●リプレイ本文
●英虞湾望みて
年も明けて半月近くが経とうとしていた頃‥‥鳥羽から深谷水道目指し、速く街道を南下する要石の封印を行なうべく集った冒険者と祥子内親王の姿が見受けられた。
「大丈夫ですか?」
「久し振りに乗ったけど、問題ないわ。馬を操るのがウマいわね、何ちゃって」
「ありがとうございます」
「‥‥張り合いがないなぁ」
その一団の中、愛馬駆る御神楽澄華(ea6526)は自身の後ろに乗る斎王へ問えば返って来た言葉を真摯に受け止め、だが肝心な所を流す生真面目な彼女に祥子は嘆息を漏らすが澄華はその反応に首を傾げるだけ。
と言う様に急ぎながらも今は和やかに進む中。
「次は洞窟ですよね、要石も石だからきっと紛らわしいのかな」
「まぁ見た目、大きいだけの石だからね」
「しかし今後を考えれば何らかの形ですぐ要石と識別出来る様にするか、文献に残すなりしないとな」
「いやいや、全く持ってその通りでして」
魔法の草履を履いて斎王の隣を駆ける大宗院鳴(ea1569)が斎王へ問い掛ければ、頷き返す彼女だったが次に響いた『白焔』が使い手のガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が提案を聞けば痛い所を突かれた斎王は同意しつつも首を竦めるが
「しかし鳥羽の封印こそなりましたが、向こうもまだ本腰には遠そうですね‥‥此方の様子を伺っていた節もありますし」
「夫婦岩の一件といい、それなりにやる気はあるみたいなんだけど何を考えているのかさっぱりね」
「‥‥今は気にしても仕方ありませんか、ならその余裕が命取りであったと後悔させるまで」
「いいわねぇ、その意気込み。今回も期待しているから宜しくね」
前方より風に乗って響いて来た澄華の静かな疑問に今度は斎王も先の彼女に倣い首を傾げると、僅かな間を置いて軍馬を駆る志士はやはり静かに闘志燃やせば祥子は彼女の肩を叩き、次いで辺りを駆ける皆を見ては顔を綻ばせると
「お任せを、必ずや深谷水道の要石も封印してみせる」
「今回の封印を行なえば、残りは半分か‥‥気を引き締めていこう」
斎王の期待に怯まず臆さず、壬生天矢(ea0841)と山王牙(ea1774)の男達が立て続けに頼もしく断言すれば頷いた後に彼女は澄華に掴まったまま、肩越しに見えた光景から皆へ声を掛けた。
「さて、急いだ甲斐もあってとりあえず中継点に到着ね。じゃあ此処で休憩がてらに話でも聞いて回りましょうか」
「漁業に関わる遺跡‥‥要石の場所が特定出来ていない可能性としては仕掛けや現象として潮の満ち引きや逆流現象によって道が現れるか、何らかの魔法で隠匿されている可能性が考えられると思う」
「そうですね、ですから潮の満ち引きの刻限や深谷水道に纏わる話を中心に聞き込みましょう」
するとその村を目前にミュール・マードリック(ea9285)が深谷水道に付いて自身の予想を紡げば、それに緋芽佐祐李(ea7197)も頷いて皆へ優先して集めるべき情報を提示すると一行は村へ着くなり、すぐに散開した。
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だがそれから暫くして再び集った一行の内、一番を切って口を開いた騎士のアリアス・サーレク(ea2699)が発言には皆、目を見開く事となる。
「この時期の英虞湾はヒラメとメジナにシロギスが釣れるらしい」
『‥‥‥』
「‥‥済まん、話を聞いた漁師に趣味の釣りの話をしたらつい盛り上がって」
「一先ず、潮の満ち引きの刻限に付いては大よそ分かったか」
だがうな垂れるアリアスはさて置いても、皆が仕入れて来た情報を纏めてみればミュールが判断した様に深谷水道近辺の潮の満ち引きに付いては判明すれば
「深谷水道が造られた目的は比較的に水温が高い英虞湾にて発生する赤潮を食い止める為だそうです。以前よりこの辺りは地下に延びる洞穴が幾つもあったからこそ、それを利用して近くに住まう漁民達が力を合わせ英虞湾と熊野灘を繋いだ結果と言う話でした。しかし今では誰も立ち入る事がなくなり遺跡となったみたいですね」
「そうね、斎宮の文献にもそんな記述があったわ。でその工事の際、洞穴の一つにあった要石を隠蔽したみたい。その要石の詳細な所在は記録に残さないまま」
「そうなると先の探索で見付かった隠し通路は一体?」
「そればかりは何とも。その当時の斎宮関係者が何らかの思惑を持って拵えたのか、それとも以前からあったのが見付かっただけか」
佐祐李が語る様に深谷水道に付いての情報も分かると、頷く斎王の傍らでそれを受けて疑問を口にしたのは牙で、隣に佇む斎王の瞳を見据え目的を持って造られているにも拘らず、その意にそぐわない隠し通路の存在に付いて尋ねるも‥‥それは彼女も知らず、幾つかの憶測を思い浮かべながら首を傾げた丁度その時。
「祥子様」
「あら、ご苦労様‥‥ってそれじゃあ此処に来るまで大変だったでしょう?」
何処からか静かに響いて来た声を皆が聞くと皆を見つめたままにその声の主を労えば、すぐ傍らに現れた『闇槍』が一人の携える巨大な刀を見て斎王は尚労うと
「じゃあそれは鳴に、扱いには気を付けてね」
「軽量化こそ図りましたが、幾分その大きさ故に‥‥」
「うぅん‥‥それではこちらは『白塩』様とでも呼びましょうか」
「まぁ、異存はないけど」
次に鳴へ託す様、彼女を指差せば真なる姿を象る『白焔』の模造刀を受け取った巫女はその重みに顔を顰めると、相変わらず静かに言葉紡いだ『闇槍』の話は別段気に止めず一度振るって直後、惑う事無く付けた名前に斎王が苦笑を浮かべると
「それでは、早く深谷水道へ向かうとしましょう。一刻でも時間が惜しいですから」
「そうね、それじゃ早速‥‥」
一先ず話が纏まった事に牙が皆を促せば颯爽と踵を返すと同時、可愛らしい音ではあったが誰かの胃が鳴いたのは。
「‥‥お腹が空きました。『白塩』様も空きましたよね」
すればその音の発生源である鳴、先に貰ったばかりの刀へ語り掛ければ出立の前にも拘らずマイペースに皆へ訴えるのだった。
●深谷水道
それよりしっかりと腹拵えをした後に一行は漸く深谷水道へと辿り着けば、滑る石造りの通路を円陣組んで進む事暫く‥‥淀んだ空気との会話が行なえる魔法を付与していた牙が初めて会話を試みる事が出来る対象を捉え、すぐに話を交わせば重要な情報を得る事となる。
「少々、厄介な事になりそうです」
「それは既に承知済みだが」
短くなく、長くも無い会話をやがて終えれば巨躯の志士が口を開くと天矢は彼へ、さも当然と言葉を返すがしかし牙は頭を左右へ振ってその理由を語り出す。
「そうなのですがどうやら人が数人、私達よりも早くここに潜り込んでいる様です。しかも昨日から」
「そうなると『闇槍』ではないだろうな」
「妖はともかく俺達以外に人が要石に関与するとは、どう言う事だ」
「考えられる可能性としては黒門の一派かしらね? 簡単に言えば伊勢で何かやろうと目論んでいる集団で、でも要石にちょっかいを出す様な理由は私も思い当たらないんだけど」
すれば彼の話を受け、斎王より先日聞いた話を思い出しながらガイエルは既に深谷水道へ踏み入っている人の特定に至るが、天矢を筆頭に伊勢に初めて携わった者達は思い当たる節なく祥子へ問うと概要だけ簡単に話して彼女、やはり首を傾げるも
「それなら尚更、前へ進みましょう。時間は待ってくれませんから」
「‥‥そうだな」
先頭を歩く佐祐李が自ら掲げる提灯を見て刻を確認しながら皆へ呼び掛ければ、彼女の隣に立つ天矢が同意すると再び一行は歩き出した。
「今の所、順調ですね」
そしてそれより一行は斎王より託された深谷水道内の地図を元に遺跡内を突き進む‥‥が、進んでも進んでも深谷水道が造られた目的故に予想出来た通り、罠が一つもない事は佐祐李を安堵させながらしかし手持ち無沙汰故に微か、不満げな想いを織り交ぜた声を響かせるも
「遺跡とは言っても造られた目的が目的だし、まぁ平和な事はいい事よ」
それは斎王に見透かされてか、宥められる様に声を掛けられれば頷いて彼女は気を取り直し、深谷水道内の地図を刻の計測も兼ねる提灯にて照らしては新たに踏破した箇所を書き加えながらいよいよ絞られて来た要石がある場に続くだろう未だ踏みしめていない道を静かに見据える。
「恐らく、潮の満ち引きだけで要石へ至る道を上手く隠しているのだろう。ならば」
「長い時間、潮によって塞がれる道が‥‥」
するとミュールが今までに探索した場所の潮の満ち引きの傾向や深谷水道の成り立ちから間違いないだろう解に至れば、ガイエルがその答えが途中まで紡ぐもそれは静かに人差指を口元に掲げた澄華によって遮られれば
「成程、潮の満ち引きで進める道が刻限によってコロコロ変わるとは面倒な遺跡ですねぇ」
「何者だ?」
「しがない商人の黒門絶衣です、お初目に掛かります」
「あの方は‥‥」
次に響いた呑気な声音が聞こえた背後へ皆が振り返ると、そこに佇む黒き衣を纏う優男と着崩した着物纏う浪人に、彼とは逆に折り目正しき礼装に身を包む侍の姿。
そしてその背後にも数人の気配がある事を察しながらアリアスが問えば、中央にいる優男は一行の厳しい眼差しを受けながらも平然と自らその問いへ答える中、彼の傍らが浪人を見て一気に緊張を高める澄華の反応を見止めて黒門。
「どうやら大分、面が割れている様ですね。これでは確かに身を潜めざるを得ませんか」
「所で一体、こんな所まで何用でしょうか?」
「斎王様への面通し、と言った所でしょうか。これから色々とお世話になるつもりですし、それより何より‥‥」
「それ以上詠わなくていい。お前の言葉は俺に届かない」
「そうですか、それは残念です。しかし挨拶だけでは皆さんに失礼なので一つ舞いませんか?」
密かに微笑み頭を掻けば、マイペースにはマイペースを持って鳴が尋ねるとその質問を待っていたのか、先よりも明らかに表情を綻ばせては言う商人だったが‥‥それは途中で寡黙なミュールに遮られると肩を竦めながら己が手を掲げ、すぐに振り下ろした。
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「『白塩』様、一緒に頑張りましょう」
「あれが霊刀‥‥ですかね」
「さて」
手勢は互いに八と八、共に精鋭であるからこそ激戦は必死だったが早速貰ったばかりの巨大な模造刀を掲げ、雷撃を纏う鳴の姿を見ては黒門と侍に浪人はそれを見届け、ただ佇むだけ。
「余所見とは‥‥随分余裕だな」
「いえいえ、そんな事はありませんよ」
「こいつ、良くやるっ!」
その中、無論黙って見ているだけの一行ではなく確かに人が殺せるだろう黒門が一派の浪人が振るう剣閃を避け、捌きながらミュールは黒門へ迫り魔力宿る剣を振るうもそれは傍らの侍が疾く掲げた鞘を纏う刀に弾かれれば、彼と逆から黒門へ迫るアリアスもまた浪人風の男が携える抜き身の刃に攻撃の悉くを捌かれ、その力量に目を剥くが
「気を付けて下さいっ、その浪人は‥‥!」
その時、黒門の傍らにいた浪人に見覚えのある澄華が他の浪人と切り結びながらも警告を発すると同時‥‥突如影の中へ黒門が姿を消せばそれを端に、彼を守っていた侍と浪人は突如牙を向く。
「おっせぇ!」
そして振るわれた二筋の剛剣を前、ミュールにアリアスはその一刃こそ防ぐが‥‥よろめいた体勢だけはすぐに戻せず、彼らの前へ僅かだが道を開ければ二人は一足飛びで斎王とガイエルへ迫り、白刃煌かす。
「そうはさせません!」
「天壬示現流‥‥覇凰!」
「ちっ」
だがそれは彼女らの首に至る直前、その場に割り込んでは護り手の牙と天矢が返す刃によって遮られると、続き天矢が剣閃の奔流放てばガイエルが瞬時に詠唱織りて結界を張り巡らせると進む先が阻まれた浪人が舌打ちする中。
「『貴方の』目的は一体、何ですか?」
「言えぬ」
二つの白刃を目前としながら、厳かな声音にて響いた斎王の問いは確かに侍の方を見て紡がれるも彼はそれを突っ撥ねれば、続き盾を掲げ肉薄する佐祐李がその影より振るった剣を避けると一行より離れている別の影より黒門が現れればその元へ惑わず浪人と共に駆け、それに併せ他の手勢と戦っていたアリアスらも再び斎王らを護るべく集うと黒門は瞳に暗き光宿し含みある言葉を呟きながら、それを最後に一行へ背を向けて要石がある方とは逆へ駆け出した。
「次に見える、その時こそ必ず‥‥伊勢を混沌に陥れて見せましょう」
●一先ずの終焉
何を意図しての襲撃か、それこそ本当に挨拶に来ただけとしか思えない黒門の一派を退けた一行は今、深谷水道で一番に長く潮に閉ざされている道に辿り着けば潮が完全に引けた後、その最奥にあった部屋の中心に居座る要石を見つめながらガイエルが紡ぐ祝詞に耳を傾けていた。
「我が命を以って、その力を解き放て」
そして願うガイエルの目の前に朽ち掛ける姿より解き放たれた真なる『白焔』が現れると
「我は願う、永遠なる封印を‥‥八百万の神々よ、御祈願を叶え給え」
彼女はそれを平然と掲げ、再び厳かに祝詞を織り紡げば反響するそれが消えるより早く『白焔』を要石へ突き立て、新たなる封印を施した。
「一仕事終わって二仕事増えた気もするが‥‥まぁ、無事封印出来た事を今は喜ぼう」
「そうそう、今はね」
すればその直後、膝を崩すガイエルを抱える佐祐李を見止めながら‥‥だが要石の半分を回り、徐々に見えて来た『敵』の事を考えながらアリアスが嘆息漏らし、しかし最後は前向きな考えを持って何故か釣竿を背負いながら呟くと祥子も頷けば、改めて皆を見回した後に礼を告げる。
「一先ず此処までありがとう、とりあえず要石も半分は抑えたからこれで当分は安心でしょう。妖の動きも制限される筈だし‥‥」
「祥子様!」
がそれは最後まで紡がれず、その場に割り入った『闇槍』の一人が叫びによって遮られれば、その只ならぬ様子に斎王は彼へ近付き事の次第を伺うと次に肩を竦めて彼女。
「‥‥簡単に終わる気はないみたい。私の留守を狙うなんて良くもまぁ。でも、本当にありがとうね。また良かったら次も協力して貰えると助かるわ。お互い、気心知れていれば何かと楽だし」
斎宮が今、陥っている状況を聞いて声音こそ先より変わらずに‥‥だが先とは明らかに纏う雰囲気を変えて呟けば、皆が声を掛けるより早く斎王は踵を返し何とか顔を綻ばせて皆に感謝の気持ちを率直に告げると
「いえ、此方こそお世話になりました。斎王様のお力添えになれていたか、甚だ不安ではありますけど‥‥」
「大丈夫大丈夫、とても助かったわよ。それじゃあ戻りましょうか、私は急ぐから先に行くけど‥‥またねっ」
「それまで、どうか斎王様も息災なき様に」
次に響いた佐祐李の言葉に斎王は表情をそのままに、一度だけ頷き彼女の不安を一蹴するとやがて先に駆け出せば、背へ投げ掛けられた天矢の気遣いにも手だけ掲げて応じながら彼女は一行の視界より消えた。
「さて、そうなると問題は結界壊し『黒不知火』の所在、か。この情勢では早く突き止めないとね」
〜一時、終幕〜