●リプレイ本文
●拷問って難しい
「調子はどうだ?」
ドレニック卿は潮風に吹かれた顔で船倉の急造拷問部屋に顔を出した。前回の戦闘で生き残った海賊3人を冒険者に預けて情報を尋問することになった。相手は海賊。拷問だろうとなんだろうと、聞き出せさえすれば良い。もっとも拷問は痛めつけるだけではない。痛めつけすぎれば死んでしまう。
「なかなか難しい」
拷問によって得られる情報次第で、海賊の拠点での有利不利が明確に別れる。ならば力を入れてそれぞれの方法で行い。もっとも3人の海賊に対して、拷問を行なうのに志願したのは、アハメス・パミ(ea3641)、高村綺羅(ea5694)、アーディル・エグザントゥス(ea6360)、レオン・バーナード(ea8029)、ルゥナー・ニエーバ(ea8846)、山田リリア(eb4239)、黒畑緑郎(eb4291)、斐河晴(eb4427)の8人。
ファング・ダイモス(ea7482)は見張りをしつつ、ラーンの投網を使って漁ができないかと奮戦している。漁用の魔法の投網ではあるが、海での3mは、さほど広いわけではない。そこで、撒き餌をしつつ、魚をおびき寄せては投網で取るという方法に切り換える。
「これで多少食料事情は、良くなったでしょう」
欠食冒険者を抱えると、冒険の依頼の最中に食料を集めることになる。今回は拷問という時間がとれたからできたことだ。毎回このようにうまくいくとは限らない。
「派手に水撒いたから、海賊船の食料庫は水浸し、戦利品の食料は全滅では」
拷問に加わらなかったアルク・スターリン(eb3096)も様子を見に来た。ドレニック卿の船は現在海賊の拠点の島から黙視されない距離に離れている。こちらからは海賊の拠点からこちらに向かってくる船があれば発見できるようにしているが、前回のようには簡単にはいかないだろう。
「あの海賊たちが襲撃に行く途中だったのは、積み荷に金目のものがないから確かだ。載せていた食料から考えると5日間ぐらいの行程だろう。襲撃の後にそのまま帰るとは限らないにしても10日以上戻らなければ怪しむだろう」
二人とも、目的は捕らわれた姫君の救出。まさに騎士の本分。ファングはファイターではあるが、アトランティスでは騎士待遇されている。領地も相続できない身分のみの騎士にとっては姫君の心を捉えて、持参金(領地)ごと姫君を得ることが生活につながるという裏事情もあるのだが、広く伝わる話は美化されるもので、吟遊詩人達は姫君の救出こそ、騎士の本分と讃える。
その二人の純粋な思いを成功させようと思ったのかはともかく、船倉での拷問はかなりのものになっていた。
「天界と物理法則や風俗習慣が違っても、人の心までは違わないだろう。海賊が痛みには慣れていても、そういう手は初めてだろうからな」
そう言って緑郎は心理学的に情報を聞き出せるか試したが、あまりにも知識と実践が不足していて話している内容すら理解させることができない。
「どうせ死刑になるにしても、楽に死にたかろう?」
捕虜に言ったが、それは肉体的拷問を行なう側でもいうセリフだった。
「天界のシンリガクとかは、効果がなさそうだな」
ドレニック卿は緑郎に尋問を見て、天界の心理学とはそんなものかと理解した。どうも情報は吐きそうにない。
「レオン、この海賊を日干しにしてやれ」
「荷物剥ぐだけじゃなくて捕まえた人たちにもあの扱いかよ、許せねぇな。今までした悪さの分までしっかり返させてやるぜ」
身代金を払えなかった人たちがどのような目にあわされたのかを実際に自分の目で確認したレオンは、日干しを提案していた。
「日当たりのいいところに両手・両足を縛って柱にくくりつけるか繋ぐかして、それでもってときおり海水をかけたり無理やりにでも飲ませたりしてさ」
海上で真水の無くなった時に海に出る者なら、渇きへの恐怖を持っている。海賊でもそれは同じだろう。
「余分に塩があれば、口に塩を詰めておくといいが、あいにく余裕はないから」
ドレニック卿も、この提案には非常に乗り気だった。レオンは日干しされる海賊を見張る。さらにアーディルも加わって、まずは痛めつけてからとまずは鞭打ちから始めた。
「最初に言っておくが、リカバーは使うなよ」
ドレニック卿は最初に釘を指した。
「しかし」
「情報を話すまでは殺されないって思われたら、絶対に吐かないぞ」
リカバーで回復させてしまえば、殺されないと思ってしまうことだろう。しかも傷まで回復してしまう。手足を切り取ってしまえば、再び生えてくることはないにしても。
「殺す寸前を見切ってくれよ」
拷問の難しいところは、実のところそこなのだ。痛みが大きいが命に関わらない部分をいかに知り尽くしているか。それを行なえるのが拷問のプロであり、拷問吏という職業なのだが、あいにくドレニック卿にはそのような役目の者を雇う必要などなかった。必要があったとしても要求する報酬を払えるほど経済的な余裕はない。
「好むところではないが、情報を得ねばならないので、やむなく。また、慣れてないので、実施には専門家の助言を」
とアハメスは、ドレニック卿に求めたが、そのような事情で専門家はいなかった。
綺羅は、海賊の一人と完全に一室に閉じこもっていた。捕えた海賊を椅子に座らせて手足と胴体を椅子に固定する。そしてどこに準備していたのか毒草知識を使って作った自白剤を用意しておいた。海賊に飲ませて聞き出す。さらに催淫効果も入れてある。いわば快楽も伴う拷問。男としてツライ状況にさせて懇願させるように仕向けて情報を引き出す。くの一だからこそ出来る方法である。
晴はオーソドックスに焼いた鏃を腿に突き刺し、抜いて塩をすり込み、それを徐々に急所へ近づける。という方法を行なっていた。しかし、その程度は慣れているのか、海賊は反応がない。そこにリリアが入ってきた。
「どう?」
「全然。この程度じゃ駄目みたいだ」
話して用済になったら確実に殺されると分かっているからだろう。
「私の故国でも、国に属さず武を振るう者は死刑に処せられます。対象の体力の減少を緩和し、対象が感じる痛みを増大させるのが基本方針ですよね? 爪の裏に針を差し込むのを含め、神経を直接痛めつける尋問を行うのはいかがでしょう? 私の知る限りの神経の有りかはお教えしますので」
天界人二人組による拷問は、かなりの効果があった。海賊がショック死してしまうまでは。
●潜入班
潜入班は夜に船を離れて、小舟で島に向かう。エストゥーラが指示を出して綺羅、アーディル、ファング、緑郎、リリアの5人が参加する。島に近づくと、緑郎がウォーターダイブを使って水中から偵察する。夜の海の中では見える範囲はかなり限られる。あいにく水中で使える懐中電灯は持っていない。持っていてもそのようなものを使ったら、こちらの存在を誇示してしまうだけだ。
「海賊から聞き出した情報によると」
入り江には見張りがいるが、崖になっている側にはいない。しかし崖を登るのはいくらなんでも無理だ。
「お姫様が捕まっている場所はだいだいこのあたりだから」
3人の海賊から聞き出した中で共通する内容から島の地図を作っておいた。
「奴隷にされた人たちは、たぶん、このあたりに穴蔵を掘って閉じ込めてあるんじゃないか」
下っぱの海賊では重要情報はあまり知らないらしく、3人とも噂で聞いた程度のことを本当に事だと信じているらしい。そのため、重要な情報ほどバラバラになっていく。捕虜は船長ごとに分けて閉じ込めてあるらしい。漕ぎ手は結構重要な戦利品のようだ。
「その漕ぎ手も3割程度は解放した。残りはあの倍の人数。みんなが暴れてくれれば」
綺羅は彼らの解放を優先させて、味方を増やす。せめて混乱させてくれれば。ただしこの前は船の上で、しかもルゥナーがリカバーで回復させていった。今回の漕ぎ手達がどのような状態かは、運次第だろう。このところ島への船の出入りはなかったから、体力は回復していると思う。
入り江ぎりぎりのところで見張りを発見した。エストゥーラのメロディで眠らせる。接近して殺したのでは、死体を隠しても異変があったことが分かってしまう。単に眠りこけていただけなら、潜入に気づくまで時間の余裕がある。
夜ならば警戒が薄い。綺羅は漕ぎ手の解放に、他の5人は捕らわれた姫君の救出に向かった。
●戦闘班
ドレニック卿は船を夜陰に乗じて島までかなり近づけていた。ドレニック卿配下の水夫たちは、船の守りに残す。島を攻略できたとしても、船を沈められては戻れなくなる。潜入班が、漕ぎ手の解放と姫君の救出を援護する為にアハメス、レオン、ルゥナー、アルク、晴の5人を連れて島に乗り込む。
見つかるかでは慎重にその後、潜入班が行動しやすいように陽動すること。うまく海賊どもを倒して島を制圧すること。さらに海賊がため込んであろう宝を確保したい。それがないと、今回は報酬らしきものはなくなってしまう。
「潜入班からの合図に周りが気づける状況じゃなかったら『スキヤキー!』と大声で叫ぶ」
晴は、そう宣言した。海賊の拠点ならば、前回以上に敵の人数は多いだろう。
「ところでスキヤキってなんだ?」
分かっているのは、晴だけだろう。まだアトランティスにもジ・アースにも存在しない食べ物。
「それなら海賊たちにも分からないだろうよ。しかし」
入り江には海賊船は1隻しか見ない。影に隠れているわけでもなさそうだ。相手にする敵の数は少なくなるはずだろうが、いつ敵が戻ってくるか分からない。
「夜更けに入ってくるようなことはしないだろうから、朝の内に制圧できれば問題ないんじゃないか?」
レオンは海賊が自分のネグラに戻るのにあえて、夜に近づく危険は侵さないだろうと考えた。慣れた水路でも座礁する危険は常にある。ドレニック卿の船だって、水深を図りながら接近している。重りを結びつけたロープで進路方向に投げ込んでは海底から引き上げるという作業を連続して行なって、船の進む方向に浅瀬が無いかと調べる。担当しているもの達には、かなりの重労働になる。
「船はここに待機。後は小舟で近づく」
そろそろ浅瀬が近づいてきた。船で近づくには危険がある。それに完全に入り江に入ったら、脱出するにも容易ではない。入り江の外から敵が来る可能性を考えれば。身動きできない状態で火矢を打ち込まれるのは、ごめんだ。
「静かすぎる」
アルクはヘビーシールドを構えた。山賊討伐の時の弓矢による攻撃の記憶はまだ生々しい。
「良く近づけましたね」
アハメスは前回だ捕したガレー船での接近を提案したが、この前の戦闘での損傷が酷く、修理には時間がかかり過ぎて間に合わなかった。後で水浸しにしたとはいえ、火矢を打ち込んで結構燃やした。
「海賊の尋問の結果、裏はなかったようだ。海賊のみを相手にすればいい」
イムンでの鉱山開発に関わって、いずれかの者が依頼した襲撃ではないかと考えた者もいた。しかし、ただの海賊行為だったらしい。その分、姫君の身が無事か難しいところ。
「海賊に捕まった場合、命はともかくあっちの方まで無事かどうかは」
アーディルは、女性二人がいるところで具体的な話は避けた。
「だろうな」
●救出
「部屋の前に一人か」
エストゥーラのメロディで眠らせる。そこでファングが眠りこけた海賊を縛り上げる。
「ずぶ濡れで大丈夫?」
ウォーターダイブでずぶ濡れになった緑郎をリリアが心配していた。春とはいえ、まだ夜は寒い。しかも海からの風ははるかに冷たい。自分の能力を誇示したかったが、リスクを考えていなかった。しかもこのところあまりまともなものも食べていない。ファングが捕まえた魚が唯一の食料、後は分けてもらったりとか。
「餓死のスリルを味わうのは勝手だが、いざって時に役に立たないようなことになるなよ」
海に出るのには、各自が食料を確保しておかなければならない。補給ができないのだから、全員を危険に巻き込む。
「中の様子は?」
リリアが様子を窺っているエストゥーラに尋ねた。
「入ろう」
部屋に鍵はかかっていなかった。
「酷い」
リリアは予想以上の状態に、思わず言葉が出ない。
「これじゃ鍵をかける必要はない」
地球人の二人には少し刺激が強すぎたようだ。海賊に捕まった淑女がどのように扱われるか、分かったことだろう。裏がないことの証明でもある。
「これを」
ファングがリカバーポーションを差し出した。
「肉体的には、それほど酷くない」
とはいえ、比較の問題だろう。抵抗した時に殴られたらしい内出血の痕が目立たなくなっていく。部屋にあった毛布でくるむようにして連れ出す。ファングが抱えようと申し出たが、有力な戦力の手をふさぐわけにはいかない。エストゥーラが抱えた。その左右をリリアと緑郎が固める。背後をアーディルが見張る。
「表が騒がしくなってきた」
綺羅が解放した奴隷たちと戦闘班が海賊達のねぐらを一つずつ潰して行ったが、さすがにすべて潰す前に騒ぎが起こった。解放時には警戒されてすんなりとはいかなかったが、一旦穴蔵から出されればどうにかなる。最初は船を奪って逃げ出すことを主張したが、下手に逃げ出しても陸を見る前に追いつかれると説得した。
「海賊の残りは少ない。ひるむな」
レオンが切りかかってきた海賊を左腕のライトシールドで殴りつけて叫んだ。そうは言っても、寝込みを襲えたのは半数以下。捕虜の体力は低い上、奪い取った武器も少ない。
ルゥナーもコアギュレイトを駆使して呪縛した相手を晴が殴りつけて始末する。まだ暗いなかで乱戦状態では弓矢は味方に当たる危険が大きいためこのような方法を使った。海賊相手なら問題ない。
アハメスとアルクはそれぞれ単独で、海賊を切り伏せていく。揺れる船の上なら海賊の方が上手だろうが、安定した島の上なら遅れを取ることはない。残り僅かで制圧できる。しかしそこに、停泊したいた船から知らせが入った。
「海賊船が接近しつつある」
●激戦必死
戻ってきた海賊船はまだこちらの状態に気づいていないようだ。島には攻め寄せる敵を相手にするような大型バリスタが何基か設置してある。制圧班、バリスタ班、そして実際に剣を交える戦闘班に別れての戦闘になるだろう。
ここまで来て、海賊船を倒さず帰還はできない。そして、海賊のため込んだであろう宝はあるのだろうか?
敵はゆっくりと向かって来る。戦いの幕は上がろうとしていた。