【破妖結界】祝詞を織りて・後

■キャンペーンシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:29 G 93 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月24日〜04月29日

リプレイ公開日:2007年04月01日

●オープニング

●隠身 〜暗き闇の中〜
 何処かは知れぬ、闇の中‥‥幾つか佇む黒き影はざわめいていた。
「暇じゃー」
「暇じゃけーん」
「暇じゃったー‥‥ってあれ?」
「‥‥今の所、予定通りか。そうなると暫くは力を蓄える必要がある、来たるべき日に備えて選りすぐりの力をな」
 とは言えそれは妖孤が相変わらずに発する取り留めのない会話で、息こそ合っているも無駄なそれに天魔は嘆息を漏らし‥‥しかし眼を閉じては腕を組み、今後の動向に思い耽る。
「その為にも要石の再封印を邪魔立てする事は今となっては無粋なだけ」
 そして瞳開けば一つ、決断すると天魔は再び嘆息を漏らす。
「鍵は未だ揃わず、だがそれはいずれ‥‥さて、どちらにせよ当分は静かに『協力者』を待つのみか」
 今、手元にいるのは三匹の妖孤だけ‥‥そして天岩戸を開くのに必要な『鍵』もなく、だが『協力者』の動向が確かならそれらは全て時が満ちる事で解決すると確信すれば
「油揚げー」
「あっぶらあげー」
「揚げ油ー‥‥あれ、油を揚げてどうするんだろ?」
 余程退屈なのだろう、再び響いた三匹の妖孤が木霊にやはり天魔は嘆息を漏らすのだった。

●再動 〜伊勢国司〜
 伊勢、国司が住まう巨大な屋敷にて。
「‥‥以上が報告でございます」
「ふむ、ご苦労じゃった」
 一連の騒動が鎮静化し、市街も一応の救済を施した後‥‥藩主が藤堂守也はその全てを纏め、伊勢国司が北畠泰衡の元へ報告に上がれば十分なそれに頷く国司だったが
「‥‥しかしこうしてみると、わしゃ何もしておらんのぅ」
「いいえ、決してそんな事は。先日の伊勢防衛、此方の手が回らなかった事で北畠殿の手を煩わせてしまい‥‥」
「褒めても何もでんぞ」
 次に溜息を漏らす泰衡は己が不甲斐なさを歯噛みするも、それは黒門捕縛の際に伊勢の防備を任せ切りにしていた守也に宥められる事となるが‥‥それを聞いても尚、自嘲の笑みを浮かべる泰衡が即答すれば
「そう言えば斎宮の方はどうなのじゃ?」
「斎宮の方も落ち着いている様です、近々要石の再封印を行なうとの話を伺いましたし」
「要石‥‥天岩戸に施してある封印を安定化させるための封印じゃったか。ふむ」
 ふと、報告の中に軽く触れられていた要石の件に付いて思い出した彼は斎宮管轄の話に付いて尋ねると、藩主から返って来た簡単な答えに考え込めば暫し。
「わしもその道中、同道しても構わんじゃろうか?」
 何を思ってだろう、藩主へ尋ね掛けるのだった。

●再動 〜斎宮にて〜
 伊勢は二見、温泉やら夫婦岩でちょっとは有名なかの地に立つ斎宮では今、やはりちょっとだが騒然としていた。
「伊勢国司も同道したいって?」
「はい、斎宮の仕事振りを拝見したいと」
 と言うのは当然で、伊勢国司からの要石再封印に当たり同道の旨が記されている文が来たのだから、斎王が側近に返した半ば困惑しての反応は然るべき物だった。
「別に構わないけど‥‥伊勢藩の方は大丈夫かしら」
「藩主に実働を委ねている故、伊勢の現状を改めて目の当たりにしたいと。そしてそこからこれより自らがすべき事を見出し、今後に繋げたいと仰ってました」
「見てどうにかなる訳じゃあないけど‥‥相手が相手だし、無碍に断わる訳にも行かないわよね?」
 そして暫し、側近との相談の後に斎王は肩を竦めながらも決断すれば今度は以前とは違う状況故に一つの点が心もとなくなる‥‥それは護衛対象の増加による人員の点。
「そうなると、以前よりもう少し人手が欲しいわね」
「こちらで手配すべきかと、最近はギルドの方でも中々に手配が付かない様ですから」
「それなら‥‥一仕事終わったばかりで悪いけど、レリアを呼んで頂戴。最近こき使ってばかりだから彼女から何らかの要望があれば極力、此方が飲む方向で」
「はい、分かりました。そのついで、冒険者ギルドへ手配もしてきますが‥‥先ずはどちらへ?」
 ギルドへ依頼を出すにしても冒険者は極力自由に動ける様にしたいからこそ、光の話を聞いた後に相応しいだろう者の名を挙げれば斎王は次に響いた側近の疑問には決然たる答えを返す。
「五ヵ所城の袂にある村へ向かいます。以前に強き鬼が現れた場所である以上、先ずはそこに住まう人々の為にも安心させる為に何事も起きていない今、抑えなければなりません」
「はい」
 すればそれを聞いた後、速やかに踵を返した側近を見送りながら彼女は一人となった斎王の間にて肩を落とせば一言、ぼやくのだった。
「‥‥でも何か、嫌な予感だけはするのよねぇ。最近の報告を聞く限りじゃあ逆になりを潜めているのが何とも」

 表面上、穏やかな様相を取り戻しつつある伊勢ではあったが‥‥その実、それぞれの思惑が交錯している事には誰も気付かず、だがその中でも徐々に舞台は整い始めていた。

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 依頼目的:残る三つの要石に再封印を施せ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、防寒着もまだ必要な時期なのでそれらは確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:祥子内親王、レリア・ハイダルゼム、エドワード・ジルス、北畠泰衡
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5254 マーヤー・プラトー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●再開される旅路
 伊勢の騒動に関わると言われている要石‥‥先日、その半分に再度の封印を済ませてからすぐ後に起きた騒動より今まで、残されている半分に付いては放置されたままだったが漸くにして今、伊勢が落ち着いた事により再びの巡行は始まりを告げる。

「うん、まぁ何とか揃ったわね。一安心一安心」
「うんうん、良かった良かった」
 京都、冒険者ギルド‥‥居並ぶ冒険者達を前にして安堵の溜息を漏らしたのは他でもない依頼人の斎王こと祥子内親王で直後、彼女に続いて何度も頷くのはギリギリで参じる事を決めた侍の鋼蒼牙(ea3167)。
「‥‥所でお仕事は大丈夫かしら?」
「以前の話を聞く限り、問題はないのでござろう? それに何か起きたとしても隊の仲間がきっと何とかしてくれるでござろうから、拙者はこちらを頑張ると致すよ♪」
 だったが今更の様な問いを響かせる斎王に彼と同じ斎宮の守り手が『五節御神楽』に所属する天城月夜(ea0321)が黒衣靡かせ、笑みも艶やかに浮かべ答えれば
「流石に要石の再封印に際し、人手が足りぬままに臨むのは不安でござったしの」
「ありがとう。それとそこなお二人さんも暫くの間、力を貸して頂戴ね」
「この身、あの日の誓約に従い最後まで力を尽くしましょう」
「任せて下さい、頑張るぞー!」
 次にはその瞳すがめ、真摯な面持ちにて言葉紡ぐと謙虚に頭を下げて斎王は改めて皆を見回し、久し振りに見えた騎士のマーヤー・プラトー(ea5254)と初見である戦士のユーディス・レクベル(ea0425)へそれぞれ、声を掛ければ返って来た頼もしき答えに彼女は顔を綻ばせると二人は暫し、斎王と話を交わす。
「此度はレリアとエドも一緒か。随分久しいな、達者だったか?」
「‥‥うん」
「しかし国司様の護衛とは言え、レリアさんはともかくエドさんも一緒とは‥‥」
「私一人では手が届かない所もあるだろうし、少し考える所もあって斎王様に同道の許可を貰った。ともかく、宜しく頼む」
「こちらこそ」
 その傍らにて伊勢の霊刀『白焔』の使い手、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が久し振りに見たレリア・ハイダルゼムとエドワード・ジルスへ挨拶を交わしており、相変わらずに言葉少ないエドが頷く中で緋芽佐祐李(ea7197)が初めて見た、幼き彼が同道する事に訝るがレリアの答えを聞けば一先ずは頷き彼女に応じる。
「しかし沈黙する妖等、気掛かりとなる点が多過ぎるのが‥‥」
「惑う事はない。要石に封印を施す事が伊勢の完全な平定に繋がるなら、それだけを先ずは果たせば良い」
「そうですね。それならば私のやる事は前と同じくガイエルさんを全力でお守りし、封印を無事済ませられるに努力するだけです」
 そんな折、響いたのは月夜の疑問であり‥‥だがそれには惑わず、ガイエルが断言すれば佐祐李もまた力強く言葉を紡ぐと、決意を露わにする皆の表情を見て斎王は微笑めば
「では、ガイエル。これを」
「はい」
 次には背負う、今にも朽ちそうな刀を何とか引っこ抜くと斎王はその使い手であるガイエルへ再び託す。
「『白焔』様、お久し振りですね。お元気でしたか?」
「元気も何も、刀故に調子等あろう筈もないじゃろうて」
「‥‥あのぉ、所でこのお爺さんはどなたですか」
 すると『白焔』を覗き込む様に顔を寄せ、相変わらずに巫女装束を身に纏う大宗院鳴(ea1569)が挨拶交わせばやがてそれは突っ込まれる事となり‥‥しかし彼女は突っ込まれた老父の存在に首を傾げると、皆は一様に絶句するが
「年故に外に出る事も最近はなかったからのぅ‥‥伊勢国司、北畠泰衡じゃ。以後、お見知り置き頂けると幸いじゃて」
「今回、依頼を受けました鋼蒼牙です。此方こそ宜しくお願いします」
「不手際なき様、務める所存で‥‥」
「なぁに、そうかしこまる必要はなかろうて。伊勢に力を貸してくれていると言う話は守也よりきいちょるし、それならば尚更になぁ」
 皺多き顔を尚くしゃくしゃにして笑えば彼は改めて皆へ自己紹介をすると蒼牙と佐祐李の礼を受けて、しかし彼は肩を竦める。
「所で北畠さん、でしたっけ? 貴方は何故に要石の封印に同道しようと思ったんですか?」
「‥‥これから伊勢の為に何を成せねばならぬか、自身に出来る事を見定める為にじゃよ」
「なるほど。それならば是非、頑張って下さい」
 その柔らかき対応を前に蒼牙は僅かにその表情を緩ませて、彼が今回の要石再封印に当たっての同道する理由を尋ねると暫しの沈黙の後、真摯な面持ちにて確かな答えを彼の口より聞けば、国司の奮闘を期待して激励するも
「ではそろそろ行くとしよう、急いだ方がいいのなら尚更に事は早く済ませてしまわないと」
 多少なりとも話が長引いた事からマーヤーが皆へ声を掛ければいよいよ、四つ目の要石に向けて一行はその歩を進めるのだった‥‥まだ見ぬ光を求めて。

●五ヵ所城近隣
「五ヵ所城と言えば、山と海の幸が一緒に楽しめる良い所ですよね。今なら確か‥‥鯛でしょうか」
「食の事となると相変わらず詳しいですね」
「えへ」
 やがて一行の前に見えてくる五ヵ所城を遠目とは言え確かに捉えながら、『白焔』の贋物が『白塩』を引き摺り顔を綻ばせ言う鳴に佐祐李が苦笑を湛えながらも褒め称えると尚更に笑みを増す彼女が纏う雰囲気の様に辺りの空気は国司の存在の割、思いの他に和やかなものだった。
「所でさ、『五節御神楽』に付いて何か知っている事ってある?」
 だからこそか、その場の雰囲気故に軽い口調で皆へ『五節御神楽』の事に付いて尋ねる蒼牙‥‥どの程度、自身の所属する組織が周囲に浸透しているのか確認の為に紡いだ疑問だったが
「知っているが、それがどうかしたか?」
「しらなーい!」
「それは美味しいんですか?」
「まぁ、こんなもんかな。回答どうもー」
 先ずは冒険者の皆から返って来た答えはそれぞれに異なり、その反応を前に彼は納得して次は今向かっている村でも聞いてみようと思ったが
「‥‥お間抜けさん?」
「あぁ、そう言われて見れば」
「一寸待って、納得しないでそこのお二方‥‥ってまたあんたか、月夜さん!」
 そんな折に響いた声を聞き止めると蒼牙はすぐにその声の主であるエドとレリアを見付ければ、即座に訂正を願い出るもその傍らで潜みほくそ笑んでいる同僚も見付けると彼は憤慨し、叫ぶのだった。
「やれやれ、随分と賑やかじゃのぅ」
「だからこそ、いいのかと思います‥‥これから、厳しくなるでしょうからこれ位は弾けていた方が」
 そしてその光景を前に国司は果たして呟くが‥‥故に彼を諭す様に斎王は以前の巡行よりも見知った顔触れであるからこその調子に苦笑を湛え、言葉を返した。

 それから一両日もせず、村へと至った一行は平和な風景が広がっている事に一先ず安堵を覚える。
「とは言え、だ」
「聞いた話によると量より質らしいからなぁ、最近の妖怪。どっかで潜んで襲撃する機会を窺ってそうだな」
 だが場を包む平穏故に余計に気を張るのは冒険者の性で、密かに表情を厳しくして呟くレリアに蒼牙も最近の伊勢の状況を思い出すが‥‥一先ず一行は今まで歩き通しだった事から足を止め、たまたま見付けた茶屋にて一時の休息を取る事にする。
「何じゃ、一体?」
「んー、いやー‥‥何て言ったらいいのかなぁ」
「そんなにわしが表に出て来た事が気になるかの?」
 すればその中、茶を啜る国司を凝視するユーディスに気付いた彼は首を傾げ彼女へ直に尋ねると、道中にて皆を気遣っていた姉御肌の彼女は先とは裏腹に口を小さく動かし自身、惑えばその様子に顔を綻ばせて彼は再び尋ねると頷きだけ返すユーディスへ
「まぁ確かに、今更じゃな。そう思うのも当然じゃろうて」
 同意した後、一人何度も頷けばその表情に影を落とし国司はボソリ囁くと
「‥‥自身に力がないのが疎ましいのぅ、全く。今まで何も出来んかったからな」
「そそ、そんな事はないよっ」
「その通りだ。自身の力のなさを実感しているからこそ、これからでもまだ遅くはないと思う」
「じゃからこそ、願い出たんじゃよ。爺故に迷惑だとは思うたがな」
「ならばきっと、この旅にてこれからの道が見出せる筈です。その想いが強ければ必ず」
 先までとは全く違う反応にユーディスは今度、狼狽を露わにしながらも彼を全力にて慰めればマーヤーもまた言葉を掛けると国司は僅かにだけ表情を緩めると騎士の彼は惑いなき瞳の光で彼を射抜きながら‥‥だからこそ優しく、諭す様に彼へ言うと泰衡は果たして一度だけ、力強く頷いた。
「じゃといいが、の‥‥」
 だがその彼が最後に紡いだ言葉の欠片は囁きよりも小さく、皆の耳には届かなかった。

●鳴動する要石
 翌日、確かな休憩を取った後に一行は村の外れにある要石を目指し歩いていた。
「あの岩塊が要石で、その折に一緒だったレリア殿やガイエル殿と再び同じ道を行くとは‥‥いやはや」
「全くだ、偶然とは言えな」
 その道中、一年も前の依頼にてここを訪れた月夜が感慨深げにその当時を思い出し、呟くとガイエルも微笑か苦笑かを湛え応じるとその折にふと、ある事を思い出した黒髪艶やかな浪人。
「そう言えばあの時、レリア殿を助けた者とは?」
「京都にいるらしいが、良くは知らん」
「相変わらずでござるな」
 その事に付いて黙々と前を歩いているレリアの背へ投げ掛ければ、剣士は振り返らずに答えるとその反応を前にして月夜は肩を竦めて見せるが、やがて視界の中にその岩塊‥‥四つ目の要石が飛び込んで来ると彼女は今まで纏っていた雰囲気を鋭くする。
「やっぱり要石は皆、同じ様な形ですね」
「それぞれで形が違ったら色々と困るから‥‥って事じゃない?」
「その形状から封印に何か、関わっているのかも知れんのぅ‥‥しかし、ふむ。これが要石か」
 そして一行は皆、要石を前にして歩を止めるとそれを見ては今までに見た要石と相違ない事に気付いた鳴が呟くと、直後に斎王の大雑把な推測が紡がれればそれに付随させる様、泰衡の推測も響く中‥‥彼は要石を凝視したまま。
「辺りは静かだけど、気にした方がいいよね」
「そうだな」
 その物珍しげな視線を要石に注ぐ国司を気にしながら、ユーディスが鬱蒼と茂る木々の群れに視線を移し皆へ尋ねながらも早く動き出せば、ガイエルも頷き応じつつブレスセンサーの巻物を解き放つと暫しの間、一行は要石周辺の哨戒に当たるが『それ』は程無くして皆の視界に入れば
「っ‥‥やはり、相変わらずか」
「しかし先日とはその動きが違う。まさか‥‥拙者らの事を待ち伏せしていたか」
「その様ですね、しかし‥‥」
 森の最奥より巨躯を揺すり歩み寄る一つ目の巨人を見て、色々な意味を含めガイエルは微かに舌打ちを響かせるが以前とは違い、村を襲う事無く要石の近辺に伏せていた事から月夜が眼前にいる巨人の意図‥‥正確にはその影に隠れているものの意図を読むと推測の域こそ出ないものの、同意して佐祐李が頷けばすぐに『白焔』の使い手が元に駆け寄ると
「ガイエルさんはこの私が必ず、守り通してみせますっ!」
「斎王様は‥‥っと、問題ない様だから後は己の身一つで頑張りますか」
「レリアさん、エド君! 国司様は任せたっ」
 剣抜き放っては声高らかに叫ぶと、蒼牙にユーディスもそれぞれが気に留める存在の安全を確認した後、動き出せば
「問題ない、皆こそ気を付けてくれ」
「もっちろん!」
 得物を構え、悠然と国司の傍らに佇むレリアが皆へ声を掛けると場違いな程に明るい声を上げてユーディスは勝利のルーンが刻まれている剣を掲げ、三匹の巨人目掛けて地を蹴った。

「お前達の目的は知らんが少なくとも封印が解放されない限り、その目的は防げるって事だ。なら、俺達は全ての要石に封印を施すだけだ‥‥ま、そっちが派手に動けば此方も色々と察せるんだがね」
「尤も言うだけ、今では無駄な様だが」
 それより始まった戦いは苦戦せずとも長く続き、だがやがて蒼牙が自身の身に滾らせていた闘気を途絶えさせると同時、紡がれた言葉は刀を振るって生まれた風切音と共に響けばマーヤーは携えていた聖剣を鞘に納め、事切れた崩れ落ちている一つ目の巨人を見つめ呟くが
「へぇ、やっぱ良くやるねぇ。それとこれが要石、って奴か‥‥ふーん」
「‥‥‥!」
 その時、不意に響いた第三者の声を捉えると一行はその姿を探し視線を辺りに彷徨わせれば‥‥いち早くエドがその存在を察し、虚空を見上げると蒼き空に浮かぶ四つの黒き点。
「グレムリン‥‥何故ジャパンに!」
「さぁてねぇ」
「でもまぁ落ち着いてよ。今日は先見だけだし、僕らじゃあ皆さんには敵わないからこの辺りでお暇するし‥‥それじゃあ、ね」
 それを見上げ、叫ぶレリアに黒き点の一つは肩を竦めると再び武器を構える一行だったがそれを宥める様に別の黒点が更に空の高みへ昇りながら言葉を紡げば、その通りに黒き点はその身を一斉に翻せばやがてその場より消えた。

●交錯する思惑
「我は願う‥‥朽ちし石よ、この刀で蘇りて再び封を結ばん事を」
 四つ目の要石に封印を施して後、一日を経て一行は改めて要石の前にいた。
「何故にデビルが関与してくると言うのだ‥‥」
「さぁね。だけど分かる事はこれからまた、慌しくなりそうだねって事かな」
 封は確かに施され、だが先日の戦いを思い出して後にマーヤーは予期せぬデビルの来訪を訝るが、ユーディスは肩を竦めるだけであっけらかんとした態度で彼の疑問に臨めば
「‥‥それで、次はどちらへ?」
「次は以前、『五節御神楽』に行って貰った倭姫命(やまとひめのみこと)腹掛岩よ」
「ふむ、先日は雑魚が沸いていたが今回は果たして」
「しかし残りも確実に施さねばな‥‥平穏の為にもね」
 苦笑を浮かべ、彼女の言葉に頷いた佐祐李はその後に斎王へ次へ向かうべき地に付いて尋ねると、祥子より帰って来た答えを聞けば頭を巡らせる月夜だったがやるべき事を間違いなく捉えているからこそマーヤーが微笑湛え呟けば
「問題はないでしょう。気を抜いている訳じゃあないけど、皆がいるからね」
「いよっし、それじゃあ次も頑張るぞー!」
 その彼に答える様、斎王も微笑を湛え断言するとユーディスの激が場に轟いた後、皆は確かに頷いた。
「所で、今日の食事は何ですか?」
 しかしその最後に口を開いた鳴の口から紡がれた疑問を聞けば一行、揃い呻いたのは言うまでもなく。

 それより後、暗がりの奥から一行を見守る視線ありき。
「美味しそうなんだなー‥‥あ!」
 それは妖孤が一匹で、彼らが食事の風景を見ながら腹を鳴らすと‥‥目の前に何処から投げられたか、油揚げが舞い降りると彼はそれに飛び付き即座に頬張る。
「残りは二つ、か‥‥そろそろ急がねばなるまい」
 その場違いな光景にはしかし、唐突に現れた影は見向きもせずしゃがれた声で呟くと自嘲の笑みを湛えて悲しげな声を響かせるのだった。
「しかし一体、何をしているのか」

 〜続く〜