魔女ありけり

■キャンペーンシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:29 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜12月30日

リプレイ公開日:2007年12月02日

●オープニング

●埴輪作りの傍ら
 伊勢神宮の比較的近くにある、朝熊ヶ岳‥‥英国より渡ってきたアシュド・フォレクシーが既にあった簡素な小屋に住み着いてから一年はゆうに過ぎ、それ故に一風変わった相談事やらを近くの村々に住む人々より埴輪作りの傍ら、日々聞きかじっていた。
「魔女、か‥‥こちらに来てその名を聞く事になるとはな」
 その今日、とある青年からもたらされた話の一端に出て来た『魔女』の単語を聞き彼はただそれだけでも懐かしみすら覚える。
「どう言った存在、なのでしょうか?」
「女性の魔術師が別名、ただそれだけだ。別段に深い意味はない‥‥ただ」
「ただ?」
 だが青年、それよりも不穏な響きを含んだ『魔女』と言う単語に付いて尋ねれば‥‥含みを持たせて答える魔術師へ再び首を傾げ、反芻しては尋ねると
「その二つ名で呼ばれている事を考えれば、高位の魔術師である事は容易に察する事が出来るし、中には邪まな道を歩いていると言う話も」
 まだ見ぬ魔術師が自らをそう呼んでいるのか、それとも呼ばれているのかは分からずともただそれだけは断定し、暫し考え込むアシュドだったが
「とは言え、離れているものの村落の近くに居を構え一年程度経っていると言うのなら余り心配する必要はないと思うが」
「そう、ですか‥‥」
「どうかしたか?」
「実は‥‥その静けさが逆に最近では皆、不安がる様になっていまして」
 一般、魔術師が何らかの研究に打ち込む際の事を自身踏まえて考えれば思い付いた危惧は比較的に低い可能性だろうと判断し青年へ告げるが、言葉を淀ませる彼にまだ何事かある事を察しアシュドが尋ねると青年は口を開き、その解を紐解いた。

●ジーザス会の依頼
 後日、京都にある冒険者ギルド。
「‥‥響きとして余り良くないですし、異邦の地でも名前の一人歩きによって恐れられているのは事実ですから」
「それで、どの様な依頼を?」
 ギルド員の青年を前、伊勢のジーザス会を統べる存在であるアゼル・ペイシュメントが訪れれば青年へ、信徒より聞いた話をすると当然の様に響いたその問い掛けへ彼。
「真偽の程を確かめて来て貰う事、先ずはそれだけです。今までは何も危害こそありませんでしたが‥‥それでも村人達は彼女の存在を不穏視しています。それ故、必要に応じて村人達に警告をしなければならない事を考えれば後にも先にもおぼろげな人物像に確かな輪郭を付ける事が大事です」
 一息でつらつらと、最初の目標を掲げれば一度言葉を切った後。
「また、それによって問題のない人物である事が分かれば『魔女』の事も考え‥‥今後、村人達とも接点を持つ様にして貰えると万事解決かと」
「‥‥話を聞く限り、簡単に終わりそうにはないな」
 現状にて考えられ得る可能性の大きな所だけ挙げ、必要に応じた対処をして欲しいと望むと眉根を顰めるギルド員の青年ではあったが、別段断わる旨も告げなければ
「そうですね。万が一の事を考えれば村の方に事態が完全に解決するまでの間、留まって貰った方が良いかも知れません」
 頷いてアゼルは最良だろう手段を告げると漸く首を縦に振って青年が筆を手にし、机上にある和紙へ視線を落とす‥‥が。
「そちらの方で立会人はつかれるか?」
「えぇ、ジーザス会の代表‥‥と言う訳ではありませんが細かな話は彼も聞いていて、その上で動いて下さると言う話でしたので今回は彼にお任せします」
「‥‥埴輪作りで篭ってばかりとは言え、肝心の魔法の腕が鈍っていたら今後に差し支えるからな」
 一時、筆を止めてそのままの姿勢を保持したままにもう一つだけ尋ねると‥‥果たして穏やかに響いたアゼルの答えの後、傍らにて腕組みしては沈黙だけ重ねていたアシュドが初めて口を開くと、取り敢えず纏まった依頼の話に青年は淀みなく筆を進めるのだった。

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 依頼目的:噂の魔女に付いて調査せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)、若しくは相応の金銭は必要なので確実に準備しておく事。
 また、そろそろ寒くなって来たので状況によっては防寒着も必要になるかと。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 対応NPC:アゼル・ペイシュメント(同道せず)、アシュド・フォレクシー(ez1010:同道)
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●今回の参加者

 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●魔女、その呼び名とその存在
 京都を発ち、伊勢を目指すは冒険者が一行‥‥不穏な情勢である伊勢へ最近向かう者は伊勢よりの依頼を引き受けた冒険者か、さもなくば伊勢神宮へ熱心に参拝する者位である。
「ふぅむ‥‥このジャパンで『魔女』等と言う呼称を聞く事になるとはな」
「確かにな。それに実際、イギリスの方でもその呼び名を使う者は酷く限られていたからこそ、聞く事等ないと思っていたが」
 その情勢下故、人影少ない街道を歩きながらも呟いたのは黒き教義に身を費やすカノン・リュフトヒェン(ea9689)で、その言葉に対し彼女らと道を共にする水の魔術師がアシュド・フォレクシーも頷くが
「『魔女』と言うと、魔法を使える女性と言う認識で宜しいのでしょうか」
「まぁ半分は正解だ。後の半分は魔法か、それに関する何らかの卓越した技術を持ち合わせていると言う認識か」
「酷く曖昧な呼称故、一先ずは先に言った認識で問題ないかと」
 その会話の後、緋芽佐祐李(ea7197)が件の話題が中心である『魔女』に付いて皆へ尋ねると答えるアシュドだったが、その曖昧な答えはカノンによって素っ気無くフォローされると肩を竦める彼だったがやがて視界の中に目的の村が見えると、一行は歩調を速めるのだった。

 やがて一行が村に辿り着けば村長の案内を受け、暫くの住まいとなる簡素だが大振りな一軒の家屋に案内されれば手早く準備を済ませた皆は先ず、状況と魔女に関する話を得る為に村での聞き込みを中心として、それぞれ動き出す。
「なぁ、子供達こそ接触する事があった様だが魔女とか言う得体の知れない人物‥‥姿を見た事こそないから今のご時勢、本当に話し合うべき奴なのか理解に苦しむんだが」
 その中、村に住む人々へドナトゥース・フォーリア(ea3853)は懇切に今回の一件について改めて理解して貰うべく、説明の為に村内の各所を回っていた‥‥引いては今後、村人達にも協力して貰わなければならないかも知れないから。
「確かに、自身の故国でも錬金術師や魔法使いの類は偏屈な事が多くて‥‥とは言え、人付き合いが無い事が悪事を行っているかと言えば、それは決してイコールでは結べませんから今は安心して貰って構わないかと。現に皆さんも今の所は被害を被ってはいないのでしょう?」
「確かに、そう言われると返す言葉はないか」
 そしてその戦士、状況こそ完全に把握している訳ではないのだが‥‥だからと言ってどちらかに決め付ける事はせず、村人達を諭せば往々にして頷く彼らの不安も密かに取り除いていた。

 その一方、他の皆は村に住む老若男女を問わずとある点を中心にして村内を尋ね回っていた‥‥何故、その人物が『魔女』だと分ったのかと。
「本人から、なのか」
「えぇ、とは言え実際には子供達からまた聞きになりますけどね」
「ふぅん、接点がなかったのは大人達だけなのか」
「とは言え、子供達も皆が皆見た訳ではない様ですよ」
 その答え、滋藤柾鷹(ea0858)に木賊崔軌(ea0592)は別の村人よりその一端へ辿り着いてはいたのだが詳しい事については分からず仕舞いで、彼らの眼前に慧神やゆよ(eb2295)の姿が目に映れば‥‥首を振るその様子から彼女もまた詳しい話が得られなかった事を悟るも
「ま、この類は何かと根気がいる。気長に行こうぜ旦那」
「‥‥そうでござるな」
 崔軌は別段気にした風も見せず、それだけ告げれば微妙な反応を見せつつも頷き返した柾鷹を見つめ笑めば、再び聞き込みへ勤しもうとしたその時。
「あーっ!」
 彼らが暫しの間を置いた間、何をしてかやゆよの叫び声が場に響き渡ればそちらへ視線を向けた柾鷹に崔軌は直後、眼前に駆けては迫る幼き陰陽師より真摯な瞳を向けられると
「柾鷹さーん、危なーいっ!」
 やがて開かれた口より紡がれるやゆよが魔法にてつい先程に垣間見た十秒程度先の、努力しなかった場合‥‥此処では僅かな間とは言え村の為に動かなかった場合、訪れる未来について告げられればそれとほぼ同時に家屋の屋根が切れ目の真下にいた柾鷹は唐突に落ちてきた瓦に頭にて受け止めるのだった。

 その傍ら、ネフィリム・フィルス(eb3503)に佐祐李とアシュドは魔女の家がある近くにまで足を運んではその近隣の捜索と彼女が住んでいる筈の家の監視を行っていた‥‥その存在を確かめるべく。
「念の為さ、それと本当に噂の魔女が実在するかの確認さね」
「しかし、そこまでするものか?」
 その高位に対し、疑問視する慎重なアシュドをネフィリムは諭すも‥‥首を捻る彼の態度は変わらず、呻く巨人の騎士だったが
「そう言えばこの村では別段、目立った収穫物等は無いと言う話です」
「‥‥そうか」
 話題を摩り替えるべくか、佐祐李が村にて得た話を唐突ながらもこの場にて披露すると腑には落ちないが、一先ず頷くアシュド。
「まぁ取り敢えず、いるみたいだねぇ」
「えぇ、確かに。その存在自体は間違いない様ですね」
「何をしているか、分かるか?」
 とその時、佐祐李が紡いだ話の直後より家屋へ視線を向けていたネフィリムがその内部にて動く人影を見止めると彼女も白髪が剣士の言葉の後、同じ方へ視線をやれば頷くと止むを得ずにアシュドもそちらを見やり、二人へ尋ねるが
「遮蔽物もあって、そこまでは流石に」
「そうですね、こればかりは直接聞く他にないかと」
 それには揃い、言葉を濁して応じると佐祐李は次いで視線を自身の掌へ落とせば携えていた石の中の蝶の反応を見ては安堵すると
「‥‥一先ず、反応はありませんね」
「近くに悪魔はいない、って事か。それなら込み入った事にならなくて済みそうだねぇ」
 ネフィリムもまた息を吐いて確かな事実を告げれば、今度は生活の痕跡を探し出すべく木陰に潜みながら動き出した。

●訪問、魔女の家
 そして暫く、村や魔女の家周辺にて様々な情報を探る一行だったが『魔女』の人物像等について確かな話を得る事は出来ずにいた。
「一先ず話の通りに不穏な話は聞きませんでしたし、直接伺って話を聞いてみるべきかと思います」
 だが常に小面で表情を覆っている宿奈芳純(eb5475)の提案が成されると賛同した一行は翌日、今後の事を考え村にて村人達と交流を図る崔軌に魔女の家の近くにある森を調べると言ったカノンを除く七人にて村の外れ‥‥森の先にあり、海原の眺望も出来る岬に程近い所に居を構える魔女の邸宅を訪れる。
「話の通り、ジャパンでは良く見掛ける型の家でござるな」
「えぇ、ですが中に住んでいる方は‥‥呑気な風体の割、とても聡明な様ですよ」
「そうなのか?」
「まあ、占いなので果たして真実かは分かりかねますが」
 その家を眼前に、柾鷹が平屋建てのそれを見つめ呟くと頷いて芳純はこれより顔を合わせる魔女の事か、皆へその印象を告げると静かに目を剥いては驚くドナトゥースだったが宿奈は先までと変わらず至って穏やかな声音を響かせ、それだけ最後に付け加えると
「それでは、準備は宜しいですね?」
 次いで皆を見回し尋ねれば揃い頷きだけ返すのを確認して後、予め唱えていたテレパシーにて言葉を紡ぎ『魔女』へ呼びかける。
『突然の訪問をお許し下さい。私は陰陽師の宿奈芳純と申します』
「テレパシーでなくとも、お話は通じますよ?」
 すると直後、戸の向こうからのんびりとした声音にて冗談めかした応答が返って来れば微かに戸惑いを覚える一行の前、引き戸が開かれては『魔女』が初めてその姿を現すとその彼女‥‥背は然程高くないがそれとなく整った面立ちに金髪で癖の無い長髪を携えては先に響いた声音の通り、何処と無くのんびりとした雰囲気を纏わせ皆へ応対すると
「突然の訪問に、多くの者で押し掛けてしまい申し訳ない」
「いいえ、たまには悪くないでしょう。それにしても私に一体、何用でしょうか? きっと理由があるのかと思いますが」
 暫し言葉を失う皆だったが、柾鷹が先の非礼を詫びると彼女は顔を綻ばせれば次いで一行へこの場を訪れた理由を尋ねる。
「村の者達が『魔女がここに住んで何をしているのか興味を持っているが、どう接すべきか分からない為に魔女や魔術師と言った者に多少なりとも知識のある冒険者を頼ってきた』ので私達、冒険者が伺いに参りました。もし宜しければ幾つか、お話をさせて頂きたいのですが?」
「えぇ、構いませんよ。どうぞお入りになって下さい」
 すると漸く落ち着いた芳純が淀みなく、柔らかな口調で彼女の問いに対し言葉を並べ連ねれば、その答えに納得してか魔女は頷くと一行へ無防備に背を向ければ自身の家の内へと招き入れるのだった。

「魔女が日本茶を出すのも可笑しいかも知れないけど、どうぞ」
 やがてお世辞にも広いとは言えない居間だろう一角に通された七人は魔女より日本茶を差し出され、困惑していた。
(「何か随分、イメージと違うなぁ」)
(「‥‥確かに」)
「ご期待に添えなくてごめんなさいね?」
 その中、小さな声にて交わすネフィリムとアシュドの言い分は尤もだったが‥‥それを聞き止めてか魔女は逆に詫びると、答えに窮する二人ではあったが
「でも魔女と聞いて思い浮かぶイメージは殆ど決まっていますから、言葉にせずとも何となく皆さんの気持ちは分かりますよ」
 微笑みながら『魔女』はその理由を説明すると意外なその一面に驚くが、やがてお互いが初めて顔を合わせるからこそ自己紹介を行えば、一行のその最後。
「僕は見習い魔法少女のやゆよだよっ! 魔女道の先輩おねぇーさんのお名前は?」
「シリル、で結構よ」
「それじゃあシリルさん! 僕らが来て困っている、って事以外で困っている事があれば相談に乗るよ♪ なんてったって僕らは冒険者だもんねっ!」
「それじゃあ早速、乗って貰おうかしらね?」
 明朗にて快活なる陰陽師らしからぬ陰陽師のやゆよが差し入れにと、わざわざ購入して持って来た野菜の数々を魔女の眼前へ突き出し言葉紡げば、『魔女』は果たして自身の真名を告げると次に明るき笑顔を宿したままやゆよが胸を張り尋ねると‥‥果たして返って来た答えは意外なもので、皆の心中を察したからこそシリルは場に介する皆を見回しては再び口を開く。
「でもその前に、皆さんが聞きたい事に答えてからとしましょうか」
「‥‥なら普段は一体、何の研究をされているのですか?」
「そうねぇ、魔術も嗜んではいますが自然宗教について少々ね。でも此処の地の話を聞いて色々と面白そうだったものだから、足を運んで見たの」
 すると一行はそれを機としてドナトゥースが先ず口を開けば、すぐに彼女より答えが返って来ると直後に皆は『魔女』へ尋ね掛ける。
「此処に引き篭っていると言う話でござったが、食べ物等に付いてはどうされているのでだろうか?」
「辺りで野菜を育てているから、普段はそれを主に食べています。後は‥‥秘密です」
「どうして魔女と自身、名乗ったのですか?」
「うーん、からかい半分? 多分此処へ来たばかりの頃の話だから初めて見た風土に少し浮かれていたのかもね、今にして思うと反省すべき点です」
「そうですか、ですがこれからでもきっと間に合うかと思いますよ」
 すればと所々はっきりとしない所こそあるも、素直に応じるシリルの対応を見る限りでは信頼するに足る目前の『魔女』と暫し宿奈を会話の中心として据え、シリルとのやり取りを続けるが‥‥不意に何の切っ掛けも見せず、立ち上がったシリル。
「どうかしたか?」
「少し、辺りを見回りにね」
 その行動を前、一先ず聞き役に徹していたアシュドが初めて口を開き尋ねると笑顔を湛えて彼女は答えを返すとその反応に違和感を覚える彼だったが止める理由がある筈も無くすぐに戻ると告げて魔女は一時、その場を離れた。

●闇、蠢く
 伊勢の斎宮‥‥数多く集う妖達を眼下に焔摩天は使えるのか使えないのか、未だ持つ力の全容が明らかではない妖孤達に一つの指示を下していたのは何時だったか。
「アドラメレクが眠っている今の内、戦力の拡充を図る‥‥それが例え、人でも此方に染まる可能性があれば」
『ほーい』
 その指示を受けて、適当に聞こえなくも無い返事を返す三匹の狐を冷たい瞳で見つめ‥‥嘆息だけは我慢すれば掌で行動を促すと直後、珍しくすぐに妖孤達が動き出せば彼らが飛び立って行った方を見つめ、その先にいる『魔女』の存在を知ったからこそ焔摩天はその通り名に相応しい力が自身らの軍門へ下る事を心待ちにするのだった。
「しかし、奴らだけで行かせて果たして良いものか」
 がそれも暫しの間だけ、他にも手勢がいるとは言えやはり率いている頭が頭なので自身も動くべきか、暫し逡巡するのだった。

 少なくとも焔摩天らが動き出してから後、村に一人残る崔軌は妖精を伴い村人達とコミュニケーションの向上に励んでいたその時。
「何だい、ありゃ」
「雲かねぇ、何かいやに真っ黒で気持ち悪いけど‥‥そうとしか見えないわ」
 村人の誰かが上げた声に彼もそちらの方を見やれば、また別の村人が言う様に彼方の空を見上げると確かに青空の片隅、漆黒が蟠っているのが見えて崔軌は瞳を細めると
「雪が降るのかな!」
「さて、どうだろうな?」
 傍らにいた子供の一人が楽しげな声を上げれば、その発言に彼は笑顔を持って応じこそするが
(「‥‥ちょっとあれは、まずいんじゃねぇの」)
 内心では密かに舌打ちしつつ有事に備えるべく一度、自身らに宛がわれた家へと踵を返した。

 一方、魔女の家より程近くにある森へ再び散策に出ていたカノンは先に何度も散策していた際に見掛けたとある痕跡が間違えようのない事実であった事を崔軌同様、目の当たりにしていた。
「魔女の噂を聞きつけてでも来たと言うか、悪魔に妖怪が」
 それ彼女が紡いだ言葉の通り、空に姿を現していたが幸いにもまだ距離は離れており見る人が見なければそれが妖の類である事には気付かない程、今はまだ黒い雲。
「まだ距離はある、村人達の避難は今から告げて回れば間に合うな。後は迎撃だが‥‥」
 その光景を前に彼女はすぐに踵を返し、村の方へと駆け出そうとするが‥‥何時、この場に来たか初めて見た女性、魔女のシリルが姿を見止めると自身が気付かなかった事に対し内心で呻くカノンへ彼女。
「私の家の辺りで迎撃を行えば少なくとも当分、村に被害は及ばないでしょう」
「‥‥良いのか?」
「えぇ、事態が事態ですし村人の皆さんが私の存在を危惧していると言うのなら自身、払拭するに丁度良い機会でしょう」
 その心中は察せず、穏やかな声音にてカノンへそれだけ告げると少しの間を持って尋ねる黒き神聖騎士だったが、それにも素直に頷けば『魔女』は微笑を浮かべるのだった。

 果たして妖怪の群れは何を目的にしてか村へ、一行へ、魔女へ迫る。
 その狙いは分からずとも力なき人々が後ろにいる以上、一行は戦いに望まざるを得なかった、魔女の力を借りて。

 〜続く〜