【破妖結界】祝詞を織りて・前

■キャンペーンシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:29 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月30日〜02月04日

リプレイ公開日:2007年01月06日

●オープニング(第1話リプレイ)

●呼応
 伊勢神宮は内宮の入口である、大きな橋のその袂にて一行は今回の依頼人である祥子内親王と面を合わせた。
「祥子様、お久し振りです。今回も何卒宜しくお願い致します」
「お久し振り、そしてお初な方は初めまして」
「‥‥よ、宜しく」
 その第一声は彼女と同じく巫女装束を身に纏う、大宗院鳴(ea1569)によって皮切られれば彼女の明るい声に負けじと斎王もまた笑顔を湛え言うと、初めて介するミュール・マードリック(ea9285)はイメージと違う目の前の存在に普段の冷静さは何処へやら、たじろぎながら精一杯に挨拶を返すも
「やはり天照大神がいらっしゃる場所ですから良く晴れていますね」
「そうね、そして私の日頃の行いもいいからよ!」
 その様子に首を傾げながら、しかし鳴は久し振りである事に戸惑う事無く至ってマイペースに青空を見上げ言えば、引かずに斎王もまた応じると二人は次いで笑顔を交わすが
「もう一寸堅いイメージがあったのですが、何時もああなのですか?」
「普段の立場が立場だから、私達と接する時はそれとは逆に何時も砕けているな。まだ若くもあるし当然と言えば当然だろう、まぁ特異ではあると思うが」
 その光景を見て、ミュール同様にやはり初めて斎王を目の当たりにした山王牙(ea1774)が静かに呟けば、その彼が疑問に伊勢神宮の臨時巫女を勤めるガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が応じその理由を説明すると、だが最後に一言だけ間違いなく付け加えれば巨人の志士が苦笑を湛えたその時。
「今回は『白焔』の真の使い手を捜すと言うお話でしたが、冒険者で試すのは何故なのでしょう?」
「ん、何となく」
『え?』
「深い意味はないわよ、『白焔』を有用に使える人材を考えればこの答えに辿り着くのは必須。封印を解く事が出来ればそれは間違いなく武器でもあるのだから‥‥私達にそれは重過ぎるわ」
 次に辺りへ響いた疑問を耳にすれば、その主である緋芽佐祐李(ea7197)を二人が見つめると、確かにと頷く一行の視線が集まる中で内親王が紡いだ答えは驚くべきもので皆が唖然と口を開け放てばその次、彼女は初めて真剣な面持ちにて真意を語る‥‥が逃避と受け止められなくもない彼女の紡いだ答えへ、だが佐祐李は否定せず信頼するからこそ頷けば
「伊勢の要石を巡り封印を施し‥‥それでこの地に安泰が訪れるのであれば、協力は惜しみません。自分自身、各地を巡るのは鍛錬になりますし‥‥次なる戦い、足手纏いではいたくありませんから」
「次なる戦い。そうね、それは私も一緒よ。余り力は振るいたくないけれど、そうも言っていられないしね。だから皆の力、暫く貸して頂戴」
 斎王の伊勢平定には呼応して、御神楽澄華(ea6526)が自ら貫くべき信念を掲げると表情を尚厳しくして内親王は彼女に頷き返くと改めて皆へ頭を垂れれば今度は狼狽する一行の中、様々に変わる斎王の表情を見て何を思ってか、鬼面を付ける騎士のアリアス・サーレク(ea2699)が彼女の元に参じ、かしまづく。
「内親王には、妹が大変なお世話になっている。純粋過ぎて傍迷惑な妹だが、これからも宜しくしてやって欲しい」
「はて、どちら様?」
「大層な依頼を引き受けてしまったが‥‥さて」
 が、斎王からの問い掛けに鬼面を付けたままである事を漸く思い出せば詳しい事情を語り出す彼と、アリアスの話に耳を傾ける斎王を見て壬生天矢(ea0841)は右の瞳を覆う眼帯を弄りながら、色々な意味でこの依頼の難解さを実感こそするも
「要石の封印を新たに施して廻る旅、か。これより何が起こるかゾクゾクするな」
 これから起こるだろう様々な事態に思いを馳せて一人、静かに身を震わせるのだった。

●試練
 と言う事で、今回の参加者と一通り面合わせをした後に斎王は一行を伊勢神宮が深部にある『試練の間』へと案内するとその通された先、至って普通な畳敷きの部屋(尤もその広さは二十畳以上)に皆が入れば、部屋の奥に壁に立てかけられている古びた刀を見付けるとそれを目前にしても鳴。
「わたくしは白焔様よりも布都御魂様に会ってみたいです」
「‥‥あぁ、貴女ならそうよねぇ」
「はい。とそれはさて置き、白焔様に協力して頂ければいいのですよね」
「そう言う認識で問題ないわ」
「それでは申し訳ありませんが先ず、私が一番に行かせて頂きますね」
 平然と言い放てば斎王は苦笑を浮かべるも、マイペースな巫女は彼女の反応に気付くより早く再度の確認を取れば、肯定の答えが返って来ると同時に『白焔』へ向かい、皆へ断りを入れて歩き出せばやがて古き刀が前に辿り着くと彼女。
「初めまして、わたくし、建御雷之男神の巫女、大宗院鳴と申します。天照大神様も色々と大変なご様子なので、皆様にお力をお貸しして頂けませんか」
 黙したままの刀を前に正しく座れば、礼節を持って『白焔』に接すると返事のないそれを前にしても彼女は自身を保ったまま、表情を綻ばせて深々と頭を垂れた。
「それでは、宜しくお願いしますね」

 それより一両日、休憩を挟みながらも試練を最初に終えた鳴が『試練の間』より出てくれば
「お疲れ様でした、どうでしたか?」
「うーん‥‥きっと大丈夫です、ちゃんとお願いしましたから」
(「そう言う問題なのだろうか?」)
「あのぉ、斎王様。要石について調べたいのですが書物を閲覧しても宜しいでしょうか」
「いいわよ。光、彼女を案内してあげて」
 澄華が彼女を労い問うと、首を傾げつつも笑顔を湛える彼女より返って来た答えには一行、内心で疑問を抱くが鳴は皆のそんな素振りには気付かず斎王へ願い出ると、彼女の申し出に頷いて側近を呼ぶ彼女。
「要石とは天岩戸を囲う様な形で配されているのですね」
 すぐに鳴を書物庫へと案内すべく促せば、先に立つ光は彼女を導くべく歩き出すと朴訥な巫女が去ってより澄華は優と顔を見合わせては苦笑を湛えつつ、伊勢全体の地図へ視線を落としながら話を戻す‥‥その内容はこれまでに要石とそれに今まで関わっているだろう一連が話の摺り合わせ。
「伊勢神宮、鳥羽、深谷水道、倭姫命腹掛岩、五ヵ所城が袂にある村、旧斎宮跡と全てで六箇所、間違いなく確認されていると」
「要石もそうだが、敵の情報に付いてもう少し詳しく伺いたいのだが」
「敵の情報、ねぇ」
 伊勢の地図を指でなぞりながら、六つある要石の所在を確認する彼女に次いで口を開いた天矢が問いには斎王、己が頬に指を当てては天井を仰ぎ見るもやがてその視線を天矢へ移せば口を開き、主だった集団を挙げ連ねる。
「敵対している集団は今の所二つ、黒門絶衣らが一派と多分天魔が束ねているだろう妖怪達ね」
「以前、伊勢で刀狩りを行なっていた者達は黒門の?」
「多分ね。そちらは今までの話を纏める限りでは少数精鋭、詳細は伊勢藩に調査して貰っているけど一先ず、当人以外に四人の強敵がいた筈。逆に妖怪達の方は今までの傾向では数に頼り、要所に侵攻しているわよね、最近じゃあ比較的位の高い奴も見受けられて‥‥どちらも厄介ね」
 その数は一行が事前に調べていた通り二つだけとは言え簡単に彼女が上げる話を聞いて一行、様々に反応を見せるが
「とりあえず思うに、これからの巡回に当たりある程度偽の情報を流布して敵の目を欺くべきかと思う」
「それには私も賛成です‥‥偽の目的地を漏らす事で相手がその情報を拾えば、或いは」
「それならば『白焔』を手にする順番は未だ先の様だし、手隙な今の時間を用いて早速してこようかと思うが問題ないだろうか、斎王様」
「えぇ、構わないわ」
「それでは私も。要石の所在が分かりましたし、目立たない程度に各地の情報を仕入れて来ますね」
 長い間、黙したままだったミュールが口を開くとその意に真剣な面持ち携える澄華も賛同すれば、頷く斎王へ長い待ち時間の気休めにか天矢が立ち上がり言うと踵を返す彼の後を追うかの様に佐祐李も立ち上がり断われば斎王は一時、休憩の旨を皆に告げた。

 尚、それから後も斎王と話し合われた一行の、今後に付いて起こり得るだろう妨害に付いての対策案は伊勢藩の助力を得つつ全てが通った事を補足する。

●覚醒
 さて、そんな中で一行は代わる代わる『白焔』と向き合った。
「風の如く、柔軟にして力強く。その姿、私の前に」
 例えば牙の様に『試練の間』が中央に座り、手隙な時間を用いて行なったイメージトレーニングをそのままに生かし、自らが思い浮かべる『白焔』の形を朽ち掛ける刀に投影したり
「一致、する‥‥のか? だが‥‥俺は紡ごう、祝音が祝詞を。そは優しく、そは猛々しく‥‥」
 また例えばミュールの様に古き刀を鞘より抜き放てばそれを握り、自らの血をたぎらせ時に穏やかに、時に激しく優より教わった祝詞を紡ぎながら舞うも古刀は古刀のままに揺らぐ事はなかった。
「例え本当の姿ではなくとも、霊刀がボロボロのままでは何とも。斎王様ももう少し敬意を払うべきでは‥‥」
 中には澄華だけだったが演舞の後、斎王の許可を貰った上で『白焔』が手入れを行なってみたが鍛治の知識に長ける彼女が手入れを持ってしても『白焔』は目覚めず、常に曇った刀身を鈍く輝かせるだけだったがしかし、脈動する時も確かにあった。
「力を貸して欲しい。伊勢に忍び寄る影を払う為‥‥いや、伊勢だけではない。安寧を揺るがす者達から民を護る為、其方の力で照らし導け」
 それは天矢が礼の念を込めて呟いた呼び掛けに。
「使い手は私でなくとも構いません。どうか仲間に、貴方の使い手が現れます様に」
 またそれは西方を向いては願う、佐祐李の静かな祈りに。
「彼女が伊勢の平和を願うのなら、『白焔』を用いて要石を再封印する事がその礎になるのなら‥‥全力を持って私は『白焔』を使いこなし、その願いを叶えたい。だから!」
 そしてアリアスの、義妹を守りたいと言う純粋な想いを前に確かに鼓動こそしてその形を変貌させた。
 だがその形は僅かにこそ三人の前に垣間見せるが、常に保つ事は叶わなかった。
「何かが足りないのは分かる、だが足りない何かとは一体!」
 その足りない何か、が分からないアリアスは答えこそ模索するも遂には時間切れを迎え『試練の間』が唯一の襖を叩かれれば彼。
「‥‥ガイエル」
「ふむ、漸く私の番か」
 厚いそれを開け放ち、声音に疲労を滲ませて簡潔に最後のガイエルを呼べば臨時巫女は静かに立ち上がると一人、『試練の間』へ踏み行った。

「私に有るとは思えぬが、向き合わせて貰おう。『白焔』が応えてくれれば優殿の負担も軽くなろう物」
 その彼女、今は『試練の間』が中央に置かれている『白焔』へ歩み寄れば厳かに決意を固め、古き刀を手にして掲げると
「悠久の時を経て、伊勢の護りとしてある霊刀よ。あの牛鬼を鎮める為にも要石の再生を望む我に力を貸してくれ」
 何時もの声音にて凛と声を張り響かせれば、鞘より抜き放ち曇る刀身を眼前にして己が願いを‥‥いや、皆が望む願いを紡ぐ。
 だが、掲げるだけのその刀はガイエルが言葉には何も反応を示さず、ただ静かに彼女の手の中で刀身だけ鈍く輝かせるも‥‥彼女が紡いだ、次の言葉には自身を脈動させてその形を変えたのは。
「貴殿の力が必要なのだ。私の力ならば幾らでもくれてやろう‥‥故に頼む、貴殿の真の姿を見せてくれ」
「ふぅん、さしずめ文献通りだった訳ね」
 『試練の間』に入り、然程時間を経る事無く解放された『白焔』の真なる姿を見て、それを前にしても驚かないガイエルを見て、何時入ったのだろう斎王が何事かに納得して頷けば首を傾げる彼女を前に口を開く。
「『かの刀、持ち手の強き想いにこそ呼応するも望むだけでは真の姿を晒さず、相応に代価と足り得る決意を見せよ。例えその決意が自らを滅するとしても、それを突き付け誓った者に『白焔』は己を扱う資格を与えよう』ってね。皆の様子を見る限り、惜しかった人も見受けられたけど後少しだけ、足りなかった様ね」
「人が悪いな」
「そんな事はないわよ、すこーし考えれば分かった筈よ。優の話だってしたんだからね」
 するとその解説を聞いてガイエルは珍しく渋面を湛えるが、斎王は聞く耳持たずに悪戯めいた笑みを浮かべ、背後から覗く一行を見回し言えば‥‥再び視線をガイエルへ戻し、今度は真剣な面持ちにて彼女へ告げるのだった。
「だから一つ、貴方に言っておくわ。その霊刀に伊勢の全てが掛かっていると言っても過言ではない、と言う事を。そして覚悟して、この文献が一文の意味を。貴方が『白焔』へ誓った言葉の意味を、ね」
「‥‥分かった」

●行先
 それより暫く伊勢神宮の片隅にある、見た目は只の岩塊へ解き放たれた『白焔』を突き立てるガイエルと見守る斎王に一行の姿があった。
「‥‥これでいいのか?」
「うん、問題ないわね」
「意外にあっさりしたものだな」
「そうですね、封じている者こそ分かりませんでしたが‥‥多分強大だろう、それの割に」
「ま、何事もそう言う物よ」
 やはり別段、変わらない光景を前に首を傾げる使い手は斎王の肯定を持っても尚不思議に瞬きを繰り返すだけだったが、ガイエルとは別に簡単な手順にて封印が施された事に天矢と鳴が揃い苦笑を浮かべると、祥子は微笑を湛え言い切れば改めて一行を見回して問い掛ける。
「さって、これから出立するけど準備はいいかしら?」
「問題ない」
「よっし。じゃあ一先ずは此処から一番に近い、以前から解消しない問題を抱えたままの鳥羽へ行くわ」
 その問いを前、漸く彼女の立ち振る舞いに慣れたミュールが何時もの冷静さを持って頷けば次なる目的を語る彼女に佐祐李。
「牛鬼がいるのでしたか? それ以外は特に目立った話を聞きませんでしたが」
「そうね。鳥羽と言えば牛鬼が目下の悩み。でもそっちは『五節御神楽』に任せて私達は早く、要石に新たな結界を施しましょう」
 伊勢の臨時巫女からの話に自身が手隙の時に伊勢を駆け回り聞いた話を思い出して確認すれば、頷いて祥子は改めて目的を掲げるも
「で、その肝心の場所は何処に?」
「海の中よ、岸の近くにあるんだけど潮の満ち引きで出たり隠れたりするのよねぇ‥‥しかもそこが」
 ふと要石の詳しい所在を聞いていなかった事に思い至った牙が問えば、斎王の口より明らかにされたその場所に一行は唖然とするがそれは気にせず斎王は話を続けると
「牛鬼の近く、と言う事ですか」
「‥‥そうなると、周囲の警戒をしつつ牛鬼以外の存在は私達が引き受けながら、手隙な時を狙って要石に封印を施す、と」
「うんうん、聡い子は好きよ」
 その最後を遮って言う巨躯の志士へ肯定の笑顔を示せば、彼の後を継いで自身らがやるべき事を紡ぐ澄華へも頷くと二人の頭を撫でてやった後に祥子はその最後。
「とまぁそう言う事で改めて‥‥これから暫くの間、宜しくね」
 軽い口調に微笑を湛えるその表情の割、その背に確かな使命を帯びながら踵を返すのだった。

 〜続く〜

●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●目指すは、鳥羽
 伊勢は神宮を発ち要石に新たな封印を施すべく集った八人の冒険者達は今、斎王と共に鳥羽を目指し海岸沿いの街道をひた走っていた。
「鳥羽ですか、海ですか。冬ならばヒラメやカキが美味しいですよね」
「‥‥何もこんな時に」
「いえいえ、こんな時だからこそですよ」
「まぁ‥‥それもそうですね、とは言え今すぐには厳しいかと」
 が緊張感漂うその中においても巫女装束に千早を纏う大宗院鳴(ea1569)は相変わらずのんびりした声音を響かせれば、そんな彼女へ御神楽澄華(ea6526)が瞳を伏せたままに呆れるも‥‥しかし鳴は益々顔を綻ばせて言えば、澄華が先に折れればやがて彼女に釣られ僅かながらに顔を綻ばせ、しかし巫女を現実に引き戻すと鳴は苦笑を返しながら澄華が携える刀を見つめながら口を開き、斎王を呼び止めると
「あっ‥‥そう言えば祥子様、白焔様の偽物って用意出来ますか?」
「あれだけの大物、どう考えても既存する刀にはない規格外の代物だからねぇ。でも時間を掛けさえすればまぁ‥‥何とかなるかしら?」
「‥‥鍛冶師に伝はありますので必要とあらば、手配しますが」
「じゃあそうして頂戴。掛かる経費はこちらで負担してね、でも必要以上に払い過ぎない様に」
「はい」
 すぐにある提案を口にすれば、それを受けて斎王は足を止めては思案する事暫し。
 やがて近くの樹上を仰ぎ見て誰へとなく尋ねると直後、唐突に返って来た答えへ斎王は驚かず頷けば歩を止めた斎王に合わせて立ち止まる皆を見回して彼女。
「と言う事で、さっさと行きましょう」
「しかし、僅か先にだが発った『五節御神楽』は大丈夫だろうか‥‥牛鬼と言えばドラゴンにも引けを取らない大海妖と聞くが」
「問題ないわよ‥‥それより何、妹さんが信用出来ないとでも?」
「い、いや‥‥けしてそんな訳では!」
 すぐに皆を促しては行軍の再開を告げると、再び歩き出した一行の中で今回も鬼面を付けては顔を覆っている騎士のアリアス・サーレク(ea2699)が独り言か、囁くとそれを耳にした斎王は珍しく厳しい視線にて彼を見据え言えば、鬼面付ける騎士はその奥にて狼狽の表情を露わにし先の発言を取り消すと、笑顔を湛えながらも斎王は改めて一行へ見回せば
「自身もそうだけど皆の事を、これから協力を得るだろう人を信じてあげてね。信じる事が出来なければ今回も、これからも要石の再封印は厳しくなる一方よ。だからそれだけは覚えておいてね」
「はい、勿論です。出立前にも伊勢神宮へ誓いを立てて来ましたので、その誓いと合わせて必ずや守り、貫き通します」
「宜しいっ、では鳥羽へ!」
 一つ、皆へ忠告するとそれを受けても緋芽佐祐李(ea7197)は尚真っ直ぐに彼女を見つめ言い切れば、迷いなく応じる皆の様子を見届けて斎王は表情を綻ばせると改めて鳥羽の方を見つめるのだった。

 そして刻は過ぎ、大よそ三日を経て一行は鳥羽へ辿り着くと同日の内に僅かだが先行していた『五節御神楽』と合流を果たす。
 その意は最終的な打ち合わせ。
 時間こそ僅かで限られているが、やらない事には互いが力を合わせては目指す最終的な目的を成す事が難しくなる故に二班が顔を合わせるのは必然だった。
「死ぬな、とは言えないが無理なら引く事も勤めだと思う。無駄に華散らす事もない‥‥俺達も控えている」
「そんな気はさらさらないから安心して、むしろ貴方達の方こそ気を付けてね」
「私達と違い相手が何か分からないからな」
「その気遣い、有り難く頂戴する」
 そして斎王が二班を仲介しては手早く打ち合わせを済ませれば、『五節御神楽』の面々へ寡黙な剣士のミュール・マードリック(ea9285)が静かな声音で忠告すると微笑を湛えては真新しい黒き長衣を羽織る女性の志士が間違いなく断言すれば、彼女とは違い黒く長い鉢巻を巻く侍の労いへ壬生天矢(ea0841)は感謝の意を会釈にて表すと皆は次いで、斎王へと視線を投げる。
「斎王様もご無事で‥‥」
「大丈夫よ、彼らがいるからね」
「それに祥子様の身は、この体を張っても守り通してみせますよ」
「よろしくね、っと‥‥それじゃあそろそろ動きましょうか。今回の目的、どちらか片方がしくじれば成し得る事は出来ないでしょう。それを肝に銘じて各々、事に臨んで下さい」
 すれば次、斎王の間近にてかしまづく志士が硬き面持ち携える中にて紡いだ心配へ彼女は何時もと変わらぬ笑顔を湛えて返すと、山王牙(ea1774)も柔らかき口調にて続き紡ぐ誓いを聞けばその女性志士は漸く顔を綻ばせると頷いた後に斎王は皆へ呼び掛け
「ですが先にも話に上がった通り、命は無駄にせぬ様にも各自努めて下さい。自らの命を護れない方に一体、何が護れましょうか‥‥それでは皆が皆、再び揃う事を祈っております」
「それでは、私達も行こうか‥‥要石を確かに封ずるべく」
 やがてその最後に己が願いを間違いなく皆へ告げれば二班へ解散を言い渡すと、鬨の声を上げる『五節御神楽』の傍らにて、『白焔』の使い手がガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は厳かに皆へ呼び掛けるのだった。

●激突! 〜妖魔跋扈〜
 『五節御神楽』が魔獣駆りて牛鬼と相対していた頃、要石を封ずる一団はそれを目前にして岩陰へ潜んでいた。
「海中には何か‥‥いない様だな」
「さて、敵は人か妖魔か‥‥どちらが来ても斬るだけだが」
 僅かずつではあるが目に見えて潮が引いていくその中、『五節御神楽』とは別に海中の様子を蒼き亀甲龍に探らせていたミュールはそれが戻るなり、尋ねては返って来た反応から皆を見回し言えば陸にも空にも今は敵影見えず、だからこそか何処か落ち着きなく天矢が己の得物に手を伸ばし呟くと
「とは言え、今はまだすぐには‥‥」
「ふむ、『五節御神楽』がやってくれたか」
「牛鬼はとりあえず退きましたね、後は潮の方ですが」
「問題ない‥‥これなら、今から移動を始めれば丁度干潮の時に要石の目前まで船を寄せる事が出来る」
 澄華が彼を宥めるべく、声を掛けたその時‥‥アリアスの声が響けば皆、岩陰から顔を僅かに覗かせると確かに彼が言う通り、四頭の魔獣に威嚇されて動き出した牛鬼の姿が遠目にだが確認出来ると次の懸念事項を呟いた火の志士へは今度、ミュールが潮の流れを見切り頷けば
「それならば参りましょう、斎王様の意思を叶える為に」
 佐祐李が皆の意思を統一すべく厳かに呟くと、いよいよ一行は岩陰より立ち上がった。

 そして戦いは始まる、初めこそ妖怪の姿は影も形もなくガイエル達は要石へ向け、他の面子は要石へ向かった三人の背を守る様に海岸沿いに広く配するのだが‥‥僅かな間を経れば陸より迫る妖怪達を捉えると
「やはり、数で押して来ますか。しかし‥‥」
「進軍が遅過ぎる、速度に優れる妖怪も僅かだが見受けられるだけ余計に。余程の愚手なる指し手か‥‥それとも」
 死霊侍を中心としたその群れは一行にすれば確かに役者不足でこそあったが、数に物を言わせる変わらずなスタンスに対し、鋭く瞳をすがめる澄華は紅蓮宿せし刃にて的確且つ確実な一撃を振るい、迫る敵を打ち砕きながら呟いた疑念は継いで天矢が己に迫る火車を捉えて思考するも‥‥直後、それが振るう爪を刀にて受け止めれば彼は巡らせていた思案を中断し、目の前の敵に集中すれば
「一先ず、考えるより先に動くべきです。空を飛ぶ妖もいます故、早く陸からの妖怪を打ち倒しましょう」
「あぁ、これでは要石まで辿り着くのが遅くなってしまいます」
「‥‥嘘ではないが、さて」
「ともかくこれ以上‥‥要石にも、斎王様にも一歩であろうと近付けさせはしませんっ!」
「唸れよっ、斬魔!」
 火車を目にして牙が斎王の位置を確認しつつも次に要石へ視線を向けて皆へ警告すれば、迫る敵を困惑させる為に雷纏いし巫女が厳かに、自身にとっては嘘偽りなく盛大に嘆息漏らすが‥‥辺りを伺い、この一団を統率しているだろう存在の姿がないだろう事にミュールは刃を振るいながら気付くも次にはそれに構わず、早く妖怪達を薙ぎ払うわんと澄華と天矢の裂帛が場に轟き疾き斬撃が奔った。

 一方の要石を目指す三人はその頃、護衛する組を飛び越えて空より舞い降りた以津真天の群れと相対していた。
「伊勢を護ろうとする彼女の願いを叶える為‥‥アリアス・サーレク、推して参る!」
 その群れに対するは三人だけだったが、ミュールの亀甲龍も彼らを手助けすれば要石を前にした戦いは拮抗する。
「『白焔』、貴殿の力を又借りるぞ」
 その中、間隙を縫う様に結界を張り血路を見出したガイエルは何とか要石に取り付くと、早く古びた刀を抜き放てば想いを、覚悟をその刀身へ叩き込み‥‥『白焔』の真なる姿を解放する。
 その姿は巨大ながらも緩く弧を描き、その刀身は白く燃え上がる様な波紋を輝かせては辺りを眩しく照らし付ける。
 その光が狭い範囲ながらも周囲に降り注げば、要石に迫らんとする妖怪達は僅かながらとは言え怯み、後ずさるとそれを機と見たガイエルは躊躇わずに『白焔』を鳥羽の要石へ勢い良く突き立てる。
「要の石よ‥‥千代に八千代に、この伊勢を護り給え
 そして織られた祝詞と同時、『白焔』から光が弾けると、その使い手は膝を折ればすぐに『白焔』はその形を普段の何時朽ちるか知れない形へ戻し、先まで辺りに降り注いでいた光が止むと先まで後退していた首長き鷹達は再び一斉に要石‥‥ではなく『白焔』が使い手目指し進軍を開始すれば、そうはさせじとガイエルが早く結界を形成すべく印を組むも結界は生成されず。
「‥‥っ。そう言う、事か‥‥」
「ガイエル!」
 やがて鷲が集う中で斎王の言葉を思い出した使い手は『白焔』の解放と結界の再封印がどう言う事なのか思い至ると、刃を振るい次々に異形の鷹を屠りこそするがその数故に身動きが取れないアリアスの叫びが響く中、古びた刀を振るうガイエルは迫った一匹の鷹を何とか追い払いこそするが数は変わらず多勢に無勢。
 その光景を前に彼女が露骨に顔を顰めた、その直後。
「一先ず目的は達しました、一度他の皆さんと合流しましょう」
「あ、あぁ」
 刹那のタイミングで彼女の元に駆けつけた佐祐李がガイエルの元へ辿り着くとすぐ抱えては一時、この場からの離脱をアリアスへ告げて三人は振り返らず岸で戦う皆の元を目指し駆け出した。

 だがその時、陸から要石を目指し迫らんとする敵の目を惹き付けていた五人と斎王は夜の闇に溶け込む、一つの影と対峙していた。
「いささか遅れてしまったか、これでは奴らに合わせる顔がないが‥‥中々どうして、これだけでも意外に善戦出来るものだな」
「貴様か、今回の首謀者は‥‥」
「さて、それはどうだろうか」
 闇より響いたその声にミュールは率直に問うが、影はそれに対しての答えを返さず静かに笑い声を漏らすと次にねめつける一行の面をじっくりと見回した後。
「そう怖い顔をするな、今回は顔合わせだけ故に‥‥ふむ」
 静かにそれだけ告げるが‥‥突如、己が翼に風を孕ませれば斎王の眼前に降り立とうとし
「それ以上、斎王様に近付く事はまかりなりません」
「隙はないか、流石に」
「建御雷之男神様‥‥御雷光を」
 だがそれは彼女の傍らに佇んでいた巨躯の志士が翳した刃によって阻まれると、影は再び宙へ舞えば手を掲げ、残存する妖怪達を下がらせるが‥‥逃がすまじと鳴の次に放った雷撃を漆黒の結界にて弾いた後に影は最後に一言だけ一行へ告げると、戻って来たガイエルらの姿を確認してから漆黒の虚空へ羽撃くのだった。
「相手を知り、己を知ってこそ勝利は確約される。次は果たして上手く行くかな‥‥」

●深谷水道へ
 一先ず、鳥羽の要石に新たな封印が施されれば天魔が退いた事より先まで場に数多いた妖怪達も姿を消した為、此処での決着はその大勢を決する。
「次は‥‥何処でしたか?」
「次は深谷水道、此処からは丁度南の方になるわね。とりあえず現時点で手に入っている情報では‥‥っと」
 しかしその中でも気を抜かず、澄華が紡いだ質問に祥子は鳥羽の要石より背を向け深谷水道がある南の方を仰ぎ見て言うと‥‥何時の間に近くまで来ていたのか『闇槍』の一人、携えて来た書物を彼女へ手渡せばそれに目を通す事暫し。
「結構に大きな遺跡の様だけど、漁業に関わる遺跡らしくて一般的なそれとはいささか趣が異なるらしいわ」
「その詳細に付いて、どれだけ調査がされているのでしょうか?」
「内部構造の殆どは把握し、地図にこそ起こしているけど‥‥肝心の要石は未だに見付かっていないって」
 額を掻きながらも斎王がやがて口を開くと、その遺跡に付いて先ずは牙が問えば書物が一部の紙片を皆の前に提示して言うも、その話を聞いて首を傾げたのは鳴。
「え、でも話じゃあ‥‥」
「えーと‥‥ごめん、深谷水道に関しては文献で場所だけしか分かっていないのが現状。だけど同じ文献に記されていた他の要石に付いてはその全てが確認出来ているから、深谷水道に要石があると思って先ず間違いないわ。現に隠し通路も幾つか発見されているしね」
 以前に斎王から聞いていた話と異なる点に付いて尋ねようとするも、彼女のそれを途中で遮って斎王は頭を一度下げればその点に付いて改めて皆へ説明すると‥‥その話を聞いた後に『白焔』の使い手がガイエルは静かに己が口を開く。
「そうなると次は、深谷水道に潜り要石の所在を突き止める事が先ず優先される事になるか」
「そうね。だけど地図はその殆どが出来ていて、要石は見付かっていない‥‥どう探索するかが肝かな。次に見える敵も分からない以上、遺跡探索に関してもやはり時間との勝負になると思うわ」
 すると頷く斎王から返って来た答えと、その次に響いた話には一行それぞれに思案こそするが
「それなら、早く深谷水道の方へ向かうとしましょう。探索の方針に付いては道々でも相談出来ますし、今度も時間の勝負であるのでしたら尚更に」
「‥‥そうだな」
 長考しそうな場の雰囲気を察し、佐祐李がすぐに皆へ呼び掛ければ僅かに間を置いて天矢が漸く頷くと他の皆も動き出そうとした、その時。
「あっ‥‥」
「どうか、しましたか?」
「お魚が食べたいです、折角鳥羽へ来たのですから」
 鳴が小さな叫びを上げれば、先を行く牙が振り返り問うと‥‥皆の視線の前で彼女は相変わらず呑気にそんな答えを返しては、可愛らしく腹を鳴らすのだった。

「‥‥さて、どうしましょうか」
「どうする、とは」
「現状、引く事が止むを得ないとは言えこのまま何もしないままでいいものか‥‥とね」
「今は止めておけ、いずれ‥‥」
「いえ、やはり一度位は斎王様に挨拶をしておくべきかと」
「‥‥これから暫くの計画は揺るがない、ならそれが先でも後でも構わないだろう。そして私はお前に従うだけの存在、ならば好きにしろとしか言えぬ」

 〜続く〜