●リプレイ本文
●バリスタ確保
「さっきまで息のあった海賊から聞き出したところ、バリスタの位置はあの高台だそうだ」
入り江に入って来る船を狙いやすい位置にあるが、まだあそこまでは手が回っていない。戦力を分けてバリスタを使えるようにした方が良い。海賊船に本拠地での騒動を気づかれないようにして、入り江まで入り込ませ、バリスタで攻撃して再び外洋に逃げ出せないようにしなければならない。
「賊というのは逃がせば勢力を回復し、再び害悪を振りまくものです。退路を潰して確実に滅ぼすのが、力持つ者の義務というものでしょう」
アルク・スターリン(eb3096)の意見は正しい。下手に情けをかけると足元を掬われる。自分だけならともかく、被害は沿岸地帯一帯にも広がることになる。海賊を討伐するのは、打ち負かすだけでなく今後被害を出させない状態にしなければ意味がない。
バリスタには、斐河晴(eb4427)、アーディル・エグザントゥス(ea6360)の3人が向かった。抵抗が下火になったとはいえ、海賊の拠点だけにどこに海賊が隠れているか分からない。まだまだ油断はできない。
「こちらは迎撃準備です。急ぎましょう」
アハメス・パミ(ea3641)が、高村綺羅(ea5694)、レオン・バーナード(ea8029)、ルゥナー・ニエーバ(ea8846)、アルクを連れて迎撃の準備に入った。
「これをやる」
黒畑緑郎(eb4291)はウォーターダイブで潜り、敵船の舵を壊すと作戦をファング・ダイモス(ea7482)に話したところ、ソルフの実を1個くれた。
「無理はするな」
と釘を刺された。敵味方の矢やバリスタが撃ち合う最中では、海中から接近するにしても危険は大きい。いくらスリルを求める冒険者でも、心臓に風穴が空いてからでは遅い。
「海賊船が来るまでに制圧を終えるぞ」
ファングが、戦い続けている味方に檄を飛ばす。山田リリア(eb4239)と連れ立って、残っている戦闘の場に向かう。解放されて蜂起した者たちがかなり活躍していたが、それでも体力的には厳しい。異変が起こっていることを知られる前に制圧しなければならない。
「エストゥーラ、先に船に戻ってくれ」
ドレニック卿は取り敢えず救い出したロ・ロレア姫をエストゥーラに船まで送らせる。ついでに、一旦船を海賊船から見えない島の反対側を回航させて、海賊船が安心して入り江に入って来たあとに入り江を封鎖させるように命じた。
海賊船が入り江の中で回頭されないようにバリスタで攻撃をしかければ、ラムを食らうこともあるまい。
「それじゃ、船を漕げそうな人を何人か連れて行くよ」
ルゥナーによって負傷を回復された幾人かに小船を漕がせて、エストゥーラはロ・ロレア姫を連れて船に戻った。ほどなく、船は暗闇の中を移動していった。
陽精霊の活動が始まり、周囲が徐々に明るくなっていった。そろそろ海賊船の方でも動きだすだろう。海賊のとっても本拠地に入ってから朝飯を食いたいだろう。動きが鈍いところを見ると、まだ異変には気づいていない。
「使えそう?」
バリスタの周囲では戦闘らしい戦闘はなかった。負傷した幾人かの海賊が逃げ込んでいたが、アーディルがホイップを1回ふるごとに、一人仕留めて行った。晴はバリスタが何か細工されていないかと調べたが、何もされていないようだ。という以前に、あまり整備もされていない。
「こいつら、何も考えずにここに逃げ込んだらしい」
晴はバリスタの全体を見渡した。このような旧式な飛び道具は、地球では博物館くらいでしかお目にかかれない代物だ。構造がシンプルなだけに使い方はわかる。
「可動部分が動くか確認してくれ」
アーディルと晴が、バリスタに点検をはじめる。バリスタ用の矢は十分にあるようだ。連絡用においてあった油も取り出す。
「射程は入り江より先まで飛ぶだろう」
●制圧
「あとはこの先だけか」
体力的にはこれまでの生活でかなり酷い状況になっているものの、これを逃せば助かるチャンスはないため、解放された奴隷たちの勢いは強い。寝込みを襲われて組織だって抵抗の出来ない海賊を幾人かで囲んで、蛸殴り状態で始末していく。最初はあり合わせの打撃武器しかなかったため、撲殺。時折死に切れずにうめき声をあげる海賊が転がっていたりする。
しかし、比較的後に襲撃した建物は、周囲の状況から組織だって抵抗を始めていた。そこをファングが強引に力押しで突破し、抵抗心を吹き飛ばしていく。リリアは取りこぼした海賊が襲ってきた時のみ、アイスコフィンを使って動けなくしていく。
「明るくなってきた」
「分かっている」
生き残ったのは海賊でも手練なのか、ファングもかなり手こずっているようだ。
「火を付けられる心配はないでしょう」
周囲に可燃物がないことを確認してリリアは、アイスコフィンで海賊を始末する。
「邪魔した?」
「いや、騎士の戦いではないから」
強引な攻撃で、ファングも息があがっていた。実際には、けっこうあぶなかった。
「アイスコフィンが溶けた後で、しっかり尋問させてもらいましょう」
こいつならため込んだ宝のありかを知っていることでしょう。
このあとは、生き残った目ぼしい海賊を縛り上げて尋問する準備をする。
●入り江
「まだ気づいていない」
海賊船はゆっくりと入り江に入ってくる。
「完全に入り江に入るまで」
バリスタで待機している3人は、海賊船の動きを高台から見張っている。実際に射撃していないので、どの程度の精度かは分からない。
「舷側を撃ち抜ければいいだがな。喫水線に大穴あけられれば」
晴は海賊船を見つめる。多少強化してあるようだが、バリスタの威力なら撃ち抜けないことはないだろう。落下角度だけが問題。
「こちらの船も来たみたいだ」
高台からは、島を周回して入り江の入り口を押さえる位置に船が近づくきたのも見えた。
「そろそろいいか?」
海賊船は予想以上にゆっくり進んできていた。
「戦闘班は大丈夫だろうか?」
「腕っぷしの強い者たちがいるから。それよりもこっちは船を足止めするのが役目だ」
1本目を打ち込む。反動でバリスタが震える。思わず大丈夫かと思ってしまう。他にもあるが、扱える人が少ないため、1基のみの射撃になる。山なりのカーブを描いてバリスタの矢が海賊船に向かうが、大きく離れた海面に水柱が上がった。
「最初から命中はしないな」
着弾位置を確認して第2弾を放つ。
明るくなったから、海岸に築いたバリケードももう見えているだろう。戦闘班は、バリケードに潜んで海賊が上陸してくるのを待った。ただ一人、スリルを求める冒険者緑郎を除いて。緑郎はウォーターダイブを使って海賊船に接近していた。
「わ」
海中をどうにか泳ぐ緑郎の目の前に、何かが落ちてきた。もしもう少し泳ぐ速度が速かったら、頭に当たっていただろう。当たらなくても衝撃波だけでもかなりのダメージを受ける。あやうく失神するところだった。位置を補正しながら射撃を行なっているが、整備もろくにされていないバリスタでは命中弾を得るにはまだ時間がかかりそうだった。
海賊船からは、海岸線に向かって弓矢での攻撃が始まった。回頭する気配はない。
これに対して綺羅は海賊から奪い取った弓矢で射返すが、舷側が高い分だけ海賊に有利であった。射返すことによって隠れている場所が暴露されてしまって、数で圧倒されてしまう。
「上陸させてからが勝負」
アハメスが声をかける。レオンは小舟で攻撃を仕掛けたかったが、レオン自身を別にすると船上での戦闘では海賊の方が有利すぎた。
「緑郎の姿が見えない」
「緑郎なら海賊船の舵を壊すって海に向かった」
海賊船の周囲の海面には、海賊船を狙ったバリスタの矢が次々と水柱を生産していた。
「無謀な」
海賊船が進路を変えないのは、そのせいかも。
海賊たちは、小舟で上陸しないで、船ごと海岸にどしあげた。
それを迎え撃つ。
「なんだ、てめえらは! 」
海賊たちはてっきり、島を留守にしている間に抜け駆けした勢力があったと思っていたらしい。そのためゆっくりと様子を見ながら、入り江に入ってきた。ところが入り江から少し入ってみれば、ヘタなバリスタが攻撃をしかけてくる。結局あたったのは、海賊船が座礁してからだった。一回あたると、目標が固定しているため、命中が続く。海賊たちは、船から島に上陸した。
綺羅が走り出した。陸上なら疾走の術の効果も期待できる。疾走の術を駆使して上陸間もない海賊に正面攻撃をかけると見せかけて、回り込む。防御の不意を突いて、たちまち数人に手傷を負わせる。致命傷とまではいかないが、戦闘に支障がでる程度のダメージを与えていく。
海賊の注意が、綺羅に集中していく。その反対側からアハメスが遮蔽物の陰より飛び出した。右手に日本刀、左手にパリーイングダガーを持ち、手近にいた海賊に死の刃を送り込む。アルクは突撃せずに海賊の様子を観察していた。狙うは海賊にいる魔法使い。ウィザードの一人くらいはいるだろうと思っていた。海賊とともに船上にいるウィザードならサポート的な術を使って、組織だった攻撃を行なわせるだろう。慌てて首領狙いで飛び出すよりも、まずは着実に倒す。しかし、ウィザードらしい賊はいない。ここまで不利な状態なら建て直しを図るはずだが、それもない。
レオンは海賊が翻弄されている間に、海賊船に乗り込む。バリスタも射撃がやんでいた。制圧したと思ったのか、矢が無くなったのか。それは分からないが、丁度いい。
船の乗り込むと漕ぎ手が鎖でつながれている下甲板に降りていく。様子を窺うと、ここまではバリスタの攻撃の効果がなかったのか、監視の海賊が二人残っていた。ノーマルソードを構えると、体ごと突撃し海賊の一人をくし刺しにする。慌てて飛んでくるもう一人を左腕のライトシールドえ殴りつけ、ノーマルソードを引き抜くと袈裟懸けに切り付ける。監視しているような下っぱでは、尋問の必要もないから容赦なく止めを刺す。
そして鎖でつながれた人を一人解放する。長距離の航海をさせられていたため、即戦力になるほど体力は残っていない。鍵を渡して戦闘が終わるまで上に出ないように伝えると、戦場に戻っていく。
「ルゥナー、晴にリカバーを」
アーディルが晴に肩を貸して、運んできた。
「バリスタが壊れた。破片が」
アーディルも苦痛に膝をつく。ルゥナーが、慌ててリカバーで回復させる。他にも自力でたどり着く者や運ばれてきた者を回復させていく。
魔法使いがいないと確信したアルクが戦闘に加わる。船を座礁させた海賊には逃げ場はない。劣勢に追い込まれながらも、徐々に反撃は始まった。優勢ではあるものの、昨夜から戦い続けている。そろそろ疲労が目に見えて出てくる。怪我をしているものの、十分に休んでいた海賊はまだまだ余力がある。
ドレニック卿が首領と思われる海賊を追いつめている。首領の左右にはそれぞれ一人ずつ海賊がいるが、まったく戦力になっていないほどの猛攻を加えている。そして左右の海賊が首領を残して逃げ出した。
「こいつを片づけから、てめえらも始末してやる」
首領は逃げる海賊にそうどなったが、その前に自分自身さえどうにもならない状態になっている。わめきちらすが、それに対してドレニック卿は無言のままだ。普段の陽気な感じとは完全に異なる。眼光の鋭い殺気は、味方であっても視線をそらすに十分なほど。ほどなく首領の首が、血しぶきとともに空に舞い上がった。それを見ていた海賊どもが、海へと逃げ出した。海に入った海賊の一人が突然、悲鳴をあげた。緑郎がサンショートソードで心臓を一突きにしていた。緑郎の周囲に集まってくる海賊に、入り江を封鎖していたドレニック卿の船から矢が降り注いだ。
「無茶もいいところだ。スリルと無謀は違うよ」
緑郎をエストゥーラが助けあげて言った。
●海賊の宝?
「こんなものなのか?」
ロ・ロレア姫の船の物と思われる積み荷については、ロ・ロレア姫のものとして考える。海賊に捕まっていた者の中にその船の乗員が生きていた。
「所有者の不明な物については、こちらにもらえるだろう」
ドレニック卿は、奴隷にされていた者たちに貨幣以外の物を見せて、所有者の分かった物については引き渡した。
「アイテムはほとんど残らない」
アーディルは、所有者の見つからなかったガラクタを漁っていた。曰くありそうなものを見つけると、ドレニック卿にことわって自分のものにした。
慣例では船長に半分、それ以外を平等にわけるが、多少は働きに応じて差が出る。
「ロ・ロレア姫のことですが」
リリアは気になっていたことを、ドレニック卿に伝えた。医者ならではのこと。
「エーロン王子は優秀な人材がいて、うらやましい限りだ。もしそうであったならそのようにしてくれ」
外見からでは実際にどうなのかはわからない。12週までは処置が可能だという。
ルゥナーも、この後のことを心配していた。この状態では伺候などできないだろう。
「ミンス卿のところに、保護したことを伝える使者を送ろう。少しの間、静養してもらって」
積み荷は行き先が分かっているから、そのまま送れる。
戦闘が終わると同時に、レオンは眠気にまけてぶっ倒れた。他の面々も同じようなものだった。交代で睡眠を取ると、島に残っている食料で腹を満たしていく。翌日には船の修理が始まる。ドレニック卿の港まで行ける程度の修理を施す。島に捕らわれていた人の数ではドレニック卿の船だけでは乗り切れない。
宝の在り処を吐かせた後、海賊はマストから吊るした。
●寄港
都合3隻でドレニック卿の港についた。鹵獲した海賊船の修理は、だ終わっていなかった。
「うちは船大工が少ないからな」
ドレニック卿は苦笑した。海賊に奴隷にされていた人たちのうち、帰るところのある人たちには所有物に旅費を付けて送り出した。行き場の無い人たちは取り敢えず、ドレニック卿のところで身柄を預かって後々身の振り方を探すことにする。
冒険者たちは報酬を持ってウィルへの帰途に着く。
「ロ・ロレア姫を送って行くのかな」
「その時は、また依頼があるだろう」
今回の海賊の宝で、次回の依頼料は出せるだろう。冒険者たちの前方をエストゥーラが馬をせき立ててウィルに向かっていた。急な依頼らしい。