●リプレイ本文
●斎宮跡 〜群れる妖、群れる悪魔〜
斎宮跡‥‥祥子内親王が斎王になるより以前の斎王が伊勢にて勤めを果たしてきたその歴史ある巨大な建造物を前、一行は遠目ながらとは言え今も繰り広げられている光景にただ瞳をすがめていた。
「妖怪に悪魔か‥‥状況は最悪と言えるな」
「だがいずれも封印の前に立ち塞がる障害。襲い掛かってくるならば火の粉を払うまで‥‥尤も数が多い故、一度に余り戦いたくないのも事実だがな」
「全くだ」
そして最初、呟いたのは最近真面目な面持ちが多い鋼蒼牙(ea3167)で‥‥しかしそんな事は知らないからこそガイエル・サンドゥーラ(ea8088)がやはり真剣な面持ちにて応じ、その最後に嘆息を漏らせば肩を竦める蒼牙だったが
「でもこれでラスト‥‥気合い入れて取り掛からないとなー」
「しかし黒不知火で解放されたら、堂々巡りですね」
「‥‥ほんに、雰囲気を読まぬのぅ」
「ほへ?」
そんな彼らを宥める様に姉御肌で切符の良いユーディス・レクベル(ea0425)が先ずは自身へ言い聞かせるも、しかし皆もまた頷くが‥‥それにも拘らず大宗院鳴(ea1569)があっさりと緊張感高まる場に水を差せば、呆れる伊勢国司が北畠泰衡の嘆息に彼女は首を傾げるだけで、次に国司は一様に苦笑を浮かべる皆を見れば釣られて口元を緩める。
「封印した要石に護衛とかは付いているのですか?」
「そりゃあ、勿論。それこそそこを抑えて貰わなきゃ、話にならない訳で」
「まぁ、当然だろうな」
しかし皆の反応には気付く事無く、鳴は次に斎王を見ると改めての確認をすれば無論と応じる彼女に蒼牙も頷くと再び皆は斎宮跡へ視線を移す。
「しかし、本当に無口な子でござるな〜」
その最中、普段から感情を表情に出す事無く黙する事が多いエドワード・ジルスの相変わらずな佇まいを視線の片隅に留めた天城月夜(ea0321)は今までに時折、感情を覗かせていた彼へ気を払う様に声を掛けるべく歩み寄れば、その金色に染まる髪の毛を撫でると
「デビルに関して何か気になる事があるなら、お姉さんに教えてくれぬかな?」
「‥‥別に‥‥ただ、嫌いなだけ。父さんと母さんを殺した存在だから」
「それでか、全くもー」
「‥‥痛い」
彼の視線に合わせる様に屈み‥‥次に先日僅かに覗かせた暗い影を見たからこそ、その事に付いて率直に彼へ問うと暫し言うべき言葉を淀ませるエドだったが、やがて口から吐いて出た彼の答えを聞けば何時からか聞いていたユーディスが腰に当てていた手の片方をエドの頭頂へ落とすと歳相応の声を響かせる彼。
「一人で抱えちゃ、駄目だからね!」
「ふむ‥‥」
僅かに瞳へ涙滲ませユーディスへ訴えるも、彼女は取り付く島を与えずそれだけは彼へ決然とした声音で告げるとその光景を前に何事か考えるエドの保護者相当であるレリア・ハイダルゼムは暫しエドとユーディスを交互に見やるも
「とりあえず、あの辺りになるか?」
「えぇ、間違いないと思います。今の所は‥‥でも場の状況が混沌としているので何時まで、とは言えませんけど」
「まぁそれで十分だ、迅速に事を済ませられればな。それじゃ‥‥と」
次に再び妖と悪魔が跋扈する戦場へ視線を戻せば、先と変わらない状況を確かに見抜いた彼女は真剣な面持ちにて此処へ来た当初より戦場に視線を注いでいた緋芽佐祐李(ea7197)へ問えば、彼女が返した答えに蒼牙が頷くと戦場を最先にて駆け抜ける戦士達の武器へ、身体へ闘気を付与すれば
「さて、これで攻撃面ではそれなりに楽になる筈だ」
「何時も済まぬな」
「何、これしか出来ない侍ですから」
「しかし‥‥何と言う光景だろうか。だが、締めといこうか」
「はい、すべては伊勢を平定する為に」
その手応えを確かに感じ、侍が一人で何度か頷くも代わらぬ彼の支援へ感謝する月夜にしかし彼は久方振りに肩を竦めおどけて見せると僅かに緩んだ場の雰囲気にマーヤー・プラトー(ea5254)も笑みを湛え、だが眼前の光景を見据えたままにやがて携える聖剣を抜剣しては呟くとガイエルの傍らに佇む佐祐李が応じると同時‥‥一行は駆け出した、伊勢の未来を掴む為に。
●疾風迅雷 〜ただ目指す、要石〜
それより一行は駆けて暫く‥‥妖と悪魔がぶつかっている斎宮跡の輪が薄い部分へは未だ到達せず、だがその最中にて蒼牙はふとある事に気付く。
「あれ、着いて来るの?」
「見届けなければならないでしょう、斎王としてね」
「爺とて、まだ衰えてはおらぬわ」
「やれやれ‥‥でも余り、無理はするな」
流石に一行より遅れてこそいるも、負けじと駆けていたのは斎王と伊勢国司の二人で彼の問い掛けには気丈にして返すと、前は見たままに呆れながら‥‥しかし釘だけは刺せば尚も駆けるとやがて一行はその戦端へ漸く辿り着く。
「打ち合わせの通り、此処はパスだな」
「分かっておる!」
すれば皆の先頭を駆る一人のマーヤーが皆へ改めて告げれば、その傍らを疾駆する月夜が敵を威嚇する様に携える刀にて軌跡描いて眼前の黒き蟠りをこじ開けると尚一行、駆ける速度を上げる。
「しかし、多過ぎるな‥‥」
だが次にレリアが呟いた様に敵の輪の中で密度が薄い部分を突破するとは言え、一行よりも十分に数が多い妖に悪魔を前にすればやがて戦場を駆る速度が落ち始めるのは必然だった。
「白塩様、行きます」
しかしそれを打破すべく動いたのは果たして鳴で、雷撃を身に纏う後の先の戦法を好む彼女を中心にして血路を見出せば、鳴を手伝うべく春花の術が印を結んでは佐祐李も眼前の敵を僅かずつ削ぎ落とせば
「あっ、白塩様!」
漸く眼前にまで迫った斎宮跡を捉えた巫女は道をこじ開けるべき最後の手、『白焔』と発音だけ似ている『白塩』をその重量故、苦労して敵の輪の向こうへ投げ込めば‥‥その存在が何であるか知らない悪魔はさて置いても、妖達は突如としてそれが放られた方へ動き出せばやがて悪魔達もそれを追随すると最後の道は開かれた。
「良し、一気に駆け抜けるぞ!」
「‥‥いいのですか?」
「はい。これから白塩様の使い方が難しくなるでしょうけど、今はそんな事を言っていられませんからね」
無論、その機を逃す一行ではなく月夜の檄と共に一行は更に疾く駆け出すとその中で佐祐李は『白焔』の贋作であるとは言え大事にしていた『白塩』の使い手へ静かに尋ねるが、巫女は一瞬たりとも惑いを見せずに彼女へ答えを囁き返すのだった。
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何とか斎宮跡へと辿り着いた一行はそれから斎王の案内にてその内部へ突入する。
「あれ、拍子抜け」
「本当に外で小競り合いをしているだけなんですね‥‥尤も、今は助かりますが」
「無駄話をしている場合ではないぞ、この状況は。速やかに事を成さねばならない」
「っと、そうでした」
が間の抜けた声音を響かせたユーディスが言う様に内部は外の喧騒とは裏腹、何者も存在しなければ至って静かなもので思わず安堵の溜息を漏らす佐祐李だったが、何時も以上に厳しい表情を浮かべる『白焔』の使い手がガイエルの声が響くとユーディスが自身の頭を軽く小突く中、一行はただ要石を目指し駆ける。
「伏せている悪魔は‥‥いないみたいですね」
「とは言え、気は抜けません。封印の偽装を行ってからの方が‥‥」
「この斎宮跡をも守る為、僅かでも時間は惜しい!」
「‥‥そうだね」
「皆‥‥」
そして斎王の案内に導かれるまま、くたびれた外観の割には未だしっかりとした構造を保つ斎宮跡の内部を駆けながら鳴が借り受けた石の中の蝶を翳しながら辺りを警戒するも、全くにない反応を皆へ告げれば佐祐李が次に紡いだ慎重案はしかしガイエルによって一蹴されると同時、一行は斎宮跡の最奥へと辿り着けば
「我、願い奉る。要の石よ、永遠の封印を結びて、斎の宮の護りとならん事を‥‥」
銀髪を靡かせて疾く刀を抜き放ったガイエルが祝詞を織れば、それが掻き消えるより早く古めかしき刀はその真なる姿を現すとやがて今までに無い程、眩しき白光を辺りへ撒き散らし‥‥白き焔は果たして最後の要石へ突き立てば辺りを閃光に包んだ。
●暗雲一掃 〜闇払う時〜
こうして要石へ再度の封印は全てに成され、一先ず伊勢が内包する問題の一つがまた解決された。
「祥子さんにとっても思い出があるだろう斎宮跡、か。ここを荒らすとは‥‥許せんな」
だが眼前に沸いた問題は未だ止む事無く斎宮跡を激しく揺さぶれば、早く外へ出た蒼牙は混沌とする戦場を瞳すがめ見つめては呟くと
「これは‥‥流石に無理だよね」
「皆の足手纏いになる訳には行かないでしょうからね」
眼前に広がる、黒い霧が如き敵を前にユーディスは流石に斎王と国司を見つめ尋ねれば同意して斎王が肩を竦めると、頷きながら改めて黒い霧に向き直って彼女はぶら下げていた聖剣を構え直し、いよいよ鬨の声を上げた。
「さぁ、それじゃあ‥‥行くよっ!」
そして黒き霧の中へ飛び込んだ一行‥‥確かに『闇槍』がもたらした情報の通りに敵は下位の妖に悪魔ばかりではあったがその尋常ならざる数の前には流石に手を焼いていた。
「ちぃ、やはり数が多いな‥‥やれやれ、刀を振るうのは得意では無いのだが」
その群れの中、蒼牙は闘気の塊を掌より放ち着実にその数を減らしていたがそれでも圧倒的な数の敵を前にいよいよ追い着かなくなれば虎の子がブリトヴェンを抜き放つとそれを掲げ、眼前に浮遊していたグレムリンが一匹へ切りつける。
「確かに、余り上手いとは言えないな」
だが寸での所でそれは避けられると次いで数の暴力から防戦を強いられる事となる蒼牙だったが、その窮地を救うのはマーヤー‥‥決して余裕がある訳ではないが彼の剣筋を正当に評価すると渋面を湛える侍へ騎士は暴力的なその数を前にしても尚、己を忘れずに成さなければならない事を決然と言い放てば、聖剣を煌かせた。
「だが、その分は私が受け持とう。騎士として守るべきものを守る為、この剣と私の誇りに賭けて!」
「‥‥しかし、妙だな」
「何が、だ?」
一方の斎宮跡、僅かに流れてくる悪魔を払う警護担当のレリアの背後で役目を成したからこそ今は振るうべき力が微塵もないガイエルは戦場の全域を見回して呟くと尋ねるのは剣士だったが
「敵が‥‥僅かずつ後退を始めている。全ての要石に封印が成された影響を受けてか、それとも‥‥」
「携えていた、何らかの目的が果たされた‥‥?」
次に銀髪の僧侶が紡いだその理由を聞けば、レリアは考えられるもう一つの理由を呟きながら‥‥しかし眼前にもう何度目か飛来した悪魔を見止めれば一刀の元に両断した、今は推論を講じるよりも皆を守るべく。
●紡ぎ終えた祝詞 〜見つめる、その先〜
「よっし、お終いっ!」
やがて混沌とした場は遂に払われる‥‥尤も、一行の参入から数こそはいた妖に悪魔の群れは後退を図れば、いずれ埋まる数の差からそれは必然だったがそれでも皆もまた満身創痍だった事は言うまでもない事実。
「しかし見えぬな、奴らの目論見が‥‥たまたま、斎宮跡を前に衝突していただけなのか。それとも別の意図が‥‥?」
「だがこれで一先ずは終わりかな。真の終わりはまだ遠いかも知れないが、それでも私は‥‥いや、私達は止まる事は無い」
そして今回の敵の動きを振り返り‥‥結局見えず終いだったその目的をガイエルが訝るのもやはり当然だったが、それでもマーヤーが彼女を今は宥める様に斎宮跡の背へ昇る朝日を見つめ呟くと、頷いたのは伊勢国司。
「ふむ、その通りじゃな」
蓄えられた白い髭を撫でながら響かせた声音は明るく響くもその割、表情は険しいもので
「改めて今、伊勢を見て何か話すべき事があるでござろうかな?」
「‥‥ようも伊勢が様々な脅威に晒されている事が分かったわ。そしてそれは斎宮だけに任せるべき事でない、と言う事もな。さて、そうなれば己がやるべき事としては‥‥」
それを見た月夜は半ば強行で一行に付いてきた彼へ、今日こそが最後だから改めて尋ねれば泰衡は次に渋面を浮かべると呻く様に言葉を捻り出す。
「長州の件もある以上、斎宮との連携を強めながらやはり軍備の整備、向上に勤めるが先ずは優先されるかの。余り気は進まんが‥‥好みを言ってもいられぬしのぅ。後は黒門の一件もあるがこればかりは時間を掛けてやるしかないじゃろうなぁ」
「そうでござるな。とは言えゆめゆめ、自身を極端に捉えぬ様にな」
「まぁ、覚えておこう」
皆を前に、誓いを立てるべく己が勤めるべき事を最後には決然とした意思を込めて紡げば頷く月夜は表情を綻ばせるもしかし、今までの道程で見せた彼の様々な表情を思い出せば忠告だけは忘れずにするとやがて二人は笑みを交わした。
「しかし封印の中には一体‥‥もしや、それを解放したものに宿る何らかの力が眠っているのでしょうか」
「そう言う訳じゃ、ないわ」
「では‥‥?」
そうして伊勢の内情は今回の一件を機に固まりつつある中、だが今までに巡ってきた要石が封じる天岩戸に眠る存在を佐祐李が懸念するのもまた必然で囁きに近き程、小さな音量にて彼女は己の頭の中で今までに得た情報を整理しながら仮説の一つを立ててみるも、それを聞き止めた斎王はやはり小さな声で彼女のそれを否定すると視線を祥子へ巡らして佐祐李は改めて尋ねてみると
「伊勢じゃない何処かで『それ』が既に動き出している‥‥その断片の一つが此処には眠っているのよ。非常に危険な欠片が」
「一体『それ』とは、どの様な存在なのでしょう?」
最近、皆の前では時折にしか見せる事のない厳かな表情を露わにして斎王が口を開けば、遂に紡がれたその答えが一端を聞くと尚も彼女は尋ねてみるが、次なるその問いにしかし斎王は今度こそ沈黙を紡ぐのみ。
「‥‥これが今、私から話せる精一杯」
「うん、まぁいいよ。でも何かあったら必ず呼ぶんだよー」
「‥‥話すべき時が来たら話してくれよう。拙者は信じておるよ」
「ごめんね」
漸くにして斎王が再び口を開けば吐いて出た言葉は苦渋に満ちており、だからこそユーディスはあっけらかんと答えれば、月夜もまた祥子の人と成りを良く知るからこそそれ以上の追求はせず、笑顔を宿すとそれでも詫びる斎王に皆は月夜に倣い笑顔だけ返すが
「所で、要石封印完了の打ち上げは何時ですか?」
「‥‥予定は、ないかな?」
「えー」
やはり最後に鳴が彼女らしい、場の雰囲気ぶち壊しな発言をすればそれでも必死に答えを返した祥子へ不満げに頬を膨らませた。
こうして伊勢にある天岩戸を封ずる要石へ封印を施す儀は終わり、伊勢平定に向けてまた一歩と足場を固める事となればその役目を終えた霊刀『白焔』は再び伊勢神宮の最奥にて眠りにつく。
果たして伊勢の平定が終わるまでこの封印が解かれない事を今は祈るだけだが‥‥それは未だ混迷を極めるが故、誰しも確信を覚える事は出来なかった。
〜終幕〜