【破妖結界】祝詞を織りて・前

■キャンペーンシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:29 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2007年01月21日

●オープニング(第2話リプレイ)

●目指すは、鳥羽
 伊勢は神宮を発ち要石に新たな封印を施すべく集った八人の冒険者達は今、斎王と共に鳥羽を目指し海岸沿いの街道をひた走っていた。
「鳥羽ですか、海ですか。冬ならばヒラメやカキが美味しいですよね」
「‥‥何もこんな時に」
「いえいえ、こんな時だからこそですよ」
「まぁ‥‥それもそうですね、とは言え今すぐには厳しいかと」
 が緊張感漂うその中においても巫女装束に千早を纏う大宗院鳴(ea1569)は相変わらずのんびりした声音を響かせれば、そんな彼女へ御神楽澄華(ea6526)が瞳を伏せたままに呆れるも‥‥しかし鳴は益々顔を綻ばせて言えば、澄華が先に折れればやがて彼女に釣られ僅かながらに顔を綻ばせ、しかし巫女を現実に引き戻すと鳴は苦笑を返しながら澄華が携える刀を見つめながら口を開き、斎王を呼び止めると
「あっ‥‥そう言えば祥子様、白焔様の偽物って用意出来ますか?」
「あれだけの大物、どう考えても既存する刀にはない規格外の代物だからねぇ。でも時間を掛けさえすればまぁ‥‥何とかなるかしら?」
「‥‥鍛冶師に伝はありますので必要とあらば、手配しますが」
「じゃあそうして頂戴。掛かる経費はこちらで負担してね、でも必要以上に払い過ぎない様に」
「はい」
 すぐにある提案を口にすれば、それを受けて斎王は足を止めては思案する事暫し。
 やがて近くの樹上を仰ぎ見て誰へとなく尋ねると直後、唐突に返って来た答えへ斎王は驚かず頷けば歩を止めた斎王に合わせて立ち止まる皆を見回して彼女。
「と言う事で、さっさと行きましょう」
「しかし、僅か先にだが発った『五節御神楽』は大丈夫だろうか‥‥牛鬼と言えばドラゴンにも引けを取らない大海妖と聞くが」
「問題ないわよ‥‥それより何、妹さんが信用出来ないとでも?」
「い、いや‥‥けしてそんな訳では!」
 すぐに皆を促しては行軍の再開を告げると、再び歩き出した一行の中で今回も鬼面を付けては顔を覆っている騎士のアリアス・サーレク(ea2699)が独り言か、囁くとそれを耳にした斎王は珍しく厳しい視線にて彼を見据え言えば、鬼面付ける騎士はその奥にて狼狽の表情を露わにし先の発言を取り消すと、笑顔を湛えながらも斎王は改めて一行へ見回せば
「自身もそうだけど皆の事を、これから協力を得るだろう人を信じてあげてね。信じる事が出来なければ今回も、これからも要石の再封印は厳しくなる一方よ。だからそれだけは覚えておいてね」
「はい、勿論です。出立前にも伊勢神宮へ誓いを立てて来ましたので、その誓いと合わせて必ずや守り、貫き通します」
「宜しいっ、では鳥羽へ!」
 一つ、皆へ忠告するとそれを受けても緋芽佐祐李(ea7197)は尚真っ直ぐに彼女を見つめ言い切れば、迷いなく応じる皆の様子を見届けて斎王は表情を綻ばせると改めて鳥羽の方を見つめるのだった。

 そして刻は過ぎ、大よそ三日を経て一行は鳥羽へ辿り着くと同日の内に僅かだが先行していた『五節御神楽』と合流を果たす。
 その意は最終的な打ち合わせ。
 時間こそ僅かで限られているが、やらない事には互いが力を合わせては目指す最終的な目的を成す事が難しくなる故に二班が顔を合わせるのは必然だった。
「死ぬな、とは言えないが無理なら引く事も勤めだと思う。無駄に華散らす事もない‥‥俺達も控えている」
「そんな気はさらさらないから安心して、むしろ貴方達の方こそ気を付けてね」
「私達と違い相手が何か分からないからな」
「その気遣い、有り難く頂戴する」
 そして斎王が二班を仲介しては手早く打ち合わせを済ませれば、『五節御神楽』の面々へ寡黙な剣士のミュール・マードリック(ea9285)が静かな声音で忠告すると微笑を湛えては真新しい黒き長衣を羽織る女性の志士が間違いなく断言すれば、彼女とは違い黒く長い鉢巻を巻く侍の労いへ壬生天矢(ea0841)は感謝の意を会釈にて表すと皆は次いで、斎王へと視線を投げる。
「斎王様もご無事で‥‥」
「大丈夫よ、彼らがいるからね」
「それに祥子様の身は、この体を張っても守り通してみせますよ」
「よろしくね、っと‥‥それじゃあそろそろ動きましょうか。今回の目的、どちらか片方がしくじれば成し得る事は出来ないでしょう。それを肝に銘じて各々、事に臨んで下さい」
 すれば次、斎王の間近にてかしまづく志士が硬き面持ち携える中にて紡いだ心配へ彼女は何時もと変わらぬ笑顔を湛えて返すと、山王牙(ea1774)も柔らかき口調にて続き紡ぐ誓いを聞けばその女性志士は漸く顔を綻ばせると頷いた後に斎王は皆へ呼び掛け
「ですが先にも話に上がった通り、命は無駄にせぬ様にも各自努めて下さい。自らの命を護れない方に一体、何が護れましょうか‥‥それでは皆が皆、再び揃う事を祈っております」
「それでは、私達も行こうか‥‥要石を確かに封ずるべく」
 やがてその最後に己が願いを間違いなく皆へ告げれば二班へ解散を言い渡すと、鬨の声を上げる『五節御神楽』の傍らにて、『白焔』の使い手がガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は厳かに皆へ呼び掛けるのだった。

●激突! 〜妖魔跋扈〜
 『五節御神楽』が魔獣駆りて牛鬼と相対していた頃、要石を封ずる一団はそれを目前にして岩陰へ潜んでいた。
「海中には何か‥‥いない様だな」
「さて、敵は人か妖魔か‥‥どちらが来ても斬るだけだが」
 僅かずつではあるが目に見えて潮が引いていくその中、『五節御神楽』とは別に海中の様子を蒼き亀甲龍に探らせていたミュールはそれが戻るなり、尋ねては返って来た反応から皆を見回し言えば陸にも空にも今は敵影見えず、だからこそか何処か落ち着きなく天矢が己の得物に手を伸ばし呟くと
「とは言え、今はまだすぐには‥‥」
「ふむ、『五節御神楽』がやってくれたか」
「牛鬼はとりあえず退きましたね、後は潮の方ですが」
「問題ない‥‥これなら、今から移動を始めれば丁度干潮の時に要石の目前まで船を寄せる事が出来る」
 澄華が彼を宥めるべく、声を掛けたその時‥‥アリアスの声が響けば皆、岩陰から顔を僅かに覗かせると確かに彼が言う通り、四頭の魔獣に威嚇されて動き出した牛鬼の姿が遠目にだが確認出来ると次の懸念事項を呟いた火の志士へは今度、ミュールが潮の流れを見切り頷けば
「それならば参りましょう、斎王様の意思を叶える為に」
 佐祐李が皆の意思を統一すべく厳かに呟くと、いよいよ一行は岩陰より立ち上がった。

 そして戦いは始まる、初めこそ妖怪の姿は影も形もなくガイエル達は要石へ向け、他の面子は要石へ向かった三人の背を守る様に海岸沿いに広く配するのだが‥‥僅かな間を経れば陸より迫る妖怪達を捉えると
「やはり、数で押して来ますか。しかし‥‥」
「進軍が遅過ぎる、速度に優れる妖怪も僅かだが見受けられるだけ余計に。余程の愚手なる指し手か‥‥それとも」
 死霊侍を中心としたその群れは一行にすれば確かに役者不足でこそあったが、数に物を言わせる変わらずなスタンスに対し、鋭く瞳をすがめる澄華は紅蓮宿せし刃にて的確且つ確実な一撃を振るい、迫る敵を打ち砕きながら呟いた疑念は継いで天矢が己に迫る火車を捉えて思考するも‥‥直後、それが振るう爪を刀にて受け止めれば彼は巡らせていた思案を中断し、目の前の敵に集中すれば
「一先ず、考えるより先に動くべきです。空を飛ぶ妖もいます故、早く陸からの妖怪を打ち倒しましょう」
「あぁ、これでは要石まで辿り着くのが遅くなってしまいます」
「‥‥嘘ではないが、さて」
「ともかくこれ以上‥‥要石にも、斎王様にも一歩であろうと近付けさせはしませんっ!」
「唸れよっ、斬魔!」
 火車を目にして牙が斎王の位置を確認しつつも次に要石へ視線を向けて皆へ警告すれば、迫る敵を困惑させる為に雷纏いし巫女が厳かに、自身にとっては嘘偽りなく盛大に嘆息漏らすが‥‥辺りを伺い、この一団を統率しているだろう存在の姿がないだろう事にミュールは刃を振るいながら気付くも次にはそれに構わず、早く妖怪達を薙ぎ払うわんと澄華と天矢の裂帛が場に轟き疾き斬撃が奔った。

 一方の要石を目指す三人はその頃、護衛する組を飛び越えて空より舞い降りた以津真天の群れと相対していた。
「伊勢を護ろうとする彼女の願いを叶える為‥‥アリアス・サーレク、推して参る!」
 その群れに対するは三人だけだったが、ミュールの亀甲龍も彼らを手助けすれば要石を前にした戦いは拮抗する。
「『白焔』、貴殿の力を又借りるぞ」
 その中、間隙を縫う様に結界を張り血路を見出したガイエルは何とか要石に取り付くと、早く古びた刀を抜き放てば想いを、覚悟をその刀身へ叩き込み‥‥『白焔』の真なる姿を解放する。
 その姿は巨大ながらも緩く弧を描き、その刀身は白く燃え上がる様な波紋を輝かせては辺りを眩しく照らし付ける。
 その光が狭い範囲ながらも周囲に降り注げば、要石に迫らんとする妖怪達は僅かながらとは言え怯み、後ずさるとそれを機と見たガイエルは躊躇わずに『白焔』を鳥羽の要石へ勢い良く突き立てる。
「要の石よ‥‥千代に八千代に、この伊勢を護り給え
 そして織られた祝詞と同時、『白焔』から光が弾けると、その使い手は膝を折ればすぐに『白焔』はその形を普段の何時朽ちるか知れない形へ戻し、先まで辺りに降り注いでいた光が止むと先まで後退していた首長き鷹達は再び一斉に要石‥‥ではなく『白焔』が使い手目指し進軍を開始すれば、そうはさせじとガイエルが早く結界を形成すべく印を組むも結界は生成されず。
「‥‥っ。そう言う、事か‥‥」
「ガイエル!」
 やがて鷲が集う中で斎王の言葉を思い出した使い手は『白焔』の解放と結界の再封印がどう言う事なのか思い至ると、刃を振るい次々に異形の鷹を屠りこそするがその数故に身動きが取れないアリアスの叫びが響く中、古びた刀を振るうガイエルは迫った一匹の鷹を何とか追い払いこそするが数は変わらず多勢に無勢。
 その光景を前に彼女が露骨に顔を顰めた、その直後。
「一先ず目的は達しました、一度他の皆さんと合流しましょう」
「あ、あぁ」
 刹那のタイミングで彼女の元に駆けつけた佐祐李がガイエルの元へ辿り着くとすぐ抱えては一時、この場からの離脱をアリアスへ告げて三人は振り返らず岸で戦う皆の元を目指し駆け出した。

 だがその時、陸から要石を目指し迫らんとする敵の目を惹き付けていた五人と斎王は夜の闇に溶け込む、一つの影と対峙していた。
「いささか遅れてしまったか、これでは奴らに合わせる顔がないが‥‥中々どうして、これだけでも意外に善戦出来るものだな」
「貴様か、今回の首謀者は‥‥」
「さて、それはどうだろうか」
 闇より響いたその声にミュールは率直に問うが、影はそれに対しての答えを返さず静かに笑い声を漏らすと次にねめつける一行の面をじっくりと見回した後。
「そう怖い顔をするな、今回は顔合わせだけ故に‥‥ふむ」
 静かにそれだけ告げるが‥‥突如、己が翼に風を孕ませれば斎王の眼前に降り立とうとし
「それ以上、斎王様に近付く事はまかりなりません」
「隙はないか、流石に」
「建御雷之男神様‥‥御雷光を」
 だがそれは彼女の傍らに佇んでいた巨躯の志士が翳した刃によって阻まれると、影は再び宙へ舞えば手を掲げ、残存する妖怪達を下がらせるが‥‥逃がすまじと鳴の次に放った雷撃を漆黒の結界にて弾いた後に影は最後に一言だけ一行へ告げると、戻って来たガイエルらの姿を確認してから漆黒の虚空へ羽撃くのだった。
「相手を知り、己を知ってこそ勝利は確約される。次は果たして上手く行くかな‥‥」

●深谷水道へ
 一先ず、鳥羽の要石に新たな封印が施されれば天魔が退いた事より先まで場に数多いた妖怪達も姿を消した為、此処での決着はその大勢を決する。
「次は‥‥何処でしたか?」
「次は深谷水道、此処からは丁度南の方になるわね。とりあえず現時点で手に入っている情報では‥‥っと」
 しかしその中でも気を抜かず、澄華が紡いだ質問に祥子は鳥羽の要石より背を向け深谷水道がある南の方を仰ぎ見て言うと‥‥何時の間に近くまで来ていたのか『闇槍』の一人、携えて来た書物を彼女へ手渡せばそれに目を通す事暫し。
「結構に大きな遺跡の様だけど、漁業に関わる遺跡らしくて一般的なそれとはいささか趣が異なるらしいわ」
「その詳細に付いて、どれだけ調査がされているのでしょうか?」
「内部構造の殆どは把握し、地図にこそ起こしているけど‥‥肝心の要石は未だに見付かっていないって」
 額を掻きながらも斎王がやがて口を開くと、その遺跡に付いて先ずは牙が問えば書物が一部の紙片を皆の前に提示して言うも、その話を聞いて首を傾げたのは鳴。
「え、でも話じゃあ‥‥」
「えーと‥‥ごめん、深谷水道に関しては文献で場所だけしか分かっていないのが現状。だけど同じ文献に記されていた他の要石に付いてはその全てが確認出来ているから、深谷水道に要石があると思って先ず間違いないわ。現に隠し通路も幾つか発見されているしね」
 以前に斎王から聞いていた話と異なる点に付いて尋ねようとするも、彼女のそれを途中で遮って斎王は頭を一度下げればその点に付いて改めて皆へ説明すると‥‥その話を聞いた後に『白焔』の使い手がガイエルは静かに己が口を開く。
「そうなると次は、深谷水道に潜り要石の所在を突き止める事が先ず優先される事になるか」
「そうね。だけど地図はその殆どが出来ていて、要石は見付かっていない‥‥どう探索するかが肝かな。次に見える敵も分からない以上、遺跡探索に関してもやはり時間との勝負になると思うわ」
 すると頷く斎王から返って来た答えと、その次に響いた話には一行それぞれに思案こそするが
「それなら、早く深谷水道の方へ向かうとしましょう。探索の方針に付いては道々でも相談出来ますし、今度も時間の勝負であるのでしたら尚更に」
「‥‥そうだな」
 長考しそうな場の雰囲気を察し、佐祐李がすぐに皆へ呼び掛ければ僅かに間を置いて天矢が漸く頷くと他の皆も動き出そうとした、その時。
「あっ‥‥」
「どうか、しましたか?」
「お魚が食べたいです、折角鳥羽へ来たのですから」
 鳴が小さな叫びを上げれば、先を行く牙が振り返り問うと‥‥皆の視線の前で彼女は相変わらず呑気にそんな答えを返しては、可愛らしく腹を鳴らすのだった。

「‥‥さて、どうしましょうか」
「どうする、とは」
「現状、引く事が止むを得ないとは言えこのまま何もしないままでいいものか‥‥とね」
「今は止めておけ、いずれ‥‥」
「いえ、やはり一度位は斎王様に挨拶をしておくべきかと」
「‥‥これから暫くの計画は揺るがない、ならそれが先でも後でも構わないだろう。そして私はお前に従うだけの存在、ならば好きにしろとしか言えぬ」

 〜続く〜

●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●英虞湾望みて
 年も明けて半月近くが経とうとしていた頃‥‥鳥羽から深谷水道目指し、速く街道を南下する要石の封印を行なうべく集った冒険者と祥子内親王の姿が見受けられた。
「大丈夫ですか?」
「久し振りに乗ったけど、問題ないわ。馬を操るのがウマいわね、何ちゃって」
「ありがとうございます」
「‥‥張り合いがないなぁ」
 その一団の中、愛馬駆る御神楽澄華(ea6526)は自身の後ろに乗る斎王へ問えば返って来た言葉を真摯に受け止め、だが肝心な所を流す生真面目な彼女に祥子は嘆息を漏らすが澄華はその反応に首を傾げるだけ。
 と言う様に急ぎながらも今は和やかに進む中。
「次は洞窟ですよね、要石も石だからきっと紛らわしいのかな」
「まぁ見た目、大きいだけの石だからね」
「しかし今後を考えれば何らかの形ですぐ要石と識別出来る様にするか、文献に残すなりしないとな」
「いやいや、全く持ってその通りでして」
 魔法の草履を履いて斎王の隣を駆ける大宗院鳴(ea1569)が斎王へ問い掛ければ、頷き返す彼女だったが次に響いた『白焔』が使い手のガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が提案を聞けば痛い所を突かれた斎王は同意しつつも首を竦めるが
「しかし鳥羽の封印こそなりましたが、向こうもまだ本腰には遠そうですね‥‥此方の様子を伺っていた節もありますし」
「夫婦岩の一件といい、それなりにやる気はあるみたいなんだけど何を考えているのかさっぱりね」
「‥‥今は気にしても仕方ありませんか、ならその余裕が命取りであったと後悔させるまで」
「いいわねぇ、その意気込み。今回も期待しているから宜しくね」
 前方より風に乗って響いて来た澄華の静かな疑問に今度は斎王も先の彼女に倣い首を傾げると、僅かな間を置いて軍馬を駆る志士はやはり静かに闘志燃やせば祥子は彼女の肩を叩き、次いで辺りを駆ける皆を見ては顔を綻ばせると
「お任せを、必ずや深谷水道の要石も封印してみせる」
「今回の封印を行なえば、残りは半分か‥‥気を引き締めていこう」
 斎王の期待に怯まず臆さず、壬生天矢(ea0841)と山王牙(ea1774)の男達が立て続けに頼もしく断言すれば頷いた後に彼女は澄華に掴まったまま、肩越しに見えた光景から皆へ声を掛けた。
「さて、急いだ甲斐もあってとりあえず中継点に到着ね。じゃあ此処で休憩がてらに話でも聞いて回りましょうか」
「漁業に関わる遺跡‥‥要石の場所が特定出来ていない可能性としては仕掛けや現象として潮の満ち引きや逆流現象によって道が現れるか、何らかの魔法で隠匿されている可能性が考えられると思う」
「そうですね、ですから潮の満ち引きの刻限や深谷水道に纏わる話を中心に聞き込みましょう」
 するとその村を目前にミュール・マードリック(ea9285)が深谷水道に付いて自身の予想を紡げば、それに緋芽佐祐李(ea7197)も頷いて皆へ優先して集めるべき情報を提示すると一行は村へ着くなり、すぐに散開した。

 だがそれから暫くして再び集った一行の内、一番を切って口を開いた騎士のアリアス・サーレク(ea2699)が発言には皆、目を見開く事となる。
「この時期の英虞湾はヒラメとメジナにシロギスが釣れるらしい」
『‥‥‥』
「‥‥済まん、話を聞いた漁師に趣味の釣りの話をしたらつい盛り上がって」
「一先ず、潮の満ち引きの刻限に付いては大よそ分かったか」
 だがうな垂れるアリアスはさて置いても、皆が仕入れて来た情報を纏めてみればミュールが判断した様に深谷水道近辺の潮の満ち引きに付いては判明すれば
「深谷水道が造られた目的は比較的に水温が高い英虞湾にて発生する赤潮を食い止める為だそうです。以前よりこの辺りは地下に延びる洞穴が幾つもあったからこそ、それを利用して近くに住まう漁民達が力を合わせ英虞湾と熊野灘を繋いだ結果と言う話でした。しかし今では誰も立ち入る事がなくなり遺跡となったみたいですね」
「そうね、斎宮の文献にもそんな記述があったわ。でその工事の際、洞穴の一つにあった要石を隠蔽したみたい。その要石の詳細な所在は記録に残さないまま」
「そうなると先の探索で見付かった隠し通路は一体?」
「そればかりは何とも。その当時の斎宮関係者が何らかの思惑を持って拵えたのか、それとも以前からあったのが見付かっただけか」
 佐祐李が語る様に深谷水道に付いての情報も分かると、頷く斎王の傍らでそれを受けて疑問を口にしたのは牙で、隣に佇む斎王の瞳を見据え目的を持って造られているにも拘らず、その意にそぐわない隠し通路の存在に付いて尋ねるも‥‥それは彼女も知らず、幾つかの憶測を思い浮かべながら首を傾げた丁度その時。
「祥子様」
「あら、ご苦労様‥‥ってそれじゃあ此処に来るまで大変だったでしょう?」
 何処からか静かに響いて来た声を皆が聞くと皆を見つめたままにその声の主を労えば、すぐ傍らに現れた『闇槍』が一人の携える巨大な刀を見て斎王は尚労うと
「じゃあそれは鳴に、扱いには気を付けてね」
「軽量化こそ図りましたが、幾分その大きさ故に‥‥」
「うぅん‥‥それではこちらは『白塩』様とでも呼びましょうか」
「まぁ、異存はないけど」
 次に鳴へ託す様、彼女を指差せば真なる姿を象る『白焔』の模造刀を受け取った巫女はその重みに顔を顰めると、相変わらず静かに言葉紡いだ『闇槍』の話は別段気に止めず一度振るって直後、惑う事無く付けた名前に斎王が苦笑を浮かべると
「それでは、早く深谷水道へ向かうとしましょう。一刻でも時間が惜しいですから」
「そうね、それじゃ早速‥‥」
 一先ず話が纏まった事に牙が皆を促せば颯爽と踵を返すと同時、可愛らしい音ではあったが誰かの胃が鳴いたのは。
「‥‥お腹が空きました。『白塩』様も空きましたよね」
 すればその音の発生源である鳴、先に貰ったばかりの刀へ語り掛ければ出立の前にも拘らずマイペースに皆へ訴えるのだった。

●深谷水道
 それよりしっかりと腹拵えをした後に一行は漸く深谷水道へと辿り着けば、滑る石造りの通路を円陣組んで進む事暫く‥‥淀んだ空気との会話が行なえる魔法を付与していた牙が初めて会話を試みる事が出来る対象を捉え、すぐに話を交わせば重要な情報を得る事となる。
「少々、厄介な事になりそうです」
「それは既に承知済みだが」
 短くなく、長くも無い会話をやがて終えれば巨躯の志士が口を開くと天矢は彼へ、さも当然と言葉を返すがしかし牙は頭を左右へ振ってその理由を語り出す。
「そうなのですがどうやら人が数人、私達よりも早くここに潜り込んでいる様です。しかも昨日から」
「そうなると『闇槍』ではないだろうな」
「妖はともかく俺達以外に人が要石に関与するとは、どう言う事だ」
「考えられる可能性としては黒門の一派かしらね? 簡単に言えば伊勢で何かやろうと目論んでいる集団で、でも要石にちょっかいを出す様な理由は私も思い当たらないんだけど」
 すれば彼の話を受け、斎王より先日聞いた話を思い出しながらガイエルは既に深谷水道へ踏み入っている人の特定に至るが、天矢を筆頭に伊勢に初めて携わった者達は思い当たる節なく祥子へ問うと概要だけ簡単に話して彼女、やはり首を傾げるも
「それなら尚更、前へ進みましょう。時間は待ってくれませんから」
「‥‥そうだな」
 先頭を歩く佐祐李が自ら掲げる提灯を見て刻を確認しながら皆へ呼び掛ければ、彼女の隣に立つ天矢が同意すると再び一行は歩き出した。

「今の所、順調ですね」
 そしてそれより一行は斎王より託された深谷水道内の地図を元に遺跡内を突き進む‥‥が、進んでも進んでも深谷水道が造られた目的故に予想出来た通り、罠が一つもない事は佐祐李を安堵させながらしかし手持ち無沙汰故に微か、不満げな想いを織り交ぜた声を響かせるも
「遺跡とは言っても造られた目的が目的だし、まぁ平和な事はいい事よ」
 それは斎王に見透かされてか、宥められる様に声を掛けられれば頷いて彼女は気を取り直し、深谷水道内の地図を刻の計測も兼ねる提灯にて照らしては新たに踏破した箇所を書き加えながらいよいよ絞られて来た要石がある場に続くだろう未だ踏みしめていない道を静かに見据える。
「恐らく、潮の満ち引きだけで要石へ至る道を上手く隠しているのだろう。ならば」
「長い時間、潮によって塞がれる道が‥‥」
 するとミュールが今までに探索した場所の潮の満ち引きの傾向や深谷水道の成り立ちから間違いないだろう解に至れば、ガイエルがその答えが途中まで紡ぐもそれは静かに人差指を口元に掲げた澄華によって遮られれば
「成程、潮の満ち引きで進める道が刻限によってコロコロ変わるとは面倒な遺跡ですねぇ」
「何者だ?」
「しがない商人の黒門絶衣です、お初目に掛かります」
「あの方は‥‥」
 次に響いた呑気な声音が聞こえた背後へ皆が振り返ると、そこに佇む黒き衣を纏う優男と着崩した着物纏う浪人に、彼とは逆に折り目正しき礼装に身を包む侍の姿。
 そしてその背後にも数人の気配がある事を察しながらアリアスが問えば、中央にいる優男は一行の厳しい眼差しを受けながらも平然と自らその問いへ答える中、彼の傍らが浪人を見て一気に緊張を高める澄華の反応を見止めて黒門。
「どうやら大分、面が割れている様ですね。これでは確かに身を潜めざるを得ませんか」
「所で一体、こんな所まで何用でしょうか?」
「斎王様への面通し、と言った所でしょうか。これから色々とお世話になるつもりですし、それより何より‥‥」
「それ以上詠わなくていい。お前の言葉は俺に届かない」
「そうですか、それは残念です。しかし挨拶だけでは皆さんに失礼なので一つ舞いませんか?」
 密かに微笑み頭を掻けば、マイペースにはマイペースを持って鳴が尋ねるとその質問を待っていたのか、先よりも明らかに表情を綻ばせては言う商人だったが‥‥それは途中で寡黙なミュールに遮られると肩を竦めながら己が手を掲げ、すぐに振り下ろした。

「『白塩』様、一緒に頑張りましょう」
「あれが霊刀‥‥ですかね」
「さて」
 手勢は互いに八と八、共に精鋭であるからこそ激戦は必死だったが早速貰ったばかりの巨大な模造刀を掲げ、雷撃を纏う鳴の姿を見ては黒門と侍に浪人はそれを見届け、ただ佇むだけ。
「余所見とは‥‥随分余裕だな」
「いえいえ、そんな事はありませんよ」
「こいつ、良くやるっ!」
 その中、無論黙って見ているだけの一行ではなく確かに人が殺せるだろう黒門が一派の浪人が振るう剣閃を避け、捌きながらミュールは黒門へ迫り魔力宿る剣を振るうもそれは傍らの侍が疾く掲げた鞘を纏う刀に弾かれれば、彼と逆から黒門へ迫るアリアスもまた浪人風の男が携える抜き身の刃に攻撃の悉くを捌かれ、その力量に目を剥くが
「気を付けて下さいっ、その浪人は‥‥!」
 その時、黒門の傍らにいた浪人に見覚えのある澄華が他の浪人と切り結びながらも警告を発すると同時‥‥突如影の中へ黒門が姿を消せばそれを端に、彼を守っていた侍と浪人は突如牙を向く。
「おっせぇ!」
 そして振るわれた二筋の剛剣を前、ミュールにアリアスはその一刃こそ防ぐが‥‥よろめいた体勢だけはすぐに戻せず、彼らの前へ僅かだが道を開ければ二人は一足飛びで斎王とガイエルへ迫り、白刃煌かす。
「そうはさせません!」
「天壬示現流‥‥覇凰!」
「ちっ」
 だがそれは彼女らの首に至る直前、その場に割り込んでは護り手の牙と天矢が返す刃によって遮られると、続き天矢が剣閃の奔流放てばガイエルが瞬時に詠唱織りて結界を張り巡らせると進む先が阻まれた浪人が舌打ちする中。
「『貴方の』目的は一体、何ですか?」
「言えぬ」
 二つの白刃を目前としながら、厳かな声音にて響いた斎王の問いは確かに侍の方を見て紡がれるも彼はそれを突っ撥ねれば、続き盾を掲げ肉薄する佐祐李がその影より振るった剣を避けると一行より離れている別の影より黒門が現れればその元へ惑わず浪人と共に駆け、それに併せ他の手勢と戦っていたアリアスらも再び斎王らを護るべく集うと黒門は瞳に暗き光宿し含みある言葉を呟きながら、それを最後に一行へ背を向けて要石がある方とは逆へ駆け出した。
「次に見える、その時こそ必ず‥‥伊勢を混沌に陥れて見せましょう」

●一先ずの終焉
 何を意図しての襲撃か、それこそ本当に挨拶に来ただけとしか思えない黒門の一派を退けた一行は今、深谷水道で一番に長く潮に閉ざされている道に辿り着けば潮が完全に引けた後、その最奥にあった部屋の中心に居座る要石を見つめながらガイエルが紡ぐ祝詞に耳を傾けていた。
「我が命を以って、その力を解き放て」
 そして願うガイエルの目の前に朽ち掛ける姿より解き放たれた真なる『白焔』が現れると
「我は願う、永遠なる封印を‥‥八百万の神々よ、御祈願を叶え給え」
 彼女はそれを平然と掲げ、再び厳かに祝詞を織り紡げば反響するそれが消えるより早く『白焔』を要石へ突き立て、新たなる封印を施した。
「一仕事終わって二仕事増えた気もするが‥‥まぁ、無事封印出来た事を今は喜ぼう」
「そうそう、今はね」
 すればその直後、膝を崩すガイエルを抱える佐祐李を見止めながら‥‥だが要石の半分を回り、徐々に見えて来た『敵』の事を考えながらアリアスが嘆息漏らし、しかし最後は前向きな考えを持って何故か釣竿を背負いながら呟くと祥子も頷けば、改めて皆を見回した後に礼を告げる。
「一先ず此処までありがとう、とりあえず要石も半分は抑えたからこれで当分は安心でしょう。妖の動きも制限される筈だし‥‥」
「祥子様!」
 がそれは最後まで紡がれず、その場に割り入った『闇槍』の一人が叫びによって遮られれば、その只ならぬ様子に斎王は彼へ近付き事の次第を伺うと次に肩を竦めて彼女。
「‥‥簡単に終わる気はないみたい。私の留守を狙うなんて良くもまぁ。でも、本当にありがとうね。また良かったら次も協力して貰えると助かるわ。お互い、気心知れていれば何かと楽だし」
 斎宮が今、陥っている状況を聞いて声音こそ先より変わらずに‥‥だが先とは明らかに纏う雰囲気を変えて呟けば、皆が声を掛けるより早く斎王は踵を返し何とか顔を綻ばせて皆に感謝の気持ちを率直に告げると
「いえ、此方こそお世話になりました。斎王様のお力添えになれていたか、甚だ不安ではありますけど‥‥」
「大丈夫大丈夫、とても助かったわよ。それじゃあ戻りましょうか、私は急ぐから先に行くけど‥‥またねっ」
「それまで、どうか斎王様も息災なき様に」
 次に響いた佐祐李の言葉に斎王は表情をそのままに、一度だけ頷き彼女の不安を一蹴するとやがて先に駆け出せば、背へ投げ掛けられた天矢の気遣いにも手だけ掲げて応じながら彼女は一行の視界より消えた。
「さて、そうなると問題は結界壊し『黒不知火』の所在、か。この情勢では早く突き止めないとね」

 〜一時、終幕〜