【破妖結界】祝詞を織りて・後

■キャンペーンシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:29 G 93 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月21日〜05月27日

リプレイ公開日:2007年05月01日

●オープニング(第2話リプレイ)

●倭姫命(やまとひめのみこと)腹掛岩へ
 伊勢にある六つの要石、天岩戸の封印を補助する形で存在しているそれへ新たな封印を施す道程は折り返して後、四つ目の五箇所城の近くにある村の最奥に存在するそれにも無事、封印を施せば今は次なる要石の倭姫命腹掛岩を目指し歩を進めていた。
「残りは二つか、新たに現れた悪魔の事もある。小物だけとは思えぬし、より気を引き締めてゆかねばならぬな」
 その封印に際し、最早外せない存在である『白焔』が使い手のガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は先の事に思い耽り、だが五箇所城で起きた一連の騒動を振り返っては厳しい表情を浮かべたままに呟くと
「あぁ。しかし倭姫命腹掛岩か、随分と久し振りだな」
「そうでござるな、だが今回はその封印が優先されるにしても‥‥」
 伊勢の守り手、『五節御神楽』が鋼蒼牙(ea3167)は黒衣靡かせ真剣な面持ちで頷くと話をこれから至るべき場に戻せば、彼の同僚の天城月夜(ea0321)は同意しながらも辺りを見回すと最初に目に付いたのはユーディス・レクベル(ea0425)。
「久し振りに見たなぁ‥‥つかなんでエールもないのにグレムリンが居るんだよ!」
「知らない‥‥でも」
「でも?」
「‥‥何でもない」
「うーん?」
 先日の一件、ジャパンに何故か姿を現したデビルの存在に憤慨すれば、普段は儚げな表情を今は濁らせながら静かに言葉を紡ぐエドワード・ジルスだったがそれを見逃さず、彼女は言葉も途中で濁した彼へ尋ねるがその答えは返って来ず、ユーディスが首を捻る中で未だ浮かない表情を湛えるエドの様子に月夜は何事だろうと訝れば
「今回の一件、此方が陽動で実は別な所を本命としているのではないでしょうか? 例えば‥‥要石の結界を壊せるもの、とか」
「霊刀『黒不知火(くろじらぬい)』か、なくもないわね。人手を掛けて捜索は続けているのだけど」
「ならば早く手を打つべきかと思います、今は手の空いている『五節御神楽』も動員する等して」
「‥‥そうよね、早急に何らかの手段を講じましょう事にしましょう」
「他に懸念すべき事項が多々あると言うのが、何ともはや」
 次に響いた、緋芽佐祐李(ea7197)と伊勢神宮が斎王の祥子内親王が穏やかな声音にて要石の件と、それの裏にて潜み暗躍する存在に付いて意見交わす様を聞き届けると月夜は多々抱えている、未だ結び付ける事が出来ない問題を前にすれば辟易として天を仰ぐも
「だがこの一件、裏には何が潜んでようとも好きにはやらせはしない」
「同意だ」
 彼女の溜息は確かだからこそ、先ずはこの場にいる皆でやるべき事を騎士がマーヤー・プラトー(ea5254)の確かな信念と共に改めて告げれば、蒼牙を筆頭に皆は頷く。
「お花見したいですね。道中で木花咲耶姫神(このはなさくやひめ)様に桜の花が咲いている事をお願いして‥‥」
「まだ事を成してもいないのに少々、気が早いな」
「でも、悪くないんじゃない? たまには息抜きしないとねー」
「まぁまぁ、それよりもはよぅ先を急ぐとしよう」
 が相変わらずに巫女の大宗院鳴(ea1569)が辺りに咲き誇る桜の木々を見てはマイペースに呟くと肩を竦める銀髪の剣士、レリア・ハイダルゼムだったが姉御肌のユーディスが珍しくも鳴の肩を持てば混迷しそうになる場だったが伊勢国司の北畠泰衡が年の割、張り切り先頭に立っては呼び掛けると一行は緩めていた歩みの速度を再び上げた。

●佇む影に封印と、桜に酒と悪魔達
「えーっと‥‥確か、こっちだったか?」
「そうでござるな」
 そして街道を歩き詰めては漸く一行は倭姫命腹掛岩を目前にしており、最初から変わらずに蒼牙と月夜が一行を導くその途中。
「むーむーむーむー」
「何を呻いているのよー」
「いやね、敵の動きを予想しているのだけど‥‥」
 後方にてユーディスが何事か呻いている事に気付いた斎王がその彼女へ呻いている理由を問い尋ねれば、その答えを半ばまで答えながらも
「あー‥‥もう! 分からないから勘と衝動でいっか!」
「‥‥随分と開き直ったわね」
「だって分からない事は分からないし‥‥っと、見えた! ってあれ?」
 途中でそれを自ら遮ればやっと、自身らしい答えに思い至ればその様子に斎王は微笑か苦笑を湛えるも、開き直ったユーディスが鼻を鳴らしては斎王へ胸を張って断言した丁度その時。
 最初こそユーディスが気付いたがすぐその後に一行の皆が皆、目指していた五つ目の要石が倭姫命腹掛岩に気付き、そしてその近くに複数の人影が佇んでいる事にも気付くと
「あのぉ、一体どちら様ですか? あっ、わたくしは大宗院鳴です」
「‥‥‥」
 皆を代表して影だけしか見えないその存在へ鳴が歩み寄りながら呼び掛けるが‥‥沈黙だけを返す影がやがて完全にその姿を一行の前で露わにすれば、只ならぬ雰囲気と様相を携えるその女性に皆が警戒する中、伊勢国司が鳴を窘める。
「自己紹介をする必要はないと思うがの」
「えーっと、どう言う事ですか?」
「愛し姫、じゃよ。のぅ?」
『‥‥‥』
 しかし彼女はその意を解せず、再度泰衡へと問えばその正体が名を紡いだ彼は皆を振り返っては確認の為、尋ねるも‥‥一行の中から返って来る答えは無く、やがてレリアが肩を竦めると
「そうだな、力はないが知恵があるだけに魔法と魅了にさえ気を付ければ後は難の事はない筈」
「ですが知恵のある割、尋常ならざる殺気を放っているのが厄介ですね‥‥しかし」
「‥‥出来る事があるならそれを全うするだけ、だ」
 国司に頷き掛けては自身が知っている愛し姫に付いての知識を語れば、しかし佐祐李が微かとは言え一行に迫ってくる愛し姫に怖気を覚えながらも呟くが‥‥それを振り払う様に剣抜き放つと、蒼牙も彼女に応じ闘気を高めれば倭姫命腹掛岩を目前に一行と死せし者達はぶつかり合った。

「ここが本当に重要なら、形振り構わず戦力を送ってきて良さそうなのだが‥‥」
「何とも中途半端だな」
「でもそう言う割にマーヤー、ボロボロよね」
「‥‥未だ、鍛錬が足りないと言う事には前々からではあったが今回、改めて思い至った次第だ」
 やがて戦いは終わり、確かに強敵でこそあったがあっさりとした幕引きに蒼牙は訝るが‥‥マーヤーが次に同意すれば斎王、一行の中で一番にくたびれているその姿を見つめながら苦笑浮かべると、それにも素直に同意して責任感の強い騎士は自嘲の笑みを浮かべる。
「一先ず、近くには何もいない様ですね」
「‥‥ならばするべき事は一つ」
 だがその傍らでは今もまだ戦いを続けているかの様‥‥いや、実際には未だ目的を果たしていないのだから当然か、佐祐李が辺りを警戒しては『白焔』が使い手に呼び掛けると皆が見守る中にてガイエルが漸く腰に固く縛り付けていた古刀を抜き放てば、祝詞を織りて『白焔』を真なる姿に解放し目の前の岩塊へ疾く突き立て、辺りへ閃光を撒き散らした。
「我、解くるは汝の戒め。現臨せよ、白焔‥‥我、違えぬ誓いをこの石の封呪として立て、施せし」
 そして程無くしてそれが止むとまた此処も無事に封印を終えた事と、『白焔』を振るったからこそ覚える、毎度の虚脱感にガイエルが膝を折ればしかし守り手である佐祐李が彼女をその途中で抱え上げると労いの笑顔を湛えた後、岩塊を見上げては呟くのだった。
「後一つ、ですね」

 そして本来の目的を終えた一行は最後の要石へ向けその歩を進め‥‥る事はなく倭姫命腹掛岩をやはり目前に、その周囲に咲き誇る夜桜を眺めていた。
「泰衡さーん、エドくーん。疲れてない?」
「‥‥大丈夫」
「まぁ、何とかと言った所かの」
 いや失礼、休憩ではなくどうやら本腰を入れての花見の様で何処から持って来たかユーディスがござを引くとその本領を発揮するとその準備を仕切る中、寡黙なエドに老体の国司へ気遣わしげに尋ねるが問題ない旨の答えが二人より返ってくれば顔を綻ばせる彼女の表情はまるで、姉御肌と言うよりはお節介好きなおばさんの様に見える気がする。
「‥‥ん?」
「桜と言えばお団子ですよね。と言う事で先程、色々と教えて貰ったお礼です‥‥もごもご」
「拙者は御節を持って来たでござる、と言う事で一先ず事も落ち着いたし折角の機会でもあるが故に今宵は花見と洒落こもうではないか」
「そうですね。桜もあと少ししたら散りそうですし、今日は皆で最後の勇姿を見届けてあげましょう」
「ま、そうね。それに今年は花見をする機会もなさそうだし」
「やっぱ肩肘張ってるばっかりじゃあ、疲れるからなー」
 がその折、泰衡が目前に幾つかの団子が載せられた皿が飛び込んでくれば首を傾げる国司に鳴は人懐っこく微笑み言うと、やがてそれを抓んだ国司の前に今度は三段重ねのお重も現れるとそれを拵えた月夜が改めて皆へ呼び掛ければ、佐祐李も夜闇の中でも映える桜に視線を移して頷くと一行の提案に頷いて斎王、漸く腰を下ろせば
「さ、それじゃあ‥‥飲もうかー」
 場の準備が確かに整った事を見止めた後、ユーディスが笑顔で高らかに告げると皆はそれぞれに持つ盃を掲げてはそれを打ち鳴らした。

「寝てる寝てる」
 さりとて、宴が終われば今は寝静まる一行。
 その元に舞い降りたのは四匹のグレムリンで一行の様子に安堵すると今度は少し離れた所に見える要石を見止め、囁き合う。
「前に見たのと同じだね」
「そう言う決まりなんだろ」
「でも『あの方』はこれ、どうするつもりなんだろ?」
「さぁな、そこまでは聞いていないから知らねぇ‥‥ま、俺達下っ端だしな」
「良し、仕事終了! と言う事で折角だから余り物だけど頂きますかー」
「目敏い奴」
 それぞれが抱いた率直な感想を囁けばそれぞれが頷くと、やがてその内の一匹が未だ飲み掛けで置かれている発泡酒を見付け言えば、別な一匹は呆れながらもしかし彼の提案には賛成してそれに歩み寄れば直後。
「飲んだな‥‥飲んだからには殴らせろー!」
「うきゃー!」
「残念ながら逃がしはしません!」
 何かに足首を掴まれた一匹が叫び上げる中、狸寝入りをしていたユーディスが未だ飲んでいないのに眼前のグレムリンへ理不尽な因縁をつけると他の三匹は慌て己の姿を消そうとするが‥‥要石の陰に伏せていた佐祐李がそれを防ぐべく道中にて手に入れていた小麦粉を辺りへ広くばら撒くと次々に皆が起き上がれば遂には一方的な虐めが始まった。
 どかばきべきゃぐしゃ。
「しかし、こっちは何時まで経っても来ぬでござるなぁ‥‥」
 と言う事で一行の殆どが四匹のグレムリンを苛める中、月夜は大分前より仕掛けていた油揚げがそのままである事を確認しては一人、膝を抱えてはそれを見つめていたのは此処だけの話。

 しかしながらグレムリンより得られた情報は無いに等しく、『あの方』と呼んでいたその存在すら捕縛した悪魔達は面通しもした事がないのか、知らなかった。
 唯一聞き得た話として、彼らは幾つかのグループに分けられた上で『要石の所在を確認せよ』と使命を与えられた、とそれのみで他の話に関しては逆さに振っても一切出て来る事はなく一行はそれを確認した後‥‥グレムリンを現世から放墜した。

●斎宮跡にて待つもの
 そして今抱える、懸念事項に付いての現時点で出来得る限りの処置を終えた一行は漸く、最後の要石を目指すべく支度を整えていた。
「次で最後か、敵も全力で来るだろうが‥‥こちらも立ち止まるつもりは無い」
「そうだな。がさて、場は順調に『白』が固めているが‥‥この場を崩せる『黒』は一体どこで何をしているかね」
「急いで探さなきゃならないんだけどねぇ」
 その最後、斎宮跡にて待つものは知れずとも容易に見える事態の推移を察し、己が得物の手入れをしていたマーヤーがそれを陽光に翳し呟けば、天へ向け大きく伸びる蒼牙がやがて頷くもしかし、姿を見せぬ『黒不知火』の存在に想いを馳せるが‥‥それを聞いて首を竦めるのは斎王、申し訳なさそうに身を縮めては言葉を紡ぐも
「斎王様、至急お知らせしたい事が‥‥」
「なーにー?」
「‥‥残る要石がある斎宮跡なのですが、何やら妖と悪魔がぶつかっており少なからず斎宮跡にも損害が」
「はぁ? 何でそんな事に‥‥って貴方が知る訳ないわよね。それで要石は無事?」
 その次に響いた、唐突な声を聞き止めれば彼女は振り返らないままに現れた『闇槍』が一人へ尋ね返すと彼より紡がれた次の句には思わず声を上擦らせ、理由に付いても問い質すが‥‥当然な事に遅れて気付くと皆が見守る中で斎王はとりあえず、要石の安否に付いて伺えば
「はい。それよりも互いに戦闘の方に力を注いでいる様です」
「えーと、そうなるととりあえず‥‥『闇槍』を回して欲しいのだけど、内部での相談はどう?」
「位はどちらも低いのですが、何分数が多く今までにない事態なので危険視しております‥‥後は斎王様の指示次第で」
「じゃあ現地へ至急向かって頂戴、でも近くに住んでいる人々の避難と要石の防衛に専念。殲滅は私達が要石に新たな封印を施した後とします」
「はい‥‥」
 すぐに『闇槍』より返って来た答えを聞くと斎王はその事には安堵しながら、次に取るべき行動に付いて即座に思考を巡らせ指示を下すと、すぐに『闇槍』がその場より去れば溜息を漏らす彼女。
「因みに確認だが、斎宮跡とは一体どんな所か?」
「どんな所も何も、昔の斎宮跡地。その周囲は平坦で遮るものなく見通し良し、でも住んでいる人はそう多くはないわ」
 急な事態故に一行も皆が皆、緊張感を孕ませる中で早く身支度を整えたガイエルが問いを紡ぐと斎王は簡潔に、斎宮跡周辺に付いて皆を見回して言えば
「で、肝心の斎宮跡に付いてだけど‥‥未だ建物としてその形を残していてね、その内部に要石を奉っているから今日まで何とか保存、管理しているの。けれどこの様子じゃあ建物自体の存続は厳しいわねぇ」
「‥‥ならば改めて確認する、今までと変わらず要石の再封印を第一にしていいのだな?」
「その他に何かある? 斎宮の今までの歴史が一端である斎宮跡だけど‥‥要石の再封印に比べればそれは取るに足らない事。だから、今までと認識は変えなくていいわ」
 多少の間を置いた後、肝心な斎宮跡に付いてその詳細を語るとそれを聞いて再び尋ねるガイエルだったが、彼女の疑問に対して斎王は一分の惑いも見せず断言する‥‥も僅かな一瞬、影を落とした斎王の表情を彼女は見逃さなかった。
「それでは準備も整ったな。事態が事態故に最後の要石を目指して早く行くとしよう」
 だが斎王に真意を問い詰めるより早く、レリアが出立の声を響かせればすぐに踵を返した斎王のその背を見つめながら‥‥しかしその先をも見据えて今は一先ず、斎宮跡へ急ぎ向かうべく皆と揃いその歩を進めるのだった。
 再び暗い影を落とし始めた伊勢のその先に待つものが今は分からずとも‥‥明けない夜がない事を信じて、強く。

 〜続く〜

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5254 マーヤー・プラトー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●斎宮跡 〜群れる妖、群れる悪魔〜
 斎宮跡‥‥祥子内親王が斎王になるより以前の斎王が伊勢にて勤めを果たしてきたその歴史ある巨大な建造物を前、一行は遠目ながらとは言え今も繰り広げられている光景にただ瞳をすがめていた。
「妖怪に悪魔か‥‥状況は最悪と言えるな」
「だがいずれも封印の前に立ち塞がる障害。襲い掛かってくるならば火の粉を払うまで‥‥尤も数が多い故、一度に余り戦いたくないのも事実だがな」
「全くだ」
 そして最初、呟いたのは最近真面目な面持ちが多い鋼蒼牙(ea3167)で‥‥しかしそんな事は知らないからこそガイエル・サンドゥーラ(ea8088)がやはり真剣な面持ちにて応じ、その最後に嘆息を漏らせば肩を竦める蒼牙だったが
「でもこれでラスト‥‥気合い入れて取り掛からないとなー」
「しかし黒不知火で解放されたら、堂々巡りですね」
「‥‥ほんに、雰囲気を読まぬのぅ」
「ほへ?」
 そんな彼らを宥める様に姉御肌で切符の良いユーディス・レクベル(ea0425)が先ずは自身へ言い聞かせるも、しかし皆もまた頷くが‥‥それにも拘らず大宗院鳴(ea1569)があっさりと緊張感高まる場に水を差せば、呆れる伊勢国司が北畠泰衡の嘆息に彼女は首を傾げるだけで、次に国司は一様に苦笑を浮かべる皆を見れば釣られて口元を緩める。
「封印した要石に護衛とかは付いているのですか?」
「そりゃあ、勿論。それこそそこを抑えて貰わなきゃ、話にならない訳で」
「まぁ、当然だろうな」
 しかし皆の反応には気付く事無く、鳴は次に斎王を見ると改めての確認をすれば無論と応じる彼女に蒼牙も頷くと再び皆は斎宮跡へ視線を移す。
「しかし、本当に無口な子でござるな〜」
 その最中、普段から感情を表情に出す事無く黙する事が多いエドワード・ジルスの相変わらずな佇まいを視線の片隅に留めた天城月夜(ea0321)は今までに時折、感情を覗かせていた彼へ気を払う様に声を掛けるべく歩み寄れば、その金色に染まる髪の毛を撫でると
「デビルに関して何か気になる事があるなら、お姉さんに教えてくれぬかな?」
「‥‥別に‥‥ただ、嫌いなだけ。父さんと母さんを殺した存在だから」
「それでか、全くもー」
「‥‥痛い」
 彼の視線に合わせる様に屈み‥‥次に先日僅かに覗かせた暗い影を見たからこそ、その事に付いて率直に彼へ問うと暫し言うべき言葉を淀ませるエドだったが、やがて口から吐いて出た彼の答えを聞けば何時からか聞いていたユーディスが腰に当てていた手の片方をエドの頭頂へ落とすと歳相応の声を響かせる彼。
「一人で抱えちゃ、駄目だからね!」
「ふむ‥‥」
 僅かに瞳へ涙滲ませユーディスへ訴えるも、彼女は取り付く島を与えずそれだけは彼へ決然とした声音で告げるとその光景を前に何事か考えるエドの保護者相当であるレリア・ハイダルゼムは暫しエドとユーディスを交互に見やるも
「とりあえず、あの辺りになるか?」
「えぇ、間違いないと思います。今の所は‥‥でも場の状況が混沌としているので何時まで、とは言えませんけど」
「まぁそれで十分だ、迅速に事を済ませられればな。それじゃ‥‥と」
 次に再び妖と悪魔が跋扈する戦場へ視線を戻せば、先と変わらない状況を確かに見抜いた彼女は真剣な面持ちにて此処へ来た当初より戦場に視線を注いでいた緋芽佐祐李(ea7197)へ問えば、彼女が返した答えに蒼牙が頷くと戦場を最先にて駆け抜ける戦士達の武器へ、身体へ闘気を付与すれば
「さて、これで攻撃面ではそれなりに楽になる筈だ」
「何時も済まぬな」
「何、これしか出来ない侍ですから」
「しかし‥‥何と言う光景だろうか。だが、締めといこうか」
「はい、すべては伊勢を平定する為に」
 その手応えを確かに感じ、侍が一人で何度か頷くも代わらぬ彼の支援へ感謝する月夜にしかし彼は久方振りに肩を竦めおどけて見せると僅かに緩んだ場の雰囲気にマーヤー・プラトー(ea5254)も笑みを湛え、だが眼前の光景を見据えたままにやがて携える聖剣を抜剣しては呟くとガイエルの傍らに佇む佐祐李が応じると同時‥‥一行は駆け出した、伊勢の未来を掴む為に。

●疾風迅雷 〜ただ目指す、要石〜
 それより一行は駆けて暫く‥‥妖と悪魔がぶつかっている斎宮跡の輪が薄い部分へは未だ到達せず、だがその最中にて蒼牙はふとある事に気付く。
「あれ、着いて来るの?」
「見届けなければならないでしょう、斎王としてね」
「爺とて、まだ衰えてはおらぬわ」
「やれやれ‥‥でも余り、無理はするな」
 流石に一行より遅れてこそいるも、負けじと駆けていたのは斎王と伊勢国司の二人で彼の問い掛けには気丈にして返すと、前は見たままに呆れながら‥‥しかし釘だけは刺せば尚も駆けるとやがて一行はその戦端へ漸く辿り着く。
「打ち合わせの通り、此処はパスだな」
「分かっておる!」
 すれば皆の先頭を駆る一人のマーヤーが皆へ改めて告げれば、その傍らを疾駆する月夜が敵を威嚇する様に携える刀にて軌跡描いて眼前の黒き蟠りをこじ開けると尚一行、駆ける速度を上げる。
「しかし、多過ぎるな‥‥」
 だが次にレリアが呟いた様に敵の輪の中で密度が薄い部分を突破するとは言え、一行よりも十分に数が多い妖に悪魔を前にすればやがて戦場を駆る速度が落ち始めるのは必然だった。
「白塩様、行きます」
 しかしそれを打破すべく動いたのは果たして鳴で、雷撃を身に纏う後の先の戦法を好む彼女を中心にして血路を見出せば、鳴を手伝うべく春花の術が印を結んでは佐祐李も眼前の敵を僅かずつ削ぎ落とせば
「あっ、白塩様!」
 漸く眼前にまで迫った斎宮跡を捉えた巫女は道をこじ開けるべき最後の手、『白焔』と発音だけ似ている『白塩』をその重量故、苦労して敵の輪の向こうへ投げ込めば‥‥その存在が何であるか知らない悪魔はさて置いても、妖達は突如としてそれが放られた方へ動き出せばやがて悪魔達もそれを追随すると最後の道は開かれた。
「良し、一気に駆け抜けるぞ!」
「‥‥いいのですか?」
「はい。これから白塩様の使い方が難しくなるでしょうけど、今はそんな事を言っていられませんからね」
 無論、その機を逃す一行ではなく月夜の檄と共に一行は更に疾く駆け出すとその中で佐祐李は『白焔』の贋作であるとは言え大事にしていた『白塩』の使い手へ静かに尋ねるが、巫女は一瞬たりとも惑いを見せずに彼女へ答えを囁き返すのだった。

 何とか斎宮跡へと辿り着いた一行はそれから斎王の案内にてその内部へ突入する。
「あれ、拍子抜け」
「本当に外で小競り合いをしているだけなんですね‥‥尤も、今は助かりますが」
「無駄話をしている場合ではないぞ、この状況は。速やかに事を成さねばならない」
「っと、そうでした」
 が間の抜けた声音を響かせたユーディスが言う様に内部は外の喧騒とは裏腹、何者も存在しなければ至って静かなもので思わず安堵の溜息を漏らす佐祐李だったが、何時も以上に厳しい表情を浮かべる『白焔』の使い手がガイエルの声が響くとユーディスが自身の頭を軽く小突く中、一行はただ要石を目指し駆ける。
「伏せている悪魔は‥‥いないみたいですね」
「とは言え、気は抜けません。封印の偽装を行ってからの方が‥‥」
「この斎宮跡をも守る為、僅かでも時間は惜しい!」
「‥‥そうだね」
「皆‥‥」
 そして斎王の案内に導かれるまま、くたびれた外観の割には未だしっかりとした構造を保つ斎宮跡の内部を駆けながら鳴が借り受けた石の中の蝶を翳しながら辺りを警戒するも、全くにない反応を皆へ告げれば佐祐李が次に紡いだ慎重案はしかしガイエルによって一蹴されると同時、一行は斎宮跡の最奥へと辿り着けば
「我、願い奉る。要の石よ、永遠の封印を結びて、斎の宮の護りとならん事を‥‥」
 銀髪を靡かせて疾く刀を抜き放ったガイエルが祝詞を織れば、それが掻き消えるより早く古めかしき刀はその真なる姿を現すとやがて今までに無い程、眩しき白光を辺りへ撒き散らし‥‥白き焔は果たして最後の要石へ突き立てば辺りを閃光に包んだ。

●暗雲一掃 〜闇払う時〜
 こうして要石へ再度の封印は全てに成され、一先ず伊勢が内包する問題の一つがまた解決された。
「祥子さんにとっても思い出があるだろう斎宮跡、か。ここを荒らすとは‥‥許せんな」
 だが眼前に沸いた問題は未だ止む事無く斎宮跡を激しく揺さぶれば、早く外へ出た蒼牙は混沌とする戦場を瞳すがめ見つめては呟くと
「これは‥‥流石に無理だよね」
「皆の足手纏いになる訳には行かないでしょうからね」
 眼前に広がる、黒い霧が如き敵を前にユーディスは流石に斎王と国司を見つめ尋ねれば同意して斎王が肩を竦めると、頷きながら改めて黒い霧に向き直って彼女はぶら下げていた聖剣を構え直し、いよいよ鬨の声を上げた。
「さぁ、それじゃあ‥‥行くよっ!」

 そして黒き霧の中へ飛び込んだ一行‥‥確かに『闇槍』がもたらした情報の通りに敵は下位の妖に悪魔ばかりではあったがその尋常ならざる数の前には流石に手を焼いていた。
「ちぃ、やはり数が多いな‥‥やれやれ、刀を振るうのは得意では無いのだが」
 その群れの中、蒼牙は闘気の塊を掌より放ち着実にその数を減らしていたがそれでも圧倒的な数の敵を前にいよいよ追い着かなくなれば虎の子がブリトヴェンを抜き放つとそれを掲げ、眼前に浮遊していたグレムリンが一匹へ切りつける。
「確かに、余り上手いとは言えないな」
 だが寸での所でそれは避けられると次いで数の暴力から防戦を強いられる事となる蒼牙だったが、その窮地を救うのはマーヤー‥‥決して余裕がある訳ではないが彼の剣筋を正当に評価すると渋面を湛える侍へ騎士は暴力的なその数を前にしても尚、己を忘れずに成さなければならない事を決然と言い放てば、聖剣を煌かせた。
「だが、その分は私が受け持とう。騎士として守るべきものを守る為、この剣と私の誇りに賭けて!」

「‥‥しかし、妙だな」
「何が、だ?」
 一方の斎宮跡、僅かに流れてくる悪魔を払う警護担当のレリアの背後で役目を成したからこそ今は振るうべき力が微塵もないガイエルは戦場の全域を見回して呟くと尋ねるのは剣士だったが
「敵が‥‥僅かずつ後退を始めている。全ての要石に封印が成された影響を受けてか、それとも‥‥」
「携えていた、何らかの目的が果たされた‥‥?」
 次に銀髪の僧侶が紡いだその理由を聞けば、レリアは考えられるもう一つの理由を呟きながら‥‥しかし眼前にもう何度目か飛来した悪魔を見止めれば一刀の元に両断した、今は推論を講じるよりも皆を守るべく。

●紡ぎ終えた祝詞 〜見つめる、その先〜
「よっし、お終いっ!」
 やがて混沌とした場は遂に払われる‥‥尤も、一行の参入から数こそはいた妖に悪魔の群れは後退を図れば、いずれ埋まる数の差からそれは必然だったがそれでも皆もまた満身創痍だった事は言うまでもない事実。
「しかし見えぬな、奴らの目論見が‥‥たまたま、斎宮跡を前に衝突していただけなのか。それとも別の意図が‥‥?」
「だがこれで一先ずは終わりかな。真の終わりはまだ遠いかも知れないが、それでも私は‥‥いや、私達は止まる事は無い」
 そして今回の敵の動きを振り返り‥‥結局見えず終いだったその目的をガイエルが訝るのもやはり当然だったが、それでもマーヤーが彼女を今は宥める様に斎宮跡の背へ昇る朝日を見つめ呟くと、頷いたのは伊勢国司。
「ふむ、その通りじゃな」
 蓄えられた白い髭を撫でながら響かせた声音は明るく響くもその割、表情は険しいもので
「改めて今、伊勢を見て何か話すべき事があるでござろうかな?」
「‥‥ようも伊勢が様々な脅威に晒されている事が分かったわ。そしてそれは斎宮だけに任せるべき事でない、と言う事もな。さて、そうなれば己がやるべき事としては‥‥」
 それを見た月夜は半ば強行で一行に付いてきた彼へ、今日こそが最後だから改めて尋ねれば泰衡は次に渋面を浮かべると呻く様に言葉を捻り出す。
「長州の件もある以上、斎宮との連携を強めながらやはり軍備の整備、向上に勤めるが先ずは優先されるかの。余り気は進まんが‥‥好みを言ってもいられぬしのぅ。後は黒門の一件もあるがこればかりは時間を掛けてやるしかないじゃろうなぁ」
「そうでござるな。とは言えゆめゆめ、自身を極端に捉えぬ様にな」
「まぁ、覚えておこう」
 皆を前に、誓いを立てるべく己が勤めるべき事を最後には決然とした意思を込めて紡げば頷く月夜は表情を綻ばせるもしかし、今までの道程で見せた彼の様々な表情を思い出せば忠告だけは忘れずにするとやがて二人は笑みを交わした。
「しかし封印の中には一体‥‥もしや、それを解放したものに宿る何らかの力が眠っているのでしょうか」
「そう言う訳じゃ、ないわ」
「では‥‥?」
 そうして伊勢の内情は今回の一件を機に固まりつつある中、だが今までに巡ってきた要石が封じる天岩戸に眠る存在を佐祐李が懸念するのもまた必然で囁きに近き程、小さな音量にて彼女は己の頭の中で今までに得た情報を整理しながら仮説の一つを立ててみるも、それを聞き止めた斎王はやはり小さな声で彼女のそれを否定すると視線を祥子へ巡らして佐祐李は改めて尋ねてみると
「伊勢じゃない何処かで『それ』が既に動き出している‥‥その断片の一つが此処には眠っているのよ。非常に危険な欠片が」
「一体『それ』とは、どの様な存在なのでしょう?」
 最近、皆の前では時折にしか見せる事のない厳かな表情を露わにして斎王が口を開けば、遂に紡がれたその答えが一端を聞くと尚も彼女は尋ねてみるが、次なるその問いにしかし斎王は今度こそ沈黙を紡ぐのみ。
「‥‥これが今、私から話せる精一杯」
「うん、まぁいいよ。でも何かあったら必ず呼ぶんだよー」
「‥‥話すべき時が来たら話してくれよう。拙者は信じておるよ」
「ごめんね」
 漸くにして斎王が再び口を開けば吐いて出た言葉は苦渋に満ちており、だからこそユーディスはあっけらかんと答えれば、月夜もまた祥子の人と成りを良く知るからこそそれ以上の追求はせず、笑顔を宿すとそれでも詫びる斎王に皆は月夜に倣い笑顔だけ返すが
「所で、要石封印完了の打ち上げは何時ですか?」
「‥‥予定は、ないかな?」
「えー」
 やはり最後に鳴が彼女らしい、場の雰囲気ぶち壊しな発言をすればそれでも必死に答えを返した祥子へ不満げに頬を膨らませた。

 こうして伊勢にある天岩戸を封ずる要石へ封印を施す儀は終わり、伊勢平定に向けてまた一歩と足場を固める事となればその役目を終えた霊刀『白焔』は再び伊勢神宮の最奥にて眠りにつく。
 果たして伊勢の平定が終わるまでこの封印が解かれない事を今は祈るだけだが‥‥それは未だ混迷を極めるが故、誰しも確信を覚える事は出来なかった。

 〜終幕〜