●リプレイ本文
●呼応
伊勢神宮は内宮の入口である、大きな橋のその袂にて一行は今回の依頼人である祥子内親王と面を合わせた。
「祥子様、お久し振りです。今回も何卒宜しくお願い致します」
「お久し振り、そしてお初な方は初めまして」
「‥‥よ、宜しく」
その第一声は彼女と同じく巫女装束を身に纏う、大宗院鳴(ea1569)によって皮切られれば彼女の明るい声に負けじと斎王もまた笑顔を湛え言うと、初めて介するミュール・マードリック(ea9285)はイメージと違う目の前の存在に普段の冷静さは何処へやら、たじろぎながら精一杯に挨拶を返すも
「やはり天照大神がいらっしゃる場所ですから良く晴れていますね」
「そうね、そして私の日頃の行いもいいからよ!」
その様子に首を傾げながら、しかし鳴は久し振りである事に戸惑う事無く至ってマイペースに青空を見上げ言えば、引かずに斎王もまた応じると二人は次いで笑顔を交わすが
「もう一寸堅いイメージがあったのですが、何時もああなのですか?」
「普段の立場が立場だから、私達と接する時はそれとは逆に何時も砕けているな。まだ若くもあるし当然と言えば当然だろう、まぁ特異ではあると思うが」
その光景を見て、ミュール同様にやはり初めて斎王を目の当たりにした山王牙(ea1774)が静かに呟けば、その彼が疑問に伊勢神宮の臨時巫女を勤めるガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が応じその理由を説明すると、だが最後に一言だけ間違いなく付け加えれば巨人の志士が苦笑を湛えたその時。
「今回は『白焔』の真の使い手を捜すと言うお話でしたが、冒険者で試すのは何故なのでしょう?」
「ん、何となく」
『え?』
「深い意味はないわよ、『白焔』を有用に使える人材を考えればこの答えに辿り着くのは必須。封印を解く事が出来ればそれは間違いなく武器でもあるのだから‥‥私達にそれは重過ぎるわ」
次に辺りへ響いた疑問を耳にすれば、その主である緋芽佐祐李(ea7197)を二人が見つめると、確かにと頷く一行の視線が集まる中で内親王が紡いだ答えは驚くべきもので皆が唖然と口を開け放てばその次、彼女は初めて真剣な面持ちにて真意を語る‥‥が逃避と受け止められなくもない彼女の紡いだ答えへ、だが佐祐李は否定せず信頼するからこそ頷けば
「伊勢の要石を巡り封印を施し‥‥それでこの地に安泰が訪れるのであれば、協力は惜しみません。自分自身、各地を巡るのは鍛錬になりますし‥‥次なる戦い、足手纏いではいたくありませんから」
「次なる戦い。そうね、それは私も一緒よ。余り力は振るいたくないけれど、そうも言っていられないしね。だから皆の力、暫く貸して頂戴」
斎王の伊勢平定には呼応して、御神楽澄華(ea6526)が自ら貫くべき信念を掲げると表情を尚厳しくして内親王は彼女に頷き返くと改めて皆へ頭を垂れれば今度は狼狽する一行の中、様々に変わる斎王の表情を見て何を思ってか、鬼面を付ける騎士のアリアス・サーレク(ea2699)が彼女の元に参じ、かしまづく。
「内親王には、妹が大変なお世話になっている。純粋過ぎて傍迷惑な妹だが、これからも宜しくしてやって欲しい」
「はて、どちら様?」
「大層な依頼を引き受けてしまったが‥‥さて」
が、斎王からの問い掛けに鬼面を付けたままである事を漸く思い出せば詳しい事情を語り出す彼と、アリアスの話に耳を傾ける斎王を見て壬生天矢(ea0841)は右の瞳を覆う眼帯を弄りながら、色々な意味でこの依頼の難解さを実感こそするも
「要石の封印を新たに施して廻る旅、か。これより何が起こるかゾクゾクするな」
これから起こるだろう様々な事態に思いを馳せて一人、静かに身を震わせるのだった。
●試練
と言う事で、今回の参加者と一通り面合わせをした後に斎王は一行を伊勢神宮が深部にある『試練の間』へと案内するとその通された先、至って普通な畳敷きの部屋(尤もその広さは二十畳以上)に皆が入れば、部屋の奥に壁に立てかけられている古びた刀を見付けるとそれを目前にしても鳴。
「わたくしは白焔様よりも布都御魂様に会ってみたいです」
「‥‥あぁ、貴女ならそうよねぇ」
「はい。とそれはさて置き、白焔様に協力して頂ければいいのですよね」
「そう言う認識で問題ないわ」
「それでは申し訳ありませんが先ず、私が一番に行かせて頂きますね」
平然と言い放てば斎王は苦笑を浮かべるも、マイペースな巫女は彼女の反応に気付くより早く再度の確認を取れば、肯定の答えが返って来ると同時に『白焔』へ向かい、皆へ断りを入れて歩き出せばやがて古き刀が前に辿り着くと彼女。
「初めまして、わたくし、建御雷之男神の巫女、大宗院鳴と申します。天照大神様も色々と大変なご様子なので、皆様にお力をお貸しして頂けませんか」
黙したままの刀を前に正しく座れば、礼節を持って『白焔』に接すると返事のないそれを前にしても彼女は自身を保ったまま、表情を綻ばせて深々と頭を垂れた。
「それでは、宜しくお願いしますね」
●
それより一両日、休憩を挟みながらも試練を最初に終えた鳴が『試練の間』より出てくれば
「お疲れ様でした、どうでしたか?」
「うーん‥‥きっと大丈夫です、ちゃんとお願いしましたから」
(「そう言う問題なのだろうか?」)
「あのぉ、斎王様。要石について調べたいのですが書物を閲覧しても宜しいでしょうか」
「いいわよ。光、彼女を案内してあげて」
澄華が彼女を労い問うと、首を傾げつつも笑顔を湛える彼女より返って来た答えには一行、内心で疑問を抱くが鳴は皆のそんな素振りには気付かず斎王へ願い出ると、彼女の申し出に頷いて側近を呼ぶ彼女。
「要石とは天岩戸を囲う様な形で配されているのですね」
すぐに鳴を書物庫へと案内すべく促せば、先に立つ光は彼女を導くべく歩き出すと朴訥な巫女が去ってより澄華は優と顔を見合わせては苦笑を湛えつつ、伊勢全体の地図へ視線を落としながら話を戻す‥‥その内容はこれまでに要石とそれに今まで関わっているだろう一連が話の摺り合わせ。
「伊勢神宮、鳥羽、深谷水道、倭姫命腹掛岩、五ヵ所城が袂にある村、旧斎宮跡と全てで六箇所、間違いなく確認されていると」
「要石もそうだが、敵の情報に付いてもう少し詳しく伺いたいのだが」
「敵の情報、ねぇ」
伊勢の地図を指でなぞりながら、六つある要石の所在を確認する彼女に次いで口を開いた天矢が問いには斎王、己が頬に指を当てては天井を仰ぎ見るもやがてその視線を天矢へ移せば口を開き、主だった集団を挙げ連ねる。
「敵対している集団は今の所二つ、黒門絶衣らが一派と多分天魔が束ねているだろう妖怪達ね」
「以前、伊勢で刀狩りを行なっていた者達は黒門の?」
「多分ね。そちらは今までの話を纏める限りでは少数精鋭、詳細は伊勢藩に調査して貰っているけど一先ず、当人以外に四人の強敵がいた筈。逆に妖怪達の方は今までの傾向では数に頼り、要所に侵攻しているわよね、最近じゃあ比較的位の高い奴も見受けられて‥‥どちらも厄介ね」
その数は一行が事前に調べていた通り二つだけとは言え簡単に彼女が上げる話を聞いて一行、様々に反応を見せるが
「とりあえず思うに、これからの巡回に当たりある程度偽の情報を流布して敵の目を欺くべきかと思う」
「それには私も賛成です‥‥偽の目的地を漏らす事で相手がその情報を拾えば、或いは」
「それならば『白焔』を手にする順番は未だ先の様だし、手隙な今の時間を用いて早速してこようかと思うが問題ないだろうか、斎王様」
「えぇ、構わないわ」
「それでは私も。要石の所在が分かりましたし、目立たない程度に各地の情報を仕入れて来ますね」
長い間、黙したままだったミュールが口を開くとその意に真剣な面持ち携える澄華も賛同すれば、頷く斎王へ長い待ち時間の気休めにか天矢が立ち上がり言うと踵を返す彼の後を追うかの様に佐祐李も立ち上がり断われば斎王は一時、休憩の旨を皆に告げた。
尚、それから後も斎王と話し合われた一行の、今後に付いて起こり得るだろう妨害に付いての対策案は伊勢藩の助力を得つつ全てが通った事を補足する。
●覚醒
さて、そんな中で一行は代わる代わる『白焔』と向き合った。
「風の如く、柔軟にして力強く。その姿、私の前に」
例えば牙の様に『試練の間』が中央に座り、手隙な時間を用いて行なったイメージトレーニングをそのままに生かし、自らが思い浮かべる『白焔』の形を朽ち掛ける刀に投影したり
「一致、する‥‥のか? だが‥‥俺は紡ごう、祝音が祝詞を。そは優しく、そは猛々しく‥‥」
また例えばミュールの様に古き刀を鞘より抜き放てばそれを握り、自らの血をたぎらせ時に穏やかに、時に激しく優より教わった祝詞を紡ぎながら舞うも古刀は古刀のままに揺らぐ事はなかった。
「例え本当の姿ではなくとも、霊刀がボロボロのままでは何とも。斎王様ももう少し敬意を払うべきでは‥‥」
中には澄華だけだったが演舞の後、斎王の許可を貰った上で『白焔』が手入れを行なってみたが鍛治の知識に長ける彼女が手入れを持ってしても『白焔』は目覚めず、常に曇った刀身を鈍く輝かせるだけだったがしかし、脈動する時も確かにあった。
「力を貸して欲しい。伊勢に忍び寄る影を払う為‥‥いや、伊勢だけではない。安寧を揺るがす者達から民を護る為、其方の力で照らし導け」
それは天矢が礼の念を込めて呟いた呼び掛けに。
「使い手は私でなくとも構いません。どうか仲間に、貴方の使い手が現れます様に」
またそれは西方を向いては願う、佐祐李の静かな祈りに。
「彼女が伊勢の平和を願うのなら、『白焔』を用いて要石を再封印する事がその礎になるのなら‥‥全力を持って私は『白焔』を使いこなし、その願いを叶えたい。だから!」
そしてアリアスの、義妹を守りたいと言う純粋な想いを前に確かに鼓動こそしてその形を変貌させた。
だがその形は僅かにこそ三人の前に垣間見せるが、常に保つ事は叶わなかった。
「何かが足りないのは分かる、だが足りない何かとは一体!」
その足りない何か、が分からないアリアスは答えこそ模索するも遂には時間切れを迎え『試練の間』が唯一の襖を叩かれれば彼。
「‥‥ガイエル」
「ふむ、漸く私の番か」
厚いそれを開け放ち、声音に疲労を滲ませて簡潔に最後のガイエルを呼べば臨時巫女は静かに立ち上がると一人、『試練の間』へ踏み行った。
●
「私に有るとは思えぬが、向き合わせて貰おう。『白焔』が応えてくれれば優殿の負担も軽くなろう物」
その彼女、今は『試練の間』が中央に置かれている『白焔』へ歩み寄れば厳かに決意を固め、古き刀を手にして掲げると
「悠久の時を経て、伊勢の護りとしてある霊刀よ。あの牛鬼を鎮める為にも要石の再生を望む我に力を貸してくれ」
何時もの声音にて凛と声を張り響かせれば、鞘より抜き放ち曇る刀身を眼前にして己が願いを‥‥いや、皆が望む願いを紡ぐ。
だが、掲げるだけのその刀はガイエルが言葉には何も反応を示さず、ただ静かに彼女の手の中で刀身だけ鈍く輝かせるも‥‥彼女が紡いだ、次の言葉には自身を脈動させてその形を変えたのは。
「貴殿の力が必要なのだ。私の力ならば幾らでもくれてやろう‥‥故に頼む、貴殿の真の姿を見せてくれ」
「ふぅん、さしずめ文献通りだった訳ね」
『試練の間』に入り、然程時間を経る事無く解放された『白焔』の真なる姿を見て、それを前にしても驚かないガイエルを見て、何時入ったのだろう斎王が何事かに納得して頷けば首を傾げる彼女を前に口を開く。
「『かの刀、持ち手の強き想いにこそ呼応するも望むだけでは真の姿を晒さず、相応に代価と足り得る決意を見せよ。例えその決意が自らを滅するとしても、それを突き付け誓った者に『白焔』は己を扱う資格を与えよう』ってね。皆の様子を見る限り、惜しかった人も見受けられたけど後少しだけ、足りなかった様ね」
「人が悪いな」
「そんな事はないわよ、すこーし考えれば分かった筈よ。優の話だってしたんだからね」
するとその解説を聞いてガイエルは珍しく渋面を湛えるが、斎王は聞く耳持たずに悪戯めいた笑みを浮かべ、背後から覗く一行を見回し言えば‥‥再び視線をガイエルへ戻し、今度は真剣な面持ちにて彼女へ告げるのだった。
「だから一つ、貴方に言っておくわ。その霊刀に伊勢の全てが掛かっていると言っても過言ではない、と言う事を。そして覚悟して、この文献が一文の意味を。貴方が『白焔』へ誓った言葉の意味を、ね」
「‥‥分かった」
●行先
それより暫く伊勢神宮の片隅にある、見た目は只の岩塊へ解き放たれた『白焔』を突き立てるガイエルと見守る斎王に一行の姿があった。
「‥‥これでいいのか?」
「うん、問題ないわね」
「意外にあっさりしたものだな」
「そうですね、封じている者こそ分かりませんでしたが‥‥多分強大だろう、それの割に」
「ま、何事もそう言う物よ」
やはり別段、変わらない光景を前に首を傾げる使い手は斎王の肯定を持っても尚不思議に瞬きを繰り返すだけだったが、ガイエルとは別に簡単な手順にて封印が施された事に天矢と鳴が揃い苦笑を浮かべると、祥子は微笑を湛え言い切れば改めて一行を見回して問い掛ける。
「さって、これから出立するけど準備はいいかしら?」
「問題ない」
「よっし。じゃあ一先ずは此処から一番に近い、以前から解消しない問題を抱えたままの鳥羽へ行くわ」
その問いを前、漸く彼女の立ち振る舞いに慣れたミュールが何時もの冷静さを持って頷けば次なる目的を語る彼女に佐祐李。
「牛鬼がいるのでしたか? それ以外は特に目立った話を聞きませんでしたが」
「そうね。鳥羽と言えば牛鬼が目下の悩み。でもそっちは『五節御神楽』に任せて私達は早く、要石に新たな結界を施しましょう」
伊勢の臨時巫女からの話に自身が手隙の時に伊勢を駆け回り聞いた話を思い出して確認すれば、頷いて祥子は改めて目的を掲げるも
「で、その肝心の場所は何処に?」
「海の中よ、岸の近くにあるんだけど潮の満ち引きで出たり隠れたりするのよねぇ‥‥しかもそこが」
ふと要石の詳しい所在を聞いていなかった事に思い至った牙が問えば、斎王の口より明らかにされたその場所に一行は唖然とするがそれは気にせず斎王は話を続けると
「牛鬼の近く、と言う事ですか」
「‥‥そうなると、周囲の警戒をしつつ牛鬼以外の存在は私達が引き受けながら、手隙な時を狙って要石に封印を施す、と」
「うんうん、聡い子は好きよ」
その最後を遮って言う巨躯の志士へ肯定の笑顔を示せば、彼の後を継いで自身らがやるべき事を紡ぐ澄華へも頷くと二人の頭を撫でてやった後に祥子はその最後。
「とまぁそう言う事で改めて‥‥これから暫くの間、宜しくね」
軽い口調に微笑を湛えるその表情の割、その背に確かな使命を帯びながら踵を返すのだった。
〜続く〜