春風の海

■キャンペーンシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月06日〜06月12日

リプレイ公開日:2006年05月09日

●オープニング(第2話リプレイ)

●拷問って難しい
「調子はどうだ?」
 ドレニック卿は潮風に吹かれた顔で船倉の急造拷問部屋に顔を出した。前回の戦闘で生き残った海賊3人を冒険者に預けて情報を尋問することになった。相手は海賊。拷問だろうとなんだろうと、聞き出せさえすれば良い。もっとも拷問は痛めつけるだけではない。痛めつけすぎれば死んでしまう。
「なかなか難しい」
 拷問によって得られる情報次第で、海賊の拠点での有利不利が明確に別れる。ならば力を入れてそれぞれの方法で行い。もっとも3人の海賊に対して、拷問を行なうのに志願したのは、アハメス・パミ(ea3641)、高村綺羅(ea5694)、アーディル・エグザントゥス(ea6360)、レオン・バーナード(ea8029)、ルゥナー・ニエーバ(ea8846)、山田リリア(eb4239)、黒畑緑郎(eb4291)、斐河晴(eb4427)の8人。
 ファング・ダイモス(ea7482)は見張りをしつつ、ラーンの投網を使って漁ができないかと奮戦している。漁用の魔法の投網ではあるが、海での3mは、さほど広いわけではない。そこで、撒き餌をしつつ、魚をおびき寄せては投網で取るという方法に切り換える。
「これで多少食料事情は、良くなったでしょう」
 欠食冒険者を抱えると、冒険の依頼の最中に食料を集めることになる。今回は拷問という時間がとれたからできたことだ。毎回このようにうまくいくとは限らない。
「派手に水撒いたから、海賊船の食料庫は水浸し、戦利品の食料は全滅では」
 拷問に加わらなかったアルク・スターリン(eb3096)も様子を見に来た。ドレニック卿の船は現在海賊の拠点の島から黙視されない距離に離れている。こちらからは海賊の拠点からこちらに向かってくる船があれば発見できるようにしているが、前回のようには簡単にはいかないだろう。
「あの海賊たちが襲撃に行く途中だったのは、積み荷に金目のものがないから確かだ。載せていた食料から考えると5日間ぐらいの行程だろう。襲撃の後にそのまま帰るとは限らないにしても10日以上戻らなければ怪しむだろう」
 二人とも、目的は捕らわれた姫君の救出。まさに騎士の本分。ファングはファイターではあるが、アトランティスでは騎士待遇されている。領地も相続できない身分のみの騎士にとっては姫君の心を捉えて、持参金(領地)ごと姫君を得ることが生活につながるという裏事情もあるのだが、広く伝わる話は美化されるもので、吟遊詩人達は姫君の救出こそ、騎士の本分と讃える。
 その二人の純粋な思いを成功させようと思ったのかはともかく、船倉での拷問はかなりのものになっていた。
「天界と物理法則や風俗習慣が違っても、人の心までは違わないだろう。海賊が痛みには慣れていても、そういう手は初めてだろうからな」
 そう言って緑郎は心理学的に情報を聞き出せるか試したが、あまりにも知識と実践が不足していて話している内容すら理解させることができない。
「どうせ死刑になるにしても、楽に死にたかろう?」
 捕虜に言ったが、それは肉体的拷問を行なう側でもいうセリフだった。
「天界のシンリガクとかは、効果がなさそうだな」
 ドレニック卿は緑郎に尋問を見て、天界の心理学とはそんなものかと理解した。どうも情報は吐きそうにない。
「レオン、この海賊を日干しにしてやれ」
「荷物剥ぐだけじゃなくて捕まえた人たちにもあの扱いかよ、許せねぇな。今までした悪さの分までしっかり返させてやるぜ」
 身代金を払えなかった人たちがどのような目にあわされたのかを実際に自分の目で確認したレオンは、日干しを提案していた。
「日当たりのいいところに両手・両足を縛って柱にくくりつけるか繋ぐかして、それでもってときおり海水をかけたり無理やりにでも飲ませたりしてさ」
 海上で真水の無くなった時に海に出る者なら、渇きへの恐怖を持っている。海賊でもそれは同じだろう。
「余分に塩があれば、口に塩を詰めておくといいが、あいにく余裕はないから」
 ドレニック卿も、この提案には非常に乗り気だった。レオンは日干しされる海賊を見張る。さらにアーディルも加わって、まずは痛めつけてからとまずは鞭打ちから始めた。
「最初に言っておくが、リカバーは使うなよ」
 ドレニック卿は最初に釘を指した。
「しかし」
「情報を話すまでは殺されないって思われたら、絶対に吐かないぞ」
 リカバーで回復させてしまえば、殺されないと思ってしまうことだろう。しかも傷まで回復してしまう。手足を切り取ってしまえば、再び生えてくることはないにしても。
「殺す寸前を見切ってくれよ」
 拷問の難しいところは、実のところそこなのだ。痛みが大きいが命に関わらない部分をいかに知り尽くしているか。それを行なえるのが拷問のプロであり、拷問吏という職業なのだが、あいにくドレニック卿にはそのような役目の者を雇う必要などなかった。必要があったとしても要求する報酬を払えるほど経済的な余裕はない。
「好むところではないが、情報を得ねばならないので、やむなく。また、慣れてないので、実施には専門家の助言を」
 とアハメスは、ドレニック卿に求めたが、そのような事情で専門家はいなかった。
 綺羅は、海賊の一人と完全に一室に閉じこもっていた。捕えた海賊を椅子に座らせて手足と胴体を椅子に固定する。そしてどこに準備していたのか毒草知識を使って作った自白剤を用意しておいた。海賊に飲ませて聞き出す。さらに催淫効果も入れてある。いわば快楽も伴う拷問。男としてツライ状況にさせて懇願させるように仕向けて情報を引き出す。くの一だからこそ出来る方法である。
 晴はオーソドックスに焼いた鏃を腿に突き刺し、抜いて塩をすり込み、それを徐々に急所へ近づける。という方法を行なっていた。しかし、その程度は慣れているのか、海賊は反応がない。そこにリリアが入ってきた。
「どう?」
「全然。この程度じゃ駄目みたいだ」
 話して用済になったら確実に殺されると分かっているからだろう。
「私の故国でも、国に属さず武を振るう者は死刑に処せられます。対象の体力の減少を緩和し、対象が感じる痛みを増大させるのが基本方針ですよね? 爪の裏に針を差し込むのを含め、神経を直接痛めつける尋問を行うのはいかがでしょう? 私の知る限りの神経の有りかはお教えしますので」
 天界人二人組による拷問は、かなりの効果があった。海賊がショック死してしまうまでは。

●潜入班
 潜入班は夜に船を離れて、小舟で島に向かう。エストゥーラが指示を出して綺羅、アーディル、ファング、緑郎、リリアの5人が参加する。島に近づくと、緑郎がウォーターダイブを使って水中から偵察する。夜の海の中では見える範囲はかなり限られる。あいにく水中で使える懐中電灯は持っていない。持っていてもそのようなものを使ったら、こちらの存在を誇示してしまうだけだ。
「海賊から聞き出した情報によると」
 入り江には見張りがいるが、崖になっている側にはいない。しかし崖を登るのはいくらなんでも無理だ。
「お姫様が捕まっている場所はだいだいこのあたりだから」
 3人の海賊から聞き出した中で共通する内容から島の地図を作っておいた。
「奴隷にされた人たちは、たぶん、このあたりに穴蔵を掘って閉じ込めてあるんじゃないか」
 下っぱの海賊では重要情報はあまり知らないらしく、3人とも噂で聞いた程度のことを本当に事だと信じているらしい。そのため、重要な情報ほどバラバラになっていく。捕虜は船長ごとに分けて閉じ込めてあるらしい。漕ぎ手は結構重要な戦利品のようだ。
「その漕ぎ手も3割程度は解放した。残りはあの倍の人数。みんなが暴れてくれれば」
 綺羅は彼らの解放を優先させて、味方を増やす。せめて混乱させてくれれば。ただしこの前は船の上で、しかもルゥナーがリカバーで回復させていった。今回の漕ぎ手達がどのような状態かは、運次第だろう。このところ島への船の出入りはなかったから、体力は回復していると思う。
 入り江ぎりぎりのところで見張りを発見した。エストゥーラのメロディで眠らせる。接近して殺したのでは、死体を隠しても異変があったことが分かってしまう。単に眠りこけていただけなら、潜入に気づくまで時間の余裕がある。
 夜ならば警戒が薄い。綺羅は漕ぎ手の解放に、他の5人は捕らわれた姫君の救出に向かった。

●戦闘班
 ドレニック卿は船を夜陰に乗じて島までかなり近づけていた。ドレニック卿配下の水夫たちは、船の守りに残す。島を攻略できたとしても、船を沈められては戻れなくなる。潜入班が、漕ぎ手の解放と姫君の救出を援護する為にアハメス、レオン、ルゥナー、アルク、晴の5人を連れて島に乗り込む。
 見つかるかでは慎重にその後、潜入班が行動しやすいように陽動すること。うまく海賊どもを倒して島を制圧すること。さらに海賊がため込んであろう宝を確保したい。それがないと、今回は報酬らしきものはなくなってしまう。
「潜入班からの合図に周りが気づける状況じゃなかったら『スキヤキー!』と大声で叫ぶ」
 晴は、そう宣言した。海賊の拠点ならば、前回以上に敵の人数は多いだろう。
「ところでスキヤキってなんだ?」
 分かっているのは、晴だけだろう。まだアトランティスにもジ・アースにも存在しない食べ物。
「それなら海賊たちにも分からないだろうよ。しかし」
 入り江には海賊船は1隻しか見ない。影に隠れているわけでもなさそうだ。相手にする敵の数は少なくなるはずだろうが、いつ敵が戻ってくるか分からない。
「夜更けに入ってくるようなことはしないだろうから、朝の内に制圧できれば問題ないんじゃないか?」
 レオンは海賊が自分のネグラに戻るのにあえて、夜に近づく危険は侵さないだろうと考えた。慣れた水路でも座礁する危険は常にある。ドレニック卿の船だって、水深を図りながら接近している。重りを結びつけたロープで進路方向に投げ込んでは海底から引き上げるという作業を連続して行なって、船の進む方向に浅瀬が無いかと調べる。担当しているもの達には、かなりの重労働になる。
「船はここに待機。後は小舟で近づく」
 そろそろ浅瀬が近づいてきた。船で近づくには危険がある。それに完全に入り江に入ったら、脱出するにも容易ではない。入り江の外から敵が来る可能性を考えれば。身動きできない状態で火矢を打ち込まれるのは、ごめんだ。
「静かすぎる」
 アルクはヘビーシールドを構えた。山賊討伐の時の弓矢による攻撃の記憶はまだ生々しい。
「良く近づけましたね」
 アハメスは前回だ捕したガレー船での接近を提案したが、この前の戦闘での損傷が酷く、修理には時間がかかり過ぎて間に合わなかった。後で水浸しにしたとはいえ、火矢を打ち込んで結構燃やした。
「海賊の尋問の結果、裏はなかったようだ。海賊のみを相手にすればいい」
 イムンでの鉱山開発に関わって、いずれかの者が依頼した襲撃ではないかと考えた者もいた。しかし、ただの海賊行為だったらしい。その分、姫君の身が無事か難しいところ。
「海賊に捕まった場合、命はともかくあっちの方まで無事かどうかは」
 アーディルは、女性二人がいるところで具体的な話は避けた。
「だろうな」

●救出
「部屋の前に一人か」
 エストゥーラのメロディで眠らせる。そこでファングが眠りこけた海賊を縛り上げる。
「ずぶ濡れで大丈夫?」
 ウォーターダイブでずぶ濡れになった緑郎をリリアが心配していた。春とはいえ、まだ夜は寒い。しかも海からの風ははるかに冷たい。自分の能力を誇示したかったが、リスクを考えていなかった。しかもこのところあまりまともなものも食べていない。ファングが捕まえた魚が唯一の食料、後は分けてもらったりとか。
「餓死のスリルを味わうのは勝手だが、いざって時に役に立たないようなことになるなよ」
 海に出るのには、各自が食料を確保しておかなければならない。補給ができないのだから、全員を危険に巻き込む。
「中の様子は?」
 リリアが様子を窺っているエストゥーラに尋ねた。
「入ろう」
 部屋に鍵はかかっていなかった。
「酷い」
 リリアは予想以上の状態に、思わず言葉が出ない。
「これじゃ鍵をかける必要はない」
 地球人の二人には少し刺激が強すぎたようだ。海賊に捕まった淑女がどのように扱われるか、分かったことだろう。裏がないことの証明でもある。
「これを」
 ファングがリカバーポーションを差し出した。
「肉体的には、それほど酷くない」
 とはいえ、比較の問題だろう。抵抗した時に殴られたらしい内出血の痕が目立たなくなっていく。部屋にあった毛布でくるむようにして連れ出す。ファングが抱えようと申し出たが、有力な戦力の手をふさぐわけにはいかない。エストゥーラが抱えた。その左右をリリアと緑郎が固める。背後をアーディルが見張る。
「表が騒がしくなってきた」
 綺羅が解放した奴隷たちと戦闘班が海賊達のねぐらを一つずつ潰して行ったが、さすがにすべて潰す前に騒ぎが起こった。解放時には警戒されてすんなりとはいかなかったが、一旦穴蔵から出されればどうにかなる。最初は船を奪って逃げ出すことを主張したが、下手に逃げ出しても陸を見る前に追いつかれると説得した。
「海賊の残りは少ない。ひるむな」
 レオンが切りかかってきた海賊を左腕のライトシールドで殴りつけて叫んだ。そうは言っても、寝込みを襲えたのは半数以下。捕虜の体力は低い上、奪い取った武器も少ない。
 ルゥナーもコアギュレイトを駆使して呪縛した相手を晴が殴りつけて始末する。まだ暗いなかで乱戦状態では弓矢は味方に当たる危険が大きいためこのような方法を使った。海賊相手なら問題ない。
 アハメスとアルクはそれぞれ単独で、海賊を切り伏せていく。揺れる船の上なら海賊の方が上手だろうが、安定した島の上なら遅れを取ることはない。残り僅かで制圧できる。しかしそこに、停泊したいた船から知らせが入った。
「海賊船が接近しつつある」

●激戦必死
 戻ってきた海賊船はまだこちらの状態に気づいていないようだ。島には攻め寄せる敵を相手にするような大型バリスタが何基か設置してある。制圧班、バリスタ班、そして実際に剣を交える戦闘班に別れての戦闘になるだろう。
 ここまで来て、海賊船を倒さず帰還はできない。そして、海賊のため込んだであろう宝はあるのだろうか?
 敵はゆっくりと向かって来る。戦いの幕は上がろうとしていた。

●今回の参加者

 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8846 ルゥナー・ニエーバ(26歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3096 アルク・スターリン(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4239 山田 リリア(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4291 黒畑 緑郎(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4427 斐河 晴(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●バリスタ確保
「さっきまで息のあった海賊から聞き出したところ、バリスタの位置はあの高台だそうだ」
 入り江に入って来る船を狙いやすい位置にあるが、まだあそこまでは手が回っていない。戦力を分けてバリスタを使えるようにした方が良い。海賊船に本拠地での騒動を気づかれないようにして、入り江まで入り込ませ、バリスタで攻撃して再び外洋に逃げ出せないようにしなければならない。
「賊というのは逃がせば勢力を回復し、再び害悪を振りまくものです。退路を潰して確実に滅ぼすのが、力持つ者の義務というものでしょう」
 アルク・スターリン(eb3096)の意見は正しい。下手に情けをかけると足元を掬われる。自分だけならともかく、被害は沿岸地帯一帯にも広がることになる。海賊を討伐するのは、打ち負かすだけでなく今後被害を出させない状態にしなければ意味がない。
 バリスタには、斐河晴(eb4427)、アーディル・エグザントゥス(ea6360)の3人が向かった。抵抗が下火になったとはいえ、海賊の拠点だけにどこに海賊が隠れているか分からない。まだまだ油断はできない。
「こちらは迎撃準備です。急ぎましょう」
 アハメス・パミ(ea3641)が、高村綺羅(ea5694)、レオン・バーナード(ea8029)、ルゥナー・ニエーバ(ea8846)、アルクを連れて迎撃の準備に入った。
「これをやる」
 黒畑緑郎(eb4291)はウォーターダイブで潜り、敵船の舵を壊すと作戦をファング・ダイモス(ea7482)に話したところ、ソルフの実を1個くれた。
「無理はするな」
 と釘を刺された。敵味方の矢やバリスタが撃ち合う最中では、海中から接近するにしても危険は大きい。いくらスリルを求める冒険者でも、心臓に風穴が空いてからでは遅い。
「海賊船が来るまでに制圧を終えるぞ」
 ファングが、戦い続けている味方に檄を飛ばす。山田リリア(eb4239)と連れ立って、残っている戦闘の場に向かう。解放されて蜂起した者たちがかなり活躍していたが、それでも体力的には厳しい。異変が起こっていることを知られる前に制圧しなければならない。
「エストゥーラ、先に船に戻ってくれ」
 ドレニック卿は取り敢えず救い出したロ・ロレア姫をエストゥーラに船まで送らせる。ついでに、一旦船を海賊船から見えない島の反対側を回航させて、海賊船が安心して入り江に入って来たあとに入り江を封鎖させるように命じた。
 海賊船が入り江の中で回頭されないようにバリスタで攻撃をしかければ、ラムを食らうこともあるまい。
「それじゃ、船を漕げそうな人を何人か連れて行くよ」
 ルゥナーによって負傷を回復された幾人かに小船を漕がせて、エストゥーラはロ・ロレア姫を連れて船に戻った。ほどなく、船は暗闇の中を移動していった。
 陽精霊の活動が始まり、周囲が徐々に明るくなっていった。そろそろ海賊船の方でも動きだすだろう。海賊のとっても本拠地に入ってから朝飯を食いたいだろう。動きが鈍いところを見ると、まだ異変には気づいていない。
「使えそう?」
 バリスタの周囲では戦闘らしい戦闘はなかった。負傷した幾人かの海賊が逃げ込んでいたが、アーディルがホイップを1回ふるごとに、一人仕留めて行った。晴はバリスタが何か細工されていないかと調べたが、何もされていないようだ。という以前に、あまり整備もされていない。
「こいつら、何も考えずにここに逃げ込んだらしい」
 晴はバリスタの全体を見渡した。このような旧式な飛び道具は、地球では博物館くらいでしかお目にかかれない代物だ。構造がシンプルなだけに使い方はわかる。
「可動部分が動くか確認してくれ」
 アーディルと晴が、バリスタに点検をはじめる。バリスタ用の矢は十分にあるようだ。連絡用においてあった油も取り出す。
「射程は入り江より先まで飛ぶだろう」

●制圧
「あとはこの先だけか」
 体力的にはこれまでの生活でかなり酷い状況になっているものの、これを逃せば助かるチャンスはないため、解放された奴隷たちの勢いは強い。寝込みを襲われて組織だって抵抗の出来ない海賊を幾人かで囲んで、蛸殴り状態で始末していく。最初はあり合わせの打撃武器しかなかったため、撲殺。時折死に切れずにうめき声をあげる海賊が転がっていたりする。
 しかし、比較的後に襲撃した建物は、周囲の状況から組織だって抵抗を始めていた。そこをファングが強引に力押しで突破し、抵抗心を吹き飛ばしていく。リリアは取りこぼした海賊が襲ってきた時のみ、アイスコフィンを使って動けなくしていく。
「明るくなってきた」
「分かっている」
 生き残ったのは海賊でも手練なのか、ファングもかなり手こずっているようだ。
「火を付けられる心配はないでしょう」
 周囲に可燃物がないことを確認してリリアは、アイスコフィンで海賊を始末する。
「邪魔した?」
「いや、騎士の戦いではないから」
 強引な攻撃で、ファングも息があがっていた。実際には、けっこうあぶなかった。
「アイスコフィンが溶けた後で、しっかり尋問させてもらいましょう」
 こいつならため込んだ宝のありかを知っていることでしょう。
 このあとは、生き残った目ぼしい海賊を縛り上げて尋問する準備をする。

●入り江
「まだ気づいていない」
 海賊船はゆっくりと入り江に入ってくる。
「完全に入り江に入るまで」
 バリスタで待機している3人は、海賊船の動きを高台から見張っている。実際に射撃していないので、どの程度の精度かは分からない。
「舷側を撃ち抜ければいいだがな。喫水線に大穴あけられれば」
 晴は海賊船を見つめる。多少強化してあるようだが、バリスタの威力なら撃ち抜けないことはないだろう。落下角度だけが問題。
「こちらの船も来たみたいだ」
 高台からは、島を周回して入り江の入り口を押さえる位置に船が近づくきたのも見えた。
「そろそろいいか?」
 海賊船は予想以上にゆっくり進んできていた。
「戦闘班は大丈夫だろうか?」
「腕っぷしの強い者たちがいるから。それよりもこっちは船を足止めするのが役目だ」
 1本目を打ち込む。反動でバリスタが震える。思わず大丈夫かと思ってしまう。他にもあるが、扱える人が少ないため、1基のみの射撃になる。山なりのカーブを描いてバリスタの矢が海賊船に向かうが、大きく離れた海面に水柱が上がった。
「最初から命中はしないな」
 着弾位置を確認して第2弾を放つ。
 明るくなったから、海岸に築いたバリケードももう見えているだろう。戦闘班は、バリケードに潜んで海賊が上陸してくるのを待った。ただ一人、スリルを求める冒険者緑郎を除いて。緑郎はウォーターダイブを使って海賊船に接近していた。
「わ」
 海中をどうにか泳ぐ緑郎の目の前に、何かが落ちてきた。もしもう少し泳ぐ速度が速かったら、頭に当たっていただろう。当たらなくても衝撃波だけでもかなりのダメージを受ける。あやうく失神するところだった。位置を補正しながら射撃を行なっているが、整備もろくにされていないバリスタでは命中弾を得るにはまだ時間がかかりそうだった。
 海賊船からは、海岸線に向かって弓矢での攻撃が始まった。回頭する気配はない。
 これに対して綺羅は海賊から奪い取った弓矢で射返すが、舷側が高い分だけ海賊に有利であった。射返すことによって隠れている場所が暴露されてしまって、数で圧倒されてしまう。
「上陸させてからが勝負」
 アハメスが声をかける。レオンは小舟で攻撃を仕掛けたかったが、レオン自身を別にすると船上での戦闘では海賊の方が有利すぎた。
「緑郎の姿が見えない」
「緑郎なら海賊船の舵を壊すって海に向かった」
 海賊船の周囲の海面には、海賊船を狙ったバリスタの矢が次々と水柱を生産していた。
「無謀な」
 海賊船が進路を変えないのは、そのせいかも。
 海賊たちは、小舟で上陸しないで、船ごと海岸にどしあげた。
 それを迎え撃つ。
「なんだ、てめえらは! 」
 海賊たちはてっきり、島を留守にしている間に抜け駆けした勢力があったと思っていたらしい。そのためゆっくりと様子を見ながら、入り江に入ってきた。ところが入り江から少し入ってみれば、ヘタなバリスタが攻撃をしかけてくる。結局あたったのは、海賊船が座礁してからだった。一回あたると、目標が固定しているため、命中が続く。海賊たちは、船から島に上陸した。
 綺羅が走り出した。陸上なら疾走の術の効果も期待できる。疾走の術を駆使して上陸間もない海賊に正面攻撃をかけると見せかけて、回り込む。防御の不意を突いて、たちまち数人に手傷を負わせる。致命傷とまではいかないが、戦闘に支障がでる程度のダメージを与えていく。
 海賊の注意が、綺羅に集中していく。その反対側からアハメスが遮蔽物の陰より飛び出した。右手に日本刀、左手にパリーイングダガーを持ち、手近にいた海賊に死の刃を送り込む。アルクは突撃せずに海賊の様子を観察していた。狙うは海賊にいる魔法使い。ウィザードの一人くらいはいるだろうと思っていた。海賊とともに船上にいるウィザードならサポート的な術を使って、組織だった攻撃を行なわせるだろう。慌てて首領狙いで飛び出すよりも、まずは着実に倒す。しかし、ウィザードらしい賊はいない。ここまで不利な状態なら建て直しを図るはずだが、それもない。
 レオンは海賊が翻弄されている間に、海賊船に乗り込む。バリスタも射撃がやんでいた。制圧したと思ったのか、矢が無くなったのか。それは分からないが、丁度いい。
 船の乗り込むと漕ぎ手が鎖でつながれている下甲板に降りていく。様子を窺うと、ここまではバリスタの攻撃の効果がなかったのか、監視の海賊が二人残っていた。ノーマルソードを構えると、体ごと突撃し海賊の一人をくし刺しにする。慌てて飛んでくるもう一人を左腕のライトシールドえ殴りつけ、ノーマルソードを引き抜くと袈裟懸けに切り付ける。監視しているような下っぱでは、尋問の必要もないから容赦なく止めを刺す。
 そして鎖でつながれた人を一人解放する。長距離の航海をさせられていたため、即戦力になるほど体力は残っていない。鍵を渡して戦闘が終わるまで上に出ないように伝えると、戦場に戻っていく。
「ルゥナー、晴にリカバーを」
 アーディルが晴に肩を貸して、運んできた。
「バリスタが壊れた。破片が」
 アーディルも苦痛に膝をつく。ルゥナーが、慌ててリカバーで回復させる。他にも自力でたどり着く者や運ばれてきた者を回復させていく。
 魔法使いがいないと確信したアルクが戦闘に加わる。船を座礁させた海賊には逃げ場はない。劣勢に追い込まれながらも、徐々に反撃は始まった。優勢ではあるものの、昨夜から戦い続けている。そろそろ疲労が目に見えて出てくる。怪我をしているものの、十分に休んでいた海賊はまだまだ余力がある。
 ドレニック卿が首領と思われる海賊を追いつめている。首領の左右にはそれぞれ一人ずつ海賊がいるが、まったく戦力になっていないほどの猛攻を加えている。そして左右の海賊が首領を残して逃げ出した。
「こいつを片づけから、てめえらも始末してやる」
 首領は逃げる海賊にそうどなったが、その前に自分自身さえどうにもならない状態になっている。わめきちらすが、それに対してドレニック卿は無言のままだ。普段の陽気な感じとは完全に異なる。眼光の鋭い殺気は、味方であっても視線をそらすに十分なほど。ほどなく首領の首が、血しぶきとともに空に舞い上がった。それを見ていた海賊どもが、海へと逃げ出した。海に入った海賊の一人が突然、悲鳴をあげた。緑郎がサンショートソードで心臓を一突きにしていた。緑郎の周囲に集まってくる海賊に、入り江を封鎖していたドレニック卿の船から矢が降り注いだ。
「無茶もいいところだ。スリルと無謀は違うよ」
 緑郎をエストゥーラが助けあげて言った。

●海賊の宝?
「こんなものなのか?」
 ロ・ロレア姫の船の物と思われる積み荷については、ロ・ロレア姫のものとして考える。海賊に捕まっていた者の中にその船の乗員が生きていた。
「所有者の不明な物については、こちらにもらえるだろう」
 ドレニック卿は、奴隷にされていた者たちに貨幣以外の物を見せて、所有者の分かった物については引き渡した。
「アイテムはほとんど残らない」
 アーディルは、所有者の見つからなかったガラクタを漁っていた。曰くありそうなものを見つけると、ドレニック卿にことわって自分のものにした。
 慣例では船長に半分、それ以外を平等にわけるが、多少は働きに応じて差が出る。
「ロ・ロレア姫のことですが」
 リリアは気になっていたことを、ドレニック卿に伝えた。医者ならではのこと。
「エーロン王子は優秀な人材がいて、うらやましい限りだ。もしそうであったならそのようにしてくれ」
 外見からでは実際にどうなのかはわからない。12週までは処置が可能だという。
 ルゥナーも、この後のことを心配していた。この状態では伺候などできないだろう。
「ミンス卿のところに、保護したことを伝える使者を送ろう。少しの間、静養してもらって」
 積み荷は行き先が分かっているから、そのまま送れる。
 戦闘が終わると同時に、レオンは眠気にまけてぶっ倒れた。他の面々も同じようなものだった。交代で睡眠を取ると、島に残っている食料で腹を満たしていく。翌日には船の修理が始まる。ドレニック卿の港まで行ける程度の修理を施す。島に捕らわれていた人の数ではドレニック卿の船だけでは乗り切れない。
 宝の在り処を吐かせた後、海賊はマストから吊るした。

●寄港
 都合3隻でドレニック卿の港についた。鹵獲した海賊船の修理は、だ終わっていなかった。
「うちは船大工が少ないからな」
 ドレニック卿は苦笑した。海賊に奴隷にされていた人たちのうち、帰るところのある人たちには所有物に旅費を付けて送り出した。行き場の無い人たちは取り敢えず、ドレニック卿のところで身柄を預かって後々身の振り方を探すことにする。
 冒険者たちは報酬を持ってウィルへの帰途に着く。
「ロ・ロレア姫を送って行くのかな」
「その時は、また依頼があるだろう」
 今回の海賊の宝で、次回の依頼料は出せるだろう。冒険者たちの前方をエストゥーラが馬をせき立ててウィルに向かっていた。急な依頼らしい。