●リプレイ本文
●目指すは、鳥羽
伊勢は神宮を発ち要石に新たな封印を施すべく集った八人の冒険者達は今、斎王と共に鳥羽を目指し海岸沿いの街道をひた走っていた。
「鳥羽ですか、海ですか。冬ならばヒラメやカキが美味しいですよね」
「‥‥何もこんな時に」
「いえいえ、こんな時だからこそですよ」
「まぁ‥‥それもそうですね、とは言え今すぐには厳しいかと」
が緊張感漂うその中においても巫女装束に千早を纏う大宗院鳴(ea1569)は相変わらずのんびりした声音を響かせれば、そんな彼女へ御神楽澄華(ea6526)が瞳を伏せたままに呆れるも‥‥しかし鳴は益々顔を綻ばせて言えば、澄華が先に折れればやがて彼女に釣られ僅かながらに顔を綻ばせ、しかし巫女を現実に引き戻すと鳴は苦笑を返しながら澄華が携える刀を見つめながら口を開き、斎王を呼び止めると
「あっ‥‥そう言えば祥子様、白焔様の偽物って用意出来ますか?」
「あれだけの大物、どう考えても既存する刀にはない規格外の代物だからねぇ。でも時間を掛けさえすればまぁ‥‥何とかなるかしら?」
「‥‥鍛冶師に伝はありますので必要とあらば、手配しますが」
「じゃあそうして頂戴。掛かる経費はこちらで負担してね、でも必要以上に払い過ぎない様に」
「はい」
すぐにある提案を口にすれば、それを受けて斎王は足を止めては思案する事暫し。
やがて近くの樹上を仰ぎ見て誰へとなく尋ねると直後、唐突に返って来た答えへ斎王は驚かず頷けば歩を止めた斎王に合わせて立ち止まる皆を見回して彼女。
「と言う事で、さっさと行きましょう」
「しかし、僅か先にだが発った『五節御神楽』は大丈夫だろうか‥‥牛鬼と言えばドラゴンにも引けを取らない大海妖と聞くが」
「問題ないわよ‥‥それより何、妹さんが信用出来ないとでも?」
「い、いや‥‥けしてそんな訳では!」
すぐに皆を促しては行軍の再開を告げると、再び歩き出した一行の中で今回も鬼面を付けては顔を覆っている騎士のアリアス・サーレク(ea2699)が独り言か、囁くとそれを耳にした斎王は珍しく厳しい視線にて彼を見据え言えば、鬼面付ける騎士はその奥にて狼狽の表情を露わにし先の発言を取り消すと、笑顔を湛えながらも斎王は改めて一行へ見回せば
「自身もそうだけど皆の事を、これから協力を得るだろう人を信じてあげてね。信じる事が出来なければ今回も、これからも要石の再封印は厳しくなる一方よ。だからそれだけは覚えておいてね」
「はい、勿論です。出立前にも伊勢神宮へ誓いを立てて来ましたので、その誓いと合わせて必ずや守り、貫き通します」
「宜しいっ、では鳥羽へ!」
一つ、皆へ忠告するとそれを受けても緋芽佐祐李(ea7197)は尚真っ直ぐに彼女を見つめ言い切れば、迷いなく応じる皆の様子を見届けて斎王は表情を綻ばせると改めて鳥羽の方を見つめるのだった。
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そして刻は過ぎ、大よそ三日を経て一行は鳥羽へ辿り着くと同日の内に僅かだが先行していた『五節御神楽』と合流を果たす。
その意は最終的な打ち合わせ。
時間こそ僅かで限られているが、やらない事には互いが力を合わせては目指す最終的な目的を成す事が難しくなる故に二班が顔を合わせるのは必然だった。
「死ぬな、とは言えないが無理なら引く事も勤めだと思う。無駄に華散らす事もない‥‥俺達も控えている」
「そんな気はさらさらないから安心して、むしろ貴方達の方こそ気を付けてね」
「私達と違い相手が何か分からないからな」
「その気遣い、有り難く頂戴する」
そして斎王が二班を仲介しては手早く打ち合わせを済ませれば、『五節御神楽』の面々へ寡黙な剣士のミュール・マードリック(ea9285)が静かな声音で忠告すると微笑を湛えては真新しい黒き長衣を羽織る女性の志士が間違いなく断言すれば、彼女とは違い黒く長い鉢巻を巻く侍の労いへ壬生天矢(ea0841)は感謝の意を会釈にて表すと皆は次いで、斎王へと視線を投げる。
「斎王様もご無事で‥‥」
「大丈夫よ、彼らがいるからね」
「それに祥子様の身は、この体を張っても守り通してみせますよ」
「よろしくね、っと‥‥それじゃあそろそろ動きましょうか。今回の目的、どちらか片方がしくじれば成し得る事は出来ないでしょう。それを肝に銘じて各々、事に臨んで下さい」
すれば次、斎王の間近にてかしまづく志士が硬き面持ち携える中にて紡いだ心配へ彼女は何時もと変わらぬ笑顔を湛えて返すと、山王牙(ea1774)も柔らかき口調にて続き紡ぐ誓いを聞けばその女性志士は漸く顔を綻ばせると頷いた後に斎王は皆へ呼び掛け
「ですが先にも話に上がった通り、命は無駄にせぬ様にも各自努めて下さい。自らの命を護れない方に一体、何が護れましょうか‥‥それでは皆が皆、再び揃う事を祈っております」
「それでは、私達も行こうか‥‥要石を確かに封ずるべく」
やがてその最後に己が願いを間違いなく皆へ告げれば二班へ解散を言い渡すと、鬨の声を上げる『五節御神楽』の傍らにて、『白焔』の使い手がガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は厳かに皆へ呼び掛けるのだった。
●激突! 〜妖魔跋扈〜
『五節御神楽』が魔獣駆りて牛鬼と相対していた頃、要石を封ずる一団はそれを目前にして岩陰へ潜んでいた。
「海中には何か‥‥いない様だな」
「さて、敵は人か妖魔か‥‥どちらが来ても斬るだけだが」
僅かずつではあるが目に見えて潮が引いていくその中、『五節御神楽』とは別に海中の様子を蒼き亀甲龍に探らせていたミュールはそれが戻るなり、尋ねては返って来た反応から皆を見回し言えば陸にも空にも今は敵影見えず、だからこそか何処か落ち着きなく天矢が己の得物に手を伸ばし呟くと
「とは言え、今はまだすぐには‥‥」
「ふむ、『五節御神楽』がやってくれたか」
「牛鬼はとりあえず退きましたね、後は潮の方ですが」
「問題ない‥‥これなら、今から移動を始めれば丁度干潮の時に要石の目前まで船を寄せる事が出来る」
澄華が彼を宥めるべく、声を掛けたその時‥‥アリアスの声が響けば皆、岩陰から顔を僅かに覗かせると確かに彼が言う通り、四頭の魔獣に威嚇されて動き出した牛鬼の姿が遠目にだが確認出来ると次の懸念事項を呟いた火の志士へは今度、ミュールが潮の流れを見切り頷けば
「それならば参りましょう、斎王様の意思を叶える為に」
佐祐李が皆の意思を統一すべく厳かに呟くと、いよいよ一行は岩陰より立ち上がった。
そして戦いは始まる、初めこそ妖怪の姿は影も形もなくガイエル達は要石へ向け、他の面子は要石へ向かった三人の背を守る様に海岸沿いに広く配するのだが‥‥僅かな間を経れば陸より迫る妖怪達を捉えると
「やはり、数で押して来ますか。しかし‥‥」
「進軍が遅過ぎる、速度に優れる妖怪も僅かだが見受けられるだけ余計に。余程の愚手なる指し手か‥‥それとも」
死霊侍を中心としたその群れは一行にすれば確かに役者不足でこそあったが、数に物を言わせる変わらずなスタンスに対し、鋭く瞳をすがめる澄華は紅蓮宿せし刃にて的確且つ確実な一撃を振るい、迫る敵を打ち砕きながら呟いた疑念は継いで天矢が己に迫る火車を捉えて思考するも‥‥直後、それが振るう爪を刀にて受け止めれば彼は巡らせていた思案を中断し、目の前の敵に集中すれば
「一先ず、考えるより先に動くべきです。空を飛ぶ妖もいます故、早く陸からの妖怪を打ち倒しましょう」
「あぁ、これでは要石まで辿り着くのが遅くなってしまいます」
「‥‥嘘ではないが、さて」
「ともかくこれ以上‥‥要石にも、斎王様にも一歩であろうと近付けさせはしませんっ!」
「唸れよっ、斬魔!」
火車を目にして牙が斎王の位置を確認しつつも次に要石へ視線を向けて皆へ警告すれば、迫る敵を困惑させる為に雷纏いし巫女が厳かに、自身にとっては嘘偽りなく盛大に嘆息漏らすが‥‥辺りを伺い、この一団を統率しているだろう存在の姿がないだろう事にミュールは刃を振るいながら気付くも次にはそれに構わず、早く妖怪達を薙ぎ払うわんと澄華と天矢の裂帛が場に轟き疾き斬撃が奔った。
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一方の要石を目指す三人はその頃、護衛する組を飛び越えて空より舞い降りた以津真天の群れと相対していた。
「伊勢を護ろうとする彼女の願いを叶える為‥‥アリアス・サーレク、推して参る!」
その群れに対するは三人だけだったが、ミュールの亀甲龍も彼らを手助けすれば要石を前にした戦いは拮抗する。
「『白焔』、貴殿の力を又借りるぞ」
その中、間隙を縫う様に結界を張り血路を見出したガイエルは何とか要石に取り付くと、早く古びた刀を抜き放てば想いを、覚悟をその刀身へ叩き込み‥‥『白焔』の真なる姿を解放する。
その姿は巨大ながらも緩く弧を描き、その刀身は白く燃え上がる様な波紋を輝かせては辺りを眩しく照らし付ける。
その光が狭い範囲ながらも周囲に降り注げば、要石に迫らんとする妖怪達は僅かながらとは言え怯み、後ずさるとそれを機と見たガイエルは躊躇わずに『白焔』を鳥羽の要石へ勢い良く突き立てる。
「要の石よ‥‥千代に八千代に、この伊勢を護り給え
そして織られた祝詞と同時、『白焔』から光が弾けると、その使い手は膝を折ればすぐに『白焔』はその形を普段の何時朽ちるか知れない形へ戻し、先まで辺りに降り注いでいた光が止むと先まで後退していた首長き鷹達は再び一斉に要石‥‥ではなく『白焔』が使い手目指し進軍を開始すれば、そうはさせじとガイエルが早く結界を形成すべく印を組むも結界は生成されず。
「‥‥っ。そう言う、事か‥‥」
「ガイエル!」
やがて鷲が集う中で斎王の言葉を思い出した使い手は『白焔』の解放と結界の再封印がどう言う事なのか思い至ると、刃を振るい次々に異形の鷹を屠りこそするがその数故に身動きが取れないアリアスの叫びが響く中、古びた刀を振るうガイエルは迫った一匹の鷹を何とか追い払いこそするが数は変わらず多勢に無勢。
その光景を前に彼女が露骨に顔を顰めた、その直後。
「一先ず目的は達しました、一度他の皆さんと合流しましょう」
「あ、あぁ」
刹那のタイミングで彼女の元に駆けつけた佐祐李がガイエルの元へ辿り着くとすぐ抱えては一時、この場からの離脱をアリアスへ告げて三人は振り返らず岸で戦う皆の元を目指し駆け出した。
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だがその時、陸から要石を目指し迫らんとする敵の目を惹き付けていた五人と斎王は夜の闇に溶け込む、一つの影と対峙していた。
「いささか遅れてしまったか、これでは奴らに合わせる顔がないが‥‥中々どうして、これだけでも意外に善戦出来るものだな」
「貴様か、今回の首謀者は‥‥」
「さて、それはどうだろうか」
闇より響いたその声にミュールは率直に問うが、影はそれに対しての答えを返さず静かに笑い声を漏らすと次にねめつける一行の面をじっくりと見回した後。
「そう怖い顔をするな、今回は顔合わせだけ故に‥‥ふむ」
静かにそれだけ告げるが‥‥突如、己が翼に風を孕ませれば斎王の眼前に降り立とうとし
「それ以上、斎王様に近付く事はまかりなりません」
「隙はないか、流石に」
「建御雷之男神様‥‥御雷光を」
だがそれは彼女の傍らに佇んでいた巨躯の志士が翳した刃によって阻まれると、影は再び宙へ舞えば手を掲げ、残存する妖怪達を下がらせるが‥‥逃がすまじと鳴の次に放った雷撃を漆黒の結界にて弾いた後に影は最後に一言だけ一行へ告げると、戻って来たガイエルらの姿を確認してから漆黒の虚空へ羽撃くのだった。
「相手を知り、己を知ってこそ勝利は確約される。次は果たして上手く行くかな‥‥」
●深谷水道へ
一先ず、鳥羽の要石に新たな封印が施されれば天魔が退いた事より先まで場に数多いた妖怪達も姿を消した為、此処での決着はその大勢を決する。
「次は‥‥何処でしたか?」
「次は深谷水道、此処からは丁度南の方になるわね。とりあえず現時点で手に入っている情報では‥‥っと」
しかしその中でも気を抜かず、澄華が紡いだ質問に祥子は鳥羽の要石より背を向け深谷水道がある南の方を仰ぎ見て言うと‥‥何時の間に近くまで来ていたのか『闇槍』の一人、携えて来た書物を彼女へ手渡せばそれに目を通す事暫し。
「結構に大きな遺跡の様だけど、漁業に関わる遺跡らしくて一般的なそれとはいささか趣が異なるらしいわ」
「その詳細に付いて、どれだけ調査がされているのでしょうか?」
「内部構造の殆どは把握し、地図にこそ起こしているけど‥‥肝心の要石は未だに見付かっていないって」
額を掻きながらも斎王がやがて口を開くと、その遺跡に付いて先ずは牙が問えば書物が一部の紙片を皆の前に提示して言うも、その話を聞いて首を傾げたのは鳴。
「え、でも話じゃあ‥‥」
「えーと‥‥ごめん、深谷水道に関しては文献で場所だけしか分かっていないのが現状。だけど同じ文献に記されていた他の要石に付いてはその全てが確認出来ているから、深谷水道に要石があると思って先ず間違いないわ。現に隠し通路も幾つか発見されているしね」
以前に斎王から聞いていた話と異なる点に付いて尋ねようとするも、彼女のそれを途中で遮って斎王は頭を一度下げればその点に付いて改めて皆へ説明すると‥‥その話を聞いた後に『白焔』の使い手がガイエルは静かに己が口を開く。
「そうなると次は、深谷水道に潜り要石の所在を突き止める事が先ず優先される事になるか」
「そうね。だけど地図はその殆どが出来ていて、要石は見付かっていない‥‥どう探索するかが肝かな。次に見える敵も分からない以上、遺跡探索に関してもやはり時間との勝負になると思うわ」
すると頷く斎王から返って来た答えと、その次に響いた話には一行それぞれに思案こそするが
「それなら、早く深谷水道の方へ向かうとしましょう。探索の方針に付いては道々でも相談出来ますし、今度も時間の勝負であるのでしたら尚更に」
「‥‥そうだな」
長考しそうな場の雰囲気を察し、佐祐李がすぐに皆へ呼び掛ければ僅かに間を置いて天矢が漸く頷くと他の皆も動き出そうとした、その時。
「あっ‥‥」
「どうか、しましたか?」
「お魚が食べたいです、折角鳥羽へ来たのですから」
鳴が小さな叫びを上げれば、先を行く牙が振り返り問うと‥‥皆の視線の前で彼女は相変わらず呑気にそんな答えを返しては、可愛らしく腹を鳴らすのだった。
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「‥‥さて、どうしましょうか」
「どうする、とは」
「現状、引く事が止むを得ないとは言えこのまま何もしないままでいいものか‥‥とね」
「今は止めておけ、いずれ‥‥」
「いえ、やはり一度位は斎王様に挨拶をしておくべきかと」
「‥‥これから暫くの計画は揺るがない、ならそれが先でも後でも構わないだろう。そして私はお前に従うだけの存在、ならば好きにしろとしか言えぬ」
〜続く〜