【源徳大遠征】舌先三寸【黙示録】

■キャンペーンシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:44 G 52 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月27日〜08月02日

リプレイ公開日:2009年07月07日

●オープニング(第1話リプレイ)

「ふぉふぉっふぉ。まあ、大まかには『伊織』の風体は判ったから、気にするでない」
 船上で、マギー・フランシスカ(ea5985)は、結城友矩(ea2046)に対して笑い顔を向ける。
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は憮然とした面持ちで船の舳先とその先を眺めていた。
 ともあれ、マギーがふたりに期待したのは、マンモンと目される不死鳥教典の『伊織』の人相風体であったが、残念ながらアイーダも友矩も、表現力に長けているタイプの冒険者ではなかった。
 伊達兵の攪乱の為に、マギーは『伊織』の外見を表現できるようになりたかったが、なにもかもうまく行くという事にはならないようであった。
 北の港が見えてくる。3人はさりげなく別れ、下船に備えた。

 悪目立ちも、自覚して使えば武器になる。
 友矩は愛馬2頭を引き連れて、青いコートに身を包み、威風堂々と北の地に降り立った。他者を圧倒する武芸者としての姿である。
「一番、酒が上手くて。一番、余所の土地の噂の仕入れられる店を知らぬか? 拙者大不便者故、まず酒から始めたい」
 酔っぱらい達が何人か口論になったが、押し詰まる所、水連亭という店の方向に話は収束していった。
「成る程、水連亭か! では、寄らせてもらうぞ。出来れば、案内してもらいたい。酒の一杯も奢ろうではないか」
(成る程、水連亭ね)
(水連亭かい)
 アイーダとマギーは打合せ場所を目配せだけで確認すると、彼女自身の道を選んだ。

「お坊さん──じゃないのかい?」
 そう、露天商から問われる、マギーの風体は三度笠に数珠、更に金髪のエルフという、仙台では異物であった。
「何、旅の商人だよ。手形見せようか? もちろん、間違っていたら、そちらの方から振ってくる商談ではイロをつけていたくだよ」
「よし、それは覚悟だ。見せてもらおうじゃないか」
「良い覚悟だよ。百年前なら惚れていたかものう」
 マギーは笑みを浮かべ、露天商に手形を見せる。
 泣き笑いを浮かべる露天商。
「すまん、オレの負けだ。確かにマギー・フランシスカと裏書きがあったよ」
「くっくっく、判ればよいよ、判れば。では、商談をしようじゃないか?」
「で、具体的には何の商いしているんだい?」
「今のところは情報かのう。形の無いものに値をつける商売じゃ」
 ざっと手に入った噂としては、政宗はいつまで江戸城に居座るか(そして、月道を使って、京都との往復の日々を繰り返しているのか)、奥州の事情、特に奥州藤原氏のお家問題がいつ変わるか判らない現状では、早めに戻って欲しい。
「ふむふむ、わしが仕入れてきた噂だと、江戸城は怪物との戦いで半壊したそうだよ。そんな中でも天守閣に居座る当たり、並みの肝っ玉では真似ができないのう?」
「おばあちゃん、ウソはもうちょい上手くつくものだぜ?」
「ふぉっふぉっふぉ」
 商売は勉強してもらった金額でも、商人として才覚が高くない、マギーは損をしない事に精力を傾けざるを得なかった。

 友矩も地道に、水連亭で情報の伝播に努めていた。
「何故仙台に来たかって?」
「ああ、そうだ」
 酔漢が勢いだけは良く、友矩に詰め問答する。
「そりゃあ、気になるだろ? 天下の大猪だぜ。首が味噌漬けでくるなら、判るけどな」
「まあ、首を落とされた事もある。愉快な体験では無かったが。まあ、それはさておいて、拙者が仙台に来た理由は、ここだけの此処だけの話だ。怒らないで聞いてくれ」
 一呼吸置く。
「拙者、ご存じの通り、江戸の冒険者でござるが。伊達の配下と切り結ぶ機会がござった、その中に人に化けたデビルがいたでござる」
「はあ、何だ? そのデ‥‥とかいうのは?」
 友矩は周囲に目をやって、デビルというものが、少なくとも仙台では縁遠い者である事を認識した。
「大きな声では言えないが、伊達政宗は───デビル、いや、物の怪と組んでるかも知れぬ。その真偽を探る為に本拠地たる仙台に乗り込んできたのさ」
 常に周囲に気を配り仙台の治安関係者の気配を探っていた積もりの友矩が、幾つかの異分子に気がつく。
 網が放たれた。
 友矩は咄嗟に抜き打ちした一太刀で一陣目の網を破壊し、二太刀、三太刀目は追いつかなかった。
 がんじがらめにされて、そのまま仙台城の地下牢に放り込まれた。
 得物は全てはぎ取られ、石の床が冷たい。ゴザには南京虫が新しい隣人と友愛を深めるつもり限り無しのようだ。
「絶体絶命の大苦難という事でござるな」

 マギーは水連亭の騒動を知ってから、友矩をどうするべきか、判断が付かなかった。アイーダが平泉に向かい、彼女の行動のさじ加減では友矩を見捨てるべきかもしれなかった。
 アイーダは、ちょうど秀衡が病気という事に目を付け、後方撹乱なら、やはり後継者争いを誘発するのが一番、と目処をつけていた。
(骨肉の争いはそう簡単には収まらないわ。
 もし凡庸な嫡男の他に、優秀な庶子でも居れば、仲が良い事の方が稀だもの)
 冷徹な視点。しかし、それは自分に向けられてはいなかった。
 軍馬に乗ったお国柄を知らない、異邦人。
 ともあれ平泉につく頃には、方針は決まっていた。
(長男で庶子の国衡‥‥都合の良い人物も居たものね。
 こいつを次男で、嫡男の泰衡にぶつけましょう。
 最終的には泰衡に勝たせた方がやりやすそうだけど)
 しかし、初めて来る街、土地勘も何もなく、特に国衡、泰衡の顔と行動パターンを憶えたい、というのが狙いというのはあまりに拙速過ぎた。
 10日ない期間でふたりの人間の行動パターンを把握し、それが可能だとした上で、泰衡が外出し、なおかつ国衡にも不在証明が無い丁度良い時間帯を探して、そこで泰衡を狙撃できそうなポイントを見つける。
 さすがにそれは、ひとりではムリだろう。
 単純に自分が実行犯ではないというのを気取られずに、狙撃する事は十分可能。
 アイーダは決断を迫られる。これまでの時間投資をムダにしないため、いつ来るか、判らない狙撃を狙うか。それとも別の道を模索するか‥‥。
 これが6月の冒険の顛末であった。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5985 マギー・フランシスカ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 青葉城の奥深く、押し込められた牢屋の中、結城友矩(ea2046)は自らの奥に秘めた闘気を全解放しようとする。
 不自然な体勢がそれを妨げるが、いくつもの反復の中から、淡い桃色をした、力を引き出す事に成功した。
 オーラエリベイションにより高まる全身の闘気───続けて、発動したオーラパワーは頭頂から爪先まで気を纏わせた。
 闇の中、不敵な笑みを浮かべる友矩。
 気合いもろとも力を入れると、全身を縛るロープが体に食い込みながらも、次々と爆ぜていく。
 続けて負傷をオーラリカバーで癒す。ほとんど時間をおかずに行う離れ業である。
 そのまま、牢の格子を検分すると、無言の気合いと共に鍵を粉砕した。
 新陰流を修めれば、巻藁でも、まるで紙切れの様に破砕できる。ましてや新陰流名誉の腕前の友矩にかかれば、言わずもがなである。
「何事か!」
 流石に牢番たちは気づいた。俊敏に飛びかかる友矩は、闘気を纏った腕が、脚が、拍子を取るかのように、無駄なく動いていく。
 牢番が繰り出した刺又を弾いた。流麗な動きは、まるで風に舞う菊花の如し、足で攻撃を危なげなく捌いて、手で屍山血河を作る。
 加勢を呼ぼうとする衛兵を最優先に潰した。囲まれ、態勢を整えられては一巻の終わりだ。
「つ、強すぎる! 鬼、鬼神か───?」
 あえて、ひとり残した隊長格を刺又で組み敷き、闘気を纏った腕で、喉当ての上から、プレッシャーをかけた。
「拙者の装備は何処だ?」
「お前は『天下の大猪』───」
「口は利かなくていい。視線で答えろ。嘘をついたら‥‥」
 その後、しばらくして牢屋のある棟から火が出た。
 友矩は、けが人に自分の装備を纏わせ、周囲に火が出たと、吠えて回り、混乱で出来た死角で、装備を交換する。
 消化の混乱の中、友矩は紙一重だったが、城外に脱出成功。
「さて、アイーダとマギーどのを待つのも業腹。帰りの船の手配をした後は、拙者も平泉に向かうか? しかし、解せぬでござるな、確かに先週、酒場で少々派手な振る舞いをしたとはいえ、集中して狙われるとは」

 時を前後して、マギー・フランシスカ(ea5985)は商人ギルド(ジャパン風に言うところの座、特にマギーは気にしなかったが)で、情報収集をして、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)をフォローする事にした。
 商人にとっては各地の有力者の情報も大事だという事で、色々と聞き出す。
 そこで、奥州藤原氏の当主の病状や後継者の人となりについて調べた所、
 秀衡の病状はみっつばかり説が分かれていた。背中の腫れ物という説、肝臓を患っている、息子から毒を飼われている。
 今は小康状態だが、しかし、ひとつ無理をすればどうなるか判らない。
「フォフォッ、やれやれ、では希少な薬草などを持って行けば、迎えられるかのう?」
「それは、難しいと存じますが。噂ですが、秀衡公の死を願う輩もいるようですからな。余程の信用を得なければ」
 商人の言葉にマギーもうなずく。道理である、薬は毒ともなる。全幅の信頼がなければ買わない。
「秀衡公の信を得る方法は無いものかのう」
「そんな秘策があれば、私どもが欲しゅうございますな」
 マギーはさりげなさを装って、奥州公の評判、人格を探った。
 まずは傑物である。
 平泉の発展は秀衡の手腕。近頃は鬼の被害が増えているが、秀衡が健在であれば好きにはさせぬ、という声は多い。
「やはり伊達が江戸に行ったせいで、悪路王の押さえが利かぬのでしょうかな」
 剛柔合わせた秀衡の政治力と、妖怪や鬼を圧した伊達の武力を懐かしむ‥‥どちらも今の奥州には無いものか。
「しかし泰衡殿が居られよう」
「とてもとても」
 商人は苦い顔を見せた。秀衡の嫡男である泰衡に関しては、偉大な父の影に隠れた凡庸な男という評判だ。悪い方ではないし、愚物ではないが‥‥印象に残るほどの何かが無い。
 平時なら理想的な藩主だが、果たしてこの乱世を乗り切れるかという不安は平泉でもあるようだ。声は大きくないが、伊達政宗や他の藩主が奥州王の地位を狙っているとの評もある。
「国衡様と協力して平泉を守って貰いたいのですが‥‥」
 商人は言葉を濁したが、兄弟間に確執があるらしい。無理もない話だ、マギーは喉から手が出るほど興味があったが、ぐっと抑えて尋ねた。
「何かあるのですかな?」
「いいえ、特には」
 商人は何かが起こる前に秀衡が本復する事を祈っているようだ。居城に関しては、特に変わった情報が無かった。加えて、最近の米相場、鉄の相場は右肩上がり、源徳と奥州の戦いはまだ終わらない、という見通しであった。
(できれば遠目で良いので泰衛の顔を拝んでおきたいのう)
 風評と実際の人品は必ずしも一致しない。実物を拝むのが一番だが、貴人に近づくのは危険だ。特に妙案もなく、諦めた。
「時に奥州の産と言えば何ですかのう?」
「それはあなた、『黄金』ですよ」
 近年は甲斐や佐渡など、各地で有望な金山が発見されたというが、奥州金は奥州藤原氏の基盤とも言える特産物だ。
 奥州で高く売れる物を聞くと、物ではなかった。者である。今は、特に火の精霊魔法───バーニングハンド───を極めた(達人程度ではすまない)者なら、全力を以てして、迎え入れてくれるという。
「俺が思うにマギーさんよ、奥州もヒヒイロカネの鉱脈があるんじゃないのか、と踏んで居るんだが」
「フォフォフォ、若い者は夢があるのう」
 調べ終わったら宿でアイーダ殿に報告。
「代わりと言っては何だが、拙者もいるでござる」
 エルフの商人と言えば、奥州では皆無に近い、更に年齢要素を加味すれば、友矩でなくとも、安易にマギーを見つけられた。
 友矩の衣装は衣装は簡便な物を身につけている。
 一方、アイーダの意志はただひとつ、初志貫徹で藤原泰衛の狙撃。
 さすがに手が足りなかったから、情報収集はマギーにリクエストしていた情報ををもらう事にしていた。
「生の情報を欲しかったけれど‥‥仕方ないわ」
 アイーダはやるせない表情をして、マギーに背を向けた。
 自分でやるしかない。
 風評のみで狙撃を敢行するのは心許ないが、友矩が捕縛された状況でマギーが慎重になるのも当然。本職のスパイや忍びではないのだから、良くやった方だろう。
(よく考えたら、国衡自身じゃなく国衡派の行動に見せかけるのだから、国衡のアリバイとか考える必要はないわね。
 チャンスを見つけたら、その場で泰衛を狙撃すればいいわ)
 そう考えながら、本宅に近づくアイーダ。ぎりぎりで矢が届く範囲内をポジショニング。
 自明の話だが、護衛はいる。しかし、アイーダの間合いからの攻撃は対処する術がない。
(───今、必中の刻)
 アイーダと弓はひとつとなり、弓と泰衛はひとつになった。
 気が満ちて、矢が落ちるように、泰衛の腕に吸い込まれる。
 結果は見ず、アイーダは脱兎の如く逃げ出した。一瞬の差で殺気が充満した、あっという間に、空気は張り詰める。
 その隙に、マギーが言の葉に乗せる種々は。
『藤原泰衡殿が暗殺されかかったらしい』
『犯人は国衡殿を次期頭首に、と推す一派らしい』
『泰衡殿は疑心にかられて、報復のための兵を集めようとしている』
『泰衡殿が次期党首になったら、兄弟を粛清するのではないか』
 問題はこれがただの噂ではなく、事実を含む事だ。
 ともあれ、3人が門を出たのは、閉ざされる寸前であった。
「後は江戸に帰るのみ、でござるか。船の手配はしてあるでござる」
 夜を過ごそうと林に入るが、すでに平泉からは火の手が上がっていた。
 そこで、銀色の淡い光が林の外から発生し、銀色の淡い光がアイーダに直撃した。
「ムーンアロー? 陰陽師、バード? それとも」
 照り映える炎を背負いしは、一頭の黒い馬、その額には二本の黒い角が生えていた。
 まぼろし十二人衆の筆頭、双角である。穏形に長けたバケモノである、と友矩は知り合いから聞いた記憶がある。
 その背中にのるのは狩衣を着込んだ女性陰陽師。
 伊織、大鴉、マンモン。幾重もの名を持つ。
「予定を早めてくれましたか───そのツケは双角が取り立てます。『騎士』はやっかいなので、私は退散します」
 そういった次の瞬間、伊織の姿は消え失せた。
 双角が全身から黒い霧や、煙、桃色の光を吹き出しながら、3人との距離を詰める。現在の距離50メートル。
「さて、絶体絶命の大ピンチじゃのう」