春風の海

■キャンペーンシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月22日〜05月29日

リプレイ公開日:2006年04月28日

●オープニング(第1話リプレイ)

●まずは情報収集
「ねぇ、ルインの旦那、なんか知らない?」
 アハメス・パミ(ea3641)は、ドレニック卿のところに向かう前に竜のねぐらに寄っていた。ここなら、裏情報も入りそうだった。アハメスの目的はイムンの事情に詳しい方を紹介してもらうこと。今回の依頼の裏に海賊の仕業でないという可能性も考えていた。
「イムンに詳しい人か、あの国はかなり閉鎖的だ」
 アトランティスはどこもジ・アースに比べると閉鎖的だが、その中でさらに閉鎖的ならば相当のものだろう。
「そういえば商売ではシュミーム商会が、ウィルに支店を持っている。イムンのどこかの領主と結びついて鉱山開発を行なうという。銅山なり銀山なりが開発されれば、銅や銀を船で運ぶことになるんだろうな」
 銅や銀はそれ自体価値があるし、エーガン王の目指す支配体制を実現するには今まで以上に物流を整備する必要がある。物流には貨幣が必要だ。それ以外注目されているものがある。貴金属はゴーレムの上位機種の材料になるということだ。
「開発と言っても、簡単にはいかないだろうから」
「ドレニック卿ってどんな人?」
「エストゥーラの友達だ。海については詳しい。ただし、あまり裕福じゃない。そのため船や海戦に関する技量はあっても、海戦騎士団には参加していない。ドレニック卿程度の資産なら軍事奉仕を求められた時以外は生業に励むしかない」
「生業?」
「漁だ。領主自ら網を引き上げたり、銛を使ったり」
 聞いていると、報酬を出すだけの財力が本当にないらしいと思えてきた。
「エストゥーラに会ったら、ササン分国に行く仕事を頼みたい人がいると伝えてくれ。急ぎじゃないらしい」
 また『ラブレター』の配達か?

●港町
 高村綺羅(ea5694)はドレニック卿の領地に近い港町を歩いていた。周囲から正体が分からないように、マントを羽織り、フードを深く被って。まだ海風が寒いから同じようなスタイルの人もいるのであまり目立たない。荷物はすでにドレニック卿の船に搬入してある。
「食料は保存食の他には」
 保存食の他に果物などが良いらしい。一度出航すると大きな港には入港しないだろうから、買いもれの無いようにする。挙動不審な人はいない。海賊がこの港に入っても、海賊だと公言するような人はいないだろう。しかし、襲われた船が高価な積み荷を持っていれば、そのうちの幾つかが裏マーケットに流れる可能性はある。
「これだけ買い込めばいいか」
 今回は船旅陸路を行くよりも荷物を船に乗せられるから、食事はいつもよりも豪勢に新鮮なものを野菜類などを積み込みたい。それで大荷物になったのが、アーディル・エグザントゥス(ea6360)さらに馬まで乗せる。
「馬の食料は積んでくれよ。途中で無くなって船上で餓死なんかされたら困るからな」
 馬を乗せたのはアーディルだけではない。ファング・ダイモス(ea7482)もルゥナー・ニエーバ(ea8846)も馬を乗せている。
「そういえば全員泳げるんだろうな」
 ドレニック卿は確認するように言った。海に出るのに全く泳げないのは非常に困る。しかし、バスタブがわりの大きな樽を持ち込んだ山田リリア(eb4239)は泳ぎを習得していなかった。それに豪華な食料を持ち込んだアーディルもである。
「泳げないが、少しは船を操れるぞ」
 もっともマストの上から見張りを希望しているアーディル。
「ジ・アースも地球も天界は地上が球体だというを聞いたが、アトランティスは平面だ。そのつもりで」
 レオン・バーナード(ea8029)は泳ぎが巧みだから、もしもの場合には助けてあげることにした。
「出航したら船上で、酒をのむなよ。特に夜の見張りは。海におちたらそれまでだからな」
 海に出たことのある者なら良く知っていることでも、天界からきた冒険者には一応話しておく。
「そうなの?」
 リリアは自分が飲むわけではないが、長期航海というとエールというイメージを持っている。「1月の航路になるが、あてどなく航海するわけじゃない。水ぐらいを補給できる場所くらい知っている」
 それに、リリアも習得したクリエイトウォーターはウィザードなら習得できる。ドレニック卿にはウィザードはいないが、長期航行を行なう船の持ち主ならウィザードの一人くらい雇っておくだろう。アトランティスにもウィザードはいるのだから。
「釣り竿置き場ってあるのか?」
 斐河晴(eb4427)が尋ねた。海なら魚が釣れるだろう。と思いつつも自分の竿は持参していない。地球の電動リールや魚群探知器でもあればもっと役に立つだろうとは思うが、あいにくそんな便利なものはアトランティスでは手に入らないだろう。リリアと晴は連れ立って壊血病の予防のために、ビタミンCの多い食材を探しにいった。
「私はスリルを好む冒険者だ。依頼を果たして、この世界の事を知りたい」
 黒畑緑郎(eb4291)はそう言って船に乗り込んだが、ドレニック卿は緑郎の荷物を見るなりこう答えた。
「では最初に教えておいてやる。食料を持たずにどうするつもりだ」
 アトランティスにはコンビニはないし、保存食を売っているところもかなり限定される。
「冒険者同士で融通してもらうなり、今の所持金で買い込むなりしておけ」
 飢え死にしない最小限のものは出せるが、それではいざという時に戦闘に耐えられるための体力を維持できない。
「最初に味わうのは、餓死のスリルか」
 アルク・スターリン(eb3096)は情報を得ようと、港町の酒場などちょっと怪しげな場所に出入りしていた。海賊には縄張りがある。ならば、案内人の襲われた場所が誰の縄張りか調べ上げられればと思ったのである。もちろん、その相手方も。
 幾人かに酒を奢ってみた。
「あのあたりか。噂だが」
 海の上をどのように噂が流れるのかは興味はあるが、情報は得られた。
「教えてほしいことがあるのですが」
 ルゥナーも港町まで出場って、イムンに最近行ったことのある船乗りを探して今回海賊が襲った相手の特定をしていた。
「イムンには最近行っていないな。ああそういえば」
 話相手は、ルゥナーにいやらしい視線を向ける。やっと港に戻ったばかりで女性に飢えていることが全身から滲み出ていた。
「はいはいそこまで」
 ファングが見かねて声をかけた。買い出しに来て見かけて間に入った。
「もうちょっとで聞き出せたのに」
 ルゥナーが不満そうに言うとファングが言い返す。
「もうちょっとで身ぐるみはがされて、慰み物にされていたところだぞ」
 そして、背後で男たちが集まっていたことを教えた。不意打ちしてスタンアタックをかけられれば、ルゥナーだとてどうなっていたかわからない。

●出航
 ウィルからの到着はアハメスだった。そして全員が揃った。近くの港町で情報収集に多少のいざこざはあったが、それなりの成果はあった。生鮮食料品も積み込みリリアのアイスコフィンで保存状態にしてある。ファングのモヤシもそろそろ芽が出るころ。アーディルやルゥナーの豪勢な食材も。アルクの買い込んできた砂は、袋に入れて甲板上にあった。馬は船倉に。
「船酔いする奴は覚悟しておけ。最初の3日は苦しいぞ。しかし安心しろ。目的地までは5日かかる」
 出帆前には儀式としてアーディルは、エーギルのコインに口付け。海に投げるかと思いきや、そのまま懐にしまい込む。港町での情報収集によって襲ったと思われる海賊の拠点は分かった。その周辺で海賊の勢力を確認して、奪い返さなければならないが。忍び込んで盗み出せればいいが。
 そして3日間海に慣れていない幾人かは、半死半生の状態になった。
「せっかくの豪勢な食材が」
 アーディルは、歩く必要がないと積み込んだ食材を仲間にも振る舞おうかと思ったが、一口も食べられない人もいた。船酔いに襲われた冒険者は、辛うじていつもの保存食を無理やり飲み下して体力を維持していた。
「あの島だ」
 やっと視界に入った島をドレニック卿は指し示した。港町で強いれた情報では、あの島に拠点を置く緋鮫と呼ばれている海賊がイムン分国最南の領主領主ミトン卿の姫君ロ・ロレアを捕まえているらしい。緋鮫は3人の船長がいて、その勢力が鼎立している状態だという。
「船が近づいてくる」
 アーディルが、マスト上から叫んだ。もちろん、こんな場所に海賊関係者以外の船が、偶然通り掛かるはずはない。
「総員戦闘準備。火矢を準備しろ!」
 向こうの船には大きな一枚の帆のみ。帆走ではなくガレー船。漕ぎ手は、それまでの襲撃で得た奴隷だろう。
「火矢で制圧して、乗り移る」
 火矢を打ち込んで奴隷が騒げば、向こうの抵抗も弱まる。
 ドレニック卿の用意した火矢を、冒険者で弓を使える者たちの横に置かせた。
 アルクのヘビーボウが最初に放たれた。晴がミドルボウを思いっきり引き絞って狙いを定める。相手の船にパニックを起こさせるためなら人に当たらなくても。
 晴の放った矢が、帆に突き刺さる。すぐには燃え上がらないが消火活動を邪魔すれば、燃え広がる時間が稼げる。アハメスも得物を弓に持ち替えて射撃に入る。矢は依頼主の負担気軽に使える。船そのものを狙えば当たらないことはない。その間にも船同士は接近していく。
「相手の船の正面に出るな。触角でやられる」
 ドレニック卿の指示で、船が接近角度を調整する。水中に突き出した触角でこちらの船底を破壊されれば、航海は続けられない。
「敵の側面を捉えた」
 浅い角度で側面に接近し、相手のオールを破壊しながら側面を近寄せる。
「いくぞ」
 ファングが叫んで乗り移る。その脇を疾走の術を使った綺羅が駆け抜けるようにして飛び移る。しかし二人とも船上戦闘経験は少ない、船の揺れで本来の力を発揮できないでいる。それに比べてレオンは船上に慣れた様子で、戦っていく。ルゥナーは、船酔いに加えて船の揺れのせいで戦力になっていないが、それは予定のうち怪我人にリカバーするのだから。緑郎はどうにか相手の船に乗り移ると、鎖でつながれていた漕ぎ手を解放していく。アルクが得物をロングソードに持ち替えて、邪魔しようとする海賊を防ぐ。
「ルゥナー、来てくれ。リカバーを頼む」
 その声に応じて、ルゥナーが向かおうとしたが、海賊が2名立ちふさがった。地上ならともかく船上では、海賊の方が上。しかも二人。ドレニック卿がすかさず間に入って海賊を退ける。アハメスも日本刀に持ち替えて、ルゥナーの援護に入る。
「酷い」
 ルゥナーが悲鳴に近い声をあげる。
「こんなものだ。海賊に捕まった者たちの処遇は」
 海賊たちの漕ぎ手である奴隷への扱いは過酷だった。虐待と言った方が良い。鞭の痕が無数にあり、新しい者からはまだ血が生々しい。ドレニック卿には見慣れたものだ。ルゥナーがリカバーを使うと、新しい傷がふさがっていく。取り敢えずの応急的なものだが、回復できた者から協力してくれる。解放される機会など、この後ないかもしれない。虐待されながらの死への道よりも、死をかけての解放の方が良い。次第にこちらが優勢になっていく。
「情報収集用に何人か生かしたまま捕らえろ」
 ドレニック卿の指示でアハメスと綺羅が手近にいた者たちにスタンアタックをかける。やっと余裕ができてきた。これまで海賊を始末してきたが、これ以後は情報を取るまで生かしておく。その後は切り刻んで魚の餌にすればいい。生かしておいても餌代がかかるだけだ。
 完全に帆が燃え上がった。このままでは船にも燃え広がる。
「砂を撒く時間はないか」
 アルクの用意した砂は、ドレニック卿の船の上にある。運んでかけるのには時間がかかる。そこにリリアがクリエイトウォーターで、船の甲板上に水を湧き出させた。延焼はくい止められそうだ。一度に大量の水が入ったため船の喫水が沈み込む。
「沈めるなよ。この船まだ使える」
 延焼をくい止め、ガレー船を確保した。
「海賊の生き残りは3人か。冒険者たち海賊の尋問やってみるか? できるだけ殺さずに情報を聞き出してくれ」
 聞き出す情報は多い。あの島に海賊がどれだけいるのか。捕まったイムン分国の南の領主ミンス卿の姫君ロ・ロレアは無事かどうか。そして、本当に海賊なのかどうか。
ドレニック卿はそう言うと、ガレー船を自分の港へ回航するように指示した。ドレニック卿の水夫が港まで案内する。漕ぎ手にされていた者たちはそこで体力の回復をはかり、身の振り方はその後決める。その頃にはこっちの件も片づくだろう。その中にはイムンの船で雇われていた者はいなかった。
「この船はいいね。水がたっぷりある」
 戦いが終わった頃、エストゥーラがずぶ濡れの姿を現した。
「どこかに隠れて楽してやがったな」
 ドレニック卿はそう決めつけたが、アハメスは洗い流されていない返り血を見つけていた。
「見かけによらないですね。ルインさんの依頼忘れないでね」
「この件が終わったら、捕らわれた姫君を救い出す冒険者。題材にも申し分ない。エーガン王の前でも披露できるような活躍を期待しますよ。あまり誇張表現は得意ではないのでね」
「情報を聞き出したら、島に乗り込む」

●明日はどっちだ
 一行は出航したばかりの海賊船を捕獲し、情報を得ることになった。生き残った海賊は3人。すぐに命に関わる傷はないようだ。ここから尋問(拷問)の始まり。
「如何にして情報を訊き出すか、ここは拷問しかあるまい。天界人殿も多いから断って置くが、ウィルに拷問を禁じる法は無い。無用な情けを掛けるなよ。聞き出せずに死なせたり、逃げられると後々命取りになる。解放できた人達を、無事に連れ帰る仕事も残っているからな。海賊に情けを掛けるとそれも出来ない」
 如何にして情報を聞き出すか。それが自分達だけではない、無辜の命を救うことになるだろう。島では潜入行動と戦闘行動に別れての行動になる。エストゥーラは潜入班、ドレニック卿は戦闘班を受け持つ。相手は海賊、戦術展開に倫理的制限は無い。夜討ち、朝駆け、奇襲に、飛び道具なんでも良い。勿論、海賊はもっと汚い手を使ってくることは必定だ。

●今回の参加者

 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8846 ルゥナー・ニエーバ(26歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3096 アルク・スターリン(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4239 山田 リリア(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4291 黒畑 緑郎(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4427 斐河 晴(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●拷問って難しい
「調子はどうだ?」
 ドレニック卿は潮風に吹かれた顔で船倉の急造拷問部屋に顔を出した。前回の戦闘で生き残った海賊3人を冒険者に預けて情報を尋問することになった。相手は海賊。拷問だろうとなんだろうと、聞き出せさえすれば良い。もっとも拷問は痛めつけるだけではない。痛めつけすぎれば死んでしまう。
「なかなか難しい」
 拷問によって得られる情報次第で、海賊の拠点での有利不利が明確に別れる。ならば力を入れてそれぞれの方法で行い。もっとも3人の海賊に対して、拷問を行なうのに志願したのは、アハメス・パミ(ea3641)、高村綺羅(ea5694)、アーディル・エグザントゥス(ea6360)、レオン・バーナード(ea8029)、ルゥナー・ニエーバ(ea8846)、山田リリア(eb4239)、黒畑緑郎(eb4291)、斐河晴(eb4427)の8人。
 ファング・ダイモス(ea7482)は見張りをしつつ、ラーンの投網を使って漁ができないかと奮戦している。漁用の魔法の投網ではあるが、海での3mは、さほど広いわけではない。そこで、撒き餌をしつつ、魚をおびき寄せては投網で取るという方法に切り換える。
「これで多少食料事情は、良くなったでしょう」
 欠食冒険者を抱えると、冒険の依頼の最中に食料を集めることになる。今回は拷問という時間がとれたからできたことだ。毎回このようにうまくいくとは限らない。
「派手に水撒いたから、海賊船の食料庫は水浸し、戦利品の食料は全滅では」
 拷問に加わらなかったアルク・スターリン(eb3096)も様子を見に来た。ドレニック卿の船は現在海賊の拠点の島から黙視されない距離に離れている。こちらからは海賊の拠点からこちらに向かってくる船があれば発見できるようにしているが、前回のようには簡単にはいかないだろう。
「あの海賊たちが襲撃に行く途中だったのは、積み荷に金目のものがないから確かだ。載せていた食料から考えると5日間ぐらいの行程だろう。襲撃の後にそのまま帰るとは限らないにしても10日以上戻らなければ怪しむだろう」
 二人とも、目的は捕らわれた姫君の救出。まさに騎士の本分。ファングはファイターではあるが、アトランティスでは騎士待遇されている。領地も相続できない身分のみの騎士にとっては姫君の心を捉えて、持参金(領地)ごと姫君を得ることが生活につながるという裏事情もあるのだが、広く伝わる話は美化されるもので、吟遊詩人達は姫君の救出こそ、騎士の本分と讃える。
 その二人の純粋な思いを成功させようと思ったのかはともかく、船倉での拷問はかなりのものになっていた。
「天界と物理法則や風俗習慣が違っても、人の心までは違わないだろう。海賊が痛みには慣れていても、そういう手は初めてだろうからな」
 そう言って緑郎は心理学的に情報を聞き出せるか試したが、あまりにも知識と実践が不足していて話している内容すら理解させることができない。
「どうせ死刑になるにしても、楽に死にたかろう?」
 捕虜に言ったが、それは肉体的拷問を行なう側でもいうセリフだった。
「天界のシンリガクとかは、効果がなさそうだな」
 ドレニック卿は緑郎に尋問を見て、天界の心理学とはそんなものかと理解した。どうも情報は吐きそうにない。
「レオン、この海賊を日干しにしてやれ」
「荷物剥ぐだけじゃなくて捕まえた人たちにもあの扱いかよ、許せねぇな。今までした悪さの分までしっかり返させてやるぜ」
 身代金を払えなかった人たちがどのような目にあわされたのかを実際に自分の目で確認したレオンは、日干しを提案していた。
「日当たりのいいところに両手・両足を縛って柱にくくりつけるか繋ぐかして、それでもってときおり海水をかけたり無理やりにでも飲ませたりしてさ」
 海上で真水の無くなった時に海に出る者なら、渇きへの恐怖を持っている。海賊でもそれは同じだろう。
「余分に塩があれば、口に塩を詰めておくといいが、あいにく余裕はないから」
 ドレニック卿も、この提案には非常に乗り気だった。レオンは日干しされる海賊を見張る。さらにアーディルも加わって、まずは痛めつけてからとまずは鞭打ちから始めた。
「最初に言っておくが、リカバーは使うなよ」
 ドレニック卿は最初に釘を指した。
「しかし」
「情報を話すまでは殺されないって思われたら、絶対に吐かないぞ」
 リカバーで回復させてしまえば、殺されないと思ってしまうことだろう。しかも傷まで回復してしまう。手足を切り取ってしまえば、再び生えてくることはないにしても。
「殺す寸前を見切ってくれよ」
 拷問の難しいところは、実のところそこなのだ。痛みが大きいが命に関わらない部分をいかに知り尽くしているか。それを行なえるのが拷問のプロであり、拷問吏という職業なのだが、あいにくドレニック卿にはそのような役目の者を雇う必要などなかった。必要があったとしても要求する報酬を払えるほど経済的な余裕はない。
「好むところではないが、情報を得ねばならないので、やむなく。また、慣れてないので、実施には専門家の助言を」
 とアハメスは、ドレニック卿に求めたが、そのような事情で専門家はいなかった。
 綺羅は、海賊の一人と完全に一室に閉じこもっていた。捕えた海賊を椅子に座らせて手足と胴体を椅子に固定する。そしてどこに準備していたのか毒草知識を使って作った自白剤を用意しておいた。海賊に飲ませて聞き出す。さらに催淫効果も入れてある。いわば快楽も伴う拷問。男としてツライ状況にさせて懇願させるように仕向けて情報を引き出す。くの一だからこそ出来る方法である。
 晴はオーソドックスに焼いた鏃を腿に突き刺し、抜いて塩をすり込み、それを徐々に急所へ近づける。という方法を行なっていた。しかし、その程度は慣れているのか、海賊は反応がない。そこにリリアが入ってきた。
「どう?」
「全然。この程度じゃ駄目みたいだ」
 話して用済になったら確実に殺されると分かっているからだろう。
「私の故国でも、国に属さず武を振るう者は死刑に処せられます。対象の体力の減少を緩和し、対象が感じる痛みを増大させるのが基本方針ですよね? 爪の裏に針を差し込むのを含め、神経を直接痛めつける尋問を行うのはいかがでしょう? 私の知る限りの神経の有りかはお教えしますので」
 天界人二人組による拷問は、かなりの効果があった。海賊がショック死してしまうまでは。

●潜入班
 潜入班は夜に船を離れて、小舟で島に向かう。エストゥーラが指示を出して綺羅、アーディル、ファング、緑郎、リリアの5人が参加する。島に近づくと、緑郎がウォーターダイブを使って水中から偵察する。夜の海の中では見える範囲はかなり限られる。あいにく水中で使える懐中電灯は持っていない。持っていてもそのようなものを使ったら、こちらの存在を誇示してしまうだけだ。
「海賊から聞き出した情報によると」
 入り江には見張りがいるが、崖になっている側にはいない。しかし崖を登るのはいくらなんでも無理だ。
「お姫様が捕まっている場所はだいだいこのあたりだから」
 3人の海賊から聞き出した中で共通する内容から島の地図を作っておいた。
「奴隷にされた人たちは、たぶん、このあたりに穴蔵を掘って閉じ込めてあるんじゃないか」
 下っぱの海賊では重要情報はあまり知らないらしく、3人とも噂で聞いた程度のことを本当に事だと信じているらしい。そのため、重要な情報ほどバラバラになっていく。捕虜は船長ごとに分けて閉じ込めてあるらしい。漕ぎ手は結構重要な戦利品のようだ。
「その漕ぎ手も3割程度は解放した。残りはあの倍の人数。みんなが暴れてくれれば」
 綺羅は彼らの解放を優先させて、味方を増やす。せめて混乱させてくれれば。ただしこの前は船の上で、しかもルゥナーがリカバーで回復させていった。今回の漕ぎ手達がどのような状態かは、運次第だろう。このところ島への船の出入りはなかったから、体力は回復していると思う。
 入り江ぎりぎりのところで見張りを発見した。エストゥーラのメロディで眠らせる。接近して殺したのでは、死体を隠しても異変があったことが分かってしまう。単に眠りこけていただけなら、潜入に気づくまで時間の余裕がある。
 夜ならば警戒が薄い。綺羅は漕ぎ手の解放に、他の5人は捕らわれた姫君の救出に向かった。

●戦闘班
 ドレニック卿は船を夜陰に乗じて島までかなり近づけていた。ドレニック卿配下の水夫たちは、船の守りに残す。島を攻略できたとしても、船を沈められては戻れなくなる。潜入班が、漕ぎ手の解放と姫君の救出を援護する為にアハメス、レオン、ルゥナー、アルク、晴の5人を連れて島に乗り込む。
 見つかるかでは慎重にその後、潜入班が行動しやすいように陽動すること。うまく海賊どもを倒して島を制圧すること。さらに海賊がため込んであろう宝を確保したい。それがないと、今回は報酬らしきものはなくなってしまう。
「潜入班からの合図に周りが気づける状況じゃなかったら『スキヤキー!』と大声で叫ぶ」
 晴は、そう宣言した。海賊の拠点ならば、前回以上に敵の人数は多いだろう。
「ところでスキヤキってなんだ?」
 分かっているのは、晴だけだろう。まだアトランティスにもジ・アースにも存在しない食べ物。
「それなら海賊たちにも分からないだろうよ。しかし」
 入り江には海賊船は1隻しか見ない。影に隠れているわけでもなさそうだ。相手にする敵の数は少なくなるはずだろうが、いつ敵が戻ってくるか分からない。
「夜更けに入ってくるようなことはしないだろうから、朝の内に制圧できれば問題ないんじゃないか?」
 レオンは海賊が自分のネグラに戻るのにあえて、夜に近づく危険は侵さないだろうと考えた。慣れた水路でも座礁する危険は常にある。ドレニック卿の船だって、水深を図りながら接近している。重りを結びつけたロープで進路方向に投げ込んでは海底から引き上げるという作業を連続して行なって、船の進む方向に浅瀬が無いかと調べる。担当しているもの達には、かなりの重労働になる。
「船はここに待機。後は小舟で近づく」
 そろそろ浅瀬が近づいてきた。船で近づくには危険がある。それに完全に入り江に入ったら、脱出するにも容易ではない。入り江の外から敵が来る可能性を考えれば。身動きできない状態で火矢を打ち込まれるのは、ごめんだ。
「静かすぎる」
 アルクはヘビーシールドを構えた。山賊討伐の時の弓矢による攻撃の記憶はまだ生々しい。
「良く近づけましたね」
 アハメスは前回だ捕したガレー船での接近を提案したが、この前の戦闘での損傷が酷く、修理には時間がかかり過ぎて間に合わなかった。後で水浸しにしたとはいえ、火矢を打ち込んで結構燃やした。
「海賊の尋問の結果、裏はなかったようだ。海賊のみを相手にすればいい」
 イムンでの鉱山開発に関わって、いずれかの者が依頼した襲撃ではないかと考えた者もいた。しかし、ただの海賊行為だったらしい。その分、姫君の身が無事か難しいところ。
「海賊に捕まった場合、命はともかくあっちの方まで無事かどうかは」
 アーディルは、女性二人がいるところで具体的な話は避けた。
「だろうな」

●救出
「部屋の前に一人か」
 エストゥーラのメロディで眠らせる。そこでファングが眠りこけた海賊を縛り上げる。
「ずぶ濡れで大丈夫?」
 ウォーターダイブでずぶ濡れになった緑郎をリリアが心配していた。春とはいえ、まだ夜は寒い。しかも海からの風ははるかに冷たい。自分の能力を誇示したかったが、リスクを考えていなかった。しかもこのところあまりまともなものも食べていない。ファングが捕まえた魚が唯一の食料、後は分けてもらったりとか。
「餓死のスリルを味わうのは勝手だが、いざって時に役に立たないようなことになるなよ」
 海に出るのには、各自が食料を確保しておかなければならない。補給ができないのだから、全員を危険に巻き込む。
「中の様子は?」
 リリアが様子を窺っているエストゥーラに尋ねた。
「入ろう」
 部屋に鍵はかかっていなかった。
「酷い」
 リリアは予想以上の状態に、思わず言葉が出ない。
「これじゃ鍵をかける必要はない」
 地球人の二人には少し刺激が強すぎたようだ。海賊に捕まった淑女がどのように扱われるか、分かったことだろう。裏がないことの証明でもある。
「これを」
 ファングがリカバーポーションを差し出した。
「肉体的には、それほど酷くない」
 とはいえ、比較の問題だろう。抵抗した時に殴られたらしい内出血の痕が目立たなくなっていく。部屋にあった毛布でくるむようにして連れ出す。ファングが抱えようと申し出たが、有力な戦力の手をふさぐわけにはいかない。エストゥーラが抱えた。その左右をリリアと緑郎が固める。背後をアーディルが見張る。
「表が騒がしくなってきた」
 綺羅が解放した奴隷たちと戦闘班が海賊達のねぐらを一つずつ潰して行ったが、さすがにすべて潰す前に騒ぎが起こった。解放時には警戒されてすんなりとはいかなかったが、一旦穴蔵から出されればどうにかなる。最初は船を奪って逃げ出すことを主張したが、下手に逃げ出しても陸を見る前に追いつかれると説得した。
「海賊の残りは少ない。ひるむな」
 レオンが切りかかってきた海賊を左腕のライトシールドで殴りつけて叫んだ。そうは言っても、寝込みを襲えたのは半数以下。捕虜の体力は低い上、奪い取った武器も少ない。
 ルゥナーもコアギュレイトを駆使して呪縛した相手を晴が殴りつけて始末する。まだ暗いなかで乱戦状態では弓矢は味方に当たる危険が大きいためこのような方法を使った。海賊相手なら問題ない。
 アハメスとアルクはそれぞれ単独で、海賊を切り伏せていく。揺れる船の上なら海賊の方が上手だろうが、安定した島の上なら遅れを取ることはない。残り僅かで制圧できる。しかしそこに、停泊したいた船から知らせが入った。
「海賊船が接近しつつある」

●激戦必死
 戻ってきた海賊船はまだこちらの状態に気づいていないようだ。島には攻め寄せる敵を相手にするような大型バリスタが何基か設置してある。制圧班、バリスタ班、そして実際に剣を交える戦闘班に別れての戦闘になるだろう。
 ここまで来て、海賊船を倒さず帰還はできない。そして、海賊のため込んだであろう宝はあるのだろうか?
 敵はゆっくりと向かって来る。戦いの幕は上がろうとしていた。