●リプレイ本文
●倭姫命(やまとひめのみこと)腹掛岩へ
伊勢にある六つの要石、天岩戸の封印を補助する形で存在しているそれへ新たな封印を施す道程は折り返して後、四つ目の五箇所城の近くにある村の最奥に存在するそれにも無事、封印を施せば今は次なる要石の倭姫命腹掛岩を目指し歩を進めていた。
「残りは二つか、新たに現れた悪魔の事もある。小物だけとは思えぬし、より気を引き締めてゆかねばならぬな」
その封印に際し、最早外せない存在である『白焔』が使い手のガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は先の事に思い耽り、だが五箇所城で起きた一連の騒動を振り返っては厳しい表情を浮かべたままに呟くと
「あぁ。しかし倭姫命腹掛岩か、随分と久し振りだな」
「そうでござるな、だが今回はその封印が優先されるにしても‥‥」
伊勢の守り手、『五節御神楽』が鋼蒼牙(ea3167)は黒衣靡かせ真剣な面持ちで頷くと話をこれから至るべき場に戻せば、彼の同僚の天城月夜(ea0321)は同意しながらも辺りを見回すと最初に目に付いたのはユーディス・レクベル(ea0425)。
「久し振りに見たなぁ‥‥つかなんでエールもないのにグレムリンが居るんだよ!」
「知らない‥‥でも」
「でも?」
「‥‥何でもない」
「うーん?」
先日の一件、ジャパンに何故か姿を現したデビルの存在に憤慨すれば、普段は儚げな表情を今は濁らせながら静かに言葉を紡ぐエドワード・ジルスだったがそれを見逃さず、彼女は言葉も途中で濁した彼へ尋ねるがその答えは返って来ず、ユーディスが首を捻る中で未だ浮かない表情を湛えるエドの様子に月夜は何事だろうと訝れば
「今回の一件、此方が陽動で実は別な所を本命としているのではないでしょうか? 例えば‥‥要石の結界を壊せるもの、とか」
「霊刀『黒不知火(くろじらぬい)』か、なくもないわね。人手を掛けて捜索は続けているのだけど」
「ならば早く手を打つべきかと思います、今は手の空いている『五節御神楽』も動員する等して」
「‥‥そうよね、早急に何らかの手段を講じましょう事にしましょう」
「他に懸念すべき事項が多々あると言うのが、何ともはや」
次に響いた、緋芽佐祐李(ea7197)と伊勢神宮が斎王の祥子内親王が穏やかな声音にて要石の件と、それの裏にて潜み暗躍する存在に付いて意見交わす様を聞き届けると月夜は多々抱えている、未だ結び付ける事が出来ない問題を前にすれば辟易として天を仰ぐも
「だがこの一件、裏には何が潜んでようとも好きにはやらせはしない」
「同意だ」
彼女の溜息は確かだからこそ、先ずはこの場にいる皆でやるべき事を騎士がマーヤー・プラトー(ea5254)の確かな信念と共に改めて告げれば、蒼牙を筆頭に皆は頷く。
「お花見したいですね。道中で木花咲耶姫神(このはなさくやひめ)様に桜の花が咲いている事をお願いして‥‥」
「まだ事を成してもいないのに少々、気が早いな」
「でも、悪くないんじゃない? たまには息抜きしないとねー」
「まぁまぁ、それよりもはよぅ先を急ぐとしよう」
が相変わらずに巫女の大宗院鳴(ea1569)が辺りに咲き誇る桜の木々を見てはマイペースに呟くと肩を竦める銀髪の剣士、レリア・ハイダルゼムだったが姉御肌のユーディスが珍しくも鳴の肩を持てば混迷しそうになる場だったが伊勢国司の北畠泰衡が年の割、張り切り先頭に立っては呼び掛けると一行は緩めていた歩みの速度を再び上げた。
●佇む影に封印と、桜に酒と悪魔達
「えーっと‥‥確か、こっちだったか?」
「そうでござるな」
そして街道を歩き詰めては漸く一行は倭姫命腹掛岩を目前にしており、最初から変わらずに蒼牙と月夜が一行を導くその途中。
「むーむーむーむー」
「何を呻いているのよー」
「いやね、敵の動きを予想しているのだけど‥‥」
後方にてユーディスが何事か呻いている事に気付いた斎王がその彼女へ呻いている理由を問い尋ねれば、その答えを半ばまで答えながらも
「あー‥‥もう! 分からないから勘と衝動でいっか!」
「‥‥随分と開き直ったわね」
「だって分からない事は分からないし‥‥っと、見えた! ってあれ?」
途中でそれを自ら遮ればやっと、自身らしい答えに思い至ればその様子に斎王は微笑か苦笑を湛えるも、開き直ったユーディスが鼻を鳴らしては斎王へ胸を張って断言した丁度その時。
最初こそユーディスが気付いたがすぐその後に一行の皆が皆、目指していた五つ目の要石が倭姫命腹掛岩に気付き、そしてその近くに複数の人影が佇んでいる事にも気付くと
「あのぉ、一体どちら様ですか? あっ、わたくしは大宗院鳴です」
「‥‥‥」
皆を代表して影だけしか見えないその存在へ鳴が歩み寄りながら呼び掛けるが‥‥沈黙だけを返す影がやがて完全にその姿を一行の前で露わにすれば、只ならぬ雰囲気と様相を携えるその女性に皆が警戒する中、伊勢国司が鳴を窘める。
「自己紹介をする必要はないと思うがの」
「えーっと、どう言う事ですか?」
「愛し姫、じゃよ。のぅ?」
『‥‥‥』
しかし彼女はその意を解せず、再度泰衡へと問えばその正体が名を紡いだ彼は皆を振り返っては確認の為、尋ねるも‥‥一行の中から返って来る答えは無く、やがてレリアが肩を竦めると
「そうだな、力はないが知恵があるだけに魔法と魅了にさえ気を付ければ後は難の事はない筈」
「ですが知恵のある割、尋常ならざる殺気を放っているのが厄介ですね‥‥しかし」
「‥‥出来る事があるならそれを全うするだけ、だ」
国司に頷き掛けては自身が知っている愛し姫に付いての知識を語れば、しかし佐祐李が微かとは言え一行に迫ってくる愛し姫に怖気を覚えながらも呟くが‥‥それを振り払う様に剣抜き放つと、蒼牙も彼女に応じ闘気を高めれば倭姫命腹掛岩を目前に一行と死せし者達はぶつかり合った。
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「ここが本当に重要なら、形振り構わず戦力を送ってきて良さそうなのだが‥‥」
「何とも中途半端だな」
「でもそう言う割にマーヤー、ボロボロよね」
「‥‥未だ、鍛錬が足りないと言う事には前々からではあったが今回、改めて思い至った次第だ」
やがて戦いは終わり、確かに強敵でこそあったがあっさりとした幕引きに蒼牙は訝るが‥‥マーヤーが次に同意すれば斎王、一行の中で一番にくたびれているその姿を見つめながら苦笑浮かべると、それにも素直に同意して責任感の強い騎士は自嘲の笑みを浮かべる。
「一先ず、近くには何もいない様ですね」
「‥‥ならばするべき事は一つ」
だがその傍らでは今もまだ戦いを続けているかの様‥‥いや、実際には未だ目的を果たしていないのだから当然か、佐祐李が辺りを警戒しては『白焔』が使い手に呼び掛けると皆が見守る中にてガイエルが漸く腰に固く縛り付けていた古刀を抜き放てば、祝詞を織りて『白焔』を真なる姿に解放し目の前の岩塊へ疾く突き立て、辺りへ閃光を撒き散らした。
「我、解くるは汝の戒め。現臨せよ、白焔‥‥我、違えぬ誓いをこの石の封呪として立て、施せし」
そして程無くしてそれが止むとまた此処も無事に封印を終えた事と、『白焔』を振るったからこそ覚える、毎度の虚脱感にガイエルが膝を折ればしかし守り手である佐祐李が彼女をその途中で抱え上げると労いの笑顔を湛えた後、岩塊を見上げては呟くのだった。
「後一つ、ですね」
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そして本来の目的を終えた一行は最後の要石へ向けその歩を進め‥‥る事はなく倭姫命腹掛岩をやはり目前に、その周囲に咲き誇る夜桜を眺めていた。
「泰衡さーん、エドくーん。疲れてない?」
「‥‥大丈夫」
「まぁ、何とかと言った所かの」
いや失礼、休憩ではなくどうやら本腰を入れての花見の様で何処から持って来たかユーディスがござを引くとその本領を発揮するとその準備を仕切る中、寡黙なエドに老体の国司へ気遣わしげに尋ねるが問題ない旨の答えが二人より返ってくれば顔を綻ばせる彼女の表情はまるで、姉御肌と言うよりはお節介好きなおばさんの様に見える気がする。
「‥‥ん?」
「桜と言えばお団子ですよね。と言う事で先程、色々と教えて貰ったお礼です‥‥もごもご」
「拙者は御節を持って来たでござる、と言う事で一先ず事も落ち着いたし折角の機会でもあるが故に今宵は花見と洒落こもうではないか」
「そうですね。桜もあと少ししたら散りそうですし、今日は皆で最後の勇姿を見届けてあげましょう」
「ま、そうね。それに今年は花見をする機会もなさそうだし」
「やっぱ肩肘張ってるばっかりじゃあ、疲れるからなー」
がその折、泰衡が目前に幾つかの団子が載せられた皿が飛び込んでくれば首を傾げる国司に鳴は人懐っこく微笑み言うと、やがてそれを抓んだ国司の前に今度は三段重ねのお重も現れるとそれを拵えた月夜が改めて皆へ呼び掛ければ、佐祐李も夜闇の中でも映える桜に視線を移して頷くと一行の提案に頷いて斎王、漸く腰を下ろせば
「さ、それじゃあ‥‥飲もうかー」
場の準備が確かに整った事を見止めた後、ユーディスが笑顔で高らかに告げると皆はそれぞれに持つ盃を掲げてはそれを打ち鳴らした。
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「寝てる寝てる」
さりとて、宴が終われば今は寝静まる一行。
その元に舞い降りたのは四匹のグレムリンで一行の様子に安堵すると今度は少し離れた所に見える要石を見止め、囁き合う。
「前に見たのと同じだね」
「そう言う決まりなんだろ」
「でも『あの方』はこれ、どうするつもりなんだろ?」
「さぁな、そこまでは聞いていないから知らねぇ‥‥ま、俺達下っ端だしな」
「良し、仕事終了! と言う事で折角だから余り物だけど頂きますかー」
「目敏い奴」
それぞれが抱いた率直な感想を囁けばそれぞれが頷くと、やがてその内の一匹が未だ飲み掛けで置かれている発泡酒を見付け言えば、別な一匹は呆れながらもしかし彼の提案には賛成してそれに歩み寄れば直後。
「飲んだな‥‥飲んだからには殴らせろー!」
「うきゃー!」
「残念ながら逃がしはしません!」
何かに足首を掴まれた一匹が叫び上げる中、狸寝入りをしていたユーディスが未だ飲んでいないのに眼前のグレムリンへ理不尽な因縁をつけると他の三匹は慌て己の姿を消そうとするが‥‥要石の陰に伏せていた佐祐李がそれを防ぐべく道中にて手に入れていた小麦粉を辺りへ広くばら撒くと次々に皆が起き上がれば遂には一方的な虐めが始まった。
どかばきべきゃぐしゃ。
「しかし、こっちは何時まで経っても来ぬでござるなぁ‥‥」
と言う事で一行の殆どが四匹のグレムリンを苛める中、月夜は大分前より仕掛けていた油揚げがそのままである事を確認しては一人、膝を抱えてはそれを見つめていたのは此処だけの話。
しかしながらグレムリンより得られた情報は無いに等しく、『あの方』と呼んでいたその存在すら捕縛した悪魔達は面通しもした事がないのか、知らなかった。
唯一聞き得た話として、彼らは幾つかのグループに分けられた上で『要石の所在を確認せよ』と使命を与えられた、とそれのみで他の話に関しては逆さに振っても一切出て来る事はなく一行はそれを確認した後‥‥グレムリンを現世から放墜した。
●斎宮跡にて待つもの
そして今抱える、懸念事項に付いての現時点で出来得る限りの処置を終えた一行は漸く、最後の要石を目指すべく支度を整えていた。
「次で最後か、敵も全力で来るだろうが‥‥こちらも立ち止まるつもりは無い」
「そうだな。がさて、場は順調に『白』が固めているが‥‥この場を崩せる『黒』は一体どこで何をしているかね」
「急いで探さなきゃならないんだけどねぇ」
その最後、斎宮跡にて待つものは知れずとも容易に見える事態の推移を察し、己が得物の手入れをしていたマーヤーがそれを陽光に翳し呟けば、天へ向け大きく伸びる蒼牙がやがて頷くもしかし、姿を見せぬ『黒不知火』の存在に想いを馳せるが‥‥それを聞いて首を竦めるのは斎王、申し訳なさそうに身を縮めては言葉を紡ぐも
「斎王様、至急お知らせしたい事が‥‥」
「なーにー?」
「‥‥残る要石がある斎宮跡なのですが、何やら妖と悪魔がぶつかっており少なからず斎宮跡にも損害が」
「はぁ? 何でそんな事に‥‥って貴方が知る訳ないわよね。それで要石は無事?」
その次に響いた、唐突な声を聞き止めれば彼女は振り返らないままに現れた『闇槍』が一人へ尋ね返すと彼より紡がれた次の句には思わず声を上擦らせ、理由に付いても問い質すが‥‥当然な事に遅れて気付くと皆が見守る中で斎王はとりあえず、要石の安否に付いて伺えば
「はい。それよりも互いに戦闘の方に力を注いでいる様です」
「えーと、そうなるととりあえず‥‥『闇槍』を回して欲しいのだけど、内部での相談はどう?」
「位はどちらも低いのですが、何分数が多く今までにない事態なので危険視しております‥‥後は斎王様の指示次第で」
「じゃあ現地へ至急向かって頂戴、でも近くに住んでいる人々の避難と要石の防衛に専念。殲滅は私達が要石に新たな封印を施した後とします」
「はい‥‥」
すぐに『闇槍』より返って来た答えを聞くと斎王はその事には安堵しながら、次に取るべき行動に付いて即座に思考を巡らせ指示を下すと、すぐに『闇槍』がその場より去れば溜息を漏らす彼女。
「因みに確認だが、斎宮跡とは一体どんな所か?」
「どんな所も何も、昔の斎宮跡地。その周囲は平坦で遮るものなく見通し良し、でも住んでいる人はそう多くはないわ」
急な事態故に一行も皆が皆、緊張感を孕ませる中で早く身支度を整えたガイエルが問いを紡ぐと斎王は簡潔に、斎宮跡周辺に付いて皆を見回して言えば
「で、肝心の斎宮跡に付いてだけど‥‥未だ建物としてその形を残していてね、その内部に要石を奉っているから今日まで何とか保存、管理しているの。けれどこの様子じゃあ建物自体の存続は厳しいわねぇ」
「‥‥ならば改めて確認する、今までと変わらず要石の再封印を第一にしていいのだな?」
「その他に何かある? 斎宮の今までの歴史が一端である斎宮跡だけど‥‥要石の再封印に比べればそれは取るに足らない事。だから、今までと認識は変えなくていいわ」
多少の間を置いた後、肝心な斎宮跡に付いてその詳細を語るとそれを聞いて再び尋ねるガイエルだったが、彼女の疑問に対して斎王は一分の惑いも見せず断言する‥‥も僅かな一瞬、影を落とした斎王の表情を彼女は見逃さなかった。
「それでは準備も整ったな。事態が事態故に最後の要石を目指して早く行くとしよう」
だが斎王に真意を問い詰めるより早く、レリアが出立の声を響かせればすぐに踵を返した斎王のその背を見つめながら‥‥しかしその先をも見据えて今は一先ず、斎宮跡へ急ぎ向かうべく皆と揃いその歩を進めるのだった。
再び暗い影を落とし始めた伊勢のその先に待つものが今は分からずとも‥‥明けない夜がない事を信じて、強く。
〜続く〜