・パミ(ea3641)は、ドレニック卿のところに向かう前に竜のねぐらに寄っていた。ここなら、裏情報も入りそうだった。アハメスの目的はイムンの事情に詳しい方を紹介してもらうこと。今回の依頼の裏に海賊の仕業でないという可能性も考えていた。
「イムンに詳しい人か、あの国はかなり閉鎖的だ」
 アトランティスはどこもジ・アースに比べると閉鎖的だが、その中でさらに閉鎖的ならば相当のものだろう。
「そういえば商売ではシュミーム商会が、ウィルに支店を持っている。イムンのどこかの領主と結びついて鉱山開発を行なうという。銅山なり銀山なりが開発されれば、銅や銀を船で運ぶことになるんだろうな」
 銅や銀はそれ自体価値があるし、エーガン王の目指す支配体制を実現するには今まで以上に物流を整備する必要がある。物流には貨幣が必要だ。それ以外注目されているものがある。貴金属はゴーレムの上位機種の材料になるということだ。
「開発と言っても、簡単にはいかないだろうから」
「ドレニック卿ってどんな人?」
「エストゥーラの友達だ。海については詳しい。ただし、あまり裕福じゃない。そのため船や海戦に関する技量はあっても、海戦騎士団には参加していない。ドレニック卿程度の資産なら軍事奉仕を求められた時以外は生業に励むしかない」
「生業?」
「漁だ。領主自ら網を引き上げたり、銛を使ったり」
 聞いていると、報酬を出すだけの財力が本当にないらしいと思えてきた。
「エストゥーラに会ったら、ササン分国に行く仕事を頼みたい人がいると伝えてくれ。急ぎじゃないらしい」
 また『ラブレター』の配達か?

●港町
 高村綺羅(ea5694)はドレニック卿の領地に近い港町を歩いていた。周囲から正体が分からないように、マントを羽織り、フードを深く被って。まだ海風が寒いから同じようなスタイルの人もいるのであまり目立たない。荷物はすでにドレニック卿の船に搬入してある。
「食料は保存食の他には」
 保存食の他に果物などが良いらしい。一度出航すると大きな港には入港しないだろうから、買いもれの無いようにする。挙動不審な人はいない。海賊がこの港に入っても、海賊だと公言するような人はいないだろう。しかし、襲われた船が高価な積み荷を持っていれば、そのうちの幾つかが裏マーケットに流れる可能性はある。
「これだけ買い込めばいいか」
 今回は船旅陸路を行くよりも荷物を船に乗せられるから、食事はいつもよりも豪勢に新鮮なものを野菜類などを積み込みたい。それで大荷物になったのが、アーディル・エグザントゥス(ea6360)さらに馬まで乗せる。
「馬の食料は積んでくれよ。途中で無くなって船上で餓死なんかされたら困るからな」
 馬を乗せたのはアーディルだけではない。ファング・ダイモス(ea7482)もルゥナー・ニエーバ(ea8846)も馬を乗せている。
「そういえば全員泳げるんだろうな」
 ドレニック卿は確認するように言った。海に出るのに全く泳げないのは非常に困る。しかし、バスタブがわりの大きな樽を持ち込んだ山田リリア(eb4239)は泳ぎを習得していなかった。それに豪華な食料を持ち込んだアーディルもである。
「泳げないが、少しは船を操れるぞ」
 もっともマストの上から見張りを希望しているアーディル。
「ジ・アースも地球も天界は地上が球体だというを聞いたが、アトランティスは平面だ。そのつもりで」
 レオン・バーナード(ea8029)は泳ぎが巧みだから、もしもの場合には助けてあげることにした。
「出航したら船上で、酒をのむなよ。特に夜の見張りは。海におちたらそれまでだからな」
 海に出たことのある者なら良く知っていることでも、天界からきた冒険者には一応話しておく。
「そうなの?」
 リリアは自分が飲むわけではないが、長期航海というとエールというイメージを持っている。「1月の航路になるが、あてどなく航海するわけじゃない。水ぐらいを補給できる場所くらい知っている」
 それに、リリアも習得したクリエイトウォーターはウィザードなら習得できる。ドレニック卿にはウィザードはいないが、長期航行を行なう船の持ち主ならウィザードの一人くらい雇っておくだろう。アトランティスにもウィザードはいるのだから。
「釣り竿置き場ってあるのか?」
 斐河晴(eb4427)が尋ねた。海なら魚が釣れるだろう。と思いつつも自分の竿は持参していない。地球の電動リールや魚群探知器でもあればもっと役に立つだろうとは思うが、あいにくそんな便利なものはアトランティスでは手に入らないだろう。リリアと晴は連れ立って壊血病の予防のために、ビタミンCの多い食材を探しにいった。
「私はスリルを好む冒険者だ。依頼を果たして、この世界の事を知りたい」
 黒畑緑郎(eb4291)はそう言って船に乗り込んだが、ドレニック卿は緑郎の荷物を見るなりこう答えた。
「では最初に教えておいてやる。食料を持たずにどうするつもりだ」
 アトランティスにはコンビニはないし、保存食を売っているところもかなり限定される。
「冒険者同士で融通してもらうなり、今の所持金で買い込むなりしておけ」
 飢え死にしない最小限のものは出せるが、それではいざという時に戦闘に耐えられるための体力を維持できない。
「最初に味わうのは、餓死のスリルか」
 アルク・スターリン(eb3096)は情報を得ようと、港町の酒場などちょっと怪しげな場所に出入りしていた。海賊には縄張りがある。ならば、案内人の襲われた場所が誰の縄張りか調べ上げられればと思ったのである。もちろん、その相手方も。
 幾人かに酒を奢ってみた。
「あのあたりか。噂だが」
 海の上をどのように噂が流れるのかは興味はあるが、情報は得られた。
「教えてほしいことがあるのですが」
 ルゥナーも港町まで出場って、イムンに最近行ったことのある船乗りを探して今回海賊が襲った相手の特定をしていた。
「イムンには最近行っていないな。ああそういえば」
 話相手は、ルゥナーにいやらしい視線を向ける。やっと港に戻ったばかりで女性に飢えていることが全身から滲み出ていた。
「はいはいそこまで」
 ファングが見かねて声をかけた。買い出しに来て見かけて間に入った。
「もうちょっとで聞き出せたのに」
 ルゥナーが不満そうに言うとファングが言い返す。
「もうちょっとで身ぐるみはがされて、慰み物にされていたところだぞ」
 そして、背後で男たちが集まっていたことを教えた。不意打ちしてスタンアタックをかけられれば、ルゥナーだとてどうなっていたかわからない。

●出航
 ウィルからの到着はアハメスだった。そして全員が揃った。近くの港町で情報収集に多少のいざこざはあったが、それなりの成果はあった。生鮮食料品も積み込みリリアのアイスコフィンで保存状態にしてある。ファングのモヤシもそろそろ芽が出るころ。アーディルやルゥナーの豪勢な食材も。アルクの買い込んできた砂は、袋に入れて甲板上にあった。馬は船倉に。
「船酔いする奴は覚悟しておけ。最初の3日は苦しいぞ。しかし安心しろ。目的地までは5日かかる」
 出帆前には儀式としてアーディルは、エーギルのコインに口付け。海に投げるかと思いきや、そのまま懐にしまい込む。港町での情報収集によって襲ったと思われる海賊の拠点は分かった。その周辺で海賊の勢力を確認して、奪い返さなければならないが。忍び込んで盗み出せればいいが。
 そして3日間海に慣れていない幾人かは、半死半生の状態になった。
「せっかくの豪勢な食材が」
 アーディルは、歩く必要がないと積み込んだ食材を仲間にも振る舞おうかと思ったが、一口も食べられない人もいた。船酔いに襲われた冒険者は、辛うじていつもの保存食を無理やり飲み下して体力を維持していた。
「あの島だ」
 やっと視界に入った島をドレニック卿は指し示した。港町で強いれた情報では、あの島に拠点を置く緋鮫と呼ばれている海賊がイムン分国最南の領主領主ミトン卿の姫君ロ・ロレアを捕まえているらしい。緋鮫は3人の船長がいて、その勢力が鼎立している状態だという。
「船が近づいてくる」
 アーディルが、マスト上から叫んだ。もちろん、こんな場所に海賊関係者以外の船が、偶然通り掛かるはずはない。
「総員戦闘準備。火矢を準備しろ!」
 向こうの船には大きな一枚の帆のみ。帆走ではなくガレー船。漕ぎ手は、それまでの襲撃で得た奴隷だろう。
「火矢で制圧して、乗り移る」
 火矢を打ち込んで奴隷が騒げば、向こうの抵抗も弱まる。
 ドレニック卿の用意した火矢を、冒険者で弓を使える者たちの横に置かせた。
 アルクのヘビーボウが最初に放たれた。晴がミドルボウを思いっきり引き絞って狙いを定める。相手の船にパニックを起こさせるためなら人に当たらなくても。
 晴の放った矢が、帆に突き刺さる。すぐには燃え上がらないが消火活動を邪魔すれば、燃え広がる時間が稼げる。アハメスも得物を弓に持ち替えて射撃に入る。矢は依頼主の負担気軽に使える。船そのものを狙えば当たらないことはない。その間にも船同士は接近していく。
「相手の船の正面に出るな。触角でやられる」
 ドレニック卿の指示で、船が接近角度を調整する。水中に突き出した触角でこちらの船底を破壊されれば、航海は続けられない。
「敵の側面を捉えた」
 浅い角度で側面に接近し、相手のオールを破壊しながら側面を近寄せる。
「いくぞ」
 ファングが叫んで乗り移る。その脇を疾走の術を使った綺羅が駆け抜けるようにして飛び移る。しかし二人とも船上戦闘経験は少ない、船の揺れで本来の力を発揮できないでいる。それに比べてレオンは船上に慣れた様子で、戦っていく。ルゥナーは、船酔いに加えて船の揺れのせいで戦力になっていないが、それは予定のうち怪我人にリカバーするのだから。緑郎はどうにか相手の船に乗り移ると、鎖でつながれていた漕ぎ手を解放していく。アルクが得物をロングソードに持ち替えて、邪魔しようとする海賊を防ぐ。
「ルゥナー、来てくれ。リカバーを頼む」
 その声に応じて、ルゥナーが向かおうとしたが、海賊が2名立ちふさがった。地上ならともかく船上では、海賊の方が上。しかも二人。ドレニック卿がすかさず間に入って海賊を退ける。アハメスも日本刀に持ち替えて、ルゥナーの援護に入る。
「酷い」
 ルゥナーが悲鳴に近い声をあげる。
「こんなものだ。海賊に捕まった者たちの処遇は」
 海賊たちの漕ぎ手である奴隷への扱いは過酷だった。虐待と言った方が良い。鞭の痕が無数にあり、新しい者からはまだ血が生々しい。ドレニック卿には見慣れたものだ。ルゥナーがリカバーを使うと、新しい傷がふさがっていく。取り敢えずの応急的なものだが、回復できた者から協力してくれる。解放される機会など、この後ないかもしれない。虐待されながらの死への道よりも、死をかけての解放の方が良い。次第にこちらが優勢になっていく。
「情報収集用に何人か生かしたまま捕らえろ」
 ドレニック卿の指示でアハメスと綺羅が手近にいた者たちにスタンアタックをかける。やっと余裕ができてきた。これまで海賊を始末してきたが、これ以後は情報を取るまで生かしておく。その後は切り刻んで魚の餌にすればいい。生かしておいても餌代がかかるだけだ。
 完全に帆が燃え上がった。このままでは船にも燃え広がる。
「砂を撒く時間はないか」
 アルクの用意した砂は、ドレニック卿の船の上にある。運んでかけるのには時間がかかる。そこにリリアがクリエイトウォーターで、船の甲板上に水を湧き出させた。延焼はくい止められそうだ。一度に大量の水が入ったため船の喫水が沈み込む。
「沈めるなよ。この船まだ使える」
 延焼をくい止め、ガレー船を確保した。
「海賊の生き残りは3人か。冒険者たち海賊の尋問やってみるか? できるだけ殺さずに情報を聞き出してくれ」
 聞き出す情報は多い。あの島に海賊がどれだけいるのか。捕まったイムン分国の南の領主ミンス卿の姫君ロ・ロレアは無事かどうか。そして、本当に海賊なのかどうか。
ドレニック卿はそう言うと、ガレー船を自分の港へ回航するように指示した。ドレニック卿の水夫が港まで案内する。漕ぎ手にされていた者たちはそこで体力の回復をはかり、身の振り方はその後決める。その頃にはこっちの件も片づくだろう。その中にはイムンの船で雇われていた者はいなかった。
「この船はいいね。水がたっぷりある」
 戦いが終わった頃、エストゥーラがずぶ濡れの姿を現した。
「どこかに隠れて楽してやがったな」
 ドレニック卿はそう決めつけたが、アハメスは洗い流されていない返り血を見つけていた。
「見かけによらないですね。ルインさんの依頼忘れないでね」
「この件が終わったら、捕らわれた姫君を救い出す冒険者。題材にも申し分ない。エーガン王の前でも披露できるような活躍を期待しますよ。あまり誇張表現は得意ではないのでね」
「情報を聞き出したら、島に乗り込む」

●明日はどっちだ
 一行は出航したばかりの海賊船を捕獲し、情報を得ることになった。生き残った海賊は3人。すぐに命に関わる傷はないようだ。ここから尋問(拷問)の始まり。
「如何にして情報を訊き出すか、ここは拷問しかあるまい。天界人殿も多いから断って置くが、ウィルに拷問を禁じる法は無い。無用な情けを掛けるなよ。聞き出せずに死なせたり、逃げられると後々命取りになる。解放できた人達を、無事に連れ帰る仕事も残っているからな。海賊に情けを掛けるとそれも出来ない」
 如何にして情報を聞き出すか。それが自分達だけではない、無辜の命を救うことになるだろう。島では潜入行動と戦闘行動に別れての行動になる。エストゥーラは潜入班、ドレニック卿は戦闘班を受け持つ。相手は海賊、戦術展開に倫理的制限は無い。夜討ち、朝駆け、奇襲に、飛び道具なんでも良い。勿論、海賊はもっと汚い手を使ってくることは必定だ。