●リプレイ本文
青葉城の奥深く、押し込められた牢屋の中、結城友矩(ea2046)は自らの奥に秘めた闘気を全解放しようとする。
不自然な体勢がそれを妨げるが、いくつもの反復の中から、淡い桃色をした、力を引き出す事に成功した。
オーラエリベイションにより高まる全身の闘気───続けて、発動したオーラパワーは頭頂から爪先まで気を纏わせた。
闇の中、不敵な笑みを浮かべる友矩。
気合いもろとも力を入れると、全身を縛るロープが体に食い込みながらも、次々と爆ぜていく。
続けて負傷をオーラリカバーで癒す。ほとんど時間をおかずに行う離れ業である。
そのまま、牢の格子を検分すると、無言の気合いと共に鍵を粉砕した。
新陰流を修めれば、巻藁でも、まるで紙切れの様に破砕できる。ましてや新陰流名誉の腕前の友矩にかかれば、言わずもがなである。
「何事か!」
流石に牢番たちは気づいた。俊敏に飛びかかる友矩は、闘気を纏った腕が、脚が、拍子を取るかのように、無駄なく動いていく。
牢番が繰り出した刺又を弾いた。流麗な動きは、まるで風に舞う菊花の如し、足で攻撃を危なげなく捌いて、手で屍山血河を作る。
加勢を呼ぼうとする衛兵を最優先に潰した。囲まれ、態勢を整えられては一巻の終わりだ。
「つ、強すぎる! 鬼、鬼神か───?」
あえて、ひとり残した隊長格を刺又で組み敷き、闘気を纏った腕で、喉当ての上から、プレッシャーをかけた。
「拙者の装備は何処だ?」
「お前は『天下の大猪』───」
「口は利かなくていい。視線で答えろ。嘘をついたら‥‥」
その後、しばらくして牢屋のある棟から火が出た。
友矩は、けが人に自分の装備を纏わせ、周囲に火が出たと、吠えて回り、混乱で出来た死角で、装備を交換する。
消化の混乱の中、友矩は紙一重だったが、城外に脱出成功。
「さて、アイーダとマギーどのを待つのも業腹。帰りの船の手配をした後は、拙者も平泉に向かうか? しかし、解せぬでござるな、確かに先週、酒場で少々派手な振る舞いをしたとはいえ、集中して狙われるとは」
時を前後して、マギー・フランシスカ(ea5985)は商人ギルド(ジャパン風に言うところの座、特にマギーは気にしなかったが)で、情報収集をして、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)をフォローする事にした。
商人にとっては各地の有力者の情報も大事だという事で、色々と聞き出す。
そこで、奥州藤原氏の当主の病状や後継者の人となりについて調べた所、
秀衡の病状はみっつばかり説が分かれていた。背中の腫れ物という説、肝臓を患っている、息子から毒を飼われている。
今は小康状態だが、しかし、ひとつ無理をすればどうなるか判らない。
「フォフォッ、やれやれ、では希少な薬草などを持って行けば、迎えられるかのう?」
「それは、難しいと存じますが。噂ですが、秀衡公の死を願う輩もいるようですからな。余程の信用を得なければ」
商人の言葉にマギーもうなずく。道理である、薬は毒ともなる。全幅の信頼がなければ買わない。
「秀衡公の信を得る方法は無いものかのう」
「そんな秘策があれば、私どもが欲しゅうございますな」
マギーはさりげなさを装って、奥州公の評判、人格を探った。
まずは傑物である。
平泉の発展は秀衡の手腕。近頃は鬼の被害が増えているが、秀衡が健在であれば好きにはさせぬ、という声は多い。
「やはり伊達が江戸に行ったせいで、悪路王の押さえが利かぬのでしょうかな」
剛柔合わせた秀衡の政治力と、妖怪や鬼を圧した伊達の武力を懐かしむ‥‥どちらも今の奥州には無いものか。
「しかし泰衡殿が居られよう」
「とてもとても」
商人は苦い顔を見せた。秀衡の嫡男である泰衡に関しては、偉大な父の影に隠れた凡庸な男という評判だ。悪い方ではないし、愚物ではないが‥‥印象に残るほどの何かが無い。
平時なら理想的な藩主だが、果たしてこの乱世を乗り切れるかという不安は平泉でもあるようだ。声は大きくないが、伊達政宗や他の藩主が奥州王の地位を狙っているとの評もある。
「国衡様と協力して平泉を守って貰いたいのですが‥‥」
商人は言葉を濁したが、兄弟間に確執があるらしい。無理もない話だ、マギーは喉から手が出るほど興味があったが、ぐっと抑えて尋ねた。
「何かあるのですかな?」
「いいえ、特には」
商人は何かが起こる前に秀衡が本復する事を祈っているようだ。居城に関しては、特に変わった情報が無かった。加えて、最近の米相場、鉄の相場は右肩上がり、源徳と奥州の戦いはまだ終わらない、という見通しであった。
(できれば遠目で良いので泰衛の顔を拝んでおきたいのう)
風評と実際の人品は必ずしも一致しない。実物を拝むのが一番だが、貴人に近づくのは危険だ。特に妙案もなく、諦めた。
「時に奥州の産と言えば何ですかのう?」
「それはあなた、『黄金』ですよ」
近年は甲斐や佐渡など、各地で有望な金山が発見されたというが、奥州金は奥州藤原氏の基盤とも言える特産物だ。
奥州で高く売れる物を聞くと、物ではなかった。者である。今は、特に火の精霊魔法───バーニングハンド───を極めた(達人程度ではすまない)者なら、全力を以てして、迎え入れてくれるという。
「俺が思うにマギーさんよ、奥州もヒヒイロカネの鉱脈があるんじゃないのか、と踏んで居るんだが」
「フォフォフォ、若い者は夢があるのう」
調べ終わったら宿でアイーダ殿に報告。
「代わりと言っては何だが、拙者もいるでござる」
エルフの商人と言えば、奥州では皆無に近い、更に年齢要素を加味すれば、友矩でなくとも、安易にマギーを見つけられた。
友矩の衣装は衣装は簡便な物を身につけている。
一方、アイーダの意志はただひとつ、初志貫徹で藤原泰衛の狙撃。
さすがに手が足りなかったから、情報収集はマギーにリクエストしていた情報ををもらう事にしていた。
「生の情報を欲しかったけれど‥‥仕方ないわ」
アイーダはやるせない表情をして、マギーに背を向けた。
自分でやるしかない。
風評のみで狙撃を敢行するのは心許ないが、友矩が捕縛された状況でマギーが慎重になるのも当然。本職のスパイや忍びではないのだから、良くやった方だろう。
(よく考えたら、国衡自身じゃなく国衡派の行動に見せかけるのだから、国衡のアリバイとか考える必要はないわね。
チャンスを見つけたら、その場で泰衛を狙撃すればいいわ)
そう考えながら、本宅に近づくアイーダ。ぎりぎりで矢が届く範囲内をポジショニング。
自明の話だが、護衛はいる。しかし、アイーダの間合いからの攻撃は対処する術がない。
(───今、必中の刻)
アイーダと弓はひとつとなり、弓と泰衛はひとつになった。
気が満ちて、矢が落ちるように、泰衛の腕に吸い込まれる。
結果は見ず、アイーダは脱兎の如く逃げ出した。一瞬の差で殺気が充満した、あっという間に、空気は張り詰める。
その隙に、マギーが言の葉に乗せる種々は。
『藤原泰衡殿が暗殺されかかったらしい』
『犯人は国衡殿を次期頭首に、と推す一派らしい』
『泰衡殿は疑心にかられて、報復のための兵を集めようとしている』
『泰衡殿が次期党首になったら、兄弟を粛清するのではないか』
問題はこれがただの噂ではなく、事実を含む事だ。
ともあれ、3人が門を出たのは、閉ざされる寸前であった。
「後は江戸に帰るのみ、でござるか。船の手配はしてあるでござる」
夜を過ごそうと林に入るが、すでに平泉からは火の手が上がっていた。
そこで、銀色の淡い光が林の外から発生し、銀色の淡い光がアイーダに直撃した。
「ムーンアロー? 陰陽師、バード? それとも」
照り映える炎を背負いしは、一頭の黒い馬、その額には二本の黒い角が生えていた。
まぼろし十二人衆の筆頭、双角である。穏形に長けたバケモノである、と友矩は知り合いから聞いた記憶がある。
その背中にのるのは狩衣を着込んだ女性陰陽師。
伊織、大鴉、マンモン。幾重もの名を持つ。
「予定を早めてくれましたか───そのツケは双角が取り立てます。『騎士』はやっかいなので、私は退散します」
そういった次の瞬間、伊織の姿は消え失せた。
双角が全身から黒い霧や、煙、桃色の光を吹き出しながら、3人との距離を詰める。現在の距離50メートル。
「さて、絶体絶命の大ピンチじゃのう」